説明

建築物耐震用の乗客コンベア装置

【課題】建築物に対する耐震性を向上し得る建築物耐震用の乗客コンベア装置を提供する。
【解決手段】乗客コンベアの枠体5の上部を建築物4に設けた強度部材3に連結手段16を介して固定した。 乗客コンベアの枠体の上部を建築物に固定することで、建築物4の地震時の揺れを乗客コンベアが損傷されるまで抑制することができ、その結果、建築物4の耐震性を向上し得る建築物耐震用の乗客コンベア装置を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエスカレーターや傾斜型電動道路等の乗客コンベアを設置して建築物の耐震性を向上させる建築物耐震用の乗客コンベア装置に係り、特に、乗客コンベアを地盤から傾斜して建築物に設置して建築物の耐震性を向上させる建築物耐震用の乗客コンベア装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベア装置において、地震時の建築物の揺れに対しては、例えば特許文献1に示すような対策が講じられている。即ち、地震時の建築物の揺れによる離れた階床間の距離の拡大変位によって乗客コンベア装置が落下しないように、乗客コンベア装置と階床との間に滑動部を設けたものである。
【0003】
【特許文献1】特開2001−158585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術は、乗客コンベア装置に対する対策であり、乗客コンベア装置が設置された建築物が耐震構造となっていることが前提の技術である。そのため、地震時の際、乗客コンベア装置の落下に対しての対策を講じても、建築物が揺れによって損傷しては意味のない対策となる。
【0005】
本発明の目的は、建築物に対する耐震性を向上し得る建築物耐震用の乗客コンベア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為に本発明は、乗客コンベアの枠体の上部を建築物に設けられた強度部材に連結手段を介して固定したのである。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、乗客コンベアの枠体の上部を建築物に固定することで、建築物の地震時の揺れに対して乗客コンベアが損傷されるまで抑制することができ、その結果、建築物の耐震性を向上し得る建築物耐震用の乗客コンベア装置を得ることができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明による建築物耐震用の乗客コンベア装置の第1の実施の形態を図1〜図4に示すエスカレーター装置について説明する。ここに示すエスカレーター装置1は、駅舎のホーム(地盤)2と、ホーム2から支持体3を介して支持された橋上通路(建築物)4間に跨って設置されるものである。
【0009】
そして、エスカレーター装置1は、地盤であるホーム2の床面2Fと建築物である橋上通路4の床面4Fに跨って、枠体5を設置している。
【0010】
この枠体5は、図3に示すように、左右一対の側枠6A,6Bと、これら側枠6A,6Bを連結する連結梁7とを備えている。そして前記側枠6A,6Bは、長手方向に延在する上弦材8A,8Bと、この上弦材8A,8Bの下方に間隔をおいて配置された下弦材9A,9Bと、これら上弦材8A,8Bと下弦材9A,9Bとを連結する連結部材10A,10Bとを備えている。
【0011】
このように構成された枠体5は、図2に示すように、傾斜区間L1と、この傾斜区間L1の上部に連なる上水平区間L2と、傾斜区間L1の下部に連なる下水平区間L3とを有している。
【0012】
このように構成された枠体5の下水平区間L3は、前記ホーム2に設けたピット2P内に収納され、その端部を床面2Fの近傍に係合し、上水平区間L2の端部は橋上通路4の床面4Fの近傍に係合している。そして、このような枠体5内には無端状に連結された複数の踏板11が図示しない駆動手段によって回動できるように案内されている。この踏板11の両側に沿った前記側枠6A,6Bには、夫々欄干パネル12が立設され、この欄干パネル12の周縁に沿って前記踏板11と同期して駆動される移動手摺13が案内されている。
【0013】
