建物の被災診断システム
【課題】地震によって建物が被災した状況を遠隔で的確に把握できるとともに、被災程度に応じて優先順位を付けて迅速な対応をおこなうことが可能になる建物の被災診断システムを提供する。
【解決手段】地震による複数のユニット建物5A−5Cの被災状況を診断する建物の被災診断システム1である。
そして、ユニット建物5A−5C毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震計2A−2Cと、そこから送信された地震波を受信する受信部43と、その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとからユニット建物5A−5Cの層間変形量を算出する層間変形量算出部44と、そこで算出された建物毎の層間変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部41と、を備えている。
【解決手段】地震による複数のユニット建物5A−5Cの被災状況を診断する建物の被災診断システム1である。
そして、ユニット建物5A−5C毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震計2A−2Cと、そこから送信された地震波を受信する受信部43と、その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとからユニット建物5A−5Cの層間変形量を算出する層間変形量算出部44と、そこで算出された建物毎の層間変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部41と、を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震によって建物が被災した際に、その被災状況を診断する被災診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、過去に起きた大地震の地震波を建物の構造データに入力して、建物の変形量を算出し、その建物の耐震性を評価する耐震性能診断システムが知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
この耐震性能診断システムは、建設する前の設計段階の住宅、又は建設後の住宅に対して、耐震性能を診断し、耐震性能を強化したり、資産価値又は被災時の改修費を算定したりするために使用されている。
【特許文献1】特開2007−42051号公報
【特許文献2】特開2003−147970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、大地震が発生した場合に、多くの顧客を抱える住宅メーカなどでは、顧客の被災状況を迅速に把握して、被害の大きい住宅から優先して対応していくことが求められることがある。
【0005】
しかしながら、地震後の混乱の中では、被災した住宅の顧客に連絡が取れないケースが多く、特に、損傷度合いが大きな住宅の顧客に対して連絡を待って対処していたのでは、緊急を要する対応が後回しになってしまうおそれがある。
【0006】
さらに、被災状況を予測せずに現地に調査に向かっても、実態を把握するまでに時間がかかるので、多くの建物が被災している場合は、迅速に顧客の要望に応えることができないおそれもある。
【0007】
そこで、本発明は、地震によって建物が被災した状況を遠隔で的確に把握できるとともに、被災程度に応じて優先順位を付けて迅速な対応をおこなうことが可能になる建物の被災診断システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の建物の被災診断システムは、地震による複数の建物の被災状況を診断する建物の被災診断システムであって、建物毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震波測定部と、前記地震波測定部から送信された前記地震波を受信する受信部と、その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとから建物の変形量を算出する変形量算出部と、前記変形量算出部によって算出された建物毎の変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記建物の変形量は層間変形量とすることができる。
【0010】
また、建物の外観による被災状況の確認が可能な部位を前記建物毎に算出する指標部位算出部を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の建物の被災診断システムでは、建物毎に地震波を計測する地震波測定部が取り付けられており、その地震波を受信部で受信して、その建物の地震による変形量を算出する。そして、その算出された変形量を、大きさの順に順位付けする優先順位算出部を備えている。
【0012】
このため、遠隔地にいながらにして、的確かつ迅速に建物の被災状況を予測することができ、また、その被害の大きさを順位付けることができるので、被害が大きな建物から迅速に対応することができる。
【0013】
また、現地に赴く前に、予め指標部位算出部によって建物の被災状況が確認できる位置を算出しておけば、現地で建物のその部位を見ることで被災状況を目視によって迅速に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の被災診断システム1の概略構成を説明するための説明図で、図2は、被災診断システム1の管理側装置4の構成を説明するブロック図である。
【0016】
まず、図1を参照しながら構成を説明すると、この被災診断システム1は、建物としてのユニット建物5A−5C毎に設置される地震波測定部としての地震計2A−2Cと、その地震計2A−2Cと管理側装置4を繋ぐ通信網としてのネットワーク3と、複数の建物の被災状況の順位付け及び被災状況を確認するための指標部位の算出をおこなう管理側装置4とから主に構成される。
【0017】
この地震計2A−2Cは、ユニット建物5A−5Cの基礎上、又はその周囲の地表面上に設置されて、地震波加速度を測定する加速度計である。
【0018】
また、ネットワーク3には、インターネットや専用回線などが使用でき、地震計2A−2Cによって検出された地表面観測波形を、住宅メーカの本社などの各ユニット建物5A−5Cの建設地から離れた場所にある管理側装置4に送信する。
【0019】
また、管理側装置4は、複数のユニット建物5A−5Cの被害の大きさを順位付けする優先順位算出部41と、被災したユニット建物5A−5Cの目視可能な損傷位置を算出する指標部位算出部42とから主に構成されている。
【0020】
続いてこの管理側装置4の構成について、図2を参照しながら説明する。
【0021】
この管理側装置4は、ネットワーク3を介して送信される地震波データを受信するインターフェースとしての受信部43と、記憶部45と、各ユニット建物5A−5Cの地震時の変形量を算出する変形量算出部としての層間変形量算出部44と、優先順位算出部41と、指標部位算出部42と、演算結果などを出力する出力部46とから主に構成されている。
【0022】
