建物の空気流シミュレーション方法
【課題】外気風を利用して複数の部屋の通風状態を三次元的に予測するためのシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】複数の部屋及び部屋どうし或いは内外を連通する開口部5を有する住宅に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、建物Aの内部及び外周部位で当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲を予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、且つ建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、自然風を設定して、該自然風が住宅の影響を受けて該住宅に沿った外周部を流れる際の挙動や、住宅に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動を立体的に予測する。
【解決手段】複数の部屋及び部屋どうし或いは内外を連通する開口部5を有する住宅に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、建物Aの内部及び外周部位で当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲を予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、且つ建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、自然風を設定して、該自然風が住宅の影響を受けて該住宅に沿った外周部を流れる際の挙動や、住宅に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動を立体的に予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物を構成する複数の部屋に対する空気流の流通状態を合理的に認識し得るシミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の部屋を有する建物に於ける通風を確保する場合、感覚的に判断して適当な位置に開口部を設けるのが一般的である。しかし、この方法では充分な通風を確保し得るか否かは保証されないため、一部では、各部屋の中心を代表値として計算する換気回路網という考え方が実行されている。
【0003】
換気回路網は、図12に示すように、部屋或いは仕切られた空間等の部屋51〜56の中心、及び風が入る開口部の風圧係数を設定し、この圧力のバランスと開口部の面積等を勘案して通風量を算出するものであり、風の動線を正確に示すものではない。例えば、部屋51について説明すると、この部屋51には開口部51a〜51eが形成されており、開口部51aから風が入るとした場合、該部屋51に形成された各開口部51a〜51eを介して隣接する部屋53,56に於ける中心部の圧力と、各開口部51a〜51eの面積とから出入りする風量が算出され、これに伴って、風の出入り方向が矢印で設定される。
【0004】
従って、換気回路網では、入ってきた風の量と、出ていくときの風の量が算出され、これに伴って建物の内部に於けるおおよその流れが平面的に想定されることになる。尚、図に於いて、矢印に添って記載された数値は風量を示し、四角で囲まれた数値は1時間当たりの換気回数を示している。
【0005】
一方、空調機器を利用することを前提とした場合、1個の閉鎖空間としての部屋を想定して、該空間内に於ける空気流を計算することがある。この方法では、隣接する他の空間との間の空気流は考慮せず、1個の閉鎖空間内で完結する気流が取り扱われる。風の条件を整えつつ前記手法を拡張することで、複数の部屋に流通する気流を計算することが出来るが、この場合、詳細な設計と計算を行なうことが必要である。
【0006】
また建物の模型を使用して風洞実験して該建物の内部の空気流を観測することも行なわれている(例えば非特許文献1参照)。この実験であっても、対象となる建物は内部が一つの空間として想定されており、複数の部屋に分割された建物を想定したものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「風洞実験及びCFDを併用した通風時の開口条件や主風向が異なる場合における建物内外の気流正常に関する研究」(日本建築学会計画系論文集、第520号、47−54)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の如く、現状では、建物に外部の風を取り入れたとき、屋内の複数の部屋を気流がどのように流通するか、を簡単に検討し得るような技術は確立していない。このため、部屋の内部に於ける風の通りを予測することが困難であるという問題がある。
【0009】
特に環境共生型住宅のように、中間期や夏期の居住性を空調機器を利用することなく通風によって向上させるような建物を設計する場合、建物の内部に配置された部屋の間の空気流、及び室内の空気流を三次元的に予測することが好ましいが、この予測のために詳細な設計計算を行なう必要が生じ、多大な時間と費用を必要とするという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、外気風を利用して複数の部屋の通風状態を三次元的に予測するためのシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る建物の空気流シミュレーション方法は、複数の部屋及び部屋どうし或いは屋内外を連通する開口部を有する建物に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、前記建物の内部と、該建物の外周部位であって当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲とを、予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、且つ、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、大気を吹きわたる風を設定して、該風が前記建物の影響を受けて前記建物の外周部に沿って流れる際の挙動と、風が前記建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動のいずれか一方或いは両方を立体的に予測することを特徴とするものである。
【0012】
上記建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の外周部位の所定の範囲は、前記建物の外壁から1m〜10mの範囲で設定されることが好ましい。
【0013】
上記シミュレーション方法では、建物の内部と外周の所定の範囲を予め設定された寸法を持つ直方体で仕切り、建物の外周であって前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体よりも大きい寸法を持つ直方体で仕切り、個々の直方体毎に、該直方体の各面に作用する圧力から気流の速度(風速)を計算し、この計算された風速を持った直方体を連続させることでシミュレーションし、これにより、建物の内部に於ける各部屋の気流の方向と風速を予測することが出来る。
