延伸したシルクegel繊維およびその製造方法
本発明は、egelシルクフィブロイン繊維を延伸するための組成物および方法に関する。得られた繊維は、光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。シルクフィブロイン繊維は、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加してシルクフィブロインゲルを生成する工程;シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程;および粘性のシルク液からシルク繊維を延伸する工程を含む方法により製造される。本発明のシルク繊維は、織物、医療用縫合材料および組織材料等の材料として、ならびにこれらの材料に光学特性を付与するのに使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年9月28日出願の米国仮出願第61/246,323号の優先権の恩典を主張し、その内容全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
政府の支援
本発明は、National Institutes of Healthから授与されたEB002520の下で、U.S. Air Forceから授与されたFA9550-07-1-0079の下で、およびU.S. Army Research, Development and Engineering Command Acquisition Centerから授与されたW911SR-08-C-0012の下で、政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、egelシルクフィブロイン繊維を延伸するための組成物および方法を提供する。得られた繊維は光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。さらに、本発明のシルク繊維は、織物、医療用縫合材料および組織材料等の材料として、ならびにこれらの材料に光学特性を付与するのに使用することができる。
【背景技術】
【0004】
背景
光ファイバーは、典型的には、毛髪ほどの細さの軟性のガラス棒であり、光またはその他のデータを伝送する「ワイヤー」として利用される。簡単に言うと、それらは内側の光を外に漏らさず完全に反射することによって機能する。合成ポリマー製の光ファイバーは、典型的には、粘性の液体を紡糸口金とよばれる小さな穴を通じて押し出すことによって形成される。粘性の液体は連続的なフィラメントになり、これは押出後プロセシングを用いてさらに固化することができる。
【0005】
光ファイバーの最も有用な特徴の一つは、それらがヒトの体内の極小の通路および到達困難な領域に侵入できるということである。ファイバー光学は、医療分野に、特に外科手術に関して多大な貢献をしている。これは、極細の繊維束の端部を切断および加工してファイバースコープを形成することによって達成された。光は損傷部位に送られ、医師が見たいと望む領域で反射し、そして受信器に戻される。その後、分析のために画像が拡大される。光ファイバーには軟性があるため、それらを胃、心臓、血管および関節部のような領域にあるヒト体内の湾曲部に沿ってナビゲートすることができる。現在では、関節外科手術のように、光ファイバーに取り付けた機器を用いて外科手術を行うことさえ可能となっている。心臓外科手術においては、このデリケートな器官の機能を妨げることなく手術を行えることから、ファイバー光学は特に重要となっている。
【0006】
ガラスまたは合成繊維の望ましい代替品は、生分解性、生体適合性であり、再生可能な供給源から比較的簡単な技術および水相系操作により製造され、光を伝送することができ、かつ従来同様の繊維として、織物、医療用縫合材料、移植可能な組織材料を編むことができ、それによってこれらの材料に光学特性を付与することができる、天然ポリマー繊維であろう。
【発明の概要】
【0007】
要旨
シルクの電気ゲル化(electrogelation; egel)は、シルクフィブロインタンパク質の処理方式である。簡単に言うと、egelプロセスは、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加することによって、シルク溶液のランダムコイル構造を準安定なシルクI構造に転換させる。得られるゲル様物質は、粘膜付着性(muco-adhesive qualities)、ならびにランダムコイル構造への復帰およびβシート構造へのさらなる高次化を含む他の構造にさらに転換される能力を含む、多くの興味深い特性を有する。
【0008】
本発明によるシルク繊維は、高温炉および従来システムの大量消費を必要とせずに製造され得る。本発明によるシルク繊維は、ベース材料としてシルクフィブロインゲルを使用して、改善された機械的特性、例えば剪断強度を有する繊維を生成する。
【0009】
さらに、本発明によるシルク繊維は、生体適合性、生分解性かつ移植可能である。本発明の方法により製造されるシルク繊維は透明であり、光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。これにより、このシルク繊維は、インビボで健康状態をモニターするのに使用され得てもよく、または疾患の経過、処置の効果および組織の成長をモニターしそれらに関する情報を伝送する検知システムの一部として移植されてもよい。本発明によるシルクフィブロインゲルは、さまざまな光ファイバーおよび伝送媒体デバイスのコーティングとして使用され得る。
【0010】
さらに、本発明のシルク繊維は、織物ベースの部品または構造物、例えばマット、編み糸および布地に組み込むことができ、このシルク繊維の光伝送特性により、センサーデータおよび計算データをそれらの構造物を通って伝搬するスマート構造またはスマート強化材料を提供することができる。一つのこのような用途は、従来的な配線を必要とせずにセンサーデータを体壁を通じて伝送する、シルク光ファイバーを含む軟体ロボットであろう。シルク光ファイバーは、センサー、例えば生物力学的用途においては湾曲(例えば脊椎)の測定におけるセンサー、または構造物もしくは建築物の変形(例えば通常のもしくは荒れた天候下のまたは異常な荷重、例えば地震による荷重を受けた橋梁もしくは建築物)の測定におけるセンサーとして使用することができる。
【0011】
シルクegel繊維を製造する方法は、電気ゲル化プロセス、例えば可溶化シルク溶液に沈めた白金電極への電場(例えば、25 VDC)の印加を含む。適当な時間(例えば10分間)電場を印加した後、ゲル様材料が陽極上に形成され、これは準安定シルクI構造を高いレベルで有する。このシルクゲルを加熱した水槽に入れると、ゲルは剥離して非常に粘性の高い液体となって、水槽の底に滞留する。次にこの粘性の流体を水槽から延伸することで、特有の機械的特性および調整可能な断面積を有する長い繊維が形成される。剥離させたゲルを室温周囲環境で延伸する前にゼロ度以下の温度の水(塩およびかち割り氷を含む水)の中で急冷した場合、延伸した繊維はより頑丈になり得る。さらに、この繊維の加湿環境下での挙動は、クモのシルクに関して報告されている伸長/収縮反応に匹敵する。重要なことは、延伸されたegel繊維は光を伝送するということである。
【0012】
シルクegel繊維の延伸は、強固な機械的特性を有するシルク繊維を生成する。特性およびサイズをカスタマイズできる繊維を人工的に生成する能力により、多くの用途が提供される。例えば、伝統的なシルク繊維の巻き取りを必要とせずに、シルクフィブロイン溶液から全シルク複合材料を構築することができる。
【0013】
さらに、延伸されたシルク繊維は、十分に水和された場合に超収縮を示す。さらに、この繊維は、湿度サイクル下で可逆的な伸縮を示す。したがって、シルク繊維は、人工筋肉を作製するための筋繊維模倣物として、小型および/もしくは生体模倣ロボットのアクチュエーターとして、または薬物放出等のその他の用途に有用であり得る。
【0014】
さらに、延伸された繊維は光を伝送するので、それらにはシルク光ファイバーとしての多くの潜在的用途がある。例えば、この繊維はインビボで健康状態をモニターするのに使用することができ、治癒をモニターするための検知システムの一部として移植することができ、または組織の内部進入およびスキャホールドの分解に関する情報を中継するために組織工学的構築物に組み込むことができる。伝統的な光ファイバー用途では、シルク繊維は、長距離または短距離コミュニケーションに、照明に、またはレーザーベースの用途に使用することができる。シルクは生分解性なので、この光ファイバーは最終的には体内で分解し吸収される。
【0015】
次に、一つの局面において、本明細書にはシルク繊維を生成する方法を記載し、本方法は、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加しシルクフィブロインゲルを生成する工程;シルクフィブロインゲルを水中で急冷し粘性のシルク液を生成する工程;および粘性のシルク液からシルクフィブロインゲルを延伸しシルク繊維を生成する工程を含む。一つの態様において、水は0℃またはそれ未満の温度を有する。別の態様において、水は両端値を含む40℃〜80℃の範囲の温度を有する。
【0016】
別の態様において、シルクの延伸は、両端値を含む10℃〜40℃の範囲内の温度で行う。
【0017】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を乾燥する工程を含む。
【0018】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を収縮させる工程を含む。一つの態様において、シルク繊維を収縮させる工程は、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む。
【0019】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を膨張させる工程を含む。一つの態様において、シルク繊維を膨張させる工程は、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む。
【0020】
別の態様において、シルク繊維はメタノール処置により処理され、水不溶性のシルク繊維が生成される。
【0021】
別の態様において、本方法はさらに、複数のシルク光ファイバーをラップする工程を含む。
【0022】
別の態様において、シルク繊維は光ファイバーである。
【0023】
別の態様において、本方法はさらに、シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程を含む。
【0024】
別の態様において、本方法はさらに、シルク光ファイバーにより、光源からの入射光を受信する工程を含む。
【0025】
別の態様において、シルク光ファイバーは導波管である。
【0026】
別の態様において、シルク光ファイバーはシングルモードファイバーである。別の態様において、シルク光ファイバーはマルチモードファイバーである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1A〜1Dは、電気ゲル化したシルク(egel)を60℃〜75℃の水中に(1A)5秒間;(1B)15秒間;(1C)25秒間;および(1D)35秒間沈めた効果を示す低速連続図を表示する一連の写真を示す。
【図2】図2は、60℃〜75℃の水中でのシルクegel「構造物」の形成を示す写真である。
【図3】図3A〜3Dは、60℃〜70℃の水槽からのegelの繊維延伸を示す一連の低速写真を示す。
【図4】図4A〜4Cは、(4A)加熱前;(4B)ヒートガンを用いた場合;および(4C)約60℃まで加熱した後の、シルクegelを示す。
【図5】図5A〜5Cは、(5A)加熱前;(5B)冷却用水槽中の;および(5C)シリンジからの押し出し後の、シルクegelを示す。
【図6】図6A〜6Bは、氷槽で急冷した加熱シルクegelを示す:(6A)最初の急冷後;および(6B)約1分後。
【図7】図7A〜7Bは、延伸したシルクegel繊維の光伝搬能力の調査のための専用固定具を示す:(7A)全体像;および(7B)繊維ホルダーの拡大図。
【図8】図8A〜8Bは、延伸したシルクegel繊維の光伝送能力を実証する画像を示す:(8A)延伸したシルクegel繊維の端部からの光の投影;および(8B)屈曲させた繊維が明るく輝いている様子。
【図9】図9A〜9Cは、(9A)最初のegel形成;(9B)5分間の電気ゲル化後;ならびに(9C)電源、egelチューブの構成、温度記録用のIR温度計およびホットプレートの全体像の図を示す。
【図10】図10A〜10Cは、氷水槽からのegelシルク繊維の延伸を示す:(10A)加熱したegelの氷槽中での急冷;(10B)浴槽から(絶縁ワイヤーを用いて)延伸した直後のegelシルク繊維;および(10C)ある程度風乾した後の延伸したegelシルク繊維。
【図11】図11は、氷水槽から延伸し周囲空気中で乾燥させた典型的なegelシルク繊維の立体顕微鏡画像である。枝分かれ部間の直径は約100μmである。
【図12】図12は、約60℃の水中に沈めたegelシルクフィブロインの低速写真を示す。約5分間の期間をかけて、ゲル中のシルク構造物は水成分から分離し、ビーカー底のプールに落ちていくことが観察される。
【図13】図13A〜13Eは、加熱槽から延伸したegelシルク繊維を示す:(13A〜13B)シルクプール内で絶縁ワイヤーをゆっくり移動させている様子;(13C〜13D)浴槽からすばやく延伸された繊維。
【図14】図14A〜14Eは、重しをつけた延伸シルクegel繊維の低速写真である:(14A)133mgの重しをつけた、周囲湿度下の繊維;および(14B〜14E)20秒間蒸気に晒した後の繊維の伸長。
【図15】図15は、例示の加湿チャンバーを示しており、Kaz Ultrasonic Humidifier(右)、Lufft湿度/温度デバイス(中央)およびメートル定規と並べて吊り下げられた延伸egel繊維(左)が示されている。
【図16】図16A〜16Cは、乾燥湿度に晒された延伸シルクegel繊維を示す:(16A)44.5%の周囲湿度下での、貼り付けられた33mgの重しによる約15cmの初期繊維長;(16B)94.6%の湿度下;および(16C)47.8%の湿度まで除湿した後。
【図17】図17A〜17Bは、延伸されたシルクegel繊維の長さの変化を示す:(17A)81.7%の湿度から(17B)94.6%の湿度まで。
【図18】図18A〜18Dは、(18A)99.7%;(18B)86.3%;(18C)71.8%;および(18D)62.4%の相対湿度レベルにおける延伸egelシルク繊維の収縮の比較を表す。
【図19】図19は、引張試験のために、厚紙に貼り付けた繊維をInstron空気圧グリップに設置した様子を示す。
【図20】図20は、いくつかの延伸されたシルクegel繊維間での、荷重・伸張反応の比較を示すグラフである。
【図21】図21A〜21Bは、個別の条件下で製造された3つの延伸egel繊維の立体顕微鏡画像である(1mmスケールバー)。
【図22】図22A〜22Bは、(22A)1560x;および(22B)1960xの倍率の、延伸されたegel繊維の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
合成ポリマー繊維は、典型的には、粘性の液体を紡糸口金とよばれる小さな穴を通じて押し出すことによって形成される。粘性の液体は連続的なフィラメントとなり、これを押出後プロセシングを用いてさらに固化することができる。湿式、乾式、溶融およびゲル紡糸を含む、4つの紡糸法が知られている。湿式紡糸は、溶媒に溶解する材料に対して使用される。フィラメントは、沈降液として作用する化学浴槽の中に沈められた紡糸口金を通じて延伸される。乾式紡糸もまた、溶液中の材料に対して用いられる。しかし、固化は、溶媒をガス(例えば空気)による蒸発により除去することによって行われる。溶融紡糸は、溶融させた材料を紡糸口金を通じて押し出し、冷却により固化させることを含む。ゲル紡糸は、本明細書に記載される実験に最も近いプロセスであり、これは真の溶液ではない材料に対して用いられ;ポリマー鎖が液晶形態で相互に結合される。鎖間力の発生および押し出し時の剪断力による液晶の配列により、生成されるフィラメントは、高い程度の配列性および大きく改善した引張強度を得ることができる。
【0029】
光ファイバーは、光源からの光信号を、例えばそのシグナルの光学受信器に伝搬する伝送媒体である。光ファイバーおよび繊維光学ケーブルは、音声、映像およびデータ信号等の信号を伝送するのに使用され得る。電話またはデータモデム等のコミュニケーション信号源からのデータ信号は、光波に変調され、光ファイバーを通じて光学受信器に送信される。データ信号はその後、受信器において復調プロセスを用いて回収される。
【0030】
従来の光ファイバーは、シリカベースの光ファイバーを保護するためおよびそれらの光学性能を維持するために、保護的被覆を必要とする。繊維光学ケーブルは、満足のいく光学性能を確保するために、外力、例えば張力からならびにマクロベンドおよびマイクロベンドから保護されなければならない。繊維光学ケーブルおよびそれらの光ファイバーは、生来的に信号減衰特性を有している。光ファイバーを通じて伝送された信号は、それらの移動に伴い減衰し、光源からある程度の距離のところで信号は増幅が必要となるほど低レベルに達する。
【0031】
従来のガラス光ファイバーは、典型的には、粉末シリカを溶融するるつぼ法かまたは蒸着プロセスのいずれかにより作製される。るつぼ法は、多くの光波信号の短距離伝送に適した直径の大きなマルチモードファイバーを製造するのに使用され得る。蒸着プロセスは、コアおよびクラッド材の中実円柱体を作製するのに使用され得、これはその後、より長距離のコミュニケーション用のより細い光ファイバーとなるよう加熱および延伸される。
【0032】
シルクフィブロインフィルムおよびその他の構造物の光学的な能力は、例えば、WO 2008/118211, Biopolymer Photonic Crystal & Method of Manufacturing the Same; WO 2008/127401, Biopolymer Optical Waveguide & Method of Manufacturing the Same;およびWO 2008/140562, Electoreactive Biopolymer Optical & Electro-Optical Devices & Methods of Manufacturing the Sameにおいて調査されている。
【0033】