この記憶部45は、ハードディスクドライブ、光磁気ディスクドライブ、ROM、RAMなどの記憶媒体によって構成される。この記憶部45には、層間変形量算出部44、優先順位算出部41、指標部位算出部42などで演算をおこなわせるためのプログラムや、その演算に必要となるデータ等が記憶されている。また、受信部43で受信した地震波データも、記憶部45に記憶させることができる。
【0023】
また、層間変形量算出部44では、各ユニット建物5A−5Cの変形量として層間変形量を算出する。ここでは、層間変形量として、1階の床と2階の床との水平変位差である層間変位S1−S3(図1参照)を使用する。なお、層間変形量として使用できるのは層間変位に限定されるものではなく、層間変位を1階の高さhで割った層間変形角を使用してもよい。
【0024】
この層間変形量算出部44では、建物応答解析によって層間変形量を算出する。この建物応答解析では、記憶部45に記憶された各ユニット建物5A−5Cの構造データと、受信した地震波データ又は一旦、記憶部45に記憶された地震波データとによって解析をおこなう。
【0025】
このユニット建物5(ユニット建物5A−5Cのいずれも特定しない場合は、符号を5とする。)の構造データとは、図4に示すような建物ユニット50を連結して構築されるユニット建物5の構造部材や非構造部材などの解析に使用する部材に関係するデータである。
【0026】
例えば、図4に示す建物ユニット50は、四隅に配置される4本の柱51,・・・と、その上端間に横架される梁としての天井梁52,・・・と、その下端間に横架される梁としての床梁53,・・・とから構成されるラーメン構造体500を主たる構造部材としている。
【0027】
そして、床梁53,53間には、所定の間隔を置いて複数の小梁54,・・・が架け渡されており、図4の前面側の柱51,51間には、4枚の外壁パネル6,・・・を取り付けるための5本の間柱55,・・・が配置されているが、これらはいずれも非構造部材であり、解析時に考慮するか否かは任意に設定することができる。
【0028】
このような構造部材や非構造部材のデータとしては、幅や長さなどの形状、材料特性、部材剛性などのデータを記憶させておく。ここで、材料特性には、ヤング率、線膨張係数、線形特性、非線形特性などがある。また、部材剛性としては、断面積、断面二次モーメントなどがある。
【0029】
このようにして構成される建物ユニット50のモデルを複数連結したユニット建物5A−5C毎の3次元モデル用のデータ又はそれの基になるデータが、記憶部45には構造データとして記憶されており、層間変形量算出部44において取り込んだ地震波データと対応付けられたユニット建物5A−5Cの構造データが読み込まれることになる。
【0030】
そして、地震応答解析では、このようにして作成されたユニット建物5A(5B,5C)のモデルに、そのユニット建物5A(5B,5C)において検出された地震波データを入力して解析をおこなう。
【0031】
すなわち、地震波データは、時々刻々と変化する地震波による加速度データで、この地震波データをユニット建物5A(5B,5C)のモデルの底部(地盤面)に入力することで、加速度に建物質量を乗じた水平外力がモデルに作用し、ユニット建物5A(5B,5C)の変形量などの解析がおこなわれる(時刻歴応答解析)。
【0032】
そしてこの解析によって算定された層間変形量は、記憶部45に一旦記憶させたり、優先順位算出部41に直接送信したりする。
【0033】
続いて、優先順位算出部41では、層間変形量算出部44で算出された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を、大きい順に並べ替えて順位付けをおこなう。すなわち、層間変形量が大きい建物が被害の大きい建物であると判断して、優先順位を層間変形量の大きさに基づいて順番に付けていく。
【0034】
この際、各ユニット建物5A−5Cの層間変形量の算出は、同時期におこなわれるとは限らないので、記憶部45に記憶された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を読み込んで順位付けをおこなうようにすることもできる。
【0035】
一方、指標部位算出部42では、被災した建物がどのような順番で壊れていき、その際に、損傷程度の目安(指標)がどの部位に現れるかをユニット建物5A−5C毎に解析する。この指標部位算出部42での解析は、予め解析をおこなって解析結果をデータテーブルにしておいて、層間変形量算出部44で算出された層間変形量に対応して指標部位を算出するようにしておいてもよいし、地震波を受信したときに解析をおこなうようにしてもよい。なお、この指標部位算出部42の詳細な解析方法については後述する。
【0036】
また、出力部46は、モニタ、プリンタなどで構成されており、優先順位算出部41や指標部位算出部42で算出された演算結果を、例えば図13に示すようなリスト形式で出力する。
【0037】
次に、図3を参照しながら、被災診断システム1の処理の流れについて説明する。
【0038】
地震が発生すると、図1に示すように各邸宅(例えばA邸、B邸、C邸)に設置された地震計2A−2Cがその地点の地表面地震波を検知し、ネットワーク3を介して管理側装置4にそれぞれの地震波データを送信する(ステップS1)。
【0039】
この地震波データは、住宅メーカの本社などに設置されている管理側装置4の受信部43で受信される(ステップS2)。
【0040】
この受信された地震波データは、記憶部45に格納されるとともに、層間変形量算出部44にも送られる。ここで、この地震波データには、それを検出した各邸宅A−Cを識別する識別符号が付けられている。
【0041】
そして、層間変形量算出部44では、この地震波データに付けられた識別符号に基づいて、記憶部45から対応するユニット建物5Aの構造データを読み出して層間変形量の解析をおこなう(ステップS3)。この層間変形量の解析は、地震波データが受信されたすべてのユニット建物5B,5Cについておこなう。また、ここで算出された層間変形量は、記憶部45に記憶させる。
【0042】
続いて、各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を優先順位算出部41に送り、層間変形量の大きいものから順に順位を付ける(ステップS4)。
【0043】
また、各ユニット建物5A−5Cについては、層間変形量算出部44で算出された層間変形量が生じた際に、建物のどの部位が損傷するかを指標部位算出部42において算出する(ステップS5)。
【0044】
そして、このようにして演算された結果を、図13に示すような表にしてプリンタなどの出力部46から出力する(ステップS6)。この図13の表は、左端の列に各邸宅名が記載され、その隣の列に層間変形量算出部44で算出された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量が出力されている。
【0045】
また、その隣の列には、層間変形量の大きさを定性的に示した被災レベルが出力される。この被災レベルは、層間変形量に対応した表示(例えば、「軽微」、「大」、「中」)が決められており、層間変形量算出部44で数値と被災レベルが対応付けられ、層間変形量とともに記憶部45に記憶されている被災レベルを読み出して出力する。
【0046】
さらに、層間変形量の大きさに基づいた順位が「対応をおこなう優先順位」の列に記載される。ここでは、最も大きな層間変形量が算出されたB邸が「1位」となり、続いてC邸が「2位」、A邸が「3位」と表示されている。このため、この優先順位を見た担当者は、この順番に従って各邸宅を訪問して実際の被災状況を確認していけばよい。
