説明

建物外壁の受雷装置

【課題】出隅部に設ける受雷部としての避雷用突針を外側から着脱自在とすることにより、メンテナンスの際に万一突針を損傷させても、躯体側を補修することなく、外側からのみの作業で、突針部分のみを容易に交換できる建物外壁の受雷装置を提供する。
【解決手段】出隅部のPC躯体13に長ナット14をその端部が顕出するように予め埋め込み、受雷部としての避雷用突針21の底部にボルト22を設け、前記長ナット14にボルト22を螺合することで、建物躯体に避雷用突針を着脱可能に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の側面部への落雷防止を図るものとして、建物外壁の受雷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本工業規格JISA4201−1992建築物等の避雷設備(避雷針)がIEC規格に整合したJISA4201−2003建築物等の雷保護となり「仕様規格」から「性能規格」になり、受雷部の保護範囲を角度法(保護角法)から、回転球体法、角度法またはメッシュ法のいずれか、または、これらの組合せによってもとめるものとされた。
【0003】
下記特許文献はこのような回転球体法を考慮した高層建築物の外壁側面に対する避雷工法を提示するもので、図6ないし図9に示すように、一つの側辺に沿って帯状の垂直導体2を備えたPC板1を建造物の側面部に取り付け、前記垂直導体2により、雷撃を受止め、建造物を落雷から保護するものである。
【特許文献1】特開2001−86631号公報
【0004】
PC板1は、工場で一括生産されるプレキャスト部材であり、垂直導体2の正面がPC板の正面と同一面となるように、また、垂直導体2の側面がPC板の側面とそれぞれ同一面となるように、垂直導体2と一体化された壁部材である。
【0005】
このように構成されたPC板1は、垂直導体2が連結杆4、PC板取り付け金物3、接続端子7、および避雷導線5を介して躯体6と電気的に接続された状態で、PC板取り付け金物3により躯体6に取り付けられる。
【0006】
そして、側面部への落雷時に、雷撃は垂直導体2により受止められ、受止められた雷電流が躯体6を介して図示しない接地極に接地される。
【0007】
ところで、避雷設備は、JIS−A−4201により保守点検が義務づけられており、定期的に、点検を実施する必要があり、所定の基準を満たさない場合は補修を要する。
【0008】
しかし、前記高層建築物の外壁側面に対する避雷工法により設けられた避雷設備の保守点検作業を実施する際、作業場所が屋外であるので作業工程が天候に左右される。
【0009】
また、高所作業となるので、作業員の労働災害を防止する保護具(例えば、ゴンドラや命綱)が必要である。その結果、避雷設備の維持管理に多大な費用を要するという問題がある。
【0010】
下記特許文献は、図10に示すように建造物の側面部への落雷防止を図る側面避雷設備において、建造物の側面部に該側面部を室内側から室外側へ貫通して配置される側面貫通受雷部と、前記側面貫通受雷部を建造物に固定する受雷部固定部材とを有することにより、避雷設備の設置および保守点検を容易に実施することができるようにした側面避雷設備、および、その側面避雷設備を利用した側面避雷設備設置方法である。
【特許文献2】特開2007−5194号公報
【0011】
前記特許文献2では、先ず、受雷部固定部材9を壁部材10の所定の位置に配設した後、室内側から室外側へ側面貫通受雷部9を貫通するようにして、側面貫通受雷部8を突出させ、ネジ部材12により側面貫通受雷部8と受雷部固定部材8とを接合させることにより、側面貫通受雷部8と受雷部固定部材9とが電気的、機械的に接合される。図中11は、避雷導線である。
【0012】
ゴンドラ等を使用して建造物の側面部のメンテナンス実施時には、メンテナンスの実施に先立って避雷突針である側面貫通受雷部8が障害とならぬよう、ネジ部材12を緩めて側面貫通受雷部8を受雷部固定部材9から外す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように建物の外装がRC構造またはPC構造の場合、JISA4201・2003に準拠した回転球体法における雷保護を行う場合、建物外壁部分に設ける避雷設備は、躯体への落雷を考慮して外壁面より突出した(突針)を設置することが望ましい。
【0014】
この外壁面より突出した受雷部は、建物外壁清掃用ゴンドラの走行時の衝突により破損するおそれがある。
【0015】
また、当該受雷部への落雷時に衝撃による損傷、発熱による変色等のおそれがあり、これらが生じた際には、損傷した受雷部(突針)を都度交換する必要がある。
