説明

建築用定規及び建築用定規の使用方法

【課題】瓦を隅棟または谷に沿って正確かつ容易に切断できると共に、屋根上ではない場所で瓦を切断するのに適した建築用定規、及び、該建築用定規の使用方法を提供する。
【解決手段】建築用定規1は、屋根面の水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比で表される屋根勾配が10:nである二面の屋根の交差により形成される隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断する際に用いられる建築用定規であって、両面に目盛りの付された第一直尺部10と、第二直尺部20と一体的に形成され、特定の内角を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用定規及び建築用定規の使用方法に関するものであり、特に、屋根瓦の切断作業に適した建築用定規、及び該建築用定規を使用して屋根瓦を切断するための、建築用定規の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寄棟屋根、入母屋屋根、方形屋根、腰折れ屋根など、隣り合う二つの屋根面が屋根の頂上から軒先にかけて斜めに交差する「隅棟」を有する屋根や、二つの屋根面が交差して傾斜する「谷」を形成する屋根では、瓦葺き作業を行う場合に、隅棟や谷からはみ出す部分の瓦を切断する必要がある。かかる作業は、従来より、実際に瓦を隅棟や谷にあてがい、墨つぼ等を使用して切断すべき線を引いてから、いったん瓦を外し、引かれた線に沿って屋根の上で瓦を切断する、という手順で行われるのが一般的である。
【0003】
上記の従来技術は、公然に実施されているものであり、出願人は、この従来技術が記載された文献を、本願出願時においては知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような墨つぼを使用する作業には熟練を要し、隅棟や谷に正確に沿うように瓦を切断するのは困難であった。特に、谷では、瓦の切断部分が露呈するのが通常であるため、切断された瓦が谷に正確に沿っていない場合は、見た目が良くないという問題があった。また、足場の悪い傾斜した屋根の上での切断作業は、不正確なものになりやすく、危険でもあった。更に、高い場所で瓦の切断作業を行うと、切断に伴って生じる粉塵が、近隣一帯に飛散してしまうという問題があった。加えて、切断作業は電動工具で行われることが多いため、屋根の上で電動工具を使用すると、切断に伴って生じる音が近隣に響き易く、騒音の問題も生じていた。
【0005】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、瓦を隅棟または谷に沿って正確かつ容易に切断できると共に、屋根上ではない場所で瓦を切断するのに適した建築用定規、及び、隅棟または谷に沿って屋根上ではない場所で瓦を切断するための、建築用定規の使用方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる建築用定規は、「屋根面の水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比で表される屋根勾配が10:nである二面の屋根の交差により形成される隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断する際に用いられる建築用定規であって、両面に目盛りの付された第一直尺部と、該第一直尺部と一体的に形成され、次の数式(1):
【数2】

においてθ(degree)で表される内角を前記第一直尺部と構成する第二直尺部と
を」具備するものである。
【0007】
屋根勾配は、当業者間では「寸法勾配」と称される勾配で表示されるのが一般的である。ここで、「寸法勾配」は、屋根面が水平方向の長さ1尺に対して、鉛直方向に立ち上がる高さを寸単位で表したものであり、規格化された屋根勾配として、3寸勾配、3.5寸勾配、4寸勾配、4.5寸勾配、5寸勾配、5.5寸勾配、6寸勾配、7寸勾配、8寸勾配、9寸勾配、10寸勾配などがある。ここで、1尺は10寸であるため、本発明における「屋根面の水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比で表される屋根勾配が10:nである」屋根は、「n寸勾配」と称される勾配を有する屋根に相当する。
【0008】
