説明

建物

【課題】
吹抜け空間に階段を備える建物において、上階から下階に下降する気流に伴う不快感を解消することができる建物を提供することを目的とする。
【解決方法】
上階床と、下階床と、これら上階床と下階床とを連通する吹抜空間とを備え、該吹抜空間と上階床との間に腰壁が立設されると共に、該腰壁の一部が切り欠かれて開口部が形成され、該開口部と前記吹抜空間下方に位置する下階床に亘って階段が当該吹抜空間に開放された状態で設けられている建物において、前記階段の上部が連結される開口部には、当該開口部を通じて上階から下階に下降する気流の流れを抑制する整風体が開閉自在に設けられていることを特徴とする建物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上階と下階とを連通する吹抜空間を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上階と下階とを連通する吹抜空間を有すると共に、当該吹抜け空間内に上階と下階とをつなぐ階段を設置した建物が個別住宅等においても用いられるようになり、かかる住宅の中では、吹抜空間をリビングとして使用することも行われている。
【0003】
また、近年の住宅は断熱性能が著しく向上しており、住宅全体を暖めたとしても全体の消費エネルギー量を抑えることができるにもかかわらず、これまでの生活習慣から、居住者が存在する空間や居室のみに暖房等を使用する局所空調がなされ、住宅全体に亘って空調を行うことはしないとすることがほとんどである。
【0004】
かかる暖房の使用態様が上述の如き吹抜空間をリビングとして使用する住宅に適用され、実質的に居住者が使用する吹抜け空間の下階部分に対応するリビングのみを暖めるとすると、暖房の有効範囲から外れることで低温なままの上階と暖房によって適度な温度に暖められた下階との間に温度差が生じることとなり、これによって、吹抜空間内に気流が発生することとなる。特に上階の床部分の温度は低いものとなり、当該床部分により冷やされた空気は、上階に開設されて階段に連通される開口部等を出口として勢いよく集中的に当該階段に沿って下階に向けて下降することとなるので、リビングの階段周りには気流が生じ、居住者に気流感に伴う不快感を与える虞があった。
【0005】
かかる問題を解決すべく、階段から下降してくる気流の流れを制御することが考えられるが、階段の昇り口や降り口に設置されるものとしては、幼児及びペット等の不慮の事故を防止する目的で、幼児やペットの通行を遮断する扉を有するゲート装置が知られているのみである(例えば、特許文献1参照))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のゲート装置においては、ゲートのこちら側から向こう側に向けての視認性を確保するため、或いは、扉の重量を軽減するために当該扉を柵状に形成されていることが必須であって、これによって気流までは遮断することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、吹抜け空間に階段を備える建物において、上階から下階に下降する気流に伴う不快感を解消することができる建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、上階床と、下階床と、これら上階床と下階床とを連通する吹抜空間とを備え、該吹抜空間と上階床との間に腰壁が立設されると共に、該腰壁の一部が切り欠かれて開口部が形成され、該開口部と前記吹抜空間下方に位置する下階床に亘って階段が当該吹抜空間に開放された状態で設けられている建物において、前記階段の上部が連結される開口部には、当該開口部を通じて上階から下階に下降する気流の流れを抑制する整風体が開閉自在に設けられていることを特徴としている。
【0010】
これによれば、整風体が開口部を閉塞することにより、当該開口部を通じての上階床から下階床に向けての気流の流れを著しく制限することができる。この結果、吹抜空間下方の下階床を中心として暖房等により暖め、これによって吹抜空間を介して上下床間に気流を生じる場合であっても、下階床上の比較的高温の空気に比して低温である上階床上の空気(以下、冷気ともいう)は、開口部から集中して一気に下階床に向けて流下することはなく、これによって、下階床における階段周りに下降気流に伴う不快感を大幅に削減することができるものとなっているのである。
【0011】
(2)また、前記整風体は、前記開口部を塞ぐ閉じ状態から、少なくとも階段側から上階床方向に向けて開放可能に取り付けられていることが好ましい。
