説明

建物

【課題】火災を助長せず、かつ煙の侵入を抑えて避難時間を長くできる避難用途に好適な部屋を有した建物を提供する。
【解決手段】ダイニングキッチン16で火災が生じ、火災警報装置が作動すると、寝室14の給気ファン24、及びダイニングキッチン16の排煙ファン32が作動し、ダイニングキッチン16の煙は部屋上部より吸入されて屋外へ排出され、新鮮な外気が寝室14の上部から寝室14内に供給されるので、寝室14に煙が浸入し難くなる。住宅等では、キッチンのコンロ、ストーブ等、火元が部屋の半分よりも下方にある場合が多く、火元が部屋の下部である場合、火元に近いところから外気が導入されると火災を助長する場合が考えられるが、本発明の建物10では、寝室14の上部から外気を導入するので、下部から外気を導入するよりも新鮮な空気が火元に行き難く、火災の助長を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時に煙の侵入を抑制できる部屋を備えた建物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物では、火災時の避難を考慮し、種々のシステムが考えられている。
例えば、特許文献1では、安全性の高い避難通路の確立のために、外気を建物等の屋内空間へ下部から連続給気して屋内空間を正圧状態に維持したまま、屋内空間の煙を上部から吸入して屋外へ放出する手法を確立している。
【0003】
また、特許文献2においては、防火防炎区画を設定し、火災発生時においては、該防火防炎区画の煙を上部から吸入して排煙すると共に、防火防炎区画に隣接している避難階段の前室の下部から新鮮外気を導入し、煙層降下時間を稼ぐようにしている。
【特許文献1】特開平5−1617号公報。
【特許文献2】特開2007−24469号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、防煙機構として屋内を正圧にするために外気を取り入れるということは防煙上有効ではあるが、室内の下部から新鮮な外気を導入する構成とした場合、火災が室内空間に侵入してきた際に逆に燃焼を助長する可能性がある。
また、従来では、歩行距離の短い住宅においては、火災発生を知覚した時点から避難時間がかからないとされてきたため、住宅内に避難区画を形成するほどでは無いとされてきた。しかし、住まい方の多様化や住人の高齢化により一定時間の避難時間を確保することが困難となってきており、安全性を確保するためには一定の避難区画を形成することが重要であると考えられる。
【0005】
例えば、2階家の1階から出火した場合で、2階に居る住人が出火に気付くのが遅れて、逃げ遅れるケースが考えられる。このような場合には、消防が到着するまでの時間を2階の部屋で一時的に避難せざるを得ない。また、避難した部屋では、煙の侵入を抑えることが安全を確保する上で重要である。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、火災を助長せず、かつ煙の侵入を抑えて避難時間を長くできる避難用途に好適な部屋を有した建物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の建物は、複数の部屋と、前記複数の部屋の内の第1の部屋に連結され、給気した外気を前記第1の部屋の上部より排出する給気装置と、前記複数の部屋の内で前記給気装置を設けていない第2の部屋に連結され、前記第2の部屋の煙を部屋上部より吸入して屋外へ排出する排煙装置と、火災、及び煙の少なくとも一方を検知可能なセンサと、前記センサで、前記火災、及び前記煙の少なくとも一方を検知した際に、前記排煙装置、及び前記給気装置を作動させる制御手段と、を有することを特徴としている。
【0008】
次に、請求項1に記載の建物の作用を説明する。
請求項1に記載の建物では、第2の部屋は、例えば、キッチン等の火を扱う部屋であり、第1の部屋は、例えば、寝室等である。
第2の部屋で火災が生じ、センサで火災、及び火災による煙の少なくとも一方が検知されると、制御装置は排煙装置、及び給気装置を作動させる。
【0009】
排煙装置が作動することで、第2の部屋の煙が部屋上部より吸入されて屋外へ排出される。煙は部屋の上部に滞留して徐々に床面へ向けて降下するので、他の部屋に煙を行かせないためには部屋上部より吸入することが好ましい。なお、部屋の上部とは、より具体的には、天井、及び天井付近の壁面であるが、煙の吸入としては天井に設けることが最も好ましい。
また、給気装置が作動することで、給気した新鮮な外気が第1の部屋の上部から第1の部屋内に供給される。
【0010】
ここで、第1の部屋と第2の部屋の仕切り(壁等)が火災により損傷し、第2の部屋の煙が第1の部屋に侵入しようとする場合、煙は第2の部屋の上部に滞留しているので、第2の部屋の煙は第1の部屋の第2の部屋側の上部から侵入しようとする。
