説明

廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法及び回収システム

【課題】本発明は石油精製処理で使用された廃触媒から有価金属を効率的に回収する廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法及び回収システムを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法は、石油精製処理に用いられた有価金属の硫化物を含む廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法において、水中に投入した前記廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を微粉砕手段50で微粉砕する微粉砕工程と、微粉砕した前記廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を分離手段70で水中の気泡と接触させて前記有価金属の硫化物を回収する分離工程と、からなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製処理で使用された廃触媒・廃吸着剤から亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等の有価金属の硫化物を回収する有価金属回収方法及び回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原油からLPガス、ガソリン等の石油製品をつくる石油精製の主な工程として、ガソリンなどの各留分と残油に分ける蒸留工程と、硫黄分などの不純物を除去する脱硫工程と、重質留分を軽質留分に分解する分解工程と、高オクタンガソリンを製造する改質とアルキル化工程の4つの工程がある。
【0003】
前記脱硫工程のうち水素化脱硫は、石油留分を高温、高圧の条件で、水素とともに脱硫触媒上へ通すことにより脱硫、脱窒素、脱酸素、脱金属などの反応が行われる。水素化脱硫に用いられる触媒には、アルミナ(Al)を中心とする担体に活性成分としてMoを分散担持したものを基本とし、脱硫、脱窒素反応等の促進のためにCo、Ni等の成分が付加されている。また石油留分の硫黄化合物は水素によって硫化水素に変換させている。硫黄酸化物が存在すると、触媒毒となって他の触媒の性能が低下してしまう。このため、酸化亜鉛(ZnO)などの硫化水素吸着剤に吸着させて硫化亜鉛(ZnS)に置換して捕捉している。
【0004】
前記分解工程は、触媒として主にゼオライト(M{(Al(SIO}O、MはNa、Caあるいは希土類元素)が用いられ高温高圧化で重質留分を直接分解させることにより軽質留分を製造させるものである。
【0005】
改質とアルキル化工程は、重質軽油留分、減圧軽油留分を水素化脱硫したものを触媒を用いて分解し、高オクタンガソリンを製造する方法である。接触分解の触媒としては、シリカ(SiO)・アルミナ触媒が用いられ、分解の活性と共に、高い選択性をもち、高オクタンガソリンを高くすることができる。
このような工程で用いられた触媒は、最終的には活性を失って廃触媒となる。
【0006】
一方、原油には、Ni、Mo、バナジウム(V)などの金属成分が微量含まれており、これらの金属成分は石油精製処理で廃触媒と共に外部へ排出されている。近年、原油に含まれるNi、Vなどのレアメタルは、電子材料としての需要が増大している。
【0007】
そのため廃触媒に含まれるNi、Mo、Vなどのレアメタルのほか、Znなどの有価金属は金属回収処理によって回収して再資源化されている。廃触媒は最終的に廃棄物として処分されている。
【0008】
従来の廃触媒の処理方法として特許文献1〜3が挙げられる。
特許文献1に開示の脱硫廃触媒の処理方法は、活性触媒となる金属Aが担持されたアルミナ系脱硫触媒を石油系炭化水素油の精製に使用した結果、金属Bを含む汚染物が付着して脱硫能力がなくなった脱硫廃触媒の処理方法であり、使用後の脱硫触媒中の金属A及び金属Bを金属酸化物とする酸化焙焼工程と、酸化焙焼工程で処理された脱硫触媒を、融点降下材及び還元剤と共に加熱炉に入れて溶融し、金属A及び金属Bを有する合金と、フラグとに分離する溶融分離工程とを有している。
【0009】
特許文献2に開示のFe等を含有した石油化学脱硫残渣からFe含有原料を製造する方法は、石油化学脱硫廃触媒からV、Moを回収して残ったNi及びFe含有残渣、またはFe及びCo含有残渣を酸処理して残渣中のアルカリ元素を除去した後、熱処理してNi及びFe、または、Fe及びCoを金属に還元処理し、還元産物を酸浸出してNi及びFe、または、Fe及びCoを選択的に溶解及びろ過した後、Ni及びFe含有原料を得たり、または、これを用いてステンレス原料を製造したり、またはフェロニッケルを製造したり、または、Fe及びCo含有溶液を処理してコバルト化合物を製造する方法をその要旨としている。
【0010】
