説明

建築廃材から有害金属成分を除去する方法

【課題】 CCA等の有害成分を含む廃木材を蒸解し、パルプ化すると共に、薬液中に抽出された有害成分を電析する、廃木材からの有害金属成分の分離回収方法を提供する。
【解決手段】廃木材からそれに含まれる有害金属成分を抽出、除去する、廃木材からの有害金属成分除去方法であって、前記廃木材砕片をアルカリ溶液中に浸漬させ、蒸解し、その砕片に含まれる前記有害金属成分及びリグニン等を抽出、分離すると共に、未晒パルプを回収する蒸解工程1、前記蒸解工程1で得られた未晒パルプをフィルタで前記蒸解に使用された薬液(黒液)と分離するろ過工程2、及び前記リグニン及び前記有害成分を抽出したアルカリ溶液から有害金属成分を電析分離する電析工程3を含んでいる。なお、前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウム又はその水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCA等の有害成分を含む廃木材を蒸解し、パルプ化すると共に、蒸解液中に抽出された有害金属成分を電析させるか又は磁気分離させるとことによって、廃木材から有害金属成分を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来電柱や家屋等土台部分に、防虫防蟻用に、クロム、銅及び砒素化合物(CCA剤)を塗布又は含浸した木材が用いられてきた。しかし、不要になるか、耐用年数(建替え時期)が来ると、一般には焼却するか、又は牧場等の柵や杭あるいは建物の土台などに加工して再利用している。最近は、安全な処理法が確立されていない為、野積みされ雨水により地下水汚染が懸念されている。
【0003】
上記CCA剤は、人体への毒性が懸念されるため、その処理に注意を払わなければならない。木材に含まれているクロムは、初期は6価であるが、長い年月を経て6価と3価になると言われている。このクロムのうち、6価のものは、特に有毒であり、排水基準等に厳しい制限が存在する。また、廃木材に含まれている砒素は、初期には5価(砒酸塩)であるが、長い年月を経て5価(砒酸塩)と3価(亜砒酸塩)になると言われている。砒素もまた、形態にかかわらず、水に溶解したものは有毒であり、排水基準等に厳しい制限が存在する。
【0004】
焼却すると、砒素は燃焼ガス中に同伴して大気中に飛散する恐れがあり、残った灰は有害金属成分が濃縮されていて、それを土中に埋めても雨水によって流出し、人間だけでなく、生物に危害を与え、さらに無毒化のために高温の炉で処理するには多大の手間とコストがかかると言う問題点がある。また、焼却しないで保管する場合、その容積が大きく、多大の保管場所を必要とするため、早晩行き詰まってしまう。また、加工して再利用することも考えられるが、特に耐用年数が過ぎたものは、強度や外観の問題があり、上記のようにその用途は極めて限られる。
【0005】
以上の問題に対して、木材とそれに含まれる有害金属成分とを分離する技術が幾つか提案されている(例えば特許文献1及び2)。先ず、特許文献1には、砒素、銅、クロム等の有害金属成分を含む廃木材を破砕装置で破砕し、調整槽でスラリー化液と混合し、破砕ポンプで微粉砕及びスラリー化し、撹拌槽で撹拌、混合し、このスラリー状の廃木材を水熱反応装置に供給すると共に、助燃剤および酸化剤を供給し、水の超臨界または亜臨界状態で水熱反応を行い、この水熱反応後の処理流体を熱交換器で冷却し、気液分離装置でガス分と反応液分とに分離し、その分離反応液分を、貯槽を経て第1凝集槽で凝集処理し、第1沈殿槽で砒素化合物および酸化銅を含むフロックを沈殿分離し、さらに還元槽で6価クロムを3価クロムに還元し、第2凝集槽、第2沈殿槽で水酸化クロムの凝集・沈殿分離を行うこと等が提案されている。
【0006】
次の特許文献2には、超臨界状態の溶媒ガス(例えば二酸化炭素)を用いて廃CCA木材が含有する有害金属成分、すなわち銅、クロム、砒素、並びにこれらの化合物を抽出すること、さらに具体的には、廃CCA木材を粉砕する第一の工程と、粉砕された前記廃CCA木材と溶媒ガスを容器に入れ、その容器内を前記溶媒ガスが超臨界状態になる温度ならびに圧力以上に保持する第二の工程と、前記容器内に前記溶媒ガスを流通させて粉砕された前記廃CCA木材と超臨界状態の前記溶媒ガスを接触させ、その廃CCA木材から有害金属成分を抽出して前記溶媒ガスに溶解させる第三の工程と、前記容器から排出される有害金属成分を含む前記溶媒ガスを超臨界状態になる温度ならびに圧力以下にして一部の有害金属成分を分離する第四の工程と、有害金属成分を含む前記溶媒ガスから残りの有害金属成分を分離する第五の工程と、を含むものが提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1によれば、木材成分は酸化分解され、主として二酸化炭素となって、再利用不可能であり、また、特許文献2も木材成分の有害成分を分離・除去するに止まっていて、その再利用についての提案はない。そのいずれの有害金属成分抽出も著しく高い圧力下で行う必要があり、固体の供給等を安定して連続的に行うことに困難を感じる。