「第一直尺部」及び「第二直尺部」は、直線に沿うようにあてがうことができる部分であり、例えば、第一直尺部を細幅の平板状とし、その一端から、同じく細幅の平板状の第二直尺部が延設される構成とすることができる。或いは、平板状の三角形の一辺によって第一直尺部を構成させ、隣り合う一辺によって第二直尺部を構成させることもできる。また、第一直尺部及び第二直尺部は、ステンレス等の金属、木材、樹脂等によって一体的に形成することができ、材質は限定されるものではないが、温度による寸法変化や経時的な寸法変化が生じ難い材質であることが望ましい。
【0009】
「目盛」の単位は特に限定されず、メートル法による「cm」や「mm」、尺貫法による「尺」や「寸」の目盛とすることができる。また、一般に「角目」や「丸目」と呼ばれる目盛が付記されるものであっても良い。なお、両面に目盛りが付される第一直尺部に加え、第二直尺部にも目盛りが付される構成とすることができる。
【0010】
寄棟屋根、入母屋屋根、方形屋根、腰折れ屋根などで、隣り合う二つの屋根面が屋根の頂上から軒先にかけて斜めに交差する線が「隅棟」であり、隅棟を有する屋根は、隣り合う二面の屋根勾配が等しいのが一般的である。その場合、上記の数式(1)の角度θは、隅棟を形成する二面の屋根勾配がいわゆる「n寸勾配」であるときの、隅棟が軒先線となす角度に相当する。ここで、「軒先線」は、隣り合う軒先を結んだ線を指すものとする。
【0011】
また、上記の数式(1)の角度θは、屋根勾配がいわゆる「n寸勾配」である二面の屋根が斜めに交差して「谷」を形成する場合に、この谷と軒先線とのなす角度の補角に相当する。なお、一般的には、二面の屋根が下降して交差した線が水平である場合も谷と呼ばれるが、本発明に関しては、単に「谷」という場合は、二面の屋根が斜めに交差して形成された、水平面に対して傾斜した谷を指すものとする。
【0012】
従って、本発明によれば、「n寸勾配」と称される屋根勾配を有する二つの屋根面によって隅棟や谷が形成された屋根に瓦葺きを行う際に、このn値に対応した内角θを有する建築用定規を使用することにより、隅棟や谷からはみ出すこととなる瓦を、特に熟練を要することなく、容易かつ正確に切断することができる。また、切断しようとする瓦を実際に隅棟にあてがって、切断すべき線を引く必要がないため、建築用定規を使用した測定は屋根上で行い、実際に瓦を切断する作業は、屋根上ではない場所で行うことも可能となる。
【0013】
ところで、第一直尺部及び第二直尺部の一方が、他方の端部に設けられた軸の周りに回転可能な構成とすることにより、内角を可変とするような建築用定規も想定し得る。しかしながら、その場合は、屋根勾配に合せて内角を変化させ、所定の角度となった際にその状態を固定する必要が生じ、はなはだ煩雑である。加えて、螺子留め等により固定された角度は、ずれやすいものとなる。これに対し、本発明では、内角が固定的に形成されているため、作業を行う屋根勾配に合った内角を有する建築用定規を用いれば、建築用定規自体について何らかの調整を行う必要がなく、すぐに使用することができる。また、第一直尺部及び第二直尺部が一体的に形成されているため、両直尺部にがたつきや、ずれを生じる恐れがなく、測定や切断を正確に行うことができると共に、強度的に安定した建築用定規となる。
【0014】
加えて、第一直尺部には、両面に目盛が付されているため、表裏の何れかの目盛を使用することにより、隅棟や谷が左下がりであるか右下がりであるかを問わず、単一の建築用定規で対応することができる。
【0015】
なお、本発明の「n」値は、上記のように0.5間隔または1間隔で規格化されている寸法勾配のn値に限定されるものではない。例えば、規格外の4.2寸勾配(水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比が10:4.2)の屋根勾配を有する屋根に対して、その瓦葺き作業用として、n=4.2の場合のθを内角とする建築用定規とすることができる。
【0016】
次に、本発明にかかる建築用定規は、「前記nは、4,4.5,5,6の何れかである」ものである。
【0017】
上述のように、屋根勾配は寸法勾配で規格化されているが、一般的な建物の屋根勾配は、4寸勾配、4.5寸勾配、5寸勾配、及び、6寸勾配の何れかであるものが、その大半を占めている。従って、nが4,4.5,5,6の何れかである本発明の建築定規により、隅棟や谷を有するほとんどの屋根の瓦葺き作業に対応することができる。
【0018】