【0047】
そして、この現地訪問時に被災状況の確認の目安となるのが、右端の列に出力された「指標部位」である。例えば、B邸では、「車庫入口横の外壁」が損傷していれば、予想した通りの損傷レベルと考えられるので、損傷個所の予想に基づいて部材の交換、補修などの段取りを進めていけばよい。
【0048】
また、C邸では、「玄関横の外壁」となっているが、実際に訪問して調査してもその部分に損傷が見られなければ、一旦、現地調査を中断して、次の邸の調査に移ってもよい。
【0049】
そして、A邸では、「1階出入り窓横の外壁」となっているが、その個所に加えて別の個所でも損傷が発見された場合は、地震計2Aで検出された地震波データに反映されない揺れによる被害があったと考えて、充分な現地調査又は解析をおこなって、その他に外観にあらわれない部位の損傷がないかを確認する。
【0050】
次に、この指標部位算出部42の詳細な解析方法について説明する。
【0051】
図4には、この解析で使用する建物ユニット50の構成を示した。この建物ユニット50は、柱51,・・・と天井梁52,・・・と床梁53,・・・とを剛接合して構成されるラーメン構造体500を主たる構造部材としている。そして、上端が天井梁52に連結されるとともに、下端が床梁53に連結された間柱55,・・・が、柱51,51間に配置されており、この間柱55,・・・に外壁パネル6の側縁が接合されている。
【0052】
また、図5には図4のI−I矢視方向の断面図を、図6には図4のII−II矢視方向の断面図を示した。
【0053】
この外壁パネル6は、矩形の面材としての硬質木片セメント板62と、その裏面側の縁部にウレタン系の接着剤63を介して接合されるフレーム61,61とから主に構成される。
【0054】
そして、このフレーム61,61には、リベット64を挿通させる孔が上下方向に間隔を置いて複数開口されており、間柱55とはこのリベット64,・・・を介して接合される。
【0055】
また、この間柱55は、梁52,53に連結させる上端及び下端が、断面視略コ字形の本体部よりも断面積が小さくなるように、コ字形のウェブ部だけで形成された板状に形成されており、ボルト56,56を介して天井梁52と床梁53に締結されている。
【0056】
この指標部位算出部42による解析は、建物の変形に伴って作用する応力によって、最初に損傷する部位、続いて損傷する部位、というように、損傷する部位の順序が解析によって算出できるように設計された建物に対して適用される。
【0057】
すなわち、この建物ユニット50に、水平外力としての地震力が作用すると、始めは間柱55,55間を連結する外壁パネル6がブレースのような働きをしてラーメン構造体500とともに建物ユニット50の揺れを抑える働きをする。
【0058】
この状態は、設計値を建築基準法で定める地震力とした場合は、その大きさに至るまで続く。また、設計値を建築基準法で定める地震力の1.25倍又は1.5倍とした場合は、その地震力に至るまで続く。
【0059】
以下、さらに詳細に一次設計と二次設計における状態について説明する。ここで、一次設計の地震力は、建築基準法でいう標準せん断力係数Cdを0.2としたときの地震力、二次設計の地震力は、建築基準法でいう必要保有水平耐力となる地震力とする。
【0060】
そして、作用する地震力の大きさが一次設計の範囲内ならば、間柱55と外壁パネル6のフレーム61とを接合するリベット64に作用するせん断力は、フレーム61の支圧耐力の範囲内に収まり、リベット孔が塑性変形することはない。
【0061】
ここで仮に、リベット孔が拡大する前にフレーム61と硬質木片セメント板62との接着剤63による接合が剥がれると、その影響によってある地震力に達したときに一気に建物ユニット50が崩壊してしまうおそれがある。
【0062】
これに対して、地震力が増加してリベット孔が塑性変形して押し広げられて、外壁パネル6が荷重を徐々に受けなくなるようにすることで、建物ユニット50の変形量は大きくなるものの、それによって地震エネルギーを吸収することができるので、ラーメン構造体500や外壁パネル6が壊滅的に損傷することを防止することができる。
【0063】
また、外壁パネル6が荷重を受けなくなると、間柱55の上下端のバネ部の伸縮が大きくなって、その後の地震力の増加に対しても建物ユニット50はねばり強く耐えて、倒壊や崩壊を防ぐことができる。
【0064】
また、損傷する前に荷重を受けなくなった外壁パネル6やラーメン構造体500は、著しく損傷しておらず再利用することができるので、地震後に短期間かつ経済的に建物ユニット50の修復をおこなうことができる。
【0065】
このように破壊する順序が決められている建物ユニット50は、どこが損傷しているかによってその建物の被災状況の程度を把握することができる。
【0066】
一方、このように順番通りに破壊させるには、その建物ユニット50を構成する部材の材料特性又は部材特性を把握しておく必要がある。
【0067】
そこで、この外壁パネル6のフレーム61には、材料特性を明確にするために、JIS規格に規定される一般構造用圧延鋼材(SS400)を使用し、間柱55には同じくSS400のフレーム61より厚い鋼材を使用する。
【0068】
また、リベット64は、かしめ後のせん断強度がフレーム61の引張強さより大きくなるワンサイドリベットを使用する。
【0069】
そして、このフレーム61と間柱55とをリベット64で接合したリベット接合部に単調載荷したせん断試験をおこない、このリベット接合部の降伏強度Pyと引張強さPmaxはリベット64のせん断強度より小さくなることを確認し、フレーム61のリベット孔が最初に変形して接合が破壊されるようにする。
【0070】
また、外壁パネル6は、形状、開口の大きさなど様々な仕様のものが建物ユニット50には使用されているので、それらの部材特性をデータとして保有しておく必要がある。例えば、図6に示すように、一本のフレーム61あたり6本のリベット64(間隔300〜600mm)で間柱55に接合した試験体を使って部材特性の試験をおこなう。この試験体は、図7(a)に示すように幅900 mm 、高さ2400 mm の外壁パネル6の両側縁を、間柱55,55にそれぞれ6本のリベット64,・・・を介して接合したものである。
【0071】
そして、この試験体の一方の間柱55を固定し、他方の間柱55に上向きの力Pを作用させて交番繰り返しによる単調載荷のせん断試験を実施した結果、図7(b)に示すような変位δと作用力Pとの関係を示す試験結果が得られた。
【0072】
このように部材特性や材料特性を試験や解析によってデータとして取得し、それらの部材特性や材料特性に基づいて、図8に示すような2次元解析用の建物ユニットモデル7による解析をおこなう。
【0073】
この建物ユニットモデル7は、モデル化された柱モデル71、天井梁モデル72、床梁モデル73によってラーメン構造体モデル70が構成されている。このラーメン構造体モデル70の剛接合部は、回転バネモデル74でモデル化され、バネ値には剛接合部の載荷試験結果に基づいた値が使用される。また、間柱モデル75の上下端と梁モデル72,73との間には、試験で得られたバネ値のバネ部モデル76がモデル化されている。そして、ラーメン構造体モデル70を、2本の柱モデル71,71の直下の支点78,78でそれぞれ支持させている。
【0074】
