説明

建築板用の留め付け補助具および該留め付け補助具を用いた建築板施工構造。

【課題】湿式工法による建築板の施工において、建築板と壁下地との間で剥離が発生しても、建築板が地上に落下する危険性を減少させることを可能にする留め付け補助具とその留め付け補助具を使用した建築板の施工構造を提供する。
【解決手段】壁下地への固定部である上係止片と、建築板の係止溝への固定部である下係止片と、上係止片と下係止片とを連結する連結線からなる留め付け補助具を使用して、裏面に係止溝が形成されている建築板を用い、建築板の複数枚が左右上下に1〜2mmの糸目地を形成して建築板が配置されて、留め付け補助具の下係止片が建築板の係止溝に嵌入されて、下係止片が係止溝に嵌入された建築板が接着剤によって壁下地に固定されて、留め付け補助具の上係止片は下係止片が係止溝に嵌入された建築板以外の建築板と壁下地との間に形成される接着層の間に挟まれて、建築板が壁下地に接着剤で固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の壁面に建築板を留め付けるための留め付け補助具と、その留め付け補助具を用いた建築板施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
天然石板や窯業板などの建築板を建物の壁面などに留め付ける工法として、従来から、埋め込みモルタルや接着剤などで躯体側に固定的に取り付けるいわゆる湿式工法と、ビス留めあるいは留め付け金具を用いて係止していく、いわゆる乾式工法が知られている。湿式工法は留め付けが安定する反面、モルタルや接着剤の硬化時間が長く、工事日数が長くなる場合が多い。一方、乾式工法は施工が比較的簡単であり工期も短い利点があるが、ビス留めの場合には、ビスの頭を目隠しすることが必要となる。また、留め付け金具を用いる場合には、その受け部に建築板を乗せた状態で留め付けるために、建築板を乗せる工程と留め付け金具を留め付ける工程の2工程の作業が必要となる。
【0003】
近年、建築板の種類も多様化しており、例えば、図11に示すような比較的小形で厚みが厚く、かつ、天然石の石積み感を表出させるような造形性の高い建築板60が市場に出るようになってきている。そのような建築板の製法としては、押し出し成形法や鋳型内への流し込み成形法などが用いられるが、特に、鋳型内への流し込み成形法によれば、彫りの深い表面凹凸模様が形成できるため、極めて造形性の高い建築板を製造することができる。
【0004】
そのような建築板には、高い装飾性や外観意匠性が求められるようになっており、重厚感を出すために、厚みのある建築板が装飾板材として用いられることが多くなっている。 例えば、特許文献4には、図12(a)に正面図を,図12(b)に背面図を、図13に断面図を示すように、比較的小型で厚みが厚く(例えば、35mm×220mm×455mm程度のもの)、かつ、天然石の石積み感を表出させるような造形性の高い建築板60が記載されている。この建築板60には、側辺に留め付け金具の係止片が係止する係止溝61を有するとともに、裏面側には、重量を低減するために凹陥部62が形成されている。
【0005】
本出願人は、鋳型を用いて成形された窯業系の建築板であって、従来の留め付け金具を用いた建築用板材の施工方法及び施工構造の上記のような不都合を解消する新規な施工方法及び施工構造を得ることを目的として、留め付け金具を用いる施工方法でありながら、留め付け強度が大であり耐震性も高い建築用板材の留め付け施工方法及び施工構造を得ることを目的とした乾式工法の提案を以下のように発表している。
【0006】
本出願人は、特許文献1において、裏面に係止溝を形成した建築用板材と、該係止溝に係合するフック部を持つ吊り下げ具とを用い、建物側に吊り下げ具を固定する工程、建築用板材の係止溝に吊り下げ具のフック部を係合させる工程、とを行うことにより吊り下げ状態で建築用板材を建物に留め付けていく施工方法を提案している。
【0007】
さらに特許文献2において、留め付け金具の一部が建築板の柄部周囲より外側に延出した状態で建築板に一体に固定されており、前記延出した部分が、対向する位置に形成される少なくとも一組の下実部及び上実部とされ、該下実部を建物壁面に留め付けることによって建築板を固定すること施工構造を提案している。
【0008】
さらに特許文献3において、留め付け金具の一部が建築板の柄部周囲より外側に延出した状態で建築板に一体に固定されており、前記延出した部分が、対向する位置に形成される少なくとも一組の下実部及び上実部とされ、該下実部を建物壁面に留め付けることによって建築板を固定することを特徴とする施工方法ならびに施工構造を提案している。
この発明の建築板では、建築板本体と留め付け金具がその製造過程において既に一体化されており、留め付けの施工現場では、所定の留め付け位置に当該建築板を置いた後、建築板に一体に固定された留め付け金具の下実部を、ビスなどで建物の下地材に留め付け施工するのみで、留め付け作業は終了する。よって従来のように、建築板の切り込み溝に留め付け金具を挿嵌していく作業は不要であり、留め付けの施工性は大きく向上する。
【0009】
また特許文献4において、全体としての厚さが薄いものでありながら、側縁に係止溝が形成される重量の大きな外壁板であっても、安定して建物壁面に留め付けることのできる、大きな強度を持つ留め付け金具と、その留め付け金具を用いることにより、出隅部、入隅部、一般部に加え、開口部や軒天部においても、安定した状態で外壁板が留め付けられる外壁施工構造を提案している。
【0010】
一方、本出願人は、凹陥部を持たない比較的小ピースの建築板であって、装飾性を目的として壁面に留め付ける装飾部材の施工構造として、留め付け金具と接着剤を併用する発明と留め付け金具のみで接着剤を使用しない発明を発表している。
【0011】
