説明

廃液処理方法

【課題】 シラン類の製造工程において排出されるような、銅イオンとクロロシラン類を含むシラン廃液の処理において、銅イオンを含む有害固形分の排出量を低減することができる排出処理方法を提供する。
【解決手段】 銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液を処理する廃液処理方法であって、少なくとも、前記シラン廃液を加水分解して加水分解液とする工程と、前記加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて該加水分解液中に鉄粉を添加することにより、該加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させる工程とを含む廃液処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン類の廃液であるシラン廃液を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造用の原材料として、シラン類(シラン(モノシラン、SiH)、モノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、四塩化珪素(SiCl)、複数のSi原子を分子内に有するポリシラン類、及び、ポリシラン類の水素原子の一部又は全部が塩素原子に置換されたクロロポリシラン類等)が広く使われている。
シラン類の製造の工程においては、シラン類に金属不純物が混入するため、シラン類の一部を蒸留工程から引き抜き(ドレインとも言う)、廃液として処理する必要がある。本明細書中では、このような、シラン類が含まれた廃液のことをシラン廃液と呼ぶ。
【0003】
蒸留工程から引き抜かれたシラン類の主成分は、主として、クロロシラン類である、四塩化珪素(silicon tetrachloride、本明細書中でSTCと略記することがある。なお、テトラクロロシランとも呼ばれる。)とトリクロロシラン(trichlorosilane、本明細書中でTCSと略記することがある。)である。これらを加水分解すると下記に示す化学反応式(1)、(2)のように、シリカ(SiO)と塩化水素(HCl)に分解される。
SiCl + 2HO → SiO + 4HCl …(1)
SiHCl + 2HO → SiO + 3HCl + H …(2)
【0004】
蒸留工程から引き抜かれたシラン廃液には、通常、不純物として塩化銅が含有されている。このような塩化銅が不純物として含有されたシラン廃液を加水分解する場合、加水分解後の溶液(加水分解液)には必然的に銅イオンが混在することになる。
シラン廃液に含まれる銅イオン濃度は、その一例として、1wt%程度であるが、終末処理の段階で大量の水によって希釈しても、河川や海への排出基準値以下の濃度にまで希釈することは困難である。
また、更なる大量の水でシラン廃液を希釈しても、排出される銅イオンの絶対量が減少するわけではなく、環境保護の面からも有毒な銅イオンは、事前に有価な金属銅として回収されるべきものである。
【0005】
ところで、シラン廃液の処理の際にSTCやTCSを加水分解すると、上記のようにSiO(主にコロイド状、すなわちコロイダルシリカ)が発生する。強酸性下では、コロイダルシリカの一部はゾル状態で水中に浮遊するが、他の一部はゲル化が起こり、沈殿物やスカム(浮きかす)となる。この沈殿物やスカムが保持する銅イオンの濃度は、上澄溶液(上澄水)の液相(水相)に含まれる銅イオン濃度と平衡状態にあるものと考えられる。また、後段処理で中和操作を行い、デカンターで脱水した後に得られる固形分(この脱水後に得られる固形分はスラッジとも呼ばれる)にも、シラン廃液とほぼ同濃度の銅イオンが含まれることになる。
【0006】
一般的に、廃液中の銅イオンの還元は、廃液に鉄を投入することにより行うことができることが知られている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−125562号公報
【特許文献2】特開平6−127946号公報
【特許文献3】特開平9−156930号公報
【特許文献4】特開平1−167235号公報
【特許文献5】特開平11−12768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、銅イオンを含有するシラン廃液を処理した場合、後段処理で中和操作を行い、デカンターで脱水した後に得られる固形分(スラッジ)にも廃液とほぼ同濃度の銅イオンが含まれてしまっていた。すなわち、終末処理後、最終的に得られるスラッジは、銅イオンを規定以上含む有害固形廃棄物として取り扱われることになり、また、その有害固形廃棄物の発生量は、シラン廃液と同じモル量に、含水率約60%を加えた重量となるため、有害固形廃棄物の排出量が多いという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、シラン類の製造工程において排出されるような、銅イオンとクロロシラン類を含むシラン廃液の処理において、銅イオンを含む有害固形分の排出量を低減することができる排出処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液を処理する廃液処理方法であって、少なくとも、前記シラン廃液を加水分解して加水分解液とする工程と、前記加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて該加水分解液中に鉄粉を添加することにより、該加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させる工程とを含むことを特徴とする廃液処理方法を提供する。