また、間柱モデル75,75間は外壁パネルモデル77で連結した。この外壁パネルモデル77は、上記したリベット接合部のせん断試験結果を基にして、枠組壁工法建築物設計指針(国土交通省住宅建築指導課監修)に従いブレース置換をおこなったものである。
【0075】
すなわち、図7(b)に示した1次剛性K0と等価なブレース断面で置き換え、このP−δの関係を、図9に示すような断面Aaのブレースの軸力Nとブレース軸方向変位δNとの関係に変換して、図8の外壁パネルモデル77として組み込む。
【0076】
また、このブレース断面Aaの決定により、図7(b)のK0に対応する図9のブレースの1次剛性Kb0が求まるので、続いて第1降伏点aa、第2降伏点bb、終局耐力点ccを図9に示すように定めていく。すなわち、図9の第1降伏点N1については、図7(b)のa点に対応するせん断力faと水平変形量daの値を、ブレース断面がAaとなる外壁パネルモデル77に代入し応力解析を行い、ブレース軸力N1及びブレース軸方向変位d1を求める。
【0077】
続いて、2次剛性Kb1については、図7(b)のK1になるようにブレース断面Abを変更し、図7(b)のb点に対応するせん断力fbと水平変形量dbとにより応力解析を行い、ブレース軸力N2及びブレース軸方向変位d2を求める。また、3次剛性Kb2及び終局耐力点ccについても同様に求める。
【0078】
そして、この建物ユニットモデル7に対して、図10,11,12に示すような交番加力による増分解析を実施する。
【0079】
この増分解析は、層間変形量を建物ユニットモデル7の頂部に与え、徐々に交番する層間変形量を増やしていくときに、すべての外壁パネルモデル77,・・・のブレースの軸力Nを監視しておき、各種外壁ごとにあらかじめ設定された損傷しきい値や崩壊しきい値(Nmax)と比較することにより、解析モデルを変更していく。
【0080】
すなわちこの増分解析は、いずれかの外壁パネルモデル77,・・・のブレース軸力Nが設定した崩壊しきい値(Nmax)以上になった時に、最も大きく崩壊しきい値を超えた外壁パネルモデル77をモデル上から除去し、更に増分解析をそれまでに計算された変位から再開するというような解析アルゴリズムの構成となっている。
【0081】
ここで、図12の(c)に示すように、解析の終了としている層間変形量(層間変位)のh/15は、建物の倒壊の可能性が出てくる安全限界を示している。
【0082】
このように指標部位算出部42による建物ユニットモデル7の解析によれば、地震時の最大層間変形量がわかれば、地震等の交番外力によりどの外壁が先に損傷するかということや、どの程度交換しなければならない外壁や部材があるかがわかる。
【0083】
また、このような増分解析により弱い部位から徐々に壊れていく様子が推定できるので、どの程度の層間変形量が生ずれば、どの外壁が壊れ、その際には、柱・梁などの構造部材がどんな状況になっているかを推定することができる。
【0084】
次に、本実施の形態の建物の被災診断システム1の作用について説明する。
【0085】
このように構成された本実施の形態のユニット建物5A−5Cの被災診断システム1では、ユニット建物5A−5C毎に地震波を計測する地震計2A−2Cが取り付けられており、その地震波を受信部43で受信して、そのユニット建物5A(5B,5C)の地震による層間変形量を算出する。そして、その算出された層間変形量を、大きさの順に順位付けする優先順位算出部41を備えている。
【0086】
このため、遠隔地にいながらにして、的確かつ迅速にユニット建物5A−5Cの被災状況を予測することができ、また、その被害の大きさを順位付けることができるので、被害が大きなユニット建物5A−5Cから迅速に対応することができる。
【0087】
また、現地に赴く前に、予め指標部位算出部42によってユニット建物5A−5Cの被災状況が確認できる位置を算出しておけば、現地でユニット建物5A−5Cのその部位を見ることで被災状況を目視によって迅速に確認することができる。
【0088】
さらに、外壁パネル6が著しく損傷しておらず再利用できる場合は、屋外側から外壁パネル6をビス止めする方法によって、容易に補修することができる。
【0089】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0090】
例えば、前記実施の形態ではユニット建物5,5A−5Cを建物として説明したが、これに限定されるものではなく、工業化住宅だけでなく在来工法で構築される建物にも本発明を適用できる。
【0091】
また、前記実施の形態では、建物の変形量として1階の床と2階の床との水平変位差である層間変位を使用したが、これに限定されるものではなく、層間変形角、その他の位置の層間変位、その他の部材の変形量などを建物の変形量として使用してもよい。
【0092】
さらに、前記実施の形態では、指標部位算出部42によって建物の被災状況を確認する際の指標部位を算出させたが、これに限定されるものではなく、指標部位算出部42による算出はおこなわず、対応をおこなう優先順位のみを出力させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の最良の実施の形態の建物の被災診断システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】被災診断システムの管理側装置の構成を説明するブロック図である。
【図3】被災診断システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図4】建物ユニットの構成を説明する斜視図である。
【図5】図4のI−I矢視方向から見た断面図である。
【図6】図4のII−II矢視方向から見た断面図である。
【図7】(a)はせん断試験に使用した外壁パネルの正面図、(b)はせん断試験の結果を変形−荷重の関係で示した図である。
【図8】建物ユニットの解析モデルを説明するモデル図である。
【図9】外壁パネルをブレース置換して、せん断試験結果を軸方向変位−軸力の関係で示した図である。
【図10】増分解析の最初のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図11】増分解析の途中のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図12】増分解析の最後のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図13】被災診断システムの出力部から出力される表の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0094】
1 被災診断システム
2A−2C 地震計(地震波測定部)
4 管理側装置
41 優先順位算出部
42 指標部位算出部
43 受信部
44 層間変形量算出部(変形量算出部)
46 出力部
5A−5C ユニット建物(建物)
6 外壁パネル(指標部位)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震によって建物が被災した際に、その被災状況を診断する被災診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、過去に起きた大地震の地震波を建物の構造データに入力して、建物の変形量を算出し、その建物の耐震性を評価する耐震性能診断システムが知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
