説明

廃液の減容化システム

【課題】アルカリや酸を含む処理液による水溶液処理において、大規模な廃液処理設備を必要とせず、産業廃棄物の発生量を最小限にする廃液の減容化システムを提供する。
【解決手段】被処理物5の水溶液処理を行う処理液を収容する処理槽2と、被処理物5に付着した処理液を除去する水を収容する水洗槽3、4を有し、水洗槽3の水洗水を処理槽2に戻す。水洗槽3内で除去された処理液の薬剤成分を含む水洗水が処理槽2へ戻されるので、廃棄物を減容化でき、薬剤の使用量も低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物を水溶液で処理した後の水洗液の廃液の減容化に関するものであり、詳しくは、Cu系材料等の被処理物を、処理液を用いて脱脂、酸洗、またはSnめっき剥離等の処理を行う際に発生する水洗廃液を減容化できる廃液の減容化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
伸銅品は、その製造過程において、表面の油や酸化膜を除去するために、水酸化アルカリや硫酸を主成分とする処理液に浸漬して、脱脂や酸洗を行う。また、Snめっきが施された伸銅品のスクラップを再利用するためにSnめっきを剥離する場合も、水酸化アルカリや硫酸を主成分とする処理液中で処理が行われる。
【0003】
CuまたはCu合金のSnめっきを剥離する処理液として、従来、水酸化ナトリウムを用いて電解剥離する方法が知られている。また、Cuイオンを含有する硫酸において置換剥離する方法が、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−87275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水酸化ナトリウムおよび硫酸は、それぞれ強アルカリ性、強酸性であり、被処理物を次工程へ移すためには、水洗処理が必須である。そして、水洗水には、被処理物に付着した処理液が持ち込まれるため、処理回数が進むにつれ、水洗水中における処理液成分の濃度が高くなる。水洗水中の処理液成分濃度が高くなると、水洗しても被処理物にアルカリや酸が残存するため、好ましくない。
【0006】
水洗水中の処理液成分の濃度上昇対策として、従来、定期的な水の全量入れ替えや、複数の水洗槽を用いた多段向流式での水洗が行われているが、これにより発生する廃水は、アルカリや酸を含有するため、産業廃棄物として処理される。ところが、廃水をそのままの状態で産業廃棄物として処理する場合、多大な処理費用がかかることから、通常、中和処理や蒸発濃縮処理等によって無害化または減容化される。ただし、中和処理で液の無害化はできても、塩が必ず発生し、その塩は産業廃棄物として処理される。また、蒸発濃縮等で減容化できても、発生する濃縮液や澱物は、最終的にはコストをかけて産業廃棄物として処理される。さらに、これらの処理を行う装置は、一般に大規模な敷地および設備投資が必要であり、イニシャルコストの負担も大きい。
【0007】
したがって、本発明の目的は、アルカリや酸を含む処理液による水溶液処理において、大規模な廃液処理設備を必要とせず、産業廃棄物の発生量を最小限にする廃液の減容化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するため、本発明は、被処理物の水溶液処理を行う処理液を収容する処理槽と、前記被処理物に付着した処理液を除去する水を収容する水洗槽を有し、前記水洗槽の水洗水を前記処理槽に戻すことを特徴とする廃液の減容化システムを提供する。
【0009】
前記処理液の温度が70℃以上であることが好ましい。前記水洗槽は、多段に設置され、向流式であることが好ましい。前記水洗槽から前記処理槽へ戻す水洗水の量は、前記処理槽内における処理液の蒸発量と前記被処理物に付着して前記処理槽から持ち出された処理液の量との合計量から前記処理液の濃度維持のために必要な薬剤の補充量を差し引いた量と同じかまたは少ないことが好ましい。
【0010】
前記処理槽内の処理液が蒸発して発生した水蒸気を回収して前記水洗槽に戻してもよい。さらに、前記処理槽で発生した水蒸気を、ミスト捕集器を通過させ、捕集されたミストを前記処理槽内に戻してもよい。
【0011】
前記水溶液処理が、脱脂または酸洗でもよい。前記水溶液処理が、Snめっきの剥離でもよい。前記処理液は、主液成分が水酸化アルカリまたは硫酸でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大規模な設備投資を行うことなく、アルカリや酸を含む処理液の水洗廃液を減容化することが可能となり、産業廃棄物排出量および処理費を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態を示すシステムの構成図である。
