説明

建築板

【課題】水性インクを用いたインクジェット塗装の後、水性のクリアー塗料にて形成されたクリアー層が形成された建築板であって、水性インクのクリアー層への移動を抑制し、意匠模様に滲みが発生することを防止することができる建築板を提供する。
【解決手段】基材1に水性インクにてインクジェット塗装を施した後、インクジェット塗装がなされた面をクリアー層にて被覆した建築板である。前記クリアー層が、骨材を含有する水性のクリアー塗料にて形成されている。これにより、クリアー層の形成時において骨材によりクリアー塗料の塗装後の流動性が低減されることから、クリアー層への水性インクの移動が抑制されることとなり、インクジェット塗装により形成された意匠模様に滲みが発生することを防止することができて鮮明な意匠模様を発現させることができると共に、建築板の耐候性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット塗装が施された、外装材等として使用される建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁材、屋根材、塀材などの外装材等として使用される建築板には、セメント系の建築板が広く用いられている。このような建築板は、建物の外観の形成を担うため、各種の意匠を実現する表面化粧について技術的な検討が加えられている。たとえばセメント系成形材料を抄造、押出成形、注型成形等により成形して得られる湿潤シートを養生硬化させ、得られる無機質板等を基材とし、これに塗装を施すことが一般的に行われている。
【0003】
塗装の一方式として、最近、コンベア上で搬送される基材の表面に向けて、この基材の搬送速度と同期させてインクジェットノズルヘッドより塗料を噴射するインクジェット塗装が考えられている。このようなインクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能である。したがって、濃淡表現などにより自然な風合いの高意匠塗装された建築板が製造可能であるという利点がある(特許文献1参照)。
【0004】
このようなインクジェット塗装により、例えば目地が形成された基材に対して、目地が形成された箇所に塗装を施さないようにしたり、目地が形成されている箇所と目地が形成されていない箇所とを異なる色に塗装するなどして、レンガ調やタイル調の建築板を得ることができる。
【特許文献1】特開2004−17007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなインクジェット塗装を行うに際しては、例えば無機質板等の基材にインク受理層(インク受容層)を形成し、このインク受理層にインクジェット塗装を施すことによりインクジェット塗装時に塗布されるインクを滲みなく定着させ、次いでこのインク受理層の表面に適宜のクリアー塗料を塗布成膜してクリアー層を設けて保護することが行われている。
【0006】
ところで、上記インクジェット塗装に用いるインクとしては、鮮やかな意匠模様を発現させると共に作業環境の悪化防止等の観点から水性インクが広く用いられるようになってきており、またクリア層を形成する場合にも作業環境悪化の防止等のために水性のクリアー塗料を用いることが要請されている。
【0007】
しかし、水性インクと水性のクリアー塗料とは親和性が高いことから、インクジェット塗装後に水性のクリアー塗料を塗布すると水性インクがクリアー塗料に移動し、インクジェット塗装による意匠模様に滲みが生じてしまうという問題があった。またこのように水性インクに滲みが生じると、ドット状に印刷された水性インクが横方向に広がってしまって水性インクの層の厚みが薄くなり、そのため耐候性が低下してしまうという問題も生じてしまうものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、水性インクを用いたインクジェット塗装の後、水性のクリアー塗料にて形成されたクリアー層が形成された建築板であって、水性インクのクリアー層への移動を抑制し、意匠模様に滲みが発生することを防止することができる建築板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る建築板は、基材1に水性インクにてインクジェット塗装を施した後、インクジェット塗装がなされた面をクリアー層にて被覆した建築板であって、前記クリアー層が、骨材を含有する水性のクリアー塗料にて形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、上記骨材が、平均粒径10〜50μmのアクリル樹脂系ビーズであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、上記骨材が炭酸カルシウム微粒子であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項において、上記骨材がシリカ微粒子であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項において、上記クリアー層に、無機質塗料層と光触媒層とを順次積層して形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、クリアー層の形成時において骨材によりクリアー塗料の塗装後の流動性が低減されると共に、骨材が水性インクの拡散の障壁となることから、インクジェット塗装後に塗布されたクリアー塗料への水性インクの移動が抑制されることとなり、インクジェット塗装により形成された意匠模様に滲みが発生することを防止することができて鮮明な意匠模様を発現させることができると共に、ドット状に塗布された水性インクが滲むことにより水性インクの層が薄くなってしまうことを防止することができ、これにより建築板の耐候性を向上することができるものである。