シルクの電気ゲル化(egel)は、シルクフィブロインタンパク質の処理方式である。簡単に言うと、egelプロセスは、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場(直流電流または交流電流のいずれか、DCまたはACとも称される)を印加することによって、シルクタンパク質のランダムコイル構造を準安定なシルクI構造に転換させる。電場は、電源、例えばDCまたはAC電源の使用を通じて印加することができる。直流電流は、バッテリー、熱電対、太陽電池等のような供給源により生成される。他方、交流(AC)電流は、一般的な業務および家庭用動力源であり、これも電気ゲル化プロセスを誘導するのに使用され得るが、そのゲル形成は直流電流電圧により誘導されるゲル化プロセスほど速くないかもしれない。シルク溶液に電場を印加する他の方法、例えば電流源、アンテナ、レーザーおよびその他の発電機も使用され得る。得られるゲル様物質は非常に粘着性であり、粘度が高く、粘液様の稠度を有し、かつ粘膜付着性ならびにランダムコイル構造への復帰およびβシート構造へのさらなる高次化を含む他の構造にさらに転換される能力を含む、多くの興味深い特性を有する。電気ゲル化法、電気ゲル化プロセスに使用される関連パラメーターおよび電気ゲル化プロセス中のシルクフィブロインの構造変化については、WO/2010/036992, Active silk muco-adhesives, silk electrogelation process, and devicesにおいて見いだすことができ、この文献の全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「シルクフィブロイン」は、カイコのフィブロインおよびその他の昆虫またはクモのシルクタンパク質を包含する(Lucas et al., 13 Adv. Protein Chem. 107-242 (1958))。シルクフィブロインは、カイコシルクまたはクモシルク溶解物を含有する溶液から採取することができる。カイコシルクフィブロインは、例えばカイコガ(Bombyx mori)の繭から採取され、クモシルクフィブロインは、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)から採取される。あるいは、本発明において使用するのに適したシルクフィブロインは、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から収集した遺伝子操作されたシルクを含有する溶液から採取することができる。例えば、WO 97/08315および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0035】
シルクフィブロイン水溶液は、当技術分野で公知の技術を用いてカイコ繭から調製され得る。シルクフィブロイン溶液を調製する適当なプロセスは、例えば、米国特許出願第11/247,358号、WO/2005/012606およびWO/2008/127401に開示されている。シルクフィブロイン水溶液の濃度は、希釈により下げることができ、または、低濃度のシルクフィブロイン溶液を吸湿性ポリマー、例えばPEG、ポリエチレンオキシド、アミロースまたはセリシンに対して透析することによって上げることができる。例えば、WO 2005/012606を参照のこと。場合により、得られるシルク溶液はさらに、残留する微粒子を除去するため、および混入物質が最小限であり散乱が小さい光学用途用のシルクフィブロイン溶液を達成するため、例えば遠心分離または精密ろ過を通じて処理され得る。
【0036】
本明細書に記載される態様は、シルクegel繊維の延伸プロセスを提供する。いくつかの実施例は、シルクegel繊維の延伸の代替製造方針を提供するために実施した実験について記載している。これらの実験の結果は、一定範囲の断面積および潜在的に優れた機械的特性を有する繊維を生成する可能性を示している。このプロセスは水性ベースであり、準備が容易であり、かつ実験台の上で実施される。生成された繊維は長く、プロセスは連続的でありかつ自動化できる。幅広い範囲の直径で製造できることが観察されている。乾燥させた繊維の溶解性は、水不溶性構造を生成する事後的処置により変化させることができる。例えば、シルク繊維のアルコール処置(例えば、メタノール処置)または水中アニーリング処置は、連続処理アプローチの一部として加えることができ、それによって水不溶性のシルク繊維を提供することができる。極小の断面積となるよう繊維径を誘導する能力は、分子鎖を繊維軸に沿って配列させることを通じて強度を付与し得る。さらに、水中紡糸口金の使用は、この補強効果に寄与し得る。egelの使用は、天然のカイコシルク繊維の機械的性能に匹敵する繊維を生成する鍵である。さらに、電気ゲル化によって達成されるシルク構造は、紡糸口金を通じて押し出す前は、カイコおよびクモの生体の分泌腺に存在する前駆体ゲル相に相当するものであり得る。
【0037】
この繊維延伸プロセスは、天然のプロセスを模倣するものであり、再生シルクを用いるその他すべての繊維形成プロセスに優る結果をもたらし得る。例えば、Zhou et al., Silk Fibers Extruded Artificially from Aqueous Solutions of Regenerated Bombyx mori Silk Fibroin are Tougher than their Natural Counterparts, 21 Adv. Mats. 366-70 (2009)を参照のこと。実際、延伸されるegelシルク繊維は非常に強靭であり得、本明細書に教示される技術により作製される最小径の繊維は繭繊維よりも高い強度を示す。
【0038】
本発明の方法により作製されるシルク繊維は完全に透明であり、光、例えばレーザー光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。
【0039】
したがって本発明の態様は、シルク繊維を形成する方法を提供し、本方法は、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加する工程、印加した電場に基づき可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクゲルに転換する工程、シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する(例えば、シルクゲルを水で急冷して粘性のシルク液を生成する)工程、およびシルク液から延伸してシルク繊維を形成する工程を含む。場合により、シルクフィブロインゲルは、急冷工程前に加熱され得、シルクフィブロインゲルは、急冷工程において使用される水の温度よりも高い温度に加熱され得る。例えば、シルクフィブロインゲルは約60℃に加熱され得、氷水槽中で急冷され得る(水槽の温度は60℃未満、例えば約0℃である)。延伸は、0℃またはそれ未満の、40℃〜80℃の範囲の、または10℃〜40℃の範囲内の温度を有する水中で実施され得る。この方法はさらに、シルク繊維を乾燥する工程を含み得る。乾燥させたシルク繊維は完全に透明であり、レーザー光の伝送を示す。
【0040】
シルク繊維はまた、例えば、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させることにより収縮させてもよく、または、例えば、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させることにより膨張させてもよい。さらに、シルク繊維は、例えば、メタノール処置によりさらに処理され、水不溶性シルク繊維が生成され得る。
【0041】
一つの態様において、シルク繊維は光ファイバーとして使用される。本方法はまた、シルク光ファイバーまたは複数のシルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含み得る。
【0042】
さらに、本発明のシルク光ファイバーは、光源からの入射光を受信し得、かつ導波管、マルチモードファイバーまたはシングルモードファイバーとして利用され得る。複数のシルク光ファイバーは、当技術分野で周知の技術によりラップされ、繊維光学ケーブルとされ得る。
【0043】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、シルクまたはその他の材料から製造された、天然または合成性の他のタイプの繊維でラップされ、繊維束または繊維複合材とされ得る。例えば、繊維複合材は、一つまたは複数の本発明のシルク繊維と一つまたは複数の天然のカイコフィブロイン繊維の組み合わせからシルク繊維ベースのマトリクスを形成するよう作製され得る。シルク中の免疫原性成分(例えばセリシン)は、そのようなシルク繊維ベースのマトリクスが移植用材料として使用される場合、天然のシルク繊維から除去され得る。これらのシルク繊維ベースのマトリクスは、適合レシピエントへの外科的移植用、例えば損傷組織の置換または修復用の組織材料を製造するのに使用され得る。製造できる組織材料のいくつかの非限定的な例には、靭帯または腱、例えば肘および膝の前十字靭帯、後十字靭帯、回旋腱板、内側側副靭帯、手の屈筋腱、足首の外側靭帯ならびに顎または顎関節の腱および靭帯;軟骨(関節および半月板の両方)、骨、筋肉、皮膚ならびに血管が含まれる。シルク繊維ベースのマトリクスまたはシルク繊維を含むシルク複合材を用いて組織材料または医療デバイスを作製する方法は、例えば、米国特許第6,902,932号, Helically organized silk fibroin fiber bundles for matrices in tissue engineering;同第6,287,340号, Bioengineered anterior cruciate ligament;米国特許出願公開第2002/0062151号, Bioengineered anterior cruciate ligament;同第2004/0224406号, Immunoneutral silk-fiber-based medical devices;同第2005/0089552号, Silk fibroin fiber bundles for matrices in tissue engineering;同第20080300683号, Prosthetic device and method of manufacturing the same;同第2004/0219659号, Multi-dimensional strain bioreactor;同第2010/0209405号, Sericine extracted silkworm fibroin fibersにおいて見いだされ得、これらの文献の全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0044】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、巻線、撚糸、平打編組(flat braiding)、製織、開繊、かぎ針編み、ボンディング、管状編組(tubular braiding)、メリヤス編、結糸およびフェルト(すなわち、マット、コンデンスまたはプレス)機を含む、伝統的な織物製造機を用いて織物(例えば編み糸、布地)および織物ベースの構造物に組み込まれ得る。このような織物は、多くの公知の複合材製造プロセスを通じて複合材料および構造物に組み込むことができる。
【0045】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、全シルク複合材を形成するよう、他の形態のシルク材料、例えば、シルクフィルム(WO2007/016524)、コーティング(WO2005/000483; WO2005/123114)、マイクロスフィア(PCT/US2007/020789)、レイヤー、ヒドロゲル(WO2005/012606; PCT/US08/65076)、マット、メッシュ、スポンジ(WO2004/062697)、3Dソリッドブロック(WO2003/056297)等と組み合わせてもよい。シルク複合材料は、シルク繊維により補強することができ、かつシルク光ファイバーの光学特性をその複合材に導入することができる。例えば、シルク繊維をシルクフィブロイン溶液に晒し、本発明のシルク繊維を含有するシルクフィブロイン溶液を乾燥または固化させることによりシルク複合材を形成することで、一次元、二次元または三次元シルク複合材が調製され得る。異なる固化プロセスおよびシルクフィブロイン溶液を異なる形式のシルク材料に処理するための追加のアプローチを使用することができる。例えば、WO/2005/012606; WO/2008/150861; WO/2006/042287; WO/2007/016524; WO 03/004254, WO 03/022319; WO 04/000915を参照のこと。
【0046】
さらに、本発明の方法により製造されるシルク繊維は、一つまたは複数の他の天然または合成、生体適合性または非生体適合性のポリマーと組み合わせることができ、かつ、異なる材料形式、例えば、繊維、フィルム、コーティング、レイヤー、ゲル、マット、メッシュ、ヒドロゲル、スポンジ、3Dスキャホールド等を含む複合材に組み込むことができる。非限定的な生体適合性ポリマーには、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、コラーゲン(天然、再処理または遺伝子操作バージョン)、多糖(天然、再処理または遺伝子操作バージョン、例えばヒアルロン酸、アルギネート、キサンタン、ペクチン、キトサン、キチン等)、エラスチン(天然、再処理または遺伝子操作および化学合成バージョン)、アガロース、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロースアミロペクチン)、セルロース、コットン、ゼラチン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギネート、キトサン、キチン、ポリラクチド、ポリグリコール、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、タンパク質、分解性ポリウレタン、多糖、ポリシアノアクリレート、グリコサミノグリカン(例えば、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等)等が含まれる。例示的な非生分解性ポリマーには、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンおよびニトロセルロース材料が含まれる。シルク繊維を複合材に組み込む場合、これらの上記のポリマーの一つまたは複数と組み合わすことができる。例えば、米国特許第6,902,932号;米国出願公開第2004/0224406号;同第2005/0089552号;同第2010/0209405号も参照のこと。
【0047】
本発明のシルク繊維を含有する複合材料の形状および特性は、個々の用途に合わせることができる。例えば、単繊維層は、非常に頑丈で柔軟であることが示されている。優れた圧縮、引張、曲げおよびねじり特性を示し得る非常に硬い棒状または管状構築物を製造するのには、円筒形マンドレルを使用することができる。特定用途の波状または高度に湾曲した形状も製造することが可能である。
【0048】
合成材料は、一般に、機械的強度、間隙率、分解性等のマトリクス特性を強化し、かつ、医療用縫合材料または移植可能な組織材料として使用する場合は、細胞の播種、増殖、分化または組織発生も強化する。
【0049】
シルク繊維中のシルクフィブロインはまた、溶液中の活性作用物質により、例えば、ジアゾニウムまたはカルボジイミドカップリング反応、アビジン・ビオチン相互作用または遺伝子修飾等を通じて、シルクタンパク質の物理的特性および機能性を変化させるよう化学的修飾され得る。例えば、PCT/US09/64673; PCT/US10/42502; PCT/US2010/41615; 米国特許出願第12/192,588号を参照のこと。
【0050】
本発明のシルク繊維は、少なくとも一つの活性作用物質を含み得る。作用物質は、繊維中に埋め込まれるかまたは繊維表面に固定され得る。活性作用物質は、治療用作用物質または生物学的材料、例えば、化学薬品、細胞(幹細胞を含む)または組織、タンパク質、ペプチド、核酸(例えばDNA、RNA、siRNA)、核酸アナログ、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、抗体またはそのフラグメントもしくは一部分(例えばパラトープもしくは相補性決定領域)、抗原またはエピトープ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、細胞接着メディエーター(例えばRGD)、成長因子または組み換え成長因子ならびにそれらのフラグメントおよび変異体、サイトカイン、酵素、抗酸化物質、抗生物質または抗菌化合物、抗炎症剤、抗真菌剤、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、薬物、色素、アミノ酸、ビタミン、化学療法剤、低分子ならびにそれらの組み合わせであり得る。作用物質はまた、上記の活性作用物質の任意の組み合わせであり得る。
【0051】
本発明における使用に適した例示の抗生物質には、アミノグリコシド(例えばネオマイシン)、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン(例えばセファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフジトレン、セフトビプロール)、糖ペプチド(例えばバンコマイシン)、マクロライド(例えばエリスロマイシン、アジスロマイシン)、モノバクタム、ペニシリン(例えばアモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)、ポリペプチド(例えばバシトラシン、ポリミキシンB)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、オフロキサシン等)、スルホンアミド(例えばスルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コ・トリモキサゾール))、テトラサイクリン(例えばドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン等)、クロラムフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、エタムブトール、ムピロシン、メトロニダゾール、ピラジンアミド、チアンフェニコール、リファンピシン、チアンフェニコール、ダプソン、クロファジミン、キヌプリスチン、メトロニダゾール、リネゾリド、イソニアジド、ホスホマイシンまたはフシジン酸が含まれるがこれらに限定されない。
【0052】
本発明における使用に適した例示の細胞には、始原細胞または幹細胞(例えば骨髄間質細胞)、靭帯細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチン生成細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞および前駆細胞が含まれ得るがこれらに限定されない。
【0053】
例示の抗体には、アブシキマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ チウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、アルツモマブペンテト酸塩、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレソマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、カプロマブ ペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブ オゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブ メルペンタン、オレゴボマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、スレソマブ、タカツズマブ テトラキセタン、テフィバズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビジリズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブおよびザノリムマブが含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
本発明における使用に適した例示の酵素には、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ等が含まれるがこれらに限定されない。
【0055】
