説明

建材

【課題】 屋根材等に適用可能であり、外光を効率よく取り込みつつ近赤外光の透過を大幅に抑制し得る建材を提供すること。
【解決手段】 本発明の建材の好適な実施形態である屋根材10は、屋根部12と、この屋根部12に形成された透光性領域14を覆うように設けられた赤外吸収部材20とを備えている。赤外吸収部材20は、(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物を含む赤外吸収組成物の硬化物からなる赤外吸収板22を備えており、赤外光を選択的に吸収する。この赤外吸収部材20は、好適な場合、波板24と組み合わされて優れた剛性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材、特に、一部に外部の光を採光可能な領域を有する建材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の住宅等の建物においては、屋根材が太陽光等の外光を透過しない不透明な材料から構成されている。そして、昼間は壁部に設けられた窓等によって外光を採り入れることで、室内の明るさを確保している。これに対し、例えば、工場等として使用されるような広いスペースを有する大きな建物においては、一般住宅のような窓からの採光では明るさが不十分となりやすい。そのため、通常は、昼間であっても照明を用いることで室内の明るさを確保している。
【0003】
しかしながら、一般的な照明は外光に比して明るさが劣ることから、工場のような広いスペースを十分に明るくするためには、できるだけ外光を採り入れるようにすることが好ましい。また、省エネルギー化の観点からも、昼間は外光を利用して可能な限り照明を用いないようにすることが望ましい。
【0004】
そこで、このような観点から、通常は不透明である屋根材の一部に外光を透過する透光性領域を設け、この部分から屋内に外光を採り入れることが試みられている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】「住設建材製品総合カタログ」、タキロン、2004年9月、p.27〜34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように屋根材に透光性領域を設けると、壁部に設けられた窓のみから採光する場合に比して、外光が多く取り込まれることになる。特に、屋根部分は、壁部に比して太陽光が直線的に照射されることから、より多くの外光が取り込まれやすい。
【0006】
ところが、太陽光には、当然ながら可視領域の以外の波長の光も含まれており、その中には、赤外近傍領域の波長を有する光(以下、単に「近赤外光」という)、すなわち熱線も含まれる。したがって、上記のように透光性領域を有する屋根材により多くの外光を取り込むと、屋内の明るさが増すだけでなく、取り込まれた熱線によって屋内温度が上昇し易くなる。
【0007】
特に、上述したような工場等の広いスペースは、多数の人間が作業を行う上、熱を発する機械等も多く設置されることから、極めて屋内温度が上昇し易い環境にある。このような環境において上記従来のような透光性領域を有する屋根材を採用すると、屋内が高温となって作業環境が大幅に悪化するといった不都合が生じ易くなる。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、屋根材等に適用可能であり、外光を効率よく取り込みつつ近赤外光の透過を大幅に抑制し得る建材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の建材は、少なくとも一部に外光を透過する透光性領域を有する建材であって、赤外光を吸収する赤外吸収部材が、透光性領域を通って建材の一側から反対側に通り抜ける外光の少なくとも一部を通されるように設けられており、赤外吸収部材が、(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物を含む赤外吸収組成物の硬化物からなる赤外吸収板を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成を有する本発明の建材は、透光性領域を有することから外光を効率よく透過させることができる。また、赤外吸収部材が設けられていることから、透光性領域を通って反対側に取り込まれる外光のうちの近赤外光を遮蔽することができる。したがって、かかる建材を、例えば屋根材等に適用すれば、可視光を含む外光を取り込みつつ赤外光の透過を抑制することができ、屋内を明るくできるとともに、外光の取り込みによる屋内温度の上昇を抑制することが可能となる。なお、本明細書において、「外光」とは、建材に対していずれか一方の側にある光源から照射される光のことを意味し、必ずしも太陽光等の自然光には限定されない。
【0011】
上記本発明の建材においては、赤外吸収部材が、赤外吸収板と、この赤外吸収板に対向して配置された赤外吸収板よりも剛性の高い補強板とを備えるものであると好ましい。こうすれば、赤外吸収板だけでは剛性が不十分であるような場合であっても、赤外吸収部材は十分な剛性を保つことができる。これにより、例えば、長期使用によってもたわみや折れ曲がりが生じ難い等、赤外吸収部材は優れた耐久性を有するようになる。
