説明

建築用結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】表面にガラス欠陥がない明確な凸状模様を有する建築用結晶化ガラス物品、及び熱処理により凸状模様を形成する建築用結晶化ガラス物品の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶化ガラス物品1は、表面から内部に向けて針状結晶が析出した第一の結晶化ガラスよりなる第一小領域とガラス成分の質量比BaO/CaOが0.4以上小さい第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域とが互いに融着しており、意匠面1aに第二小領域の凸状部1cを複数有する。製造方法は、第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体の多数個と、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第一の結晶化ガラスよりも0.4以上小さく同様に結晶を析出する第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体の多数個とを混合する工程と、第一ガラス小体が流動して融着し、かつ第二ガラス小体が僅かに流動して物品の表面に凸状部1cが形成される温度で熱処理する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材や内装材及び装飾材に用いることができる建築用結晶化ガラス物品と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物の形状や装飾の多様化に伴って、機能性やデザインの面から建築物に種々のガラス物品が使用されるようになっている。建築物に使用される物品の中には、有色不透明な板ガラスがある。この種の有色板ガラスには、結晶化ガラス、膜付ガラス、色ガラス等があり、建物の内外装に使用すると、ガラスのもつ質感と光沢で特有の外観を呈することになり、意匠性が要求される用途に好適となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、結晶性のガラス小体より熱処理時の流動性が高い高流動性ガラス小体を併用することで無機顔料によるガラス小体の流動性の低下が相殺されるため、熱処理温度を上げなくても平滑な平面を有する着色結晶化ガラス物品を製造することが可能な着色結晶化ガラス物品の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2〜5には、結晶化後の結晶状態が異なる2種以上のガラス小体の複数個を耐火物製の型枠内に集積し、熱処理することによって得られる結晶化ガラスであり、結晶状態の相違によって、結晶化ガラスの各部分の透過率が異なり、一部分が透光性を有し、その透過率差によって模様が現出してなる天然石様の外観を呈する模様入り結晶化ガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平8−104530号公報
【特許文献2】特開平5−163033号公報
【特許文献3】特開平5−163034号公報
【特許文献4】特開平5−163035号公報
【特許文献5】特開平5−163042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の結晶化ガラス物品は、図3に示すように、加熱により、焼成された平滑な平面を意匠面として有するものであり、模様が平面的で深みがない。
【0006】
また、特許文献2〜5の模様入り結晶化ガラスは、焼成された後は、模様は有しているが、ほぼ平坦なため、鏡面研磨仕上げされ、意匠面がフラットになっている。
【0007】
このように、従来の結晶化ガラス物品には加熱、焼成だけで結晶化ガラス建材の意匠面に再現性のある明確な模様としての凹凸を設けたものはなかった。従来の結晶化ガラス物品の表面に凹凸をつけるためには、二次的な機械加工などが必要であり、表面に、強度低下をもたらす加工キズによるガラス欠陥が生じるだけでなく、製造コストが高くなる問題がある。
【0008】
本発明は、表面にガラス欠陥がない明確な凸状の模様を有する建築用結晶化ガラス物品、及び加熱、焼成により凸状の模様を有する建築用結晶化ガラス物品を製造する製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る建築用結晶化ガラス物品は、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した結晶化ガラスよりなる複数のガラス小領域が互いに融着している建築用結晶化ガラス物品であって、前記ガラス小領域には、第一の結晶化ガラスよりなる第一小領域と第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域とがあり、第一の結晶化ガラスはガラス成分の質量比BaO/CaOが第二の結晶化ガラスよりも0.4以上大きく、物品の表面に第二小領域による複数の凸状部を有するものである。