本発明において使用される追加の活性作用物質には、細胞成長培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地、ウシ胎児血清、非必須アミノ酸および抗生物質;成長因子および形態形成因子、例えば線維芽細胞成長因子、形質転換成長因子、血管内皮成長因子、上皮成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子、骨形態形成成長因子、骨形態形成様タンパク質、形質転換成長因子、神経成長因子および関連タンパク質(成長因子は当技術分野で公知である、例えば、Rosen & Thies, CELLULAR & MOLECULAR BASIS BONE FORMATION & REPAIR (R.G.Landes Co.)を参照のこと);抗血管新生タンパク質、例えばエンドスタチンおよびその他の天然由来または遺伝子操作タンパク質;多糖、糖タンパク質またはリポタンパク質;抗感染剤、例えば抗生物質および抗ウイルス剤、化学療法剤(すなわち、抗癌剤)、抗拒絶剤、鎮痛剤および鎮痛剤混合薬、抗炎症剤ならびにステロイドが含まれる。
【0056】
いくつかの態様において、活性作用物質はまた、細菌、真菌、植物もしくは動物、またはウイルスのような生物であり得る。さらに、活性作用物質には、神経伝達物質、ホルモン、細胞内シグナル伝達物質、薬学的活性物質、毒性物質、農薬、化学的毒素、生物学的毒素、微生物ならびに動物細胞、例えばニューロン、肝細胞および免疫系細胞が含まれ得る。活性作用物質には、治療用化合物、例えば薬理学的物質、ビタミン、鎮静剤、睡眠剤、プロスタグランジンおよび放射性薬品も含まれ得る。
【0057】
シルクegelから延伸されたシルク光ファイバーのさらなる用途には、フォトメカニカル作動、電気光学ファイバーおよびスマート材料が含まれる。
【0058】
本発明のシルク繊維を、個別にまたは複合材としてのいずれかで、織物、医療用縫合材料または組織材料に使用する場合、織物、医療用縫合材料または組織材料を製造する上記方法において、刺激を組み込むことができる。例えば、化学的刺激、機械的刺激、電気的刺激または電磁的刺激を上記方法に組み込むこともできる。本発明のシルク繊維は光伝送特性を有するので、織物、医療用縫合材料または組織材料に含まれるシルク繊維を使用して、その刺激からであってもまたはその周囲環境(例えば、移植材料として使用される場合は組織、器官、または細胞)から発生する刺激から変換されてもよい光信号を伝送し、かつ織物、縫合材料または組織材料の特性に影響を与えることができる。あるいは、シルク光ファイバーを使用して、適用される媒体、例えば、移植材料として使用される場合は細胞または組織に光信号を伝送し、その細胞または組織の活動を調節してもよい。例えば、細胞の分化は、その周囲環境からの化学的刺激、多くの場合周囲の細胞により産生される刺激、例えば、いくつか列挙すると、分泌された成長因子または分化因子、細胞同士の接触、化学的勾配および特定のpHレベルによる影響を受けることが公知である。いくつかの刺激は、より特定された組織タイプに向けられる(例えば、心筋の電気的刺激)。このような、光信号により直接的または間接的に伝送され得る刺激の適用は、細胞の分化を促進すると考えられる。
【0059】
さらに、シルク光ファイバーをシステムに組み込むことにより、薬物制御送達システムが利用可能となる場合もあり、例えば、薬物の投与および放出が、シルク光ファイバーに与えられた外部刺激を通じて、生理学的要求と完全に一致する様式で制御することができる。
【0060】
物理学においては、屈折と呼ばれる現象が存在し、光は異なる屈折率を有する媒体に侵入したときに「屈曲」する。臨界角と呼ばれる特定の角度があり、この角度では光線は第一の媒体に侵入することができるが、その後第二の媒体へと横断せずにこの二つの媒体の間を移動する。光線が第一の媒体を通過する角度が臨界角より大きい場合、その光線は、二つの媒体間の境界面で完全に反射し第一の媒体に再侵入する内部全反射となる。これは現代の光ファイバーも同じである。本発明の態様のシルク光ファイバーは、図8bに示されるように、屈曲させても光を十分に伝導することができる。
【0061】
本発明のシルクベースの光ファイバーは、例えば、ファイバー光学と強力レンズを組み合わせた内視鏡システムにおいて使用され得る。この医療用デバイスは、対物レンズ、ロッドレンズ、接眼レンズ、光ファイバー、光源、撮影用カメラを含み得る。マイクロカメラが接眼部に装着され、画像がモニターに映し出され得る。内視鏡システムは、画像データをキャプチャし保存する電荷結合素子を使用し得る。例えば、各素子の2Dアレイは、電荷を保存でき、入射光の70%に反応することができる。光源には、タングステンフィラメントランプ、ハロゲンリフレクターランプ、希土類キセノンランプが含まれ、これらは高輝度の光およびトゥルーカラー表示(キセノンの昼光効果)を提供する。典型的な軟性内視鏡は、約15mmの曲げ半径および2本のシルク繊維光学ケーブルを有し、1本は光コンジットであり(インコヒーレント)、もう1本は画像伝送に使用される(コヒーレント)。画像用ファイバーは、平方ミリメートルあたり約10,000ピクセルの画像解像度を有し得る。内視鏡用途には、執刀医のための最適経路(例えば神経外科手術における脳内経路)をシミュレートすることができる外科手術用画像システムが含まれる。頭蓋骨内でのレーザー脳外科手術においては、内視鏡デバイスは、頭蓋骨の8分の1インチの切り込みを通すワイヤーのような糸状のものであり、生検針のように腫瘍に埋め込まれ、そして数秒間の照射が実行される。
【0062】
レーザー外科手術に関してさらに言うと、多くのレーザー繊維光学コンタクト方式の外科手術手順には、非結像系のエッジレイコンセントレーター(edge-ray concentrator)がよく適しており、その場合、最大集光効率で放射照度の大きな増量が必要となり、かつ光を広い角度範囲に均一に照射しなければならない。これらの目的で開発された以前の繊維光学デバイスと比較すると、非結像系設計において送達される放射照度は、最大放射効率で二倍超であり、それでいてランベルト吸収体、すなわち、全脳半球への均一な放射を実現し得る。自動化を含む、egel延伸プロセスのさらなる改良は、本願で提供される開示によってサポートされ、それは、制御可能かつ一貫性のある繊維径の生成を改善し、枝分かれ異常を排除するものであり得る。シルクegel延伸のさらなる最適化および特徴づけ、繊維の品質管理の改善、光伝搬性が改善された繊維の生成ならびに水和による収縮および伸長のさらなる調査は、本発明の範囲内である。
【0063】
本発明の特定の実施態様は非限定的な実施例に記載されている。
【0064】
本発明は、以下の番号付きの項目のいずれか一つに定義されるものであり得る:
1. 可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加してシルクフィブロインゲルを生成する工程、
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程、
粘性のシルク液からシルク繊維を延伸する工程
を含む、シルク繊維を製造する方法。
2. シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、水中でシルクフィブロインゲルを急冷する工程を含む、項目1の方法。
3. 水が0℃またはそれ未満の温度を有する、項目2の方法。
4. 水が40℃〜80℃の範囲の温度を有する、項目2の方法。
5. シルクを延伸する工程が、10℃〜40℃の範囲内の温度で行われる、項目2の方法。
6. シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、急冷工程前にシルクフィブロインゲルを加熱する工程をさらに含む、項目2の方法。
7. シルクフィブロインゲルが、急冷工程で使用される水の温度よりも高い温度に加熱される、項目6の方法。
8. シルク繊維を乾燥させる工程をさらに含む、項目1の方法。
9. シルク繊維を収縮させる工程をさらに含む、項目1の方法。
10. シルク繊維を収縮させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む、項目9の方法。
11. シルク繊維を膨張させる工程をさらに含む、項目1の方法。
12. シルク繊維を膨張させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む、項目11の方法。
13. シルク繊維をアルコール処置または水中アニーリング処置により処理して水不溶性シルク繊維を生成する工程をさらに含む、項目1の方法。
14. 複数のシルク繊維をラップする工程をさらに含む、項目1の方法。
15. シルク繊維の少なくとも一つを少なくとも一つの他の繊維と共にラップする工程をさらに含む、項目1の方法。
16. 前記他の繊維が、少なくとも一つのセリシン抽出処理したシルク天然フィブロイン繊維を含む、項目15の方法。
17. 少なくとも一つのシルク繊維を複合材に組み込む工程をさらに含む、項目1の方法。
18. 複合材が全シルク複合材である、項目17の方法。
19. シルク繊維が光ファイバーである、前記項目のいずれか一つの方法。
20. シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含む、項目19の方法。
21. シルク光ファイバーを通じて光信号を伝送する工程をさらに含む、項目19の方法。
22. 伝送工程が、光源からの入射光をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、項目21の方法。
23. 伝送工程が、シルク光ファイバーの周囲環境からの刺激から変換された光信号をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、項目21の方法。
24. シルク光ファイバーが導波管である、項目19の方法。
25. シルク光ファイバーがマルチモードファイバーである、項目19の方法。
26. シルク光ファイバーがシングルモードファイバーである、項目19の方法。
27. 前記項目のいずれか一つの方法から調製される組成物。
【0065】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬等に限定されるものではなく、それらは変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は特定の態様を描写する目的のみを有し、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、それは特許請求の範囲によってのみ定義されるものである。
【0066】
本明細書および特許請求の範囲で使用される単数形は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、複数の参照を包含し、そしてその逆も同様である。実施例を実施する場合またはそうでないことが示されている場合以外では、本明細書で使用されている成分の量および反応条件を表すすべての数値は、すべての例において、用語「約」によって修飾されることを理解されたい。
【0067】
特定されているすべての特許およびその他の刊行物は、例えば、本発明との関連で使用され得るそれらの刊行物に記載の方法論を解説および開示する目的で、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。これらの刊行物は、本願出願日以前の開示物として提供されるにすぎない。これに関連するいかなる記載も、本発明者らが先行発明またはその他の何らかの理由によりそのような開示よりも先の日付を主張する資格を有さないことの自白であると解釈されるべきではない。これらの書類の日付に関する表示または内容に関する説明はすべて、出願人が入手し得た情報に基づくものであり、これらの書類の日付または内容の正確さに関する承認を意味するものではない。
【0068】
そうでないことが定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に一般に理解されているのと同じ意味を有している。本発明の実施または試験には任意の公知の方法、デバイスおよび材料が使用され得るが、それをふまえて、方法、デバイスおよび材料が本明細書に記載されている。
【実施例】
【0069】
実施例1. egelに対する温度上昇の効果
可溶化シルクフィブロイン水性ストック溶液を以前に記載された通りに調製した。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. A 139-48 (2001)。簡単に言うと、カイコガの繭を、0.02M炭酸ナトリウム水溶液中で20分間煮立て、次いで、水(Milli-Q(登録商標)Water System, Millipore, Billerica, MAを通じて処理した超純水)で十分にリンスした。乾燥させた後、抽出されたシルクフィブロインを60℃で4時間、9.3M LiBr溶液に溶解させ、20% (w/v)可溶化シルクフィブロイン溶液を得た。得られた溶液を、Slide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce, Rockford, IL)を用いて蒸留水に対して3日間透析し、残留する塩を取り除いた。この透析後の溶液は光学的に清澄であり、10,000rpmで20分間の遠心分離を2度行ってシルク凝集物および最初の繭由来の残骸を取り除いた。可溶化シルクフィブロイン水溶液の終濃度は約8% (w/v)であった。この濃度は、既知容積の溶液を乾燥させその残留固形物を秤量することによって測定した。この8%シルクフィブロイン溶液を4℃で保存し、使用前に水で希釈した。
【0070】
電気ゲル化に対する加熱の効果を調査するため、約8% w/v可溶化シルクフィブロイン溶液を約60℃〜75℃に加熱した。Falconチューブの下半分と加熱した溶液中に沈めた2本の白金(Pt)電極とからなる「標準」egel設定を用いて、Agilent 3364A電源から25VDCを印加した。驚くべきことに、電気ゲル化における典型的な反応である視認可能なゲルは、陽極に形成されなかった。シルク溶液の加熱は、何らかのかたちで、シルクに対して電気ゲル化を実施する能力に恒久的な影響を及ぼしていることが考えられる。この見解は、これまでの証拠;121℃でオートクレーブしたシルク溶液は、電気ゲル化により観察可能なゲルが生じない、により支持されていた。しかし、オートクレーブしたシルク溶液は、時間と共に「回復」した。オートクレーブしたシルク溶液は、5℃〜10℃で一週間保存した後、小さいながらもある程度の電気ゲル化反応を示した。その後の実験が示唆するように、加熱したシルク溶液の電気ゲル化は、シルク溶液の構造をランダムコイルからシルクIへと変化させている可能性があるが、その材料は、陽(典型的には白金)極と接触した状態で維持されなかった。
【0071】
実施例2. egelに対する温度上昇の効果II
最初に、「標準」設定(上述の8% w/vシルク溶液、白金電極およびFalconチューブ)で電気ゲル化シルクを生成した。10分間の電気ゲル化の後、陽極に形成されたゲルを、60℃〜75℃に加熱した水を含むビーカーに移した。図1は、ゲルの反応の10秒間隔の画像を示す。温水に浸すと、おそらく密度差に起因して、Pt上のegelは剥離し、ビーカー底に落下することが観察された。同時に、egelに閉じ込められていた気泡が放出され水面にむかって上昇した。この剥離プロセスは、βシート材料のみがPt電極上に留まるようになるまで継続した。長い電気ゲル化期間の間、電気ゲル化開始時に陽極に最も近接していたシルク溶液は不可逆的構造(βシートであると推定される)への変換を継続する傾向があるが、ゲルの大部分はシルクI構造を得ていることに注目されたい。浴槽の底にある、互いに密着している粘性の液体パドル状物の材料を回収した。
【0072】
実施例3. egel繊維の延伸I
温水のビーカーおよび実施例2の剥離したシルクを用いて、関心対象の材料の有用性を調査した。先端がフック形の絶縁ワイヤーを用い、加熱された水の中からシルクの粘性パドルを引き上げ、「構造物」を形成させることができた。その材料を浴槽温度を変化させつつ操作することで、互いに密着している構造を維持するのに温度が重要な因子となることが明らかになった。その構造物自体は、海面から引き上げられた海藻の稠度を有していた。図2に示されるように、ひとつながりの「繊維」を水面まで延伸することができた。興味深いことは、この「繊維」がその場にとどまったことである。これは、この「繊維」の端部が水面の不純物に付着したため、表面付着のため、または、引き伸ばされた材料が水の密度とほぼ一致したことで中立浮力が達成されたためと考えられる。このようにして、シート様形状を含む三次元構造物を形成することができた。
【0073】
水槽から一本の「繊維」を延伸する際、それを非常に長い繊維長まで伸ばすことができる。一つの鍵は、水槽の温度のようである。定性的情報は、約60℃の浴槽温度が最良の結果をもたらすことを示した。それよりも低温では、「繊維」は、水面に持ち上げる前でさえも壊れてしまう。それよりも高温では、「繊維」が低い粘性を示し、「繊維」自体の形成が妨げられる。図3は、「繊維」を加熱した浴槽から延伸している様子の低速写真を示している。繊維は、約1インチ/秒の速度で延伸した。最初の成功例では、40〜50インチの間の繊維長が得られた。繊維長は、水中のシルクの量、水温および延伸速度に依存してより長くすることができた。延伸された繊維は非常に粘着性であった(2本の繊維を絡ませると、それらは貼り付いてひとつになる)。一定期間の間に、繊維はより細く、より低粘着性に、そしてより脆弱になる。40分〜60分の後、繊維は、他の表面またはそれ自身に貼り付くことなく取り扱えるようになった。この固化は、繊維中に取り込まれていた水分が蒸発することによる乾燥効果に起因するものと考えられる。乾燥後の繊維は驚くべき強度を有していたが、水(特に、温水)に水和させるとただちに軟化する。
【0074】
実施例4. 温度変化に対するegelの反応
本実験では、シルクegelを5mlプラスチックシリンジに入れた。egelはシルク溶液よりも多くのシルクI構造を含み、これは準安定性なので、最初にシリンジプランジャーを取り外し、シリンジのプランジャー側端から添加することによってegelをシリンジに入れた。egelをシリンジ針を通じてシリンジ内に導入した場合、流動による剪断力がβシートへの構造変化を引き起こす可能性があり、これは本実験に根本的な影響を及ぼす。加熱前のシルクegelが図4aに示されている。ヒートガンをミディアム加熱設定で使用し(図4b)、egelを60℃以上に加熱した。加熱の間に、egelは液体になった。図4cに示されるように、内部温度が60℃に達したとき、ゲルの全量が液体になった。熱源を取り除いた後、この液体溶液は、egelと非常によく似た特徴を有するゲルに逆戻りした。この再構成ゲルは当初のegelよりもいくらか粘着性が大きく見かけ上透明度が高いようである。このことは、egelの構造および粘着性は、熱サイクルを通じて「オン」、「オフ」できることを示唆している。多くの用途において、これは、極性反転による電気チャージを用いるサイクルに対する魅力的な代替品となり得る。
【0075】
実施例5. 温度サイクルに対するegelの反応
