説明

延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法

【課題】 本発明は、線膨張係数が低く、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性、生産性等が優れている延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で圧延した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜110℃で一軸延伸し、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度で熱固定することを特徴とする延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は耐水性、難燃性、機械的特性等が優れ、且つ価格が比較的安価であるので、建築部材の材料として広く使用されている。例えば、雨樋は、一般的に硬質塩化ビニル系樹脂を押出成形により成形している。
【0003】
しかし、硬質塩化ビニル系樹脂成形体の線膨張係数は7.0×10-5(1/℃)と大きいので、硬質塩化ビニル系樹脂製雨樋を設置する際には、雨樋の伸縮を吸収しうる継手で接続したり、端部をフリーにしたりする必要があったが、雨樋の長さが長くなると、継手が大きくなり、外観が悪く且つ長期にわたって使用すると継手部分が破損することがあった。又、雨樋自身も伸縮の繰り返しにより、ひび割れやそりが発生し、長期間使用する際の信頼性が低いという欠点があった。
【0004】
そのため、線膨張係数の低い雨樋の検討が種々なされている。例えば、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、マイカ20〜35重量部と、炭酸カルシウム20〜40重量部と、加工助剤5〜15重量部とを添加した塩化ビニル系樹脂組成物からなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂製雨樋(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【特許文献1】特許第2905260号公報
【0005】
上記雨樋は、塩化ビニル系樹脂にマイカと炭酸カルシウムを添加し雨樋の線膨張係数を低くしているが、塩化ビニル系樹脂を主体とするものであり、マイカと炭酸カルシウムの添加量が少ないと線膨張係数が依然として高く、添加量を多くすると雨樋の耐衝撃性、耐久性が低下するという欠点があった。
【0006】
又、補強材としてガラス繊維を含浸したり、金属薄板を積層したりした雨樋も提案されている。例えば、熱可塑性樹脂と強化繊維とからなる複合シートが所要断面形状に賦形され、かつ、その表面に熱可塑性樹脂が押出被覆されているとともに、上記複合シートは、少なくともその賦形部分に強化短繊維がランダム配向していることを特徴とする複合成形品(例えば、特許文献2参照。)、金属薄板を芯材とし、この芯材両面に合成樹脂を被覆してシート材を形成し、このシート材に折曲治具先端部を押し当てて断面略コ字型に折曲形成して成る雨樋において、内面側となる前記合成樹脂の折曲位置に、折曲治具先端部がガイドされる凹溝を設けて成ることを特徴とする雨樋(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
【特許文献2】特開平11−19998号公報
【特許文献3】特開平9−279783号公報
【0007】
しかしながら、前者の雨樋は熱可塑性樹脂と強化繊維とからなり、短繊維がランダムに配向した複合シートを作成し、所要断面形状に賦形した後に、その表面に熱可塑性樹脂を押出被覆しなければならず、その製造が困難であり、又、廃棄する際に問題があった。
【0008】
後者の雨樋は、金属薄板が芯材として積層されているので、重量が重くなり、切断作業が困難であり、且つ、雨樋の端部に金属薄板が露出するので経時により錆が発生し、腐食により耐久性が低下するという欠点があった。
【0009】
更に、金属薄板からなる芯材やガラス繊維を使用せず、線膨張係数の低い雨樋として、例えば、20〜80℃の平均線膨張率が5×10-5(1/℃)以下であるポリオレフィン延伸材料の表面に、該ポリオレフィンを溶解する低分子化合物を付着させた後、加圧・加熱により前記ポリオレフィン延伸材料を接着した、20〜80℃の平均線膨張率が5×10-5(1/℃)以下であるポリオレフィン成形体(例えば、特許文献4参照。)、熱可塑性樹脂を押し出し成形した後、更に、この押し出し成形したものを延伸して引き延ばすことで分子を一方向に配向し、熱可塑性合成樹脂の線膨張係数が6×10-5/℃以下で且つ厚みが0.5mmより厚いことを特徴とする合成樹脂雨樋(例えば、特許文献5参照。)等が提案されている。
【特許文献4】特開平10−291250号公報
【特許文献5】特開2002−285685号公報
【0010】
しかしながら、前者の雨樋はポリオレフィン延伸材料を20〜40倍と高度に延伸したシートであり、延伸方向に沿って割れやすく耐衝撃性が悪いという欠点を有しており、これを防ぐために硬質塩化ビニル系樹脂、AES樹脂等と積層しようとすると、ポリオレフィンはこれらの樹脂より融点が低いためポリオレフィンの延伸状態が崩れ、線膨張係数が高くなるという欠点があった。
【0011】
更に、後者の雨樋は押し出し成形した雨樋を単に延伸したものなので、延伸方向に沿って割れやすく耐衝撃性が悪いという欠点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、線膨張係数が低く、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性、生産性等が優れている延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート、特に、雨樋等の内装及び外装建材として好適に使用できる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で圧延した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜110℃で一軸延伸し、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度で熱固定することを特徴とする。
【0014】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0015】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎるとシート作成時にドローダウンを起こしやすくなる傾向があり、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。
【0016】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.1mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、5mmを超えると延伸が困難となる傾向があるので0.1〜5mmが好ましく、より好ましくは0.2〜3mmである。
【0017】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態である。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態であればよく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0018】
本発明においては、上記非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で圧延する。圧延は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一対の反対方向に回転するロールに供給し、押圧してシートの厚みを薄くすると共に伸長する方法であり、圧延されたシートは延伸シートとは異なり、ポリエステル系樹脂が配向されることなく緻密になっているので、高度に延伸しやすくなっている。
【0019】