【0015】
また、請求項2に係る発明によれば、アクリル樹脂系ビーズにより水性インクの滲みを防止しつつクリアー塗膜の艶を低減して深みのある意匠模様を発現させることができ、しかもこのアクリル樹脂系ビーズは吸水性が低く、且つ耐酸性に優れることから、骨材を添加することによる塗膜の耐候性の低下を抑制することができるものである。
【0016】
また、請求項3に係る発明によれば、炭酸カルシウム微粒子により水性インクの滲みを防止しつつクリアー塗膜の艶を低減して深みのある意匠模様を発現させることができるものである。
【0017】
また、請求項4に係る発明によれば、シリカ微粒子により水性インクの滲みを防止しつつクリアー塗膜の艶を低減して深みのある意匠模様を発現させることができるものである。
【0018】
また、請求項5に係る発明によれば、建築板の耐候性及び防汚性を更に向上することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
建築板の基材1としては、無機質基材、金属サイディング材等の適宜のものを用いることができる。
【0021】
基材1として無機質基材を用いる場合、その作製には、セメントと補強繊維を主成分とするセメント系成形材料を成形した湿潤シート(グリーンシート)を用いることができる。この湿潤シートは、セメント系の水性スラリーをセメント系成形材料として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造したり、押出成形したりするなどして得られるものである。セメント系成形材料としては、例えば水硬性のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水40〜100質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。なお、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、あるいはその混合物等を用いることができる。この湿潤シートを養生硬化することにより、無機質基材を得ることができる。
【0022】
上記無機質基材の養生硬化は適宜の手法で行うことができるが、オートクレーブ養生をすることが望ましく、その際の温度としては140℃以上とすることが好適である。また、実際的には、養生は、オートクレーブ養生と、これに先行しての促進前養生、つまり加温のために水蒸気が投入される前養生との二段階での養生であることが望ましい。これによって、無機質基材の強度が向上し、組織と性能の均一化が図られることになる。
【0023】
この養生時には、養生前の湿潤シートの表面にシーラーを塗布することが望ましい。このシーラーを塗布することにより、養生時にエフロレッセンスが発生することを防止することができ、更にシーラーの塗膜が耐透水性を発揮することで、建築板の耐透水性を向上することができる。
【0024】
シーラーは特に制限されないが、例えばアクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、塩化ゴム系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の水性樹脂エマルションを用いることができる。
【0025】
また、このようなシーラー中には、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、顔林、ベントナイト、セリサイト、ドロマイト、タルク、クレー、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の無機粒子を混合することができる。
【0026】
そして、このようなシーラーを湿潤シートの表面に塗布し、加熱成膜することでシーラーの塗膜を形成することができる。
【0027】
このようなシーラーの塗装は、養生前に行うものであるが、上記のように促進前養生を行う場合には促進前養生後にシーラーを塗布し、次いでオートクレーブ養生を行うことが好ましく、これにより建築板の耐凍害性や寸法安定性を向上することができる。
【0028】
このような養生硬化により得られた基材1(無機質基材)には、必要に応じて乾燥処理や切削加工が施される。
【0029】
また、基材1として金属サイディング材を用いる場合には、基材1の一面に適宜のプライマーやエナメル塗料等を塗布しておくことができる。
【0030】
このようにして得られた基材1の表面におけるシーラーの塗膜等の表面にインク受理層(インク受容層)を形成する。インク受理層はインクジェット塗装時に塗布されるインクを滲みなく定着させる機能を有し、インクを吸収する性質を有するもの、例えば吸水性を有する多孔質の層を形成するものであるが、このようなインク受理層を形成するための組成物(受理層形成組成物)としては、水性のものを用いることが好ましい。
【0031】
上記受理層形成組成物としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いることができる。受理層形成組成物には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくのが好ましい。これにより、インクの定着性を向上させることができる上に、後述するように水性のクリアー塗料にてクリアー層を形成する際に滲みの発生を更に抑制することができると共に、発色性も向上させることができるものである。ここで、体質顔料としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができ、吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、インク受理層を受理層形成組成物で形成するにあたっては、基材1の表面に受理層形成組成物を塗布量30〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。なお、受理層形成組成物の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0032】
