説明

建築用セメントモルタル

【課題】 混和材・剤の使用でモルタルの左官施工性を大きく向上できる可能性はあるものの、施工性を高めるためにその使用量を増し続けると、施工性以外の製造作業性や建築用モルタルとして必要な性状の発現性に支障を及ぼす虞があり、混和材・剤による施工性の向上には限界があったことから、製造時の作業性も良好で、施工後も建築用モルタルとして実用上必要な特性を備えられるセメント系のモルタルであって、建築物への左官施工性を飛躍的に高めた建築用モルタルを提供する。
【解決手段】 エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体100体積部、嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒55〜130体積部及び嵩比重0.27以下の無機粒155〜260体積部から構成される細骨材を含有してなる建築用セメントモルタル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に建築物の外装や下塗り用などに施工使用するセメント系のモルタルに関するもので、特に建築物の左官施工に適した軽量のモルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
戸建て住宅の外壁などの建築物の施工は、一般にモルタルで下塗りを行い、必要によりモルタル硬化後の表面に、例えば樹脂リシンや掻き落しリシンのような有機系又はセメント系の仕上材を施工する。使用するモルタルは、火災被害を防ぐ上で良好な防火性や断熱性が得られ、また施工時の自重による垂れや剥落等が起こり難く、さらには建築物の荷重負荷を軽減できることから、骨材に軽量骨材を用いたセメント系の軽量モルタルが使用されている。軽量モルタルに用いる軽量骨材は、例えば発泡スチロール粒(例えば、特許文献1参照。)等の発泡質の有機高分子系軽量骨材、黒曜石や真珠岩等の含水鉱物質原料などを加熱発泡させたパーライト等(例えば、特許文献2参照。)の中空状の無機系軽量骨材が知られている。有機系軽量骨材のみの使用では防火性や断熱性に欠ける。これに対し、中空状の無機系軽量骨材は防火性や断熱性に優れるものの概して脆弱なため、製造時の混練工程や施工時に潰れ易く、中空状無機系骨材のみの使用ではモルタルの減容化や施工後の乾燥収縮が拡大する虞がある。この改善に、高分子樹脂系の軽量骨材を併用し、その緩衝作用で無機系軽量骨材の潰れを防ぐことが知られている。(例えば、特許文献3参照。)一方、戸建て住宅等の建築物でのモルタル施工方法は鏝塗りの左官施工が主流であり、その施工性の向上も不可欠である。無機系発泡状粒子と発泡させたポリオレフィン系難燃性樹脂の粉砕粒等を含む壁塗用モルタル(例えば、特許文献4参照。)も知られているが、併用する水溶性高分子増粘剤、ポリマー及び繊維の作用で左官施工に適した特性を付与したものである。このように従来よりモルタル施工性の向上策として、モルタルの含水状態や粘性、さらには付着強さなどの特性の調整が行われており、その調整のために種々の混和材・剤の配合が検討されてきた。
【0003】
しかるに、混和材・剤の導入のみでモルタルの左官施工性を向上しようとすると、例えば増粘剤を配合し、その配合量を増やすほど駆体への付着性や厚付け性、さらには硬化中のひび割れ低減には有効であるが、一方で粘性が高まり、混練抵抗の増大、鏝塗り作業性の低下や凝結遅延も引き起こす。またポリマーを配合すれば、吸水量を低下でき、駆体への付着性や鏝伸び性等を向上できるが、配合量を増すと粘性が高くなり、増粘剤と同様、混練抵抗の増大や凝結遅延を起こすなど施工性以外の面で問題が生じた。さらに、施工性を高める混和材・剤は必ずしも安価とは云えず、使用量が増すと製造コストの上昇も懸念される。
【特許文献1】特開平8−325046号公報
【特許文献2】特開平11−199297号公報
【特許文献3】特開2006−96631号公報
【特許文献4】特開平11−116311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
混和材・剤の使用でモルタルの左官施工性を大きく向上できる可能性はあるものの、施工性を高めるためにその使用量を増し続けると、施工性以外の製造作業性や建築用モルタルとして必要な性状の発現性に支障を及ぼす虞があった。このため混和材・剤の使用量は制限があり、混和材・剤の使用に頼った施工性の向上には限界があった。本発明は、このような問題を改善したもので、製造時の作業性も良好で、施工後も建築用モルタルとして実用上必要な特性を備えられるセメント系のモルタルであって、建築物への左官施工性を飛躍的に高めた建築用モルタルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、セメント系モルタルに使用する細骨材によってもモルタルの左官施工性に大きな差が出るという知見から、建築用モルタルに使用する細骨材を、特定の3種類の軽量骨材から構成される細骨材にすることによって、例えば戸建て住宅等の建築用に施工されるモルタル施工物としての必要特性と極めて優れた左官施工性等の両方を備えた建築用モルタルが容易に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、次のの(1)〜(4)で表す建築用セメントモルタルである。