【0010】
本発明の建築用結晶化ガラス物品は、第一の結晶化ガラスと第二の結晶化ガラスが主として熱処理時の粘性に大きく影響するアルカリ土類金属酸化物ガラス成分のうち、結晶相構成成分のCaOに対するガラス相構成成分BaOの質量比、すなわちBaO/CaOが0.4以上異なるものであり、結晶相構成成分のCaOが多く難流動性の結晶化ガラスよりなる第二小領域が、第一小領域との流動性の差に起因して意匠面に凸状部を形成しているものである。
【0011】
また、本発明で、第一の結晶化ガラスは、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第二の結晶化ガラスよりも0.4以上大きいとは、β−ウォラストナイト(CaO・SiO)の結晶相を構成する成分であるCaOと、ガラス相の成分であるBaOの含有比が質量基準で0.4以上異なるものであることをいう。一方、ガラス成分の質量比BaO/CaOの差が0.4未満であると、建築用結晶化ガラス物品を製造する際の熱処理温度における第一の結晶化ガラスと第二の結晶化ガラスとの流動性の差が小さく、意匠面に高さが1〜3mm程度の凸状部を形成し難くなる。
【0012】
本発明の建築用結晶化ガラス物品の意匠面としては、十分に流動した第一の結晶化ガラスよりなる第一小領域同士及び第一小領域同と第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域とが十分融着しており、軟化変形して僅かに流動した第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域による表面が火造り面である凸状部が複数形成されて意匠面に模様を成しているものである。また、建築用結晶化ガラス物品表面に凸状部が多い場合、林立する凸状部の合間や繋がった凸状部の合間に流動して鏡面になったガラスの表面が僅かにあるという状態になる。一方、物品表面の凸状部が少ない場合、平滑な鏡面のガラス表面から凸状部が間隔を隔てて突出している形態になる。
【0013】
本発明の建築用結晶化ガラス物品の意匠面に形成される凸状部の高さとしては、1〜3mmであることが好ましい。凸状部の高さが1mm未満であると、模様として認識され難くなる。一方、凸状部の高さが3mmを超えると、他の物との接触で欠落が生じやすくなる。
【0014】
本発明の建築用結晶化ガラス物品で、ガラス小領域の表面から内部に向かって析出している針状の結晶としては、建材として要求される強度を有する点及び大理石様の外観を呈する点でβ−ウォラストナイトが好適である。
【0015】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、第一の結晶化ガラスはガラス成分の質量比BaO/CaOが0.8を超えており、第二の結晶化ガラスはBaO/CaOが0.4未満であり、かつ線膨張係数の差が7×10−7/K以内であることを特徴とする。
【0016】
本発明で、BaO/CaOが0.8を超えるガラス相の成分が多く熱処理温度における流動性のよい第一の結晶化ガラスと、BaO/CaOが0.4未満の結晶相成分が多い難流動性の第二の結晶化ガラスとの0.4以上の差を有する二種以上の結晶化ガラスを組み合わせることが、意匠面に第二の結晶化ガラスの小領域よりなる高さが1〜3mmの凸状部を安定して形成する上で重要である。第一の結晶化ガラスが、ガラス成分の質量比BaO/CaOが0.8以下であると、熱処理温度における流動性が不十分となり平滑面を得難くなる。また、第二の結晶化ガラスが、BaO/CaOが0.4以上であると、熱処理温度における流動性が高くなりすぎて所望する高さの凸状部を安定して形成できなくなる。
【0017】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、第一の結晶化ガラスは、質量%でSiO 59〜63%、Al 5〜7%、CaO 9〜11%、ZnO 5〜7%、BaO 10〜12%、NaO 2〜3%、KO 1〜3%、B 0.3〜0.4%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の建築用結晶化ガラス物品に使用する第一の結晶化ガラスのガラス組成としては、特にCaO 9〜11%、BaO 10〜12%であることが、熱処理時の流動性を向上させる上で重要である。CaOは結晶相としてβ−ウォラストナイトを構成する成分で、BaOはガラス相の成分であり、結晶相とガラス相の比率により熱処理時の流動性が決まる。この場合、BaO/CaOの質量比は0.9〜1.3になる。
【0019】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、第二の結晶化ガラスは、質量%でSiO 59〜63%、Al 6〜7%、CaO 14〜18%、ZnO 5〜7%、BaO 4〜5%、NaO 3〜4%、KO 2〜3%、 B 0.3〜1.0%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有することを特徴とする。