【0012】
また、上記補強板は、断面波形に形成された波板であるとより好ましい。このような波板は、平板に比して優れた剛性を発揮し得ることから、薄い構造として軽量化を図った場合であっても優れた強度が得られる。したがって、このような波板を用いることで、軽量で且つ耐久性に優れる建材を容易に得ることが可能となる。
【0013】
より具体的には、上記補強板は、赤外吸収板に対して光の入射側に設けられていると好ましい。こうすれば、赤外吸収板よりも外側に補強板が配置されることとなる。これにより、赤外吸収板は、例えば太陽光の直接照射や雨水の付着等、当該板の劣化や赤外吸収特性の低下を引き起こし得る外部の影響を受け難くなる。その結果、赤外吸収部材による赤外吸収特性をより長期にわたって維持することが可能となる。特に、上述したような波板を補強板として用いれば赤外吸収部材の水切り性が良好となるため、本発明の建材は屋根材として更に好適となる。
【0014】
さらに、赤外吸収板の原料である赤外吸収組成物は、リン含有化合物として、ホスフィン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステル及びリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むと好ましい。このような赤外吸収組成物を硬化して得られる赤外吸収板は、赤外光を吸収する特性に更に優れ、建材の透光性領域を透過する赤外光(熱線)を更に効果的に遮蔽することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屋根材等に適用可能であり、外光を効率よく取り込みつつ近赤外光の透過を大幅に抑制し得る建材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、全図を通じ、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
まず、図1を参照して本発明の建材の好適な一例である屋根材について説明する。図1は、好適な実施形態の屋根材を概略的に示す斜視図である。図示されるように、屋根材10は、建物の屋根部分を構成するものであり、外光を透過しない部材である屋根部12と、この屋根部12の一部に複数形成された透光性領域14の部分に設けられた赤外吸収部材20とを備えている。
【0018】
屋根部12における透光性領域14は、太陽光等の外光の全波長をほぼ透過し得る領域である。例えば、屋根部12に後述するような開口部16を設けるか、また、外光に対して透明な材料からこの領域を形成することによって構成される。
【0019】
赤外吸収部材20は、透光性領域14を覆うように設けられている。これによって、透光性領域14を通って屋根材10を通り抜ける外光は、赤外吸収部材20も通されることとなる。この赤外吸収部材20は、外光に含まれる波長の光のうち、赤外又は赤外近傍領域の光(近赤外光)を吸収し得る部材である。なお、赤外吸収部材20は、近赤外光以外の波長の光も吸収することがあるが、少なくとも可視光の大部分は透過し得るように構成される。
【0020】
以下、図2〜図4を参照して屋根材10における屋根部12及び赤外吸収部材20の構成の幾つかの例について説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図2は、屋根部及び赤外吸収部材の構成の第1の実施形態を示す図であり、図1に示す屋根部12及び赤外吸収部材20をII−II方向からみた図である。本実施形態においては、屋根部12及び赤外吸収部材20がともに平板状の構成を有している。屋根部12には、開口部16が形成されている。本実施形態においては、この開口部16が図1における透光性領域14に該当する。屋根部12は、通常の建物の屋根部分と同様の構成を有するものであれば特に制限はない。
【0022】
赤外吸収部材20は、平板状の赤外吸収板22のみから構成され、屋根部12に設けられた開口部16を一方の側(ここでは外側)から覆うように設けられている。この赤外吸収部材20は、開口部16よりもやや大きな面積を有し、その周縁部が開口部16の周辺の屋根部12と重ねられている。そして、この部分がボルト・ナットのような固定具B1によって固定されることで、赤外吸収板22が屋根部12に取り付けられている。なお、赤外吸収板22の固定には、ボルト・ナット以外の公知の固定方法が適用でき、例えば、屋根部12が厚みを有する場合は、固定具B1としてボルトや釘を用い、これらを打ち込むことによって行うこともできる。また、屋根部12の材料に応じて接着等の手法を用いてもよい。
【0023】
赤外吸収板22は、(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物を含む赤外吸収組成物の硬化物から構成されるものである。以下、この赤外吸収組成物及びその硬化物について説明する。
【0024】
まず、赤外吸収組成物に含まれる(メタ)アクリル系モノマーについて説明する。
【0025】