【0012】
これによれば、整風体は階段側から上階床方向に向けて開くこととなるため、閉じ状態の整風体の上階床側に滞留している冷気は、当該整風体の開くときの勢いによって整風体から離間する方向に移動することとなり、これによって、整風体の開放に伴う開口部を通じての冷気の下降を抑制することができる。
【0013】
(3)また、前記整風体は、前記階段側から上階床側に向けて2枚の扉を並べた二重扉として形成されていることが好ましい。
【0014】
これによれば、整風体はビル等の建物のエントランス部における風除室の如く、一方の扉が開放される場合に他方の扉を閉じ状態とすることができ、これによって、開口部を人が通過する場合であっても、両扉が開いて開口部が気流通過可能状態となっている時間を著しく縮減することができるものとなっている。
【0015】
(4)また、前記整風体は、1又は複数個所に前記上階床側から階段側に向けての気流の流れを許容する小開口が設けられていることが好ましい。
【0016】
これによれば、上記冷気は当該小開口から流出して開口部を通じ、階段に沿って下降してくるものの、単に開口部を開放している場合よりも単位時間当たりの流出量を著しく減じることができ、これによって、階段下部に至るまでに気流の勢いを解消することができ、これによって、下階床の階段周りの気流感を著しく削減することができる。かかる点に鑑みれば、(5)前記整風体は、パンチングプレートにより形成されていることが好ましい。または、(6)前記整風体は、開口率が0.2〜35%であって、且つ、通気度が40〜650cc/cm・secである繊維シート状物により形成されることが好ましい。
【0017】
これによれば、上階床上の冷気を、整風体を通じることで流速を著しく減じられた状態で階段側に至らせることができ、人が不快と感じる程度までに勢いのある気流の発生を抑制することができる。
【0018】
(7)また、前記腰壁には、所定の位置に前記上階床上の気流を下階床に向けて下降させるための下降気流路を形成すると共に、該下降気流路以外を通じて上階床上の気流の下階床に向けての下降を制限する気流制御機構が設けられていることが好ましい。
【0019】
これによれば、下降気流路を通じて上階床上の冷気を下階床に向けて下降させることができる。したがって、少なくとも人の通過動線となる階段及び階段周り以外の位置から冷気を下階床に導くことができ、建物内の換気上好ましいものとなる。
【0020】
(8)また、前記気流制御機構は、前記下降気流路となる開口部又は切り欠きを腰壁に形成する開口形成手段であることが好ましい。
【0021】
これによれば、下降気流路を除く領域の腰壁の高さが増大することとなり、これら領域から吹抜け空間に向けての気流の流れが抑制される一方、下降気流路から吹抜け空間に向けて冷気を流下させることができるものとなる。
【0022】
(9)また、前記気流制御機構は、前記下降気流路となる部位を存置して残部の腰壁の上端部に設けられるヒータ手段であることが好ましい。
【0023】
これによれば、下降気流路を除く領域の腰壁上端周囲がヒータ手段によって暖められることとなり、これらの領域に上昇気流を生じて吹抜け空間に向けての気流の流れが抑制される一方、下降気流路から吹抜け空間に向けて冷気を流下させることができるものとなる。
【0024】
(10)さらに、前記下降気流路の直下となる下階床には、テレビジョン装置やパーソナルコンピュータといった冷却することが望ましい電器設備が設置される電器設備設置領域が設けられていることが好ましい。
【0025】
これによれば、下降気流路を通じて下階床の換気を図ることができると共に、電器設備設置領域にテレビジョン装置やパーソナルコンピュータといった比較的低温の環境での使用が望ましい電器設備を設置することにより、下降気流路を下降してくる冷気によってこれらの電器設備を比較的暖かい空気中に在りながらにして冷却することもでき、電器設備の放熱を助長することができる。
【0026】
また、整風体により階段の開口部を腰壁と同じ高さ位置程度まで閉塞すると、当該開口部を通過して流下してくる冷気の流れを抑制することができる一方、上階の腰壁での高さが同じになるので、いずれの位置から冷気が流下してくるかは、そのときの吹き抜け等の暖気流の流れ等の諸条件によって適宜変化することとなり、上階の例気流が図らずも居住者等の位置に流下してしまうことも考えられ、そうすると、やはり居住者はコールドドラフトを受けて不快感を回避できない。そこで、上記の如く下降気流路を通じて電器設備設置領域に向けて冷気を流下させる状態を予め形成しておくことにより、暖気流等の流れによらず当該下降気流路を通じて冷気を流下させることができ、居住者の不快感を回避することができるものとなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、吹抜け空間に階段を備える建物において、上階から下階に下降する気流に伴う不快感を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態に係る建物の2階の平面図である。
