説明

廃熱回生システム

【課題】キャビテーションへの耐性を向上させ、熱サイクルの安定した動作を確保することができる、廃熱回生システムを提供することを課題とする。
【解決手段】廃熱回生システム1は、廃熱と熱交換して作動流体を加熱する熱交換器11と、熱交換器を経由した作動流体を膨張させて動力を発生させる膨張機部17と、膨張機部を経由した作動流体を凝縮させる凝縮器15と、凝縮器を経由した作動流体を熱交換器に向けて圧送する1段目ポンプ35及び2段目ポンプ37とを含む。1段目ポンプの送り能力は、2段目ポンプの送り能力よりも大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃熱回生システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃熱回生システムとしては、例えば、自動車エンジンの冷却水や排気ガスの廃熱を、ランキンサイクルによって動力等として回生するものがある。特許文献1には、そのような廃熱回生システムの一つが開示されている。この廃熱回生システムは、ランキンサイクルの回路構成要素として、冷媒ポンプ一体型膨張発電機と、エンジンで発生した廃熱により冷媒を加熱する加熱器と、冷媒の凝縮を行う凝縮器とを含んでいる。冷媒ポンプ一体型膨張発電機は、ポンプ部と、膨張機部と、発電機部とが一体化されたものである。ポンプ部は、凝縮器から供給された液冷媒を加熱器へと圧送するものである。膨張機部は、加熱器からの過熱蒸気冷媒の膨張によって機械的エネルギを回収するものである。発電機部は、モータとして機能しポンプ部を駆動させたり、発電機として機能し膨張機で回収した機械的エネルギを利用して発電を行ったりするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−231855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、廃熱回生システムにあっては、サイクルの運転停止後の再起動時や、高負荷時、冷媒流量が少ない時などに、ポンプ吸込部の温度が上昇し、ポンプ吸込側の冷媒にキャビテーション(液体冷媒の部分的な蒸発気化)が発生しやすくなるという問題がある。特に、上述した冷媒ポンプ一体型膨張発電機を有する廃熱回生システムでは、膨張機部の高温がポンプ部に伝わりやすく、ポンプ吸込部の温度が上昇しやすい傾向にある。このようにポンプ吸込側の冷媒にキャビテーションが発生すると、冷媒が十分に循環供給できなくなり、熱サイクルが適正に機能しなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、キャビテーションへの耐性を向上させ、熱サイクルの安定した動作を確保することができる、廃熱回生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するため、本発明は、廃熱と熱交換して作動流体を加熱する熱交換器と、前記熱交換器を経由した作動流体を膨張させて動力を発生させる膨張機と、前記膨張機を経由した作動流体を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器を経由した作動流体を前記熱交換器に向けて圧送する1段目ポンプ及び2段目ポンプとを含み、前記1段目ポンプの送り能力が、前記2段目ポンプの送り能力よりも大きく設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の廃熱回生システムによれば、キャビテーションへの耐性を向上させ、熱サイクルの安定した動作を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る廃熱回生システムの構成を示す図である。
【図2】ポンプ一体型膨張機の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態2に関する図2と同態様の図である。
【図4】本発明の実施の形態3の一構成に関する図1と同態様の図である。
【図5】本発明の実施の形態3の他の構成に関する図1と同態様の図である。
【図6】本発明の実施の形態4に関する図1と同態様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る廃熱回生システムを、自動車用エンジンの冷却水の廃熱の回生として実施した場合の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る廃熱回生システムの構成を示す図である。廃熱回生システム1は、自動車に車載されており、図1に示されるように、廃熱源であるエンジン3と、ランキンサイクル回路5とを備えている。
