説明

建築板

【課題】 自然の木質感を有し、薄単板においても、耐摩耗性、耐クラック性も向上させることができ、さらに耐汚染性にも優れた、新しい建築板を提供する。
【解決手段】 木質基材の表面から三次元ラダー構造を有するシリコーン系樹脂またはウレタン系樹脂を含む靱性を有する樹脂が塗布含浸され、さらにフッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂が塗布されてこれら樹脂の撥水基が傾斜配向されている建築板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床材やカウンター、扉等の建材に有用な建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の本物志向、自然志向、健康志向の高まりから、自然感や素材感のある建材が求められている。木材は木目の美しさや手触りの良さ、適度な強度、加工性の良さなどから突き板貼りや無垢材として建具や家具用に古来から広く使われており、素地のままで、または艶消し塗装で仕上げた建材が見られる。
【0003】
しかしながら、このような建材においては、外観や質感は良好なものの、表面が摩耗しやすい、割れが生じやすく、汚れがつきやすく、落ちにくいといった問題があり、特に、0.15〜0.6mm程度の厚さにスライスされた薄い単板においては、ブラッシング処理を行うと摩耗や割れ、クラックがより発生しやすく、汚れがつきやすくなる。そこで、このような問題を解決するために、UV硬化塗料による塗装や、湿気硬化型ウレタン系樹脂を塗装することがこれまでにも考えられている(たとえば特許文献1−2参照)。
【0004】
しかしながら、従来の塗装による対策のいずれの場合にも、表面の塗膜を厚くせざるをえず、結局は外観、質感が犠牲になり、特に床材においては滑りやすく、冷たさを感じるといった問題があった。
【0005】
また、耐汚染性を高めるために表面フッ素系やシリコーン系の塗料を塗装することが行われているが、これらを木材に直接塗布しても、木材は多孔質な構造を持つこと、およびこれらの塗料は一般に表面張力が小さいことから、塗料の一部が木材表面に浸透する傾向にあり、塗料組成の中で撥水効果を奏するパーフルオロアルキル基やアルコキシシリル基が表面に傾斜配向せず、十分な汚染効果を発揮できないという問題があった。
【特許文献1】特開2002−326210号公報
【特許文献2】特開2004−276368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、自然の木質感を有し、薄単板においても、耐摩耗性、耐クラック性も向上させることのできる、さらには耐汚染性にも優れた、新しい建築板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の建築板は以下のことを特徴としている。
【0008】
第1:木質基材の表面から三次元ラダー構造を有するシリコーン系樹脂またはウレタン系樹脂を含む靱性を有する樹脂が塗布含浸され、さらにフッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂が塗布されてこれらの樹脂の撥水基が傾斜配向されている。
【0009】
第2:上記のフッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂は、硬化剤イソシアネートが配合されて塗布されている。
【0010】
第3:塗布含浸された靱性を有する樹脂が半硬化の状態においてフッ素樹脂またはシリコーン系樹脂が塗布されている。
【発明の効果】
【0011】
上記第1の発明によれば、従来の問題点を解消し、自然の木質感を有し、薄単板においても、耐摩耗性、耐クラック性、そして耐汚染性も向上させることができる。
【0012】
また、トップコート層形成のためにフッ素系樹脂やシリコン系樹脂にあらかじめ硬化剤イソシアネートを配合しておく上記第2の発明によれば上記の効果に加えて、イソシアネートは木材成分とも反応するため、密着性を高めることができるという効果も得られる。
【0013】
さらに、靱性を有する樹脂が完全に硬化しない単硬化の状態においてフッ素樹脂やシリコン系樹脂を塗布する上記第3の発明によれば、上記効果に加えて、これら樹脂によるトップコート層の密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明の木質材においては、木質基材の表面から靱性を有する樹脂が塗布含浸されるが、この場合の樹脂における「靱性」については、塗膜の破壊に要するエネルギーが大きく、粘り強い性質を示している。
【0016】
一般に塗膜の破壊に要するエネルギーは、塗膜の応力−ひずみ曲線下の面積で評価されるが、本発明での靱性を有する樹脂については、建築板の性能評価として以下のことを満たすものとして考慮される。