特許文献3に開示の有価金属の分離回収方法は、少なくともバナジウム酸化物及びモリブデン酸化物を含む原料をアンモニア含有浸出用水で浸出してバナジウム化合物及びモリブデン化合物を含む浸出液を得る工程と、該浸出液に正モリブデン酸アンモニウムを加えて析出したメタバナジン酸アンモニウムを第1分離液より分離して回収する工程と、該第1分離液に水溶性アルコールを加えて析出した正モリブデン酸アンモニウムを第2分離液より分離して回収する工程と、該第2分離液を蒸留して水溶性アルコールと残液とを分離して回収する工程とを含み、前記残液の少なくとも一部を前記アンモニア含有浸出用水の一部とし、また回収した正モリブデン酸アンモニウムの一部と水溶性アルコールの全部とを系内に戻して再使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−126706号公報
【特許文献2】特表2010−540767号公報
【特許文献3】特開2004−323934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1〜3の廃触媒の処理方法は、いずれも薬剤を用いて化学反応させるものであり、工程数が多くなり、時間と手間がかかるという問題があった。
そこで上記従来技術の問題点を解決するため、本発明は石油精製処理で使用された廃触媒・廃吸着剤から有価金属を効率的に回収する廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法及び回収システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法は、石油精製処理に用いられた有価金属を含む廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法において、水に投入した前記廃触媒・廃吸着剤を微粉砕する微粉砕工程と、微粉砕した前記廃触媒・廃吸着剤を水中の気泡と接触させて前記有価金属の硫化物を回収する分離工程と、からなることを特徴としている。これにより、大気中の酸素を遮断して硫黄酸化物の発生を防止して、処理工程を簡略化し、稼動コストの低減化を図ることができる。
【0014】
前記微粉砕工程は、前記廃触媒・廃吸着剤の粒径を10μm〜100μmに微粉砕するとよい。これにより、有価金属の硫化物を選択的に泡に付着させて、触媒と分離することができる。
【0015】
前記微粉砕工程の前段で、前記廃触媒・廃吸着剤を水中に投入して粗粉砕する粗粉砕工程を行うとよい。これにより、廃触媒・廃吸着剤を冷却することができると共に、微粉砕処理が行える適正な粒径に粉砕した廃触媒・廃吸着剤を得ることができる。
【0016】
本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムは、石油精製処理に用いられた有価金属を含む酸触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムにおいて、水に投入した前記廃触媒・廃吸着剤を微粉砕する微粉砕手段と、微粉砕した前記廃触媒・廃吸着剤を水中の気泡と接触させて前記有価金属の硫化物を回収する分離手段と、を備えているとよい。これにより、大気中の酸素を遮断して硫黄酸化物の発生を防止して、処理工程を簡略化し、稼動コストの低減化を図ることができる。
【0017】
前記分離手段に導入する廃触媒・廃吸着剤は、粒径を10μm〜100μmに微粉砕するとよい。これにより有価金属の硫化物を選択的に泡に付着させて、触媒と分離することができる。
【0018】
前記微粉砕手段の前段に、前記廃触媒・廃吸着剤を水中に投入して粗粉砕する粗粉砕手段を備えているとよい。これにより、廃触媒・廃吸着剤を冷却することができると共に、微粉砕処理が行える適正な粒径に粉砕した廃触媒・廃吸着剤を得ることができる。
前記微粉砕手段は、撹拌微粉砕機又は竪型微粉砕機であるとよい。これにより、廃触媒・廃吸着剤を浮遊選鉱処理に適正な粒径に調整することができる。
【発明の効果】
【0019】
上記構成による本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法及び回収システムによれば、従来のように廃触媒・廃吸着剤の燃焼による硫黄酸化物の発生を防止するため窒素雰囲気にして常温冷却して密閉保管する必要がなく、廃触媒・廃吸着剤を直接水中に投入することにより、大気中の酸素を遮断して硫黄酸化物の発生を防止して、処理工程を簡略化し、稼動コストの低減化を図ることができる。また有価金属の硫化物が疎水性であり、触媒及び吸着剤中の担体成分が親水性であること利用して効率的に有価金属を触媒・吸着剤から分離することができる。このことにより、廃触媒・廃吸着剤中の活性成分・反応促進成分である有価金属の硫化物を触媒担体と分別回収することで、廃触媒処理を容易に行うことが可能となる。
【0020】
また廃触媒に付着した有価金属の硫化物を触媒と分別回収することで、触媒を再利用することにより廃触媒の排出がなくなり従来のような廃棄物処理の必要がない。
また装置構成が簡易化されることになり、省エネルギー化及び省スペース化を図れるとともに、メンテナンスも簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムの構成概略を示す説明図である。
【図2】微粉砕手段及び粗粉砕手段の粒径の最適適用範囲の説明図である。
【図3】浮遊選鉱による硫化物の回収のグラフである。
【図4】分離工程における泡に付着した有価金属の模式図である。
【図5】変形例の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムの構成概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法及び回収システムの実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