(メタ)アクリル系モノマーは、(メタ)アクリル基を一つ又は二つ以上有するモノマーである。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」の表記は、「アクリル」及び「メタクリル」の両者をまとめて示すものであり、これらのうちいずれか一方又は両方を含むものを包含する。また、本明細書においては、「(メタ)アクリレート」も同様に、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者をまとめて示すものである。
【0026】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルにおいて、エステル結合の酸素に結合される官能基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。また、これらの基が、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合等を介して複数結合してなる官能基であってもよい。さらに、当該官能基には、更に、水酸基、アミノ基、チオール基、エポキシ基等が結合していてもよい。
【0027】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、以下に示す化合物が挙げられる。すなわち、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロシキプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレン(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート等の変性(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル]プロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、上述したものを単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、上述したなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、なかでも、エステル結合の酸素に結合される官能基が、炭素数4〜12のアルキル基であるものが好ましく、6〜10のアルキル基であるものがより好ましい。すなわち、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。下記式中、R11は水素原子又はメチル基、R12は炭素数4〜12のアルキル基、好ましくは炭素数6〜10のアルキル基を示す。
【化1】

【0029】
このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は複数種組み合わせて用いることができる。
【0030】
次に、銅イオンについて説明する。
【0031】
2価の銅イオンは、赤外吸収組成物中に、例えば、銅塩として供給される。このような銅塩の具体例としては、酢酸銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、エチルアセト酢酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、クエン酸銅等の有機酸の銅塩無水物、水和物若しくは水化物、或いは、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩基性炭酸銅等の無機酸の銅塩の無水物、水和物若しくは水化物、又は、水酸化銅が挙げられる。これらのなかでは、酢酸銅、酢酸銅一水和物、安息香酸銅、水酸化銅、塩基性炭酸銅が好ましく用いられる。なお、銅イオン源であるこれらの銅塩は、単独で用いてもよく、複数組み合わせて用いてもよい。
【0032】
銅イオンは、赤外吸収組成物に含有されて、当該組成物又はその硬化物に近赤外光を吸収する特性を付与し得るものである。また、かかる銅イオンは、後述するリン酸エステルと組み合わせて含有されることによって、赤外吸収組成物に対する溶解性が極めて良好なものとなる。よって、このような形態で銅イオンが配合された赤外吸収組成物は、近赤外光を吸収する特性に優れるほか、優れた可視光透過性をも有するものとなる。
【0033】
次に、リン含有化合物について説明する。
【0034】
リン含有化合物としては、下記一般式(2A)で表されるリン酸エステル化合物、下記一般式(2B)で表されるホスフィン酸化合物、下記一般式(2C)で表されるホスホン酸化合物、並びに、下記一般式(2D)で表されるホスホン酸エステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物が挙げられる。
【化2】

【0035】
上記式中、nは1又は2であり、R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリル基、オキシアルキル基、ポリオキシアルキル基、オキシアリール基、ポリオキシアリール基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又は(メタ)アクリロイルポリオキシアルキル基を示し、これらの基の炭素数は、それぞれ1〜30である。なお、これらの基は、当該基における少なくとも一つの水素原子が、ハロゲン原子、オキシアルキル基、ポリオキシアルキル基、オキシアリール基、ポリオキシアリール基、アシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキル基又はエステル基で置換されていてもよい。