(1)エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体100体積部、嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒55〜130体積部及び嵩比重0.27以下の中空状無機粒155〜260体積部から構成される細骨材を含有してなる建築用セメントモルタル。(2)嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒がスチレン系樹脂の発泡粒である前記(1)の建築用セメントモルタル。(3)嵩比重0.27以下の状無機粒がパーライトである前記(1)又は(2)の建築用セメントモルタル。(4)さらに、ポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂を含有してなる前記(1)〜(3)何れかの建築用セメントモルタル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば戸建て住宅等の建築用モルタルとしての必要な特性を十分備え、且つ左官施工に著しく優れたセメント系モルタルが得られる。しかも当該モルタルは必要以上に混和材・剤を含有させなくて済むため、製造作業性や施工物の性状等に支障を及ぼすことも殆ど無く、また混和材・剤の使用量に応じた製造コストの上昇も抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の建築用セメントモルタルは、以下の3種類の細骨材から構成された細骨材が使用される。即ち、使用する細骨材は、エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体、嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒及び嵩比重0.27以下の無機粒からなる3種の細骨材の混合物である。ここで各細骨材の構成割合は、エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体100体積部に対し、嵩比重0.04以下の高分子樹脂粒55〜130体積部及び嵩比重0.27以下の無機粒155〜260体積部とする。このような3種類の細骨材から構成された細骨材を用いることで、厚付け性や鏝作業性に優れ、且つ防火性能も良好なモルタルを得ることが可能となる。また製造混練時の無機粒の剪断破砕による潰れを防ぐこともできる。
【0009】
エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体からなる細骨材は、主として、発泡させたエチレン酢酸ビニル共重合体に生じた発泡空隙中の一部に炭酸カルシウム粒が取り込まれて固定された構造のものであるが、この構造に限定されるものではない。その嵩比重は特に制限されないが、モルタル硬化体の強度発現性向上、モルタル単位容積低下と左官作業性低下を抑制する上で、0.06〜0.18であるのが好ましい。また、多孔質構造でないと建築用モルタルとして必要な吸水量を確保するのが困難になる。エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体からなる細骨材の粒径は、特に制限されないが、好ましくは0.045〜5mm、より好ましくは0.09〜2.5mmが良い。
【0010】
また、嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒は非水溶性のものであれば何れのものでも良い。好ましくは嵩比重が0.03以下の非水溶性高分子樹脂粒とする。また、嵩比重の下限値は特に制限されないが、建築用モルタルに適した強度発現性を確保する上で0.018が好ましい。高分子樹脂粒の構造も特に限定されないが、望ましくは多孔質や中空状のものが良い。嵩比重が0.05を超えるとこれを含む混合細骨材を使用したモルタルの鏝塗り作業性が低下するから好ましくない。このような高分子樹脂粒は、好ましくは発泡スチレン系樹脂粒であり、より好ましくは発泡スチロール粒である。混合細骨材中の嵩比重0.04以下の高分子樹脂粒からなる細骨材の含有量は、エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体からなる細骨材100体積部に対し、55〜130体積部とする。55体積部未満では鏝作業性が低下し、防火性も低下するため好ましくなく、また130体積部を超えると強度低下及び鏝塗り作業性が向上しないので好ましくない。
【0011】