追試実験において、一つの変更を加えて同じegel-シリンジ-ヒートガン実験を行った。シリンジプランジャーにアクセス孔をあける改造を施し、この孔に小径のT型熱電対を挿入した。図5aは、画像中央部に見える熱電対と共に、シリンジおよびゲルを示している。この熱電対を使用し、National InstrumentsのCompactDAQデータ収集ハードウェアおよびLabVIEWソフトウェアを用いた実験を通じてegelおよび液体の温度をモニターした。本実験は、2回の完全な加熱/冷却サイクルを実施することによって実行した。加熱にはヒートガンを使用し、冷却には水槽を使用した(図5b)。各実験フェーズの後(各加熱冷却サイクルの後)、図5cに示されるように、シリンジの針側端から少量のシルク材料を抽出した(針は装着していない)。サイクルは、各サイクル後に同様の結果を提供するようであり、すなわち冷却時に高粘性および粘着性のゲルが形成され、一方約60℃以上でそれよりずっと低粘着性、低粘性の液体が形成される。手で触れてみたところ、各冷却段階後に形成されたゲルは、加熱/冷却サイクル前に生成されていたegelと類似の反応を示した。ゲルは垂直面に付着することができ、付着した状態で保たれるか、または転がり落ちゴムボールのようになる。簡単に言うと、egelにおいて見いだされたシルク構造は、よりランダムなコイル構造に可逆的に移行しかつ元に戻ることができる。
【0076】
実施例6. egel繊維の延伸II
本実験では、上記の実験3のプロトコルの後に、T型熱電対ならびにNational InstrumentsのCompactDAQデータ収集ハードウェアおよびLabVIEWソフトウェアを使用して浴槽温度をモニターする作業を含むものとした。シルクegelを、60℃に加熱した水のビーカーに入れた。egelが剥離し水槽底に沈んだ後、液体シルクの「繊維」を浴槽から上方に延伸した。速度および水槽からの高さに依存して、繊維は様々な直径で延伸することができた。延伸した各繊維を実験台の棚に吊るした後、当初は粘着性かつ不均一であった繊維が乾燥/固化し始めた。繊維はまた、直径が縮小し、より均一になる傾向があった。最終的な繊維は、優れた引張特性を示したが、非常に脆弱であった。乾燥した繊維を、約90℃未満で曲げるようにラップすると、それらは裂ける傾向があった。繊維の表面は最初の延伸後よりも滑らかであったが、繊維上になおも目立った凸部および粗い部分が存在した。
【0077】
さらに、一定量のegelを60℃の水槽に沈めた後、浴槽を室温まで冷まし、水槽の上部分から水を取り除き(水とシルクの分離が視認できた)、そして残った材料を室温で一晩静置した。約18時間後、残った材料が乳白色で非常に頑丈な薄いシルクの円盤状物になるのを観察した。これは多分に湿気を含むものであったが、水分を蒸発させると非常に脆弱になる。
【0078】
実施例7. 加熱したegelの押し出しおよび氷水槽中での急冷
繊維の形成を高速化させる手段として、水道水および氷片を入れたビーカーを用いて氷槽を作製した。その温度は0℃付近と測定された。10mlのプラスチックシリンジを用いて、最初にシルクegelをミディアム設定のヒートガンで60℃以上に加熱した。このegelをシリンジの針側端(針は装着していない)を通じて氷槽に押し出した。図6aに示されるように、ゲルは、氷水の中に入れられると、垂直方向の「繊維」を形成し、これは水中で浮遊状態を維持する傾向があった。ゲルの見た目は、図6bに示されるように、非常に透明なものから白みがかった色に変化する傾向があった。これは、シルクI egel構造からβシートへの変換に起因するものと推測された。さらなる材料の特徴付けによりこのことが確認されるであろう。
【0079】
実施例8. 氷水槽からのegel繊維の延伸I
次に、実施例7と同じ実験設定を用いて、氷槽中で急冷した液体シルク「繊維」を浴槽から延伸した。以前と同様、繊維は非常に長い繊維長まで延伸することができた。本実験では、一本の繊維のみを、約10インチの長さまで延伸した。繊維は、以前の繊維と同様粘着性であったが、延伸中に失敗する傾向が高かった。この繊維は、均一性がずっと高く、非常に滑らかな表面を有し、そして断面形状に一貫性があることが観察された。一晩実験台の棚から吊り下げた後、繊維は、以前の繊維よりも、直径が小さくなることが見出されたが、全体的にはずっと頑丈であり、脆弱ではなく、相当な引張荷重にも耐えることができた。繊維は非常に透明であることが観察され、そのため、そのような繊維は光の伝送に使用できるであろうという期待が持たれた。
【0080】
実施例9. 延伸したシルクegel繊維の光伝搬能力試験
延伸したシルクegel繊維は非常に透明であることが観察され、光を伝送する目的で製造および使用できる可能性がある。図7aに示されるような、手動x-yステージをアルミニウム台に対して垂直に設置した簡単な実験装置を構築した。プレゼンテーション用レーザーポインターをステージにしっかり固定した。繊維ホルダーは、マシナブルワックスを用いて形成した。図7bに示されるように、egel繊維を密着して保持するよう、ワックスに非常に小さな穴をあけた。試験結果は図8aに示されており、レーザー光は繊維を通じて伝搬され、繊維端から表面に投影された。図は、繊維の上から見える瞬間的なライトパッチを示しており、これは、繊維ホルダーの穴を通じた光の直接的な伝送を表している。図8bは、屈曲部に沿って光を伝送する繊維の能力を実証している。調整により、画像が繊維の外側での光の反射によるものではないことが確認された。
【0081】
実施例10. egel繊維の氷水槽からの延伸II
シルクegel繊維を、一回の加熱(60℃)および急冷(<0℃)サイクルを行った後、氷槽から延伸した。図9は、egelが、短くしたFalconチューブ内の3本の白金電極上に形成されている様子を示す。示されるように、陰極が1本だけ必要となる。実施例7と同様、シルクegelを10mlのプラスチックシリンジに入れ、ミディアム設定のヒートガンで60℃以上に加熱した。このegelを、図10aに示されるように、シリンジの針側端を通じて(針は装着していない)氷槽に押し出した。以前と同様、egel材料は、垂直方向、水中に「繊維」を形成する傾向があり、水中で浮遊状態を維持するものであった。絶縁ワイヤーを使用してこの「繊維」を氷槽から大気中に延伸した。図10bは、延伸された直後の繊維を示す。図10cは、約30分間風乾した後に2本の絶縁ワイヤーの間で引っ張られている繊維を示す。当初延伸した繊維上にあった滴は乾燥により消散する傾向があることに注目されたい。この繊維の牽引は、この繊維がその直径からみて印象的な強靭さを有することを示す。さらに、氷槽から延伸された繊維は乾燥後も全く頑丈である。図11は、氷水槽から延伸したシルクegel繊維のうちの1本についての立体顕微鏡画像を示す。枝分かれ部は乾燥された水滴であると考えられる(図10b)。枝分かれ部間の直線セグメントにおける繊維径は約100μmである。この繊維は顕微鏡下で見ると非常に透明である。
【0082】
実施例11. 超収縮および小収縮サイクルの調査
文献は、クモの引き糸シルクが、湿気の存在下で二つの明確に異なる収縮反応を示すことを示唆している。クモの巣を作るのに使用されるタイプのシルクである引き糸シルクは、高湿度下で超収縮を示す。この50%にも達することができる収縮は、クモの巣の自然リフレッシュ法と考えられており、朝露がクモの巣を引き締めるであろう。最近の研究は、クモのシルクはまた、湿度の小さな変化に対して弛緩・収縮サイクル反応を起こすことを示した。この場合、シルクの乾燥は、規模はずっと小さいものの、緊張と収縮を引き起こし、湿度の上昇は、弛緩を誘導するため伸長を引き起こす。Blackledge et al., How super is supercontraction? Persistent versus cyclic responses to humidity in spider dragline silk, 212 J. Experimental Bio. 1981-89 (2009)。
【0083】
本実験および後続の実験は、延伸されたegel繊維が超収縮および収縮/膨張サイクルの両方を示す能力を調査するために実施した。Fisher Scientific製のホットプレート(図9c)を使用してmilli-Q水を約60℃に加熱した。図9aおよび9bに示されるように、egelを3本の白金電極を用いて形成させた。図12に示されるように、egelが付着した白金電極を加熱した水槽に沈めることによって、egel由来のシルクがゲルの水成分から分離することが観察された。図12cおよび12dを近づけて見比べると、シルク材料がビーカー底のプールに落ちていく様子を見ることができる。5分の間に、egelの大部分は電極から取り除かれる。ゲル中に閉じ込められていた気泡が解放され、水面に上昇する。ホットプレートからビーカーを取り外した後、絶縁ワイヤーをビーカー底のシルクプール中をゆっくり移動させることによって、繊維をビーカーから延伸した(図13)。この絶縁ワイヤーを高い棚からぶら下げることによって、延伸した繊維を風乾させた。
【0084】
図14aに示されるように、93.31mm長の乾燥させた繊維に133mgの重しを付けて、空の4Lビーカー内で吊り下げた。このビーカーに沸騰水を注ぎ、繊維長をカメラでモニターした(図14b〜e)。繊維を約20秒間、熱蒸気に晒した後に有意な伸長が見られた。総伸長は、当初の繊維長の約35%を超えた。蒸気により生じた湿気を取り除いた後、繊維は、その初期長である約93mmにほぼ完全に収縮した。
【0085】
小収縮サイクルの研究のために、専用設計および専用組立の加湿チャンバーを作製した。1/8''アクリルを用いて、24 x 24 x 24立法インチのチャンバーを作製した。図15に示される、室内周囲相対湿度(44%付近)から約95%までの内部湿度を発生させる能力を有するKaz Model V5100NS Ultrasonic Humidifierをチャンバー内に設置した。この加湿器は加湿ミストを発生させるのに超音波エネルギーを使用するので、チャンバー温度は周囲温度(試験日で26℃付近)から感知できるほど変化しない。Lufft C200携帯型湿度/温度測定デバイスを使用してチャンバーの状態をモニターした。本実験では、延伸したegel繊維(急冷した繊維)の端部に研究用テープで33mgの重しを付けて、チャンバー上部から吊り下げた。図16aに見られるように、初期繊維長は約15cmであった。チャンバーを閉じ、超音波加湿器を稼働させた。約2分の間に、チャンバー内の相対湿度は周囲湿度(44%付近)から約95%に上昇した。図16bに示されるように(分かりやすくするために水平線が書き加えられている)、湿度を約95%に上昇させると、延伸したegel繊維は、約1.2cm伸長し、これは当初の長さから約8%の増加にあたる。超音波加湿器を停止し、チャンバーの前面パネルを開けた後、湿度は周囲温度まで低下した。湿度の低下の間に、抽出したegel繊維はほぼ当初の長さまで収縮した。全湿度サイクルに4分間の期間を費やした。チャンバー温度は約26℃でほぼ安定していた。図17に示されるように、伸長/収縮サイクルは全体としては50%の相対湿度変化にわたって起こったが、動きの大部分は82%〜95%の間の湿度範囲で見られたことに注目されたい。
【0086】
実施例12. 小収縮サイクルに関する追加実験
実施例11に記載の専用設計の加湿チャンバーを使用し、2本の繊維の収縮挙動を比較した。両方の繊維は、高温のegel(急冷なし)から延伸した同じ原繊維から切り取った。長さの測定を補助するために、約7.8mm長のサンプルの端部に無視できる重量のテープ小片を貼り付けた。第二の、16.5mm長の延伸したegel繊維には、33mgのテープ片を貼り付けた。湿度は約50%の相対湿度から約95%まで循環させたが、図18には乾燥サイクルのみが示されている。湿度を低下させると、繊維の長さは収縮した。表1に示されるように、各繊維の収縮の増分量は、初期長が異なるにもかかわらず、これらの繊維間で非常に近かった。事前にサイクルに供した繊維の%収縮増分は、延伸したegelの原繊維のそれよりもずっと大きかった。
【0087】
(表1)延伸egelの原繊維と事前に湿度サイクルに供した延伸繊維の間の繊維収縮挙動の比較
【0088】
実施例13. 延伸したegel繊維の引張試験
いくつかの延伸egel繊維および繭繊維に対して引張試験を行い、最大引張応力を比較した。Instron 3366引張フレームを10Nロードセルと共に使用した。試験は、0.02インチ/分の伸張速度による伸張制御下で実施した。繊維サンプルは、瞬間接着剤により厚紙のタブに貼り付けた。この厚紙タブを、図19に示されるように、空気圧グリップを用いて機械に固定した。繊維径の測定はこれらの引張試験における難題であった。それらはVernierカリパーを用いて測定したが、これは繊維のような小スケールのものに対しては精度が低い。繊維径の測定には顕微鏡も使用することができる。図20は、試験した5本の繊維:(1)(超音波加湿器による)湿度サイクルに供された延伸egel繊維;(2)カイコ繭の原体から引き抜いた繭繊維;(3)#1と同じサイクルに供した繊維由来の別の延伸egel繊維;(4)湿度サイクルに供さなかった延伸egelの原繊維;および(5)実施例11と同様の(沸騰水を用いて行った)熱蒸気サイクルに供した延伸egel繊維、の荷重・伸張の生データを示している。
【0089】
結果は、egel繊維がすべて、繭繊維よりも有意に堅固であることを示した。超音波加湿器による湿度サイクルに供した繊維は、他の2本の延伸egelサンプルとは異なる特有の荷重・伸張反応を示した:すべてのegel繊維は、急勾配で始まる線形的な弾性応答を示し、一方サイクルに供した繊維はピーク荷重に達した後に有意な塑性ひずみを示した。シルクegel原繊維および熱蒸気によるサイクルに供された繊維は両方とも、それらのピーク荷重に達した後、突発的に損なわれた。表2は、試験した各繊維の直径およびピーク引張応力を示す。概して、繊維が小さいほど、引張強度は高くなる。これは、繭シルクおよび再生シルクフィブロイン繊維の両方に関して発表されている結果と符合しており、繊維径の縮小化に伴いより高度に整列したことが原因と考えられる。熱蒸気による湿度サイクルに供された延伸egel繊維は、飛び抜けて、最も強靭であった。それは繭繊維よりもずっと高い強度を示した。
【0090】
(表2)延伸したegel繊維間の最大引張応力の比較
【0091】
実施例14. 延伸したシルクegel繊維の画像
図21aに示されるように、個々の繊維の画像をデジタルカメラおよび立体顕微鏡を用いてキャプチャした。図21bは、3本の延伸egel繊維:超音波加湿器による湿度サイクルに供された繊維;延伸egel原繊維;および延伸前に氷槽中での急冷に供した繊維、の画像を示す。すべての繊維を手作業で延伸したため、繊維径が様々であり、かつ枝分かれ部または凸部が繊維上に残留している。すべての繊維は透明であることが観察され、したがってそれらを通じて光を伝送することができる。
【0092】
実施例15. 延伸したシルクegel繊維のSEM画像
図22に示されるように、いくつかの延伸egel繊維のSEM画像を撮影した。全体的に見て、繊維は、2つの別個の特徴と共に、非常に滑らかな表面を有していた。両方の図に見られるように、繊維は、あたかも2本の繊維が一組になったように折り重ねられているようであることが観察された。それは1本の繊維であるが、乾燥速度または延伸の不安定性がこの興味深い折り重なりの特徴をもたらしているものと考えられる。図22aに示されるように、繊維はいくつかの微小クラックを有していることが観察され、このことは何らかの損傷を被ったことを示唆しており、それは繊維を小さな曲げ半径で屈曲させたときであると考えられる。急冷工程から得られた肯定的な結果は、脆弱性の低い繊維を製造できることを示しており、これは微小クラックの形成を防ぎ、強度を高めると考えられる。これはまた、より小さな半径での繊維の屈曲を可能にするものである。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年9月28日出願の米国仮出願第61/246,323号の優先権の恩典を主張し、その内容全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0002】
政府の支援
本発明は、National Institutes of Healthから授与されたEB002520の下で、U.S. Air Forceから授与されたFA9550-07-1-0079の下で、およびU.S. Army Research, Development and Engineering Command Acquisition Centerから授与されたW911SR-08-C-0012の下で、政府の支援を受けてなされたものである。米国政府は本発明において一定の権利を有している。
【0003】
発明の分野
本発明は、egelシルクフィブロイン繊維を延伸するための組成物および方法を提供する。得られた繊維は光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。さらに、本発明のシルク繊維は、織物、医療用縫合材料および組織材料等の材料として、ならびにこれらの材料に光学特性を付与するのに使用することができる。
【背景技術】
【0004】
背景
光ファイバーは、典型的には、毛髪ほどの細さの軟性のガラス棒であり、光またはその他のデータを伝送する「ワイヤー」として利用される。簡単に言うと、それらは内側の光を外に漏らさず完全に反射することによって機能する。合成ポリマー製の光ファイバーは、典型的には、粘性の液体を紡糸口金とよばれる小さな穴を通じて押し出すことによって形成される。粘性の液体は連続的なフィラメントになり、これは押出後プロセシングを用いてさらに固化することができる。
【0005】
光ファイバーの最も有用な特徴の一つは、それらがヒトの体内の極小の通路および到達困難な領域に侵入できるということである。ファイバー光学は、医療分野に、特に外科手術に関して多大な貢献をしている。これは、極細の繊維束の端部を切断および加工してファイバースコープを形成することによって達成された。光は損傷部位に送られ、医師が見たいと望む領域で反射し、そして受信器に戻される。その後、分析のために画像が拡大される。光ファイバーには軟性があるため、それらを胃、心臓、血管および関節部のような領域にあるヒト体内の湾曲部に沿ってナビゲートすることができる。現在では、関節外科手術のように、光ファイバーに取り付けた機器を用いて外科手術を行うことさえ可能となっている。心臓外科手術においては、このデリケートな器官の機能を妨げることなく手術を行えることから、ファイバー光学は特に重要となっている。
【0006】
ガラスまたは合成繊維の望ましい代替品は、生分解性、生体適合性であり、再生可能な供給源から比較的簡単な技術および水相系操作により製造され、光を伝送することができ、かつ従来同様の繊維として、織物、医療用縫合材料、移植可能な組織材料を編むことができ、それによってこれらの材料に光学特性を付与することができる、天然ポリマー繊維であろう。
【発明の概要】
【0007】
要旨
シルクの電気ゲル化(electrogelation; egel)は、シルクフィブロインタンパク質の処理方式である。簡単に言うと、egelプロセスは、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加することによって、シルク溶液のランダムコイル構造を準安定なシルクI構造に転換させる。得られるゲル様物質は、粘膜付着性(muco-adhesive qualities)、ならびにランダムコイル構造への復帰およびβシート構造へのさらなる高次化を含む他の構造にさらに転換される能力を含む、多くの興味深い特性を有する。
【0008】
本発明によるシルク繊維は、高温炉および従来システムの大量消費を必要とせずに製造され得る。本発明によるシルク繊維は、ベース材料としてシルクフィブロインゲルを使用して、改善された機械的特性、例えば剪断強度を有する繊維を生成する。
【0009】
さらに、本発明によるシルク繊維は、生体適合性、生分解性かつ移植可能である。本発明の方法により製造されるシルク繊維は透明であり、光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。これにより、このシルク繊維は、インビボで健康状態をモニターするのに使用され得てもよく、または疾患の経過、処置の効果および組織の成長をモニターしそれらに関する情報を伝送する検知システムの一部として移植されてもよい。本発明によるシルクフィブロインゲルは、さまざまな光ファイバーおよび伝送媒体デバイスのコーティングとして使用され得る。