留め付け金具と接着剤を併用する発明として、特許文献5において、建物の外壁部への装飾部材の施工構造として、建物の外壁部に装飾を必要とする部位に、留め付け金具を固定し、該固定した留め付け金具に装飾部材を、単に吊り下げ固定するだけで、建物の外壁部に必要な装飾を容易に具現できると共に、かつ、前記吊り下げ固定に当たって外壁部と装飾部材との間に接着剤を介在させることにより外壁部に装飾部材をより強固に固定する発明を提案している。
特許文献5の発明によって、建物外壁部の装飾を必要とする部位に、留め付け金具を固定し、該固定した留め付け金具に装飾部材を、単に吊り下げ固定するだけで、建物外壁部に必要な装飾を容易に具現でき、かつ、前記吊り下げ固定に当たって外壁部と装飾部材との間に接着剤を介在させることにより外壁部に装飾部材をより強固に固定することを可能とした。
【0012】
さらに、留め付け金具のみで接着剤を使用しない発明として、本出願人は、特許文献6の発明を開示している。
特許文献6の建物の外壁部への装飾部材の施工構造によれば、装飾部材として奥側が互いに近接する方向に傾斜した2条の係合溝からなる吊り下げ用溝を裏面に備えているものを用い、留め付け金具として装飾部材の前記吊り下げ用溝に係合する2条の係止爪を備えたものを用い、前記留め付け金具は建物外壁部へ固定されており、該固定された留め付け金具の2条の係止爪に前記吊り下げ用溝の2条の係合溝を係合させた状態で前記装飾部材が建物外壁部に吊り下げ固定されていることを特徴している。
吊り下げ用溝を形成する2条の係合溝は一定の間隔を有して平行に走っており、かつ奥側が互いに近接する方向に傾斜しているので、留め付け金具の2条の係止爪は2条の係合溝を上下から把持したような係合状態となる。それにより、当該装飾部材は、建物壁面側にしっかりと吊り下げ状態で固定され、接着剤の接着力に依存することなく、所望の安定した固定状態が得られる。それにより、接着剤の塗布作業を省略することができる。もちろん、状況によっては、接着剤による固定力を併用することもできる。
特許文献6の発明によれば、厚みがあり重量感がある装飾部材であっても、接着剤に依存することなく、しっかりと建物外壁部あるいは建物開口部の周辺部に吊り下げ状態で留め付け固定することが可能となる。
【0013】
上記特許文献1〜6で開示された提案によってしても、これらの留め付け金具を用いた乾式工法による建築板の施工構造では、金具の留め付け位置を精度良く決定しなければならず、さらに施工性を改善するために湿式工法のような施工が容易で柔軟な施工構造、施工工法の開発が期待されている。
一方湿式工法においても改善すべき問題を抱えている。湿式工法では乾式工法のような留め付け金具は不要であるが、施工後の経年劣化によって建築板が落下するという問題を従来から抱えており、これまでも落下防止対策として過去様々な提案がなされているものの、経済性と安全性を両立させて建築板の落下を完全に防ぐ方法は確立されておらず、湿式工法でありながら建築板が落下しない建築板の施工構造、そして施工工法の開発が望まれている。
【0014】
湿式工法の建築板の代表であるタイルの場合、モルタル等の接着剤により構築したタイル壁面は、タイルの剥離という問題があり、特に外装に使用した場合、タイルの落下は重大事故を招くおそれがある。そこで、従来、タイルの剥離を防止するための方策が各種提案されている。タイルの剥落事故防止のために採用されている代表的な手法としては、タイル裏足の改良・接着剤の新開発・躯体壁面の下地精度の向上などが挙げられる。また、施工方法の側面からの対策も試みられており、改良圧着工法や改良積上げ工法などが発案されている。しかしながら、いずれの手法によっても、タイルの剥離を完全に防止するまでには至っていない。
【0015】
モルタル張りにより構築したタイル壁面におけるタイルの剥離を考察すると、下地モルタル層又は張付モルタル層において生ずるひび割れが起因となってタイルの剥離が発生することが多い。特に、多層階建築物の外壁面をタイルで外装した場合におけるひび割れの発生要因を考察すると次のようになる。
一つの要因は、外壁面が日射を受けて温度上昇をきたすことにより、タイル,接着剤層,下地モルタル層,建物躯体の間で線膨張率の差異に基づく面外引張応力及び面内剪断応力が発生すること、さらに最上階及び最下階それぞれの両端スパンにおいては捻り応力が繰り返し発生することなどが、外装タイルの剥離を引き起こす重要な原因と考えられる。また、建物躯体の開口部回りにもひび割れが生じやすく、特に、建物躯体の隅角部のひび割れは、タイルの剥離に大きな影響を及ぼす。
【0016】
このように、タイルの剥離を誘発する要因は数多くあるので、これらに対して十分に対抗し得る接着強度をタイル壁面に付与することが、タイルの剥離を防止する上できわめて肝心である。
しかしながら、タイルの接着強度を充分に向上させると言っても、接着剤の経年劣化を皆無にすることは困難である。さらに、材質の異なる部材を接着剤で接着するので、接着剤と接着される部材との界面での結合力を永久に保証することは困難である。さらに、地震や風圧、道路からの揺れ、そして居住活動による揺れ等によっても、建物には絶えず外力や振動が加えられている、この振動もタイル剥離の大きな要因となっている。
【0017】
特許文献7は建築板の一つであるタイル落下の防止方法を開示している。
特許文献7の発明は、剥離防止効果に優れたタイル壁面を提供せんとするものであって、その特徴とするところは、施工壁面にアンカーボルトを埋設し、アンカーボルトに対応する位置に開口又は切欠を予め形成したタイルを貼着すると共に、アンカーボルトの先端をタイル表面から突出させないようにしてタイルの開口又は切欠の内部に位置させたことにある。
特許文献7の発明に基づいて構築されるタイル壁面は、アンカーボルト及び必要に応じて張架したピアノ線等の線材の作用により、下地層や接着剤層を施工壁面から剥離させることがない、依って、経年変化や地震などによってもタイルを剥落させるおそれがない。