【0020】
本発明の建築用結晶化ガラス物品に使用する第二の結晶化ガラスのガラス組成としては、特にCaO 14〜18%、BaO 4〜5%であることが、ガラス相に対し結晶相を多くすることで熱処理時の流動性を抑制し、凸状部を形成する上で重要である。この場合、BaO/CaOの質量比は0.22〜0.35になる。
【0021】
本発明において、各成分の含有量を限定した理由を以下に説明する。
【0022】
SiOは、表面から内部に向かって針状結晶として析出するβ−ウォラストナイトの成分であり、その含有量は45〜75%の範囲内である。SiOが75%より高いと結晶性ガラスの熔融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、45%より少ないと成型時の失透性が強くなる。本発明では、SiOの含有量は、59〜63%であることが好ましい。
【0023】
Alは、失透を抑制する成分であり、その含有量は1〜25%、好ましくは3〜15%である。Alが25%より多いと結晶性ガラスの熔解性が悪くなるとともに異種結晶(アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなり、1%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する。本発明でAlの含有量は、5〜7%であることが好ましい。
【0024】
CaOは、β−ウォラストナイトの成分であり、その含有量は5〜25%の範囲内、好ましくは8〜20%である。CaOが25%よりも多いと失透性が強くなり成形が困難となり、又β−ウォラストナイトの析出量が多くなり過ぎて所望の表面平滑性が得難くなる。一方、5%より少ないとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下し、建材として実用に耐えられなくなる。
【0025】
ZnOは、結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であり、本発明ではその含有量は、5〜7%であることが好ましい。
【0026】
BaOは、天然大理石様の結晶化ガラス物品を得る結晶化工程時の結晶性ガラスの流動性を促進するために添加する成分であり、含有量は2〜20%である。BaOは、結晶性ガラスの熔解性や流動性を促進させる成分であり2%未満であると、結晶性ガラスの粘性が増大して熱処理時の表面平滑性が得難くなる。一方、BaOも20%より多いとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなる。このBaOは、ZnOの減少分を補足する成分でもある。
【0027】
NaOは、結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は1〜15%、好ましくは1〜10%である。NaOが15%よりも多いと化学的耐久性が悪くなり、線膨張係数が高くなるために建材として好ましくない。1%より少ないと結晶性ガラスの粘性が増大して熔解性や流動性が悪くなる。本発明ではその含有量は、2〜4%であることが好ましい。
【0028】
Oは、結晶性ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量は0〜7%である。KOが7%より多いと化学的耐久性が低下する。本発明ではその含有量は、1〜3%であることが好ましい。
【0029】
は、結晶化ガラスの熱膨張係数を変化させずに結晶性ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜5%である。Bが5%より多いと結晶化ガラス物品に硼酸系の異種結晶が析出し、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。本発明ではその含有量は、0.3〜1.0%であることが好ましい。
【0030】
Sbは、清澄剤として機能する成分であるが、0.1%以下では清澄効果が低下するので、0.1〜0.5%が適量ではある。しかし、0.5%を超える使用は環境上好ましくない。本発明ではその含有量は、0.2〜0.5%であることが好ましい。
【0031】
凸状部を形成する第二小領域を構成する第二の結晶化ガラスと、十分に流動したガラス成分の多い第一小領域を構成する第一の結晶化ガラスとを識別する方法としては、建築用結晶化ガラス物品の平滑面から突起している凸状部を含む厚み方向にスライスし、凸状部を選択し、切り出して分離し、集めて第二の結晶化ガラスからなる試料とした後、粉砕する。又、十分に流動した平滑部位を選択的に切り出して分離し、集めて、砕いて殆どが第一の結晶化ガラスからなる試料とする。または、建築用結晶化ガラス物品を約30mmサイズに粗粉砕した後、結晶化の度合いの差により透光性など色合いに差異が生じているものを分別し切り出した後、収集して、第一及び第二の結晶化ガラスの試料とし、これらを既存のガラス成分の分析法を用いて、各部位のガラス組成を質量百分率の値として特定する。それらガラス成分のうちCaOとBaOの質量比BaO/CaOを算出する。