【0036】
なお、リン含有化合物としては、上記式(2A)〜(2D)で表される化合物のうちの一種のみを用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、上記(2A)〜(2D)の各リン含有化合物についても、それぞれ上記各種の官能基を有するものを単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0037】
なかでも、リン含有化合物としては、上記一般式(2A)で表されるリン酸エステル化合物(モノエステル体及び/又はジエステル体)が好ましい。上記一般式(2A)で表されるリン酸エステル化合物において、R21で表される基としては、アルキル基、アルケニル基又は下記一般式(3)で表される重合性官能基が挙げられる。なお、下記一般式(3)中、Xは、水素原子又はメチル基を示し、pは2〜6の整数であり、mは0〜5の整数である。
【化3】

【0038】
上述したR21で表される官能基のうち、アルキル基としては、炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数1〜18のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基としては、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられ、なかでも、2−エチルヘキシル基が好ましい。また、アルケニル基としては、オレイル基が好ましい。
【0039】
次に、赤外吸収組成物の構成について説明する。
【0040】
赤外吸収組成物は、上述した(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物を含むものであり、これらの成分を溶媒中で混合すること等によって調製できる。この赤外吸収組成物において、2価の銅イオンは、2価の銅イオンのままの状態で存在していてもよく、上述したリン含有化合物とイオン結合又は配位結合を形成して、リン含有化合物−銅錯体の状態で存在していてもよい。
【0041】
後者のように錯体を形成していると、(メタ)アクリル系モノマーやその重合体に対する銅イオンの溶解性が高まり、赤外吸収組成物の硬化物の可視光透過性が優れるようになる。よって、赤外吸収組成物の調製に際しては、上述したような銅イオン源とリン含有化合物とを所定の溶媒中で混合して反応させること等によって、リン含有化合物−銅錯体を予め形成させてもよい。
【0042】
これらの成分の好適な含有量は、以下に示す通りである。すなわち、(メタ)アクリル系モノマーの含有量は、20〜99.5質量%であると好ましく、50〜99質量%であるとより好ましく、70〜99質量%であると更に好ましい。また、銅イオン及びリン含有化合物の含有量は、0.5〜80質量%であると好ましく、1〜50質量%であるとより好ましく、1〜30質量%であると更に好ましい。かかる含有量は、上述したリン含有化合物−銅錯体が形成される場合も同様である。また、銅イオンとリン含有化合物との配合比は、リン含有化合物が銅イオンとがイオン結合又は配位結合を形成し得る場合は、その結合又は配位が可能となるように適宜設定することが好ましい。
【0043】
なお、赤外吸収組成物には、(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物に加え、硬化物の特性を向上させるための他の成分を更に含有していてもよい。これらの他の成分の含有量は、得られる硬化物の赤外吸収特性や強度等を大きく低下させない程度とすることが好ましい。
【0044】
他の成分としては、光安定剤、紫外光に対する安定性を高める紫外光吸収剤、銅イオンの分散性を更に高める可塑剤、抗酸化剤、熱安定剤や、色調を調整する成分(染料、顔料、金属化合物等)を更に含んでいてもよい。例えば、光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)やNi系化合物が挙げられる。また、紫外光吸収剤としては、ベンゾエート系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。さらに、可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、脂肪酸系可塑剤、グリコール系可塑剤等が挙げられる。
【0045】
次に、赤外吸収組成物の硬化物について説明する。
【0046】
上述した赤外吸収組成物を加熱等により硬化させることで、赤外吸収板22を構成する硬化物が得られる。かかる硬化においては、赤外吸収組成物中の(メタ)アクリル系モノマーが重合を生じて(メタ)アクリル系ポリマーが形成される。得られるポリマーは、(メタ)アクリル系モノマーの構造単位を有していれば、他の単量体単位を含むコポリマーであってもよい。