【0018】
特許文献8は建築板の一つである外断熱材用タイルに関して、容易に外断熱材に固定できる外断熱材用タイルパネル及びその取り付け方法を開示している。
特許文献8の第1発明は、モルタル又は接着剤を介して、建物の躯体外壁部に設けた外断熱材に張り付ける外断熱材用タイルパネルであって、タイルパネルの装飾面に目地溝を形成し、前記目地溝の底面に、タイルパネルの裏面に貫通する孔部を設け、前記孔部に挿通して前記外断熱材に螺挿した固定部材により、前記外断熱材に固定することを特徴とする、外断熱材用タイルパネルを提供する。
特許文献8の発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)固定部材によって外断熱材に固定するため、断熱材とタイルパネルとの接着面が剥離しても、タイルパネルが脱落することがない。
(2)固定部材によって外断熱材に固定するため、モルタルが固化する前に、ダレによってタイルパネルが下にずれることを防止できる。
(3)目地溝に固定部材を取り付けるため、目地詰めによって固定部材が隠れ、美観を損ねることがない。
(4)固定部材はねじであり、断熱材に容易に螺挿することができる。
【0019】
特許文献9は建築板の一つであるタイルと下地との関係について開示する。
コンクリート射体上に、モルタルを塗り付けて施工され、更にタイルを貼着する工法での上塗りモルタル層、又はタイルが剥落する事故は、主として上塗りモルタル層とコンクリートの界面で剥離が原因であって、コンクリート打設時に型枠とコンクリートの離型性を持たせる為に使用する離型剤の残留による界面接着力の低下等が主な原因と考えられている。
特許文献9の発明者は、この様な問題に対し、打設面に凹凸形状を有する型枠でコンクリートを打設し、表面に凹凸部を有する下地躯体コンクリートを形成し、その上にモルタル、ポリマーセメント、又は合成樹脂系接着剤層を設けることにより、下地躯体コンクリート表面の凹部に入り込んだ上塗り層がアンカー効果を発揮し、更に下地躯体コンクリート表面の凸部での上塗り層の硬化収縮による、強力な締め付け効果が加わる事により、せん断及び引張り強度のバランスがとれた下地躯体コンクリートと、上塗り層の強力な接着が可能となり、上塗り層の下地躯体コンクリートからの剥落を防止出来ることを見出した。
特許文献9の工法を用いることにより、下地躯体コンクリートと上塗り層間の接着強度が強固になり、結果として上塗り層やタイルの剥落する危険を大幅に減少させることが可能となった。
【0020】
さらに、接着剤を改良する発明を特許文献10は開示する。
少なくともクロロプレンラテックスと無機フィラーを混合した接着剤を外壁基材に塗布し、その上にタイルを接触させて圧着することによってタイル一体型の外壁材を得るものである。この外壁基材は限定されるものではなく、窯業系であるスレート、セメントサイディングボード、石綿サイディングボードなど、窯業系以外の木造板や合成樹脂板などがあげられ、またこれらに限るものではない。特に好ましくは、本発明の接着剤との接着性能が高いことから窯業系材料からなる外壁基材が良い。
特許文献10の発明において接着剤を外壁材に塗布する方法は任意であり、一般に広く用いられている方法を使用して何等問題はない。例えばロールコーター法、ナイフコーター法、カーテンフローコーター法などであり、また吹き付けが可能な粘度に調整してのエアースプレー法などをとることもできるが、これらに限るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2000−045485号公報
【特許文献2】特開2001−065155号公報
【特許文献3】特開2001−152642号公報
【特許文献4】特開2006−307419号公報
【特許文献5】特開2003−278354号公報
【特許文献6】特開2006−207298号公報
【特許文献7】特開 H07−317273号公報
【特許文献8】特開2009−019390号公報
【特許文献9】特開 H05−118133号公報
【特許文献10】特開 H06−228517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
乾式工法では、湿式工法の欠点である、接着に起因する経年劣化の問題は解消される。しかしながら、窯業系小形建築板の留め付け施工に当たっては、1枚の建築板の大きさが比較的小形であるために、建物の壁面全体をカバーしようとすれば、建築板の使用個数が必然的に多くなる。そして、留め付け施工に際しては、一つ一つの建築板に留め付け金具を留め付ける作業、そして建物の下地材に留め付け金具を留め付けていく作業の二段階の作業が必要とされるとともに、建築板自体は小形とはいうものの、質感を出すために厚物となっており、重量的には結構重たいものであることが加わって、留め付けの作業能率は、高いものとはなっていない。
さらに建物の下地材に留め付け金具を留め付けていく作業の無い乾式工法の場合では、建築板と建築板との間にある程度の隙間を残して留め付ける構造となるので、建築板と建築板との間に形成される溝が目に入ることとなり、違和感が生じ高い意匠性を出すことはできない。
【0023】
このように乾式工法は、湿式工法のように、接着層、そして接着界面の経年変化による建築板の落下は防止できるが、特に小型の建築板の施工においては、窓などの開口部があると金具受け材の位置を精度良く割り付けなければならない。特にタイルのような小型の建築板を、留め付け金具を用いて下地に精度良く一つ一つ取り付ける場合、作業の熟練と正確性が必要であり、施工性が劣ることとなる。さらに建築板と建築板の間に取り付け金具を取り付けるスペースが必要である。
【0024】