【0014】
建物の外部を吹く風の風向,風速は一義的に設定し得るものではない。しかし、一定の条件を与えることによって、設計上合理的な風を定義することは出来る。例えば、夏期であっても冷房を利用することなく、通風によって居住性を確保するような場合、夏期に限定することによって主たる風向を南とし、人が気流に接したときの感触から風速を適当な値に設定することが出来る。
【0015】
目的の敷地に建物を建築したとき、建物に吹き付ける風は周囲の建物や立木等の環境に影響を受ける。このため、目的の建物を中心として所定範囲を比較的大きな寸法を持つ直方体に仕切り、予め風向,風速等の条件が設定された風が吹いたとして各仕切毎に風速を計算することによって、周囲の環境の影響を受けた風が建物に吹き付ける際の風向や風速等の状態を予測することが出来る。
【0016】
また建物の内部と該建物の外周の所定の範囲を比較的小さい寸法を持つ直方体に仕切り、上記風が建物に吹き付けるものとして各仕切毎に風速を計算することによって、建物の外壁による影響や、開口部を通して屋内に入り込んだ風の方向,風速を予測することが出来る。
【0017】
上記の如く、目的の建物の内外を夫々直方体に仕切り、個々の仕切毎に、該仕切に存在する壁や家具等の障害物による風への影響を考慮した風向,風速が計算されるため、各直方体を連続させて建物を復元することで、目的の建物の内部と外部の気流を予測することが出来る。
【0018】
また、上記何れかの建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の内部及び該建物の外周部位で所定の範囲を、前記建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4の寸法を持った直方体で仕切ることが好ましい。
【0019】
更に、高さについては、水平モジュールの1/2〜1/4の範囲であれば良く、直方体,立方体で良い。
【0020】
上記シミュレーション方法では、建物の内部と外周所定の範囲を仕切る際の寸法を、建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4とすることによって、屋内に配置された家具や備品の影響を考慮して正確なシミュレーションを行なうことが出来、精度の高い風向,風速を予測することが出来る。
【0021】
建物の内部を水平モジュール寸法の1/2よりも大きい寸法になるように仕切った場合、特に、家具に代表される備品が置かれた場合に精度が低下することになる。また1/4よりも小さい寸法になるように仕切った場合、多少の精度は得られるものの、計算に膨大な負担がかかり、且つ内部に人が存在した場合に生じる気流の乱れを考慮すると実用的ではない。
【0022】
更に、上記何れかの建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記屋内外を連通する開口部を介して前記建物に吹き込む風の風向、風速に多大な影響を及ぼす範囲であるか、又は、前記建物の外周部位で前記所定の範囲の外側であって、且つ、少なくとも前記建物を中心として水平方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲で設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る建物の空気流シミュレーション方法では、建物の内部及び外周部の所定の範囲を比較的小さい寸法を持った直方体で仕切り、且つ前記所定の範囲よりも外側所定範囲を比較的大きい寸法で仕切り、夫々の仕切毎に風向,風速を計算することで、建物の外周に於ける風の挙動及び建物の内部に於ける風の挙動を正確に予測することが出来る。
【0024】
このため、風の挙動の予測に基づいて、開閉可能な間仕切りの再検討や家具の再配置、或いは開口部の再配置を行なうことが可能となり、中間期や夏期に於ける居住性を通風によって向上させ得るようにすることが出来る。
【0025】
特に、建物の内部及び外周部の所定の範囲を仕切る際の寸法を、建物に設定されたモジュール寸法の1/2〜1/4の範囲の寸法に設定することで、目的の建物に対し最適な寸法で空気流シミュレーションを行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】対象となる住宅の間取りを説明する図である。
【図2】1階の気流の状態を説明する図である。
【図3】2階の気流の状態を説明する図である。
【図4】3階の気流の状態を説明する図である。
【図5】X1軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図6】X2軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図7】X3軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図8】X4軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図9】X5軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図10】間仕切りを閉鎖したときの1階の気流の状態を説明する図である。
【図11】間仕切りを閉鎖したときの2階の気流の状態を説明する図である。
【図12】従来の換気回路網を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、上記建物の空気流シミュレーション方法の好ましい実施形態について図を用いて説明する。
【0028】
本発明に係るシミュレーション方法は、敷地に目的の住宅が建築され、この周辺に予め想定された風が吹いたと仮定したとき、この敷地に隣接する他の建物や木立等の影響を受けた風が建築された建物に吹き付ける際の風向,風速を予測すると共に、この風が建物の影響を受けて該建物に沿った外周部を流れる際の挙動や、建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動を立体的に予測するためのものである。
【0029】
このため、建物の内部と外周部の所定の範囲では比較的小さい寸法を持った多数の直方体に仕切り、建物の外周部から前記範囲の外側に設定された所定範囲では比較的大きい寸法を持った多数の直方体に仕切り、夫々の直方体毎に風向,風速を予測してゆくことで、全体としての気流を認識し得るように構成したものである。
【0030】
特に、建物の内部及び外周の所定の範囲を仕切る際の寸法を建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4に設定することによって、各部屋に配置された家具や設備類或いは照明器具等の影響を考慮して風向,風速を予測することが可能であり、風の流れに対し合理的な家具の配置等を検討することが可能である。また建物の外周であって上記範囲よりも外側の範囲を仕切る場合、上記寸法範囲よりも大きく設定することによって、大気空間を適度な粗さで仕切り、精度の高い風向,風速を予測することが可能である。
【0031】