また、受理層形成組成物中の顔料は、上述した体質顔料のほか、着色顔料も意味する。着色顔料としては、酸化チタン、弁柄、オーカー、炭酸カルシウム、複合金属酸化物等の無機顔料や、カーボンブラック、キナクリドン、ナフトールレッド、シアニンブルー、シアニングリーン、ハンザイエロー、群青等の有機顔料を用いることができる。顔料は1種のみを用いたり、2種以上を組み合わせて用いたりすることができる。建築板の耐候性を向上させることができることから、顔料の中でも無機顔料を用いるのが好ましい。顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、平均粒径で0.01〜4μm程度が好ましい。また、顔料の分散は通常の方法で行うことができ、また、その際に分散剤、分散助剤、増粘剤、カップリング剤等を使用することが可能である。
【0033】
受理層形成組成物中に上記のような体質顔料や着色顔料を含有させる場合の顔料含有率(PWC)は適宜設定されるが、40〜80%の範囲とすることができる。ここで、顔料含有率は、前記組成物中の体質顔料と着色顔料とを含めた顔料成分の含有量をA(質量部)、樹脂成分の含有量をB(質量部)とした場合に、{A/(A+B)}×100(%)の式で定義される値である。
【0034】
このような水性の受理層形成組成物を用いると、インクジェット塗装において水性インクを用いる場合の塗装模様の発色性が高くなる。
【0035】
上記のような受理層形成組成物を、シーラーが設けられた基材1の表面に例えばスプレーコート、カーテンコート、浸漬、ワイヤーバーコート、アプリケーターコート、スピンコート、ロールコート、電着コート、刷毛塗り等の適宜の手法にて塗布し、加熱硬化することでインク受理層を形成することができる。
【0036】
このようにインク受理層を形成した後、このインク受理層の表面にインクジェット塗装を施す。
【0037】
インクジェット塗装に用いるインクとしては水性インクを用いることができる。水性インクとしては従来から知られている顔料を分散剤で分散した顔料インクも使用可能であるが、インクジェット塗装では顔料濃度を高めることが困難で、かつバインダー樹脂量も少ないことから印刷物の色合いが暗くなりやすく、外装装飾材としての品位が著しく減少しやすい。このような観点からは、少なくとも一部が塩基で中和された酸基を有する皮膜形成性樹脂によって顔料粒子が被覆された着色樹脂粒子水性分散体からなる水性顔料タイプのインクが、優れた耐候性と共に色再現範囲が広く、高い印刷品位を得ることが可能なことから好適である。
【0038】
前記の酸基を有する皮膜形成性樹脂は、公知の酸基を有するものであれば特に種類の制限はないが、好ましくは酸価が50〜280のカルボキシル基を有する樹脂が好ましい。またその少なくとも一部が塩基で中和されてなる自己水分散性樹脂の場合は、特に優れたジェットインクとしての安定性を示す。
【0039】
このような樹脂としては、例えばアクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂等があるが、特に好ましくは、スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂である。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルとの両方を包含する。
【0040】
スチレン−(メタ)アクリル酸系樹脂とは、スチレン系モノマーを必須成分として、(メタ)アクリル酸系モノマー、例えば(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、を共重合させた樹脂である。
【0041】
当該樹脂としては、例えばスチレンあるいはα−メチルスチレンのような置換スチレンと、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸ブチルエステル、アクリル酸2−エチルヘキシルエステル等のアクリル酸エステルと、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステルとから選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位と、アクリル酸、メタクリル酸から選ばれる少なくとも一つ以上のモノマー単位とを含む共重合体である。これらの共重合体は、少なくともその一部が共有結合性の架橋や多価金属によるイオン架橋されていても良い。
【0042】
前記樹脂を用いて自己水分散性樹脂として用いる場合には、そのカルボキシル基の少なくとも一部を塩基で中和すればよい。塩基、即ちアルカリ性中和剤による中和は、得られる自己水分散性樹脂が水に溶解しない程度に中和すればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、特にトリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンとりわけトリエタノールアミンがジェットインクとして好ましい。
【0043】