【0010】
さらに、本発明のシルク繊維は、織物ベースの部品または構造物、例えばマット、編み糸および布地に組み込むことができ、このシルク繊維の光伝送特性により、センサーデータおよび計算データをそれらの構造物を通って伝搬するスマート構造またはスマート強化材料を提供することができる。一つのこのような用途は、従来的な配線を必要とせずにセンサーデータを体壁を通じて伝送する、シルク光ファイバーを含む軟体ロボットであろう。シルク光ファイバーは、センサー、例えば生物力学的用途においては湾曲(例えば脊椎)の測定におけるセンサー、または構造物もしくは建築物の変形(例えば通常のもしくは荒れた天候下のまたは異常な荷重、例えば地震による荷重を受けた橋梁もしくは建築物)の測定におけるセンサーとして使用することができる。
【0011】
シルクegel繊維を製造する方法は、電気ゲル化プロセス、例えば可溶化シルク溶液に沈めた白金電極への電場(例えば、25 VDC)の印加を含む。適当な時間(例えば10分間)電場を印加した後、ゲル様材料が陽極上に形成され、これは準安定シルクI構造を高いレベルで有する。このシルクゲルを加熱した水槽に入れると、ゲルは剥離して非常に粘性の高い液体となって、水槽の底に滞留する。次にこの粘性の流体を水槽から延伸することで、特有の機械的特性および調整可能な断面積を有する長い繊維が形成される。剥離させたゲルを室温周囲環境で延伸する前にゼロ度以下の温度の水(塩およびかち割り氷を含む水)の中で急冷した場合、延伸した繊維はより頑丈になり得る。さらに、この繊維の加湿環境下での挙動は、クモのシルクに関して報告されている伸長/収縮反応に匹敵する。重要なことは、延伸されたegel繊維は光を伝送するということである。
【0012】
シルクegel繊維の延伸は、強固な機械的特性を有するシルク繊維を生成する。特性およびサイズをカスタマイズできる繊維を人工的に生成する能力により、多くの用途が提供される。例えば、伝統的なシルク繊維の巻き取りを必要とせずに、シルクフィブロイン溶液から全シルク複合材料を構築することができる。
【0013】
さらに、延伸されたシルク繊維は、十分に水和された場合に超収縮を示す。さらに、この繊維は、湿度サイクル下で可逆的な伸縮を示す。したがって、シルク繊維は、人工筋肉を作製するための筋繊維模倣物として、小型および/もしくは生体模倣ロボットのアクチュエーターとして、または薬物放出等のその他の用途に有用であり得る。
【0014】
さらに、延伸された繊維は光を伝送するので、それらにはシルク光ファイバーとしての多くの潜在的用途がある。例えば、この繊維はインビボで健康状態をモニターするのに使用することができ、治癒をモニターするための検知システムの一部として移植することができ、または組織の内部進入およびスキャホールドの分解に関する情報を中継するために組織工学的構築物に組み込むことができる。伝統的な光ファイバー用途では、シルク繊維は、長距離または短距離コミュニケーションに、照明に、またはレーザーベースの用途に使用することができる。シルクは生分解性なので、この光ファイバーは最終的には体内で分解し吸収される。
【0015】
次に、一つの局面において、本明細書にはシルク繊維を生成する方法を記載し、本方法は、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加しシルクフィブロインゲルを生成する工程;シルクフィブロインゲルを水中で急冷し粘性のシルク液を生成する工程;および粘性のシルク液からシルクフィブロインゲルを延伸しシルク繊維を生成する工程を含む。一つの態様において、水は0℃またはそれ未満の温度を有する。別の態様において、水は両端値を含む40℃〜80℃の範囲の温度を有する。
【0016】
別の態様において、シルクの延伸は、両端値を含む10℃〜40℃の範囲内の温度で行う。
【0017】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を乾燥する工程を含む。
【0018】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を収縮させる工程を含む。一つの態様において、シルク繊維を収縮させる工程は、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む。
【0019】
別の態様において、本方法はさらに、シルク繊維を膨張させる工程を含む。一つの態様において、シルク繊維を膨張させる工程は、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む。
【0020】
別の態様において、シルク繊維はメタノール処置により処理され、水不溶性のシルク繊維が生成される。
【0021】
別の態様において、本方法はさらに、複数のシルク光ファイバーをラップする工程を含む。
【0022】
別の態様において、シルク繊維は光ファイバーである。
【0023】
別の態様において、本方法はさらに、シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程を含む。
【0024】
別の態様において、本方法はさらに、シルク光ファイバーにより、光源からの入射光を受信する工程を含む。
【0025】
別の態様において、シルク光ファイバーは導波管である。
【0026】
別の態様において、シルク光ファイバーはシングルモードファイバーである。別の態様において、シルク光ファイバーはマルチモードファイバーである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1A〜1Dは、電気ゲル化したシルク(egel)を60℃〜75℃の水中に(1A)5秒間;(1B)15秒間;(1C)25秒間;および(1D)35秒間沈めた効果を示す低速連続図を表示する一連の写真を示す。
【図2】図2は、60℃〜75℃の水中でのシルクegel「構造物」の形成を示す写真である。
【図3】図3A〜3Dは、60℃〜70℃の水槽からのegelの繊維延伸を示す一連の低速写真を示す。
【図4】図4A〜4Cは、(4A)加熱前;(4B)ヒートガンを用いた場合;および(4C)約60℃まで加熱した後の、シルクegelを示す。
【図5】図5A〜5Cは、(5A)加熱前;(5B)冷却用水槽中の;および(5C)シリンジからの押し出し後の、シルクegelを示す。
【図6】図6A〜6Bは、氷槽で急冷した加熱シルクegelを示す:(6A)最初の急冷後;および(6B)約1分後。
【図7】図7A〜7Bは、延伸したシルクegel繊維の光伝搬能力の調査のための専用固定具を示す:(7A)全体像;および(7B)繊維ホルダーの拡大図。
【図8】図8A〜8Bは、延伸したシルクegel繊維の光伝送能力を実証する画像を示す:(8A)延伸したシルクegel繊維の端部からの光の投影;および(8B)屈曲させた繊維が明るく輝いている様子。
【図9】図9A〜9Cは、(9A)最初のegel形成;(9B)5分間の電気ゲル化後;ならびに(9C)電源、egelチューブの構成、温度記録用のIR温度計およびホットプレートの全体像の図を示す。
【図10】図10A〜10Cは、氷水槽からのegelシルク繊維の延伸を示す:(10A)加熱したegelの氷槽中での急冷;(10B)浴槽から(絶縁ワイヤーを用いて)延伸した直後のegelシルク繊維;および(10C)ある程度風乾した後の延伸したegelシルク繊維。
【図11】図11は、氷水槽から延伸し周囲空気中で乾燥させた典型的なegelシルク繊維の立体顕微鏡画像である。枝分かれ部間の直径は約100μmである。
【図12】図12は、約60℃の水中に沈めたegelシルクフィブロインの低速写真を示す。約5分間の期間をかけて、ゲル中のシルク構造物は水成分から分離し、ビーカー底のプールに落ちていくことが観察される。
【図13】図13A〜13Eは、加熱槽から延伸したegelシルク繊維を示す:(13A〜13B)シルクプール内で絶縁ワイヤーをゆっくり移動させている様子;(13C〜13D)浴槽からすばやく延伸された繊維。
【図14】図14A〜14Eは、重しをつけた延伸シルクegel繊維の低速写真である:(14A)133mgの重しをつけた、周囲湿度下の繊維;および(14B〜14E)20秒間蒸気に晒した後の繊維の伸長。
【図15】図15は、例示の加湿チャンバーを示しており、Kaz Ultrasonic Humidifier(右)、Lufft湿度/温度デバイス(中央)およびメートル定規と並べて吊り下げられた延伸egel繊維(左)が示されている。
【図16】図16A〜16Cは、乾燥湿度に晒された延伸シルクegel繊維を示す:(16A)44.5%の周囲湿度下での、貼り付けられた33mgの重しによる約15cmの初期繊維長;(16B)94.6%の湿度下;および(16C)47.8%の湿度まで除湿した後。
【図17】図17A〜17Bは、延伸されたシルクegel繊維の長さの変化を示す:(17A)81.7%の湿度から(17B)94.6%の湿度まで。
【図18】図18A〜18Dは、(18A)99.7%;(18B)86.3%;(18C)71.8%;および(18D)62.4%の相対湿度レベルにおける延伸egelシルク繊維の収縮の比較を表す。
【図19】図19は、引張試験のために、厚紙に貼り付けた繊維をInstron空気圧グリップに設置した様子を示す。
【図20】図20は、いくつかの延伸されたシルクegel繊維間での、荷重・伸張反応の比較を示すグラフである。
【図21】図21A〜21Bは、個別の条件下で製造された3つの延伸egel繊維の立体顕微鏡画像である(1mmスケールバー)。
【図22】図22A〜22Bは、(22A)1560x;および(22B)1960xの倍率の、延伸されたegel繊維の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
詳細な説明
合成ポリマー繊維は、典型的には、粘性の液体を紡糸口金とよばれる小さな穴を通じて押し出すことによって形成される。粘性の液体は連続的なフィラメントとなり、これを押出後プロセシングを用いてさらに固化することができる。湿式、乾式、溶融およびゲル紡糸を含む、4つの紡糸法が知られている。湿式紡糸は、溶媒に溶解する材料に対して使用される。フィラメントは、沈降液として作用する化学浴槽の中に沈められた紡糸口金を通じて延伸される。乾式紡糸もまた、溶液中の材料に対して用いられる。しかし、固化は、溶媒をガス(例えば空気)による蒸発により除去することによって行われる。溶融紡糸は、溶融させた材料を紡糸口金を通じて押し出し、冷却により固化させることを含む。ゲル紡糸は、本明細書に記載される実験に最も近いプロセスであり、これは真の溶液ではない材料に対して用いられ;ポリマー鎖が液晶形態で相互に結合される。鎖間力の発生および押し出し時の剪断力による液晶の配列により、生成されるフィラメントは、高い程度の配列性および大きく改善した引張強度を得ることができる。
【0029】
光ファイバーは、光源からの光信号を、例えばそのシグナルの光学受信器に伝搬する伝送媒体である。光ファイバーおよび繊維光学ケーブルは、音声、映像およびデータ信号等の信号を伝送するのに使用され得る。電話またはデータモデム等のコミュニケーション信号源からのデータ信号は、光波に変調され、光ファイバーを通じて光学受信器に送信される。データ信号はその後、受信器において復調プロセスを用いて回収される。
【0030】
従来の光ファイバーは、シリカベースの光ファイバーを保護するためおよびそれらの光学性能を維持するために、保護的被覆を必要とする。繊維光学ケーブルは、満足のいく光学性能を確保するために、外力、例えば張力からならびにマクロベンドおよびマイクロベンドから保護されなければならない。繊維光学ケーブルおよびそれらの光ファイバーは、生来的に信号減衰特性を有している。光ファイバーを通じて伝送された信号は、それらの移動に伴い減衰し、光源からある程度の距離のところで信号は増幅が必要となるほど低レベルに達する。
【0031】
従来のガラス光ファイバーは、典型的には、粉末シリカを溶融するるつぼ法かまたは蒸着プロセスのいずれかにより作製される。るつぼ法は、多くの光波信号の短距離伝送に適した直径の大きなマルチモードファイバーを製造するのに使用され得る。蒸着プロセスは、コアおよびクラッド材の中実円柱体を作製するのに使用され得、これはその後、より長距離のコミュニケーション用のより細い光ファイバーとなるよう加熱および延伸される。
【0032】
シルクフィブロインフィルムおよびその他の構造物の光学的な能力は、例えば、WO 2008/118211, Biopolymer Photonic Crystal & Method of Manufacturing the Same; WO 2008/127401, Biopolymer Optical Waveguide & Method of Manufacturing the Same;およびWO 2008/140562, Electoreactive Biopolymer Optical & Electro-Optical Devices & Methods of Manufacturing the Sameにおいて調査されている。
【0033】
シルクの電気ゲル化(egel)は、シルクフィブロインタンパク質の処理方式である。簡単に言うと、egelプロセスは、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場(直流電流または交流電流のいずれか、DCまたはACとも称される)を印加することによって、シルクタンパク質のランダムコイル構造を準安定なシルクI構造に転換させる。電場は、電源、例えばDCまたはAC電源の使用を通じて印加することができる。直流電流は、バッテリー、熱電対、太陽電池等のような供給源により生成される。他方、交流(AC)電流は、一般的な業務および家庭用動力源であり、これも電気ゲル化プロセスを誘導するのに使用され得るが、そのゲル形成は直流電流電圧により誘導されるゲル化プロセスほど速くないかもしれない。シルク溶液に電場を印加する他の方法、例えば電流源、アンテナ、レーザーおよびその他の発電機も使用され得る。得られるゲル様物質は非常に粘着性であり、粘度が高く、粘液様の稠度を有し、かつ粘膜付着性ならびにランダムコイル構造への復帰およびβシート構造へのさらなる高次化を含む他の構造にさらに転換される能力を含む、多くの興味深い特性を有する。電気ゲル化法、電気ゲル化プロセスに使用される関連パラメーターおよび電気ゲル化プロセス中のシルクフィブロインの構造変化については、WO/2010/036992, Active silk muco-adhesives, silk electrogelation process, and devicesにおいて見いだすことができ、この文献の全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「シルクフィブロイン」は、カイコのフィブロインおよびその他の昆虫またはクモのシルクタンパク質を包含する(Lucas et al., 13 Adv. Protein Chem. 107-242 (1958))。シルクフィブロインは、カイコシルクまたはクモシルク溶解物を含有する溶液から採取することができる。カイコシルクフィブロインは、例えばカイコガ(Bombyx mori)の繭から採取され、クモシルクフィブロインは、例えばアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)から採取される。あるいは、本発明において使用するのに適したシルクフィブロインは、細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物から収集した遺伝子操作されたシルクを含有する溶液から採取することができる。例えば、WO 97/08315および米国特許第5,245,012号を参照のこと。
【0035】
シルクフィブロイン水溶液は、当技術分野で公知の技術を用いてカイコ繭から調製され得る。シルクフィブロイン溶液を調製する適当なプロセスは、例えば、米国特許出願第11/247,358号、WO/2005/012606およびWO/2008/127401に開示されている。シルクフィブロイン水溶液の濃度は、希釈により下げることができ、または、低濃度のシルクフィブロイン溶液を吸湿性ポリマー、例えばPEG、ポリエチレンオキシド、アミロースまたはセリシンに対して透析することによって上げることができる。例えば、WO 2005/012606を参照のこと。場合により、得られるシルク溶液はさらに、残留する微粒子を除去するため、および混入物質が最小限であり散乱が小さい光学用途用のシルクフィブロイン溶液を達成するため、例えば遠心分離または精密ろ過を通じて処理され得る。
【0036】
本明細書に記載される態様は、シルクegel繊維の延伸プロセスを提供する。いくつかの実施例は、シルクegel繊維の延伸の代替製造方針を提供するために実施した実験について記載している。これらの実験の結果は、一定範囲の断面積および潜在的に優れた機械的特性を有する繊維を生成する可能性を示している。このプロセスは水性ベースであり、準備が容易であり、かつ実験台の上で実施される。生成された繊維は長く、プロセスは連続的でありかつ自動化できる。幅広い範囲の直径で製造できることが観察されている。乾燥させた繊維の溶解性は、水不溶性構造を生成する事後的処置により変化させることができる。例えば、シルク繊維のアルコール処置(例えば、メタノール処置)または水中アニーリング処置は、連続処理アプローチの一部として加えることができ、それによって水不溶性のシルク繊維を提供することができる。極小の断面積となるよう繊維径を誘導する能力は、分子鎖を繊維軸に沿って配列させることを通じて強度を付与し得る。さらに、水中紡糸口金の使用は、この補強効果に寄与し得る。egelの使用は、天然のカイコシルク繊維の機械的性能に匹敵する繊維を生成する鍵である。さらに、電気ゲル化によって達成されるシルク構造は、紡糸口金を通じて押し出す前は、カイコおよびクモの生体の分泌腺に存在する前駆体ゲル相に相当するものであり得る。
【0037】
この繊維延伸プロセスは、天然のプロセスを模倣するものであり、再生シルクを用いるその他すべての繊維形成プロセスに優る結果をもたらし得る。例えば、Zhou et al., Silk Fibers Extruded Artificially from Aqueous Solutions of Regenerated Bombyx mori Silk Fibroin are Tougher than their Natural Counterparts, 21 Adv. Mats. 366-70 (2009)を参照のこと。実際、延伸されるegelシルク繊維は非常に強靭であり得、本明細書に教示される技術により作製される最小径の繊維は繭繊維よりも高い強度を示す。
【0038】
本発明の方法により作製されるシルク繊維は完全に透明であり、光、例えばレーザー光を伝送することができ、したがって光ファイバーとして使用することができる。
【0039】
したがって本発明の態様は、シルク繊維を形成する方法を提供し、本方法は、可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加する工程、印加した電場に基づき可溶化シルクフィブロイン溶液をシルクゲルに転換する工程、シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する(例えば、シルクゲルを水で急冷して粘性のシルク液を生成する)工程、およびシルク液から延伸してシルク繊維を形成する工程を含む。場合により、シルクフィブロインゲルは、急冷工程前に加熱され得、シルクフィブロインゲルは、急冷工程において使用される水の温度よりも高い温度に加熱され得る。例えば、シルクフィブロインゲルは約60℃に加熱され得、氷水槽中で急冷され得る(水槽の温度は60℃未満、例えば約0℃である)。延伸は、0℃またはそれ未満の、40℃〜80℃の範囲の、または10℃〜40℃の範囲内の温度を有する水中で実施され得る。この方法はさらに、シルク繊維を乾燥する工程を含み得る。乾燥させたシルク繊維は完全に透明であり、レーザー光の伝送を示す。