(A)官能評価において、無塗装の木材に近い外観を示しており、艶消し調でテカテカした光沢がなく、塗膜も薄く、木材表面の凹凸(道管)が残っていること。
(B)耐摩耗性が、JASフローリング摩耗A試験に準拠して総荷重1kg、500回転後の凹みの深さが0.12mm以下であること。
(C)耐クラック性が、JAS特殊合板、寒熱繰り返し試験Bに準拠して、80℃雰囲気にて2時間放置、−20℃雰囲気にて2時間放置を1サイクルとして、2サイクル繰り返した後でもクラックの発生がないこと。
(D)上記(A)(B)の試験後でも、トップコート層剥離がなく、密着性が良好で、トップコート層による耐汚染性も良好であること。
【0017】
上記のとおりの本発明での靱性を有する樹脂としては、本発明では、三次元ラダー構造を持つシリコーン系樹脂またはウレタン系樹脂を用いる。
【0018】
ここでラダー(ladder)構造とは、ラダーポリマー、はしご形重合体の分子構造として知られているものである。シリコーン系樹脂については、一般に2官能単位(R2−Si−X2:Rは有機基、Xは官能基)、3官能単位(R−Si−X3)や、4官能単位(Si−X4)を組み合わせて構成されているが、本発明での三次元ラダー構造を有するシリコーン系樹脂は、3官能単位のみで構成されるものであって、はしご状の構造を持つものである。このものは、一般式では、たとえば次式のラダー構造を持つものである。
【0019】
【化1】

【0020】
式中のRは有機基であって、たとえば代表的には置換基を有していてもよい炭素数1〜18の炭化水素基である。たとえば、メチル、エチル、i−プロピル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、i−オクチル、シクロヘキシル、フェニル、トリル等の炭化水素基が例示される。
【0021】
これらは市販品として、あるいは合成によって入手可能である。そして、これらの三次元ラダー構造を有する本発明のシリコーン系樹脂は、直鎖構造のシリコーン系樹脂とは異なり、その構造から機械的強度に優れ、耐摩耗性、耐クラック性を向上させることができる。しかも木質基材表面への含浸によっても木質感を損うことはない。
【0022】
また、本発明では、靱性を有する樹脂として、ウレタン系樹脂を用いてもよい。この場合のウレタン系樹脂は、ポリオールとイソシアネートからなる2液型や湿気硬化タイプの1液型または光硬化型のウレタンアクリレート等が挙げられるが、そのいずれでもよい。分子内部にウレタン結合(−NHCOO−)を有するため、水素結合が起こり、靱性が上がる。樹脂構造にベンゼン環等の環構造があれば、その性能はより向上し、耐摩耗性が上がる。
【0023】
木質基材表面への靱性を有する樹脂の塗布含浸は、必要に応じてアルコール等の分散媒により希釈されたものとして、あるいは市販の液状物等を用いてロールコーターやスプレーコーター等により行うことができる。樹脂を低粘度、低分子量の樹脂にすることで塗布による含浸が容易となる。生産性も良好である。特に平面形状の場合は、ロールコーターとリバースコーターの組み合わせにより、押し込み含浸、表面掻き取りが行われることで、突き板により深く含浸することができ、さらに表面に樹脂が残らないようにできるため、有効な方法である。
【0024】
従来の釜を用いた減圧・加圧による注入では、大掛かりな設備が必要になり、製造もバッチ式で時間がかかり、小ロットへの対応も困難である。また樹脂が入り過ぎると、プラスチック感が出て、木質感が損なわれることがある。
【0025】
樹脂の塗布量についてはその種類にもよるが、ラダー構造を有するシリコーン系樹脂の場合には、たとえば固形分濃度10〜30%の範囲の塗料組成として、5〜20g/尺を目安とすることができる。
【0026】
本発明の建築材においては、以上のように靱性を有する樹脂を塗布含浸した後に、表面にフッ素系またはシリコーン系樹脂を塗布する。樹脂含浸層が形成されているため、これらの樹脂の浸透が抑制され、撥水効果を示すパーフルオロアルキル基やアルコキシシリル基が表面に傾斜配向し、十分な汚染効果や撥水効果を発揮することができる。木材表面は完全なフラットではなく、凹凸面を有するため、この凹凸形状との相乗効果でさらに高い撥水効果を有することになる。なお、ここで、「傾斜配向」とは、フッ素系またはシリコーン系樹脂からなる撥水材料が空気中でその表面自由エネルギーが最小になるように撥水基を表面に配列させることを意味している。あらかじめ上記の樹脂含浸がなされていることで、トップコート層が表面に形成され、この傾斜配向が可能になる。樹脂含浸がなされていない木質基材への撥水材料の直接的塗布では、撥水基が十分に傾斜配向できず、木質基材の中に入り込んで、その効果を発揮できなくなる。
【0027】
また、これらのトップコート層を形成するフッ素樹脂やシリコーン系樹脂には、あらかじめ、硬化剤としてイソシアネートを配合させてもよい。イソシアネートは木材成分とも反応するため、密着性を高めることができる。
【0028】