さらに、前記枠体5の傾斜区間L1と上水平区間L2との間の上屈曲部P1及び傾斜区間L1と下水平区間L3との間の下屈曲部P2とは、圧縮力と引張力に対して変形し易いので、上水平区間L2から上屈曲部P1を経由して傾斜区間L1の一部にかけて上補強板14A,14Bを設け、下水平区間L3から下屈曲部P2を経由して傾斜区間L1の一部にかけて下補強板15A,15Bを設けている。
【0014】
これら上補強板14A,14Bと下補強板15A,15Bとは、各側枠6A,6Bの幅寸法Wを超えてエスカレーター装置1の構成部品の設置に支障がないように、幅寸法W内に位置するように、上弦材8A,8B及び下弦材9A,9Bと略同じ厚さの板材を用いている。そして、上補強板14A,14Bと下補強板15A,15Bは、高さ方向に延在して上弦材8A,8Bの下縁と下弦材9A,9Bの上縁に跨って溶接して連結されると共に、必要に応じて、連結部材10A,10Bにも溶接により連結されている。
【0015】
このように構成された枠体5の上部、具体的には、図1に示すように、枠体5の傾斜区間L1の上部を、強度部材である前記橋上通路4の支持体3に、連結手段であるワイヤロープ16を介して連結している。具体的には、枠体5の傾斜区間L1における左右一対の下弦材9A,9Bの上部に夫々連結座17を固定し、この連結座7と前記支持体3に夫々アイボルト18A,18Bを連結し、これらアイボルト18A,18B間にワイヤロープ16を通して張力を加えたものである。尚、ワイヤロープ16の代わりにチェーンや連結棒を用いてもよい。
【0016】
以上説明したように、エスカレーター装置1の枠体5の上部を支持体3に連結することで、地震時に橋上通路4が揺れようとしても、その揺れはワイヤロープ16で連結されたエスカレーター装置1の枠体5が強度部材となって抑制される。その結果、橋上通路4の耐震性は向上する。
【0017】
ただ、震度が小さい地震時あるいは耐震構造が構築された建築物(橋上通路4)においては、上補強板14A,14Bや下補強板15A,15Bによってエスカレーター装置1の枠体5を補強しなくても、ある程度耐えるが、震度が大きい地震時には、橋上通路4の揺れを抑制することで、エスカレーター装置1の枠体5には大きな力が作用し、枠体5を変形させようとする。その場合には、圧縮力や引張力が集中し易い枠体5の上屈曲部P1と下屈曲部P2とを上補強板14A,14Bと下補強板15A,15Bとで補強することで、枠体5自身に耐震強度を付与できるので、橋上通路4の揺れを容易に抑制することができる。
【0018】
このように、地震によって橋上通路4が横揺れしようとしても、圧縮力や引張力に対して補強されたエスカレーター装置1の枠体5によってその横揺れを防止することができ、橋上通路4の耐震性を向上させることができる。逆を云えば、エスカレーター装置1により橋上通路4の耐震性が向上するので、橋上通路4の支持体3は、垂直荷重を重点に設計をすればよく、したがって、支持体3の設計施工を簡単にすることが可能となる。
【0019】
さらに、枠体5の傾斜区間L1の上部を建築物である橋上通路4の支持体3に固定することで、枠体5の長手方向に作用する引張力を上屈曲部P1に作用させることがなくなり、場合によっては上補強板14A,14Bの機械的強度を下げたり、あるいは省略したりすることが可能となる。
【0020】
図5及び図6は、枠体5の第1変形例を示すもので、図1〜図4に示す符号と同一符号は同一構成部品を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0021】
本変形例において、第1の実施の形態と異なる構成は、夫々の側枠6A,6Bの傾斜区間L1における上補強板14A,14Bと下補強板15A,15Bで補強された以外の部分をさらに補強して建築物の耐震性を向上させるものである。
【0022】
即ち、上補強板14A,14Bと下補強板15A,15Bで補強された以外の傾斜区間L1の各側枠6A,6Bにおいて、上弦材8A,8B及び下弦材9A,9Bの下縁及び上縁に、上縁側中間補強板19A,19Bと下縁側中間補強板20A,20Bを第1の実施の形態と同じ方法で連結したのである。
【0023】
このように、上縁側中間補強板19A,19Bと下縁側中間補強板20A,20Bを、上弦材8A,8B及び下弦材9A,9Bの下縁及び上縁に連結することで、上弦材8A,8B及び下弦材9A,9Bの断面積が結果的に増加したこととなる。その結果、上弦材8A,8B及び下弦材9A,9Bの傾斜区間L1における強度を向上させることができ、さらに圧縮力と引張力に強い枠体5を得ることができ、建築物(橋上通路4)の耐震性をさらに向上させることができる。