【0032】
また、線膨張係数の測定試料は、分別し収集した第一の結晶化ガラス及び第二の結晶化ガラスをそれぞれ1000℃以上の温度で再結晶化して形成した後、測定装置で定められた所定の寸法形状に加工して用いる。
【0033】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、表面の面積に対する凸状部の面積の割合が10〜80%であることを特徴とする。
【0034】
物品表面の面積に対する凸状部の面積の割合が10%未満であると、意匠面の模様として認識し難いものになる。一方、表面の面積に対する凸状部の面積の割合が80%を超えると、殆どの表面が凸状部で占められるので、意匠面として単調な表情になる。また、結晶化ガラスの流動が不十分で強度の点でも使用が困難である。本発明では表面の面積に対する凸状部の面積の割合が10〜80%であることが意匠面の明確な模様と強度とを両立させる上で好ましく、好適な模様と強度との調和を図る上で30〜70%であると、さらに好ましい。
【0035】
本発明では表面の面積に対する凸状部の面積の割合を計測する方法として、電子カメラにより撮影した画像を処理することにより、反射光の多い平滑面と乱反射する凸状部とを識別し、面積を割り出してもよいし、特定の倍率で表面を写真撮影して凸状部の輪郭を単位面積当たりの質量がほぼ一定の紙に写し取り、切り出して質量を測定することにより計測してもよい。
【0036】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、凸状部の平均高さが1mm以上で、かつ平均径が3mm以上であることを特徴とする。
【0037】
意匠面に形成されると凸状部の平均高さが1mm以上で、かつ平均径が3mm以上であると、かなり離れた位置からでも模様として認識が容易となる。平均粒径が10〜20mmの第二ガラス小体を使用すると、建築用結晶化ガラス物品の意匠面の模様として、平均高さが1mm以上で平均直径が3mm以上の大きい凸状部を形成することが容易となる。
【0038】

凸状部の平均高さは、ノギス等に付属する簡易深さゲージや専用の深さゲージ等により複数の凸状部を測定して、平均値を算出してもよいし、投影機などを使用して側面側から複数の凸状部に順次焦点を合わせながら平滑面からの高さをマイクロメータ付き移動テーブルや、撮像で測定してもよい、また破壊測定になるが、建築用結晶化ガラス物品の厚さ方向に凸状部の頂点を残してスライスし、ノギス、マイクロメータ付き移動テーブル等の既存の方法で測定してもよい。測定点数は多いほどよいが、少なくとも10点以上測定することが好ましい。
【0039】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品は、遷移金属酸化物の着色剤によって着色されてなることを特徴とする。
【0040】
本発明では、NiO、Co、Fe等の遷移金属酸化物の着色剤によって着色されて、ベージュ、グレーなどを発色する建築用結晶化ガラス物品となる。
【0041】
本発明に係る建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体の多数個と、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第一の結晶化ガラスよりも0.4以上小さく同様に結晶を析出する第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体の多数個とを混合する混合工程と、第一ガラス小体が流動して融着し、かつ第二ガラス小体が僅かに流動して物品の表面に凸状部が形成される温度範囲で熱処理する焼成工程とを有する。
【0042】
本発明で、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体の多数個と、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第一の結晶化ガラスよりも0.4以上小さく同様に結晶を析出する第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体の多数個とを使用するとは、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状のβ−ウォラストナイトが析出する結晶化ガラスよりなる二種類のガラス小体で、第一の結晶性ガラスと第二の結晶性ガラスのガラス組成が、質量比BaO/CaOに0.4以上の差があり、熱処理温度において流動性に差が現れて、第二ガラス小体が物品の表面に凸状部を形成することを意味している。
【0043】