この耐震性能診断システムは、建設する前の設計段階の住宅、又は建設後の住宅に対して、耐震性能を診断し、耐震性能を強化したり、資産価値又は被災時の改修費を算定したりするために使用されている。
【特許文献1】特開2007−42051号公報
【特許文献2】特開2003−147970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、大地震が発生した場合に、多くの顧客を抱える住宅メーカなどでは、顧客の被災状況を迅速に把握して、被害の大きい住宅から優先して対応していくことが求められることがある。
【0005】
しかしながら、地震後の混乱の中では、被災した住宅の顧客に連絡が取れないケースが多く、特に、損傷度合いが大きな住宅の顧客に対して連絡を待って対処していたのでは、緊急を要する対応が後回しになってしまうおそれがある。
【0006】
さらに、被災状況を予測せずに現地に調査に向かっても、実態を把握するまでに時間がかかるので、多くの建物が被災している場合は、迅速に顧客の要望に応えることができないおそれもある。
【0007】
そこで、本発明は、地震によって建物が被災した状況を遠隔で的確に把握できるとともに、被災程度に応じて優先順位を付けて迅速な対応をおこなうことが可能になる建物の被災診断システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の建物の被災診断システムは、地震による複数の建物の被災状況を診断する建物の被災診断システムであって、建物毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震波測定部と、前記地震波測定部から送信された前記地震波を受信する受信部と、その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとから建物の変形量を算出する変形量算出部と、前記変形量算出部によって算出された建物毎の変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記建物の変形量は層間変形量とすることができる。
【0010】
また、建物の外観による被災状況の確認が可能な部位を前記建物毎に算出する指標部位算出部を備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の建物の被災診断システムでは、建物毎に地震波を計測する地震波測定部が取り付けられており、その地震波を受信部で受信して、その建物の地震による変形量を算出する。そして、その算出された変形量を、大きさの順に順位付けする優先順位算出部を備えている。
【0012】
このため、遠隔地にいながらにして、的確かつ迅速に建物の被災状況を予測することができ、また、その被害の大きさを順位付けることができるので、被害が大きな建物から迅速に対応することができる。
【0013】
また、現地に赴く前に、予め指標部位算出部によって建物の被災状況が確認できる位置を算出しておけば、現地で建物のその部位を見ることで被災状況を目視によって迅速に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の被災診断システム1の概略構成を説明するための説明図で、図2は、被災診断システム1の管理側装置4の構成を説明するブロック図である。
【0016】
まず、図1を参照しながら構成を説明すると、この被災診断システム1は、建物としてのユニット建物5A−5C毎に設置される地震波測定部としての地震計2A−2Cと、その地震計2A−2Cと管理側装置4を繋ぐ通信網としてのネットワーク3と、複数の建物の被災状況の順位付け及び被災状況を確認するための指標部位の算出をおこなう管理側装置4とから主に構成される。
【0017】
この地震計2A−2Cは、ユニット建物5A−5Cの基礎上、又はその周囲の地表面上に設置されて、地震波加速度を測定する加速度計である。
【0018】
また、ネットワーク3には、インターネットや専用回線などが使用でき、地震計2A−2Cによって検出された地表面観測波形を、住宅メーカの本社などの各ユニット建物5A−5Cの建設地から離れた場所にある管理側装置4に送信する。
【0019】
また、管理側装置4は、複数のユニット建物5A−5Cの被害の大きさを順位付けする優先順位算出部41と、被災したユニット建物5A−5Cの目視可能な損傷位置を算出する指標部位算出部42とから主に構成されている。
【0020】
続いてこの管理側装置4の構成について、図2を参照しながら説明する。
【0021】
この管理側装置4は、ネットワーク3を介して送信される地震波データを受信するインターフェースとしての受信部43と、記憶部45と、各ユニット建物5A−5Cの地震時の変形量を算出する変形量算出部としての層間変形量算出部44と、優先順位算出部41と、指標部位算出部42と、演算結果などを出力する出力部46とから主に構成されている。
【0022】
この記憶部45は、ハードディスクドライブ、光磁気ディスクドライブ、ROM、RAMなどの記憶媒体によって構成される。この記憶部45には、層間変形量算出部44、優先順位算出部41、指標部位算出部42などで演算をおこなわせるためのプログラムや、その演算に必要となるデータ等が記憶されている。また、受信部43で受信した地震波データも、記憶部45に記憶させることができる。
【0023】
また、層間変形量算出部44では、各ユニット建物5A−5Cの変形量として層間変形量を算出する。ここでは、層間変形量として、1階の床と2階の床との水平変位差である層間変位S1−S3(図1参照)を使用する。なお、層間変形量として使用できるのは層間変位に限定されるものではなく、層間変位を1階の高さhで割った層間変形角を使用してもよい。
【0024】
この層間変形量算出部44では、建物応答解析によって層間変形量を算出する。この建物応答解析では、記憶部45に記憶された各ユニット建物5A−5Cの構造データと、受信した地震波データ又は一旦、記憶部45に記憶された地震波データとによって解析をおこなう。
【0025】
このユニット建物5(ユニット建物5A−5Cのいずれも特定しない場合は、符号を5とする。)の構造データとは、図4に示すような建物ユニット50を連結して構築されるユニット建物5の構造部材や非構造部材などの解析に使用する部材に関係するデータである。
【0026】
例えば、図4に示す建物ユニット50は、四隅に配置される4本の柱51,・・・と、その上端間に横架される梁としての天井梁52,・・・と、その下端間に横架される梁としての床梁53,・・・とから構成されるラーメン構造体500を主たる構造部材としている。
【0027】
そして、床梁53,53間には、所定の間隔を置いて複数の小梁54,・・・が架け渡されており、図4の前面側の柱51,51間には、4枚の外壁パネル6,・・・を取り付けるための5本の間柱55,・・・が配置されているが、これらはいずれも非構造部材であり、解析時に考慮するか否かは任意に設定することができる。
【0028】
このような構造部材や非構造部材のデータとしては、幅や長さなどの形状、材料特性、部材剛性などのデータを記憶させておく。ここで、材料特性には、ヤング率、線膨張係数、線形特性、非線形特性などがある。また、部材剛性としては、断面積、断面二次モーメントなどがある。