本発明の処理対象となる廃触媒及び廃吸着剤12は、石油精製工程の水素化脱硫で用いられる触媒(主にアルミナ)及び吸着剤であり、粒径が数mmから数十mmとなる。また廃触媒17は、接触分解工程にある触媒再生装置16から排出される粉化された触媒(主にゼオライト)である。
【0023】
廃触媒としては、触媒アルミナ、ゼオライト等の触媒が活性を失ったものであり、脱硫、脱窒素反応等の促進のためのCo、Ni、Moの硫化物が含まれている。また廃吸着剤としては、吸着剤ZnOが活性を失ったものあるいは置換されたZnSである。そして廃触媒17には原油中に含有していたNi、Co、Vなどの硫化物等が廃触媒17の表面に付着した状態で存在している。
【0024】
図1は本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムの構成概略を示す説明図である。図示のように、有価金属回収システム10は、粗粉砕手段20と、スラリータンク30と、スラリーポンプ40と、微粉砕手段50と、分離手段70とから構成されている。
【0025】
粗粉砕手段20は、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を水中で粗粉砕する手段である。本実施形態の粗粉砕手段20は、一例として単段ボールミルを用いている。粗粉砕手段20は、回転可能な回転ドラム22と、回転ドラム22を回転させるモーター23と、回転ドラム22内に投入する球石24を備えている。球石24は廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17よりも硬度の高いセラミック、鉄などの硬質のボールを用いることができる。回転ドラム22は回転軸と交差する面に廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17の導入口26と排出口28が形成されている。導入口26は配管を介して反応器14の廃触媒及び廃吸着剤排出口又は接触分解触媒再生装置16の廃触媒排出口と接続している。反応器14は内部に触媒及び吸着剤が充填されて水素化脱硫が行われる。そして活性を失った触媒及び吸着剤は、配管を介して導入口26から回転ドラム22内へ導入される。また接触分解が行われた反応器(不図示)で活性を失った微細なゼオライトと重質留分中の有価金属の硫化物が接触分解触媒再生装置16から配管を介して導入口26から回転ドラム22内へ導入される。排出口28は配管を介してスラリータンク30と接続している。また回転ドラム22の内部には、中仕切25が設けられている。中仕切25によって回転ドラム22は、導入口26側に球石24を含まない第1室22aと、排出口28側に球石24を含む第2室22bに区分けされている。このような構成の粗粉砕手段20では、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が第1室22aの水中に導入される。回転ドラム22を回転させることによって第1室22aの廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17は、水中で撹拌されて単時間で冷却することができる。次に隣接する第2室22bへ廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が導入されると、室内で回転する球石24によって、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が所定の粒径に磨り潰される。
【0026】
図2は微粉砕及び粗粉砕の粒径の最適適用範囲の説明図である。図示のように本実施形態の粗粉砕手段20では、数mm〜数十mmの廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を最適適用範囲とし、数百μm〜数mmの粒径に磨り潰すことができる。なお廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が予め数百μm〜数mmの粒径である場合には、粗粉砕手段20による粗粉砕工程を省略することができる。
【0027】
スラリータンク30は、粗粉砕した廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を一次保管するタンクである。廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17は水と共にタンク内に導入される。タンクには内部に撹拌機32と、撹拌機32を駆動する撹拌モーター34が取り付けられている。撹拌機32は、タンク内の水と廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が分離しないように、タンク内を撹拌して廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17と水の混合液を分離(廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が沈殿)させずに後段の微粉砕手段50へ容易に導入できるように構成している。
【0028】
