説明

建設機械のブレーキ装置

【課題】バンドブレーキやディスクブレーキを用いずに、油圧モータの回転を制動するブレーキ装置を提供する。
【解決手段】油圧ポンプ11からの圧油により回転する油圧モータ12と、油圧ポンプ11から油圧モータ12への圧油の流れを制御する方向制御弁13と、方向制御弁13を操作する操作レバー14と、油圧モータ12のブレーキ指令を出力するブレーキペダル22と、ブレーキペダル22の操作量に応じて油圧モータ12の戻り側の流路面積を減少させる弁装置24,25を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧モータの回転を制動する建設機械のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーン等の建設機械において、ブレーキ操作に応じて油圧モータの回転を制動するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、ブレーキ操作によりブレーキバンドを駆動してブレーキドラムに摩擦力を付与し、油圧モータの回転を制動するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−310394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、ブレーキドラムに摩擦力を付与して油圧モータの回転を制動するため、バンドの磨耗や摩擦熱の発生が問題となる。バンドブレーキの代わりにディスクブレーキを用いた場合にも、同様の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による建設機械のブレーキ装置は、油圧ポンプからの圧油により回転する油圧モータと、油圧ポンプから油圧モータへの圧油の流れを制御する方向制御弁と、方向制御弁を操作する制御弁操作手段と、油圧モータのブレーキ指令を出力するブレーキ操作手段と、ブレーキ操作手段の操作量に応じて油圧モータの戻り側の圧油の流れを制限する流れ制限手段とを備えることを特徴とする。
流れ制限手段として、ブレーキ操作手段の操作量に応じて油圧モータの戻り側の流路面積を減少させる弁装置を設けることもできる。
この場合、ブレーキ操作手段の操作量に応じた第1のパイロット圧が作用する第1のパイロット部と、第1のパイロット圧に対抗し、油圧モータの戻り側の圧油の圧力に応じた第2のパイロット圧が作用する第2のパイロット部とを有し、第1のパイロット圧と第2のパイロット圧とに応じて流路面積を減少させるように弁装置を構成することが好ましい。
弁装置を油圧モータの供給側および戻り側にそれぞれ設け、これら各弁装置にそれぞれ並列に、油圧モータの供給側の流れを許容し、戻り側の流れを阻止する逆止弁を設けることもできる。
弁装置を油圧モータのハウジングに着脱可能に設けるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ブレーキ操作量に応じて油圧モータの戻り側の圧油の流れを制限するようにしたので、ブレーキ装置としてバンドブレーキやディスクブレーキを用いる必要がなく、バンドの磨耗や摩擦熱の問題を解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図4を参照して本発明による建設機械のブレーキ装置の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るブレーキ装置が適用される建設機械の一例であるクレーンの外観側面図である。クレーンは、走行体1と、旋回輪2を介して走行体上に旋回可能に設けられた旋回体3と、旋回体3に回動可能に軸支されたブーム4とを有する。旋回体3には巻上ドラム5と起伏ドラム6が搭載されている。巻上ドラム5には巻上ロープ5aが巻回され、巻上ドラム5の駆動により巻上ロープ5aが巻き取りまたは繰り出され、フック7が昇降する。起伏ドラム6には起伏ロープ6aが巻回され、起伏ドラム6の駆動により起伏ロープ6aが巻き取りまたは繰り出され、ブーム4が起伏する。
【0008】
旋回輪2は旋回用油圧モータにより駆動され、巻上ドラム5は巻上用油圧モータにより駆動され、起伏ドラム6は起伏用油圧モータにより駆動される。これら油圧モータの回転はブレーキ装置によって制動可能である。以下では、とくに旋回用油圧モータのブレーキ装置について説明する。