本発明で混合工程としては、強度及び耐候性等の所要の性能を有する建築用結晶化ガラス物品が得られ範囲で、第一ガラス小体の多数個と第二ガラス小体の多数個とを混合するものである。第一ガラス小体が多すぎる場合には、第二ガラス小体による凸状部が少なく、また埋没しやすくなり識別可能な高さの凸状模様が形成され難くなる。一方、第二ガラス小体が多すぎる場合には、意匠面に第一ガラス小体による平滑面が形成されず、単調な粗面となり、また流動不足のため焼結が不十分となり、強度不足の虞も生じる。
【0044】
本発明で焼成工程としては、自由表面が鏡面になる程度に第一ガラス小体が十分に流動して融着し、結晶化する温度範囲であり、かつ第二ガラス小体の粘度が第一ガラス小体よりも高く、僅かに流動して結晶化し、表面が火造り面である高さが1〜3mmの凸状部が形成される温度範囲で熱処理するものである。
【0045】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、混合工程において、第一ガラス小体の多数個と、ガラス小体の集積体を1時間保持すると自由表面が平滑面になる平滑化温度が第一ガラス小体よりも50℃以上高く、かつ結晶化後の線膨張係数の差が7×10−7/K以内である第二ガラス小体の多数個とを混合することを特徴とする。
【0046】
本発明で建築用結晶化ガラス物品の製造に用いる結晶性のガラス小体としては、前記第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体と、第一ガラス小体よりも50℃以上高い平滑化温度を有し、同様の結晶性を有する前記第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体とを使用することが、意匠面に凸状部を形成する上で重要である。本発明で平滑化温度とは、耐火性容器内に、平均粒径が2〜4mmの結晶が析出する前のガラス小体を約10mmの高さに敷き詰めて集積した集積体を形成し、この集積体を加熱してゆき、1時間保持するとガラス小体が互いに融着し流動して表面から内部に向かって針状の結晶を析出しつつ耐火容器と接触していない自由表面にガラス小体に起因する凹凸がなくなりガラス光沢を有する平滑面になる温度をいう。建築用結晶化ガラス物品に使用される第一の結晶化ガラスと第二の結晶化ガラスの平滑化温度の差が50℃未満であると、焼成工程において第一の結晶性ガラスが流動、融着し、かつ第二ガラス小体も、ほぼ流動してしまい、高さ1〜3mmの凸模様を形成することが困難である。また、第一の結晶化ガラスと第二の結晶化ガラスの線膨張係数の差が7×10−7/Kを超えると、熱処理後の冷却中や、その後に、残留応力に起因して破壊が生じる虞がある。
【0047】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、混合工程において、第二ガラス小体の混合割合を15〜85質量%にすることを特徴とする。
【0048】
本発明で、第一ガラス小体に対して第二ガラス小体の割合を多くすることで、建築用結晶化ガラス物品表面に、多くの凸状部を林立させることができ、表面の面積に対する凸状部の面積の割合が多い意匠面になる。この場合、第二ガラス小体が軟化変形して僅かに流動した後に結晶化した表面が火造り面である高さ1〜3mmの凸状部の合間に第一ガラス小体が流動して鏡面になったガラス表面が僅かにあるという状態になる。一方、第一ガラス小体に対して第二ガラス小体の割合を少なくすると、表面の面積に対する凸状部の面積の割合が少ない意匠面になる。この場合、第一ガラス小体が流動して鏡面になった平滑なガラス表面に、第一ガラス小体間隔をおいて凸状部が突起している状態になる。第二ガラス小体の割合が、15質量%未満であると、模様として認識し難いものになる。一方、第二ガラス小体の割合が85質量%を超えると、意匠面に第一ガラス小体による平滑面が殆ど形成されず、表面が凸状部のみで占められた粗面となって単調な表情になり、意匠性の点、及び僅かしか流動していない第二ガラス小体に起因する強度の点で使用が困難である。本発明では第二ガラス小体の混合割合が15〜85質量%であることが、意匠面の明確な模様と、強度とを両立させる上で好ましい。さらに、好ましくは好適な模様と強度との調和を図る上で20〜80質量%である。
【0049】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、平均粒径が10〜20mmの第二ガラス小体を使用することが好ましい。
【0050】
平均粒径が10〜20mmの第二ガラス小体を使用することで、建築用結晶化ガラス物品の意匠面に、平均高さが1mm以上で平均直径が3mm以上の模様として認識され易い凸状部を形成することが容易となる。
【発明の効果】
【0051】