水平面の仕切は水平モジュールの1/2,1/3,1/4等の整数分の1(例えば、水平モジュールが900mmの場合、1/3の300mm)とし、また垂直面の仕切は天井や出入口等の高さの整数分の1(例えば、天井高さ2560mmの場合、1/8の320mm)とすることが好ましい。更に、傾斜した屋根や特殊な寸法を持つ場所があれば、この部分では三角柱や偏平な直方体に仕切ることが好ましい。
【0032】
各仕切毎の風速を計算する場合、特に計算手法を限定するものではないが、CFD(computational fluid dynamics 数値流体力学)の手法を採用することが好ましい。
【0033】
以下、本実施例について図1〜図11により具体的に説明する。特に、図1は住宅の間取りの例を示すものであり、同図(a)は複数の部屋を有する建物Aの1階の間取りを示し、同図(b)は2階の間取りを示している。また図の真上が北を示し、真下が南を示している。また図2〜図11は建物Aの内部及び外周部の風向と風速を矢印41〜43によって示したものである。
【0034】
本実施例に係る建物Aは、多くの住宅を代表する例であって本発明の住宅がこの構成に限定されるべきでないことは当然である。
【0035】
図に於いて、各階には廊下やホール等の空間を含む複数の部屋11〜14,21〜26が形成されており、各部屋11〜14,21〜26は風を通過させることのない例えば外壁や内壁等の壁或いは家具等の非通風部(壁部1)、及び開閉可能な襖等の間仕切部2によって区画されている。
【0036】
特に、1階の部屋11は図1(b)に11で示す吹抜部を有する吹抜部屋として構成(図7〜図9参照)されており、この部屋11に階段3が設置されている。1階の北側には車庫としての機能を持つ空間4が設けられている。また2階の部屋26の南側で部屋26の東側には上部が開放されたベランダ27が形成されており、このベランダ27には腰壁28が設けられている(図6参照)。更に、2階の部屋21と吹抜部屋11との境界にも手摺り29が形成されている。
【0037】
各部屋11〜14,21〜26には、夫々複数の開閉可能な開口部5が設けられている。これらの開口部5は、サイズの異なる窓や引き違い窓やすべり出し窓のように開閉機構の異なる窓等、或いは通風口,扉等によって構成されている。
【0038】
建物Aの屋根6は南側から北側にかけて上昇するように傾斜しており、屋内側も屋根6の傾斜と平行な天井が形成されている(図5〜図9参照)。2階の上部には屋上31が構成され、屋根6の北側の端部は屋上31の上方に位置しており、該屋上31側の壁1に開口部5が形成されている(3階部分の平面図であり、図7〜図9の立面図に於ける3階部分に対応する図4参照)。また屋上31の周囲には手摺り32が設けられている。
【0039】
尚、図1(a),(b)に於けるX1〜X5は、図5〜図9の立面図に対応する位置である。
【0040】
本実施例に於いて、上記建物Aはモジュール寸法が600mmに設定されており、該建物Aの内部、及び外周の所定の範囲はモジュール寸法の1/2である一辺の長さが300mmの寸法を持つ多数の直方体によって仕切られ(図1には図示せず)ている。
【0041】
上記寸法は小形の家具の寸法が300mmを基準として構成されるものが多いことから合理的な寸法といえる。しかし、より精度の高い気流の詳細を予測するためには、モジュール寸法の1/4である150mmで仕切るようにすると良い。
【0042】
建物Aの内部及び外周の所定の範囲を上記寸法よりも小さい寸法で仕切った場合、仕切の中に小さい設備部品(例えば扉の把手や花瓶等の什器類)を考慮することが必要となり、計算が煩雑になる。また仕切の寸法がモジュール寸法の1/2よりも大きくなった場合、寸法の極めて小さい換気口のような通風に影響を与える機能成分を度外視したり、仕切の寸法がモジュール寸法に接近するため、壁1や間仕切壁2或いは窓5からの影響を粗雑に反映するようになる虞がある。
【0043】
何れにしても、モジュール寸法に対する仕切寸法の比率を1/2〜1/4の範囲内で適宜設定することで、良好な状態で気流の方向や風速を予測することが可能である。
【0044】
上記寸法による仕切範囲は、建物Aの内部及び外周部の所定の範囲である。この所定の範囲は、外部を流れる風が建物Aの外壁1に衝突したときの挙動を予測し得る寸法であれば良く、建物Aの大きさによって1m〜10mの範囲で適宜設定される。本実施例では、建物Aは東西方向に約13m、南北方向に約10mの寸法を有しており、前記所定の範囲は建物Aの外周から1.5mに設定されている。
【0045】
また建物Aの外周から1.5mの範囲よりも外側に設定された所定範囲は、上記モジュール寸法との比率で設定された仕切寸法よりも大きい寸法で仕切られている。前記所定範囲とは、窓を介して建物Aに吹き込む風の風向,風速に多大な影響を及ぼす範囲であり、建物Aの外形寸法に対応して設定される。
【0046】
本実施例では、建物Aを中心として東西方向及び南北方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲を設定している(図示せず)。そして前記範囲を、一辺が600mm〜1200mmで且つ建物Aの内部に設定された仕切の寸法よりも大きい寸法となる多数の仕切を設定している。
【0047】
上記の如くして建物Aを中心として設定された範囲に、夫々異なる寸法を持った2種類の仕切を設定し、個々の仕切毎に風速を計算し風向を設定する。このとき、大気を吹きわたる風の向きと風速等の条件は予め設定しておく。
【0048】
本実施例では、中間期及び夏期に於ける建物A内の居住性を自然通風によって得ることを目的としており、この目的を実現するために、風向を南とし、風速を人が爽快感を得る値である4.2m/sとして設定している。しかし、前記設定条件が絶対的なものでないことは当然であり、建物Aを建築する際の立地条件や季節条件等から最適な値を設定することが好ましい。
【0049】
次に、上記の如く設定された建物Aと、この建物Aの内外に設定された多数の仕切、及び風の条件に基づいて計算された風向及び風速について図2〜図11により説明する。各図に於いて、矢印は風向を示し濃淡は風速の大小(濃い矢印41が風速が速い部位を示し、薄い矢印42が風速が遅い部位を示す)を示している。また個々の矢印或いは点43が夫々一つの仕切に対応している。
【0050】
図2〜図9は、建物Aの各階に設けた開閉可能な間仕切部2を全て開放した状態で、該建物Aに前述した条件の風が吹き付けた場合の風向と風速を平面及び立面で示したものであり、図10,図11は間仕切部2を全て閉鎖した状態で前述した条件の風が吹き付けた場合の風向と風速を示している。従って、図2〜図9を組み合わせることで、屋内の気流を三次元的に認識することが可能である。
【0051】
先ず、図2と図10、図3と図11を比較して間仕切部2の開閉が建物Aの屋内の気流に与える影響について調べる。建物Aの外周部位に於ける於ける風向,風速は略同一である。しかし、建物Aの屋内に於ける間仕切部2を有する部屋12,13,21,22,24,25の風向,風速は、間仕切部2が開放されているか否かに応じて大きく異なることが明らかである。
【0052】