【図2】実施例1のシステムの構成図である。
【図3】実施例1による各水洗槽のNaOH濃度を示すグラフである。
【図4】実施例2のシステムの構成図である。
【図5】実施例2による各水洗槽のNaOH濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の廃液処理システム1を示す構成図である。処理槽2と2つの水洗槽3、4が直列に並び、被処理物5は、処理槽2から第1の水洗槽3、第2の水洗槽4へ順次送られる。処理槽2の上部にはミスト捕集器6が設けられ、さらに、処理槽2内の処理液から蒸発する蒸気の下流側に、水蒸気回収装置7が設けられる。水蒸気回収装置7の出口側は、第2の水洗槽4に連結される。
【0016】
処理槽2内で処理液によって処理された被処理物5は、処理液の一部が付着した状態で第1の水洗槽3に浸漬される。さらに、水洗槽3内で洗浄された被処理物5は、水洗槽3中の水洗液の一部が付着した状態で第2の水洗槽4に浸漬され、第2の水洗槽4で洗浄された被処理物5は、第2の水洗槽4中の水洗液の一部が付着した状態で乾燥などの次工程に搬送される。この際、第1の水洗槽3中には処理液の成分が混入し、さらに、第2の水洗槽4中にも、第1の水洗槽3で薄められた処理液の成分が混入する。このような処理を繰り返すと、第1の水洗槽3、第2の水洗槽4ともに、処理液の成分の濃度が上昇していく。そのため、第2の水洗槽4に水の補充Gを行って、第2の水洗槽4中の処理液成分濃度の上昇を抑制し、更に、第1の水洗槽3よりは処理液成分の濃度が低い第2の水洗槽4の水洗水の一部、例えば水の補充Gと略同量の水洗水Hを、配管9を介して第1の水洗槽3に送液して、第1の水洗槽3の濃度上昇を抑制する。また、第1の水洗槽3の水量増加分の水洗水Iを、配管8を介して処理槽2に送液する。
【0017】
処理槽2において被処理物5を処理する処理液としては、水酸化ナトリウムや硫酸等の水溶液が用いられる。例えば被処理物5を脱脂する場合には、水酸化アルカリ濃度が10〜250g/L、酸洗の場合には、硫酸濃度が10〜200g/Lのものが用いられる。また、Snめっきを施したCu系材料等のSnめっき剥離では、硫酸浴の場合は、硫酸30〜200g/Lおよび硫酸銅5〜150g/L、アルカリ浴の場合は、水酸化ナトリウム30〜300g/Lの処理液が用いられる。
【0018】
処理槽2内では、処理液の温度を、好ましくは70℃以上に保ち、被処理物5の処理中または処理待機中に水分を蒸発させ、処理槽2外に水蒸気を放出する。処理液の加温は、投げ込み式の電気ヒータや蒸気加熱ヒータ等、一般的な各種ヒータを用いればよい。処理液の温度を70℃以上に設定する理由は、処理液の蒸発Eを一定量以上確保するためである。蒸発量よりも多量の水洗水Iを戻すと処理液の成分濃度が薄まってしまうため、蒸発量が少なすぎると、第1の水洗槽3からの水洗水Iを処理槽2に戻せる量が限られてしまう。したがって、水洗水Iを十分に処理槽2へ戻せるような処理液の蒸発量を確保するために、処理液の温度は75℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることが更に好ましい。処理液の温度が高いほど、脱脂や酸洗、Snめっき剥離等の処理速度も向上するが、安全性を考慮すると100℃以下とすることが好ましい。
【0019】
処理槽2の材質としては、70℃以上の耐熱が必要となるため、耐熱塩ビ、ガラス容器、もしくはSUS304、更に高い耐食性を要する場合はSUS316などが好ましい。水洗槽3、4は、湯洗を行う場合は処理槽2と同じ仕様が好ましいが、常温水洗の場合は塩ビ等を用いてもよい。
【0020】
被処理物5は、70℃以上の耐熱性能を有するSUS製のバスケットやラック、バレルなどの容器に入れて処理槽2内に投入することが好ましい。処理液が容器に多く付着して持ち出されると、水洗槽の段数を増やすか、水洗槽への水の補充量を増やす必要があるため、容器は、液切りのよい構造であることが好ましい。なお、被処理物5が条材や線材等の連続通板の場合は、そのまま処理槽2および各水洗槽3、4中を通過させればよい。
【0021】
処理液の濃度や条件によっては、アルカリや酸のミストが発生する場合がある。処理槽2から排出される水蒸気Eの経路にミスト捕集器6を設置することにより、ミストを処理槽2内に戻し、水蒸気Eとして排出される気体の無害化を図るとともに、処理槽2内の薬剤成分の減少を抑えることができる。ミスト捕集器6としては、市販されているデミスターやミストキャッチャー等を用いれば良い。