また、嵩比重0.27以下の無機粒は水に実質不活性なものであれば材質的には限定されない。嵩比重0.27を超える無機粒ではモルタル重量負荷が増すことに加え、建築用モルタルとしての防火効果が低減するので好ましくない。嵩比重の下限値は特に制限されないが、施工物の強度を確保する上で、0.18が好ましい。このような嵩比重が得られ易いことから該無機粒からなる細骨材の構造は中空状又は多孔質状の構造が好ましく、特に中空状の構造であるのがより好ましい。具体的にはパーライトの使用が適する。パーライトは、例えば真珠岩や黒曜石などの含水鉱物を原料とし、加熱発泡膨張させた中空構造の細骨材である。混合細骨材中の嵩比重0.27以下の中空状無機粒からなる細骨材の含有量は、エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体からなる細骨材100体積部に対し、155〜260体積部とする。155体積部未満ではモルタルの単位容積質量が低くなって強度低下を起こしたり、所望のモルタル防火性能が得られ難くなるため好ましくなく、また260体積部を超えると混練時に破損する粒の割合が増し、製造中にモルタル容積が低下変動することに加え、鏝塗り作業性が向上しないので好ましくない。
【0012】
本発明の建築用セメントモルタル中の前記混合細骨材の含有量は、含有するセメント100体積部に対し、概ね190〜260体積部が好ましく、200〜250体積部がより好ましい。190体積部未満ではモルタルの厚付け性や防火性が低くなるため適当ではなく、また260体積部を超えると施工物の強度低下と左官作業性低下を起こすことがあるので適当ではない。
【0013】
本発明の建築用セメントモルタルに使用するセメントは、水硬性のセメントであれば何れのものでも使用可能である。具体的には、例えば普通、早強、超早強、中庸等、低熱等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントのような各種混合セメント、白色セメント、エコセメント、アルミナセメントのような特殊セメントを挙げることができる。また、複数のセメントを併用しても良い。
【0014】
また、本発明の建築用セメントモルタルは、好ましくはポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂を含有するものである。ポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂は、モルタルやコンクリートに使用できるものなら特に限定されない。具体的には、ポリマーディスパージョンとして例えばJIS A 6203に規定されているようなポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン又はエチレン酢酸ビニルを有効成分とするものが挙げられる。また、再乳化粉末樹脂として例えばJIS A 6203に規定されているようなポリアクリル酸エステル、スチレンブタジエン、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルを有効成分とするものを挙げることができる。ポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂の含有により付着力、曲げ強度、吸水性、ひび割れ抵抗、耐食性等を付与又は向上することができる。このために必要なポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂の含有量は、モルタル中のセメント100質量部に対し、固形分換算で0.2〜18質量部が好ましい。0.2質量部未満では前記の特性が殆ど付与されず、また18質量部を超えると強度が向上せず、粘性も高くなり過ぎて施工性が悪化するので適当ではない。
【0015】
本発明の建築用セメントモルタルは、前記以外の成分を含有するものであっても良い。好適な含有成分として、モルタル施工物の強度低下、ひび割れ、浮き、剥離といった現象を改善し、建築物の耐久性を向上させる上では、保水剤や繊維の使用を挙げることができる。保水剤としてはモルタルやコンクリートで使用できるものなら限定されないが、好適には水溶性セルロース系の保水剤、より具体的にはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸エステル等を挙げることができる。保水剤を使用する場合の好適配合量はモルタル中のセメント100質量部に対し、0.14〜0.24質量部が望ましい。また、繊維はモルタルやコンクリートに使用できるものなら限定されず、例えば非水溶性の高分子、鋼、炭素又はセラミックス等の材質からなる繊維を挙げることができる。この中でも例えばアクリル、ビニロン、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子からなる繊維が、モルタルの重量増を起こさずに、ひび割れ抵抗性の付与、垂れ防止及びセメントモルタル製造時の分散性が向上できるので好ましい。繊維を使用する場合の好適配合量はモルタル中のセメント100質量部に対し0.08〜0.25質量部が望ましい。