次に、本発明にかかる建築用定規の使用方法は、「屋根の軒先線に平行に順次屋根瓦を敷設し、隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断するために、上記に記載の建築用定規を使用する建築用定規の使用方法であって、第一直尺部が第二直尺部と構成する内角が、前記隅棟と前記軒先線とのなす角度、または前記谷と前記軒先線とのなす角度の補角と同一の前記建築用定規を、二人の作業者がそれぞれ携帯し、前記作業者の一方が屋根上に位置し、その者が携帯する前記建築用定規の第一直尺部を、前記隅棟の場合は屋根瓦の下辺に、前記谷の場合は屋根瓦の上辺に沿わせると共に、第二直尺部を前記隅棟または前記谷に沿わせ、切断すべき屋根瓦と前記第一直尺部との位置関係を特定する特定点を示す目盛りを前記第一直尺部で読み取り、読み取った前記目盛りを他方の作業者に指示し、前記作業者の他方が、屋根上以外の場所に位置し、その者が携帯する前記建築用定規の第一直尺部を、指示された前記目盛で前記特定点と一致するように、前記隅棟の場合は切断すべき屋根瓦の下辺に、前記谷の場合は切断すべき屋根瓦の上辺に沿わせ、第二直尺部に沿って屋根瓦を切断する」ものである。
【0019】
「特定点」は、屋根上の作業者が第一直尺部の目盛りを読み取った際の、建築用定規と次に配されるべき屋根瓦との仮想的な位置関係と、屋根上ではない場所に位置する作業者が瓦を切断するときの、建築用定規と切断される屋根瓦との位置関係とを、一致させるための基準となる点である。例えば、隅棟の場合は、次に配される瓦(切断される瓦)と同種の瓦をダミーとして、あるいは瓦と同形・同サイズの物体をダミーとして、次に瓦が配されるべき位置に置き、そのダミーの下辺の何れかの端部を特定点とすることができる。あるいは、既に敷設された最後尾の瓦の下辺の隅棟側の端部から、瓦の重ね代分だけ反対向きに移動させた点を特定点とすることができる。また、谷の場合は、既に敷設された最後尾の瓦の上辺の谷側の端部から、瓦の重ね代分だけ反対向きに移動させた点を特定点とすることができる。
【0020】
従って、本発明によれば、隅棟や谷の傾斜に合わせた内角を有する建築用定規を使用することにより、切断しようとする瓦自体を隅棟や谷にあてがって線引きをすることなく、隅棟や谷に沿うよう、正確かつ容易に、瓦を切断することができる。また、同一の内角を有する建築用定規を二人の作業者がそれぞれ携帯し、作業者の一人が屋根の上で隅棟や谷に建築用定規を当てて目盛を読み、もう一人の作業者が屋根上ではない場所、例えば、地上で瓦に建築用定規をあてて、瓦の切断作業を行う方法であるため、足場の悪い傾斜した屋根の上で瓦を切断する必要がなく、安全かつ正確に、瓦を切断することができる。
【0021】
更に、高い屋根の上で瓦を切断しなくてもよいため、切断に伴って生じる粉塵が、近隣一帯に飛散してしまうという従来の問題を回避することができる。加えて、切断のために屋根の上で電動工具を使用することによって、近隣に与えていた騒音も低減することが可能となる。また、屋根上の作業者と無線通信等を利用してリアルタイムで連絡を取り合い、工場内で瓦の切断を行うことも可能となり、その場合は、近隣に及ぼす粉塵や騒音の問題を解消することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の効果として、瓦を隅棟または谷に沿って正確かつ容易に切断できると共に、屋根上ではない場所で瓦を切断するのに適した建築用定規、及び、隅棟または谷に沿って屋根上ではない場所で瓦を切断するための、建築用定規の使用方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の一実施形態である建築用定規、及び、隅棟または谷に沿って瓦を切断するための建築用定規の使用方法について、図1乃至図5に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の建築用定規の構成を示す平面図であり、図2は図1の建築用定規の内角の導出を説明する説明図であり、図3乃至図5は図1の建築用定規を用いて、隅棟に沿って屋根瓦の切断を行う際の建築用定規の使用方法を説明する説明図である。
【0024】
本実施形態の建築用定規1は、屋根面の水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比で表される屋根勾配が10:nである二面の屋根の交差により形成される隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断する際に用いられる建築用定規であって、図1に示すように、両面に目盛りの付された第一直尺部10と、第一直尺部10と一体的に形成され、上記の数式(1)においてθ(degree)で表される内角を第一直尺部10と構成する第二直尺部20とを、具備している。なお、図1では、n=5の場合の建築用定規1を図示している。