【0040】
シルク繊維はまた、例えば、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させることにより収縮させてもよく、または、例えば、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させることにより膨張させてもよい。さらに、シルク繊維は、例えば、メタノール処置によりさらに処理され、水不溶性シルク繊維が生成され得る。
【0041】
一つの態様において、シルク繊維は光ファイバーとして使用される。本方法はまた、シルク光ファイバーまたは複数のシルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含み得る。
【0042】
さらに、本発明のシルク光ファイバーは、光源からの入射光を受信し得、かつ導波管、マルチモードファイバーまたはシングルモードファイバーとして利用され得る。複数のシルク光ファイバーは、当技術分野で周知の技術によりラップされ、繊維光学ケーブルとされ得る。
【0043】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、シルクまたはその他の材料から製造された、天然または合成性の他のタイプの繊維でラップされ、繊維束または繊維複合材とされ得る。例えば、繊維複合材は、一つまたは複数の本発明のシルク繊維と一つまたは複数の天然のカイコフィブロイン繊維の組み合わせからシルク繊維ベースのマトリクスを形成するよう作製され得る。シルク中の免疫原性成分(例えばセリシン)は、そのようなシルク繊維ベースのマトリクスが移植用材料として使用される場合、天然のシルク繊維から除去され得る。これらのシルク繊維ベースのマトリクスは、適合レシピエントへの外科的移植用、例えば損傷組織の置換または修復用の組織材料を製造するのに使用され得る。製造できる組織材料のいくつかの非限定的な例には、靭帯または腱、例えば肘および膝の前十字靭帯、後十字靭帯、回旋腱板、内側側副靭帯、手の屈筋腱、足首の外側靭帯ならびに顎または顎関節の腱および靭帯;軟骨(関節および半月板の両方)、骨、筋肉、皮膚ならびに血管が含まれる。シルク繊維ベースのマトリクスまたはシルク繊維を含むシルク複合材を用いて組織材料または医療デバイスを作製する方法は、例えば、米国特許第6,902,932号, Helically organized silk fibroin fiber bundles for matrices in tissue engineering;同第6,287,340号, Bioengineered anterior cruciate ligament;米国特許出願公開第2002/0062151号, Bioengineered anterior cruciate ligament;同第2004/0224406号, Immunoneutral silk-fiber-based medical devices;同第2005/0089552号, Silk fibroin fiber bundles for matrices in tissue engineering;同第20080300683号, Prosthetic device and method of manufacturing the same;同第2004/0219659号, Multi-dimensional strain bioreactor;同第2010/0209405号, Sericine extracted silkworm fibroin fibersにおいて見いだされ得、これらの文献の全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0044】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、巻線、撚糸、平打編組(flat braiding)、製織、開繊、かぎ針編み、ボンディング、管状編組(tubular braiding)、メリヤス編、結糸およびフェルト(すなわち、マット、コンデンスまたはプレス)機を含む、伝統的な織物製造機を用いて織物(例えば編み糸、布地)および織物ベースの構造物に組み込まれ得る。このような織物は、多くの公知の複合材製造プロセスを通じて複合材料および構造物に組み込むことができる。
【0045】
本発明の方法により製造されるシルク繊維は、全シルク複合材を形成するよう、他の形態のシルク材料、例えば、シルクフィルム(WO2007/016524)、コーティング(WO2005/000483; WO2005/123114)、マイクロスフィア(PCT/US2007/020789)、レイヤー、ヒドロゲル(WO2005/012606; PCT/US08/65076)、マット、メッシュ、スポンジ(WO2004/062697)、3Dソリッドブロック(WO2003/056297)等と組み合わせてもよい。シルク複合材料は、シルク繊維により補強することができ、かつシルク光ファイバーの光学特性をその複合材に導入することができる。例えば、シルク繊維をシルクフィブロイン溶液に晒し、本発明のシルク繊維を含有するシルクフィブロイン溶液を乾燥または固化させることによりシルク複合材を形成することで、一次元、二次元または三次元シルク複合材が調製され得る。異なる固化プロセスおよびシルクフィブロイン溶液を異なる形式のシルク材料に処理するための追加のアプローチを使用することができる。例えば、WO/2005/012606; WO/2008/150861; WO/2006/042287; WO/2007/016524; WO 03/004254, WO 03/022319; WO 04/000915を参照のこと。
【0046】
さらに、本発明の方法により製造されるシルク繊維は、一つまたは複数の他の天然または合成、生体適合性または非生体適合性のポリマーと組み合わせることができ、かつ、異なる材料形式、例えば、繊維、フィルム、コーティング、レイヤー、ゲル、マット、メッシュ、ヒドロゲル、スポンジ、3Dスキャホールド等を含む複合材に組み込むことができる。非限定的な生体適合性ポリマーには、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、コラーゲン(天然、再処理または遺伝子操作バージョン)、多糖(天然、再処理または遺伝子操作バージョン、例えばヒアルロン酸、アルギネート、キサンタン、ペクチン、キトサン、キチン等)、エラスチン(天然、再処理または遺伝子操作および化学合成バージョン)、アガロース、ポリヒドロキシアルカノエート、プラン(pullan)、デンプン(アミロースアミロペクチン)、セルロース、コットン、ゼラチン、フィブロネクチン、ケラチン、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、アルギネート、キトサン、キチン、ポリラクチド、ポリグリコール、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、タンパク質、分解性ポリウレタン、多糖、ポリシアノアクリレート、グリコサミノグリカン(例えば、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等)等が含まれる。例示的な非生分解性ポリマーには、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンおよびニトロセルロース材料が含まれる。シルク繊維を複合材に組み込む場合、これらの上記のポリマーの一つまたは複数と組み合わすことができる。例えば、米国特許第6,902,932号;米国出願公開第2004/0224406号;同第2005/0089552号;同第2010/0209405号も参照のこと。
【0047】
本発明のシルク繊維を含有する複合材料の形状および特性は、個々の用途に合わせることができる。例えば、単繊維層は、非常に頑丈で柔軟であることが示されている。優れた圧縮、引張、曲げおよびねじり特性を示し得る非常に硬い棒状または管状構築物を製造するのには、円筒形マンドレルを使用することができる。特定用途の波状または高度に湾曲した形状も製造することが可能である。
【0048】
合成材料は、一般に、機械的強度、間隙率、分解性等のマトリクス特性を強化し、かつ、医療用縫合材料または移植可能な組織材料として使用する場合は、細胞の播種、増殖、分化または組織発生も強化する。
【0049】
シルク繊維中のシルクフィブロインはまた、溶液中の活性作用物質により、例えば、ジアゾニウムまたはカルボジイミドカップリング反応、アビジン・ビオチン相互作用または遺伝子修飾等を通じて、シルクタンパク質の物理的特性および機能性を変化させるよう化学的修飾され得る。例えば、PCT/US09/64673; PCT/US10/42502; PCT/US2010/41615; 米国特許出願第12/192,588号を参照のこと。
【0050】
本発明のシルク繊維は、少なくとも一つの活性作用物質を含み得る。作用物質は、繊維中に埋め込まれるかまたは繊維表面に固定され得る。活性作用物質は、治療用作用物質または生物学的材料、例えば、化学薬品、細胞(幹細胞を含む)または組織、タンパク質、ペプチド、核酸(例えばDNA、RNA、siRNA)、核酸アナログ、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、抗体またはそのフラグメントもしくは一部分(例えばパラトープもしくは相補性決定領域)、抗原またはエピトープ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、細胞接着メディエーター(例えばRGD)、成長因子または組み換え成長因子ならびにそれらのフラグメントおよび変異体、サイトカイン、酵素、抗酸化物質、抗生物質または抗菌化合物、抗炎症剤、抗真菌剤、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、薬物、色素、アミノ酸、ビタミン、化学療法剤、低分子ならびにそれらの組み合わせであり得る。作用物質はまた、上記の活性作用物質の任意の組み合わせであり得る。
【0051】
本発明における使用に適した例示の抗生物質には、アミノグリコシド(例えばネオマイシン)、アンサマイシン、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン(例えばセファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフジトレン、セフトビプロール)、糖ペプチド(例えばバンコマイシン)、マクロライド(例えばエリスロマイシン、アジスロマイシン)、モノバクタム、ペニシリン(例えばアモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)、ポリペプチド(例えばバシトラシン、ポリミキシンB)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、オフロキサシン等)、スルホンアミド(例えばスルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コ・トリモキサゾール))、テトラサイクリン(例えばドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン等)、クロラムフェニコール、リンコマイシン、クリンダマイシン、エタムブトール、ムピロシン、メトロニダゾール、ピラジンアミド、チアンフェニコール、リファンピシン、チアンフェニコール、ダプソン、クロファジミン、キヌプリスチン、メトロニダゾール、リネゾリド、イソニアジド、ホスホマイシンまたはフシジン酸が含まれるがこれらに限定されない。
【0052】
本発明における使用に適した例示の細胞には、始原細胞または幹細胞(例えば骨髄間質細胞)、靭帯細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチン生成細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺、副甲状腺、副腎、視床下部、下垂体、卵巣、精巣、唾液腺細胞、脂肪細胞および前駆細胞が含まれ得るがこれらに限定されない。
【0053】
例示の抗体には、アブシキマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブ ペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブ チウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、アルツモマブペンテト酸塩、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレソマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、カプロマブ ペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ、ゲムツズマブ オゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ、イムシロマブ、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブ メルペンタン、オレゴボマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ロベリズマブ、ルプリズマブ、スレソマブ、タカツズマブ テトラキセタン、テフィバズマブ、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビジリズマブ、ボツムマブ、ザルツムマブおよびザノリムマブが含まれるがこれらに限定されない。
【0054】
本発明における使用に適した例示の酵素には、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼ等が含まれるがこれらに限定されない。
【0055】
本発明において使用される追加の活性作用物質には、細胞成長培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地、ウシ胎児血清、非必須アミノ酸および抗生物質;成長因子および形態形成因子、例えば線維芽細胞成長因子、形質転換成長因子、血管内皮成長因子、上皮成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子、骨形態形成成長因子、骨形態形成様タンパク質、形質転換成長因子、神経成長因子および関連タンパク質(成長因子は当技術分野で公知である、例えば、Rosen & Thies, CELLULAR & MOLECULAR BASIS BONE FORMATION & REPAIR (R.G.Landes Co.)を参照のこと);抗血管新生タンパク質、例えばエンドスタチンおよびその他の天然由来または遺伝子操作タンパク質;多糖、糖タンパク質またはリポタンパク質;抗感染剤、例えば抗生物質および抗ウイルス剤、化学療法剤(すなわち、抗癌剤)、抗拒絶剤、鎮痛剤および鎮痛剤混合薬、抗炎症剤ならびにステロイドが含まれる。
【0056】
いくつかの態様において、活性作用物質はまた、細菌、真菌、植物もしくは動物、またはウイルスのような生物であり得る。さらに、活性作用物質には、神経伝達物質、ホルモン、細胞内シグナル伝達物質、薬学的活性物質、毒性物質、農薬、化学的毒素、生物学的毒素、微生物ならびに動物細胞、例えばニューロン、肝細胞および免疫系細胞が含まれ得る。活性作用物質には、治療用化合物、例えば薬理学的物質、ビタミン、鎮静剤、睡眠剤、プロスタグランジンおよび放射性薬品も含まれ得る。
【0057】
シルクegelから延伸されたシルク光ファイバーのさらなる用途には、フォトメカニカル作動、電気光学ファイバーおよびスマート材料が含まれる。
【0058】
本発明のシルク繊維を、個別にまたは複合材としてのいずれかで、織物、医療用縫合材料または組織材料に使用する場合、織物、医療用縫合材料または組織材料を製造する上記方法において、刺激を組み込むことができる。例えば、化学的刺激、機械的刺激、電気的刺激または電磁的刺激を上記方法に組み込むこともできる。本発明のシルク繊維は光伝送特性を有するので、織物、医療用縫合材料または組織材料に含まれるシルク繊維を使用して、その刺激からであってもまたはその周囲環境(例えば、移植材料として使用される場合は組織、器官、または細胞)から発生する刺激から変換されてもよい光信号を伝送し、かつ織物、縫合材料または組織材料の特性に影響を与えることができる。あるいは、シルク光ファイバーを使用して、適用される媒体、例えば、移植材料として使用される場合は細胞または組織に光信号を伝送し、その細胞または組織の活動を調節してもよい。例えば、細胞の分化は、その周囲環境からの化学的刺激、多くの場合周囲の細胞により産生される刺激、例えば、いくつか列挙すると、分泌された成長因子または分化因子、細胞同士の接触、化学的勾配および特定のpHレベルによる影響を受けることが公知である。いくつかの刺激は、より特定された組織タイプに向けられる(例えば、心筋の電気的刺激)。このような、光信号により直接的または間接的に伝送され得る刺激の適用は、細胞の分化を促進すると考えられる。
【0059】
さらに、シルク光ファイバーをシステムに組み込むことにより、薬物制御送達システムが利用可能となる場合もあり、例えば、薬物の投与および放出が、シルク光ファイバーに与えられた外部刺激を通じて、生理学的要求と完全に一致する様式で制御することができる。
【0060】
物理学においては、屈折と呼ばれる現象が存在し、光は異なる屈折率を有する媒体に侵入したときに「屈曲」する。臨界角と呼ばれる特定の角度があり、この角度では光線は第一の媒体に侵入することができるが、その後第二の媒体へと横断せずにこの二つの媒体の間を移動する。光線が第一の媒体を通過する角度が臨界角より大きい場合、その光線は、二つの媒体間の境界面で完全に反射し第一の媒体に再侵入する内部全反射となる。これは現代の光ファイバーも同じである。本発明の態様のシルク光ファイバーは、図8bに示されるように、屈曲させても光を十分に伝導することができる。
【0061】
本発明のシルクベースの光ファイバーは、例えば、ファイバー光学と強力レンズを組み合わせた内視鏡システムにおいて使用され得る。この医療用デバイスは、対物レンズ、ロッドレンズ、接眼レンズ、光ファイバー、光源、撮影用カメラを含み得る。マイクロカメラが接眼部に装着され、画像がモニターに映し出され得る。内視鏡システムは、画像データをキャプチャし保存する電荷結合素子を使用し得る。例えば、各素子の2Dアレイは、電荷を保存でき、入射光の70%に反応することができる。光源には、タングステンフィラメントランプ、ハロゲンリフレクターランプ、希土類キセノンランプが含まれ、これらは高輝度の光およびトゥルーカラー表示(キセノンの昼光効果)を提供する。典型的な軟性内視鏡は、約15mmの曲げ半径および2本のシルク繊維光学ケーブルを有し、1本は光コンジットであり(インコヒーレント)、もう1本は画像伝送に使用される(コヒーレント)。画像用ファイバーは、平方ミリメートルあたり約10,000ピクセルの画像解像度を有し得る。内視鏡用途には、執刀医のための最適経路(例えば神経外科手術における脳内経路)をシミュレートすることができる外科手術用画像システムが含まれる。頭蓋骨内でのレーザー脳外科手術においては、内視鏡デバイスは、頭蓋骨の8分の1インチの切り込みを通すワイヤーのような糸状のものであり、生検針のように腫瘍に埋め込まれ、そして数秒間の照射が実行される。
【0062】