【0024】
図7は、図5及び図6をさらに変形させた枠体5の第2変形例を示すもので、図1〜図6に示す符号と同一符号は同一構成部品を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0025】
この第2変形例においては、枠体5の上屈曲部P1の圧縮力に対する強度をさらに向上させる構成として、上屈曲部P1の内側に、上水平区間L2における下弦材9A,9Bと傾斜区間L1における下弦材9A,9Bとに跨って、補強梁21を設け、この補強梁21と下弦材9A,9Bとの間を補助補強板22で塞ぐか、上補強板14A,14Bを補強梁22まで延在させて補強梁22と下弦材9A,9Bとの間を塞ぐようにしている。
【0026】
このように、補強梁22を設けることで、枠体5に圧縮力が作用して上屈曲部P1を内側に曲げようとしても、補強梁22及び補助補強板22さらには上補強板14A,14Bによってその曲げに対抗することができ、結果的に、建築物の揺れを抑制することができる。
【0027】
図8は、本発明による建築物耐震用の乗客コンベア装置の第2の実施の形態を示すもので、図1〜図7に示す符号と同一符号は同一構成部品を示すので、再度の詳細な説明は省略する。
【0028】
本実施の形態は、枠体5の上水平区間L2の端部における左右一対の側枠6A,6Bの連結部材10A,10Bに跨って、連結座23を設けると共に、この連結座23と橋上通路4の強度梁24とに夫々アイボルト18A,18Bを設け、これらアイボルト18A,18B間を連結具25で連結したものである。
【0029】
即ち、第1の実施の形態は、傾斜区間L1における枠体5の上部の下方と支持体3間をワイヤロープ16で連結したものであるが、第2の実施の形態においては、上水平区間L2の端と強度部材である橋上通路4の強度梁24との間を連結具25で連結したものであり、第1の実施の形態と同等の効果を奏することができる。
【0030】
尚、第2の実施の形態においても、建築物の規模に応じて、枠体5に、上補強板14A,14B、下補強板15A,15B、上縁側中間補強板19A,19B、下縁側中間補強板20A,20B、補強梁21、補助補強板22を全て備えたり、選択的に備えたりすることは可能である。
【0031】
以上説明したように本発明によれば、エスカレーター装置1の枠体5の上部を、建築物である橋上通路4の強度部材である支持体3や強度梁24に連結した上で、枠体5の上端で橋上通路(建築物)4を支えるようにしたので、橋上通路4の耐震性を向上することができる。
【0032】
ところで、上記各実施の形態は、乗客コンベア装置としてエスカレーター装置を説明したが、エスカレーター装置に特定されるものではなく、傾斜して設置される電動道路にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による建築物耐震用の乗客コンベア装置の第1の実施の形態を示すエスカレーター装置の枠体の上部を示す側面図。
【図2】図1のエスカレーター装置の枠体の全体を示す側面図。
【図3】図2のA−A線に沿う拡大断面図。
【図4】本発明による建築物耐震用の乗客コンベア装置の建築物への設置状態を示す概略側面図。
【図5】本発明による第1の実施の形態の第1変形例を示す図2相当図。
【図6】図5のB−B線に沿う拡大断面図。
【図7】第1変形例をさらに変形した第2変形例を示す図5相当図。
【図8】本発明による建築物耐震用の乗客コンベア装置の第2の実施の形態を示すエスカレーター装置の枠体の上部を示す図1相当図。
【符号の説明】
【0034】
1…エスカレーター装置、2…ホーム(地盤)、2F…床面、3…支持体、4…橋上通路(建築物)、4F…床面、5…枠体、6A,6B…側枠、7…連結梁、8A,8B…上弦材、9A,9B…下弦材、10A,10B…連結部材、11…踏板、12…欄干パネル、13…移動手摺、14A,14B…上補強板、15A,15B…下補強板、16…ワイヤロープ、17,23…連結座、18A,18B…アイボルト、19A,19B…上縁側中間補強板、20A,20B…下縁側中間補強板、21…補強梁、22…補助補強板、24…強度梁、25…連結具、P1…上屈曲部、P2…下屈曲部、L1…傾斜区間、L2…上水平区間、L3…下水平区間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤から傾斜して設置した乗客コンベアによって建築物の耐震性を向上させるように構成した建築物耐震用の乗客コンベア装置において、前記乗客コンベアは、傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体を備え、この枠体の上部を前記建築物に設けた強度部材に連結手段を介して固定したことを特徴とする建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項2】