また1階の部屋11に着目した場合、間仕切部2が開放された状態では、南側の下方に設けた開口部5から流入した風は略真っ直ぐに北に向かい、一部が部屋12に別れて北側の開口部5から外部に吹き出す。また間仕切部2が閉鎖された状態では、南側の可能に設けた開口部5から流入した風は真っ直ぐに北側の開口部5に向かい、この開口部5から外部に吹き出すが、階段3の北側にある壁部1に沿った気流の風速が増加する傾向があることが判明する。
【0053】
2階に着目した場合、間仕切部2が開放された状態では、部屋21〜23を通過して北側の開口部5から吹き出す。この風は、南側上方に設けた開口部5から流入した風ではなく、南側の下方の開口部から流入したものが多い。また間仕切部2が閉鎖された状態では部屋23を通って北側の開口部5から外部に吹き出す。
【0054】
次に、図2〜図9を組み合わせて建物Aの屋内の気流の状態を三次元的に調べる。
【0055】
X1軸に沿った方向では、図5に示すように、1階部分では吹き付ける風は部屋14の南面に形成されたポケット部分で巻き込みが生じていることが判明し、この部屋14の南側の開口部5から流入した風が部屋12の方向に流れていることが判明する。また2階の部屋25の南側が壁部1として形成されるため、外部の風は壁部1と衝突して乱れるものの屋内への流入がないことが判明し、部屋24の北側の開口部5から吹き出す風が他の部屋から流入したものであることが判明する。そして各部屋12,14,24,25を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0056】
X2軸に沿った方向では、図6に示すように、外部の風は南側の壁部1とベランダ27に設けた腰壁28に衝突して風向が変化することが判明し、1階部分では部屋13の南側の開口部5から流入した風は、該部屋13を通過して部屋12から北側の開口部5を通って吹き出すことが判明する。また2階では部屋26と腰壁28とによって形成されたベランダ27上の空間に巻き込みが生じること、部屋26に流入した風は略全部が部屋24に入り、該部屋24の北側に設けた開口部5から吹き出すことが判明する。また各部屋13,24,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0057】
X3軸に沿った方向では、図7に示すように、外部の風は一部が南側の壁部1に衝突して風向が変化し、他の一部が部屋11の南側上部に設けた開口部5から屋内に流入し、更に、体部分は屋根6の傾斜面に沿って矢印41として流れる。屋根6に沿った気流は、該屋根6の北側の端部である頂部で最も強くなり、慣性によって端部から屋根6の傾斜方向に流れ、更に、この流れに伴って屋上31の上部には反対方向の気流が発生することが判明する。
【0058】
1階部分に於いて、部屋11の南側上部の開口部5から流入した風は、該開口部5を構成する窓の開閉状態に応じて風向が制御され、大部分が部屋11の上方を天井面に向かって流れると共に該天井に沿って屋上31の北側に設けた開口部5から外部に吹き出し、一部が2階の部屋26を通って北側の開口部5から吹き出すことが判明する。また各部屋11,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0059】
X4軸に沿った方向では、図8に示すように、外部の風は部屋11の南側の下部に設けた開口部5と上方に設けた開口部5とから流入する。上方の開口部5から流入した風は前述したX3軸の場合と同様に、天井に沿って流れて屋上31に設けた開口部5から吹き出す。また部屋11の下部に設けた開口部5から流入した風は、部屋11を通って正面の壁部1と衝突して別れ、一部は部屋11の北側の開口部5から、一部は部屋12を通って該部屋12の北側の開口部5から外部に吹き出し、更に他の一部は1階の天井(2階の床)に衝突して風向が変化し、2階の部屋26の上部を通って外部に吹き出すことが判明する。また各部屋11,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0060】
X5軸に沿った方向では、図9に示すように、外部の風は部屋11の南側の下部に設けた開口部5と上方に設けた開口部5とから流入する。夫々の開口部5から流入した風は前述したX4軸の場合と同様に、一部が天井に沿って流れて屋上31に設けた開口部5から吹き出す。また部屋11の下部に設けた開口部5から流入した風は、該部屋11の北側の開口部5から外部に吹き出し、他の一部は2階に設けた手摺り28に衝突して略直角に風向が変化し、2階の部屋21に流入し、その後部屋22を通って外部に吹き出すことが判明する。また各部屋11,21,22を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0061】
上記の如く、建物Aの内部と外周の所定の範囲をモジュール寸法の1/2〜1/4の範囲の寸法を持った立法体で仕切り、個々の仕切毎に風向,風速を計算することで、該建物Aの内外部位に於ける風の通り方を正確にシミュレーションすることが可能となり、目的の建物Aの内部及び外周部の所定の範囲に於ける風向,風速を予測することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
A 建物
X1〜X5 軸
1 壁部
2 間仕切部
3 階段
4 空間
5 開口部
6 屋根
11〜14,21〜26 部屋
27 ベランダ
28 腰壁
29,32 手摺り
31 屋上
41,42 矢印
43 点
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物を構成する複数の部屋に対する空気流の流通状態を合理的に認識し得るシミュレーション方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の部屋を有する建物に於ける通風を確保する場合、感覚的に判断して適当な位置に開口部を設けるのが一般的である。しかし、この方法では充分な通風を確保し得るか否かは保証されないため、一部では、各部屋の中心を代表値として計算する換気回路網という考え方が実行されている。
【0003】
換気回路網は、図12に示すように、部屋或いは仕切られた空間等の部屋51〜56の中心、及び風が入る開口部の風圧係数を設定し、この圧力のバランスと開口部の面積等を勘案して通風量を算出するものであり、風の動線を正確に示すものではない。例えば、部屋51について説明すると、この部屋51には開口部51a〜51eが形成されており、開口部51aから風が入るとした場合、該部屋51に形成された各開口部51a〜51eを介して隣接する部屋53,56に於ける中心部の圧力と、各開口部51a〜51eの面積とから出入りする風量が算出され、これに伴って、風の出入り方向が矢印で設定される。
【0004】
従って、換気回路網では、入ってきた風の量と、出ていくときの風の量が算出され、これに伴って建物の内部に於けるおおよその流れが平面的に想定されることになる。尚、図に於いて、矢印に添って記載された数値は風量を示し、四角で囲まれた数値は1時間当たりの換気回数を示している。
【0005】
一方、空調機器を利用することを前提とした場合、1個の閉鎖空間としての部屋を想定して、該空間内に於ける空気流を計算することがある。この方法では、隣接する他の空間との間の空気流は考慮せず、1個の閉鎖空間内で完結する気流が取り扱われる。風の条件を整えつつ前記手法を拡張することで、複数の部屋に流通する気流を計算することが出来るが、この場合、詳細な設計と計算を行なうことが必要である。