【0008】
その他、接着剤により複合化された木質複合材の廃棄物を破砕機で破砕し、その最大径を10cm以下の破砕物となした後、その破砕物を水に浸漬させ、その後その水浸漬破砕物をアルカリ溶液中に浸漬させ、かつ超音波の照射を行ってその超音波による微細な振動(キャビテーション効果)により、前記破砕物を細破砕してセルロースの分離回収とリグニン溶出回収を行うことが提案されている(特許文献3)。それによれば、木材成分の再利用については提案されているが、CCA等の有害金属成分は含まれていないため、それの分離除去については全く触れられていない。
【特許文献1】特開2003−236491号公報
【特許文献2】特開平11−235563号公報
【特許文献3】特開2004−321856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のことから、本発明は、上記した従来技術の欠点を除くために、CCA等の有害金属成分を含む廃木材を蒸解し、パルプ化すると共に、蒸解液中に抽出された有害成分を電析又は磁気分離し、建築廃材から有害金属成分を除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、請求項1の発明に関わる、廃木材からそれに含まれる有害金属成分を抽出、除去する、廃木材からの有害金属成分除去方法は、前記廃木材砕片をアルカリ溶液中に浸漬させ、蒸解することによって、その砕片に含まれる前記有害金属成分及びリグニン等を抽出、分離すると共に、未晒パルプを回収することを含んでいる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明の構成に加えて、前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウム又はその水酸化ナトリウムと,亜硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫化ナトリウム、酸化ナトリウムのいずれかと,の混合物を含むものである。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記リグニン及び前記有害成分を抽出したアルカリ溶液から有害金属成分を電析、分離することを含む。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1又は2の発明の構成に加えて、前記リグニン及び前記有害成分を抽出したアルカリ溶液に第二鉄イオンを添加し、その溶液中に含まれるクロム、銅、砒素から生成したマグネタイトを磁気分離すると共に、マグネタイト化されなかった残りの砒素から生成した水酸化第二鉄フロックを沈降分離することを含む。
【0014】
請求項5の発明は、請求項3又は4の発明の構成に加えて、前記有害金属成分を分離したアルカリ溶液に酸を加えてpHを調整し、リグニン等を沈降分離することを含む。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、木材砕片のアルカリ溶液への浸漬、蒸解という、既に確立された技術によって、それからリグニン等が容易に抽出され、再利用可能な未晒パルプが得られるだけでなく、その木材砕片に含まれる有害金属成分も前記アルカリ溶液によって同時に容易に抽出、分離される。従ってその有害金属成分を含まない未晒パルプは、紙その他の原料として何らの不安もなく再利用可能である。
【0016】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加えて、前記アルカリ溶液として、水酸化ナトリウム又はその水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合物を含むものが木材の蒸解用に既に使用しており、木材砕片の蒸解だけでなく、その蒸解に使用した廃液も、組成を調整し、蒸解に循環利用することが容易である。
【0017】
.
