説明

延焼抑制板

【課題】
ラック式倉庫やエージングラック等、棚板を設けない収納施設において、収納単位である収納ケース同士を物理的に遮蔽することが困難な状況であっても延焼を抑制できる簡便で有効な延焼抑制手段を得る。
【解決手段】
収納ケース内で仕切板として用いて内部の可燃物への延焼を抑制する、あるいは、収納ケース自体の壁板、天板、底板に用いて隣接する収納ケースからの延焼を抑制する、延焼抑制板であって、板材の中空部に主成分が水で高粘度なゲル状物質を封入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災拡大を抑制する延焼抑制板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等において製品を収納した収納ケース等を立体的に格納するようなラック式の倉庫や、大量の装置類を立体的に収納して長時間に渡って通電試験を行うようなエージングラック等の収納施設は、元来棚板を設けない構造なので遮蔽板等の有効な延焼抑制手段を用いることができなかった。このような施設で、樹脂製の収納ケース内に収納した可燃物が発火した場合、内部の火炎に炙られて収納ケース自体が燃焼するに至ると、火災拡大の原因となる。一部のラック式倉庫ではラックの中段に鉄板等の恒久的な遮蔽板を設けた施設もあるが、設置のためには費用が掛かること、収納物の変更への自由度が損なわれること、既設のラックについては工事が困難であること、などの問題がある。
【0003】
そこで収納ケース内の可燃物が横方向に延焼することを抑制するために仕切板(セパレータ)を設置したり、上下方向への延焼を抑制するために上方または下方に遮蔽板を設置するなどの対策が行われる場合もあったが、単純な板を設置しただけでは十分な延焼抑制効果は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−254100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ラック式倉庫やエージングラック等、棚板を設けない収納施設において、収納単位である収納ケース同士を物理的に遮蔽することが困難な状況であっても延焼を抑制できる簡便な器具を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる延焼抑制板は、上述の問題を解決するためになされたもので、中空の板材と、該板材の内部に封入する、主成分が水で高粘度なゲル状物質とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質が水分を90%以上含有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質の粘度が10,000mPa・s以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質は水以外の主成分がポリアクリル酸ナトリウム塩であることを特徴とする
また、本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質が10容量%以下の気泡を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る延焼抑制板は、板材が合成樹脂で形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る延焼抑制板は、中空の板材と、該板材の内部に封入する、主成分が水で高粘度なゲル状物質とを備えることを特徴とするので、主成分が水であるゲル状物質が断熱層として作用し、火災箇所に隣接する可燃物が受ける熱を低減してその温度上昇や発火を抑制することができる。また、外側の板材が燃焼しても内部のゲル状物質が形成する保水層で燃え止まらせることができる。
【0012】
本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質が水分を90%以上含有することを特徴とするので、消火液として用いられる水と同等の消火能力を有し、高い能力で延焼を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質の粘度が10,000mPa・s以上であることを特徴とするので、延焼抑制板を構成する中空板材である外殻が火炎で貫通しても内部のゲル状物質が流れ出すことはなく、断熱層を維持することができる。
【0014】
本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質は水以外の主成分がポリアクリル酸ナトリウム塩であることを特徴とするので、高い保水力を備えることができる。
【0015】
本発明に係る延焼抑制板は、内部のゲル状物質が10容量%以下の気泡を含有することを特徴とするので、断熱効果をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明に係る延焼抑制板は、板材が合成樹脂で形成されることを特徴とするので、内部のゲル状物質を長期に渡って安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る延焼抑制板の外観図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る延焼抑制板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