【0006】
また建物の模型を使用して風洞実験して該建物の内部の空気流を観測することも行なわれている(例えば非特許文献1参照)。この実験であっても、対象となる建物は内部が一つの空間として想定されており、複数の部屋に分割された建物を想定したものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「風洞実験及びCFDを併用した通風時の開口条件や主風向が異なる場合における建物内外の気流正常に関する研究」(日本建築学会計画系論文集、第520号、47−54)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の如く、現状では、建物に外部の風を取り入れたとき、屋内の複数の部屋を気流がどのように流通するか、を簡単に検討し得るような技術は確立していない。このため、部屋の内部に於ける風の通りを予測することが困難であるという問題がある。
【0009】
特に環境共生型住宅のように、中間期や夏期の居住性を空調機器を利用することなく通風によって向上させるような建物を設計する場合、建物の内部に配置された部屋の間の空気流、及び室内の空気流を三次元的に予測することが好ましいが、この予測のために詳細な設計計算を行なう必要が生じ、多大な時間と費用を必要とするという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、外気風を利用して複数の部屋の通風状態を三次元的に予測するためのシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る建物の空気流シミュレーション方法は、複数の部屋及び部屋どうし或いは屋内外を連通する開口部を有する建物に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、前記建物の内部と、該建物の外周部位であって当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲とを、予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、且つ、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、大気を吹きわたる風を設定して、該風が前記建物の影響を受けて前記建物の外周部に沿って流れる際の挙動と、風が前記建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動のいずれか一方或いは両方を立体的に予測することを特徴とするものである。
【0012】
上記建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の外周部位の所定の範囲は、前記建物の外壁から1m〜10mの範囲で設定されることが好ましい。
【0013】
上記シミュレーション方法では、建物の内部と外周の所定の範囲を予め設定された寸法を持つ直方体で仕切り、建物の外周であって前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体よりも大きい寸法を持つ直方体で仕切り、個々の直方体毎に、該直方体の各面に作用する圧力から気流の速度(風速)を計算し、この計算された風速を持った直方体を連続させることでシミュレーションし、これにより、建物の内部に於ける各部屋の気流の方向と風速を予測することが出来る。
【0014】
建物の外部を吹く風の風向,風速は一義的に設定し得るものではない。しかし、一定の条件を与えることによって、設計上合理的な風を定義することは出来る。例えば、夏期であっても冷房を利用することなく、通風によって居住性を確保するような場合、夏期に限定することによって主たる風向を南とし、人が気流に接したときの感触から風速を適当な値に設定することが出来る。
【0015】
目的の敷地に建物を建築したとき、建物に吹き付ける風は周囲の建物や立木等の環境に影響を受ける。このため、目的の建物を中心として所定範囲を比較的大きな寸法を持つ直方体に仕切り、予め風向,風速等の条件が設定された風が吹いたとして各仕切毎に風速を計算することによって、周囲の環境の影響を受けた風が建物に吹き付ける際の風向や風速等の状態を予測することが出来る。
【0016】
また建物の内部と該建物の外周の所定の範囲を比較的小さい寸法を持つ直方体に仕切り、上記風が建物に吹き付けるものとして各仕切毎に風速を計算することによって、建物の外壁による影響や、開口部を通して屋内に入り込んだ風の方向,風速を予測することが出来る。
【0017】
上記の如く、目的の建物の内外を夫々直方体に仕切り、個々の仕切毎に、該仕切に存在する壁や家具等の障害物による風への影響を考慮した風向,風速が計算されるため、各直方体を連続させて建物を復元することで、目的の建物の内部と外部の気流を予測することが出来る。
【0018】
また、上記何れかの建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の内部及び該建物の外周部位で所定の範囲を、前記建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4の寸法を持った直方体で仕切ることが好ましい。
【0019】
更に、高さについては、水平モジュールの1/2〜1/4の範囲であれば良く、直方体,立方体で良い。
【0020】
上記シミュレーション方法では、建物の内部と外周所定の範囲を仕切る際の寸法を、建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4とすることによって、屋内に配置された家具や備品の影響を考慮して正確なシミュレーションを行なうことが出来、精度の高い風向,風速を予測することが出来る。
【0021】
建物の内部を水平モジュール寸法の1/2よりも大きい寸法になるように仕切った場合、特に、家具に代表される備品が置かれた場合に精度が低下することになる。また1/4よりも小さい寸法になるように仕切った場合、多少の精度は得られるものの、計算に膨大な負担がかかり、且つ内部に人が存在した場合に生じる気流の乱れを考慮すると実用的ではない。
【0022】
更に、上記何れかの建物の空気流シミュレーション方法に於いて、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記屋内外を連通する開口部を介して前記建物に吹き込む風の風向、風速に多大な影響を及ぼす範囲であるか、又は、前記建物の外周部位で前記所定の範囲の外側であって、且つ、少なくとも前記建物を中心として水平方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲で設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る建物の空気流シミュレーション方法では、建物の内部及び外周部の所定の範囲を比較的小さい寸法を持った直方体で仕切り、且つ前記所定の範囲よりも外側所定範囲を比較的大きい寸法で仕切り、夫々の仕切毎に風向,風速を計算することで、建物の外周に於ける風の挙動及び建物の内部に於ける風の挙動を正確に予測することが出来る。