【0022】
処理槽2から蒸発する水蒸気Eを捕集する水蒸気回収装置7としては、発生した水蒸気の出口を専用容器の水中に沈め、専用容器の水面上の気体をポンプで引くタイプ等の一般的なガス捕集器やスクラバーを用いれば良い。水蒸気回収装置7を設けることによって、回収した水蒸気を水洗用の水Fとして水洗槽4に戻して利用することが可能になる。これにより、第2の水洗槽4へ補充する水Gの量を低減させることができる。
【0023】
処理槽2内には、必要に応じて適宜、処理液の主成分である薬剤、および水が補充される(A)。
【0024】
被処理物5に付着した処理液の成分を洗浄する水洗槽3、4は、水洗廃水の発生量を抑制するため、多段向流方式とすることが好ましい。水洗槽の段数は図1に示す2段に限らず、例えば大容量の槽とすることにより1段であっても本発明の実施は可能であるが、段数を増やすほど廃水量を容易に減らすことができるため、多段の方が有利である。水洗槽の段数は、最終水洗槽の濃度の要求基準に応じて決定すればよい。ただし、設備のイニシャルコストや生産性を考慮して、2〜6段程度に収まる範囲で水量のバランスが取れるように設計することが好ましい。
【0025】
被処理物5の処理時、処理槽2内に収容された水および薬剤からなる処理液は、蒸発する水蒸気Eや、被処理物5に付着した処理液Bの持ち出しによって減少する。一方、被処理物5を第1の水洗槽3で水洗する際に、被処理物5に付着した処理液Bが、第1の水洗槽3内の水洗水に取り込まれる。さらに、第1の水洗槽3から、被処理物5に少量の処理液Cが付着して第2の水洗槽4内の水洗水に取り込まれる。前述の通り、第2の水洗槽4に水の補充Gを行い、第2の水洗槽4の水洗水の一部Hを第1の水洗槽3に送液し、第1の水洗槽3の水量増加分の水洗水Iを処理槽2に送液することにより、各水洗槽3、4中の処理液成分濃度の上昇を抑制するとともに、処理液成分を含む水が処理槽2に補充される。これにより、被処理物5に付着した処理液B、Cが処理槽2へ戻されて再利用され、処理槽2に補充する補充液Aを低減できる。さらに、このように水洗槽3内の水洗水Iを処理槽2に戻して再利用することにより、第1の水洗槽3からの廃水Jの減容化あるいは廃水Jをなくすことが可能となる。同様に、第2の水洗槽4内の水洗水Hを第1の水洗槽3に戻して再利用することにより、第2の水洗槽4からの廃水の減容化あるいは廃水をなくすことが可能となる。
【0026】
以上の廃液減容化システムにおいて、処理槽2内の処理液量を一定に維持するために、第1の水洗槽3から処理槽2へ戻す水洗水Iの量をi、蒸発する水蒸気Eの量をe、被処理物5に付着して処理槽2から第1の水洗槽3へ持ち出される処理液Bの量をb、処理槽2に補充する薬剤および水からなる新規の補充液Aの量をaとすると、i≦e+b−aとする。つまり、第1の水洗槽3から処理槽2へ戻す水洗水Iの量は、蒸発する水蒸気Eの量と、被処理物5に付着して処理槽2から第1の水洗槽3へ持ち出される処理液Bの量との合計量から、処理液の濃度維持のために必要な補充液Aの量を差し引いた量と同じかまたは少ない量とする。なお、処理槽2への補充は、液体(補充液)の方が、容易に自動添加等を行えるため好ましいが、薬剤のみでも構わない。このときは、i≦e+bであり、すなわち、処理槽2から処理液があふれることなく、被処理物5の処理において、水面の位置が適切な高さに制御できれば良い。
【0027】
また、水洗槽3、4の液量を維持するために、第1の水洗槽3から処理槽2へ送液される水洗水Iの量をi、第2の水洗槽4から第1の水洗槽3へ送液される水洗水Hの量をh、水蒸気回収装置7から第2の水洗槽4に送液される水Fの量をf、第2の水洗槽4へ補充される新規の水Gの量をgとすると、f+g=h=iとする。なお、被処理物5に付着する液量は、処理槽2から第1の水洗槽3へ持ち出される処理液Bの量b、第1の水洗槽3から第2の水洗槽4へ持ち出される液Cの量c、第2の水洗槽4から外部へ持ち出される液Dの量dともに、略等しい。なお、f+g=h=iのバランスが少しずれる程度であれば、少量の廃水の処理等で対処できるため、従来と比べれば廃水処理コストを十分に下げることができる。
【0028】
なお、処理槽2および水洗槽3、4で使用する水として、Caイオン等を多く含む硬水を用いると、蒸発した水蒸気Eを回収して使用し続けた場合に、スケールが各槽や配管に堆積、付着して生産性を阻害するため、純水もしくは軟水を使用することが好ましい。
【0029】
このように、本発明によれば、中和処理装置や蒸発濃縮装置などのように高額且つ大規模な装置が不要である。しかも、産業廃棄物として処分する廃液の発生を抑制できるので、廃棄物処理のコストを大幅に低減することができるうえ、環境負荷も小さい。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例1】