【0011】
エンジン3は、自動車の走行用駆動力を発生させる内燃機関である。エンジン3には、排気管7と、冷却水回路9とが設けられている。排気管7は、エンジン3から排出される燃焼ガス(排気ガス)を大気中に放出する。冷却水回路9には、図示しない冷却水ポンプによって冷却水が循環されており、冷却水によってエンジンの熱を吸収し、エンジンの冷却を行う。
【0012】
ランキンサイクル回路5は、内部に冷媒が流通されており、加熱器としての冷却水熱交換器11と、ポンプ一体型膨張機13と、凝縮器15とを含んだ循環回路である。冷却水熱交換器11は、冷却水回路9とランキンサイクル回路5とにまたがって設けられている。ポンプ一体型膨張機13は、冷却水熱交換器11と凝縮器15との間に設けられており、一般的なランキンサイクル回路におけるポンプと膨張機とが一体化されているものである。
【0013】
次に、図2に基づいて、ポンプ一体型膨張機の詳細について説明する。図2の(a)は、ポンプ一体型膨張機の内部構造を正面から示す断面図であり、(b)は、同内部構造を側方から示す断面図である。なお、(a)は、(b)のII−II線に沿う断面である。ポンプ一体型膨張機13は、膨張機部17とポンプ部19とを備え、それらは、同軸上で連結され、一体的に形成されている。
【0014】
膨張機部17は、周知のスクロール型圧縮機機構と同一構造を有するもので、固定スクロール21と、揺動スクロール23と、自転防止機構25と、シャフト27とを備える。シャフト27は、ハウジング29に固定された主軸受31に支持されている。また、シャフト27には、自転防止機構25と揺動軸受33を介して、揺動スクロール23が連結されている。
【0015】
本実施の形態では、ポンプ部19は、1段目ポンプ35と2段目ポンプ37の2つのポンプを含む。1段目ポンプ35は、ハウジング29内における膨張機部17と反対側に配置されており、2段目ポンプ37は、ハウジング29内における1段目ポンプ35と膨張機部17との間に配置されている。
【0016】
1段目ポンプ35及び2段目ポンプ37はそれぞれ、ギヤ式ポンプであり、主動ギヤ39,41及び従動ギヤ43,45を備える。主動ギヤ39,41は、膨張機部17のシャフト27に固定されており、シャフト27によって回転される。1段目ポンプ35の主動ギヤ39には、従動ギヤ43が噛合っている。同様に、2段目ポンプ37の主動ギヤ41には、従動ギヤ45が噛合っている。
【0017】
シャフト27における1段目ポンプ35及び2段目ポンプ37を貫通する部分はそれぞれ、軸シール47によりシールされている。1段目ポンプ35の吸入口49は、凝縮器15から供給された冷媒を受ける。1段目ポンプ35の吐出口51と、2段目ポンプ37の吸入口53とは、連通管55によって連通されている。2段目ポンプ37の吐出口57は、高圧室59と連通している。高圧室59は、膨張機部17と2段目ポンプ37との間にあって、その中央部をシャフト27が貫通する環状且つ円盤状の室である。
【0018】
1段目ポンプ35の送り能力は、2段目ポンプ37の送り能力よりも大きくなるように設定されている。具体例としては、1段目ポンプ35のギヤ厚みを、2段目ポンプ37のギヤ厚みよりも厚くする。あるいは、ギヤ形状による一回転当りの送り容積につき、1段目ポンプ35の送り容積を、2段目ポンプ37の送り容積よりも大きくする。
【0019】
次に、以上のように構成された実施の形態に係る廃熱回生システムの動作について説明する。ランキンサイクル回路5内には、冷媒(作動流体)として、R134aが循環・流通されている。冷却水熱交換器11には、ポンプ一体型膨張機13のポンプ部19によって圧送された冷媒が供給される。冷却水熱交換器11内の冷媒は、エンジン3を冷却することで昇温した冷却水と熱交換し、加熱され気化される。蒸気となった冷媒はポンプ一体型膨張機13の膨張機部17で動力を発生させ、例えば発電機(図示省略)や動力機構(図示省略)によりエネルギが回収される。膨張後の冷媒は、凝縮器15で冷やされて凝縮し、液体となってポンプ一体型膨張機13のポンプ部19に戻り、上述したサイクルを繰り返す。
【0020】