【0047】
すなわち、赤外吸収組成物の硬化物は、(メタ)アクリル系ポリマー中に、銅イオン及びリン含有化合物、並びに/或いは、リン含有化合物−銅錯体が分散された構成を有するものとなる。なお、リン含有化合物が、(メタ)アクリル系モノマーと重合可能な官能基を有している場合は、リン含有化合物及び/又は銅錯体が、(メタ)アクリル系ポリマーのポリマー構造中に取り込まれていてもよい。
【0048】
上記構成を有する赤外吸収板22は、銅イオンが分散された構成を有していることから、近赤外光を含む外光が照射された場合には、銅イオンのd軌道間の電子遷移よって近赤外光を選択的に吸収することができる。また、赤外吸収組成物中の成分にもよるが、基本的には近赤外光以外の波長の光は透過できることから、外光中の可視光は効率よく透過することができる。つまり、赤外吸収板22は、可視光を良好に透過させつつ、近赤外光を選択的に遮蔽することができる。ただし、作用はこれらには必ずしも限定されない。
【0049】
したがって、本実施形態の屋根材10によれば、まず、外光が開口部16によって構成されている光透過領域14を通ることで屋内に十分に取り込まれる。また、この光透過領域14を通る外光は、当該領域14を覆っている赤外吸収部材20(赤外吸収板22)も通ることから、屋根材10を通り抜けて屋内に取り込まれる外光のうち、近赤外光は選択的に除かれる。その結果、外光(特に可視光)を良好に取り込んで屋内の明るさを確保しつつ、赤外光の取り込みを抑制して屋内の温度上昇を抑制することができるようになる。
【0050】
(第2の実施形態)
図3は、屋根部及び赤外吸収部材の第2の実施形態を示す図である。本実施形態においては、赤外吸収部材20が、赤外吸収板22と補強板である波板24とを組み合わせた構成を有している。
【0051】
屋根部12は、断面波状を有する波板によって構成されている。かかる波板からなる屋根材12としては、通常屋根材として用いられる公知の波板が適用でき、少なくとも可視光を透過しない不透明な材料から構成される。具体的には、例えば、トタンやスレートからなるもの等が例示できる。この屋根部12には開口部16が形成されている。本実施形態においては、この開口部16が図1における透光性領域14に該当する。
【0052】
赤外吸収部材20は、赤外吸収板22と、これに対向して配置された断面波状の波板24とを有している。平板状の赤外吸収板22は、上述した第1実施形態における赤外吸収板22(すなわち赤外吸収部材20)と同様のものであり、赤外光を吸収する特性を有している。また、波板24は、外光を透過し得る透明性を有しており、例えば、ポリカーボネートから構成される。この波板24は、断面波状を有することから高い剛性を有している。さらに、波板24は、例えば外光のうちの特定波長の光(例えば、紫外光)を遮蔽する特性等を更に有していてもよい。これによって、外光の照射による赤外吸収板22の劣化や赤外吸収特性の低減を図ることもできる。
【0053】
赤外吸収部材20において、波板24は、赤外吸収板22の上側、すなわち、屋根材10に対する外光の入射側に配置されている。この波板24と赤外吸収板22とは、外周領域が固定具B2によって固定されて一体化されている。この固定具B2としては、ボルト・ナット、釘、フックボルト等が挙げられる。このように赤外吸収板22を、これよりも剛性の高い波板24と組み合わせることで、平板状の赤外吸収板22単独では剛性の不足によりたわみ等が生じ易い場合等であっても、赤外吸収部材20全体としての剛性を十分に維持することができる。
【0054】
波板24は、開口部16よりもやや大きい面積を有している。また、赤外吸収板22は、開口部16とほぼ同じ面積を有している。さらに、波板24は、屋根部12と同様のピッチを有しており、その周縁部が開口部16の周辺の屋根部12に重ねられている。そして、この重ねられた部分が固定具B1によって固定されることで、赤外吸収部材20が屋根部12に取り付けられている。この状態で、赤外吸収板22は開口部16をほぼ塞ぐように配置されている。
【0055】
このように、本実施形態においては、屋根部12に設けられた開口部16(透光性領域14)を覆うように赤外吸収部材20が設けられている。したがって、開口部16による外光の取り込みが可能となるのに加え、この外光は赤外吸収板22を通されることから、取り込まれる外光のうちの赤外光が選択的に除かれる。その結果、可視光を良好に取り込んで屋内の明るさを確保しながら、赤外光の取り込みを抑制して屋内の温度上昇を抑制することができるようになる。
【0056】
また、赤外吸収部材20は、赤外吸収板22と、これよりも剛性の高い補強板である波板24とを備えており、赤外吸収板22を単独で用いる場合に比して優れた剛性を有している。したがって、本実施形態においては、屋根材10に取り付けられる赤外光吸収部材20のたわみや折れ曲がりといった不都合も大幅に生じ難くなる。さらに、赤外吸収部材20における波板24及び屋根部12は波板状となっていることから、雨水等を良好に排水することができる。さらにまた、波板24と屋根部12とは同様のピッチを有することから重ね合わせが容易であるほか、隙間なく重ね合わせることができることから水漏れ等も生じ難くなる。