スラリーポンプ40は、スラリータンク30に一次保管された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を後段の微粉砕手段50へ導入する吸入ポンプである。スラリーポンプ40は、廃触媒及び廃吸着剤12をスラリータンク30から微粉砕手段50へ供給できる構成のポンプであれば良いが、一例として磨耗度合いを最小に抑えるように流線構造のインペラを採用することができる。
【0029】
微粉砕手段50は、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を所定の粒径に微粉砕する粉砕機である。本実施形態の微粉砕手段50は、一例として、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17の粒径に基づいて撹拌微粉砕機52又は竪型微粉砕機60を用いている。
【0030】
撹拌微粉砕機52は、円筒状のケーシング54と、ケーシング54の軸芯に沿って取り付けられた撹拌機56と、撹拌機56のモーター57から構成されている。撹拌機56には、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を所定の粒径に粉砕可能な回転羽根58が多段に設けられている。このような構成の撹拌微粉砕機52は、スラリータンク30に一次保管された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17がスラリーポンプ40を介してケーシング54内へ導入されて、撹拌機56を所定の速度で所定時間撹拌させる。これにより、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を所定の粒径に微粉砕することができる。本実施形態の撹拌微粉砕機52は、図2に示すように、数μm〜数十μmを最適適用範囲とし、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を粒径10μm〜100μmに粉砕することができる。
【0031】
竪型微粉砕機60は、円筒状のケーシング62と、ケーシング62の軸芯に沿って取り付けられたスクリュー64と、スクリュー64のモーター66とから構成されている。スクリュー64は、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を所定の粒径に粉砕することができるように本体の軸芯に沿って形成されている。このような構成の竪型微粉砕機60は、スラリータンク30に一次保管された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17がスラリーポンプ40を介してケーシング62内へ導入されて、スクリュー64を所定の速度で所定時間回転させる。これにより、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を所定の粒径に微粉砕することができる。本実施形態の竪型微粉砕機60は、図2に示すように、数十μm〜1mmを最適適用範囲とし、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を粒径50μm〜100μmに粉砕することができる。
【0032】
分離手段70は、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17と有価金属の硫化物とを分離する手段である。本実施形態の分離手段70は、一例として浮遊選鉱機を用いている。分離手段70は、タンク71と、タンク上部に微粉砕した廃触媒の導入口72と、浮遊選鉱した有価金属の硫化物の排出口73と、触媒の排出口74と、散気部75と、駆動源76を備えている。分離手段70は、円柱状のタンク71内の中心に散気部75が上部から下方に向かって延出している。散気部75は、槽内の底面側から散気している。なお散気部75で散気する泡の大きさは任意の大きさに設定することができる。有価金属の硫化物の排出口73は、タンク71の中段以上に取り付けられている。一方触媒の排出口74は、タンク71の下部に取り付けられている。
【0033】
図3は浮遊選鉱による硫化物の回収のグラフである。同グラフの縦軸は浮遊選鉱の回収率(%)を示し、横軸は、硫化物の粒子のサイズ(μm)を示している。そして、菱形プロットは銅、四角プロットは亜鉛、三角プロットは鉛をそれぞれ示している。図示のように、銅、亜鉛、鉛はいずれも粒子のサイズが100μmよりも大きくなると回収率が90%以下となる。また粒子のサイズが10μmよりも小さくなると回収率が90%以下となる。また亜鉛以外の有価金属であるMo、Co、Niの硫化物についても同様の回収率を示す傾向にある。そこで、本実施形態の廃触媒・廃吸着剤の微粉砕の粒子のサイズ(粒径)は、10μm〜100μmの範囲に設定している。また散気部から発生する気泡はこれよりも大きい粒径とし、硫化物が付着し易いようにすると良い。また、分離手段70のタンク71内に界面活性剤を添加して硫化物の浮遊性を調整し、有価金属の硫化物の付着を促進させるようにしてもよい。これにより有価金属の硫化物の回収率を向上させることができる。
【0034】
次に上記構成による本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムを用いた有価金属回収方法について以下説明する。廃触媒及び廃吸着剤12を反応器14の排出口から粗粉砕手段20の第1室22aへ導入する。反応器14から導入される廃触媒及び廃吸着剤12は、水素化脱硫に用いた触媒の活性が低下したものである。または、有価金属の硫化物と微細な廃触媒17を接触分解触媒再生装置16から粗粉砕手段20の第1室22aへ導入する。接触分解触媒再生装置16に導入される廃触媒は、接触分解で活性を失ったゼオライトである。