【0009】
図2は、旋回用油圧モータの駆動用油圧回路図である。この油圧回路は、エンジン10により駆動される可変容量型油圧ポンプ11と、油圧ポンプ11からの圧油により回転する旋回用油圧モータ12と、油圧ポンプ11から油圧モータ12への圧油の流れを制御する方向制御弁13と、方向制御弁13を操作する操作レバー14と、操作レバー14の操作に応じたパイロット圧を発生するパイロット弁15と、油圧モータ12の回転を制動するブレーキ装置20とを有する。
【0010】
油圧モータ12の出力軸12sは遊星減速機構16を介してピニオン17に連結されている。旋回輪2は、略リング状に形成された内輪2aと、転動体2cを介して内輪2aの外周側に相対回転可能に設けられた外輪2bとを有する。内輪2aは走行体1から支持され、外輪2bは旋回体3から支持されている。内輪2aの内周面にはリングギヤ18が形成され、ピニオン17はリングギヤ18に噛合している。これによりピニオン17が回転すると、外輪2bに対し内輪2aが相対回転し、旋回体3が旋回する。
【0011】
ブレーキ装置20は、油圧ポンプ21と、ブレーキペダル22の操作量に応じたパイロット圧Piを発生するパイロット弁23と、方向制御弁13と油圧モータ12の間のメイン回路L1,L2にそれぞれ介装された一対のブレーキ制御弁24,25と、ブレーキ制御弁24,25に対してそれぞれ並列に設けられたチェック弁26,27とを有する。
【0012】
パイロット弁23は、ブレーキペダル22の操作量の増加に伴いパイロット圧Piを減少させ、ブレーキペダル22の非操作時にパイロット圧Piは最大となる。ブレーキ制御弁24,25は、パイロットポート24a,25aに作用するパイロット弁23からのパイロット圧Piと、パイロットポート24b,25bに作用する油圧モータ12の戻り側圧力およびばね24c,25cの付勢力とに応じて駆動する。これにより油圧モータ12の戻り側の流路L1,L2が絞られ、油圧モータ12の戻り側の圧油の流量と圧力Pa,Pbが制御される。
【0013】
図3は、ブレーキ制御弁24,25に作用するパイロット圧Piと油圧モータ12の戻り側圧力PA,PBとの関係を示す図である。戻り側圧力Pa,Pbは、パイロット圧Piの増加に伴い比例的に増加している。このように戻り側圧力Pa,Pbが増加することで、油圧モータ12に作用する油圧ブレーキ力が増大し、油圧モータ12の回転が制限される。なお、図3の戻り側圧力Pa,Pbの特性は、ばね24C,25Cの設定変更等により適宜調整可能である。
【0014】
ブレーキ制御弁24,25とチェック弁26,27はブレーキハウジング30内に一体に組み込まれている。図4(a),(b)は、ブレーキハウジング30の取付構造を示す平面図および正面図である。油圧モータ12のハウジング120の側端面には油圧モータ12へ圧油を供給、排出するためのAポート12a,Bポート12bが設けられ、これらA,Bポート12a,12bに面してブレーキハウジング30がモータハウジング120にボルト等により着脱可能に取り付けられている。
【0015】
図示は省略するが、ハウジングブロック30の端面には、方向制御弁13に接続された一対の配管と、パイロット弁23に接続された配管がそれぞれ接続されている。なお、油圧モータ12の下方には減速機16が設けられ、減速機16は不図示の旋回体フレームの上面に固定されている。減速機16の底面から突出した出力軸にピニオン17が支持され、ピニオン17にリングギヤ18が噛合している。
【0016】
本実施の形態に係るブレーキ装置の主要な動作を説明する。例えば操作レバー14をA方向に操作すると、パイロット弁15からのパイロット圧により方向制御弁13はA位置に切り換わり、油圧ポンプ11からの圧油が管路L1を介して油圧モータ12に供給される。これにより油圧モータ12が回転し、油圧モータ12の回転は減速機16、ピニオン17をリングギヤ18に伝達され、旋回体3が旋回する。このとき、ブレーキペダル22が非操作であれば、ブレーキ制御弁24,25は開放弁となり、油圧モータ12からの戻り油の流れはブレーキ制御弁25によっては制限されない。
【0017】