【0011】
このように、銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液を加水分解し、加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて該加水分解液中に鉄粉を添加することにより、該加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させれば、加水分解液のゲル化を防止しつつ、金属銅が再度銅イオンとなる反応を抑制して銅イオンの還元とそれに伴う金属銅の析出を行うことができる。その結果、銅イオンを含む固形分の最終的な排出総量を低減することができる。
【0012】
この場合、前記維持する加水分解液のpHの範囲を、pH1以下とすることが好ましい。
このように、加水分解液のpHを1以下に維持すれば、より安定して加水分解液をゲル化しないようにすることができ、ゲル化した固形分中に銅イオンが取り込まれてしまうことをより効果的に防止することができる。
【0013】
また、前記添加する鉄粉の粒径を50μm以下とすることが好ましい。
このように、添加する鉄粉の粒径を50μm以下とすることにより、より効率的に銅イオンの還元及び金属銅の析出を行うことができる。
【0014】
また、前記無酸素雰囲気を、窒素雰囲気とすることが好ましい。
このように、銅イオンの還元を行う無酸素雰囲気を窒素雰囲気とすれば、金属銅が再度銅イオンとなる反応の抑制を低コストで実現することができる。
【0015】
また、本発明の廃液処理方法では、前記銅イオンを還元して金属銅を析出させる工程の後、少なくとも、前記加水分解液の固液分離を行う工程と、前記固液分離により分離された、前記金属銅を含む固相を、脱水ケーキとして取り除く工程と、前記固液分離により分離された液相をアルカリで中和する工程とを含み、前記分離された液相に含まれる銅イオンの濃度を1ppm以下とすることができる。
【0016】
このように、本発明の廃液処理方法では、銅イオンの還元・金属銅の析出工程を行った後の加水分解液の固液分離を行って金属銅を含む固相と液相とに分離し、分離された液相に含まれる銅イオンの濃度を1ppm(重量比)以下とすることができる。さらに、固液分離により分離された、金属銅を含む固相を、脱水ケーキとして取り除き、固液分離により分離された液相をアルカリで中和すれば、この中和により生成した固形分には銅イオンがほとんど含まれないため、銅イオンを含む有害固形分の最終的な排出総量を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る廃液処理方法に従えば、シラン類の製造工程において排出される、シラン廃液の処理において、銅イオンを還元した金属銅として回収する量を多くすることができ、銅イオンを含む有害固形分の排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の廃液処理方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の廃液処理方法に用いることができる具体的な廃液処理システムの一例を示す処理フロー図である。
【図3】本発明の廃液処理方法において、加水分解液に鉄粉を添加してからの加水分解液に含まれる銅イオン濃度の経時変化を示すグラフである(実施例)。
【図4】通常雰囲気で鉄粉を添加した場合の、加水分解液に鉄粉を添加してからの加水分解液に含まれる銅イオン濃度の経時変化を示すグラフである(比較例)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前記のように、後段処理で中和操作を行い、デカンターで脱水した後に得られる固形分(スラッジ)にも廃液とほぼ同濃度の銅イオンが含まれてしまっていた。すなわち、終末処理後、最終的に得られるスラッジは、銅イオンを規定以上含む有害固形廃棄物として取り扱われることになり、また、その有害固形廃棄物の発生量は、シラン廃液と同じモル量に、含水率約60%を加えた重量となるため、有害固形廃棄物の排出量が多いという問題があった。
【0020】
スラッジが有害化し、それらが拡散するのを防ぐためには、シラン廃液を加水分解した段階で、加水分解後の水溶液(加水分解液)に含有する銅イオンを還元し、金属銅として回収しておく必要がある。
【0021】
加水分解液に含有する銅イオンを還元するために、加水分解液中に鉄粉を分散させ、攪拌操作を行うと、鉄粉の表面には直ちに金属銅の析出が見られる。これは、鉄と銅のイオン化傾向の差によるもので、下記の化学反応式(3)のごとく表すことができる。
Cu2+ + Fe → Cu + Fe2+ …(3)
【0022】