一方、湿式工法も、これまでに様々な提案がなされているが、接着層と接着界面の経年変化による建築板の落下の問題を解決できていない。
落下防止を提案する特許文献7の発明では、施工後に建築板の表面に落下防止の施工の痕跡が残るため美観も必要とされる建築板の施工においてはさらなる改善が望まれる。
特許文献8の発明では、孔部に固定部材が装着されるため、建築板表面の自然感が損なわないようにすることがさらに望まれる。
特許文献9の発明では、建築板を張り付ける下地を凹凸に加工しなければならず、下地の種類が限定され、さらに施工も複雑となっている。
特許文献10の発明では、接着剤の接着性能を高めることはできるが、この発明においても経年変化による建築板の落下防止を完全に克服することは難しい。
【0025】
本発明は、接着剤の劣化による落下が発生しないという乾式金具工法の安全性と、乾式金具工法のように金具の留め付け位置の精度にとらわれることがなく施工性に優れている湿式工法の良さとを兼ね備えた発明を提案するものである。
本発明は、建築板を接着工法で留め付ける工法でありながら、経年劣化等によって、建築板と壁下地との間で剥離が発生した時でも、本発明の留め付け補助具を使用することによって、壁下地から剥離した建築板が地上に落下するという最悪の事態を回避することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明において、建築板には、従来から建物の壁材として使用されている実質的に矩形状をなす窯業系建築板をすべて用いることができるが、重厚感を出すために厚みが厚くされた窯業系建築板を建築板として用いることは、特に有効である。表面柄部も任意であり制限はないが、石積み状の模様であれば、自然に石を積み上げた状態となるので好適である。さらに、建築板が施工された状態が、自然に石を積み上げたような石積み状の施工状態の場合、建築板と建築板との隙間が小さい、建築板の上下左右の側縁同士の間に糸目地を形成したような状態が施工状態として好適である。
【0027】
本発明による留め付け補助具は、裏面に係止溝が形成される建築板を壁下地に留め付けるための留め付け補助具であって、該留め付け補助具は、建築板の裏面の係止溝に嵌入される下係止片と、壁下地と係合される上係止片と、下係止片と上係止片をつなぐ連結線を有しており、好ましくは、下係止片には切り起こし片が形成されていて、さらに上係止片には孔が形成されていることを特徴とする。
【0028】
上記の留め付け補助具において、下係止片と上係止片をつなぐ連結線の材質は、下係止片が係止溝に嵌入された建築板が何らかの理由により壁下地から剥離した場合でも切断されることの無い強度を持つステンレス(SUS304)が好適であるが、下係止片が嵌入された建築板の落下の際に切断されない強度を持ち、錆等の劣化を起こしにくい材質であれば連結線はステンレス以外の他の材質であっても良い。
さらに、連結線と下係止片そして連結線と上係止片との接合方法も、下係止片が係止溝に嵌入された建築板が落下する際に切断されない強度を持つ接合方法であればどの様な接合方法でもよいが、かしめ接合であれば、接合部の厚さも薄くて接合強度も充分であり好適である。なお、連結線の線径は、建築板が剥落する際において切断されず、建築板と壁下地の間の接着層の厚さより薄いものであれば良く、0.3〜1.2mmの線径が好適である。
【0029】
さらに、下係止片が係止溝に嵌入される効果をより強固とするために下係止片には切り起こし片が形成されている。
下係止片の切り起こし片には、切り起こし片基板部と該切り起こし片基板部から屈曲して立ち上がる下切り起こし片と左右切り起こし片を有している。
下係止片の大きさは、切り起こし片基板部の外周に接する仮想の外接円の直径が前記係止溝の内壁に接する仮想の内接円の直径よりも小さく、そして前記下切り起こし片と前記左右切り起こし片の端部との外周を結ぶ仮想線に接する外接円の直径が前記係止溝の内壁に接する仮想の内接円の直径よりも大きい形状になっている。
すなわち、切り起こし片基板部と下切り起こし片との間で構成される切り起こし片の立ち上がり角度が91度以上であり、同様に、切り起こし片基板部と左右切り起こし片との間で構成される切り起こし片の立ち上がり角度も91度以上であって、切り起こし片は切り起こし片基板部の外周に接する仮想の外接円の直径よりも、下切り起こし片と左右切り起こし片の端部との外周を結ぶ仮想線に接する外接円の直径の方が大きいテーパー状の形状となっている。下係止片は切り起こし片基板の側から係止溝に嵌入されるので、下係止片は係止溝に容易に嵌入させることができるにもかかわらず、下係止片を係止溝から脱落させることは容易ではない。
さらに、係止溝の形状は、切り起こし片を人間の手で容易に嵌入できるように建築板の裏面側から見て円形が好適である、円形であれば切り起こし片がどの様な方向あるいは角度であっても容易に人間の力で切り起こし片を係止溝に嵌入させることができる。
【0030】
切り起こし片の高さは、建築板を張り上げた時に不陸を発生させる不具合を発生させないような高さ、すなわち、係止溝の深さと建築板と壁下地の間に形成された接着層の厚さを足した厚さよりも低い高さが好適である。建築板を張り上げる時の施工性を良くするためには、切り起こし片の高さは係止溝の深さと同じか、またはより低い方が好適である。
【0031】
下係止片を上記の構成とすることにより、留め付けようとする建築板と下係止片との間で、がたつきのない一層安定した留め付け態様が得られる。特に、切り起こし片をテーパー状にした形態の下係止片の場合、下係止片を係止溝に嵌入する時は容易に嵌入することができ、万一、建築板の接着層が剥離して建築板が壁下地から剥落する場合でも、下係止片の切り起こし片が、係止溝に食い込むことによって、下係止片が係止溝から脱落しにくくなり、さらに安定した留め付けが得られる。
【0032】