【0016】
しかし、前記特許文献1は、受雷部(避雷用突針)をRC壁またはPC壁に埋め込んで設置されているため、受雷部(避雷用突針)の交換の際に躯体自体の補修に莫大な手間とコストがかかり、また、高所での作業のため危険も伴っている。
【0017】
前記特許文献2は、ゴンドラ等を使用して建造物の側面部のメンテナンス実施時には、側面貫通受雷部8を受雷部固定部材9から外すことができるとしているが、側面貫通受雷部8は室内側から室外側へ受雷部固定部材9を貫通して配置されるものであり、この側面貫通受雷部8を外す作業も室内側から行わなければならない。
【0018】
さらに、特許文献2ではプレキャスト部材に受雷部固定部材9を予め取り付けることで、プレキャスト部材に取り付けることも可能であるとしているが、これは受雷部固定部材9の先行設置だけであり、プレキャスト部材を設置した後で、室内側から室外側へ側面貫通受雷部8を受雷部固定部材9を貫通して突出させなければならない。側面貫通受雷部8への電気的配線もプレキャスト部材設置後に行わなければならない。
【0019】
本発明の目的は前記不都合を解消し、出隅部に設ける受雷部としての避雷用突針を外側から着脱自在とすることにより、メンテナンスの際に万一突針を損傷させても、躯体側を補修することなく、外側からのみの作業で、突針部分のみを容易に交換できる建物外壁の受雷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
請求項1記載の本発明は前記目的を達成するため、出隅部のPC躯体に長ナットをその端部が顕出するように予め埋め込み、受雷部としての避雷用突針の底部にボルトを設け、前記長ナットにボルトを螺合することで、建物躯体に避雷用突針を着脱可能に設置することを要旨とするものである。
【0021】
請求項1記載の本発明によれば、出隅部分のPC躯体を製作する際に、予め受雷部(避雷突針)を取り付けるための突針取り付け部材である長ナットを埋め込み一体化することにより、PC躯体の運搬時や建込み時に余分な出っ張りがない状態(突針を取り付けない状態)で施工することができ、躯体の建込み後は外側から適宜着脱可能となることから、不慮の事故の際にも突針の交換が容易に行える。
【0022】
請求項2記載の本発明は、PC躯体は、接地導線の接続端子とPC角欠け防止用プレートとを頭付きボルトとナットで接続した物を、該頭付きボルトの頭部で長ナットの一端と溶接により接続し、該長ナットのもう一方の端を受けプレートと溶接してなる突針取り付け部材を作製し、この突針取り付け部材を型枠の出隅部分に予め埋め込んだ状態でコンクリートを打設して製作することを要旨とするものである。
【0023】
請求項2記載の本発明によれば、PC躯体は、コンクリートを打設して製作する際に、突針取り付け部材として、接地導線の接続端子とPC角欠け防止用プレートとを頭付きボルトとナットで接続した物を、該頭付きボルトの頭部で長ナットの一端と溶接により接続し、該長ナットのもう一方の端を受けプレートと溶接してなる物を型枠の出隅部分に予め埋め込んで製作でき、接地導線の接続端子とPC角欠け防止用プレートとを簡単に接続でき、受けプレートも簡単に設置できる。
【0024】
請求項3記載の本発明は、出来上がったPC躯体を揚重機で所定個所に設置し、然る後にその底部にボルトを有する突針を、PC躯体に設けた突針取り付け部材の長ナット部分と接続することを要旨とするものである。
【0025】
請求項3記載の本発明によれば、受雷部である避雷突針は、その底部に有するボルトを長ナット部分に螺込むだけで建物の外側から簡単に取り付けることができ、また、必要に応じて簡単に外すことができる。
【0026】
請求項4記載の本発明は、突針の底部に有するボルトは、緩み防止機能付きボルトであることを要旨とするものである。
【0027】
請求項4記載の本発明によれば、突針の底部に有するボルトは、緩み防止機能付きボルトを利用することで、緩みを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
以上述べたように本発明の建物外壁の受雷装置は、出隅部に設ける受雷部としての避雷用突針を外側から着脱自在とすることにより、メンテナンスの際に万一突針を損傷させても、躯体側を補修することなく、外側からのみの作業で、突針部分のみを容易に交換できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の建物外壁の受雷装置の1実施形態を示す横断平面図で、図中13は出隅部のPC躯体である。
【0030】
PC躯体13は、長ナット14をその端部が顕出するように予め埋め込む。