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて、各有害金属成分は、両電極間にそれぞれ必要な電圧を印加すればいずれも容易に電析可能であり、それぞれ有用原料としてリサイクル可能である。
【0018】
請求項4の発明によれば、請求項1又は2の発明の効果に加えて、第二鉄イオンの添加によって、前記アルカリ溶液に溶解したクロム、銅、砒素から生成したマグネタイトは容易に磁気分離可能であり、マグネタイト化されなかった残りの砒素は水酸化第二鉄フロックとなって容易に沈降分離可能であり、それぞれ有用原料としてリサイクル可能である。
【0019】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明の効果に加えて、リグニン等を固形物として分離、回収容易であると共に、さらに残った液は組成を調整すれば、廃木材砕片の蒸解に循環利用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態例のひとつについて図1により説明すると、1は廃木材砕片(以下チップと呼称)を蒸解する蒸解工程であって、例えば水酸化ナトリウム又はそれと硫化ナトリウムとの混合物含むアルカリ溶液(以下蒸解液と呼称)と前記チップとを供給すると共に、加熱源として高温・高圧のスチームを吹き込み、前者に後者を浸漬させ、例えば温度約180℃、圧力約0.17Mpaで蒸解させるものであり、そのチップに含まれる前記有害金属成分(例えばクロム、銅、砒素、いわゆるCCA)及びリグニン等が前記薬液に抽出されると共に、そのチップの大半はパルプ化され、未晒パルプとなる。なお、アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫化ナトリウム並びに酸化ナトリウムのいずれかとの混合物でもよい。
【0021】
2は前記蒸解工程1で得られた未晒パルプをフィルタで前記蒸解に使用された廃液(以下黒液と呼称)と分離するろ過工程であって、回分方式、連続方式いずれも、既存の確立された技術が存在し、それをそのまま活用可能であり、その詳細は省略するが、ここでは前記黒液の大半が除去された未晒パルプが得られる。
【0022】
3はそのろ過工程2で得られた黒液を図2に示す電解槽Cに導き、有害金属成分を電析する電析工程であって、両極A,K間に必要な電圧(例えば3〜5V)を印加すれば、有害金属はカソードKに析出し、有用原料として再利用可能である。又、第二鉄イオンの添加によって各有害金属イオンはその第二鉄イオンとの共析が生じ、析出速度が向上する。なお、Eは直流電源である。また、アノードAではS2−の一部が蒸解に有用なポリサルファイト(S2−)に酸化される。反応式は次の通りである。
【0023】
アノードAでは以下の反応が起こる。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
カソードKでは以下の反応が起こる。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
4はその電析工程3の残液(黒液)に酸を加え、中和し、凝集剤を添加し、リグニン・樹脂等を沈降させるリグニン等沈降工程、5はそのリグニン等沈降工程4で沈降したリグニン・樹脂等の脱水を行う、リグニン等脱水工程であって、大半のリグニン・樹脂等がケーキとして得られる。6は前記リグニン等沈降工程4や前記リグニン等脱水工程5で得られた黒液を濃縮する黒液濃縮工程、7は得られた未晒パルプの洗浄・漂白工程であって、未晒パルプは温湯に浸漬され、洗浄され、残りのリグニン・樹脂等が除去されたうえ、オゾン、塩素等で酸化漂白され、紙等の原料として有効活用される。
【0031】
その他、10は前記黒液濃縮工程6で濃縮された黒液を燃焼し、ナトリウム固形分を回収する薬液回収工程であって、通常不足するナトリウム分として硫酸ナトリウム(ぼう硝)を添加し、燃焼すると、硫化ナトリウム、炭酸ナトリウムが得られ、その炭酸ナトリウムは水溶液中で水酸化カルシウムの添加によって水酸化ナトリウムに変換され、いずれもアルカリ成分として蒸解液として再利用される。
【0032】
その他、11は前記リグニン等沈降工程4や前記リグニン等脱水工程5で得られた液からの砒素分離工程であって、pH3〜7、好ましくは4〜5にpH調整し、第二鉄イオンを添加することによって砒素は難溶性のFeAsOとして共沈、分離することが可能である。
【0033】