レーザー外科手術に関してさらに言うと、多くのレーザー繊維光学コンタクト方式の外科手術手順には、非結像系のエッジレイコンセントレーター(edge-ray concentrator)がよく適しており、その場合、最大集光効率で放射照度の大きな増量が必要となり、かつ光を広い角度範囲に均一に照射しなければならない。これらの目的で開発された以前の繊維光学デバイスと比較すると、非結像系設計において送達される放射照度は、最大放射効率で二倍超であり、それでいてランベルト吸収体、すなわち、全脳半球への均一な放射を実現し得る。自動化を含む、egel延伸プロセスのさらなる改良は、本願で提供される開示によってサポートされ、それは、制御可能かつ一貫性のある繊維径の生成を改善し、枝分かれ異常を排除するものであり得る。シルクegel延伸のさらなる最適化および特徴づけ、繊維の品質管理の改善、光伝搬性が改善された繊維の生成ならびに水和による収縮および伸長のさらなる調査は、本発明の範囲内である。
【0063】
本発明の特定の実施態様は非限定的な実施例に記載されている。
【0064】
本発明は、以下の番号付きの項目のいずれか一つに定義されるものであり得る:
1. 可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加してシルクフィブロインゲルを生成する工程、
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程、
粘性のシルク液からシルク繊維を延伸する工程
を含む、シルク繊維を製造する方法。
2. シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、水中でシルクフィブロインゲルを急冷する工程を含む、項目1の方法。
3. 水が0℃またはそれ未満の温度を有する、項目2の方法。
4. 水が40℃〜80℃の範囲の温度を有する、項目2の方法。
5. シルクを延伸する工程が、10℃〜40℃の範囲内の温度で行われる、項目2の方法。
6. シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、急冷工程前にシルクフィブロインゲルを加熱する工程をさらに含む、項目2の方法。
7. シルクフィブロインゲルが、急冷工程で使用される水の温度よりも高い温度に加熱される、項目6の方法。
8. シルク繊維を乾燥させる工程をさらに含む、項目1の方法。
9. シルク繊維を収縮させる工程をさらに含む、項目1の方法。
10. シルク繊維を収縮させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む、項目9の方法。
11. シルク繊維を膨張させる工程をさらに含む、項目1の方法。
12. シルク繊維を膨張させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む、項目11の方法。
13. シルク繊維をアルコール処置または水中アニーリング処置により処理して水不溶性シルク繊維を生成する工程をさらに含む、項目1の方法。
14. 複数のシルク繊維をラップする工程をさらに含む、項目1の方法。
15. シルク繊維の少なくとも一つを少なくとも一つの他の繊維と共にラップする工程をさらに含む、項目1の方法。
16. 前記他の繊維が、少なくとも一つのセリシン抽出処理したシルク天然フィブロイン繊維を含む、項目15の方法。
17. 少なくとも一つのシルク繊維を複合材に組み込む工程をさらに含む、項目1の方法。
18. 複合材が全シルク複合材である、項目17の方法。
19. シルク繊維が光ファイバーである、前記項目のいずれか一つの方法。
20. シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含む、項目19の方法。
21. シルク光ファイバーを通じて光信号を伝送する工程をさらに含む、項目19の方法。
22. 伝送工程が、光源からの入射光をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、項目21の方法。
23. 伝送工程が、シルク光ファイバーの周囲環境からの刺激から変換された光信号をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、項目21の方法。
24. シルク光ファイバーが導波管である、項目19の方法。
25. シルク光ファイバーがマルチモードファイバーである、項目19の方法。
26. シルク光ファイバーがシングルモードファイバーである、項目19の方法。
27. 前記項目のいずれか一つの方法から調製される組成物。
【0065】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬等に限定されるものではなく、それらは変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は特定の態様を描写する目的のみを有し、本発明の範囲を限定することは意図されておらず、それは特許請求の範囲によってのみ定義されるものである。
【0066】
本明細書および特許請求の範囲で使用される単数形は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、複数の参照を包含し、そしてその逆も同様である。実施例を実施する場合またはそうでないことが示されている場合以外では、本明細書で使用されている成分の量および反応条件を表すすべての数値は、すべての例において、用語「約」によって修飾されることを理解されたい。
【0067】
特定されているすべての特許およびその他の刊行物は、例えば、本発明との関連で使用され得るそれらの刊行物に記載の方法論を解説および開示する目的で、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。これらの刊行物は、本願出願日以前の開示物として提供されるにすぎない。これに関連するいかなる記載も、本発明者らが先行発明またはその他の何らかの理由によりそのような開示よりも先の日付を主張する資格を有さないことの自白であると解釈されるべきではない。これらの書類の日付に関する表示または内容に関する説明はすべて、出願人が入手し得た情報に基づくものであり、これらの書類の日付または内容の正確さに関する承認を意味するものではない。
【0068】
そうでないことが定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者に一般に理解されているのと同じ意味を有している。本発明の実施または試験には任意の公知の方法、デバイスおよび材料が使用され得るが、それをふまえて、方法、デバイスおよび材料が本明細書に記載されている。
【実施例】
【0069】
実施例1. egelに対する温度上昇の効果
可溶化シルクフィブロイン水性ストック溶液を以前に記載された通りに調製した。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. A 139-48 (2001)。簡単に言うと、カイコガの繭を、0.02M炭酸ナトリウム水溶液中で20分間煮立て、次いで、水(Milli-Q(登録商標)Water System, Millipore, Billerica, MAを通じて処理した超純水)で十分にリンスした。乾燥させた後、抽出されたシルクフィブロインを60℃で4時間、9.3M LiBr溶液に溶解させ、20% (w/v)可溶化シルクフィブロイン溶液を得た。得られた溶液を、Slide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce, Rockford, IL)を用いて蒸留水に対して3日間透析し、残留する塩を取り除いた。この透析後の溶液は光学的に清澄であり、10,000rpmで20分間の遠心分離を2度行ってシルク凝集物および最初の繭由来の残骸を取り除いた。可溶化シルクフィブロイン水溶液の終濃度は約8% (w/v)であった。この濃度は、既知容積の溶液を乾燥させその残留固形物を秤量することによって測定した。この8%シルクフィブロイン溶液を4℃で保存し、使用前に水で希釈した。
【0070】
電気ゲル化に対する加熱の効果を調査するため、約8% w/v可溶化シルクフィブロイン溶液を約60℃〜75℃に加熱した。Falconチューブの下半分と加熱した溶液中に沈めた2本の白金(Pt)電極とからなる「標準」egel設定を用いて、Agilent 3364A電源から25VDCを印加した。驚くべきことに、電気ゲル化における典型的な反応である視認可能なゲルは、陽極に形成されなかった。シルク溶液の加熱は、何らかのかたちで、シルクに対して電気ゲル化を実施する能力に恒久的な影響を及ぼしていることが考えられる。この見解は、これまでの証拠;121℃でオートクレーブしたシルク溶液は、電気ゲル化により観察可能なゲルが生じない、により支持されていた。しかし、オートクレーブしたシルク溶液は、時間と共に「回復」した。オートクレーブしたシルク溶液は、5℃〜10℃で一週間保存した後、小さいながらもある程度の電気ゲル化反応を示した。その後の実験が示唆するように、加熱したシルク溶液の電気ゲル化は、シルク溶液の構造をランダムコイルからシルクIへと変化させている可能性があるが、その材料は、陽(典型的には白金)極と接触した状態で維持されなかった。
【0071】
実施例2. egelに対する温度上昇の効果II
最初に、「標準」設定(上述の8% w/vシルク溶液、白金電極およびFalconチューブ)で電気ゲル化シルクを生成した。10分間の電気ゲル化の後、陽極に形成されたゲルを、60℃〜75℃に加熱した水を含むビーカーに移した。図1は、ゲルの反応の10秒間隔の画像を示す。温水に浸すと、おそらく密度差に起因して、Pt上のegelは剥離し、ビーカー底に落下することが観察された。同時に、egelに閉じ込められていた気泡が放出され水面にむかって上昇した。この剥離プロセスは、βシート材料のみがPt電極上に留まるようになるまで継続した。長い電気ゲル化期間の間、電気ゲル化開始時に陽極に最も近接していたシルク溶液は不可逆的構造(βシートであると推定される)への変換を継続する傾向があるが、ゲルの大部分はシルクI構造を得ていることに注目されたい。浴槽の底にある、互いに密着している粘性の液体パドル状物の材料を回収した。
【0072】
実施例3. egel繊維の延伸I
温水のビーカーおよび実施例2の剥離したシルクを用いて、関心対象の材料の有用性を調査した。先端がフック形の絶縁ワイヤーを用い、加熱された水の中からシルクの粘性パドルを引き上げ、「構造物」を形成させることができた。その材料を浴槽温度を変化させつつ操作することで、互いに密着している構造を維持するのに温度が重要な因子となることが明らかになった。その構造物自体は、海面から引き上げられた海藻の稠度を有していた。図2に示されるように、ひとつながりの「繊維」を水面まで延伸することができた。興味深いことは、この「繊維」がその場にとどまったことである。これは、この「繊維」の端部が水面の不純物に付着したため、表面付着のため、または、引き伸ばされた材料が水の密度とほぼ一致したことで中立浮力が達成されたためと考えられる。このようにして、シート様形状を含む三次元構造物を形成することができた。
【0073】
水槽から一本の「繊維」を延伸する際、それを非常に長い繊維長まで伸ばすことができる。一つの鍵は、水槽の温度のようである。定性的情報は、約60℃の浴槽温度が最良の結果をもたらすことを示した。それよりも低温では、「繊維」は、水面に持ち上げる前でさえも壊れてしまう。それよりも高温では、「繊維」が低い粘性を示し、「繊維」自体の形成が妨げられる。図3は、「繊維」を加熱した浴槽から延伸している様子の低速写真を示している。繊維は、約1インチ/秒の速度で延伸した。最初の成功例では、40〜50インチの間の繊維長が得られた。繊維長は、水中のシルクの量、水温および延伸速度に依存してより長くすることができた。延伸された繊維は非常に粘着性であった(2本の繊維を絡ませると、それらは貼り付いてひとつになる)。一定期間の間に、繊維はより細く、より低粘着性に、そしてより脆弱になる。40分〜60分の後、繊維は、他の表面またはそれ自身に貼り付くことなく取り扱えるようになった。この固化は、繊維中に取り込まれていた水分が蒸発することによる乾燥効果に起因するものと考えられる。乾燥後の繊維は驚くべき強度を有していたが、水(特に、温水)に水和させるとただちに軟化する。
【0074】
実施例4. 温度変化に対するegelの反応
本実験では、シルクegelを5mlプラスチックシリンジに入れた。egelはシルク溶液よりも多くのシルクI構造を含み、これは準安定性なので、最初にシリンジプランジャーを取り外し、シリンジのプランジャー側端から添加することによってegelをシリンジに入れた。egelをシリンジ針を通じてシリンジ内に導入した場合、流動による剪断力がβシートへの構造変化を引き起こす可能性があり、これは本実験に根本的な影響を及ぼす。加熱前のシルクegelが図4aに示されている。ヒートガンをミディアム加熱設定で使用し(図4b)、egelを60℃以上に加熱した。加熱の間に、egelは液体になった。図4cに示されるように、内部温度が60℃に達したとき、ゲルの全量が液体になった。熱源を取り除いた後、この液体溶液は、egelと非常によく似た特徴を有するゲルに逆戻りした。この再構成ゲルは当初のegelよりもいくらか粘着性が大きく見かけ上透明度が高いようである。このことは、egelの構造および粘着性は、熱サイクルを通じて「オン」、「オフ」できることを示唆している。多くの用途において、これは、極性反転による電気チャージを用いるサイクルに対する魅力的な代替品となり得る。
【0075】
実施例5. 温度サイクルに対するegelの反応
追試実験において、一つの変更を加えて同じegel-シリンジ-ヒートガン実験を行った。シリンジプランジャーにアクセス孔をあける改造を施し、この孔に小径のT型熱電対を挿入した。図5aは、画像中央部に見える熱電対と共に、シリンジおよびゲルを示している。この熱電対を使用し、National InstrumentsのCompactDAQデータ収集ハードウェアおよびLabVIEWソフトウェアを用いた実験を通じてegelおよび液体の温度をモニターした。本実験は、2回の完全な加熱/冷却サイクルを実施することによって実行した。加熱にはヒートガンを使用し、冷却には水槽を使用した(図5b)。各実験フェーズの後(各加熱冷却サイクルの後)、図5cに示されるように、シリンジの針側端から少量のシルク材料を抽出した(針は装着していない)。サイクルは、各サイクル後に同様の結果を提供するようであり、すなわち冷却時に高粘性および粘着性のゲルが形成され、一方約60℃以上でそれよりずっと低粘着性、低粘性の液体が形成される。手で触れてみたところ、各冷却段階後に形成されたゲルは、加熱/冷却サイクル前に生成されていたegelと類似の反応を示した。ゲルは垂直面に付着することができ、付着した状態で保たれるか、または転がり落ちゴムボールのようになる。簡単に言うと、egelにおいて見いだされたシルク構造は、よりランダムなコイル構造に可逆的に移行しかつ元に戻ることができる。
【0076】
実施例6. egel繊維の延伸II
本実験では、上記の実験3のプロトコルの後に、T型熱電対ならびにNational InstrumentsのCompactDAQデータ収集ハードウェアおよびLabVIEWソフトウェアを使用して浴槽温度をモニターする作業を含むものとした。シルクegelを、60℃に加熱した水のビーカーに入れた。egelが剥離し水槽底に沈んだ後、液体シルクの「繊維」を浴槽から上方に延伸した。速度および水槽からの高さに依存して、繊維は様々な直径で延伸することができた。延伸した各繊維を実験台の棚に吊るした後、当初は粘着性かつ不均一であった繊維が乾燥/固化し始めた。繊維はまた、直径が縮小し、より均一になる傾向があった。最終的な繊維は、優れた引張特性を示したが、非常に脆弱であった。乾燥した繊維を、約90℃未満で曲げるようにラップすると、それらは裂ける傾向があった。繊維の表面は最初の延伸後よりも滑らかであったが、繊維上になおも目立った凸部および粗い部分が存在した。
【0077】
さらに、一定量のegelを60℃の水槽に沈めた後、浴槽を室温まで冷まし、水槽の上部分から水を取り除き(水とシルクの分離が視認できた)、そして残った材料を室温で一晩静置した。約18時間後、残った材料が乳白色で非常に頑丈な薄いシルクの円盤状物になるのを観察した。これは多分に湿気を含むものであったが、水分を蒸発させると非常に脆弱になる。
【0078】
実施例7. 加熱したegelの押し出しおよび氷水槽中での急冷
繊維の形成を高速化させる手段として、水道水および氷片を入れたビーカーを用いて氷槽を作製した。その温度は0℃付近と測定された。10mlのプラスチックシリンジを用いて、最初にシルクegelをミディアム設定のヒートガンで60℃以上に加熱した。このegelをシリンジの針側端(針は装着していない)を通じて氷槽に押し出した。図6aに示されるように、ゲルは、氷水の中に入れられると、垂直方向の「繊維」を形成し、これは水中で浮遊状態を維持する傾向があった。ゲルの見た目は、図6bに示されるように、非常に透明なものから白みがかった色に変化する傾向があった。これは、シルクI egel構造からβシートへの変換に起因するものと推測された。さらなる材料の特徴付けによりこのことが確認されるであろう。
【0079】
実施例8. 氷水槽からのegel繊維の延伸I
次に、実施例7と同じ実験設定を用いて、氷槽中で急冷した液体シルク「繊維」を浴槽から延伸した。以前と同様、繊維は非常に長い繊維長まで延伸することができた。本実験では、一本の繊維のみを、約10インチの長さまで延伸した。繊維は、以前の繊維と同様粘着性であったが、延伸中に失敗する傾向が高かった。この繊維は、均一性がずっと高く、非常に滑らかな表面を有し、そして断面形状に一貫性があることが観察された。一晩実験台の棚から吊り下げた後、繊維は、以前の繊維よりも、直径が小さくなることが見出されたが、全体的にはずっと頑丈であり、脆弱ではなく、相当な引張荷重にも耐えることができた。繊維は非常に透明であることが観察され、そのため、そのような繊維は光の伝送に使用できるであろうという期待が持たれた。
【0080】
実施例9. 延伸したシルクegel繊維の光伝搬能力試験
延伸したシルクegel繊維は非常に透明であることが観察され、光を伝送する目的で製造および使用できる可能性がある。図7aに示されるような、手動x-yステージをアルミニウム台に対して垂直に設置した簡単な実験装置を構築した。プレゼンテーション用レーザーポインターをステージにしっかり固定した。繊維ホルダーは、マシナブルワックスを用いて形成した。図7bに示されるように、egel繊維を密着して保持するよう、ワックスに非常に小さな穴をあけた。試験結果は図8aに示されており、レーザー光は繊維を通じて伝搬され、繊維端から表面に投影された。図は、繊維の上から見える瞬間的なライトパッチを示しており、これは、繊維ホルダーの穴を通じた光の直接的な伝送を表している。図8bは、屈曲部に沿って光を伝送する繊維の能力を実証している。調整により、画像が繊維の外側での光の反射によるものではないことが確認された。
【0081】
実施例10. egel繊維の氷水槽からの延伸II
シルクegel繊維を、一回の加熱(60℃)および急冷(<0℃)サイクルを行った後、氷槽から延伸した。図9は、egelが、短くしたFalconチューブ内の3本の白金電極上に形成されている様子を示す。示されるように、陰極が1本だけ必要となる。実施例7と同様、シルクegelを10mlのプラスチックシリンジに入れ、ミディアム設定のヒートガンで60℃以上に加熱した。このegelを、図10aに示されるように、シリンジの針側端を通じて(針は装着していない)氷槽に押し出した。以前と同様、egel材料は、垂直方向、水中に「繊維」を形成する傾向があり、水中で浮遊状態を維持するものであった。絶縁ワイヤーを使用してこの「繊維」を氷槽から大気中に延伸した。図10bは、延伸された直後の繊維を示す。図10cは、約30分間風乾した後に2本の絶縁ワイヤーの間で引っ張られている繊維を示す。当初延伸した繊維上にあった滴は乾燥により消散する傾向があることに注目されたい。この繊維の牽引は、この繊維がその直径からみて印象的な強靭さを有することを示す。さらに、氷槽から延伸された繊維は乾燥後も全く頑丈である。図11は、氷水槽から延伸したシルクegel繊維のうちの1本についての立体顕微鏡画像を示す。枝分かれ部は乾燥された水滴であると考えられる(図10b)。枝分かれ部間の直線セグメントにおける繊維径は約100μmである。この繊維は顕微鏡下で見ると非常に透明である。