まず、図1および2に基いて本発明の実施の形態に係る延焼抑制板について説明する。
【0019】
本願発明の延焼抑制板1は図1に示すように板状の外形である。各辺の長さと厚みは、使用する収納ケース等に応じて適宜決定される。図2に示すように、延焼抑制板1の構成は、その外殻を合成樹脂などで中空の板材3に形成し、その中空部分に主成分が水であるゲル状物質2を封入するものである。
【0020】
前記ゲル状物質2は、吸水性が高く、高い保水力を有する素材に水を吸収させて生成するものであり、水の含有量は90%以上、できれば95%以上とすることが望ましい。前記ゲル状物質2は、紙おむつや保冷剤等に用いられ広く普及しているポリアクリル酸ナトリウム塩等の高吸水性高分子物質を主成分とする物質を用いるが、保水力が同等で、かつ、後述する粘度が同等である、他の物質を用いても良い。
【0021】
水は消火液として用いるほど消火能力がある上、断熱材としても作用するので、延焼抑制板1内のゲル状物質2は断熱性の高い断熱層を形成する。したがって、延焼抑制板1をラック内部の仕切板、壁板、底板、天板として用いることにより、火災箇所に隣接して延焼防止板1を挟んで位置する可燃物へ向けて火災箇所から放射される輻射熱を低減し、前記可燃物の発火を抑制することができる。さらにゲル状物質中に気泡を形成して断熱力を増強しても良い。ただし気泡が多過ぎるとゲル状物質自体の量を減じて保水性が低下するので、気泡の量は10容量%以下であることが望ましい。
【0022】
また、前記の如く、水は消火液として用いるほど消火能力があるので、延焼抑制板1の外殻を構成する中空板材3自体が燃焼することがあっても、前記ゲル状物質2が形成する保水層で燃え止まる。
【0023】
一方、前記中空板材3を火炎が貫通することがあっても、前記ゲル状物質2を高い粘度としておけば、水のように流れ出すことはない。例えば、延焼抑制板1を収納ケースの底板として用い、下方からの火炎に炙られて外殻が貫通したとしても、前記ゲル状物質2は収納ケース底部に留まったまま断熱層を維持することができる。また、延焼抑制板1を収納ケースの壁板として用いた場合も、その外殻が火炎に炙られて貫通したとしても、前記ゲル状物質2はラック壁面等に付着したまま断熱層を維持することができる。このように断熱層を維持するための粘度としては、10,000mPa・s以上、好ましくは50,000mPa・s以上の粘度であることが望ましい。
【0024】
なお、前記中空板材3を合成樹脂を用いて形成すると、加工性が良く、安価に大量生産できる上に、前記ゲル状物質2を外気と遮蔽することが容易なので、前記ゲル状物質2を長期的に安定に維持することができる。
【0025】
前記ゲル状物質2を外気と遮蔽するためには、延焼抑制板1の外殻を構成する前記中空板材3は密閉構造とすることが望ましい。したがって、前記ゲル状物質2を前記中空板材3に注入するには、構造上の工夫が必要である。
【0026】
例えば、前記中空板材3に2つの開口部を設け、一方から内部の空気を排気しながら他方から前記ゲル状物質2を注入し、内部が前記ゲル状物質2で満たされた後に前記2つの開口部を、溶解した樹脂を流し込んで封止したり、前記開口部に勘合する封止部材で封じたり、さらに前記封止部材を中空板材3に溶着あるいは接着して封止するなどすれば良い。また、前記開口部を3箇所以上設けて、前記中空板材3の内部から空気を排気し易くしても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 延焼抑制板
2 ゲル状物質
3 中空板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延焼を抑制する板であって、中空の板材と、該板材の内部に封入する、主成分が水で高粘度なゲル状物質とを備える延焼抑制板。
【請求項2】
前記ゲル状物質は、水分を90%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の延焼抑制板。
【請求項3】
前記ゲル状物質は、粘度が10,000mPa・s以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の延焼抑制板。
【請求項4】
前記ゲル状物質は、水以外の主成分がポリアクリル酸ナトリウム塩であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の延焼抑制板。
【請求項5】
前記ゲル状物質は、10容量%以下の気泡を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の延焼抑制板。
【請求項6】
前記板材は、合成樹脂で形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の延焼抑制板。

【図1】
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【図2】
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