【0025】
より詳細に説明すると、建築用定規1の第一直尺部10は幅約15mmの平板状に形成され、その一端から、同じく幅約15mmの平板状の第二直尺部20が延設され、共にステンレス鋼によって一体的に形成されている。また、第一直尺部10の外側の辺に沿って、その両面に、mm単位、及びcm単位の目盛がそれぞれ刻設されている。
【0026】
第一直尺部10及び第二直尺部20の長さは、建築用定規1を瓦の切断に使用する際に、切断する長さが最大となる場合を考慮すると、第一直尺部10は切断対象の瓦の幅程度の長さが必要であり、第二直尺部20は切断対象の瓦の対角線の長さ程度は必要である。ただし、長すぎれば携帯に不便で使い勝手もよくないため、第一直尺部10及び第二直尺部20の長さは、それぞれ切断対象の瓦の幅、及び対角線の長さの1倍から1.2倍の長さに設定されることが望ましい。
【0027】
屋根瓦には、寸法により、3.3m当たりの葺き枚数(概数)として、40,49,53,57,60の区分が設けられているが、図1に例示した本実施形態の5寸勾配用の建築用定規1は、第一直尺部10の長さが約340mm、第二直尺部20の長さが約450mmに形成され、区分40の大きな瓦(例えば、幅345mm、長さ350mm)にも対応可能な設定となっている。
【0028】
第一直尺部10及び第二直尺部20によって構成される内角θ(degree)は、以下で図2を用いて説明するように、隅棟45を形成する二面の屋根の勾配がいわゆる「n寸勾配」である場合の、隅棟45と軒先線41とのなす角度に相当する。ここで、隣り合う二面の屋根31,32が斜めに交差する線が隅棟45であり、隅棟45の下端が軒先Yであり、隣り合う軒先Yを結んだ線が軒先線41である。以下では、隅棟45の上端を頂点Xとし、頂点Xから屋根面31,32のそれぞれの軒先線41に対して降ろした垂線と軒先線41との交点をそれぞれA,Bとし、頂点Xを通る鉛直線と複数の軒先線41によって形成される水平面との交点をCとして説明する。
【0029】
まず、屋根勾配は、水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比が10:nであることから、AC=BC=10に対して、CX=nである。従って、三角形ACXにおいてAX=10+nあり、同様に、三角形BCXにおいてBX=10+nである。また、AC=YB=10であり、かつ、∠CYBは45°であるから、三角形CYBにおいて、CY=10√2であり、これにより、三角形XYCにおいて、XY=(10√2)+nである。
【0030】
以上より、屋根面31においてsinθ=XY/AX=√(10(2)+n)/√(10+n)(radian)であり、上記の数式(1)が導出される。屋根面32においても、sinθ=XY/BXであり、同様に数式(1)が導出される。この角度θを、規格化されたn寸勾配の場合について表1に例示する。
【0031】
【表1】

【0032】
上記の表では、小数点2桁までを表示しているが、実際に屋根の作業を行うために用いる建築用定規1に関しては、有効桁はこの程度で充分である。
【0033】
また、二面の屋根が交差して谷を形成する場合は、図2に示した隅棟を、天地を逆転させると共に裏返したものに相当し、上記の数式(1)における角度θは、谷と軒先線とのなす角度の補角に相当する。
【0034】
次に、本実施形態の建築用定規1の使用方法について、図3を用いて説明する。ここでは、「5寸勾配」と称される屋根勾配を有する二面の屋根によって隅棟45が形成された屋根の瓦葺きに際し、n=5の場合の数式(1)から導出される角度θを内角とする建築用定規1を使用する場合について例示する。
【0035】
例えば、軒先線41に沿って瓦50を順次敷設していき、次に配する瓦51が隅棟45からはみ出すこととなる場合、図3(a)に示すように、瓦51と同形・同サイズの擬似体55を、瓦51が配されるべき場所に置く。ここで、擬似体55は、瓦51と同種類の瓦であっても、瓦とは別の材料で同形・同サイズに形成されたものでもよい。例えば、樹脂製の擬似体55とすれば、軽くて割れ難く取扱いが容易である。そして、図3(b)に示すように、建築用定規1の第一直尺部10を擬似体55の下辺に沿わせ、更に、第二直尺部20を隅棟45に沿わせる。
【0036】