圧延温度は、低くなると均一に圧延できず、高くなると溶融切断するので、圧延する際のロール温度は、圧延する熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度である。
【0020】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを圧延した場合、圧延倍率が低すぎると、圧延後のシートの表面に幅方向に皺が発生する。皺を防止することが出来る圧延倍率は3倍以上である。圧延倍率に特に上限はないが、圧延倍率が高いほど圧延設備に負荷がかかるので5倍未満が好ましく、より好ましくは3. 5〜4.5倍である。
【0021】
尚、圧延倍率は、(圧延前のポリエステル系樹脂シートの断面積)/(圧延後ポリエステル系樹脂シートの断面積)で定義されるが、圧延の前後においてポリエステル系樹脂シートの幅は殆ど変化しないので、(圧延前のポリエステル系樹脂シートの厚み)/(圧延後のポリエステル系樹脂シートの厚み)であってもよい。
【0022】
本発明においては、圧延された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜110℃で一軸延伸する。一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。
【0023】
上記一軸延伸する際の温度は、低すぎると延伸できずに破断してしまい、高すぎると圧延された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの配向が緩和して物性が得られないので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜110℃である。
【0024】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性係数等が低下する傾向があり、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなる傾向があるので、1.1〜2倍が好ましい。又、圧延と一軸延伸の合計延伸倍率は、同様の理由で、3.3〜10倍が好ましく、より好ましくは3.8〜8倍である。
【0025】
本発明においては、更に耐熱性を向上させるために、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度で熱固定する。
【0026】
熱固定温度は、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、融解ピークの立ち上がり温度より高いと熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下するので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度である。
【0027】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸され、フリーの状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。即ち、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように熱固定するのが好ましい。
【0028】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的に熱固定する場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように設定して熱固定するのが好ましい。
【0029】
熱固定する際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜20分が好ましい。
【0030】
更に、上記熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。アニールすることにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率を低く抑えることができる。
【0031】
又、アニールする際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。即ち、アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0032】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。
【0033】
又、短尺シートをアニールする際には、荷重がかからないよう両端部を開放して行うのが好ましい。アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。アニールする時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒〜60分であり、更に好ましくは1〜20分である。
【0034】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、2枚以上が積層されてもよく、積層する場合はその延伸方向が略同一になるように積層されるのが好ましい。
【0035】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の積層方法は、従来公知の任意の方法が採用されればよいが、熱融着すると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸が緩和されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有するポリエステル系、ポリオレフィン系等のホットメルト型接着剤で接着されるのが好ましい。
【0036】
ホットメルト型接着剤で接着する方法は、特に限定されず、例えば、少なくとも一方の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに溶融ホットメルト型接着剤を塗布すると同時に両者を積層し融着する方法、少なくとも一方の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに溶融ホットメルト型接着剤を塗布・冷却してホットメルト型接着剤層を形成した後積層したり、2枚以上の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間にシート状のホットメルト型接着剤を積層して得られた積層体を加熱し、ホットメルト型接着剤を溶融して融着する方法等があげられる。
【0037】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の融着であるから、上記ホットメルト型接着剤として、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有する熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布が好適に使用される。熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布で融着すると、接着強度が高く、引張強度、耐衝撃性等が向上する。
【0038】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び/又は不織布を構成する繊維としては、前述の熱可塑性ポリエステル系樹脂製の繊維及び前述の熱可塑性ポリエステル系樹脂と綿、スフ等の天然繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の無機繊維等の繊維との混合繊維が挙げられる。
【0039】
上記不織布としては、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。
【0040】
上記ニードルパンチ不織布とは、短繊維をランダムに並べて形成されたウエブに高速で上下するニードル(針)を繰り返し突き刺し、ニードルに刻まれたバーブという突起により繊維を絡ませた不織布である。
【0041】