【0024】
このため、風の挙動の予測に基づいて、開閉可能な間仕切りの再検討や家具の再配置、或いは開口部の再配置を行なうことが可能となり、中間期や夏期に於ける居住性を通風によって向上させ得るようにすることが出来る。
【0025】
特に、建物の内部及び外周部の所定の範囲を仕切る際の寸法を、建物に設定されたモジュール寸法の1/2〜1/4の範囲の寸法に設定することで、目的の建物に対し最適な寸法で空気流シミュレーションを行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】対象となる住宅の間取りを説明する図である。
【図2】1階の気流の状態を説明する図である。
【図3】2階の気流の状態を説明する図である。
【図4】3階の気流の状態を説明する図である。
【図5】X1軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図6】X2軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図7】X3軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図8】X4軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図9】X5軸に一致した断面の気流の状態を説明する図である。
【図10】間仕切りを閉鎖したときの1階の気流の状態を説明する図である。
【図11】間仕切りを閉鎖したときの2階の気流の状態を説明する図である。
【図12】従来の換気回路網を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、上記建物の空気流シミュレーション方法の好ましい実施形態について図を用いて説明する。
【0028】
本発明に係るシミュレーション方法は、敷地に目的の住宅が建築され、この周辺に予め想定された風が吹いたと仮定したとき、この敷地に隣接する他の建物や木立等の影響を受けた風が建築された建物に吹き付ける際の風向,風速を予測すると共に、この風が建物の影響を受けて該建物に沿った外周部を流れる際の挙動や、建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動を立体的に予測するためのものである。
【0029】
このため、建物の内部と外周部の所定の範囲では比較的小さい寸法を持った多数の直方体に仕切り、建物の外周部から前記範囲の外側に設定された所定範囲では比較的大きい寸法を持った多数の直方体に仕切り、夫々の直方体毎に風向,風速を予測してゆくことで、全体としての気流を認識し得るように構成したものである。
【0030】
特に、建物の内部及び外周の所定の範囲を仕切る際の寸法を建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4に設定することによって、各部屋に配置された家具や設備類或いは照明器具等の影響を考慮して風向,風速を予測することが可能であり、風の流れに対し合理的な家具の配置等を検討することが可能である。また建物の外周であって上記範囲よりも外側の範囲を仕切る場合、上記寸法範囲よりも大きく設定することによって、大気空間を適度な粗さで仕切り、精度の高い風向,風速を予測することが可能である。
【0031】
水平面の仕切は水平モジュールの1/2,1/3,1/4等の整数分の1(例えば、水平モジュールが900mmの場合、1/3の300mm)とし、また垂直面の仕切は天井や出入口等の高さの整数分の1(例えば、天井高さ2560mmの場合、1/8の320mm)とすることが好ましい。更に、傾斜した屋根や特殊な寸法を持つ場所があれば、この部分では三角柱や偏平な直方体に仕切ることが好ましい。
【0032】
各仕切毎の風速を計算する場合、特に計算手法を限定するものではないが、CFD(computational fluid dynamics 数値流体力学)の手法を採用することが好ましい。
【0033】
以下、本実施例について図1〜図11により具体的に説明する。特に、図1は住宅の間取りの例を示すものであり、同図(a)は複数の部屋を有する建物Aの1階の間取りを示し、同図(b)は2階の間取りを示している。また図の真上が北を示し、真下が南を示している。また図2〜図11は建物Aの内部及び外周部の風向と風速を矢印41〜43によって示したものである。
【0034】
本実施例に係る建物Aは、多くの住宅を代表する例であって本発明の住宅がこの構成に限定されるべきでないことは当然である。
【0035】
図に於いて、各階には廊下やホール等の空間を含む複数の部屋11〜14,21〜26が形成されており、各部屋11〜14,21〜26は風を通過させることのない例えば外壁や内壁等の壁或いは家具等の非通風部(壁部1)、及び開閉可能な襖等の間仕切部2によって区画されている。
【0036】
特に、1階の部屋11は図1(b)に11で示す吹抜部を有する吹抜部屋として構成(図7〜図9参照)されており、この部屋11に階段3が設置されている。1階の北側には車庫としての機能を持つ空間4が設けられている。また2階の部屋26の南側で部屋26の東側には上部が開放されたベランダ27が形成されており、このベランダ27には腰壁28が設けられている(図6参照)。更に、2階の部屋21と吹抜部屋11との境界にも手摺り29が形成されている。
【0037】
各部屋11〜14,21〜26には、夫々複数の開閉可能な開口部5が設けられている。これらの開口部5は、サイズの異なる窓や引き違い窓やすべり出し窓のように開閉機構の異なる窓等、或いは通風口,扉等によって構成されている。
【0038】
建物Aの屋根6は南側から北側にかけて上昇するように傾斜しており、屋内側も屋根6の傾斜と平行な天井が形成されている(図5〜図9参照)。2階の上部には屋上31が構成され、屋根6の北側の端部は屋上31の上方に位置しており、該屋上31側の壁1に開口部5が形成されている(3階部分の平面図であり、図7〜図9の立面図に於ける3階部分に対応する図4参照)。また屋上31の周囲には手摺り32が設けられている。
【0039】
尚、図1(a),(b)に於けるX1〜X5は、図5〜図9の立面図に対応する位置である。
【0040】
本実施例に於いて、上記建物Aはモジュール寸法が600mmに設定されており、該建物Aの内部、及び外周の所定の範囲はモジュール寸法の1/2である一辺の長さが300mmの寸法を持つ多数の直方体によって仕切られ(図1には図示せず)ている。
【0041】
上記寸法は小形の家具の寸法が300mmを基準として構成されるものが多いことから合理的な寸法といえる。しかし、より精度の高い気流の詳細を予測するためには、モジュール寸法の1/4である150mmで仕切るようにすると良い。
【0042】
建物Aの内部及び外周の所定の範囲を上記寸法よりも小さい寸法で仕切った場合、仕切の中に小さい設備部品(例えば扉の把手や花瓶等の什器類)を考慮することが必要となり、計算が煩雑になる。また仕切の寸法がモジュール寸法の1/2よりも大きくなった場合、寸法の極めて小さい換気口のような通風に影響を与える機能成分を度外視したり、仕切の寸法がモジュール寸法に接近するため、壁1や間仕切壁2或いは窓5からの影響を粗雑に反映するようになる虞がある。
【0043】