最終的に塩基の存在下のインクのpHとして、7〜10、好ましくは8〜9の範囲にある場合には顔料を包含している樹脂のインク中への溶解も少なく、ノズル目詰まりを防止すると共に鮮やかな発色を得ることができ、鮮明な絵柄模様が得られる。
【0044】
上述した水性インクに用いる顔料は特に限定されるものはなく、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ、イエローオーカー等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料がある。かかる顔料の使用量(含有量)は、特に規定されないが、最終的に得られるインク中で0.5〜10質量%となるような量が好ましい。
【0045】
前記の樹脂によって顔料が包含された着色樹脂粒子を作製する方法は、特に限定されるものではないが、より好ましい具体的な例は、特開平10−88042号公報で示される工程にて得ることが出来る。このようにして得られた分散液に、必要に応じて以下の添加剤類を併用することが好ましい。
【0046】
乾燥防止剤は、水性インクに添加される場合が多く、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常、水以上の沸点を有する水溶性有機溶剤が使用される。このような乾燥防止剤としては、特に限定されるものではなく、従来知られているエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン等のピロリドン類、アミド類、ジメチルスルホオキサイド、イミダゾリジノン等が使用可能である。乾燥防止剤の使用量は、種類によって異なり、通常水100質量部に対して1〜150質量部の範囲から適宜選択される。
【0047】
水性インクのインク受理層への浸透をより良好とするために、公知慣用の浸透剤の必要量を用いることが好ましい。浸透剤として、インク受理層への浸透性付与効果を示す、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ジエチレングリコール−N−ブチルエーテル等のグリコールエーテル、プロピレングリコール誘導体、ピロリドン化合物等の水溶性有機溶媒やノニオン性やアニオン性、両性界面活性剤を加えてもよい。その他、必要に応じて水溶性樹脂、防腐剤、キレート剤等の添加剤を加えることができる。
【0048】
インクジェット塗装を行うために用いる塗装装置としては、図1に示すものを挙げることができる。この塗装装置は、噴射ノズル10を設けた塗装ノズルヘッド15、塗装ノズルヘッド15の噴射ノズル10に塗料を供給する塗料供給タンク9、塗装ノズルヘッド15の噴射ノズル10からの塗料の噴射を制御する塗装制御システム11などを設けたインクジェット式塗装機12と、基材1を搬送する搬送手段7とを備えて形成されるものである。
【0049】
塗装ノズルヘッド15はインクジェット式塗装機12の下端に設けられているものであり、基材1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。
【0050】
塗装ノズルヘッド15はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行うことができるようにしてある。塗装ノズルヘッド15の個数はこれに限られず、使用するインクの種類に応じた個数が設けられる。塗料供給タンク9も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの塗料を供給する塗料供給タンク9yは塗装ノズルヘッド15yに、シアンの塗料を供給する塗料供給タンク9cは塗装ノズルヘッド15cに、マゼンタの塗料を供給する塗料供給タンク9mは塗装ノズルヘッド15mに、ブラックの塗料を供給する塗料供給タンク9kは塗装ノズルヘッド15kにそれぞれ接続してある。そして各塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kは基材1の搬送方向に沿って配列してある。
【0051】
塗装制御システム11は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行う基材1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部は塗装ノズルヘッド15y,15c,15m,15kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。前記色柄パターンは、塗装に供される基材1上の所定位置に所定パターンの塗装模様が形成されるように作成しておく。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザ光を照射する制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各塗料の噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行なうことができるものである。
【0052】
搬送手段7はタイミングベルトなど、無限帯状のベルト13をプーリ14間に懸架したベルトコンベア7aで形成することができ、ベルト13の上面で構成される搬送面16がインクジェット式塗装機12の下側に配置される。
【0053】
インクジェット塗装を行うにあたり、まず搬送手段7に基材1を供給する。このとき、複数の基材1を順次間隔をあけて搬送することができる。
【0054】
このように搬送手段7にて搬送される基材1は、塗装ノズルヘッド15の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド15から基材1上のインク受理層に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された基材1が得られる。