好ましい態様において、切り起こし片を係止溝に嵌入させた後、係止溝に嵌入された切り起こし片をエポキシ樹脂等の接着剤で充填固定することが望ましい。この場合、さらに下係止片が係止溝から脱落しにくくなり、さらに安定した留め付けが得られる。
【0033】
上係止片は、下係止片が係止溝に嵌入された建築板以外の建築板と壁下地との間の接着層に埋め込まれる。さらに、上係止片を覆うように配置される建築板と壁下地を固定する接着剤と上係止片との接着効果をより強固とするために上係止片には孔が形成されている。この孔に入り込んだ接着剤がくさび効果となって、上係止片と接着層との固定は強化される。さらに、壁下地が合板等のビス保持力のある壁下地の場合、この孔を使用して平頭ビス等で上係止片を壁下地に固定するとさらに上係止片の壁下地への取り付けは強固となる。
なお、上係止片は、建築板と壁下地との間の接着層に埋め込まれるため、上係止片の板厚があまりにも厚い場合は、建築板を張り上げた時に不陸を発生させる。よって上係止片の板厚は、建築板と壁下地の間の接着層の厚さよりも薄く、接着層と上係止片の孔とのくさび効果を最大にする厚さが好適であり、好ましくは上係止片の板厚は0.3〜1.2mmが適している。
【0034】
本発明は、上記留め付け補助具と、上記留め付け補助具を用いた建築板の施工構造として、裏面に係止溝が形成されている建築板を用い、上記建築板の複数枚が左右上下に1〜2mmの糸目地を形成して配置されて、上記建築板の係止溝に留め付け補助具の下係止片が嵌入されて、上記建築板が接着層を介して壁下地に固定されて、上記建築板で使用された留め付け補助具の上係止片を覆うように上記建築板以外の例えば上方に配置された建築板が接着層を介して壁下地に固定される建築板の施工構造であって、上記建築板を壁下地に接着する作業を反復繰り返して建築板を施工することを特徴とする建築板の施工構造を開示する。
【0035】
この建築板の施工構造では、上記の構成を備えた留め付け補助具を用いることにより重量のある建築板であっても壁下地にしっかりと留め付けることができ、安定した建築板施工構造となり、施工後に万一建築板が壁下地から剥離した場合でもこの留め付け補助具の効果により建築板が壁下地から落下する危険性は減少できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明による、留め付け補助具を用いた建築板の施工構造によれば、留め付け補助具を併用した接着工法を採用することにより、建築板の裏面に構成されている各部材の劣化状況に関与されることなく、厚みがあり重量感がある建築板であっても、建築板が壁下地から剥離した場合でも、留め付け補助具の作用により、建築板が地上に落下することは無い。
経年変化や地震などに遭遇しても、仮に接着剤の施工にばらつきが有ったとしても、建築板が地上に落下することは発生せず、建築板の落下等による第三者への安全を脅かす事象を防ぐ。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の建築板の施工構造により施工した壁面の一例を概念的に示す基本構成図。
【図2】本発明による留め付け補助具の一例を示す正面図。
【図3】本発明による留め付け補助具の下係止片の一例を示す図であり、図3(a)は正面図、図3(b)は底面図、図3(c)は側面図。
【図4】本発明による建築板の施工構造の一例を説明する裏面側から見た図。
【図5】本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、建築板の裏面側から見た図。
【図6】本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、建築板の平面側から見た部分透視図。
【図7】本発明による下係止片と係止溝の嵌合状態の一例を説明する、建築板の裏面側から見た部分拡大図。
【図8】本発明による建築板の施工方法の一例であって、建築板を張り付ける概念図。
【図9】本発明による建築板の施工方法の一例であって、建築板の裏面に接着剤を塗りつける概念図。
【図10】本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、係止溝に嵌入された下係止片の概念図
【図11】建築板の一つの形態を説明する図。
【図12】側縁に係止溝が形成される建築板の一例を示す正面図(a)と背面図(b)。
【図13】図12(a)のb−b線による断面図。
【図14】本発明の建築板の一例を示す正面図(a)と背面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明による留め付け補助具1とそれを用いた建築板7の施工構造を説明する。
図1は本発明の建築板の施工構造により施工した壁面の一例を概念的に示す基本構成図である。図2は本発明による留め付け補助具の一例を示す正面図である。図3は本発明による留め付け補助具の下係止片の一例を示す図であり、図3aは正面図、図3bは底面図、図3cは側面図である。図4は本発明による建築板の施工構造の一例を説明する裏面側から見た図である。図5は本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、建築板の裏面側から見た図である。図6は本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、建築板の平面側から見た部分透視図である。図7は本発明による下係止片と係止溝の嵌合状態の一例を説明する、建築板の裏面側から見た部分拡大図である。図8は本発明による建築板の施工方法の一例であって、建築板を張り付ける概念図である。図9は本発明による建築板の施工方法の一例であって、建築板の裏面に接着剤Aを塗りつける概念図である。図10は本発明による留め付け補助具と建築板の嵌合状態の一例を説明する、係止溝に嵌入された下係止片の概念図である。図14は、本発明の建築板の一例を示す正面図(a)と背面図(b)である。