【図2】第1実施形態に係る建物の1階の平面図である。
【図3】上階における整風体の設置例を説明する図である。
【図4】整風体の具体例を示す図である。
【図5】腰壁に設けられた気流制御機構の具体例を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る整風体の設置例を説明する図である。
【図7】実施例に係る実験住宅の平面図である。
【図8】実施例に係る実験住宅のA−A’における断面図である。
【図9】実施例における吹き抜け内の流線図である。
【図10】実施例における1階居室での測定風速の平面分布である。
【図11】実施例における風速及び室気温の分布を示すグラフである。
【図12】実施例の各モードにおける風速及び室気温の分布を示すグラフである。
【図13】測定位置U3での風速及び室気温の分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
A 建物
F 気流の流れ
R 下降気流路
1 上階床
2 下階床
3 吹抜空間
4 腰壁
5 開口部
6 整風体
7 階段
8 小開口
9 繊維シート状物
10 気流制御機構
11 腰壁開口部
12 切り欠き
13 パネル
14 ヒータ手段
15 電器設備設置領域
16 1−2階の吹抜け
17 2−3階の吹抜け
18 腰壁
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、実施形態に基づいて本発明に係る建物について詳細に説明するが、これらの実施形態は本発明の理解を助けるために記載するものであって、本発明を記載された実施形態に限定するものではない。
【0031】
[第1実施形態]
本実施形態に係る建物は、上階床1と、下階床2と、これら上階床1と下階床2とを連通する吹抜空間3とを備え、該吹抜空間3と上階床1との間に腰壁4が立設されると共に、該腰壁4の一部が切り欠かれて開口部5が形成され、該開口部5と前記吹抜空間3下方に位置する下階床2に亘って階段が当該吹抜空間3に開放された状態で設けられている建物Aである。
【0032】
建物Aにおいて、図1及び図2に示すように、吹抜空間3に対応する下階床2はリビングであり、上階床1において、腰壁4を介して吹抜空間3に面する部位は廊下となっている。
【0033】
腰壁4は、吹抜空間3と上階床1との間に立設される、1000mm〜1100mm程度の通常の高さの腰壁である。また、例えば、上階にて吹き抜けと該吹き抜けに隣接する室とを区画する間仕切り壁に室内窓などの窓部が設けられている場合には、気流は該室内窓を介して移動するため、上階床1から該室内窓の下桟までの高さを腰壁の高さとして規定するものとする。
【0034】
該建物Aでは、階段7の上部が連結される開口部5に、当該開口部5を通じて上階から下階に下降する気流の流れを抑制する整風体6が開閉自在に設けられている。
【0035】
該整風体6が開口部5を閉塞することにより、当該開口部5を通じての上階床1から下階床2に向けての気流の流れが著しく制限される。この結果、吹抜空間3下方の下階床2を中心として暖房等により暖め、これによって吹抜空間3を介して上下床間に気流を生じる場合であっても、下階床2上の比較的高温の空気に比して低温である上階床1上の冷気は、開口部5から集中して一気に下階床2に向けて流下することはなく、これによって、下階床1における階段7周りに下降気流に伴う不快感が大幅に削減される。
【0036】
図3(a)は上階における開口部5及び整風体6の上方からの正面図であり、図3(b)は水平方向からの平面図である。図1又は図3に示すように、開口部5は、前記腰壁4の終端、並びに前記階段7の上部が上階床1に連結される箇所に設けられ、該開口部5には、整風体6が開閉自在に設けられている。
【0037】
図1又は図3に示すように、該整風体6は、板状のものであり、その一方をヒンジ等の部材により腰壁4に支持された回転扉であり、扉の高さは腰壁4程度である。なお、整風体6の回転軸となる部材は上階の壁側に取り付けられた構成であってもよい。また、整風体6の縦方向の長さは特に限定されないが、居住性や意匠性を考慮すると、腰壁4の高さ程度として上端部を腰壁と水平状に連なっている。