地盤から傾斜して設置した乗客コンベアによって建築物の耐震性を向上させるように構成した建築物耐震用の乗客コンベア装置において、前記乗客コンベアは、傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体を備え、この枠体の前記傾斜区間の上部を前記建築物に設けた強度部材に連結手段を介して固定したことを特徴とする建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項3】
地盤から傾斜して設置した乗客コンベアによって建築物の耐震性を向上させるように構成した建築物耐震用の乗客コンベア装置において、前記乗客コンベアは、傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体を備え、この枠体を構成する左右一対の側枠の前記上屈曲部及び下屈曲部を含む上水平部及び下水平部に対応する位置に、夫々側枠の高さ方向に延在する上補強板と下補強板を設け、かつ、枠体の上部を前記建築物に設けた強度部材に連結手段を介して固定したことを特徴とする建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項4】
地盤から傾斜して設置した乗客コンベアによって建築物の耐震性を向上させるように構成した建築物耐震用の乗客コンベア装置において、前記乗客コンベアは、傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体を備え、この枠体は上弦材と下弦材とこれらを連結する連結部材とで構成した左右一対の側枠と、これら左右の側枠を連結する連結梁とで構成した枠体とで構成され、この枠体の長手方向に屈曲する上屈曲部及び下屈曲部を含む上水平区間及び下水平区間に、前記上弦材と下弦材に跨る上補強板と下補強板を設け、かつ、枠体の上部を前記建築物に設けた強度部材に連結手段を介して固定したことを特徴とする建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項5】
左右一対の側枠を有し傾斜区間と上水平区間との間及び傾斜区間と下水平区間との間に形成した上屈曲部及び下屈曲部を有する枠体と、前記左右一対の側枠の前記上屈曲部及び下屈曲部を含む上水平区間及び下水平区間に夫々側枠の高さ方向に延在して設けられた上補強板と下補強板とを備えた乗客コンベアを構成し、この乗客コンベアを地盤と建築物との間に傾斜して設置すると共に、前記枠体の前記傾斜区間の上部を前記建築物に設けた強度部材に連結手段を介して固定したことを特徴とする建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項6】
前記上補強板と下補強板との間の前記側枠の上縁及び下縁に沿って上縁側中間補強板と下縁側中間補強板とを設けたことを特徴とする請求項3,4又は5記載の建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項7】
前記側枠は、前記上屈曲部の内側に前記傾斜区間から上水平区間に跨る強度梁を有することを特徴とする請求項3,4又は5記載の建築物耐震用の乗客コンベア装置。
【請求項8】
前記上補強板は、前記補強梁まで延在されていることを特徴とする請求項7記載の建築物耐震用の乗客コンベア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−195474(P2008−195474A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30686(P2007−30686)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】