上記本発明の建築用結晶化ガラス物品は、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した結晶化ガラスよりなる複数のガラス小領域が互いに融着している建築用結晶化ガラス物品であって、前記ガラス小領域には、第一の結晶化ガラスよりなる第一小領域と第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域とがあり、第一の結晶化ガラスはガラス成分の質量比BaO/CaOが第二の結晶化ガラスよりも0.4以上大きく、物品の表面に第二小領域による複数の凸状部を有するので、表面が火造り面であり、かつ表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の凸状部による模様が形成された新たな意匠面と、所要の実用強度等の性能を兼ね備える建築用結晶化ガラス物品を提供することができる。
【0052】
本発明の建築用結晶化ガラス物品の製造方法は、軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体の多数個と、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第一の結晶化ガラスよりも0.4以上小さく同様に結晶を析出する第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体の多数個とを混合する混合工程と、第一ガラス小体が流動して融着し、かつ第二ガラス小体が僅かに流動して物品の表面に凸状部が形成される温度範囲で熱処理する焼成工程とを有するので、火造り面の複数の凸状部による模様が形成された新たな意匠面と、実用強度等の性能とを兼ね備える上記本発明の建築用結晶化ガラス物品を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の建築用結晶化ガラス物品及びその製造方法の実施形態について、図を参照して説明する。
【実施例1】
【0054】
耐火物製の平板(棚板:一辺1120mm×他辺1400mm×厚さt22mm)に離型材としてAlの粉末を水に分散させたスラリーを耐火物表面に塗布する。予めAlが塗布された耐火物の角材(一辺30mm×他辺30mm×長さ1200mmと一辺30mm×他辺30mm×長さ900mm)の各一対を矩形容器状の収容部が棚板の上に形成される配置にセットする。
【0055】
質量%でSiO 60%、Al 6.5%、B 0.3%、CaO 10%、ZnO 6.6%、BaO 11%、NaO 3%、KO 2.3%、Sb 0.3%の組成を含有し、質量比BaO/CaOが1.1である結晶性ガラスよりなり、平滑化温度が1080℃と低い第一ガラス小体Lと、質量%でSiO 59%、Al 6.5%、CaO 17%、ZnO 6.5%、BaO 4%、KO 2.5%、NaO 3.5% B 0.5%、Sb 0.5%の組成を含有し質量比BaO/CaOが0.24である結晶性ガラスよりなり、平滑化温度が1140℃と第一ガラス小体Lよりも60℃高い第二ガラス小体Hとを質量比でL:H=2:8で混合した。第一ガラス小体Lの結晶化した後の線膨張係数は66×10−7/Kで、第二ガラス小体Hが熱処理されて結晶化した後の線膨張係数は60×10−7/Kであり、線膨張係数の差は6×10−7/Kである。また、第一ガラス小体Lの粒径は2〜4mmで平均粒径は約3mmであり、第二ガラス小体Hの粒径も2〜4mmで平均粒径は約3mmである。
【0056】
セットされた耐火物の型枠内に混合された2種類のガラス小体H、Lを最終製品厚み15mm換算の重量を秤量し、型枠内に敷き詰め、充填する。次ぎに、焼成炉(ローラーキルンなど)に耐火物型枠ごと投入し、平滑化温度の低いガラス小体Lが十分流動する最高温度1080℃で約1時間キープした後、徐々に温度を下げて冷却する。
【0057】
図1(A)、(B)に示すように、出来上がりの建築用結晶化ガラス物品1は、意匠面1aに凸状部1cが面積比で約70%と多く、鏡面の平滑部1dが少ない表情となった。凸状部1cを10点測定した平均高さは2.1mmで、平均径は約4mmであった。凸状部1cは表面が火造り面であり、かつ表面から内部に向かって針状の結晶が析出しているので、独特の新たな意匠面を実現しており、かつ結晶が析出により所要の実用強度等の性能を兼ね備える建築用結晶化ガラス物品になっている。
【実施例2】
【0058】
次ぎに、NiOよりなる着色剤を0.1質量%加えて着色された平滑化温度の低い第一ガラス小体Lと、平滑化温度の高い第二ガラス小体Hを、L:H=8:2で混合し、実施例1と同様な処理を施して、図2(A)、(B)に示すベージュ色を呈する建築用結晶化ガラス物品2を作製した。
【0059】
結晶化ガラス物品2は、全体的に鏡面の平滑部2dが多い意匠面2aに凸状部2cが面積比で約13%と少ない表情となった。凸状部2cを10点測定した平均高さは1.6mmで、平均径は4mmあった。2種類のガラスの混合割合を変えることにより、凸状部2cの程度をコントロールすることができた。
【0060】