【0031】
被処理物5を脱脂する場合について、図2に示すシステムで本発明を実施した。
【0032】
処理槽2として、口径130mmの2Lのビーカーを用い、ビーカー下部に攪拌機能付温度調整器を設置し、処理槽2内に攪拌子を設けた。処理液の液量は1500mLとし、NaOH濃度が50g/L、温度は70℃、攪拌数を300rpmとした。
【0033】
水洗槽としては、1Lのビーカーを4段設け、水洗水の液量はそれぞれ500mLとし、各ビーカー間の液移動にはマイクロチューブポンプを使用した。
【0034】
被処理物5は銅板C1020(無酸素銅)とし、サイズは100mm×80mm×0.4mmで、プレス油付きとした。この被処理物5を、処理槽2、第1の水洗槽11、第2の水洗槽12、第3の水洗槽13、第4の水洗槽14の順に1minずつ浸漬し、移動させた。
【0035】
液中のNaOH濃度の測定方法は中和滴定とし、1h毎に処理槽2と各水洗槽11〜14について測定した。そして、1h毎に、処理槽2の濃度不足分は、NaOHと純水を各々補充した。
【0036】
なお、予備試験において、処理槽2からの蒸発量は、70℃において60mL/h、被処理物5への処理液の付着量は0.32mL/枚(32mL/100枚)、1h相当分として19.2mL/60枚であることを確認した。
【0037】
水洗廃液のゼロ化を行うためには、処理槽2へ送液する第1の水洗槽内の水洗水の量を、「処理液の蒸発量+被処理物5への付着量」以下にする必要がある。また、水洗水は必ず処理液よりも濃度が薄いので、付着量分を調整代として残し、マイクロチューブポンプで定量投入して、蒸発量と同等の60mL/hを送液量に設定した。同様に、第1の水洗槽に送液される第2の水洗槽内の水洗水、第2の水洗槽に送液される第3の水洗槽内の水洗水、第3の水洗槽に送液される第4の水洗槽内の水洗水、および第4の水洗槽に送液される純水の量をそれぞれ60mL/hとした。
【0038】
上記の条件で100hの試験を実施した結果、図3に示すように、100h後の各水洗槽11〜14の水洗水のNaOH濃度は、いずれも定常状態で、それぞれ15.9g/L、4.9g/L、1.5g/L、0.4g/Lであった。第1の水洗槽からの、従来は廃水となっていた水洗水(60mL/h)を全て処理槽2に戻したため、廃液量はゼロであった。被処理物5の脱脂は、100h後も問題がなく、処理槽2へのNaOH補充量も減少させることができた。
【0039】
また、比較例として、処理槽2へ第1の水洗槽11内の水洗水を送液せず、第1の水洗槽11で余剰となった水洗水を廃水として排出し、第1の水洗槽11に送液される第2の水洗槽12内の水洗水、第2の水洗槽12に送液される第3の水洗槽13内の水洗水、第3の水洗槽13に送液される第4の水洗槽14内の水洗水、および第4の水洗槽14に送液される純水の量を、それぞれ60mL/hとした以外は、上記本発明の実施例と同様に脱脂処理を行った。この結果、第1の水洗槽11からの廃水が60mL/hとなり、廃水処理が必要となった。また、処理槽2に、処理液の濃度調整のために薬剤としてNaOH水溶液を80mL/h補充することが必要となり、追加する薬剤の量も、上記実施例と比べて増加した。
【実施例2】
【0040】
被処理物5を、アルカリ電解法によりSnめっき剥離する場合について、図4に示すシステムで本発明を実施した。
【0041】
処理槽2として、実施例1と同様の2Lのビーカーを用い、処理槽2の下部に攪拌機能付ヒータを設置し、処理槽2内には攪拌子を設けた。処理液の液量は1500mLであり、NaOH濃度が200g/L、温度は90℃、攪拌数を300rpmとした。処理槽2の上部にミスト捕集器6を取り付け、処理液のミストが処理槽2内に戻るようにした。ミスト捕集器6を通過した水蒸気は、純水を溜めた吸引濾過瓶からなる水蒸気回収装置7を通して捕集し、水洗水の補充用水に回した。電解用の電極にはSUS304板を使用し、電流密度は5A/dm、通電時間を1minとした。
【0042】
水洗槽としては、2Lのビーカーを2段設け、水洗水の液量はそれぞれ300mLとし、ビーカー間の液移動にはマイクロチューブポンプを使用した。
【0043】
被処理物5は銅板C1020(無酸素銅)とし、サイズは100mm×80mm×0.4mmで、表裏両面に各1μmのSnめっき付きとした。この被処理物5を、処理槽2、第1の水洗槽11、第2の水洗槽12の順に1minずつ浸漬し、移動させた。
【0044】