又、上記スパンレース不織布とは、高圧ポンプによりノズルから30〜500バールの高圧水流をウエブに噴出し、高圧水流がウエブを打ち抜く力と打ち抜いた高圧水流の跳ね返る力を利用して繊維を三次元的に絡み合わせた不織布である。
【0042】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布及び不織布の目付量、厚み等は、特に限定されるものではないが、一般に、目付量は10〜500g/m2 が好ましく、厚みは0.03〜4mmが好ましい。
【0043】
又、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをより簡便に積層し強固に融着し耐衝撃性を向上させるために、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より低い融点を有するポリエステル系、ポリオレフィン系等のホットメルト型接着剤を含浸した織布及び/又は不織布を、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に積層し融着する方法も好ましい。
【0044】
上記織布及び/又は不織布としては、特に限定されず、従来公知の任意の織布及び不織布が使用可能であり、例えば、綿、スフ等の天然繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維等の合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、セラミック繊維等の無機繊維等の繊維からなる織布及び不織布が挙げられる。
【0045】
上記不織布としても、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。又、織布及び不織布の目付量、厚み等は、特に限定されるものではないが、一般に、目付量は10〜500g/m2 が好ましく、厚みは0.03〜4mmが好ましい。
【0046】
上記ホットメルト型接着剤を溶融して融着する方法の際には、超音波ウエルダーによりホットメルト型接着剤を溶融して融着するのが好ましい。上記超音波ウエルダーにより融着する方法は、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート、ホットメルト型接着剤、織布及び/又は不織布、熱可塑性樹脂層等の積層体を、15〜40kHzの周波数で加振したホーンとローレットの間を通過させる方法があげられる。
【0047】
図1は、2枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをホットメルト型接着剤である熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布で超音波ウエルダーによりする方法の一例を示す説明図である。図中1、1は延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートであり、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1、1の間に熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布ホットメルト型接着剤シート2が積層されて、積層体10が形成されている。
【0048】
積層体10はホーン3とローレット4で押圧された状態で移送すると共に、ホーン3から15〜40kHzの周波数で加振することにより、ホーン3から伝えられた超音波振動による摩擦熱により瞬時に熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布2が加熱され溶融して融着される。この際、より効率よく融着するために、ホーン3とローレット4の間隔は積層体10の厚みより狭く設定し、積層体10をホーン3とローレット4で加圧しながら融着するのが好ましい。
【0049】
加圧するには、ホーン3にエアシリンダ、油圧シリンダ等を連設し、ホーン3を積層体10を介してローレット4に押圧するのが好ましい。又、ローレット4表面には突起部が形成されていることにより、より効率よく融着することができ、突起部の配列や形状を変化することにより、融着部位の配列や形状のパターンを変化することができる。
【0050】
図2〜図6は融着部位の配列パターンの例を示す説明図である。図中10は、超音波ウエルダーにより融着された積層体であり、Aは延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1の延伸方向であり、5は融着部位である。
【0051】
又、超音波ウエルダーにより融着する際には、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1の配向状態が緩和されるのを抑制するために、積層体10(延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート1)に張力を負荷しておくのが好ましい。
【0052】
異なる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の積層方法として、2枚以上の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に、熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より高い融点を有する織布及び/又は不織布を積層し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを軟化・溶融すると共に押圧することにより、織布及び/又は不織布を延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに食い込ませて融着する方法があげられる。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを軟化・溶融させる方法は従来公知の任意の方法が採用されてよいが、超音波ウエルダーにより加熱されるのが好ましい。
【0053】
上記織布及び/又は不織布としては、前述の織布及び/又は不織布であって、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成する熱可塑性ポリエステル系樹脂の融点より高い融点を有する織布及び/又は不織布があげられる。
【0054】
更に、異なる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート同士の積層方法として、反応性接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤、及びゴム系接着剤よりなる群から選らばれた1種類又は2種類以上の接着剤で接着する方法があげられる。
【0055】
又、上記接着剤が含浸された前述の織布及び/又は不織布を、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの間に積層し、該接着剤により接着してもよい。接着剤を含浸している織布及び/又は不織布が積層されて接着されると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接着性が向上し、得られた積層体の引張強度、耐衝撃性等が向上する。
【0056】
上記不織布としても、従来公知の任意の不織布が使用可能であり、例えば、レンジボンド不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、エアレイド不織布などの乾式タイプの不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布などの紡糸直結タイプの不織布、湿式不織布等が挙げられ、バルク性、柔軟性等に富み層間剥離しにくいニードルパンチ不織布及びスパンレース不織布が好ましい。
【0057】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの少なくとも一面に熱可塑性樹脂層を積層してもよい。熱可塑性樹脂層を積層することにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが衝撃により延伸方向に沿って割れや亀裂が発生しないように保護すると共に、ポリエステル系樹脂が直接雨水や太陽光線に曝されて加水分解や劣化を受け耐久性が低下することを防ぐことができる。