上記の線膨張係数は、ブルカー・エイエックスエス株式会社製ディラトメータにて30〜380℃の線膨張係数を測定した。また、各結晶性ガラスの平滑化温度は、アルミナを塗布した内寸が50mm×100mmの耐火物の型枠内に、約70gの平均粒径2〜4mmのガラス小体を入れて集積し、電気炉で1000℃以上の高温に加熱し、1時間保持すると自由表面の凸部がなくなり、ガラス光沢を有する平滑面になる温度を平滑化温度として測定した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、小体の流動性の差異に起因する凸状の模様による新規な建築用物品とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(A)は本発明の建築用結晶化ガラス物品の意匠面の写真、(B)は(A)の側面側から意匠面を見た写真。
【図2】(A)他の建築用結晶化ガラス物品の意匠面の写真、(B)は(A)の側面側から意匠面を見た写真。
【図3】従来の建築用結晶化ガラス物品の側面側から意匠面を見た写真。
【符号の説明】
【0063】
1、2 建築用結晶化ガラス物品
1a、2a 意匠面
1b、2b 側面
1c、2c 凸状部
1d、2d 平滑部
3 従来の建築用結晶化ガラス物品
3a 意匠面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から内部に向かって針状の結晶が析出した結晶化ガラスよりなる複数のガラス小領域が互いに融着している建築用結晶化ガラス物品であって、
前記ガラス小領域には、第一の結晶化ガラスよりなる第一小領域と第二の結晶化ガラスよりなる第二小領域とがあり、第一の結晶化ガラスはガラス成分の質量比BaO/CaOが第二の結晶化ガラスよりも0.4以上大きく、物品の表面に第二小領域による複数の凸状部を有する建築用結晶化ガラス物品。
【請求項2】
第一の結晶化ガラスはガラス成分の質量比BaO/CaOが0.8を超えており、第二の結晶化ガラスはBaO/CaOが0.4未満であり、かつ互いの線膨張係数の差が7×10−7/K以内であることを特徴とする請求項1に記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項3】
第一の結晶化ガラスは、質量%でSiO 59〜63%、Al 5〜7%、CaO 9〜11%、ZnO 5〜7%、BaO 10〜12%、NaO 2〜3%、KO 1〜3%、B 0.3〜0.4%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項4】
第二の結晶化ガラスは、質量%でSiO 59〜63%、Al 6〜7%、CaO 14〜18%、ZnO 5〜7%、BaO 4〜5%、NaO 3〜4%、KO 2〜3%、 B 0.3〜1.0%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項5】
表面の面積に対する凸状部の面積の割合が10〜80%であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項6】
凸状部の平均高さが1mm以上で、かつ平均径が3mm以上であることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項7】
遷移金属酸化物の着色剤によって着色されてなることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の建築用結晶化ガラス物品。
【請求項8】
軟化点より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から内部に向かって針状の結晶が析出する第一の結晶性ガラスよりなる第一ガラス小体の多数個と、ガラス成分の質量比BaO/CaOが第一の結晶化ガラスよりも0.4以上小さく同様に結晶を析出する第二の結晶性ガラスよりなる第二ガラス小体の多数個とを混合する混合工程と、第一ガラス小体が流動して融着し、かつ第二ガラス小体が僅かに流動して物品の表面に凸状部が形成される温度範囲で熱処理する焼成工程とを有する建築用結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項9】
混合工程において、第一ガラス小体の多数個と、ガラス小体の集積体を1時間保持すると自由表面が平滑面になる平滑化温度が第一ガラス小体よりも50℃以上高く、かつ結晶化後の線膨張係数の差が7×10−7/K以内である第二ガラス小体の多数個とを混合することを特徴とする請求項8に記載の建築用結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項10】
混合工程において、第二ガラス小体の混合割合を15〜85質量%にすることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の建築用結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−95428(P2010−95428A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269748(P2008−269748)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】