【0031】
図中19は突針取り付け部材で、接地導線の接続端子である圧縮端子15とPC角欠け防止用プレート16とを頭付きボルト18とナット17で接続した物を、該頭付きボルト18の頭部で長ナット14の一端と溶接により接続した。
【0032】
圧縮端子15を図2に、PC角欠け防止用プレート16を図3に示す。
【0033】
また、突針取り付け部材19は、長ナット14のもう一方の端を受けプレート20を溶接してなる。
【0034】
この突針取り付け部材19は、PC躯体13を作製する際に、型枠の出隅部分に予め埋め込んだ状態でコンクリートを打設する。
【0035】
このようにして予め突針取り付け部材19を埋設したPC躯体13は、揚重機で所定個所に設置し、然るのちに、受雷部としての避雷用突針21の底部に設けたボルト22を長ナット14に螺入れて、避雷用突針21をPC躯体13に取り付ける。
【0036】
なお、ボルト22は、特許第3709183号にあるような緩み止めボルトを使用する。
【0037】
この緩み止めボルト31は図4、図5に示すような、ボルト軸部32の先端部に前記ボルト軸部32と同軸に形成されたボルト先端部33と、前記ボルト軸部32の外周に形成された主雄螺子部35と、前記ボルト先端部33の前記ボルト軸部側の外周に前記主雄螺子部35の谷底と同一若しくは深い環状に形成された環状溝部36と、雌螺子に対する位相が12〜100°好ましくは24〜90°より好ましくは24〜72°変位して前記ボルト先端部の外周に形成された副雄螺子部38とを備えているものである。
【0038】
図中34はボルト先端部33と反対側のボルト軸部32の端部に六角柱状に形成されたボルト頭、37は環状溝部36におけるボルト先端部33が主雄螺子部35のピッチの大きさをPとしたとき、変形量αが(n+1/30)P≦α≦(n+5/18)P、好ましくは(n+1/15)P≦α≦(n+1/4)P、より好ましくは(n+1/15)P≦α≦(n+1/5)P、又は、(n−5/18)P≦α≦(n−1/30)P好ましくは(n−1/4)P≦α≦(n−1/15)Pより好ましくは(n−1/5)P≦α≦(n−1/15)P(但し、nは0以上の整数とする。αは圧縮方向を正とする。)だけ圧縮変形されてボルト先端部33の外周側に膨出し軸方向に圧縮された弾性部である。なお、弾性部37は引張変形させ肉厚を薄くして形成することもできる。
【0039】
39はボルト先端部33の軸中心にボルト先端部33の先端から環状溝部36の幅の全部を超えてボルト軸部32の一部まで形成された先端凹部である。L1は圧縮変形して圧縮された環状溝部6(弾性部7)の軸方向の長さ、θは弾性部7の軸方向に対する変形角である。
【0040】
緩み止めボルト31の効果は以下の通りである。
(1)雌螺子に締め付けられた緩み止めボルトは、主雄螺子部に対する副雄螺子部の位相が所定量変位しているため、その締め付け力で発生する圧接力の主雄螺子部のフランクが雌螺子のフランクを圧接する方向と副雄螺子部のフランクが雌螺子のフランクを圧接する方向とが180°異なり相反している。このため、この圧接力と螺子のリード角等によって生じるトルクの方向が、主雄螺子部と副雄螺子部とでは正逆異なるので、ナットや被締結部材等に振動等の外力が加わり雌螺子から主雄螺子部が緩もうとする回転方向の力が加わると、副雄螺子部のフランクに発生するトルクが締め付け方向に作用するため、緩み止めボルトが雌螺子から緩むのを確実に防止でき半永久的に高い締結力を維持することができる。
(2)雌螺子に緩み止めボルトを締め付け締結力を加えると、緩み止めボルトの副雄螺子部が雌螺子によって変形されて弾性変形を生じ、弾性変形内でその反力により雌螺子に主雄螺子部と副雄螺子部をより強固に密着させて締結することができるので、緩み止めボルトと雌螺子の螺着力をより向上でき振動等の外力により緩み止めボルトが雌螺子から緩むのをより確実に防止できる。
(3)被締結部材と座面との間が磨耗して緩みが生じた場合であっても、副雄螺子部が雌螺子を主雄螺子部の方向に押圧する反力、又は副螺子部が雌螺子を主雄螺子部と反対側の方向に押圧する反力によって、緩み止めボルトが雌螺子から外れるのを防止することができ振動の激しい自動車や橋梁等に適用した場合でもボルトやナットが外れて落下するという落下事故を防止することができる。
(4)雌螺子に螺合された緩み止めボルトの副雄螺子部が雌螺子によって変形されて生じた弾性変形による反力により、雌螺子に主雄螺子部と副雄螺子部を強固に密着するので、弾性変形内で雌螺子と緩み止めボルトの雄螺子部の加工精度のばらつきによるガタツキを吸収することができ安定性に優れるとともに、変位量が小さいので、締結時に緩み止めボルトやナット等の螺子部に傷を付け難く、また弾性変形によって反力を安定して得ることができるので、同一の雌螺子であれば一旦螺合させた緩み止めボルトを取り外した後に再度螺着して繰り返し使用することができ、繰り返し使用性に優れる。