第1の部屋では、外気を第1の部屋の上部より部屋内に排出することで、第1の部屋の第2の部屋側の上部から侵入しようとする第2の部屋の煙を第2の部屋側へ追い返すような空気の流れを部屋の上部で作り、第1の部屋への煙の侵入を効果的に抑えることができる(第1の部屋において、外気を第1の部屋の下部より部屋内に排出する場合に比較して)。したがって、第1の部屋を、一時的な避難場所として活用できる。
【0011】
また、住宅等では、キッチンのコンロ、ストーブ等、火元が部屋の半分よりも下方にある場合が多く、火元が部屋の下部である場合、火元に近いところから外気が導入されると、火災を助長する場合が考えられる。
しかしながら、請求項1の建物では、部屋の上部から外気を導入するので、下部から外気を導入するよりも新鮮な空気が火元に行き難く、火災の助長を抑制できる。
【0012】
なお、給気装置を備えた第1の部屋は少なくとも1つあれば良く、複数あっても良い。
また、排煙装置を備えた第2の部屋は少なくとも1つあれば良く、複数あっても良い。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の建物において、前記予め設定した条件とは、予め設定した距離である、ことを特徴としている。
【0014】
次に、請求項2に記載の建物の作用を説明する。
排煙装置と給気装置が近すぎると、より具体的には、排煙装置の煙吸入口と給気装置の外気排出口とが近すぎると、排煙装置が給気装置から排出された外気を多量に吸入する結果、煙の吸入量が不十分になる。
したがって、予め、排煙装置の吸入能力、給気装置の給気能力等を考慮し、火災時に煙を十分に吸入できるように、予め排煙装置と給気装置との距離を設定する。
【0015】
なお、「火災時に煙を十分に吸入できる」とは、少なくとも、排煙装置が吸入する煙と空気(煙を含まない)との割合を見た時に、煙の割合が空気の割合よりも多い事である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の建物において、前記予め設定した条件とは、前記給気装置と前記排煙装置との間に、天井から下方へ延びる垂壁を設置したこと、を特徴としている。
【0017】
次に、請求項3に記載の建物の作用を説明する。
前述した様に排煙装置と給気装置が近すぎると、排煙装置が給気装置から排出された外気を多量に吸入する結果、煙の吸入量が不十分になるが、請求項3に記載の建物では、給気装置と排煙装置との間に、天井から下方へ延びる垂壁を設置したので、垂壁が屋内空間の上部に滞留した煙が天井に沿って給気側へ向かうことを阻止しつつ、給気装置から排出された外気が天井に沿って排煙装置側へ向かうことが阻止できるので、給気装置と排煙装置との距離をあまり離さなくても煙を十分に吸入して屋外へ排煙することが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の建物において、前記制御手段は、前記第1の部屋の気圧が前記第2の部屋の気圧よりも高くなるように前記排煙装置、及び前記給気装置を制御する、ことを特徴としている。
【0019】
次に、請求項4に記載の建物の作用を説明する。
請求項4に記載の建物では、制御手段が第1の部屋の気圧が、第2の部屋の気圧よりも大きくなるように排煙装置と給気装置を制御する。これにより、第1の部屋から第2の部屋へ空気が流れ易くなり、第2の部屋の煙が第1の部屋へ侵入し難くなる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の建物において、前記第1の部屋に、前記第1の部屋の温度を計測する温度センサを設け、前記制御装置は、前記第1の部屋の温度に基いて前記排煙装置、及び前記給気装置を制御する、ことを特徴としている。
【0021】
次に、請求項5に記載の建物の作用を説明する。
請求項5に記載の建物では、温度センサが第1の部屋の温度を計測し、制御手段は第1の部屋の温度に基いて排煙装置、及び給気装置の制御を行う。これにより、例えば、第1の部屋の温度が予め設定した基準の温度よりも高くなった場合や、第1の部屋の温度が急激に変化(上昇)した場合に、制御装置は火災が生じていると判断し、排煙装置、及び給気装置を作動させて第1の部屋への煙の侵入を抑えることができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の建物において、前記第1の部屋に、前記第1の部屋の気圧を計測する気圧センサを設け、前記制御装置は、前記第1の部屋の気圧に基いて前記排煙装置と前記給気装置を制御する、ことを特徴としている。
【0023】
次に、請求項6に記載の建物の作用を説明する。