何れにしても、モジュール寸法に対する仕切寸法の比率を1/2〜1/4の範囲内で適宜設定することで、良好な状態で気流の方向や風速を予測することが可能である。
【0044】
上記寸法による仕切範囲は、建物Aの内部及び外周部の所定の範囲である。この所定の範囲は、外部を流れる風が建物Aの外壁1に衝突したときの挙動を予測し得る寸法であれば良く、建物Aの大きさによって1m〜10mの範囲で適宜設定される。本実施例では、建物Aは東西方向に約13m、南北方向に約10mの寸法を有しており、前記所定の範囲は建物Aの外周から1.5mに設定されている。
【0045】
また建物Aの外周から1.5mの範囲よりも外側に設定された所定範囲は、上記モジュール寸法との比率で設定された仕切寸法よりも大きい寸法で仕切られている。前記所定範囲とは、窓を介して建物Aに吹き込む風の風向,風速に多大な影響を及ぼす範囲であり、建物Aの外形寸法に対応して設定される。
【0046】
本実施例では、建物Aを中心として東西方向及び南北方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲を設定している(図示せず)。そして前記範囲を、一辺が600mm〜1200mmで且つ建物Aの内部に設定された仕切の寸法よりも大きい寸法となる多数の仕切を設定している。
【0047】
上記の如くして建物Aを中心として設定された範囲に、夫々異なる寸法を持った2種類の仕切を設定し、個々の仕切毎に風速を計算し風向を設定する。このとき、大気を吹きわたる風の向きと風速等の条件は予め設定しておく。
【0048】
本実施例では、中間期及び夏期に於ける建物A内の居住性を自然通風によって得ることを目的としており、この目的を実現するために、風向を南とし、風速を人が爽快感を得る値である4.2m/sとして設定している。しかし、前記設定条件が絶対的なものでないことは当然であり、建物Aを建築する際の立地条件や季節条件等から最適な値を設定することが好ましい。
【0049】
次に、上記の如く設定された建物Aと、この建物Aの内外に設定された多数の仕切、及び風の条件に基づいて計算された風向及び風速について図2〜図11により説明する。各図に於いて、矢印は風向を示し濃淡は風速の大小(濃い矢印41が風速が速い部位を示し、薄い矢印42が風速が遅い部位を示す)を示している。また個々の矢印或いは点43が夫々一つの仕切に対応している。
【0050】
図2〜図9は、建物Aの各階に設けた開閉可能な間仕切部2を全て開放した状態で、該建物Aに前述した条件の風が吹き付けた場合の風向と風速を平面及び立面で示したものであり、図10,図11は間仕切部2を全て閉鎖した状態で前述した条件の風が吹き付けた場合の風向と風速を示している。従って、図2〜図9を組み合わせることで、屋内の気流を三次元的に認識することが可能である。
【0051】
先ず、図2と図10、図3と図11を比較して間仕切部2の開閉が建物Aの屋内の気流に与える影響について調べる。建物Aの外周部位に於ける於ける風向,風速は略同一である。しかし、建物Aの屋内に於ける間仕切部2を有する部屋12,13,21,22,24,25の風向,風速は、間仕切部2が開放されているか否かに応じて大きく異なることが明らかである。
【0052】
また1階の部屋11に着目した場合、間仕切部2が開放された状態では、南側の下方に設けた開口部5から流入した風は略真っ直ぐに北に向かい、一部が部屋12に別れて北側の開口部5から外部に吹き出す。また間仕切部2が閉鎖された状態では、南側の可能に設けた開口部5から流入した風は真っ直ぐに北側の開口部5に向かい、この開口部5から外部に吹き出すが、階段3の北側にある壁部1に沿った気流の風速が増加する傾向があることが判明する。
【0053】
2階に着目した場合、間仕切部2が開放された状態では、部屋21〜23を通過して北側の開口部5から吹き出す。この風は、南側上方に設けた開口部5から流入した風ではなく、南側の下方の開口部から流入したものが多い。また間仕切部2が閉鎖された状態では部屋23を通って北側の開口部5から外部に吹き出す。
【0054】
次に、図2〜図9を組み合わせて建物Aの屋内の気流の状態を三次元的に調べる。
【0055】
X1軸に沿った方向では、図5に示すように、1階部分では吹き付ける風は部屋14の南面に形成されたポケット部分で巻き込みが生じていることが判明し、この部屋14の南側の開口部5から流入した風が部屋12の方向に流れていることが判明する。また2階の部屋25の南側が壁部1として形成されるため、外部の風は壁部1と衝突して乱れるものの屋内への流入がないことが判明し、部屋24の北側の開口部5から吹き出す風が他の部屋から流入したものであることが判明する。そして各部屋12,14,24,25を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0056】
X2軸に沿った方向では、図6に示すように、外部の風は南側の壁部1とベランダ27に設けた腰壁28に衝突して風向が変化することが判明し、1階部分では部屋13の南側の開口部5から流入した風は、該部屋13を通過して部屋12から北側の開口部5を通って吹き出すことが判明する。また2階では部屋26と腰壁28とによって形成されたベランダ27上の空間に巻き込みが生じること、部屋26に流入した風は略全部が部屋24に入り、該部屋24の北側に設けた開口部5から吹き出すことが判明する。また各部屋13,24,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0057】
X3軸に沿った方向では、図7に示すように、外部の風は一部が南側の壁部1に衝突して風向が変化し、他の一部が部屋11の南側上部に設けた開口部5から屋内に流入し、更に、体部分は屋根6の傾斜面に沿って矢印41として流れる。屋根6に沿った気流は、該屋根6の北側の端部である頂部で最も強くなり、慣性によって端部から屋根6の傾斜方向に流れ、更に、この流れに伴って屋上31の上部には反対方向の気流が発生することが判明する。
【0058】
1階部分に於いて、部屋11の南側上部の開口部5から流入した風は、該開口部5を構成する窓の開閉状態に応じて風向が制御され、大部分が部屋11の上方を天井面に向かって流れると共に該天井に沿って屋上31の北側に設けた開口部5から外部に吹き出し、一部が2階の部屋26を通って北側の開口部5から吹き出すことが判明する。また各部屋11,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0059】
X4軸に沿った方向では、図8に示すように、外部の風は部屋11の南側の下部に設けた開口部5と上方に設けた開口部5とから流入する。上方の開口部5から流入した風は前述したX3軸の場合と同様に、天井に沿って流れて屋上31に設けた開口部5から吹き出す。また部屋11の下部に設けた開口部5から流入した風は、部屋11を通って正面の壁部1と衝突して別れ、一部は部屋11の北側の開口部5から、一部は部屋12を通って該部屋12の北側の開口部5から外部に吹き出し、更に他の一部は1階の天井(2階の床)に衝突して風向が変化し、2階の部屋26の上部を通って外部に吹き出すことが判明する。また各部屋11,26を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0060】