【0057】
(第3の実施形態)
図4は、屋根部及び赤外吸収部材の第3の実施形態を示す図である。本実施形態においては、第2の実施形態と同様に、赤外吸収部材20が、赤外吸収板22と補強板である波板24とを組み合わせた構成を有しているが、波板24上に赤外吸収板22が設けられている点で構成が異なっている。屋根部12、赤外吸収板22及び波板24は、いずれも第2の実施形態におけるのと同様である。
【0058】
本実施形態においては、上述の如く、赤外吸収板22が、波板24の上部、すなわち屋根材10における光の入射側に載せられるように配置されている。そして、外周領域において赤外吸収板22と波板24とが固定具B2によって固定されて一体化されている。また、赤外吸収部材20における波板24は、屋根部12と同様のピッチを有しており、その周縁部が開口部16の周辺の屋根部12に重ねられている。そして、この重ねられた部分が固定具B1によって固定されて、赤外吸収部材20が屋根部12に取り付けられている。
【0059】
屋根部12及び赤外吸収部材20が上記のような構成を有する屋根材10においても、開口部16によって外光の取り込みが可能となるほか、この開口部16に設けられた赤外吸収部材20によって赤外光の選択的な遮蔽が可能となる。したがって、外光の取り込みによる屋内の明るさを確保しつつ、外光に含まれる赤外光による屋内温度の上昇を抑制することが可能となる。また、赤外吸収部材20は、赤外吸収板22と、補強板である波板24との組み合わせからなることから、優れた剛性を有することとなる。
【0060】
以上、本発明の建材の好適な実施形態である屋根材の例について説明したが、本発明の建材は、必ずしも上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様とすることができる。
【0061】
例えば、まず、上述した実施形態では、いずれも開口部16(透光性領域14)を覆うように屋根部12の上側(外光が入射される側)に赤外吸収部材20を設けたが、これに限定されず、赤外吸収部材20は、少なくとも透光性領域14を通って屋根材(建材)を抜ける外光が入射される位置に設けられていればよい。つまり、赤外吸収部材20は、建材(屋根材)のいずれか一方の側から透光性領域14を覆うように設けられていればよく、両側から覆うように設けられていてもよい。さらに、透光性領域14が上記のような開口部16である場合は、赤外吸収部材20は、この開口部16に嵌め込まれるような構成であってもよい。
【0062】
図5は、赤外吸収部材を屋根材の下側(光源と反対側)に設けた構成を模式的に示す断面図である。図示されるように、赤外吸収部材20は、上述した第2の実施形態と同様に、赤外吸収板22と、その上側に設けられた波板24とが、固定具B2によって固定された構成を有している。そして、本形態においては、波板24の周縁部が、屋根部12における透光性領域14である開口部16の周辺に下側から重ねられ、この部分が固定具B1によって固定されている。これによって、赤外吸収部材20が屋根部12に取り付けられている。
【0063】
このように赤外吸収部材20が屋根部12の下側に設けられた構成を有する屋根材10によっても、外光(特に可視光)は開口部16によって十分に取り込まれるが、この開口部16を透過した外光は、赤外吸収部材20も通されることとなるため、これに含まれる赤外光は選択的に吸収される。その結果、屋内の明るさを十分に確保しつつ、外光の取り込みによる屋内温度の上昇を十分に抑制することが可能となる。
【0064】
また、赤外吸収部材20において赤外吸収板22と組み合わせる補強板としては、赤外吸収板22よりも高い剛性を有し、少なくとも可視光を透過可能であるものであれば、上述した波板24に限定されない。また、波板24の形状は、図3〜5に示されるような繰り返し湾曲した断面形状を有するものに限られず、例えば、図6(a)に示すような上面30aと底面30bとが繰り返し設けられた形状であってもよく、また、図6(b)に示すような交互に反対側に折り曲げられた形状であってもよい。
【0065】
さらに、赤外吸収部材20において、赤外吸収板22と波板24との固定は、固定具B2を用いて行っていたが、例えば、接着剤等を用いて行ってもよい。また、これらは外周部のみを固定されていたが、例えば、外周部以外の部分が固定具や接着剤によって固定されてもよい。さらにまた、赤外吸収部材20においては、赤外吸収板22と波板24とを所定の部材を介して固定することで、両者が互いに接触しないようにしてもよい。同様に、赤外吸収部材20及び屋根部12も、外周部以外の部分で固定されてもよく、更に両者が接触しないようなっていてもよい。
【0066】
またさらに、赤外吸収部材20は、少なくとも赤外吸収板22の外側(光源側)に、紫外(UV)光を吸収又は反射し得るUVカット層又はUVカット部材を有していると好ましい。こうすれば、赤外吸収板22に入射される紫外光を抑制することができ、紫外光の入射による赤外吸収板22の劣化を抑制することが可能となる。その結果、赤外吸収部材20の耐候性が向上する。このようなUVカット層又は部材としては、UVカットフィルム、UVカットコーティング、UVカット板等が挙げられる。