【0058】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、メチルメタクリレート樹脂、エチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0059】
上記熱可塑性樹脂層の厚みは、特に限定されず、その用途により適宜決定されればよいが、薄すぎると上記保護効果が低下し、厚くなると重くなると共に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの低線膨張係数の効果が減少されるので0.1〜3mmが好ましい。
【0060】
積層方法としては、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにホットメルト型接着剤シート及び熱可塑性樹脂シートを積層し、熱プレス又は前述の超音波ウエルダーによりホットメルト型接着剤シートを軟化・溶融し、押圧することにより接着する方法、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに熱可塑性樹脂を押出被覆する方法等があげられる。
【0061】
本発明で得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、異型成形、曲げ加工等の成形方法により所定形状に成形することができ、所定形状の成形体が得られる。又、成形体の耐候性や意匠性を向上させるために、成形体表面に異なる樹脂層を積層したり、塗料を塗装したりしてもよい。成形体は雨樋等の内装及び外装建材として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0062】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法の構成は上述の通りであり、線膨張係数が低く、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性、生産性等が優れている延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを容易に製造でき、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは雨樋等の内装及び外装建材として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
次に、本発明の実施例を挙げて、詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した厚さ3mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を70℃に予熱した後、75℃に加熱した金属製の1対の圧延ロール(積水工機製作所製、直径260mm、ロール間距離0.7mm)に供給して圧延し、圧延倍率3.7倍の圧延ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0065】
得られた圧延ポリエチレンテレフタレートシートを80℃に加熱された熱風加熱式の多段延伸装置(協和エンジニアリング製)にて1.28倍の一軸延伸を行い、総延伸倍率4.74倍の延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0066】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は76.7℃、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約140℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約234℃であった。
【0067】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートの両端を保持し、140℃に設定されている熱風加熱槽に供給して5分間熱固定を行い、熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0068】
得られた熱固定延伸ポリエチレンテレフタレートシートの線膨張係数をJIS K 7197に準拠して測定したところ−0.2×10-5(1/℃)であった。又、JIS K7113に準拠して引張試験を行ったところ引張弾性率は8.65GPaであり、引張強度は390MPaであった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】2枚の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをホットメルト型接着剤である熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布で超音波ウエルダーにより融着する方法の一例を示す説明図である。
【図2】積層体の融着部位の配列パターンの一例を示す説明図である。
【図3】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図4】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図5】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【図6】積層体の融着部位の配列パターンの異なる例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1 延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート
2 熱可塑性ポリエステル系樹脂製織布ホットメルト型接着剤シート
3 ホーン
4 ローレット
5 融着部位
10 積層体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+20℃の温度で圧延した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜110℃で一軸延伸し、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度で熱固定することを特徴とする延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることを特徴とする請求項1記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの圧延倍率が3〜4.5倍であることを特徴とする請求項1又は2記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの一軸延伸倍率が1.1〜2倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの総延伸倍率(圧延倍率と一軸延伸倍率の積)が3〜8倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが実質的に変化しない状態で熱固定を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1であることを特徴とする請求項8記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
熱固定時間が、10秒〜10分であることを特徴とする請求項6又は7記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−238498(P2008−238498A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80446(P2007−80446)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】