【0029】
このようにして構成される建物ユニット50のモデルを複数連結したユニット建物5A−5C毎の3次元モデル用のデータ又はそれの基になるデータが、記憶部45には構造データとして記憶されており、層間変形量算出部44において取り込んだ地震波データと対応付けられたユニット建物5A−5Cの構造データが読み込まれることになる。
【0030】
そして、地震応答解析では、このようにして作成されたユニット建物5A(5B,5C)のモデルに、そのユニット建物5A(5B,5C)において検出された地震波データを入力して解析をおこなう。
【0031】
すなわち、地震波データは、時々刻々と変化する地震波による加速度データで、この地震波データをユニット建物5A(5B,5C)のモデルの底部(地盤面)に入力することで、加速度に建物質量を乗じた水平外力がモデルに作用し、ユニット建物5A(5B,5C)の変形量などの解析がおこなわれる(時刻歴応答解析)。
【0032】
そしてこの解析によって算定された層間変形量は、記憶部45に一旦記憶させたり、優先順位算出部41に直接送信したりする。
【0033】
続いて、優先順位算出部41では、層間変形量算出部44で算出された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を、大きい順に並べ替えて順位付けをおこなう。すなわち、層間変形量が大きい建物が被害の大きい建物であると判断して、優先順位を層間変形量の大きさに基づいて順番に付けていく。
【0034】
この際、各ユニット建物5A−5Cの層間変形量の算出は、同時期におこなわれるとは限らないので、記憶部45に記憶された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を読み込んで順位付けをおこなうようにすることもできる。
【0035】
一方、指標部位算出部42では、被災した建物がどのような順番で壊れていき、その際に、損傷程度の目安(指標)がどの部位に現れるかをユニット建物5A−5C毎に解析する。この指標部位算出部42での解析は、予め解析をおこなって解析結果をデータテーブルにしておいて、層間変形量算出部44で算出された層間変形量に対応して指標部位を算出するようにしておいてもよいし、地震波を受信したときに解析をおこなうようにしてもよい。なお、この指標部位算出部42の詳細な解析方法については後述する。
【0036】
また、出力部46は、モニタ、プリンタなどで構成されており、優先順位算出部41や指標部位算出部42で算出された演算結果を、例えば図13に示すようなリスト形式で出力する。
【0037】
次に、図3を参照しながら、被災診断システム1の処理の流れについて説明する。
【0038】
地震が発生すると、図1に示すように各邸宅(例えばA邸、B邸、C邸)に設置された地震計2A−2Cがその地点の地表面地震波を検知し、ネットワーク3を介して管理側装置4にそれぞれの地震波データを送信する(ステップS1)。
【0039】
この地震波データは、住宅メーカの本社などに設置されている管理側装置4の受信部43で受信される(ステップS2)。
【0040】
この受信された地震波データは、記憶部45に格納されるとともに、層間変形量算出部44にも送られる。ここで、この地震波データには、それを検出した各邸宅A−Cを識別する識別符号が付けられている。
【0041】
そして、層間変形量算出部44では、この地震波データに付けられた識別符号に基づいて、記憶部45から対応するユニット建物5Aの構造データを読み出して層間変形量の解析をおこなう(ステップS3)。この層間変形量の解析は、地震波データが受信されたすべてのユニット建物5B,5Cについておこなう。また、ここで算出された層間変形量は、記憶部45に記憶させる。
【0042】
続いて、各ユニット建物5A−5Cの層間変形量を優先順位算出部41に送り、層間変形量の大きいものから順に順位を付ける(ステップS4)。
【0043】
また、各ユニット建物5A−5Cについては、層間変形量算出部44で算出された層間変形量が生じた際に、建物のどの部位が損傷するかを指標部位算出部42において算出する(ステップS5)。
【0044】
そして、このようにして演算された結果を、図13に示すような表にしてプリンタなどの出力部46から出力する(ステップS6)。この図13の表は、左端の列に各邸宅名が記載され、その隣の列に層間変形量算出部44で算出された各ユニット建物5A−5Cの層間変形量が出力されている。
【0045】
また、その隣の列には、層間変形量の大きさを定性的に示した被災レベルが出力される。この被災レベルは、層間変形量に対応した表示(例えば、「軽微」、「大」、「中」)が決められており、層間変形量算出部44で数値と被災レベルが対応付けられ、層間変形量とともに記憶部45に記憶されている被災レベルを読み出して出力する。
【0046】
さらに、層間変形量の大きさに基づいた順位が「対応をおこなう優先順位」の列に記載される。ここでは、最も大きな層間変形量が算出されたB邸が「1位」となり、続いてC邸が「2位」、A邸が「3位」と表示されている。このため、この優先順位を見た担当者は、この順番に従って各邸宅を訪問して実際の被災状況を確認していけばよい。
【0047】
そして、この現地訪問時に被災状況の確認の目安となるのが、右端の列に出力された「指標部位」である。例えば、B邸では、「車庫入口横の外壁」が損傷していれば、予想した通りの損傷レベルと考えられるので、損傷個所の予想に基づいて部材の交換、補修などの段取りを進めていけばよい。
【0048】
また、C邸では、「玄関横の外壁」となっているが、実際に訪問して調査してもその部分に損傷が見られなければ、一旦、現地調査を中断して、次の邸の調査に移ってもよい。
【0049】
そして、A邸では、「1階出入り窓横の外壁」となっているが、その個所に加えて別の個所でも損傷が発見された場合は、地震計2Aで検出された地震波データに反映されない揺れによる被害があったと考えて、充分な現地調査又は解析をおこなって、その他に外観にあらわれない部位の損傷がないかを確認する。
【0050】
次に、この指標部位算出部42の詳細な解析方法について説明する。
【0051】
図4には、この解析で使用する建物ユニット50の構成を示した。この建物ユニット50は、柱51,・・・と天井梁52,・・・と床梁53,・・・とを剛接合して構成されるラーメン構造体500を主たる構造部材としている。そして、上端が天井梁52に連結されるとともに、下端が床梁53に連結された間柱55,・・・が、柱51,51間に配置されており、この間柱55,・・・に外壁パネル6の側縁が接合されている。
【0052】
また、図5には図4のI−I矢視方向の断面図を、図6には図4のII−II矢視方向の断面図を示した。
【0053】
この外壁パネル6は、矩形の面材としての硬質木片セメント板62と、その裏面側の縁部にウレタン系の接着剤63を介して接合されるフレーム61,61とから主に構成される。
【0054】
そして、このフレーム61,61には、リベット64を挿通させる孔が上下方向に間隔を置いて複数開口されており、間柱55とはこのリベット64,・・・を介して接合される。
【0055】
また、この間柱55は、梁52,53に連結させる上端及び下端が、断面視略コ字形の本体部よりも断面積が小さくなるように、コ字形のウェブ部だけで形成された板状に形成されており、ボルト56,56を介して天井梁52と床梁53に締結されている。