液中のNaOH濃度の測定方法は中和滴定とし、10min毎に処理槽2と各水洗槽11、12について測定した。そして、10min毎に、処理槽2の濃度不足分は、NaOHと純水を各々補充した。
【0045】
なお、予備試験において、処理槽2からの蒸発量は、90℃において194mL/h、被処理物5への処理液の付着量は0.32mL/枚(32mL/100枚)、1h相当分として19.2mL/60枚であることを確認した。
【0046】
水洗廃液のゼロ化を行うためには、処理槽2へ送液する第1の水洗槽の水洗水の量を、「処理液の蒸発量+被処理物5への付着量−補充液(NaOHと純水)」以下にする必要がある。また、水洗水は必ず処理液よりも濃度が薄いので、付着量−補充液分を調整代として残し、マイクロチューブポンプで定量投入して、蒸発量と同等の190mL/hを送液量に設定した。同様に、第1の水洗槽に送液される第2の水洗槽内の水洗水の量を190mL/hとした。
【0047】
上記の条件で10hの試験を実施した結果、図5に示すように、10h後の各水洗槽11、12の水洗水のNaOH濃度は、いずれも定常状態で15.0g/L、1.4g/Lであった。第1の水洗槽からの、従来は廃水となっていた水洗水(190mL/h)を全て処理槽2に戻したため、廃液量はゼロであった。電解時に発生するアルカリのミストは、ミスト捕集器6で回収できた。処理槽2へのNaOH補充量を減少させることができ、処理液の蒸発量の80%以上が回収されて水洗水として補充されたため、補充水も節約できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、被処理物を処理液に浸漬させて脱脂、酸洗、またはSnめっき剥離等の処理を行う際に、廃液を減容するシステムとして適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 廃液減容化システム
2 処理槽
3 第1の水洗槽
4 第2の水洗槽
5 被処理物
6 ミスト捕集器
7 水蒸気回収装置
8、9 配管
11、12、13、14 水洗槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の水溶液処理を行う処理液を収容する処理槽と、前記被処理物に付着した処理液を除去する水を収容する水洗槽を有し、
前記水洗槽の水洗水を前記処理槽に戻すことを特徴とする、廃液の減容化システム。
【請求項2】
前記処理液の温度が70℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の廃液の減容化システム。
【請求項3】
前記水洗槽は、多段に設置され、向流式であることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃液の減容化システム。
【請求項4】
前記水洗槽から前記処理槽へ戻す水洗水の量は、前記処理槽内における処理液の蒸発量と前記被処理物に付着して前記処理槽から持ち出された処理液の量との合計量から前記処理液の濃度維持のために必要な薬剤の補充量を差し引いた量と同じかまたは少ないことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の廃液の減容化システム。
【請求項5】
前記処理槽内の処理液が蒸発して発生した水蒸気を回収して前記水洗槽に戻すことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の廃液の減容化システム。
【請求項6】
前記処理槽で発生した水蒸気を、ミスト捕集器を通過させ、捕集されたミストを前記処理槽内に戻すことを特徴とする、請求項5に記載の廃液の減容化システム。
【請求項7】
前記水溶液処理が、脱脂または酸洗であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の廃液の減容化システム。
【請求項8】
前記水溶液処理が、Snめっきの剥離であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の廃液の減容化システム。
【請求項9】
前記処理液は、主液成分が水酸化アルカリまたは硫酸であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の廃液の減容化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52177(P2012−52177A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194617(P2010−194617)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】