また、トップコート層の密着性を上げるため、含浸させた靱性を有する樹脂は、完全に反応硬化させることなく、半硬化の状態で、次工程のトップコート層の塗布に移行させることも有効である。
【0029】
なお、トップコート層を形成するフッ素樹脂やシリコーン系樹脂は、従来より撥水用塗料として用いられている市販品等の各種のものであってよい。その塗布量については、たとえば好適には固形成20%として3〜10g/尺の範囲とすることができる。
【0030】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
<1>厚さ12mmの合板表面に、厚さ0.2mmのオーク突き板を酢酸ビニル系接着剤を用いて、熱圧プレスにて貼り合わせた。
【0032】
<2><1>で作製した基材表面に、三次元ラダー構造を持つシリコーン系樹脂(FJ803,グランデックス(株)製、固形分14%)をロールコーターを用いて、10g/尺2塗布含浸させた。
【0033】
<3><2>の後、表面を#320で研摩し、イソシアネートを5%配合したフッソ系樹脂(固形分20%)を5g/尺2塗布して養生し、化粧板を作製した。
(実施例2)
実施例1において、三次元ラダー構造を持つシリコーン系樹脂(FJ803,グランデックス(株)製、固形分14%)をロールコーター、リバースコーターを用いて、13g/尺塗布含浸すること以外は、実施例1と同様にして、化粧板を作製した。
(実施例3)
実施例1において、脂肪酸をベースにしたポリエステルポリオールとイソシアネートを配合したウレタン系樹脂(SKウレタンシーラー、キャピタルペイント(株)製、固形分20%)をスプレーコーターにて、12g/尺2塗布含浸すること以外は、実施例1と同様にして、化粧板を作製した。
(実施例4)
実施例1において、溶剤希釈したウレタンアクリレートとポリエステルアクリレートを主成分とするUV硬化型樹脂(エレガンスUVサンディングNo2,キャピタルペイント(株)製、固形分50%)ロールコータにて、6g/尺2塗布含浸すること以外は、実施例1と同様にして、化粧板を作製した。
(実施例4)
実施例4において、UV硬化型樹脂にホワイトアルミナ#600を15%配合すること以外は、実施例4と同様にして、化粧板を作製した。
(比較例1)
実施例1と同様にして、基材を作製した後に、イソシアネートを5%配合したフッ素系樹脂(固形分20%)を5g/尺2塗布、養生硬化して化粧板を作製した。
(評価)
実施例1〜5、比較例1について、外観評価とJASフローリング規格に基づく耐摩耗性試験、JAS特殊合板規格に基づく耐クラック性試験および洗剤や調味料等を用いた耐汚染試験を行った。
【0034】
また、処理後の建築板の断面を観察したところ、実施例1〜5の場合には、図1のように、オーク突き板1の表面部には樹脂の含浸層2の存在が確認され、表面にフッ素樹脂層3が配設されていたが、比較例1の場合には、図2のように、オーク突き板1に一部浸透してしまい十分な塗膜形成できなかった。
【0035】
以上の評価から、木質基材の表面から、三次元ラダー構造を持つシリコーン系樹脂やウレタン系樹脂を含む靱性を有する樹脂を塗布含浸させ、さらにフッ素系またはシリコーン系樹脂を塗布し、これらの撥水基を傾斜配向させることで、木質感を残しつつ、耐摩耗性や耐クラック性、耐汚染性に優れた建築板を得ることができることが確認された。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例建築板の断面概要図である。
【図2】比較例建築板の断面概要図である。
【符号の説明】
【0038】
1 オーク突き板
2 樹脂含浸層
3 フッ素樹脂層
4 導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「傾斜配向」木質基材の表面から三次元ラダー構造を有するシリコーン系樹脂またはウレタン系樹脂を含む靱性を有する樹脂が塗布含浸され、さらにフッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂が塗布されてこれらの樹脂の撥水基が傾斜配向されていることを特徴とする建築板。
【請求項2】
フッ素系樹脂またはシリコーン系樹脂は、硬化剤イソシアネートが配合されて塗布されていることを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項3】
塗布含浸された靱性を有する樹脂が半硬化の状態においてフッ素樹脂またはシリコーン系樹脂が塗布されていることを特徴とする請求項1または2に記載の建築板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−240369(P2008−240369A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82866(P2007−82866)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】