【実施例】
【0039】
図2に示すように留め付け補助具1は、壁下地9への固定部である上係止片2と、建築板7の係止溝8に嵌合される下係止片3と、上係止片2と下係止片3を連結する連結線4から構成されている。上係止片2と連結線4との接合は上接合部10にて、そして下係止片3と連結線4との接合は下接合部11にてそれぞれ接合されている。
連結線4と下係止片3、そして連結線4と上係止片2との接合方法は下側の建築板7の落下の際に切断されない強度を持つ接合方法であればどの様な接合方法でもよいが、かしめ接合であれば、接合部の厚さも薄くて接合強度も充分であり好適である。
上記の留め付け補助具1において、下係止片3と上係止片2をつなぐ連結線4の材質は、下係止片3が嵌入された建築板7が何らかの理由により壁下地9から剥離した場合でも切断されることの無い強度を持つステンレス(SUS304)が好適であるが、下係止片3が嵌入された建築板7の落下の際に切断されない強度を持ち、錆等の劣化を起こしにくい材質であれば連結線4はステンレス以外の材質であっても良い。
【0040】
連結線4は、線径が0.8mmのものが使用される。連結線の線径は、建築板7が剥落する際において切断されず、建築板7と壁下地9を接着する接着層の厚さ49より小さい線径で有れば良く、0.3〜1.2mmの線径のステンレス製が好適である。
【0041】
下係止片3の板厚は建築板7と壁下地9を接着する接着層の厚さより薄い厚さであれば良く、0.3〜1.2mmの厚さが好適である。さらに材質は錆等の経年劣化を起こさない材質であればどの様な材質でもよい。本発明の下係止片3では、板厚が0.6mmのステンレス板(SUSU304)が好ましい例として使用される。
【0042】
さらに、図2、図3,図6で示すように、下係止片3が係止溝8に嵌入される効果をより強固とするために下係止片3には切り起こし片5が形成されている。
切り起こし片5には、切り起こし片基板部5cと、該切り起こし片基板部5cから屈曲して立ち上がる下切り起こし片5aと左右切り起こし片5b,5dが形成されている。
図3,6に示すように、下切り起こし片5aと左右切り起こし片5b、5dの高さ56a、56b、56dは、係止溝8の深さ59と建築板7と壁下地9の間に形成された接着剤A15の厚さ49を足した寸法48よりも小さい。
建築板7を張り上げる施工性を良くするためには、切り起こし片5a、5b、5dの高さ56a、56b、56dは、係止溝8の深さと同じかまたは、より低い方が好適である。具体的な例として、係止溝8の深さが5mmの場合、切り起こし片5の高さは3〜5mmが好適である。
【0043】
図3で示すように、好ましい態様として、切り起こし片基板部5cと下切り起こし片5aとの間で構成される切り起こし片の立ち上がり角度53は、91度以上が望ましく、91〜120度が好適である。同様に、切り起こし片基板部5cと左右切り起こし片5b、5dとの間で構成される切り起こし片の立ち上がり角度54、55も、91度以上が望ましく、91〜120度が好適である。
この構成により、切り起こし片5は切り起こし片基板部5cの外形寸法52よりも左右切り起こし片端部の距離51の方が大きいテーパー状の形状となり、下係止片3を係止溝8に嵌入する時は容易に嵌入することができる。
万一、建築板7が壁下地9から剥離した場合でも、下係止片3の切り起こし片5が、切り起こし片基板部5cの外形寸法52よりも左右切り起こし片端部の距離51の方が大きいので、脱落方向において逆テーパーとなり、下係止片3が係止溝8から脱落しにくくなり安定した留め付けが得られる。
【0044】
この構成の結果、図7に示すように、下係止片3の大きさは、切り起こし片基板部5cの外周に接する仮想の外接円の直径が前記係止溝8の内壁に接する仮想の内接円の直径57よりも小さく、そして前記下切り起こし片5aと前記左右切り起こし片5b、5dの端部との外周を結ぶ仮想線に接する外接円の直径58が前記係止溝8の内壁に接する仮想の内接円の直径57よりも大きい形状になっている。
よって下係止片3を係止溝8に嵌入させる時には、下係止片3は係止溝8に容易に嵌入させることができるにもかかわらず、建築板7の接着層が剥離して建築板7が壁下地9から剥落した場合でも、下係止片3の切り起こし片5が、係止溝8に食い込むことによって、下係止片3が係止溝8から脱落しにくくなり、さらに安定した留め付けが得られる。
下係止片3の材質と厚さは、切り起こし片5の端部が建築板7に食い込むことが可能な材質と厚さに決定されることが望ましい。
【0045】
好ましい態様として、図10に示すように、下係止片3が係止溝8に嵌入された状態において、嵌入された下係止片3の切り起こし片5を埋めるように、接着剤B19を係止溝8に充填することによりさらに下係止片3は係止溝8から脱落しにくくなる。この態様では、切り起こし片5のテーパーの効果に加えてさらに下係止片3が係止溝8から脱落しにくくなり、さらに安定した留め付けが得られる。
係止溝8の形状は、切り起こし片5を人手で容易に嵌入できるように建築板7の裏面側から見て円形が好適である、円形であれば切り起こし片5がどの様な方向あるいは角度であっても容易に人間の力で切り起こし片5を係止溝8に嵌入させることができる。
【0046】
図4で示すように、上係止片2は、下係止片3が係止溝8に嵌入された建築板7a以外の(実施例では上方に配置されている)建築板7bと壁下地9との接着層に埋め込まれる。さらに、建築板7bと壁下地9を固定する接着剤A15と上係止片2との接着効果をより強固とするために上係止片2には孔6が形成されている。この孔6に入り込んだ接着剤A15がくさび効果となって、上係止片2と接着剤A15との固定は強化される。さらに、壁下地9が合板等のビス保持力のある壁下地の場合、この孔6を使用して平頭ビス等で上係止片2を壁下地9に固定するとさらに上係止片2の壁下地9への取り付けは強固となる。