【0055】
インクジェット塗装後のインク受理層の表面には、水性のクリアー塗料を塗布成膜して表面保護用のクリアー層を形成する。水性のクリアー塗料としては、例えばアクリル系、アクリルシリコン系、アクリルウレタン系等の適宜の塗料を用いることができる。
【0056】
この水性のクリアー塗料中には、骨材を含有させる。これにより、クリアー層の形成時における塗装後のクリアー塗料の流動性を低減して、このクリアー塗料への水性インクの移動を抑制し、インクジェット塗装により形成された意匠模様に滲みが発生することを防止することができて鮮明な意匠模様を発現させることができる。また、ドット状に塗布された水性インクが前記のように滲むことを防止することで、このような滲みにより水性インクの層が薄くなってしまうことを防止することができ、これにより建築板の耐候性を向上することもできる。
【0057】
上記骨材としては適宜のものを使用可能であるが、アクリル樹脂系ビーズ、炭酸カルシウム微粒子、シリカ微粒子等を用いることが好ましい。骨材としては一種単独で用いるほか、二種以上を併用することができる。
【0058】
アクリル樹脂系ビーズとしては、平均粒径10〜50μmの範囲のものを用いることが好ましい。ここで、本明細書における平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定されるものである。この平均粒径が10μmに満たないと塗布後のクリアー塗料の流動性が十分に低減されないおそれがあり、また50μmを超えるとアクリル樹脂系ビーズの粒子間の隙間が大きくなってこの隙間の間を塗料が流動してしまって、滲みの発生を十分に抑制することができなくなるおそれがある。また、炭酸カルシウム微粒子としては、平均粒径が20〜50μmの範囲であることが好ましく、シリカ微粒子としては、平均粒径が10〜40μmの範囲であることが好ましい。
【0059】
上記骨材の含有量は、骨材の種類、粒径等に応じて適宜設定されるが、例えば骨材としてアクリル樹脂系ビーズのみを用いる場合には、含有量は、その平均粒径が10μm以上20μm未満である場合にはクリアー塗料全量に対して5〜10質量%の範囲、平均粒径が20〜50μmである場合にはクリアー塗料全量に対して7〜15質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が過少であるとクリアー層への水性インクの移動を十分に抑制することができず、またその含有量が過剰であるとクリアー層の透明性が低減して意匠模様がぼやけてしまうおそれがある。
【0060】
また骨材として炭酸カルシウム微粒子のみを用いる場合には、その含有量はクリアー塗料全量に対して5〜20質量%の範囲であることが好ましく、シリカ微粒子のみを用いる場合にはその含有量はクリアー塗料全量に対して3〜15質量%の範囲であることが好ましい。この含有量が過少であるとクリアー層への水性インクの移動を十分に抑制することができず、またその含有量が過剰であるとクリアー層に濁りが発生したりクリアー塗膜の硬度が高くなりすぎるなどの問題が発生するおそれがある。
【0061】
また、このようにアクリル樹脂系ビーズ、炭酸カルシウム微粒子、シリカ微粒子等の骨材を含有すると、これらの骨材によりクリアー塗膜の艶を低減して深みのある意匠模様を発現させることができる。更に特にアクリル樹脂系ビーズは吸水性が低いと共に耐酸性が高いことから、骨材を添加することによりクリアー塗膜の耐候性が低下することを抑制することができるものである。
【0062】
このような水性のクリアー塗料をインクジェット塗装後のインク受理層の表面にスプレー等して塗布した後、80〜150℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、クリアー層を形成することができる。このクリアー層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0063】
また、建築板には、更に無機質塗料層を形成することもできる。無機質塗料層はクリアー層の表面に無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより建築板の耐候性を向上することができる。無機質塗料としては適宜のケイ素アルコキシド系コーティング剤等を用いることができるが、例えばオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に、ポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩等の縮合反応触媒を加え、或いは更にシリカを加えたケイ素アルコキシド系塗料を用い、これを静電塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、無機質塗料層を形成することができる。この無機質塗料層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい
また、更に光触媒層を形成することも好ましい。光触媒層は、無機質塗料層の表面に光触媒を含有する無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、これにより建築板の防汚性を向上することができる。光触媒を含有する無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えば上記のようなケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタン等の光触媒を加えたものを等を用い、これをスプレー塗装等して塗布した後、60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することにより、光触媒層を形成することができる。この光触媒層の厚みは特に制限されないが、0.2〜1.0μmの範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0064】