【0016】
また、保水剤や繊維以外の成分として、例えばシリカフュームやフライアッシュ等のポゾラン反応性物質、石膏、炭酸カルシウム粉、何れもモルタルやコンクリートに使用できる凝結促進剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、膨張材、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、分散剤、消泡剤、撥水剤、顔料等も本発明の効果を実質喪失させない範囲で含有使用しても良い。
【0017】
また、本発明の建築用セメントモルタルの製造方法は特に限定されず、例えば一般的なセメント系モルタルと概ね同様の方法で製造できる。具体的な一例を示すと、市販のモルタルミキサーに前記のような各使用材料を一括投入し、水を加えて混合する。添加する水の量は特に制限されないが、良好な施工性と強度発現性を安定して得るためには、含有するセメント100質量部に対し、概ね75〜89質量部加えることが推奨される。75質量部未満では混練抵抗が増して混合性の低下や鏝作業性の低下が起こるので適当ではない。また89質量部を超える量では強度低下に加え、厚付け性やひび割れ抵抗性も低下するので適当ではない。
【0018】
また、本発明の建築用セメントモルタルの施工方法は、鏝やパテ等を使用した塗り付けによる左官施工が好適であるが、左官施工に限定されるものではなく、例えば吹付け装置を使用し、建築物に吹付け施工することでも良い。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここに表した実施例に限定されるものではない。
【0020】
[モルタルの作製] 次に表すA1〜F3から選定される材料と水を、表1に表した配合量となるよう内容積が約5リットルのホバートミキサに投入し、温度約20℃湿度80%の環境下で3分間混練し、モルタル(本発明品1〜10、参考品21〜27)を作製した。
【0021】
A1;普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
A2;早強ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)
B1;エチレン酢酸ビニル共重合体と発泡状炭酸カルシウムの複合体の細骨材I(最大粒径2mm、平均粒径0.8mm、嵩比重0.1)
B2;エチレン酢酸ビニル共重合体と発泡状炭酸カルシウムの複合体の細骨材II(最大粒径1mm、平均粒径0.6mm、嵩比重0.11)
B3;発泡スチロール(最大粒径2mm、平均粒径0.8mm、嵩比重0.023)
B4;パーライトI(黒曜石発泡体;最大粒径2mm、平均粒径0.8mm、嵩比重0.2)
B5;パーライトII(真珠岩発泡体;最大粒径1.2mm、平均粒径0.6mm、嵩比重0.19)
B6;パーライトIII(黒曜石発泡体;最大粒径2mm、平均粒径0.8mm、嵩比重0.19)
B7;普通細骨材I(JIS5号砂相当山形珪砂;最大粒径0.6mm、嵩比重2.58)
B8;ポリプロピレン製の非発泡樹脂(粒径範囲0.6〜2.4mmに調整した粒、嵩比重0.6)
C;保水剤(商品名「チローゼMH6002P4」、SEタイロース社製)
D;アクリル繊維(市販品、繊維長約12mm)
E1;フライアッシュ(JIS A 6201規定のフライアッシュII種相当品)
E2;膨張材(商品名「太平洋エクスパン構造用」、太平洋マテリアル式会社製)
E3;石灰石粉末(ブレーン比表面積2500cm2/g)
F1;再乳化粉末樹脂(商品名「LL5050」、旭化成ケミカルズ株式会社製)
F2;ポリマーディスパージョン(商品名「太平洋エフェクト」、太平洋マテリアル株式会社製)
F3;再乳化粉末樹脂(商品名「太平洋CXB」、太平洋マテリアル株式会社製)
【0022】
【表1】

【0023】
[コンシステンシーの評価] 作製したモルタルについて、JIS R 5201に準拠した方法で、20℃の屋内で練り上がった直後のモルタルフロー値を測定し、左官施工に適ったコンシステンシーが得られているかの評価指標とした。フロー値が概ね160〜175mmであれば左官施工に適うコンシステンシーが得られていると判断した。その結果を表2に表す。
【0024】
【表2】

【0025】
[鏝塗り施工性の評価] 作製したモルタルについて、温度約20℃、湿度約60%の屋内に、戸建住宅の外壁下地を模擬し、900×1800×12mmの合板2枚を40×50×2000mmの角材3で繋げて固定し、継ぎ目のある1800×1800mmの平板に防水シート、メタルラスをステープルで留め、施工性の確認を行うために下地とした。この1800×1800mmの平板面に対する鏝塗りによる施工性を次の(a)〜(d)の4種の方法で評価した。
【0026】