【0035】
粗粉砕手段20の第1室22aには水が満たされており、廃触媒及び廃吸着剤12を大気に触れさせることなく室内に導入させることができる。回転ドラム22を回転させると、第1室22aの廃触媒及び廃吸着剤12は、水中で撹拌されて単時間で冷却することができる。次に隣接する第2室22bへ廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が導入されると、室内で回転する球石24によって、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が数百μm〜数mmの粒径に磨り潰される。粗粉砕工程により、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を冷却することができると共に、微粉砕処理が行える適正な粒径に粉砕することができる。
【0036】
粗粉砕された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17は、スラリータンク30で一次保管される。そして、後段の微粉砕手段50に導入する際には、撹拌機32によりスラリータンク30内を撹拌して、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17と水の混合状態にする。スラリーポンプ40を用いてスラリータンク30から微粉砕手段50へ廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を供給する。このとき、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17の粒径に応じて、撹拌微粉砕機52又は竪型微粉砕機60に分けている。
【0037】
撹拌微粉砕機52は、最適適用範囲が数μm〜数十μmの廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を微粉砕することができる。具体的に撹拌微粉砕機52は、ケーシング54内に水と共に導入された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17が撹拌機56の回転羽根58によって粒径が10μm〜100μmに微粉砕される。
【0038】
また竪型微粉砕機60は、最適適用範囲が数十μm〜1mmの廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17を微粉砕することができる。具体的に竪型微粉砕機60は、ケーシング62内に水と共に導入された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17がスクリュー64によって粒径が50μm〜100μmに微粉砕される。
【0039】
次に微粉砕された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17は、分離手段70となる浮遊選鉱機に導入される。分離手段70では、タンク71の底面側から散気部75の気泡により上昇流が発生している。ここで、廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17は、微粉砕することによって、触媒及び吸着剤成分からの有価金属硫化物の分離並びに触媒又は吸着剤の表面に付着していた有価金属の硫化物が剥れて、触媒又は吸着剤と、有価金属の硫化物の混合状態となっている。そして微粉砕された廃触媒及び廃吸着剤12、廃触媒17をタンク71下方から導入する。図4に示すように、有価金属の硫化物80は、表面が疎水性の性質を有しており、水と混ざることなく、タンク71で発生した気泡82の表面に付着する。このとき撹拌しながら底面から気泡を送るように散気すると泡と有価金属の硫化物を効率良く付着させることができる。表面に有価金属の硫化物が付着した気泡は、タンク71内を上昇して上面で気泡同士が塊となって集まる。この気泡ごとタンク71外へ排出すると、ZnS、MoSx、CoSx、NiSなどの有価金属の硫化物が得られる。一方、触媒・吸着剤は一般に酸化物であり、親水性のため水と混ざり合って、気泡の表面に付着することがない。よって、タンク71の底面側に沈殿し、下方から外部へ排出することができる。なお有価金属の酸化物についても同様に親水性のため、水と混ざり合って、気泡の表面に付着することがなく、硫化物と分離することができる。
【0040】
このような本発明の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法および回収システムによれば、従来のように廃触媒の燃焼による硫黄酸化物の発生を防止するため窒素雰囲気にして常温冷却して密閉保管する必要がなく、廃触媒を直接水中に投入することにより、大気中の酸素を遮断して硫黄酸化物の発生を防止して、処理工程を簡略化して、稼動コストの低減化を図ることができる。また有価金属の硫化物が疎水性であり、触媒及び吸着剤が親水性であることを利用して効率的に有価金属を触媒・吸着剤から分離することができる。
【0041】