【0056】
この指標部位算出部42による解析は、建物の変形に伴って作用する応力によって、最初に損傷する部位、続いて損傷する部位、というように、損傷する部位の順序が解析によって算出できるように設計された建物に対して適用される。
【0057】
すなわち、この建物ユニット50に、水平外力としての地震力が作用すると、始めは間柱55,55間を連結する外壁パネル6がブレースのような働きをしてラーメン構造体500とともに建物ユニット50の揺れを抑える働きをする。
【0058】
この状態は、設計値を建築基準法で定める地震力とした場合は、その大きさに至るまで続く。また、設計値を建築基準法で定める地震力の1.25倍又は1.5倍とした場合は、その地震力に至るまで続く。
【0059】
以下、さらに詳細に一次設計と二次設計における状態について説明する。ここで、一次設計の地震力は、建築基準法でいう標準せん断力係数Cdを0.2としたときの地震力、二次設計の地震力は、建築基準法でいう必要保有水平耐力となる地震力とする。
【0060】
そして、作用する地震力の大きさが一次設計の範囲内ならば、間柱55と外壁パネル6のフレーム61とを接合するリベット64に作用するせん断力は、フレーム61の支圧耐力の範囲内に収まり、リベット孔が塑性変形することはない。
【0061】
ここで仮に、リベット孔が拡大する前にフレーム61と硬質木片セメント板62との接着剤63による接合が剥がれると、その影響によってある地震力に達したときに一気に建物ユニット50が崩壊してしまうおそれがある。
【0062】
これに対して、地震力が増加してリベット孔が塑性変形して押し広げられて、外壁パネル6が荷重を徐々に受けなくなるようにすることで、建物ユニット50の変形量は大きくなるものの、それによって地震エネルギーを吸収することができるので、ラーメン構造体500や外壁パネル6が壊滅的に損傷することを防止することができる。
【0063】
また、外壁パネル6が荷重を受けなくなると、間柱55の上下端のバネ部の伸縮が大きくなって、その後の地震力の増加に対しても建物ユニット50はねばり強く耐えて、倒壊や崩壊を防ぐことができる。
【0064】
また、損傷する前に荷重を受けなくなった外壁パネル6やラーメン構造体500は、著しく損傷しておらず再利用することができるので、地震後に短期間かつ経済的に建物ユニット50の修復をおこなうことができる。
【0065】
このように破壊する順序が決められている建物ユニット50は、どこが損傷しているかによってその建物の被災状況の程度を把握することができる。
【0066】
一方、このように順番通りに破壊させるには、その建物ユニット50を構成する部材の材料特性又は部材特性を把握しておく必要がある。
【0067】
そこで、この外壁パネル6のフレーム61には、材料特性を明確にするために、JIS規格に規定される一般構造用圧延鋼材(SS400)を使用し、間柱55には同じくSS400のフレーム61より厚い鋼材を使用する。
【0068】
また、リベット64は、かしめ後のせん断強度がフレーム61の引張強さより大きくなるワンサイドリベットを使用する。
【0069】
そして、このフレーム61と間柱55とをリベット64で接合したリベット接合部に単調載荷したせん断試験をおこない、このリベット接合部の降伏強度Pyと引張強さPmaxはリベット64のせん断強度より小さくなることを確認し、フレーム61のリベット孔が最初に変形して接合が破壊されるようにする。
【0070】
また、外壁パネル6は、形状、開口の大きさなど様々な仕様のものが建物ユニット50には使用されているので、それらの部材特性をデータとして保有しておく必要がある。例えば、図6に示すように、一本のフレーム61あたり6本のリベット64(間隔300〜600mm)で間柱55に接合した試験体を使って部材特性の試験をおこなう。この試験体は、図7(a)に示すように幅900 mm 、高さ2400 mm の外壁パネル6の両側縁を、間柱55,55にそれぞれ6本のリベット64,・・・を介して接合したものである。
【0071】
そして、この試験体の一方の間柱55を固定し、他方の間柱55に上向きの力Pを作用させて交番繰り返しによる単調載荷のせん断試験を実施した結果、図7(b)に示すような変位δと作用力Pとの関係を示す試験結果が得られた。
【0072】
このように部材特性や材料特性を試験や解析によってデータとして取得し、それらの部材特性や材料特性に基づいて、図8に示すような2次元解析用の建物ユニットモデル7による解析をおこなう。
【0073】
この建物ユニットモデル7は、モデル化された柱モデル71、天井梁モデル72、床梁モデル73によってラーメン構造体モデル70が構成されている。このラーメン構造体モデル70の剛接合部は、回転バネモデル74でモデル化され、バネ値には剛接合部の載荷試験結果に基づいた値が使用される。また、間柱モデル75の上下端と梁モデル72,73との間には、試験で得られたバネ値のバネ部モデル76がモデル化されている。そして、ラーメン構造体モデル70を、2本の柱モデル71,71の直下の支点78,78でそれぞれ支持させている。
【0074】
また、間柱モデル75,75間は外壁パネルモデル77で連結した。この外壁パネルモデル77は、上記したリベット接合部のせん断試験結果を基にして、枠組壁工法建築物設計指針(国土交通省住宅建築指導課監修)に従いブレース置換をおこなったものである。
【0075】
すなわち、図7(b)に示した1次剛性K0と等価なブレース断面で置き換え、このP−δの関係を、図9に示すような断面Aaのブレースの軸力Nとブレース軸方向変位δNとの関係に変換して、図8の外壁パネルモデル77として組み込む。
【0076】
また、このブレース断面Aaの決定により、図7(b)のK0に対応する図9のブレースの1次剛性Kb0が求まるので、続いて第1降伏点aa、第2降伏点bb、終局耐力点ccを図9に示すように定めていく。すなわち、図9の第1降伏点N1については、図7(b)のa点に対応するせん断力faと水平変形量daの値を、ブレース断面がAaとなる外壁パネルモデル77に代入し応力解析を行い、ブレース軸力N1及びブレース軸方向変位d1を求める。
【0077】
続いて、2次剛性Kb1については、図7(b)のK1になるようにブレース断面Abを変更し、図7(b)のb点に対応するせん断力fbと水平変形量dbとにより応力解析を行い、ブレース軸力N2及びブレース軸方向変位d2を求める。また、3次剛性Kb2及び終局耐力点ccについても同様に求める。
【0078】
そして、この建物ユニットモデル7に対して、図10,11,12に示すような交番加力による増分解析を実施する。
【0079】
この増分解析は、層間変形量を建物ユニットモデル7の頂部に与え、徐々に交番する層間変形量を増やしていくときに、すべての外壁パネルモデル77,・・・のブレースの軸力Nを監視しておき、各種外壁ごとにあらかじめ設定された損傷しきい値や崩壊しきい値(Nmax)と比較することにより、解析モデルを変更していく。
【0080】
すなわちこの増分解析は、いずれかの外壁パネルモデル77,・・・のブレース軸力Nが設定した崩壊しきい値(Nmax)以上になった時に、最も大きく崩壊しきい値を超えた外壁パネルモデル77をモデル上から除去し、更に増分解析をそれまでに計算された変位から再開するというような解析アルゴリズムの構成となっている。
【0081】