次に、この状態で、第一直尺部10で特定点の目盛りを読み取る。ここで、図3(a)に示すように、擬似体55の下辺の隅棟方向の端部Pが隅棟より内側に位置する場合、この端部Pを特定点とすることができる。その場合は、図3(b)に示すように、端部Pを示す目盛りSを読み取り、次に、図3(c)に示すように、切断すべき瓦51の下辺に第一直尺部10が沿うように建築用定規1をあてがい、瓦51の下辺の隅棟45側となるべき端部と、目盛りSとが一致するようにする。この状態で、第二直尺部20に沿って瓦51を切断すれば、図3(c)において斜線で図示した部分が切断され、隅棟45に沿って敷設可能となる。
【0037】
また、図4(a)に示すように、擬似体55の下辺の隅棟方向の端部Pが隅棟より外側に位置する場合は、端部Pの反対側の端部P’を特定点とすることができる。その場合は、図4(b)に示すように、端部P’を示す目盛りS’を読み取り、図4(c)に示すように、切断すべき瓦51の下辺に第一直尺部10を沿わせつつ、瓦51の下辺の隅棟側となるべき端部とは反対側の端部と、目盛りS’とが一致するよう建築用定規1をあてがう。この状態で、第二直尺部20に沿って瓦51を切断すれば、図4(c)において斜線で図示した部分が切断される。
【0038】
或いは、第一直尺部10の目盛りを第二直尺部20側の端点から付しておけば、図5(b)に示すように、第一直尺部10と第二直尺部20により構成される角部を端部Pと合わせて、第一直尺部10と隅棟との交点S’’の目盛りを読み取ることによってPS’’間の距離nを測定し、図5(c)に示すように、切断すべき瓦51の下辺に第一直尺部10を沿わせつつ、瓦51の下辺の隅棟側となるべき端部から距離nの点と、第一直尺部10と第二直尺部20により構成される角部とが一致するように建築用定規1をあてがい、第二直尺部20に沿って瓦51を切断すれば、同様に図5(c)において斜線で図示した部分が切断される。このようにすることにより、例えば、瓦50の凹凸などの影響で、端部P’の目盛りS’が読み取りにくい場合であっても、瓦51を隅棟に合わせて切断することができる。
【0039】
また、或いは、擬似体55は用いず、既に敷設された最後尾の瓦50の隅棟側の端部Qから瓦の重ね代w分だけ瓦の敷設方向とは反対方向に移動させた点P’を特定点とし(図4(a)参照)、これを示す目盛りS’を第一直尺部10で読み取っても良い。
【0040】
なお、上記では、瓦50を順次上に重ねるように敷設する場合を図示しているが、次に配する瓦を既に敷設された瓦の下側に挿し込むように敷設する場合、瓦の重ね代wが同一であれば擬似体55を敷設済みの瓦の上に重ねて、上記と同様の方法で目盛りを読み取ることができる。また、上記に示した特定点の定め方は例示であり、例えば、端部Pが隅棟より内側に位置する場合に、建築用定規1と瓦50の寸法の関係によって、端部P及び端部P’の双方が第一直尺部10上にある場合は、いずれを特定点としても構わない。更に、図3乃至及び図5では、図示左下がりの隅棟45に沿って瓦を切断する場合を例示したが、傾斜する方向が逆である場合も、第一直尺部10には両面に目盛りが付されているため、建築用定規1を裏返しにして使用することにより、同様な方法で瓦を切断することができる。
【0041】
上記のように、二面の屋根が交差して隅棟を形成する屋根だけではなく、二面の屋根が交差して谷を形成している屋根に瓦を葺く場合にも、建築用定規1の第一直尺部10を瓦の上辺またはその延長線に沿わせるように使用することにより、同様の方法で谷に沿うように瓦を切断することができる。
【0042】
以上のように、本実施形態の建築用定規1によれば、いわゆる「n寸勾配」を有する二面の屋根が交差して、隅棟や谷が形成された屋根に瓦葺きを行う場合に、この「n」値に対応した内角θを有する建築用定規1を使用することにより、隅棟や谷からはみ出すこととなる瓦の切断を、容易かつ正確に行うことができる。
【0043】
また、従来の方法とは異なり、切断しようとする瓦自体を隅棟や谷にあてがい、切断すべき線を引く必要がないため、屋根上ではない場所、例えば地上で、瓦の切断作業をすることができる。これにより、足場の悪い傾斜した屋根の上で瓦を切断する作業を行う必要がなく、安全かつ正確に、瓦を切断することができる。更に、高い屋根の上で瓦を切断しないため、切断に伴って生じる粉塵が近隣一帯に飛散してしまうという、従来の問題を回避することができる。加えて、高い屋根の上で電動工具を使用して切断作業を行うことによって生じる音が、近隣住民に苦痛を与える騒音となるという、従来の問題を低減することができる。