X5軸に沿った方向では、図9に示すように、外部の風は部屋11の南側の下部に設けた開口部5と上方に設けた開口部5とから流入する。夫々の開口部5から流入した風は前述したX4軸の場合と同様に、一部が天井に沿って流れて屋上31に設けた開口部5から吹き出す。また部屋11の下部に設けた開口部5から流入した風は、該部屋11の北側の開口部5から外部に吹き出し、他の一部は2階に設けた手摺り28に衝突して略直角に風向が変化し、2階の部屋21に流入し、その後部屋22を通って外部に吹き出すことが判明する。また各部屋11,21,22を吹き抜ける風は矢印42の向きと大きさとによって、風向と風速が判明する。
【0061】
上記の如く、建物Aの内部と外周の所定の範囲をモジュール寸法の1/2〜1/4の範囲の寸法を持った立法体で仕切り、個々の仕切毎に風向,風速を計算することで、該建物Aの内外部位に於ける風の通り方を正確にシミュレーションすることが可能となり、目的の建物Aの内部及び外周部の所定の範囲に於ける風向,風速を予測することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
A 建物
X1〜X5 軸
1 壁部
2 間仕切部
3 階段
4 空間
5 開口部
6 屋根
11〜14,21〜26 部屋
27 ベランダ
28 腰壁
29,32 手摺り
31 屋上
41,42 矢印
43 点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部屋及び部屋どうし或いは屋内外を連通する開口部を有する建物に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、
前記建物の内部と、該建物の外周部位であって当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲とを、予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、
且つ、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、
大気を吹きわたる風を設定して、該風が前記建物の影響を受けて前記建物の外周部に沿って流れる際の挙動と、風が前記建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動のいずれか一方或いは両方を立体的に予測する
ことを特徴とする建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項2】
前記建物の外周部位の所定の範囲は、前記建物の外壁から1m〜10mの範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項3】
前記建物の内部及び該建物の外周部位で所定の範囲を、前記建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4の寸法を持った直方体で仕切る
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項4】
前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記屋内外を連通する開口部を介して前記建物に吹き込む風の風向、風速に多大な影響を及ぼす範囲である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項5】
前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記建物の外周部位で前記所定の範囲の外側であって、且つ、少なくとも前記建物を中心として水平方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲で設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項1】
複数の部屋及び部屋どうし或いは屋内外を連通する開口部を有する建物に於ける空気流のシミュレーションを行なうに当たり、
前記建物の内部と、該建物の外周部位であって当該建物の外部を流れる風が建物の外壁に衝突したときの挙動を予測し得る所定の範囲とを、予め設定された寸法を持った直方体で仕切り、
且つ、前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲を前記直方体の寸法よりも大きい寸法を持った直方体で仕切り、
大気を吹きわたる風を設定して、該風が前記建物の影響を受けて前記建物の外周部に沿って流れる際の挙動と、風が前記建物に形成された開口部から屋内に入り込んで他の開口部から出て行くまでの挙動のいずれか一方或いは両方を立体的に予測する
ことを特徴とする建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項2】
前記建物の外周部位の所定の範囲は、前記建物の外壁から1m〜10mの範囲で設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項3】
前記建物の内部及び該建物の外周部位で所定の範囲を、前記建物に設定された水平モジュール寸法の1/2〜1/4の寸法を持った直方体で仕切る
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項4】
前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記屋内外を連通する開口部を介して前記建物に吹き込む風の風向、風速に多大な影響を及ぼす範囲である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【請求項5】
前記建物の外周部位で前記所定の範囲よりも更に外側の所定範囲は、前記建物の外周部位で前記所定の範囲の外側であって、且つ、少なくとも前記建物を中心として水平方向に夫々一辺が100m、高さ方向に50mの範囲で設定されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物の空気流シミュレーション方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−34586(P2011−34586A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239200(P2010−239200)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【分割の表示】特願2000−208691(P2000−208691)の分割
【原出願日】平成12年7月10日(2000.7.10)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【分割の表示】特願2000−208691(P2000−208691)の分割
【原出願日】平成12年7月10日(2000.7.10)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】
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