なお、上係止片2は、建築板7bと壁下地9との接着層に埋め込まれるため、上係止片2の板厚があまりにも厚い場合は、建築板7bを張り上げた時に不陸を発生させる。上係止片2の板厚は、建築板7bと壁下地9の間の接着層の厚さよりも薄く、接着層と上係止片2の孔6とのくさび効果を最大にする厚さが好適であり、上係止片2の板厚は、0.3〜1.2mmが好適である。
上係止片2の材質は錆等の経年劣化を起こさない材質であればどの様な材質でもよいが、本発明では、板厚が0.6mmのステンレス板(SUSU304)が好ましい例として使用される。
上係止片2には、壁下地9にビス等で固定するときに用いる孔6が形成されているが、この場合も、孔6を省略し、施工時にビスあるいは釘等を直接上係止片2に打ち込んで固定するようにしてもよい。
【0047】
上記の留め付け補助具1を用いて作られる建築板7の施工構造の一例を、建築板として図14に示した形態の建築板7を用いる場合を例として、以下に説明する。
図1は本発明の施工構造により施工した壁面の一例を概念的に示す基本構成図を示している。図4は施工後の建築板7を裏面側から見た状態を示している。図5は留め付け補助具1と建築板7との嵌合状態を建築板7の裏面側から示している。図7は建築板7の係止溝8と留め付け補助具1の下係止片3との嵌合状態を建築板7の裏面側から部分拡大して見た状態を示している。図8は建築板7を張り付ける方法の一例を示している。図9は建築板7の裏面側に接着剤15を塗りつける方法の一例を示している。図10は留め付け補助具1の下係止片3が建築板7の係止溝8に嵌合された状態を示している。
【0048】
図6、14に示すように図示される建築板の形状において必須ではないが、表面側に適宜の凹凸形状を形成されて、裏面側は平坦面とされているのが望ましい。さらに、建築板7の裏面側には係止溝8が形成されている。係止溝8は留め付け補助具1の下係止片3が嵌入できるように形成されていて、係止溝8の深さ59は、切り起こし片5a、5b、5dの高さ56a、56b、56dの中の最も高い寸法から建築板7と壁下地9の間に形成された接着層A15の厚さ49を除いた寸法よりも大きい寸法が望ましく、さらに建築板7を張り上げる施工性を良くするためには、係止溝8の深さ59は、切り起こし片5a、5b、5dの高さ56a、56b、56dの中の最も高い寸法よりも大きいように形成されているのが好ましい。
【0049】
係止溝8の建築板の裏面側から見た形状は、留め付け補助具1の下係止片3が嵌入できる形状であり、さらに、嵌入後に下係止片3が容易に脱落されない形状であれば良い。好ましくは、図7で示すように係止溝8の形状は建築板の裏面側から見て円形が望ましい。係止溝8が円形であれば、下係止片3を係止溝8に嵌入させるときに方向を気にすることなく作業ができるので、作業性の向上に繋がり、更に、係止溝8に下係止片3を嵌入する作業が安定するので、下係止片3は係止溝8から容易に脱落されない。さらに、建築板7を製造する時において係止溝8を形成する作業がドリル等で容易に作業できるので生産性が良い。
【0050】
上記留め付け補助具1を用いて建築板を壁下地に留め付けるときの使用態様の一例を、建築板の施工構造を説明する裏面側から示す図4を用いて説明する。
最初に、留め付け補助具1の下係止片3を建築板7aの裏面に形成された係止溝8に嵌入させる。前記建築板7aと壁下地9との間に前記留め付け補助具1の上係止片2が挟み込まれないようにして前記建築板7aを壁下地9に接着剤A15を用いて接着する。
【0051】
接着剤A15として、ゴム系,合成樹脂系とセメントモルタル系の三つの種類の接着剤が好適であるが、建築板と壁下地そして留め付け補助具との接着が良好であれば上記3種類以外の接着剤も使用できる。ゴム系接着剤では、接着成分にブタジエンゴム(BR),スチレンブタジエンゴム(SBR),ニトリルゴム,(NBR),クロロプレンゴム(CR),ウレタンゴム等を利用するものである。合成樹脂系接着剤では、接着成分に酢酸ビニル,アクリル酸エステル,塩化ビニルあるいはエポキシ樹脂が利用される。セメントモルタル系では、接着成分にセメントあるいはセメントと合成樹脂エマルジョンまたはラテックスを用いるものである。合成樹脂の例には酢酸ビニル,アクリル酸エステル,塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合物,エポキシ樹脂などがあり、ラテックスの例には天然ゴム(NR),SBR,カルボキシル−ニトリルゴム(C−NBR),CR,ハイスチレンラテックス(SB)などがある。上記合成樹脂エマルジョンあるいはラテックスは単独あるいは複数種を併用して用いられことも可能である。
【0052】
接着された建築板7aの上方に前記上係止片2を配置して、前記接着された建築板7aの上方に配置された建築板7bと壁下地9との間に前記上係止片2を挟み込んで接着剤A15を使用して、建築板7bと壁下地9と上係止片2を接着する。
この作業を繰り返して、建築板7を壁下地9に接着していくことによって、壁下地の再下段から最上段にかけての建築板7の留め付け作業は進められる。
【0053】
さらに好ましい態様として、下係止片3の切り起こし片5を係止溝8に嵌入させた後、係止溝8に嵌入された切り起こし片5を接着剤B19で充填することが望ましい。
接着剤B19の好適例として、エポキシ樹脂接着剤、エポキシ樹脂と反応し得るシリコン化合物からなる接着剤や、加水分解性ケイ素基を有する飽和炭化水素系重合体にシランカップリング剤を含有する湿気硬化型接着剤が列挙され、下係止片3と建築板7との接着性、耐水性、耐候性、耐久性に優れた接着剤であればその他の接着剤から選択されても良い。この態様の場合、下係止片3が係止溝8から脱落しにくくなり、さらに安定した留め付けが得られる。