さらに、ポンプ一体型膨張機における動作について詳細に説明する。ランキンサイクルの起動に際して、シャフト27に起動駆動力が入力され、ポンプ部19と膨張機部17とが駆動される。これによって、冷媒は、1段目ポンプ35の吸入口49から吸引され、順次、吐出口51、連通管55、2段目ポンプ37の吸入口53、吐出口57へと流通して昇圧され、高圧室59を通って、高圧室出口61から冷却水熱交換器11へと送られる。
【0021】
その一方で、冷却水熱交換器11において高温高圧となった冷媒蒸気は、膨張機入口63より膨張機部17に流入し、固定スクロール21と揺動スクロール23とからなる膨張空間65で膨張し、低圧中温となりハウジング内空間67を通って膨張機出口69より凝縮器15へと送られる。
【0022】
上述した本実施の形態に係る廃熱回生システムによれば、ポンプを2段に構成し、且つ、1段目ポンプの能力を2段目ポンプの能力よりも大きく設定したので、2段目ポンプの吸込口の圧力(≒1段目ポンプの吐出口の圧力)が、陽圧となり、常に過冷却度を保つ状態となる。したがって、特に、ランキンサイクルの運転停止後の再起動時や、高負荷時、冷媒流量が少ない時などを含め、幅広い運転条件下で、キャビテーションへの耐性を向上させることができる。すなわち、幅広い運転条件下で、ポンプに液相流体を確実に供給できることとなり、効率的なポンプ運転を実現し、ランキンサイクルの安定した動作を確保することができる。また、特にポンプ一体型膨張機においては、膨張機部の熱がポンプ部に伝わることでポンプ吸込部の温度が上昇し、キャビテーションが発生しやすい傾向にあるため、上記のようにキャビテーションへの耐性を向上できる本実施の形態は特に有益である。さらに、本実施の形態では、ポンプ部と膨張機部とを区切るような高圧室を、ハウジング内空間に対して隣合わせて配置したので、ハウジング内空間内の冷媒を高圧室の冷媒液と熱交換させることで、ポンプ吸込口側の温度上昇を低減させることができ、このような作用によっても、キャビテーションへの耐性向上が促進されている。
【0023】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に関する図2と同態様の図である。なお、以下に説明する構成以外は、上記実施の形態1と同様であってもよいものとする。ポンプ一体型膨張機113は、膨張機部17とポンプ部119とを備え、ポンプ部119は、1段目ポンプ135と2段目ポンプ37とを含む。本実施の形態2では、1段目ポンプ135は、羽根車171を備えたターボ形ポンプであり、2段目ポンプ37は、容積形ポンプであるギヤポンプである。
【0024】
このような構成によっても、上記実施の形態1と同様に、キャビテーションへの耐性を向上させることができ、ランキンサイクルの安定した動作を確保することができる。特に、本実施の形態2では、キャビテーションへの耐性が強いものの、吐出圧力の高圧化は困難であるターボ形ポンプと、逆に高吐出圧力であるものの、キャビテーションへの耐性が強くない容積形ポンプとを、上記のように配置することによって、よりいっそうキャビテーション耐性が強くなり、幅広い運転条件で、冷媒ポンプに液相流体を確実に供給でき、効率的なポンプ運転となり、安定したランキンサイクル運転が可能となる。
【0025】
実施の形態3.
図4及び図5は、本発明の実施の形態3に関する図1と同態様の図である。なお、以下に説明する構成以外は、上記実施の形態1と同様であってもよいものとする。本実施の形態の廃熱回生システム201では、実施の形態1においてポンプ一体型膨張機内のポンプ部を2段に構成していたことに代え、図4に示されるように、ポンプ一体型膨張機213内の単段ポンプと、その上流(前段)に独立したポンプ235とによってポンプ2段化を確保している。あるいは、本実施の形態の他の構成として、図5に示されるように、廃熱回生システム301において、ポンプ一体型膨張機313内の単段ポンプと、その下流(後段)に独立したポンプ337とによってポンプ2段化を確保してもよい。いずれにおいても、1段目となるポンプ能力が2段目ポンプ能力よりも大きな能力となるように構成・制御される。
【0026】
このような構成によっても、上記実施の形態と同様に、キャビテーションへの耐性を向上させることができ、ランキンサイクルの安定した動作を確保することができる。さらに、本実施の形態3では、1段目ポンプと2段目ポンプとを独立に制御可能となることから、簡便に効率的なポンプ運転となり、安定したランキンサイクル運転が可能となる利点もある。
【0027】
実施の形態4.