図5は変形例の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムの構成概略を示す説明図である。前述のように接触分解で用いられるゼオライトは、一般に粒径が40mm〜80mmである。そして活性を失ったゼオライトと有価金属の硫化物を例えば磁力選鉱により選別すると、有価金属の硫化物と微細なゼオライトが得られる。この有価金属の硫化物と微細なゼオライトは、粒径が数mm以下の微細な場合がある。この場合は図1に示す粗粉砕手段20がなく、有価金属の硫化物と微細な廃触媒17をスラリータンク30に直接導入している。
【0042】
このような変形例の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法および回収システムであっても、廃触媒を直接水中に投入することにより、大気中の酸素を遮断して硫黄酸化物の発生を防止して、処理工程を簡略化して、稼動コストの低減化を図ることができる。また有価金属の硫化物が疎水性であり、触媒及び吸着剤が親水性であることを利用して効率的に有価金属を触媒・吸着剤から分離することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、石油精製処理に使用された廃触媒から有価金属を回収する分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0044】
10,10A………廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システム、12………廃触媒及び廃吸着剤、14………反応器、16………接触分解触媒再生装置、17………廃触媒、20………粗粉砕手段、22………回転ドラム、22a………第1室、22b………第2室、23………モーター、24………球石、25………中仕切、26………導入口、28………排出口、30………スラリータンク、32………撹拌機、34………撹拌モーター、40………スラリーポンプ、50………微粉砕手段、52………撹拌微粉砕機、54………ケーシング、56………撹拌機、57………モーター、58………回転羽根、60………竪型微粉砕機、62………ケーシング、64………スクリュー、66………モーター、70………分離手段、71………タンク、72………導入口、73………排出口、74………排出口、75………散気部、76………駆動源、80………有価金属の硫化物、82………気泡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製処理に用いられた有価金属の硫化物を含む廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法において、
水中に投入した前記廃触媒・廃吸着剤を微粉砕する微粉砕工程と、
微粉砕した前記廃触媒・廃吸着剤を水中の気泡と接触させて前記有価金属の硫化物を回収する分離工程と、
からなることを特徴とする廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法。
【請求項2】
前記微粉砕工程は、前記廃触媒・廃吸着剤の粒径を10μm〜100μmに微粉砕することを特徴とする請求項1に記載の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記微粉砕工程の前段で、前記廃触媒・廃吸着剤を水中に投入して粗粉砕する粗粉砕工程を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収方法。
【請求項4】
石油精製処理に用いられた有価金属の硫化物を含む廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システムにおいて、
水中に投入した前記廃触媒・廃吸着剤を微粉砕する微粉砕手段と、
微粉砕した前記廃触媒・廃吸着剤を水中の気泡と接触させて前記有価金属の硫化物を回収する分離手段と、
を備えたことを特徴とする廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システム。
【請求項5】
前記分離手段に導入する廃触媒・廃吸着剤は、粒径を10μm〜100μmに微粉砕したことを特徴とする請求項4に記載の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システム。
【請求項6】
前記微粉砕手段の前段に、前記廃触媒・廃吸着剤を水中に投入して粗粉砕する粗粉砕手段を備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システム。
【請求項7】
前記微粉砕手段は、撹拌微粉砕機又は竪型微粉砕機であることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の廃触媒・廃吸着剤の有価金属回収システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−44045(P2013−44045A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184707(P2011−184707)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(394010193)宇部テクノエンジ株式会社 (37)
【Fターム(参考)】