しかし、上記のような反応中に酸素が同時に存在すると、以下のように、一旦析出した金属銅が徐々に銅イオンに戻ってしまうことが考えられる。まず、酸素により第一鉄イオン(鉄(II)イオン)が第二鉄イオン(鉄(III)イオン)に酸化される(下記化学反応式(4))。さらに、この第二鉄イオンによって、析出していた金属銅が酸化されるため、金属銅は徐々に銅イオンに戻ってしまう(下記化学反応式(5))。
2Fe2+ + (1/2)O + HO → 2Fe3+ + 2OH …(4)
Cu + 2Fe3+ → Cu2+ + 2Fe2+ …(5)
【0023】
以上のような知見から、本発明者は、加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて該加水分解液中に鉄粉を添加することにより、該加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させれば、加水分解液のゲル化を防止しつつ、金属銅が再度銅イオンとなる反応を防止して銅イオンの還元とそれに伴う金属銅の析出を行うことができることに想到し、本発明を完成させた。
【0024】
以下、本発明に係る廃液処理方法の一例を図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明の廃液処理方法の一例を示すフローチャートである。
【0025】
本発明の廃液処理方法は、シラン廃液のうち、シラン類として少なくともクロロシラン類を含有し、かつ、銅イオンを含有するシラン廃液に有効なものである。
なお、ここでいうクロロシラン類とは、シリコン原子と水素原子からなる各種シラン分子のうち、水素原子の一部又は全部が塩素原子に置換された分子構造を有するものである。すなわち、クロロシラン類としては、四塩化珪素(STC)、トリクロロシラン(TCS)の他、ジクロロシラン、モノクロロシランが含まれる。また、一分子内に複数のシリコン原子を有するポリシランのうち、水素原子の一部又は全部が塩素原子に置換されたものであるクロロポリシラン類であってもよい。
また、本発明を適用することができるシラン廃液には、クロロシラン類が複数種類含まれていてもよいし、クロロシラン類以外のシラン類(モノシラン、ジシラン等)が含まれていてもよい。
【0026】
本発明により処理することのできる廃液としては、例えば、シラン類の製造の際に、シラン類の蒸留・精製工程から引き抜いた(ドレインした)シラン廃液等が挙げられる。ただし、その他の処理により生じたシラン廃液であっても、少なくとも銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液であれば、本発明を適用することができる。
【0027】
処理する対象である、銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液に対し、まず、図1(a)に示したように、水を加え、加水分解して加水分解液とする(工程a)。
この加水分解により、前記したように、クロロシラン類はシリカ(SiO)と塩化水素(HCl)に分解される。
加水分解液はこの塩化水素の存在などにより酸性を呈する。
【0028】
次に、図1(b)に示したように、加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて加水分解液中に鉄粉を添加する。そして、これにより、加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させる(工程b)。
【0029】
ここで加水分解液がゲル化しないように維持する加水分解液のpHの範囲は、具体的にはpH1以下とすることが好ましい。
pHを維持する方法は、加水分解液がゲル化しなければ特に限定されない。ただし、銅イオンを還元する前にシラン廃液を中和することがないようにする。
クロロシラン類を加水分解すると、上記のように塩化水素が加水分解液中に含まれるので、加水分解液は酸性を呈する。加水分解しただけで加水分解液がゲル化しない範囲のpHとなる場合は、そのままの範囲に維持する。
また、加水分解の際に加える水に予め塩酸を加えてもよい。
【0030】
このような加水分解液がゲル化しない範囲にpHを維持した状態で、無酸素雰囲気下にて加水分解液中に鉄粉を添加する。
加水分解液中に鉄粉を添加・分散させ、攪拌操作を行うと、銅イオンが鉄により還元され、上記化学反応式(3)で表される反応により、鉄粉の表面に直ちに金属銅の析出が見られる。
【0031】
ここで添加する鉄粉は、その粒径を50μm以下とすることが好ましい。このような粒径の鉄粉であれば、表面積が大きく、効率的に銅イオンの還元及び金属銅の析出を行うことができる。
【0032】
また、銅イオンの還元を行う無酸素雰囲気は、窒素雰囲気とすることが好ましい。このように、窒素雰囲気下にて加水分解液中に鉄粉を添加して銅イオンの還元を行えば、金属銅が再度銅イオンとなる反応の抑制を、低コストで実現することができる。
【0033】
この際、本発明では、加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲、特にはpH1以下に維持しているので、加水分解液をゲル化せず、ゲル化した固形分中に銅イオンが取り込まれてしまうことを防止することができる。
【0034】