請求項6に記載の建物では、気圧センサが第1の部屋の気圧を計測し、制御手段は第1の部屋の気圧に基いて排煙装置と給気装置の制御を行う。これにより、例えば、第1の部屋の気圧が急激に変化した場合に、例えば、制御装置は火災が生じて第1の部屋と第2の部屋との間のガラス窓、壁等が火災により損傷して第1の部屋と第2の部屋とが連通したと判断し、排煙装置と給気装置を作動させて第1の部屋への煙の侵入を抑えることができる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の建物において、上階に設けられる前記第1の部屋と、上下階に渡る吹き抜けとされた前記第2の部屋と、を有する、ことを特徴としている。
【0025】
次に、請求項7に記載の建物の作用を説明する。
請求項7の建物において、例えば、第1の部屋が上階とされる2階に設けられた部屋で、第2の部屋が上下階に渡る、即ち、1階から2階に渡る吹き抜けである場合、第2の部屋で火災が生じると、煙は、2階の第1の部屋の天井と同一高さとされた吹き抜けの天井側に滞留することになるが、排煙装置が作動することで、第2の部屋の煙が部屋上部より吸入されて屋外へ排出される。
【0026】
仮に、吹き抜けと2階に設けた第1の部屋との間のガラスや壁が火災により損傷し、第2の部屋の煙が第1の部屋に侵入しようとした場合、煙は第1の部屋の上部から侵入しようとする。
第1の部屋では、外気を第1の部屋の上部より部屋内に給気するので、第1の部屋の吹き抜け側の上部から侵入しようとする煙を、吹き抜け側へ追い返すような空気の流れを第1の部屋の上部で作り、第1の部屋への煙の侵入を抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明の建物によれば、火災を助長せず、第1の部屋においては、煙の侵入を抑えて避難時間を長くすることができるので、避難用途に好適な部屋となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1の実施形態]
以下、図1、及び図2を用いて、本発明の第1の実施形態に係る建物10について説明する。
図1には、本発明の適用された2階建ての建物10が示されている。この建物10は住宅であり、図面右側の1階にリビングルーム12、リビングルーム12の上に2階の部屋としての寝室14があり、リビングルーム12、及び寝室14の図面左側に、1階から2階まで吹き抜けとされたダイニングキッチン16がある。
【0029】
寝室14には、ガラス窓17の外側に遮光用の水平ルーバー18が設けられ、水平ルーバー18の陰とならない位置に太陽の向き、及び日射量を把握するための直接日射計20が設けられている。水平ルーバー18は、モータ18Aによってフィンの角度が変更可能とされている。なお、水平ルーバー18のフィンは、金属等の耐火性に優れた材料で形成されていることが好ましい。
また、寝室14には、通常時の換気を行うための換気口21が設けられている。なお、換気口21はモータ21Aによって開閉可能とされ、通常は開となっている。
【0030】
寝室14の天井裏には、外気を吸入するための給気ファン24が配置されており、給気ファン24から送風された外気が、寝室14の天井に設けられた給気口24Aから部屋内に給気されるように構成されている。
本実施形態では、寝室14と吹き抜けとされたダイニングキッチン16とがガラスサッシ26で完全に仕切られており、通常は寝室14と吹き抜けとの間で空気の出入りは出来ない構造となっている。
なお、このガラスサッシ26には、気圧センサ28、及び温度センサ30が取り付けられている。
【0031】
一方、吹き抜けとされたダイニングキッチン16には、天井裏に排煙ファン32が配置されており、ダイニングキッチン16の天井に設けられた煙吸入口32Aからダイニングキッチン16の煙、及び空気を吸入して屋外へ排出する構成となっている。
【0032】
なお、気圧センサ28、温度センサ30、及び直接日射計20は、データロガー34、及びコンピュータ等を含んで構成される制御装置36に接続されており、気圧センサ28、温度センサ30、及び直接日射計20から送信された種々のデータが、データロガーに記憶されると共に、制御装置36に入力されるように構成されている。
【0033】
制御装置36には、前述した排煙ファン32、給気ファン24、換気口21を開閉するモータ21A、水平ルーバー18のモータ18Aが接続されており、制御装置36は直接日射計20、気圧センサ28、温度センサ30からのデータに基いて接続された機器の作動を制御する。
【0034】
(作用)
次に、本実施形態の建物10における排煙ファン32、及び給気ファン24等の制御の一例を図2のフローチャートに基いて説明する。本実施形態では、室温の変化に基いて排煙ファン32、及び給気ファン24等の制御を行う例である。
【0035】
先ず、ステップ100では、ガラスサッシ26の温度が600K以下であるか否かが判断される。ガラスサッシ26の温度が600K以下の場合には、屋内に異常(火災)は無いと判断されるので、ステップ102にて直接日射計20で太陽の向き、及び日射量が測定され、ステップ104で太陽の向き、及び日射量がデータロガー34に記録されてステップ106へ進む。