【0038】
なお、図1又は図3に示すように、前記整風体6は、前記開口部5を塞ぐ閉じ状態から、少なくとも階段側から上階床1方向に向けて開放可能に取り付けられている。このような構成とすることにより、整風体6は階段7側から上階床1方向に向けて開くこととなるため、閉じ状態の整風体6の上階床1側に滞留している冷気は、当該整風体6の開くときの勢いによって整風体6及び開口部5から離間する方向に移動することとなり(例えば、冷気の移動としては、図3(b)又は図6に示すような気流の流れFが考えられる)、これによって、整風体6の開放に伴う開口部5を通じての冷気の下降が抑制されるものとなる。
【0039】
また、図4(a)に示すように、前記整風体6は、1又は複数個所に前記上階床1側から階段7側に向けての気流の流れを許容する小開口8が設けられていることが好ましい。小開口8の形状などは特に限定されず、整風体6に設けられた複数の孔や切り欠き等によって構成される。
【0040】
これによれば、上記冷気は当該小開口8から流出して開口部5を通じ、階段7に沿って下降してくるものの、単に開口部5を開放している場合よりも単位時間当たりの流出量を著しく減じることができ、これによって、階段7下部に至るまでに気流の勢いを解消することができ、これによって、下階床2の階段7周りの気流感を著しく削減することができる。
【0041】
また、前記整風体6は、図4(b)のようなパンチングプレートにより形成されていることが好ましい。または、前記整風体は、開口率が0.2〜35%であって、且つ、通気度が40〜650cc/cm・secである繊維シート状物により形成されることが好ましい。この場合、図4(c)に示すように、繊維シート状物9を整風体6の外郭を構成する枠で囲うような構成とすることが好ましい。
このような繊維シート状物9としては、例えば、旭化成せんい株式会社製のフュージョン(登録商標)が好ましく用いられる。
【0042】
前記腰壁4には、所定の位置に前記上階床1上の気流を下階床2に向けて下降させるための下降気流路Rを形成すると共に、該下降気流路R以外を通じて上階床1上の気流の下階床2に向けての下降を制限する気流制御機構10が設けられている。
【0043】
該気流制御機構10が設けられていることにより、居住者が頻繁に行き来する階段や該階段に連通する開口部ではく、居住者がそれ程通過したり留まったりすることのない領域に意図的に下降気流路Rを設けることで、該下降気流路Rを通じて上階床1上の冷気を下階床2に向けて下降させることが可能である。これにより、少なくとも人の通過動線となる階段7及び階段7周り以外の位置から冷気を下階床2に導くことができ、建物内の換気上も好ましいものとなる。
【0044】
また、本実施形態において、気流制御機構10は、図5(a)に示すように、前記下降気流路Rとなる開口部11を腰壁4に形成する開口形成手段である。これによれば、下降気流路Rを除く領域の腰壁4の高さが増大することとなり、これら領域から吹抜け空間3に向けての気流の流れが抑制される一方、下降気流路Rから吹抜け空間3に向けて冷気を流下させることが可能となる。
【0045】
また、該開口形成手段は、例えば扉などを設けることにより開閉可能に構成されることが好ましい。これにより、該開口形成手段からの冷気の流下を適宜調整することができる。また、前記気流制御機構10は、図5(b)及び図5(c)に示すように、腰壁の一部に切り欠き12を形成する構成や腰壁4の上端にパネル13を設ける構成等であってもよい。
【0046】
なお、図1及び図2に示す如く、前記下降気流路Rの直下となる下階床2には、テレビジョン装置やパーソナルコンピュータといった冷却することが望ましい電器設備が設置される電器設備設置領域15が設けられている。
【0047】
このような構成とすることにより、下降気流路Rを通じて下階床2の換気が図られると共に、電器設備設置領域15にテレビジョン装置やパーソナルコンピュータといった比較的低温の環境での使用が望ましい電器設備を設置することにより、これらの電器設備は比較的暖かい空気中に在りつつも、下降気流路Rを下降してくる冷気によって放熱が助長されるものとなる。
【0048】