【0044】
ここで、上記のような作業は、屋根上での目盛りの読み取りと、屋根上以外の場所での瓦の切断を、一人の作業者によって行うことも可能ではあるが、別の作業者が行うこととすれば、屋根にのぼったり降りたりする煩雑さがなく、効率的である。加えて、屋根上の作業者と無線通信等で連絡を取り合うこととしても良い。
【0045】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0046】
例えば、本実施形態では、第一直尺部10及び第二直尺部20が細幅の平板状に形成される場合を例示したが、平板状の三角形の隣接する二辺によって第一直尺部及び第二直尺部を構成させることとしてもよい。また、持手となる部分が取り付けられていても良い。
【0047】
更に、第一直尺部10の両面に目盛りが付されている場合を例示したが、これに加えて、第二直尺部の両面にも目盛りが付されるものとすれば、両者が共に第一直尺部及び第二直尺部を兼ねることとなり、瓦の下辺または上辺に沿わせる直尺部と、隅棟や谷に沿わせる直尺部を区別する必要がなくなり、より好適である。
【0048】
また、一つの建築用定規が、異なる内角θを構成する第一直尺部及び第二直尺部の二組を具備する構成とすることもできる。例えば、第一直尺部の一端側で一つ目の第二直尺部と4寸勾配に対応する内角を構成し、第一直尺部の他端側で二つ目の第二直尺部と6寸勾配に対応する内角を構成する建築用定規とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態の建築用定規の構成を示す平面図である。
【図2】図1の建築用定規の内角の導出を説明する説明図である。
【図3】図1の建築用定規を用いて、隅棟に沿って屋根瓦の切断を行う際の建築用定規の使用方法を説明する説明図である。
【図4】図1の建築用定規を用いて、隅棟に沿って屋根瓦の切断を行う際の建築用定規の使用方法を説明する説明図である。
【図5】図1の建築用定規を用いて、隅棟に沿って屋根瓦の切断を行う際の建築用定規の使用方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 建築用定規
10 第一直尺部
20 第二直尺部
41 軒先線
45 隅棟
46 谷
50,51 瓦(屋根瓦)
P,P’ 特定点
S,S’ 目盛り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根面の水平方向の長さに対する鉛直方向の高さの比で表される屋根勾配が10:nである二面の屋根の交差により形成される隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断する際に用いられる建築用定規であって、
両面に目盛りの付された第一直尺部と、
該第一直尺部と一体的に形成され、次の数式(1):
【数1】

においてθ(degree)で表される内角を前記第一直尺部と構成する第二直尺部と
を具備することを特徴とする建築用定規。
【請求項2】
前記nは、4,4.5,5,6の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の建築用定規。
【請求項3】
屋根の軒先線に平行に順次屋根瓦を敷設し、隅棟または谷に沿って屋根瓦を切断するために、請求項1に記載の建築用定規を使用する建築用定規の使用方法であって、
第一直尺部が第二直尺部と構成する内角が、前記隅棟と前記軒先線とのなす角度、または前記谷と前記軒先線とのなす角度の補角と同一の前記建築用定規を、二人の作業者がそれぞれ携帯し、
前記作業者の一方が屋根上に位置し、その者が携帯する前記建築用定規の第一直尺部を、前記隅棟の場合は屋根瓦の下辺に、前記谷の場合は屋根瓦の上辺に沿わせると共に、第二直尺部を前記隅棟または前記谷に沿わせ、切断すべき屋根瓦と前記第一直尺部との位置関係を特定する特定点を示す目盛りを前記第一直尺部で読み取り、読み取った前記目盛りを他方の作業者に指示し、
前記作業者の他方が、屋根上以外の場所に位置し、その者が携帯する前記建築用定規の第一直尺部を、指示された前記目盛で前記特定点と一致するように、前記隅棟の場合は切断すべき屋根瓦の下辺に、前記谷の場合は切断すべき屋根瓦の上辺に沿わせ、第二直尺部に沿って屋根瓦を切断する
ことを特徴とする建築用定規の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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