【0036】
ステップ106では、制御装置36は、太陽の向きに基いて太陽光が室内に入らないように水平ルーバー18のフィンの角度を演算し、次のステップ108では、演算結果に基いて水平ルーバー18のフィンの角度を変更する(遮光を行う)と共に、換気口21を開としておく。
【0037】
次のステップ110では、ガラスサッシ26の温度が、予め設定した室内基準温度(例えば、25°C)を超えているか否かが判断され、その後、ステップ100へ戻る。
【0038】
一方、ステップ100でガラスサッシ26の温度が600Kを超えたと判断されると、火災Fが発生してガラスサッシ26が加熱されて危険な状態にあると判断されるので、先ずステップ112へ進み、気圧センサ28で寝室14の気圧が測定され、測定された気圧がステップ114にてデータロガー34に記録される。
【0039】
次のステップ116では、制御装置36が排煙ファン32、給気ファン24、及び換気口21のモータ21Aの作動信号を送信し、次のステップ118では排煙ファン32、及び給気ファン24が作動すると共に、換気口21が閉とされる。
【0040】
排煙ファン32が作動することで、ダイニングキッチン16の天井側に上昇した煙が煙吸入口32Aから吸入され、屋外へ連続的に排出される。一方、給気ファン24が作動することで、換気口21から新鮮な外気が寝室14の内部に連続的に供給される。
【0041】
このため、ダイニングキッチン16と寝室14とを仕切るガラスサッシ26が火炎による対流熱や放射熱等により破損した場合であっても、ダイニングキッチン16の煙が寝室14に侵入することが抑えられ、寝室14において煙降下時間を稼ぐことができる。
したがって、火災時に屋外に逃げることができなくなった場合には、寝室14に避難することで、避難安全性を大きく向上することができる。
【0042】
本実施形態では、ガラスサッシ26の温度に基いて制御を行ったが、本発明はこれに限らず、寝室14の壁、床、及び天井の温度、室温等に基いて制御を行っても良い。
【0043】
[第2の実施形態]
以下、図3、及び図4を用いて、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
図3に示すように、本実施形態では、ダイニングキッチン16に、ダイニングキッチン16の気圧を計測するための気圧センサ38、及び火災警報装置40が設けられている。火災警報装置40は、煙式、定温式等の公知の装置方式の火災警報装置を用いることができる。煙式では、火災Fの煙を検知することで信号を出力し、定温式では、予め設定した値を超える温度を検知したときに信号を出力するように構成されている。
【0044】
(作用)
次に、本実施形態の制御の一例を図4のフローチャートに基いて説明する。本実施形態では、火災警報装置40の作動によって、排煙ファン32、及び給気ファン24等の制御を行う例である。
【0045】
先ず、ステップ200では、火災警報装置40が作動したか否かが判断され、ステップ200で、火災警報装置40が作動していないと判断されると(非火災時)、ステップ202にて直接日射計20で太陽の向き、及び日射量が測定され、ステップ204で太陽の向き、及び日射量がデータロガー34に記録されてステップ206へ進む。
【0046】
ステップ206では、制御装置36は、太陽の向きに基いて太陽光が室内に入らないように水平ルーバー18のフィンの角度を演算し、次のステップ208では、演算結果に基いて水平ルーバー18のフィンの角度を変更する(遮光を行う)と共に、換気口21を開としておく。
【0047】
次のステップ210では、温度センサ30でガラスサッシ26の温度が測定され、測定された温度が予め設定した室内基準温度(例えば、25°C)を超えているか否かが判断され、その後、ステップ200へ戻る。
【0048】
一方、ステップ200で、火災により火災警報装置40が作動したと判断されると、ステップ212へ進み、気圧センサ38でダイニングキッチン16の気圧が測定され、また、気圧センサ28で寝室14の気圧が測定され、測定された気圧がステップ214にてデータロガー34に記録される。
【0049】
次のステップ216では、制御装置36が排煙ファン32、給気ファン24、及び換気口21のモータ21Aの制御信号を送信し、次のステップ218では排煙ファン32、及び給気ファン24が作動すると共に、換気口21が閉とされる。
【0050】
排煙ファン32が作動することで、ダイニングキッチン16の天井側に上昇した煙が煙吸入口32Aから吸入され、屋外へ連続的に排出される。一方、給気ファン24が作動することで、換気口21から新鮮な外気が寝室14の内部に連続的に供給される。
【0051】