ここで本発明の別の態様について図3及び図4により説明する。図3からも明らかなように、図1の電析工程3のみを磁気分離工程12に置換した以外、残りの工程は図1に示すものと同様あって、ろ過工程2で得られた黒液は図4に示す磁気分離槽Cmに導き、それに塩化第二鉄と酸素を添加すると、前記黒液中のクロム、銅、砒素からマグネタイト(FeCrCuAsO)が生成する。そのマグネタイトは、磁気分離槽Cmの周囲に設置した電磁石Mの磁極NS間に例えば3,000ガウス以上の磁場を与えれば、容易に磁極NSに吸着される。
【0034】
そのうえ前記槽C内に鉄製コイルmを装填すれば、その磁場強度が高まり、吸着効果が増大する。また、電気を切れば、前記磁極NSに吸着された有害金属を含むマグネタイトはその直下に設けられた捕捉トラップ(図示省略)に落下し、容易に回収可能であり、例えば製鉄原料として再利用することが出来る。なお、マグネタイト化されなかった残りの砒素は前述の砒素分離工程11によって水酸化第二鉄フロックとなって沈降分離する。
【0035】
本発明の効果は、「発明の効果」に記されているが、要約すると、既に確立された技術活用すれば、容易に、それからリグニン等が抽出され、再利用可能な未晒パルプが得られるだけでなく、有害金属成分も蒸解液によって同時に容易に抽出、分離される。従ってその有害金属成分を含まない未晒パルプは紙その他の原料として何らの不安もなく再利用可能である。
【0036】
しかも、その蒸解液に抽出された各有害金属成分は、両電極間にそれぞれ必要な電圧を印加すればいずれも容易に電析可能であり、又は塩化第二鉄と酸素の添加によってマクネタイト化し、容易に磁気分離可能であり、それぞれ有用原料としてリサイクル可能である。そのうえ、リグニン等を固形物として分離、回収容易であると共に、さらに残った液は組成を調整すれば、廃木材砕片の蒸解に循環利用することが出来る。さらに、残った液に残留する砒素分も第二鉄イオンによって完全に分離回収可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の工程の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の電析工程に使用する電解槽の原理図である。
【図3】本発明の別の態様の工程の構成を示すブロック図である。
【図4】図2の磁気分離工程に使用する磁気分離槽の原理図である。
【符号の説明】
【0038】
1 蒸解工程
2 ろ過工程
3 電析工程
4 リグニン等沈降工程
5 リグニン等脱水工程
6 黒液濃縮工程
7 洗浄・漂白工程
10 薬液回収工程
11 砒素分離工程
12 磁気分離工程
A アノード
Ce 電解槽
Cm 磁気分離槽
K カソード
m コイル
NS 磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃木材からそれに含まれる有害金属成分を抽出、除去する、廃木材からの有害金属成分除去方法であって、前記廃木材砕片をアルカリ溶液中に浸漬させ、蒸解し、その砕片に含まれる前記有害金属成分及びリグニン等を抽出、分離すると共に、未晒パルプを回収することを特徴とする、廃木材からの有害金属成分除去方法。
【請求項2】
前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウム又はその水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫化ナトリウム並びに酸化ナトリウムのいずれかとの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の廃木材からの有害金属成分除去方法。
【請求項3】
前記リグニン及び前記有害成分を抽出したアルカリ溶液から有害金属成分を電析、分離することを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃木材からの有害金属成分除去方法。
【請求項4】
前記リグニン及び前記有害成分を抽出したアルカリ溶液に第二鉄イオンを添加し、その溶液中に含まれるクロム、銅、砒素から生成したマグネタイトを磁気分離すると共に、マグネタイト化されなかった残りの砒素から生成した水酸化第二鉄フロックを沈降分離することを特徴とする、請求項1及び2に記載の廃木材からの有害金属成分除去方法。
【請求項5】
前記有害金属成分を分離したアルカリ溶液に酸を加えてpHを調整し、リグニン等を沈降分離することを特徴とする請求項3又は4に記載の廃木材からの有害金属成分除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−283234(P2007−283234A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114684(P2006−114684)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】