また、整風体6により階段の開口部5を腰壁4と同じ高さ位置程度まで閉塞すると、当該開口部5を通過して流下してくる冷気の流れを抑制することができる一方、上階の腰壁4での高さが同じになるので、いずれの位置から冷気が流下してくるかは、そのときの吹き抜け等の暖気流の流れ等の諸条件によって適宜変化することとなり、上階の例気流が図らずも居住者等の位置に流下してしまうことも考えられ、そうすると、やはり居住者はコールドドラフトを受けて不快感を回避できない。そこで、上記の如く下降気流路Rを通じて電器設備設置領域15に向けて冷気を流下させる状態を予め形成しておくことにより、暖気流等の流れによらず当該下降気流路Rを通じて冷気を流下させることができ、居住者の不快感を回避することができるものとなる。
【0049】
[第2実施形態]
第2実施形態においては、前記整風体6は、図6に示すように、前記階段7側から上階床1側に向けて2枚の扉を並べた二重扉として形成されている。2枚の整風体6は互いに略平行かつ同程度の高さに設けられている。かかる2枚の整風体を設置すべく、これら一対の整風体6が設けられる上階床1の領域は、踊り場等が形成されている。
【0050】
このように整風体6を二重に配置することにより、開口部5を人が通過する場合であっても、両扉が開いて開口部5が気流通過可能状態となっている時間が著しく縮減される。
【0051】
また、本実施形態における気流制御機構10は、前記下降気流路Rとなる部位を存置して残部の腰壁4の上端部に設けられるヒータ手段14である。該ヒータ手段14は、図5(d)に示すように、腰壁4の上部に設けられると共に、その両端に下降気流路Rを形成する。
【0052】
これによれば、下降気流路Rを除く領域の腰壁4上端周囲がヒータ手段14によって暖められることとなり、これらの領域に上昇気流を生じて吹抜け空間3に向けての気流の流れが抑制される一方、下降気流路Rから吹抜け空間3に向けて冷気を流下させることが可能である。
【実施例】
【0053】
次に、本発明に係る建物の実施例を示す。
【0054】
[実験概要]
実施例に係る実験は、人工気象室内に建てられた、吹抜けを有する実験住宅を対象とした実大実験と、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)による数値予測により行った。当該実験期間中の人工気候室内の気温は6℃一定とした。
【0055】
[実験住宅及び測定点概要]
図7、図8及び表1に実験住宅の室内構成と、主な測定点を示す。実験住宅は、パーティションを備えた二つの吹抜けを備えている。1〜2階の吹抜け16は、空間内に階段のある階段付き吹抜け、2〜3階吹抜けは階段に沿った吹抜け17である。
【0056】
測定には熱電対と多点風速計を使用し、10分間隔で測定した。図7の点Mには吹抜け16内における実際の空間利用状況を考慮し、内部温度一定制御のサーマルマネキンを設置した。
【0057】
【表1】

【0058】
[室内温熱環境把握実験]
パーティションの開閉と暖房機器のON/OFFをもとに、表2に示す実験モードを設定した。
【0059】
【表2】

【0060】
[数値計算概要]
壁面境界条件を改良した標準型k−εモデルによる、対流・放射連成解析を行った。
[計算領域設定]
計算領域は人工気象室内の空間全域とした。構成面素数は3514〜3518枚、分割セル数は74×83×158の約97万セルである。C値≦5cm/mとなるように、窓面上下に1.0mm高のセルを設けて住宅モデルの窓すきまとした。その他の分割セル間隔は、100mm間隔を基本とした。
【0061】
[室内温熱環境把握]
Case3について数値予測を行った。図9に、図7(b)の点A,Bを起点とした流線図を示す。起点Aの腰壁18を乗り越える気流は1階からの上昇気流に押し上げられ、1階居住域までは到達していない。一部の気流は腰壁18の周囲を回りこみ、階段から1階に流入する。起点Bでは、気流が階段に沿って1階居室へ流入する様子を示していることがわかる。
【0062】
図10および図11にCase3の実験結果を示す。吹抜け16内の階段近傍にあるU1,U3の風速が、FL+100の位置でEDT許容値0.35m/sを大きく超えている。図11の測定値垂直分布から、風速の大きいU1,U3の室気温は、低いことがわかる。
【0063】
2階FL+100の気温は、1階室気温に比べて低く、1階居室のコールドドラフト発生原因であると予想できる。また、吹抜け16内の縦窓下部の風速も0.22m/sと大きく、階段に沿うコールドドラフト気流を促進していると思われる。
【0064】
Case3と同じ実験状況下でのコールドドラフト対策として、本願発明に係る整風体を設置した例(Mode5,Mode7)を含む、吹抜け16内の階段と縦窓を対象とした実験を、表3のように設定した。
【0065】