(a)鏝伸び性;設置した平板面に、市販の金鏝で作製したフレッシュ状態のモルタルを塗り付け、塗り斑なくモルタルを広く伸ばし、1800×1800mmの平板面全部に20分以内で塗り付けできたものを鏝伸び性「良好」と判定した。また、それ以外の状況となったものは鏝伸び性「不良」と判定した。
【0027】
(b)鏝切れ性;塗付け後の金鏝に付着残存するモルタルが実質見られなかったものを鏝切れ性「良好」と判定し、モルタルが付着残存していたものを鏝切れ性「不良」と判定した。
【0028】
(c)施工物の表面平滑性;金鏝でモルタルを塗り付け、塗り付けたモルタルに数回金鏝を当てて整えることによって、概ね平滑な面が得られたものを、施工物の表面平滑性「良好」と判定した。塗り付けたモルタルに数回金鏝を当てて整えようとしても概ね平滑な面が得られなかったものや金鏝での塗り付け自体が困難であったものは、施工物の表面平滑性「不良」と判定した。
【0029】
(d)厚付け性;設置した平板面に、作製したフレッシュ状態のモルタルを約10mm程度の厚さとなるよう鏝で塗付けた。24時間経過後に塗付けられたモルタルの垂れが見られなかったものを、厚付け施工性「良好」と判定し、それ以外の状況になったモルタルは全て厚付けり施工性「不良」と判定した。
【0030】
[ひび割れ抵抗性の評価] 前記試験で、モルタルを平板に塗り付けたまま、7日間静置した。静置後、平板上の施工物の表面を目視で観察し、ひび割れ発生の有無を確認した。ひび割れ発生が見られなかったものをひび割れ抵抗性「良好」と判断し、ひび割れ発生が多少とも見られたものをひび割れ抵抗性「不良」と判断した。この評価結果も表2に表す。
【0031】
[曲げ強度の評価] 前記モルタルから、JASS 15M−102に準拠した方法で作製した強度試験測定用の4×4×16cmの供試体を用い、JIS R 5201に準じた方法で曲げ強度を測定した。尚、供試体は、温度20℃、湿度80%に保った養生槽で48時間湿空養生を行った後、材齢28日まで温度20℃、湿度約60%に保った大気下で養生したものを使用した。曲げ強度の測定結果も表2に表す。
【0032】
[防火性の評価] 試験体は600×600×9mmの構造用合板1級を用い中央部の表面と裏面に、CC熱電対の熱接点を設置した後、防水シート、メタルラスをステープルで留め、モルタルを16mm塗り付けて試験体とした。試験体側面の片方には10mm厚の石膏ボートを貼り、モルタル表面の石膏ボートとの接合部は市販の耐火性モルタルで被覆した。この試験体を温度約20℃、湿度約60%に保った屋内で28日間養生し、JIS A 1301に準拠した方法で小型炉を用い、2級加熱で防火試験を実施した。試験は次の(イ)〜(ニ)の4種の項目を施工モルタルがそれぞれ充当しているか否かを調べ、全て充当しているものに対してのみ防火性良好と判断した。(イ)建築駆体に火災被害を及ぼすような変形、破壊又は脱落の何れも確認されないこと。(ロ)試験体裏面に、発炎が確認されないこと。(ハ)試験終了時点から30秒以内に試験体からの残炎が全て消失され、且つ試験終了時点から5分以上残存する火気が確認されないこと。(ニ)試験体裏面の温度が260℃を超えなかったこと。ただし、装着金物などの接触による局部的な木材部分は260℃を超えても着火が確認されなければ良いこと。尚、各項目は原則的に目視により調べた。この評価結果も表2に表す。
【0033】
表2の結果より、本発明品は塗り施工に適したコンシステンシーを有すると共に鏝塗り施工性も全般に極めて良好であり、また硬化後もひび割れや強度低下を十分抑制した耐久性に優れる軽量モルタルが得られていることがわかる。これに対し、本発明外の参考品では塗り施工性が不良であるか、施工性が良好であっても硬化後の防火性等が、建築用のモルタルとしては劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン酢酸ビニル共重合体と炭酸カルシウムの多孔質複合体100体積部、嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒55〜130体積部及び嵩比重0.27以下の無機粒155〜260体積部から構成される細骨材を含有してなる建築用セメントモルタル。
【請求項2】
嵩比重0.05以下の高分子樹脂粒がスチレン系樹脂の発泡粒である請求項1記載の建築用セメントモルタル。
【請求項3】
嵩比重0.27以下の無機粒がパーライトである請求項1記載の建築用セメントモルタル。
【請求項4】
さらに、ポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂を含有してなる請求項1〜3何れか記載の建築用セメントモルタル。

【公開番号】特開2009−120438(P2009−120438A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295404(P2007−295404)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】