図6は、本発明の実施の形態4に関する図1と同態様の図である。なお、以下に説明する構成以外は、上記実施の形態1と同様であってもよいものとする。本実施の形態の廃熱回生システム401は、ポンプ一体型ではない膨張機を用いる態様であり、図6に示されるように、ポンプ一体型ではない独立した膨張機417と、2つの独立したポンプ435,437とを含む。かかる構成においても、1段目となるポンプ能力が2段目ポンプ能力よりも大きな能力となるように構成・制御することで、上記実施の形態と同様に、キャビテーションへの耐性を向上させることができ、ランキンサイクルの安定した動作を確保することができる。さらに、1段目ポンプと2段目ポンプとを独立に制御可能となることから、簡便に効率的なポンプ運転となり、安定したランキンサイクル運転が可能となる利点も得られる。
【0028】
その他の実体の形態.
上述した実施の形態3や実施の形態4において、1段目ポンプをターボ形ポンプで、2段目ポンプを容積形ポンプで構成するようにしてもよく、それにより、よりキャビテーション耐性が強くなる利点が得られる。
【0029】
以上、好ましい実施の形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることは自明である。
【0030】
例えば、容積形ポンプは、ベーンポンプ、トロコイドポンプなどでもよく、ギヤポンプに限定されるものではない。同様に、ターボ形ポンプは、ディフューザポンプなどでもよく、渦巻きポンプに限定されるものではない。
【0031】
上記実施の形態では、廃熱源をエンジンとして説明してきたが、本発明は他の廃熱源に適用することもできる。廃熱の対象も、冷却水には限定されず、自動車ならば例えば排気ガスでもよく、さらに、自動車以外の対象に対して実施することも可能である。また、本発明で使用する熱サイクルは、ランキンサイクルに限定されるものではない。すなわち、本発明は、サイクル回路構成要素として、少なくとも熱交換器(加熱器)、膨張機、凝縮器及びポンプを備え、それにより廃熱回生を行うことができれば、具体的なサイクルの種別や動作は如何なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1,201,301,401 廃熱回生システム、11 冷却水熱交換器、13,113,213,313,413 ポンプ一体型膨張機、15 凝縮器、17 膨張機部(膨張機)、35,135,235,435 1段目ポンプ、37,337,437 2段目ポンプ、417 膨張機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃熱と熱交換して作動流体を加熱する熱交換器と、
前記熱交換器を経由した作動流体を膨張させて動力を発生させる膨張機と、
前記膨張機を経由した作動流体を凝縮させる凝縮器と、
前記凝縮器を経由した作動流体を前記熱交換器に向けて圧送する1段目ポンプ及び2段目ポンプとを含み、
前記1段目ポンプの送り能力を、前記2段目ポンプの送り能力よりも大きくした
廃熱回生システム。
【請求項2】
ランキンサイクルを用いて廃熱を回生する、請求項1の廃熱回生システム。
【請求項3】
ポンプ一体型膨張機を含んでおり、
前記膨張機、前記1段目ポンプ及び前記2段目ポンプは、前記ポンプ一体型膨張機に含まれている
請求項1又は2の廃熱回生システム。
【請求項4】
前記1段目ポンプは、ターボ形ポンプであり、
前記2段目ポンプは、容積形ポンプである
請求項1乃至3の何れか一項の廃熱回生システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−247103(P2011−247103A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118438(P2010−118438)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】