【表3】

【0066】
[対策実験結果]
図12及び図13に、上記対策実験の結果を示す。Mode1,Mode4は開口部を閉じたことによって、断熱性能が向上し室気温の上昇が見られたが、居住域高さの風速抑制効果は認められなかった。Mode5は、U2において頭上高さ付近の室気温が低い。対策により室内気流分布が変化し、2階に滞留する冷気が腰壁18を越えて頭上付近まで降下していると思われる。
【0067】
また、図13は、U3におけるMode5の測定結果である。図13からも、本願発明に係る整風体の設置による温熱環境の改善効果が確認できる。
【0068】
Mode5,Mode7はFL+100付近において、U1,U2,U3三点の平均で室気温が1.1℃上昇、足元風速は0.25m/s低下し、温熱環境の改善効果が確認できた。従って、コールドドラフト抑制の最善策は、2階の階段下り口に整風体を設置した、Mode5およびMode7であると考えられる。
【0069】
以上のように、吹抜け内に階段がある住宅の場合、2階から1階居室への冷気流流入経路が、吹抜け16内の階段であり、2階の階段下り口に本願発明に係る整風体を設置することで、1階居室足元のコールドドラフトを抑制できることがわかった。
【0070】
以上、実施例からも分かるように、本発明によれば、吹抜け空間に階段を備える建物において、上階から下階に下降する気流によるコールドドラフトを抑制でき、これに伴う不快感を解消することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階床と、下階床と、これら上階床と下階床とを連通する吹抜空間とを備え、
該吹抜空間と上階床との間に腰壁が立設されると共に、該腰壁の一部が切り欠かれて開口部が形成され、該開口部と前記吹抜空間下方に位置する下階床に亘って階段が当該吹抜空間に開放された状態で設けられている建物において、
前記階段の上部が連結される開口部には、当該開口部を通じて上階から下階に下降する気流の流れを抑制する整風体が開閉自在に設けられていることを特徴とする建物。
【請求項2】
前記整風体は、前記開口部を塞ぐ閉じ状態から、少なくとも階段側から上階床方向に向けて開放可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記整風体は、前記階段側から上階床側に向けて2枚の扉を並べた二重扉として形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記整風体は、1又は複数個所に前記上階床側から階段側に向けての気流の流れを許容する小開口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物。
【請求項5】
前記整風体は、パンチングプレートにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物。
【請求項6】
前記整風体は、開口率が0.2〜35%であって、且つ、通気度が40〜650cc/cm・secである繊維シート状物により形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の建物。
【請求項7】
前記腰壁には、所定の位置に前記上階床上の気流を下階床に向けて下降させるための下降気流路を形成すると共に、該下降気流路以外を通じて上階床上の気流の下階床に向けての下降を制限する気流制御機構が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の建物。
【請求項8】
前記気流制御機構は、前記下降気流路となる開口部又は切り欠きを腰壁に形成する開口形成手段であることを特徴とする請求項7に記載の建物。
【請求項9】
前記気流制御機構は、前記下降気流路となる部位を存置して残部の腰壁の上端部に設けられるヒータ手段であることを特徴とする請求項7に記載の建物。
【請求項10】
前記下降気流路の直下となる下階床には、テレビジョン装置やパーソナルコンピュータといった冷却することが望ましい電器設備が設置される電器設備設置領域が設けられていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−236587(P2011−236587A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107188(P2010−107188)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】