【0067】
UVカット層又は部材を設ける具体的な態様としては、例えば、赤外吸収板22が最も外側に配置されている場合(図2又は4参照)、UVカットフィルム又はUVカットコーティングを赤外吸収板22の表面上に形成する形態、又は、UVカット板を赤外吸収板22よりも外側に配置する形態等が挙げられる。
【0068】
また、赤外吸収板22が波板24よりも内側に形成されている場合(図3又は図5参照)、UVカットフィルム又はUVカットコーティングを赤外吸収板22の表面上、又は、波板24の表面上に形成する形態、或いは、UVカット板を赤外吸収板22と波板24との間、又は、波板24よりも外側に配置する形態が挙げられる。なお、赤外吸収板22が波板24よりも内側に形成されている場合は、波板24の劣化を防止する観点から、波板24の外側にUVカット層又は部材を配置するとより好ましい。
【0069】
上述した態様のなかでも、UVカット層を赤外吸収板22又は波板24の表面上に形成する形態が、赤外吸収部材20の軽量化を可能にして屋根材10全体の耐久性を向上させ得ることから好適である。UVカット層としては、フッ化ビニリデン樹脂を含むフィルムからなるものが好ましく、フッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂を組み合わせて含むフィルムからなるものがより好ましい。また、UVカット層は、フッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂との配合比が異なるフィルムを複数積層させたものも好ましい。上述したなかでも、フッ化ビニリデン樹脂とアクリル樹脂とを組み合わせたフィルムは、その表面に汚れ等が付着し難いという特性を有していることから、UVカット層として極めて好適である。かかるフィルムを適用することによって、赤外吸収部材20の耐久性が更に向上するほか、赤外吸収部材20の透光性が長期にわたって良好に維持されるようになる。
【0070】
本発明の建材は、建物の構成のうちの少なくとも一部分を構成するものであればよく、上述しや屋根材10の構成に限定されない。例えば、上述した屋根材10は、屋根部分の全体を構成するものとして説明したが、屋根部分の一部のみを構成するものであってもよく、具体的には光を透過する領域を設けるためのユニットのような形態であってもよい。
【0071】
そして、本発明の建材は、上述した実施形態のような屋根材10に限られず、例えば外壁や、屋内を仕切る壁といった壁材等、種々の建材として適用することができる。これらの用途においても、外光(可視光)を良好に取り込みつつ赤外光を遮蔽できることから、明るさを向上させながら屋内の温度上昇を抑制で、屋内環境を快適に保つ効果が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】好適な実施形態の屋根材を概略的に示す斜視図である。
【図2】屋根部及び赤外吸収部材の構成の第1の実施形態を示す図である。
【図3】屋根部及び赤外吸収部材の構成の第2の実施形態を示す図である。
【図4】屋根部及び赤外吸収部材の構成の第3の実施形態を示す図である。
【図5】赤外吸収部材を屋根材の下側(外光が透過する側)に設けた構成を模式的に示す断面図である。
【図6】波板の他の形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10…屋根材、12…屋根部、14…透光性領域、16…開口部、20…赤外吸収部材、22…赤外吸収板、24…波板、30a…上面、30b…底面、B1,B2…固定具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に外光を透過する透光性領域を有する建材であって、
近赤外光を吸収する赤外吸収部材が、前記透光性領域を通って前記建材の一側から反対側に通り抜ける前記外光の少なくとも一部を通されるように設けられており、
前記赤外吸収部材が、(メタ)アクリル系モノマー、銅イオン及びリン含有化合物を含む赤外吸収組成物の硬化物からなる赤外吸収板を備える、
ことを特徴とする建材。
【請求項2】
前記赤外吸収部材は、前記赤外吸収板と、該赤外吸収板に対向して配置された前記赤外吸収板よりも剛性の高い補強板と、を備えることを特徴とする請求項1記載の建材。
【請求項3】
前記補強板は、断面波形に形成された波板であることを特徴とする請求項2記載の建材。
【請求項4】
前記補強板は、前記赤外吸収板に対して光の入射側に設けられていることを特徴とする請求項2又は3記載の建材。
【請求項5】
前記リン含有化合物は、ホスフィン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステル及びリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−231674(P2007−231674A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56820(P2006−56820)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】