また、酸素を遮断した雰囲気下にて加水分解液中に鉄粉を添加するため、上記化学反応式(4)、(5)で示したような、一旦析出した金属銅が銅イオンに戻る反応が抑制され、より効率的にシラン廃液中の銅イオンを、金属銅として回収することができる。
【0035】
加水分解液中に添加する鉄粉の量は、少なくとも、理論的に銅イオンを全て還元して金属銅として析出させることができる量、すなわち、いわゆる化学当量以上とすることが好ましい。より効率的に短時間で銅イオンを還元して金属銅として析出させるためには、添加する鉄粉の量を、例えば化学当量の2倍、すなわち2倍当量以上とすることができるが、本発明はこれに限定されない。
特に、本発明では、酸素を遮断した雰囲気下にて加水分解液中に鉄粉を添加し、上記化学反応式(4)、(5)で示したような、一旦析出した金属銅が銅イオンに戻る反応が抑制されるので、より少ない鉄粉により、シラン廃液中の銅イオンを、金属銅の形で回収することができる。
【0036】
このように、本発明のシラン廃液の廃液処理方法では、加水分解液のゲル化を防止しつつ、金属銅が再度銅イオンとなる反応を抑制して銅イオンの還元とそれに伴う金属銅の析出を行うことができる。
【0037】
また、本発明の廃液処理方法では、上記の銅イオンを還元して金属銅を析出させる工程(工程b)の後、さらに、以下のような処理を行うことができる。
【0038】
まず、図1(c)に示したように、銅イオンを還元して金属銅を析出させた加水分解液に対し、固液分離を行って金属銅を含む固相と液相とに分離する(工程c)。
本発明では、分離された液相に含まれる銅イオンの濃度を1ppm(重量比)以下のような、低濃度とすることができる。
【0039】
次に、図1(d)に示したように、固液分離により分離された、金属銅を含む固相を、脱水ケーキとして取り除く(工程d)。
なお、金属銅を含む固相は固液分離により分離された状態からさらに脱水等の処理を追加してもよい。また、取り除かれる脱水ケーキには、シラン廃液の処理により生じるその他の固形廃棄物(例えば、液相中の粒子を凝集・沈殿させた凝集汚泥等)を混在させてもよい。
【0040】
次に、図1(e)に示したように、固液分離により分離された液相をアルカリで中和する(工程e)。
中和により、液相にはゲル化が起こり、ゲル(主成分はシリカゲル)が生じる。固液分離により分離された液相には銅イオンがほとんど存在しないため、ゲルにも銅イオンはほとんど含まれない。
【0041】
中和され、ゲルを含む液相は、その後、さらに脱水し、残った固形分は銅イオンをほとんど含まない無害スラッジとして廃棄される。このため、本発明によれば、銅イオンを含む有害固形分の最終的な排出総量を大幅に低減することができる。
【0042】
なお、工程d(固相の処理)と工程e(液相の処理)は独立して行うことができ、その時系列的な順序も適宜設定して行うことができる。
【0043】
以下では、本発明のさらに具体的な態様を説明する。図2に、本発明のさらに具体的な態様について、廃液処理システムのフローチャートを示した。図2には、具体的な条件を特定しているが本発明はこれに限定されない。
【0044】
まず、加水分解槽に、処理すべき銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液と、水を送り込み、加水分解して加水分解液とする(工程a)。
次に、加水分解液をバッチ式の鉄粉処理槽に送る。鉄粉処理槽では、加水分解液のpHを1以下に維持し、窒素雰囲気下にて粒径50μm以下の鉄粉を添加・分散させ、攪拌する(工程b)。これにより、金属銅が析出する。
【0045】
次に、鉄粉処理槽で処理された加水分解液を、金属銅を含む固相と、銅イオン濃度が1ppm以下の液相とに分離する(工程c)。
このうち、金属銅を含む固相は、バッチ式固相中和槽に送られる。
【0046】
一方、液相は液相中和槽に送られ、NaOH水溶液(例えば濃度25%)を加えることにより、中和する(工程e)。この中和により、シリカゲルが生じる。この中和により生じたシリカゲルには銅イオンは1ppm以下しか含まれていない。
【0047】
次に、このシリカゲルを脱水機にかける。脱水された固相は無害スラッジとして廃棄することができる。
脱水により固相と分離された、ゲル化した液相は、金属銅を含む固相と同じく、バッチ式固相中和槽に送られる。
【0048】
金属銅を含む固相と、上記のゲル化した液相が送られたバッチ式固相中和槽では、その後の処理のために中和が行われる。
その後、金属銅を含む脱水ケーキを得るまで種々の処理が行われる(工程d)。
以下では、バッチ式固相中和槽で中和された処理対象を単に汚泥という。
【0049】
まず、遠心分離器により汚泥を濃縮し、濃縮汚泥と液相に分離する。濃縮汚泥は汚泥貯槽に送られる。分離された液相は遠心処理水槽を経て、バッチ式の凝集反応沈殿槽に送られる。このバッチ式凝集反応沈殿槽では、FeCl等の凝集剤が加えられ、pH調整がNaOH等により行われる。これにより、凝集・沈殿した固形分(凝集汚泥)は汚泥貯槽に送られる。
【0050】
汚泥貯槽に送られた濃縮汚泥、凝集汚泥は、フィルタープレス型の脱水機により固相と液相に分離される。ここで分離された固相は金属銅を含む脱水ケーキとして取り除かれる。分離された液相は上記の遠心処理水槽に送られ、上記のバッチ式凝集反応沈殿槽で凝集・沈殿処理が行われる。