(5)主雄螺子部の谷底と同一若しくは深く形成された環状溝部を有しているので、雌螺子に主雄螺子部を螺着する際にスムーズに螺着することができるとともに圧縮若しくは引張変形を容易にすることができ、設計の自由度を増すとともに圧縮変形の際に主雄螺子部等が座屈するのを防止することができる。
(6)先端凹部によって環状溝部の軸部を薄肉にし、弾力や曲げ応力等の機械的強度を最適にして螺子部に応じた反力を得ることができ、螺子部の損傷を防止するとともに緩み難くすることができる。
(7)環状溝部におけるボルト先端部が圧縮変形された弾性部は弾性を有するので、螺合された雌螺子によって生じる副雄螺子部等の弾性変形に加え、螺合された雌螺子によって生じる弾性部の伸びによって、雌螺子と緩み止めボルトの雄螺子部の加工精度のばらつきによるガタツキ等を吸収するとともに、弾性部の弾力によって雄螺子部に生じる反力をさらに大きくすることができ、緩み止めボルトが雌螺子から緩むのをより確実に防止できる。
(8)主雄螺子部と副雄螺子部とを同一ピッチかつ同一位相で形成した後、環状溝部を圧縮変形させることで主雄螺子部と副雄螺子部の位相を容易にずらすことができるので、製造が容易で生産性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の建物外壁の受雷装置の1実施形態を示す横断平面図である。
【図2】圧縮端子の側面図である。
【図3】PC角欠け防止用プレートの説明図である。
【図4】緩み止めボルトの全体斜視図である。
【図5】図4の軸方向における要部断面端面図である。
【図6】従来の技術に係る側面落雷防止工法に用いられるPC板の取り付け状態を示す正面図である。
【図7】従来の技術に係る側面落雷防止工法に用いられるPC板の正面図である。
【図8】従来の技術に係る側面落雷防止工法に用いられるPC板の右側面図である。
【図9】従来の技術に係る避雷導線の接合状態を示す図である。
【図10】他の従来例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 PC板
2 垂直導体
3 PC板取り付け金物
4 連結杆
5 避雷導線
6 躯体
7 接続端子
8 側面貫通受雷部
9 受雷部固定部材
10 壁部材
11 避雷導線
12 ネジ部材
13 PC躯体
14 長ナット
15 圧縮端子
16 PC角欠け防止用プレート
17 ナット
18 頭付きボルト
19 突針取り付け部材
20 受けプレート
21 避雷用突針
22 ボルト
31 緩み止めボルト
32 ボルト軸部
33 ボルト先端部
34 ボルト頭
35 主雄螺子部
36 環状溝部
37 弾性部
38 副雄螺子部
39 先端凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出隅部のPC躯体に長ナットをその端部が顕出するように予め埋め込み、受雷部としての避雷用突針の底部にボルトを設け、前記長ナットにボルトを螺合することで、建物躯体に避雷用突針を着脱可能に設置することを特徴とする建物外壁の受雷装置。
【請求項2】
PC躯体は、接地導線の接続端子とPC角欠け防止用プレートとを頭付きボルトとナットで接続した物を、該頭付きボルトの頭部で長ナットの一端と溶接により接続し、該長ナットのもう一方の端を受けプレートと溶接してなる突針取り付け部材を作製し、この突針取り付け部材を型枠の出隅部分に予め埋め込んだ状態でコンクリートを打設して製作する請求項1記載の建物外壁の受雷装置。
【請求項3】
出来上がったPC躯体を揚重機で所定個所に設置し、然る後にその底部にボルトを有する突針を、PC躯体に設けた突針取り付け部材の長ナット部分と接続する請求項1または請求項2記載の建物外壁の受雷装置。
【請求項4】
突針の底部に有するボルトは、緩み防止機能付きボルトである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の建物外壁の受雷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−52295(P2012−52295A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193313(P2010−193313)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】