【0054】
上係止片2は、上段の建築板7bと壁下地9との接着層に埋め込まれる。建築板7bと壁下地9を固定する接着剤15Aと上係止片2との接着効果をより強固とするために上係止片2には孔6が形成されている。この孔6に入り込んだ接着剤15Aがくさび効果となって、上係止片2と接着層との固定は強化される。さらに、壁下地9が合板等のビス保持力のある壁下地9の場合、この孔6を使用して平頭ビス等で上係止片2を壁下地9に固定するとさらに上係止片2の壁下地9への取り付けは強固となる。
なお、上係止片2は、建築板7bと壁下地9との接着層に埋め込まれるため、上係止片2の板厚があまりにも厚い場合は、建築板7bを張り上げた時に不陸を発生させる。上係止片2の板厚は、建築板7bと壁下地9の間の接着層の厚さよりも薄く、接着層と上係止片2の孔6とのくさび効果を最大にする厚さが好適であり、上係止片2の板厚は、0.3〜1.2mmが適している。
【0055】
本発明は、上記した留め付け補助具1を用いた建築板7の施工構造として、裏面に係止溝8が形成されている建築板7を用い、建築板7の複数枚が左右上下に1〜2mmの糸目地14を形成して建築板7が配置されて、建築板7は接着層を介して壁下地9に固定される建築板7の施工構造において、
留め付け補助具1の下係止片3が建築板7aの係止溝8に嵌入されていて、下係止片が係止溝に嵌入された建築板7aに使用された留め付け補助具1の上係止片2を覆うように、下係止片が係止溝に嵌入された建築板以外の建築板7bが壁下地9に接着剤A15によって留め付けられることを特徴とする建築板7の施工構造を開示する。なお、上係止片2はビス等の留め具を使用して壁下地9に固定されてもよい。
【0056】
この建築板施工構造では、上記の構成を備えた留め付け補助具1を用いることにより、重量のある建築板7であっても壁下地9にしっかりと留め付けることができる安定した建築板の施工構造となり、施工後に建築板7が壁下地9から剥離した場合でも、留め付け補助具1の効果により建築板が地上に落下する危険性を減少させることを可能にする。
【符号の説明】
【0057】
1…留め付け補助具、2…上係止片、3…下係止片、4…連結線、5…切り起こし片、5a…下切り起こし片、5b、5d…左右切り起こし片、5c…切り起こし片基板部、6…孔、7…建築板、7a…下の建築板、7b…上の建築板、8…係止溝、9…壁下地、10…上接合部、11…下接合部、12…振れ止め、13…ランナー、14…糸目地、15…接着剤A、16…作業者、17…裏面側、18…表面側、19…接着剤B、48…接着剤Aの接着層の厚さに係止溝の深さを加えた距離、49…接着剤Aの接着層の厚さ、51…左右切り起こし片の端部の間の距離、52…左右切り起こし片の立ち上がり部分の間の距離、53…下切り起こし片と切り起こし片基板部との角度、54…左右切り起こし片56bと切り起こし片基板部5cとの角度、55…左右切り起こし片5dと切り起こし片基板部5cとの角度、57…係止溝8の内壁に接する仮想の内接円の直径、58…下切り起こし片5aと左右切り起こし片5b、5dの端部との外周を結ぶ仮想線に接する外接円の直径、59…係止溝の深さ、60…建築板、61…係止溝、62…凹陥部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に係止溝が形成される建築板を壁下地に留め付けるための留め付け補助具であって、
壁下地への固定部である上係止片と、該建築板の該係止溝への固定部である下係止片と、該上係止片と該下係止片とを連結する連結線からなることを特徴とする留め付け補助具。
【請求項2】
請求項1に記載の留め付け補助具において、
前記上係止片の中央部に孔を有していることを特徴とする留め付け補助具。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の留め付け補助具において、
下係止片は切り起こし片基板部と該切り起こし片基板部から屈曲して立ち上がる下切り起こし片と該切り起こし片基板部から屈曲して立ち上がる左右切り起こし片を有していて、
前記下係止片の大きさとして、前記切り起こし片基板部の外周に接する外接円の直径が前記係止溝の内壁に接する内接円の直径よりも小さく、そして前記下切り起こし片の端部と前記左右切り起こし片の端部との外周を結ぶ外接円の直径が前記係止溝の内壁に接する内接円の直径よりも大きいことを特徴とする留め付け補助具。
【請求項4】
請求項3に記載の留め付け補助具において、
前記下切り起こし片と前記左右切り起こし片の高さが前記係止溝の深さよりも低いことを特徴とする留め付け補助具。
【請求項5】
接着剤によって壁下地に留め付けられる建築板の施工構造であって、
裏面に係止溝が形成される複数枚の建築板が配置されていて、
請求項1〜4のいずれかに記載の留め付け補助具の下係止片が、前記建築板の係止溝に嵌合されていて、
前記留め付け補助具の上係止片が前記建築板以外の建築板と壁下地との間に形成される接着層の間に係合されていることを特徴する建築板の施工構造。
【請求項6】
前記下係止片が嵌合された係止溝に接着剤が充填されていることを特徴とする請求項5に記載の建築板の施工構造。
【請求項7】
前記係止溝が建築板の裏面から見て円形であることを特徴とする請求項5〜6に記載の建築板の施工構造。
【請求項8】
前記上係止片がビスによって壁下地に固定されることを特徴とする請求項5〜7に記載の建築板の施工構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−236262(P2010−236262A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85234(P2009−85234)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】