【0051】
バッチ式凝集反応沈殿槽で凝集・沈殿が行われた後の上澄水は、監視槽に送られる。監視槽では、水質の確認が行われ、その後放流される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
シラン廃液143kgを採取した。その一部をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー等を使って分析したところ、化学組成は、STCが68.5wt%、金属珪素が17.6wt%、AlClが11.7wt%、CuClが2.2wt%であった。
【0053】
このシラン廃液を3500kgの工業用水で加水分解して加水分解液とし、十分に攪拌後に静置した。加水分解液のpHは0.7であった。加水分解液の成分分析を行ったところ、塩素イオンが2.66wt%、金属珪素が0.69wt%、イオン性シリカが0.443wt%、アルミニウムイオンが0.093wt%、銅イオンが0.041wt%であった。
【0054】
反応雰囲気を窒素で置換した後、加水分解液に、粒径が50μm以下の鉄粉を2.64kg添加(投入)し、攪拌操作を行った。
【0055】
鉄粉の添加とともに鉄粉の表面にスポンジ状の金属銅の析出が見られた。
鉄粉投下後の攪拌中、時間経過に伴って加水分解液の一部をサンプリングし、液相中の銅イオン濃度を測定した。図3に、測定した銅イオン濃度の経時変化を示す。鉄粉投下から30分間攪拌後の液相中の銅イオン濃度は0.9ppmとなった。
【0056】
さらに、鉄粉投入から1時間攪拌した後、加水分解液の固液分離を行い、上澄溶液(液相)と、析出した金属銅と残留鉄(固相)とを分離した。
【0057】
次に、上澄溶液(液相)をアルカリで中和し、水溶性シリカをゲル化させてから固液分離を行った。固相分はデカンターで脱水処理し、約60wt%の水分を含む86.7kgのスラッジを得た。
このスラッジに含まれる銅イオン濃度を測定したところ、0.9ppm以下であり、銅イオンの濃度が低い無害スラッジであった。
【0058】
(比較例)
まず、実施例と同様の化学組成を有するシラン廃液を採取した。
このシラン廃液を、実施例1と同様の条件で加水分解して加水分解液とし、十分に攪拌後に静置した。加水分解液のpHは0.7であった。
【0059】
次に、反応雰囲気を窒素で置換することなく、通常の雰囲気(空気雰囲気)下とする以外は実施例1と同様の条件により、加水分解液に鉄粉を投入し、攪拌操作を行った。
【0060】
鉄粉の添加とともに鉄粉の表面にスポンジ状の金属銅の析出が見られた。
また、実施例1と同様に鉄粉投下後の攪拌中、時間経過に伴って加水分解液の一部をサンプリングし、加水分解液の液相中の銅イオン濃度を測定した。
【0061】
図4に、測定した加水分解液中の銅イオン濃度の経時変化を示す。鉄粉投下から30分間攪拌後の液相中の銅イオン濃度は1.9ppmとなり、実施例よりも高くなった。また、図4に示したように、時間経過に伴い、液相中の銅イオン濃度は上昇していき、24時間経過後では、鉄粉投入前と同程度にまで戻ってしまった。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンとクロロシラン類とを含有するシラン廃液を処理する廃液処理方法であって、少なくとも、
前記シラン廃液を加水分解して加水分解液とする工程と、
前記加水分解液のpHを、該加水分解液がゲル化しない範囲に維持した状態で、無酸素雰囲気下にて該加水分解液中に鉄粉を添加することにより、該加水分解液中に含まれる銅イオンを還元して金属銅として析出させる工程と
を含むことを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
前記維持する加水分解液のpHの範囲を、pH1以下とすることを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
前記添加する鉄粉の粒径を50μm以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記無酸素雰囲気を、窒素雰囲気とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
前記銅イオンを還元して金属銅を析出させる工程の後、少なくとも、
前記加水分解液の固液分離を行う工程と、
前記固液分離により分離された、前記金属銅を含む固相を、脱水ケーキとして取り除く工程と、
前記固液分離により分離された液相をアルカリで中和する工程と
を含み、前記分離された液相に含まれる銅イオンの濃度を1ppm以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の廃液処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−284579(P2010−284579A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139312(P2009−139312)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】