(実施例1〜5,比較例1,2)
基材1として、セメント系無機質基板を用いた。
【0065】
この基材1の作製にあたっては、セメント系成形材料を成形した養生硬化前の湿潤シートの表面にアクリルエマルション塗料からなるシーラーをロールコータにて塗布し、250℃で20分間加熱することにより乾燥塗布量40g/m2のシーラーの塗膜を形成し、この湿潤シートを養生硬化することで基材1を得た。
【0066】
この基材1のシーラーの塗膜を設けた面に、アクリルエマルション塗料に顔料として炭酸カルシウム微粒子を含有させた受理層形成組成物(顔料含有比率PWC=50質量%)をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することで厚み30μmのインク受理層を形成した。
【0067】
このインク受理層を形成した基材1に対し、図1に示す構成の塗布装置を用いて、インク受理層の表面にインクジェット塗装を施した。
【0068】
このときインクジェット塗装に用いた水性インクとしては、顔料4質量%、エチレングリコール35質量%、グリセリン20%質量、添加剤3質量%、水38%質量の組成のものを用い、前記顔料としてイエローのインクにイエローオーカー、シアンのインクにフタロシアニン、マゼンタのインクにベンガラ、ブラックのインクにカーボンブラックを含有させたものを用いた。また、各噴射ノズル10から噴射される1ドット分のインクの噴射量は27plとなるようにした。
【0069】
次に、インクジェット塗装後のインク受理層の表面に、下記表1に示す組成のクリアー塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することにより乾燥膜厚20μmのクリアー層を形成した。
【0070】
次に、上記クリアー層の表面に、ポリオルガノシロキサンを含有する無機質塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することにより、乾燥膜厚5μmの無機質塗料層を形成した。
【0071】
次に、この無機質塗料層の表面に、ポリオルガノシロキサンを含有すると共に酸化チタンを50質量%の割合で含有する無機質塗料をスプレー塗布し、130℃で2分間加熱することにより乾燥塗布量3g/m2の光触媒層を形成した。
【0072】
(評価試験)
このようにして得られた建築板のインクジェット塗装にて形成された意匠模様を目視で観察し、滲みの程度を判定した。このとき滲みが認められなかったものををA、ごくわずかしか滲みが認められなかったものをB、滲み認められたものををC、滲みが大きいものをD、滲みがかなり大きいものをEと評価した。

【0073】
以上の結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
また、実施例5及び比較例1で得られた建築板に対し、その表面にサンシャインウエザーメータ(スガ試験機株式会社製、オープンフレームカーボンアークランプ)を用いて連続光を照射すると共に、1時間毎に12分間散水する促進耐候性試験を行い、各建築板の表面の色差の変化をミノルタ株式会社製のCR−200を用いて測定した。このとき、色差の測定は、各建築板のブラック、マゼンタ、シアン、イエローの各色がそれぞれ塗布された領域について行った。この結果を図2に示す。
【0076】
図示の結果のように実施例5ではブラック、マゼンタ、シアン、イエローの各色それぞれにつき、色差の変化が比較例1よりも小さく、耐候性に優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】インクジェット塗装装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例5及び比較例1についての促進耐候性試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に水性インクにてインクジェット塗装を施した後、インクジェット塗装がなされた面をクリアー層にて被覆した建築板であって、前記クリアー層が、骨材を含有する水性のクリアー塗料にて形成されたものであることを特徴とする建築板。
【請求項2】
上記骨材が、平均粒径10〜50μmのアクリル樹脂系ビーズであることを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項3】
上記骨材が炭酸カルシウム微粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築板。
【請求項4】
上記骨材がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建築板。
【請求項5】
上記クリアー層に、無機質塗料層と光触媒層とを順次積層して形成したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建築板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−73602(P2008−73602A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254771(P2006−254771)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】