ここで、図12の(c)に示すように、解析の終了としている層間変形量(層間変位)のh/15は、建物の倒壊の可能性が出てくる安全限界を示している。
【0082】
このように指標部位算出部42による建物ユニットモデル7の解析によれば、地震時の最大層間変形量がわかれば、地震等の交番外力によりどの外壁が先に損傷するかということや、どの程度交換しなければならない外壁や部材があるかがわかる。
【0083】
また、このような増分解析により弱い部位から徐々に壊れていく様子が推定できるので、どの程度の層間変形量が生ずれば、どの外壁が壊れ、その際には、柱・梁などの構造部材がどんな状況になっているかを推定することができる。
【0084】
次に、本実施の形態の建物の被災診断システム1の作用について説明する。
【0085】
このように構成された本実施の形態のユニット建物5A−5Cの被災診断システム1では、ユニット建物5A−5C毎に地震波を計測する地震計2A−2Cが取り付けられており、その地震波を受信部43で受信して、そのユニット建物5A(5B,5C)の地震による層間変形量を算出する。そして、その算出された層間変形量を、大きさの順に順位付けする優先順位算出部41を備えている。
【0086】
このため、遠隔地にいながらにして、的確かつ迅速にユニット建物5A−5Cの被災状況を予測することができ、また、その被害の大きさを順位付けることができるので、被害が大きなユニット建物5A−5Cから迅速に対応することができる。
【0087】
また、現地に赴く前に、予め指標部位算出部42によってユニット建物5A−5Cの被災状況が確認できる位置を算出しておけば、現地でユニット建物5A−5Cのその部位を見ることで被災状況を目視によって迅速に確認することができる。
【0088】
さらに、外壁パネル6が著しく損傷しておらず再利用できる場合は、屋外側から外壁パネル6をビス止めする方法によって、容易に補修することができる。
【0089】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0090】
例えば、前記実施の形態ではユニット建物5,5A−5Cを建物として説明したが、これに限定されるものではなく、工業化住宅だけでなく在来工法で構築される建物にも本発明を適用できる。
【0091】
また、前記実施の形態では、建物の変形量として1階の床と2階の床との水平変位差である層間変位を使用したが、これに限定されるものではなく、層間変形角、その他の位置の層間変位、その他の部材の変形量などを建物の変形量として使用してもよい。
【0092】
さらに、前記実施の形態では、指標部位算出部42によって建物の被災状況を確認する際の指標部位を算出させたが、これに限定されるものではなく、指標部位算出部42による算出はおこなわず、対応をおこなう優先順位のみを出力させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の最良の実施の形態の建物の被災診断システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】被災診断システムの管理側装置の構成を説明するブロック図である。
【図3】被災診断システムの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図4】建物ユニットの構成を説明する斜視図である。
【図5】図4のI−I矢視方向から見た断面図である。
【図6】図4のII−II矢視方向から見た断面図である。
【図7】(a)はせん断試験に使用した外壁パネルの正面図、(b)はせん断試験の結果を変形−荷重の関係で示した図である。
【図8】建物ユニットの解析モデルを説明するモデル図である。
【図9】外壁パネルをブレース置換して、せん断試験結果を軸方向変位−軸力の関係で示した図である。
【図10】増分解析の最初のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図11】増分解析の途中のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図12】増分解析の最後のステップを説明する図であって、(a)はモデル図、(b)はモデルに付与する層間変位の増分ステップを示した図、(c)はモデルの頂部の変位と水平力との関係を示した図である。
【図13】被災診断システムの出力部から出力される表の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0094】
1 被災診断システム
2A−2C 地震計(地震波測定部)
4 管理側装置
41 優先順位算出部
42 指標部位算出部
43 受信部
44 層間変形量算出部(変形量算出部)
46 出力部
5A−5C ユニット建物(建物)
6 外壁パネル(指標部位)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震による複数の建物の被災状況を診断する建物の被災診断システムであって、
建物毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震波測定部と、
前記地震波測定部から送信された前記地震波を受信する受信部と、
その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとから建物の変形量を算出する変形量算出部と、
前記変形量算出部によって算出された建物毎の変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部とを備えたことを特徴とする建物の被災診断システム。
【請求項2】
前記建物の変形量は層間変形量であることを特徴とする請求項1に記載の建物の被災診断システム。
【請求項3】
建物の外観による被災状況の確認が可能な部位を前記建物毎に算出する指標部位算出部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物の被災診断システム。
【請求項1】
地震による複数の建物の被災状況を診断する建物の被災診断システムであって、
建物毎に取り付けられてその地点の地震波を計測する地震波測定部と、
前記地震波測定部から送信された前記地震波を受信する受信部と、
その受信した地震波とその地震波が検出された建物の構造データとから建物の変形量を算出する変形量算出部と、
前記変形量算出部によって算出された建物毎の変形量の大きさの順位付けをおこなう優先順位算出部とを備えたことを特徴とする建物の被災診断システム。
【請求項2】
前記建物の変形量は層間変形量であることを特徴とする請求項1に記載の建物の被災診断システム。
【請求項3】
建物の外観による被災状況の確認が可能な部位を前記建物毎に算出する指標部位算出部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物の被災診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−298704(P2008−298704A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147631(P2007−147631)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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