この状態で、ブレーキペダル22を踏み込み操作すると、その操作量に応じたパイロット圧Piがそれぞれブレーキ制御弁24,25のパイロットポート24a,24bに作用する。このパイロット圧Piによりブレーキ制御弁24,25が絞り側に駆動され、ブレーキ制御弁24,25の流路面積が減少する。これにより油圧モータ12にはチェック弁26を介して油圧ポンプ11から圧油が供給されるが、油圧モータ12の戻り油はブレーキ制御弁25で制限される。このため、油圧モータ12の戻り側圧力Paが上昇し、油圧モータ12に油圧ブレーキ力が作用する。
【0018】
油圧モータ12の戻り側圧力Paはブレーキ制御弁25のパイロットポート25bに作用し、パイロットポート25aのパイロット圧Piに対抗する。このため、戻り側圧力Paが上昇すると、ブレーキ制御弁25が開き側に駆動され、油圧ブレーキ力の増加が抑えられる。ブレーキ力を増加させる場合には、オペレータがブレーキペダル22の踏み込み量を増やす。これによりブレーキ制御弁25の流路面積が小さくなり、戻り側圧力Paが上昇して、ブレーキ力が増加する。
【0019】
この際、ブレーキペダル22には戻り側圧力Paに応じた反力が作用するため、オペレータはブレーキペダル22の操作を通じてブレーキ力の大きさを体感でき、ブレーキ力の調整が容易である。ブレーキペダル22の操作により油圧モータ12の回転を停止した後、その回転停止状態を長時間継続する場合には、図示しないネガブレーキ装置を作動する。
【0020】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)油圧モータ12と方向制御弁13を接続する管路L1,L2にブレーキ制御弁24,25を設け、ブレーキ操作に応じてブレーキ制御弁24,25の流路面積を絞るようにしたので、油圧モータ12に油圧ブレーキ力を付与できる。このため、ディスクブレーキのように回転体にブレーキディスクを接触させて摩擦力を付与するという必要がないので、ブレーキディスクの磨耗や摩擦熱が問題とならず、油圧モータ12に良好にブレーキ力を付与できる。
【0021】
(2)ブレーキ制御弁24,25に対して並列にチェック弁26,27を設けるので、油圧モータ12の供給側の圧油の流れは制限されず、キャビテーションの発生を防止できる。
(3)ブレーキ制御弁24,25とチェック弁26,27によりブレーキ装置20を構成するので、電気的な制御が不要であり、構成を簡素化できる。
(4)ブレーキペダル22の操作によるパイロット圧Piに対抗して、ブレーキ制御弁24,25のパイロットポート24b,25bに油圧モータ12の戻り側圧力Pa,Pbが作用するので、油圧モータ12に過大な油圧力が作用することを防止でき、油圧モータ12を保護できる。
【0022】
(5)ブレーキ制御弁24,25とチェック弁26,27が組み込まれたブレーキハウジング30を、モータハウジング120に着脱可能に取り付けるようにしたので、ブレーキ装置20の後付けが容易である。すなわちブレーキ装置20を有しない仕様では、モータハウジング120のA,Bポート12a,12bに、方向制御弁13に接続された一対の配管が接続されている。この状態から、A,Bポート12a,12bに面してブレーキハウジング30をモータハウジング120に取り付けるだけでよいので、ブレーキ装置20を後付けが容易である。
【0023】
なお、上記実施の形態では、ブレーキ制御弁24,25により油圧モータ12の戻り側の流路面積を減少させるようにしたが、ブレーキペダル22の操作量に応じて油圧モータ12の戻り側の圧油の流れを制限するのであれば、流れ制限手段はこれに限らない。ブレーキ制御弁24,25に、ブレーキペダル22の操作によるパイロット圧Pi(第1のパイロット圧)が作用するパイロットポート24a,25a(第1のパイロット部)と、油圧モータ12の戻り側圧力Pa,Pb(第2のパイロット圧)が作用するパイロットポート24b、25b(第2のパイロット部)とを設けた。そして、これらパイロット圧Pi,Pa,Pbに応じて流路面積が減少し、戻り側の流量と圧力が同時に制御される圧力流量制御弁としてブレーキ制御弁24,25を構成したが、ブレーキ制御弁24,25を単なる可変絞り弁として構成してもよい。すなわち戻り側の流路面積を減少させる弁装置の構成はいかなるものでもよい。
【0024】