【0082】
実施例11. 超収縮および小収縮サイクルの調査
文献は、クモの引き糸シルクが、湿気の存在下で二つの明確に異なる収縮反応を示すことを示唆している。クモの巣を作るのに使用されるタイプのシルクである引き糸シルクは、高湿度下で超収縮を示す。この50%にも達することができる収縮は、クモの巣の自然リフレッシュ法と考えられており、朝露がクモの巣を引き締めるであろう。最近の研究は、クモのシルクはまた、湿度の小さな変化に対して弛緩・収縮サイクル反応を起こすことを示した。この場合、シルクの乾燥は、規模はずっと小さいものの、緊張と収縮を引き起こし、湿度の上昇は、弛緩を誘導するため伸長を引き起こす。Blackledge et al., How super is supercontraction? Persistent versus cyclic responses to humidity in spider dragline silk, 212 J. Experimental Bio. 1981-89 (2009)。
【0083】
本実験および後続の実験は、延伸されたegel繊維が超収縮および収縮/膨張サイクルの両方を示す能力を調査するために実施した。Fisher Scientific製のホットプレート(図9c)を使用してmilli-Q水を約60℃に加熱した。図9aおよび9bに示されるように、egelを3本の白金電極を用いて形成させた。図12に示されるように、egelが付着した白金電極を加熱した水槽に沈めることによって、egel由来のシルクがゲルの水成分から分離することが観察された。図12cおよび12dを近づけて見比べると、シルク材料がビーカー底のプールに落ちていく様子を見ることができる。5分の間に、egelの大部分は電極から取り除かれる。ゲル中に閉じ込められていた気泡が解放され、水面に上昇する。ホットプレートからビーカーを取り外した後、絶縁ワイヤーをビーカー底のシルクプール中をゆっくり移動させることによって、繊維をビーカーから延伸した(図13)。この絶縁ワイヤーを高い棚からぶら下げることによって、延伸した繊維を風乾させた。
【0084】
図14aに示されるように、93.31mm長の乾燥させた繊維に133mgの重しを付けて、空の4Lビーカー内で吊り下げた。このビーカーに沸騰水を注ぎ、繊維長をカメラでモニターした(図14b〜e)。繊維を約20秒間、熱蒸気に晒した後に有意な伸長が見られた。総伸長は、当初の繊維長の約35%を超えた。蒸気により生じた湿気を取り除いた後、繊維は、その初期長である約93mmにほぼ完全に収縮した。
【0085】
小収縮サイクルの研究のために、専用設計および専用組立の加湿チャンバーを作製した。1/8''アクリルを用いて、24 x 24 x 24立法インチのチャンバーを作製した。図15に示される、室内周囲相対湿度(44%付近)から約95%までの内部湿度を発生させる能力を有するKaz Model V5100NS Ultrasonic Humidifierをチャンバー内に設置した。この加湿器は加湿ミストを発生させるのに超音波エネルギーを使用するので、チャンバー温度は周囲温度(試験日で26℃付近)から感知できるほど変化しない。Lufft C200携帯型湿度/温度測定デバイスを使用してチャンバーの状態をモニターした。本実験では、延伸したegel繊維(急冷した繊維)の端部に研究用テープで33mgの重しを付けて、チャンバー上部から吊り下げた。図16aに見られるように、初期繊維長は約15cmであった。チャンバーを閉じ、超音波加湿器を稼働させた。約2分の間に、チャンバー内の相対湿度は周囲湿度(44%付近)から約95%に上昇した。図16bに示されるように(分かりやすくするために水平線が書き加えられている)、湿度を約95%に上昇させると、延伸したegel繊維は、約1.2cm伸長し、これは当初の長さから約8%の増加にあたる。超音波加湿器を停止し、チャンバーの前面パネルを開けた後、湿度は周囲温度まで低下した。湿度の低下の間に、抽出したegel繊維はほぼ当初の長さまで収縮した。全湿度サイクルに4分間の期間を費やした。チャンバー温度は約26℃でほぼ安定していた。図17に示されるように、伸長/収縮サイクルは全体としては50%の相対湿度変化にわたって起こったが、動きの大部分は82%〜95%の間の湿度範囲で見られたことに注目されたい。
【0086】
実施例12. 小収縮サイクルに関する追加実験
実施例11に記載の専用設計の加湿チャンバーを使用し、2本の繊維の収縮挙動を比較した。両方の繊維は、高温のegel(急冷なし)から延伸した同じ原繊維から切り取った。長さの測定を補助するために、約7.8mm長のサンプルの端部に無視できる重量のテープ小片を貼り付けた。第二の、16.5mm長の延伸したegel繊維には、33mgのテープ片を貼り付けた。湿度は約50%の相対湿度から約95%まで循環させたが、図18には乾燥サイクルのみが示されている。湿度を低下させると、繊維の長さは収縮した。表1に示されるように、各繊維の収縮の増分量は、初期長が異なるにもかかわらず、これらの繊維間で非常に近かった。事前にサイクルに供した繊維の%収縮増分は、延伸したegelの原繊維のそれよりもずっと大きかった。
【0087】
(表1)延伸egelの原繊維と事前に湿度サイクルに供した延伸繊維の間の繊維収縮挙動の比較
【0088】
実施例13. 延伸したegel繊維の引張試験
いくつかの延伸egel繊維および繭繊維に対して引張試験を行い、最大引張応力を比較した。Instron 3366引張フレームを10Nロードセルと共に使用した。試験は、0.02インチ/分の伸張速度による伸張制御下で実施した。繊維サンプルは、瞬間接着剤により厚紙のタブに貼り付けた。この厚紙タブを、図19に示されるように、空気圧グリップを用いて機械に固定した。繊維径の測定はこれらの引張試験における難題であった。それらはVernierカリパーを用いて測定したが、これは繊維のような小スケールのものに対しては精度が低い。繊維径の測定には顕微鏡も使用することができる。図20は、試験した5本の繊維:(1)(超音波加湿器による)湿度サイクルに供された延伸egel繊維;(2)カイコ繭の原体から引き抜いた繭繊維;(3)#1と同じサイクルに供した繊維由来の別の延伸egel繊維;(4)湿度サイクルに供さなかった延伸egelの原繊維;および(5)実施例11と同様の(沸騰水を用いて行った)熱蒸気サイクルに供した延伸egel繊維、の荷重・伸張の生データを示している。
【0089】
結果は、egel繊維がすべて、繭繊維よりも有意に堅固であることを示した。超音波加湿器による湿度サイクルに供した繊維は、他の2本の延伸egelサンプルとは異なる特有の荷重・伸張反応を示した:すべてのegel繊維は、急勾配で始まる線形的な弾性応答を示し、一方サイクルに供した繊維はピーク荷重に達した後に有意な塑性ひずみを示した。シルクegel原繊維および熱蒸気によるサイクルに供された繊維は両方とも、それらのピーク荷重に達した後、突発的に損なわれた。表2は、試験した各繊維の直径およびピーク引張応力を示す。概して、繊維が小さいほど、引張強度は高くなる。これは、繭シルクおよび再生シルクフィブロイン繊維の両方に関して発表されている結果と符合しており、繊維径の縮小化に伴いより高度に整列したことが原因と考えられる。熱蒸気による湿度サイクルに供された延伸egel繊維は、飛び抜けて、最も強靭であった。それは繭繊維よりもずっと高い強度を示した。
【0090】
(表2)延伸したegel繊維間の最大引張応力の比較
【0091】
実施例14. 延伸したシルクegel繊維の画像
図21aに示されるように、個々の繊維の画像をデジタルカメラおよび立体顕微鏡を用いてキャプチャした。図21bは、3本の延伸egel繊維:超音波加湿器による湿度サイクルに供された繊維;延伸egel原繊維;および延伸前に氷槽中での急冷に供した繊維、の画像を示す。すべての繊維を手作業で延伸したため、繊維径が様々であり、かつ枝分かれ部または凸部が繊維上に残留している。すべての繊維は透明であることが観察され、したがってそれらを通じて光を伝送することができる。
【0092】
実施例15. 延伸したシルクegel繊維のSEM画像
図22に示されるように、いくつかの延伸egel繊維のSEM画像を撮影した。全体的に見て、繊維は、2つの別個の特徴と共に、非常に滑らかな表面を有していた。両方の図に見られるように、繊維は、あたかも2本の繊維が一組になったように折り重ねられているようであることが観察された。それは1本の繊維であるが、乾燥速度または延伸の不安定性がこの興味深い折り重なりの特徴をもたらしているものと考えられる。図22aに示されるように、繊維はいくつかの微小クラックを有していることが観察され、このことは何らかの損傷を被ったことを示唆しており、それは繊維を小さな曲げ半径で屈曲させたときであると考えられる。急冷工程から得られた肯定的な結果は、脆弱性の低い繊維を製造できることを示しており、これは微小クラックの形成を防ぎ、強度を高めると考えられる。これはまた、より小さな半径での繊維の屈曲を可能にするものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加してシルクフィブロインゲルを生成する工程、
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程、
粘性のシルク液からシルク繊維を延伸する工程
を含む、シルク繊維を製造する方法。
【請求項2】
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、水中でシルクフィブロインゲルを急冷する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水が0℃またはそれ未満の温度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
水が40℃〜80℃の範囲の温度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
シルク繊維を延伸する工程が、10℃〜40℃の範囲内の温度で行われる、請求項2記載の方法。
【請求項6】
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、急冷工程前にシルクフィブロインゲルを加熱する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項7】
シルクフィブロインゲルが、急冷工程で使用される水の温度よりも高い温度に加熱される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
シルク繊維を乾燥させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
シルク繊維を収縮させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
シルク繊維を収縮させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
シルク繊維を膨張させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
シルク繊維を膨張させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
シルク繊維をアルコール処置または水中アニーリング処置により処理して水不溶性シルク繊維を生成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
複数のシルク繊維をラップする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
シルク繊維の少なくとも一つを少なくとも一つの他の繊維と共にラップする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記他の繊維が、少なくとも一つのセリシン抽出処理したシルク天然フィブロイン繊維を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一つのシルク繊維を複合材に組み込む工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
複合材が全シルク複合材である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
シルク繊維が光ファイバーである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
シルク光ファイバーを通じて光信号を伝送する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項22】
伝送工程が、光源からの入射光をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
伝送工程が、シルク光ファイバーの周囲環境からの刺激から変換された光信号をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
シルク光ファイバーが導波管である、請求項19記載の方法。
【請求項25】
シルク光ファイバーがマルチモードファイバーである、請求項19記載の方法。
【請求項26】
シルク光ファイバーがシングルモードファイバーである、請求項19記載の方法。
【請求項27】
前記請求項のいずれか一項記載の方法から調製される組成物。
【請求項1】
可溶化シルクフィブロイン溶液に電場を印加してシルクフィブロインゲルを生成する工程、
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程、
粘性のシルク液からシルク繊維を延伸する工程
を含む、シルク繊維を製造する方法。
【請求項2】
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、水中でシルクフィブロインゲルを急冷する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
水が0℃またはそれ未満の温度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
水が40℃〜80℃の範囲の温度を有する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
シルク繊維を延伸する工程が、10℃〜40℃の範囲内の温度で行われる、請求項2記載の方法。
【請求項6】
シルクフィブロインゲルを粘性のシルク液に変換する工程が、急冷工程前にシルクフィブロインゲルを加熱する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項7】
シルクフィブロインゲルが、急冷工程で使用される水の温度よりも高い温度に加熱される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
シルク繊維を乾燥させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
シルク繊維を収縮させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
シルク繊維を収縮させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を低下させる工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
シルク繊維を膨張させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
シルク繊維を膨張させる工程が、シルク繊維を晒す周囲湿度を上昇させる工程を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
シルク繊維をアルコール処置または水中アニーリング処置により処理して水不溶性シルク繊維を生成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
複数のシルク繊維をラップする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
シルク繊維の少なくとも一つを少なくとも一つの他の繊維と共にラップする工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記他の繊維が、少なくとも一つのセリシン抽出処理したシルク天然フィブロイン繊維を含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一つのシルク繊維を複合材に組み込む工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
複合材が全シルク複合材である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
シルク繊維が光ファイバーである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
シルク光ファイバーを用いて繊維光学ケーブルを形成する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
シルク光ファイバーを通じて光信号を伝送する工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項22】
伝送工程が、光源からの入射光をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
伝送工程が、シルク光ファイバーの周囲環境からの刺激から変換された光信号をシルク光ファイバーにより受信する工程を含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
シルク光ファイバーが導波管である、請求項19記載の方法。
【請求項25】
シルク光ファイバーがマルチモードファイバーである、請求項19記載の方法。
【請求項26】
シルク光ファイバーがシングルモードファイバーである、請求項19記載の方法。
【請求項27】
前記請求項のいずれか一項記載の方法から調製される組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2013−506058(P2013−506058A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531115(P2012−531115)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/050565
【国際公開番号】WO2011/038401
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(510300430)タフツ ユニバーシティー/トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/050565
【国際公開番号】WO2011/038401
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(510300430)タフツ ユニバーシティー/トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]