次のステップ220では、排煙ファン32、及び給気ファン24が作動した後の寝室14の気圧が、ダイニングキッチン16の気圧よりも大きいか否かが判断され、寝室14の気圧がダイニングキッチン16の気圧よりも大きいと判断された場合には排煙ファン32、及び給気ファン24の作動を続ける。
【0052】
一方、ステップ220において、寝室14の気圧がダイニングキッチン16の気圧以下であると判断された場合にはステップ212へ戻り、制御装置36は、寝室14の気圧がダイニングキッチン16の気圧よりも高くなるように排煙ファン32、及び給気ファン24の制御を行う。具体的には、給気ファン24の能力を向上して給気量を増加することが好ましい。なお、場合によっては、排煙ファン32の排煙能力を低下させても良い。
【0053】
本実施形態では、ダイニングキッチン16と寝室14とを仕切るガラスサッシ26が火炎による対流熱や放射熱等により破損した場合であっても、フィードバック制御により寝室14の気圧をダイニングキッチン16の気圧よりも高く設定することができるので、ダイニングキッチン16の煙が寝室14に侵入することが確実に抑えられ、寝室14において煙降下時間を確実に稼ぐことができる。
【0054】
[第3の実施形態]
以下、図5を用いて、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態は第1の実施形態の変形例であり、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
図5に示すように、本実施形態では、外壁に屋外の温度を計測する屋外温度センサ42が設けられている。なお、この屋外温度センサ42は制御装置36に接続されている。
【0055】
本実施形態では、屋外(例えば、隣家等)で火災Fが発生すると、制御装置36は、屋外温度センサ42の温度と、予め設定しておいた基準の温度とを比較し、屋外温度センサ42で計測した温度が、基準の温度よりも高いと判断したときに、水平ルーバー18、及び換気口21を閉じるように制御する。
ここで、基準の温度とは、例えば、寝室14のガラス窓17のガラス破損温度とすることができる。
このように基準温度を設定しておくことで、ガラス窓17が熱で破壊される前に水平ルーバー18を閉じることができ、屋外での火災による放射熱、対流熱、火の粉、煙等が損傷したガラス窓17や換気口21を介して建物10の内部に侵入入ることを阻止でき、建物内の安全性が向上する。
【0056】
[その他の実施形態]
第1の実施形態の制御フローでは、寝室14の温度が600Kを超えたことで、屋内で火災が発生したと判断したが、例えば、部屋内の温度が急激に変化(上昇)した場合に、火災が発生したと判断しても良い。この場合、予め設定した単位時間当たりの温度の変化量(基準)と、単位時間毎に測定した温度の変化量との比較を行う判断を制御フローに設け、基準を超えた場合に火災と判断する。
【0057】
また、寝室14の気圧を気圧センサ28で常時監視し、寝室14の気圧が急激に変化した場合に、寝室14とダイニングキッチン16との間のガラスサッシ26が火災によって損傷したと判断し、排煙ファン32、及び給気ファン24を作動させるように制御しても良い。この場合、予め設定した単位時間当たりの気圧の変化量(基準)と、単位時間毎に測定した気圧の変化量との比較を行う判断を制御フローに設け、基準を超えた場合に火災と判断する。
【0058】
また、上記実施形態の建物10では、寝室14、ダイニングキッチン16、リビングルーム12を示し、他の部屋は省略しているが、安全性の高い避難域とすべく他の部屋に給気ファン24、温度センサ、気圧センサ等を設けても良い。
【0059】
また、2世帯住宅等では、キッチンが2個所設けられている場合があり、キッチン以外の部屋でも火災の原因となり得るストーブ等の住宅機器等が備えられている場合が想定される。したがって、建物10に火元となり得る多数の部屋がある場合、排煙ファン32、及び給気ファン24を全ての部屋に設けると共に、これら全ての部屋に温度センサ、気圧センサ、火災警報装置を設けても良い。このような場合、制御装置36は、温度センサ、気圧センサ、火災警報装置等からのデータを収集し、どの部屋で火災が起きているかを判断し、火災の起きていると判断された部屋の排煙ファン32を作動させ、火災の起きていないと判断された部屋の給気ファン24を作動させる。これにより、上記実施形態と同様に、火災が発生している以外の部屋の避難安全性を向上することができる。また、各部屋に人間から発せられる赤外線を検知する赤外線センサを設け、赤外線センサからの信号によって制御装置36に人間の居る部屋を判断させ、人間の居る部屋の給気ファン24を作動させることも出来る。
【0060】
また、火災が生じていると判断される部屋を知らせると共に、火災が生じていないと判断される部屋を知らせる表示装置等を制御装置36に接続し、表示装置を各部屋に設けるようにしても良い。これにより、火災の生じている部屋、及び避難する部屋を把握することができる。
【0061】