弁装置を電磁比例弁として構成してもよい。この場合、油圧モータ12の供給側と戻り側の流路面積を同時に絞るのではなく、油圧モータ12の回転方向を検出し、戻り側の流路面積のみ絞るようにしてもよい。これにより、油圧モータ12の供給側の流れを許容し、戻り側の流れを阻止する逆止弁としてのチェック弁26,27を省略できる。ブレーキ制御弁24,25とチェック弁26,27が組み込まれたブレーキハウジング30をモータハウジング120に着脱可能に設けたが、ブレーキハウジング30の取付構造は図4に示したものに限らない。
【0025】
操作レバー14の操作により方向制御弁13を操作するようにしたが、制御弁操作手段の構成はこれに限らない。ブレーキペダル22の操作により油圧モータ12のブレーキ指令を出力するようにしたが、ブレーキ操作手段の構成はこれに限らない。例えばレバー操作によりブレーキ指令を出力するものであっってもよい。上記実施の形態では、旋回用油圧モータ12にブレーキ装置20を適用したが、ウインチ用油圧モータにも同様に適用可能である。この場合、巻下げ側の戻り管路にのみブレーキ制御弁を設けるようにしてもよい。
【0026】
上記実施の形態は、クレーン(図1)に適用したが、油圧モータを有する他の建設機械にも適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の建設機械のブレーキ装置に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ装置が適用されるクレーンの外観側面図。
【図2】本実施の形態に係る旋回用油圧モータの駆動用油圧回路図。
【図3】ブレーキ操作によるパイロット圧と油圧モータの戻り側圧力との関係を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係るブレーキ装置を構成するブレーキハウジングの取付構造を示す図。
【符号の説明】
【0028】
12 旋回用油圧モータ
13 方向制御弁
14 操作レバー
21 油圧ポンプ
22 ブレーキペダル
23 パイロット弁
24,25 ブレーキ制御弁
24a,25a パイロットポート
24b,25b パイロットポート
26,27 チェック弁
30 ブレーキハウジング
120 モータハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプからの圧油により回転する油圧モータと、
前記油圧ポンプから前記油圧モータへの圧油の流れを制御する方向制御弁と、
前記方向制御弁を操作する制御弁操作手段と、
前記油圧モータのブレーキ指令を出力するブレーキ操作手段と、
前記ブレーキ操作手段の操作量に応じて前記油圧モータの戻り側の圧油の流れを制限する流れ制限手段とを備えることを特徴とする建設機械のブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械のブレーキ装置において、
前記流れ制限手段は、前記ブレーキ操作手段の操作量に応じて前記油圧モータの戻り側の流路面積を減少させる弁装置を有することを特徴とする建設機械のブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械のブレーキ装置において、
前記弁装置は、
前記ブレーキ操作手段の操作量に応じた第1のパイロット圧が作用する第1のパイロット部と、
前記第1のパイロット圧に対抗し、前記油圧モータの戻り側の圧油の圧力に応じた第2のパイロット圧が作用する第2のパイロット部とを有し、
前記第1のパイロット圧と前記第2のパイロット圧とに応じて流路面積を減少させることを特徴とする建設機械のブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の建設機械のブレーキ装置において、
前記弁装置は、前記油圧モータの供給側および戻り側にそれぞれ設けられ、
これら各弁装置にそれぞれ並列に設けられ、前記油圧モータの供給側の流れを許容し、戻り側の流れを阻止する逆止弁をさらに有することを特徴とする建設機械のブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の建設機械のブレーキ装置において、
前記弁装置は、前記油圧モータのハウジングに着脱可能に設けられることを特徴とする建設機械のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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