上記実施形態では、寝室14とダイニングキッチン16とがガラスサッシ26で仕切られていたが、寝室14とダイニングキッチン16とは、火炎、火熱を有効に遮断できる耐火壁で仕切られていても良い。
【0062】
また、上記実施形態では、寝室14とダイニングキッチン16とがガラスサッシ26で完全に仕切られていたが、図6に示すように、天井から所定の長さ下方に張出した垂壁44をガラスサッシ26に代えて設けても良い。垂壁44を設けることで、垂壁44を設けない場合に比較して、ダイニングキッチン16の煙が天井に沿って寝室14に流入することを抑えることができる。
なお、部屋の間に壁等の仕切りが天井側に無く、煙吸入口32Aと給気口24Aとが近すぎると、煙吸入口32Aが給気口24Aから排出された外気を多量に吸入する結果、煙の吸入量が不十分になる虞があるが、天井から下方へ延びる垂壁を煙吸入口32Aと給気口24Aとの間に設置することで、ダイニングキッチン16の上部に滞留した煙が天井に沿って寝室側へ向かうことを阻止しつつ、寝室14に給気された外気が天井に沿ってダイニングキッチン側へ向かうことが阻止できるので、煙吸入口32Aと給気口24Aとの距離をあまり離さなくても煙を十分に吸入して屋外へ排煙することが可能となる。
なお、上記の制御は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施形態に係る建物の概略構成を示す側面図である。
【図2】第1の実施形態に係る建物での制御を示すフローチャートである。
【図3】第2の実施形態に係る建物の概略構成を示す側面図である。
【図4】第2の実施形態に係る建物での制御を示すフローチャートである。
【図5】第3の実施形態に係る建物の概略構成を示す側面図である。
【図6】他の実施形態に係る建物の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0064】
10 建物
12 リビングルーム(部屋)
14 寝室(第1の部屋)
16 ダイニングキッチン(第2の部屋、吹き抜け)
20 日射計
21 換気口
24 給気ファン(給気装置)
24A 給気口(給気装置)
28 気圧センサ
30 温度センサ
32 排煙ファン(排煙装置)
32A 煙吸入口(排煙装置)
36 制御装置
38 気圧センサ
40 火災警報装置(センサ)
44 垂壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部屋と、
前記複数の部屋の内の第1の部屋に連結され、給気した外気を前記第1の部屋の上部より排出する給気装置と、
前記複数の部屋の内で前記給気装置を設けていない第2の部屋に連結され、前記第2の部屋の煙を部屋上部より吸入して屋外へ排出する排煙装置と、
火災、及び煙の少なくとも一方を検知可能なセンサと、
前記センサで、前記火災、及び前記煙の少なくとも一方を検知した際に、前記排煙装置、及び前記給気装置を作動させる制御手段と、
を有することを特徴とする建物。
【請求項2】
前記予め設定した条件とは、予め設定した距離である請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記予め設定した条件とは、前記給気装置と前記排煙装置との間に、天井から下方へ延びる垂壁を設置したことである請求項1に記載の建物。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1の部屋の気圧が前記第2の部屋の気圧よりも高くなるように前記排煙装置、及び前記給気装置を制御する、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の建物。
【請求項5】
前記第1の部屋に、前記第1の部屋の温度を計測する温度センサを設け、
前記制御装置は、前記第1の部屋の温度に基いて前記排煙装置、及び前記給気装置を制御する、ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の建物。
【請求項6】
前記第1の部屋に、前記第1の部屋の気圧を計測する気圧センサを設け、
前記制御装置は、前記第1の部屋の気圧に基いて前記排煙装置と前記給気装置を制御する、ことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の建物。
【請求項7】
上階に設けられる前記第1の部屋と、
上下階に渡る吹き抜けとされた前記第2の部屋と、
を有する、ことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275453(P2009−275453A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129610(P2008−129610)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】