説明

建設機械の防火壁構造

【課題】防火壁の板構成を簡略化し、ポンプ側空間への組み付けを容易にして組立性を改善するとともにコストダウンを実現する。
【解決手段】エンジンルーム27内に収容されたエンジン28の左側に油圧ポンプ35を設けるとともに、左側パネル30とエンジン28との間のポンプ側空間Sに防火壁を設ける建設機械において、防火板38を、先端部が左側パネル30の高さ方向中間部内面に近接してポンプ側空間Sを上下に二分する状態で設け、この防火板38と左側パネル30とによって防火壁37を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はショベル等の建設機械において、油圧ポンプから飛散した油がエンジンのマフラーやエキゾーストチューブ等の高音部に降りかかることを防止する防火壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、図4に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が旋回自在に搭載され、この上部旋回体2に作業アタッチメント3が装着されて構成される。
【0004】
上部旋回体2は、基台としてのアッパーフレーム4を備え、このアッパーフレーム4の前部左右片側(通常は左側。以下、この場合で説明する)にキャビン5、後端部にカウンタウェイト6がそれぞれ設置されるとともに、キャビン5よりも後方でカウンタウェイト6の前方にエンジンルーム7が形成され、このエンジンルーム7に動力源としてのエンジン8が設置される。
【0005】
図5はこのエンジンルーム7内の機器配置を背面側から見た模式的断面図である。
【0006】
なお、この明細書においては、キャビン5の位置を左側前部とし、これを基準に機械全体及び各部についての「前後」「左右」の方向性をいうものとする。
【0007】
また、図及び説明の簡略化のために本発明と直接関係のない上部旋回体各部の構成、機器配置等に関する図示、説明を省略する。
【0008】
エンジンルーム7は、背面が図5中のカウンタウェイト6で、上面が上ガード9で、左右両側面が左右の側パネル10,11で、底面が底板12でそれぞれ覆われて形成され、エンジン8がこのエンジンルーム7内に左右方向に設置される。
【0009】
このエンジン8の左右片側(右側の場合で説明する)にファン13と、このファン13の回転により外部から吸い込まれる空気との間で熱交換作用を行う熱交換器14が設けられる一方、反対側(左側)に油圧ポンプ15が設けられる。
【0010】
また、エンジン8の左側上部であって油圧ポンプ15の上方に、エンジン排気系のマフラー16及び図示しないエキゾーストチューブ(以下、高温部という)が設けられる。
【0011】
さらに、左側パネル10とエンジン8との間に形成されたポンプ側空間Sに、油圧ポンプ15(ポンプ本体及び高圧配管継手部等のポンプ配管部分の双方をいう。以下、同じ))から油がミスト状に漏洩・飛散した場合に、その油が高温部に降りかかることを防止するための防火壁17が設けられる(特許文献1参照)。
【0012】
従来、この防火壁17は、図5に示すように板材を断面大略L字形に曲げ加工した構造となっている。
【0013】
具体的には、油圧ポンプ15と高温部との間を左上がりの緩やかな傾斜姿勢で横切る下部壁17aと、この下部壁17aの傾斜先端から垂直に立ち上がる上部壁17bから成り、油圧ポンプ15から高温部に向かってストレートに飛散する油が下部壁17aで、油圧ポンプ15から左側上方に回り込んで高温部に向かう油が上部壁17bでそれぞれ遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−169849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の防火壁構造においては、独立した板材のみによって油を遮断するという技術思想に基づき、上記のようにL字形の曲げ板をポンプ側空間Sに設置して防火壁17を構成するため、その組み付け作業が困難となっていた。
【0016】
とくに、ミニショベルのようにポンプ側空間Sの幅寸法(ポンプ側パネルとエンジンとの間の距離)Wが小さい小型の建設機械ではこの点が顕著となり、組立性が悪くなっていた。
【0017】
また、防火壁17の全体面積が大きくなることからコストが高くなっていた。
【0018】
そこで本発明は、板構成を簡略化し、ポンプ側空間への組み付けを容易にして組立性を改善できるとともにコストダウンを実現することができる建設機械の防火壁構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、上面を覆う上ガード及び側面を覆う側パネルを含む複数のガード部材によってエンジンルームを形成し、このエンジンルーム内にエンジンを収容するとともに、エンジンの左右片側に油圧ポンプを設け、かつ、上記側パネルのうち、上記油圧ポンプ側に位置するポンプ側パネルと上記エンジンとの間に形成されたポンプ側空間に、上記油圧ポンプを上記エンジンの高温部に対して遮蔽する防火壁を設ける建設機械の防火壁構造において、防火板を、先端部が上記ポンプ側パネルの高さ方向中間部内面に近接して上記ポンプ側空間を上下に二分する状態で設け、この防火板と上記ポンプ側パネルとによって上記防火壁を構成したものである。
【0020】
この構成によれば、防火板と、エンジンルームを形成するポンプ側パネルとによって防火壁を構成するため、いいかえればポンプ側パネルを防火壁の一部として利用する構成であるため、防火板をほぼ平板として構成することができる。
【0021】
このため、L字板を組み付ける従来構造と比較して、ポンプ側空間への防火壁の組み付けが容易となり、とくにミニショベルのような小型の建設機械において組立性を大幅に改善することができる。
【0022】
また、防火板の面積を縮小できることにより、大幅なコストダウンが可能となる。
【0023】
本発明において、上記エンジンルーム内の左右両側に、上記上ガードを取付けるための上ガード脚を立設し、上記防火板の先端部を、上記左右両側の上ガード脚のうち上記油圧ポンプ側に位置するポンプ側上ガード脚に取付けるのが望ましい(請求項2,3)。
【0024】
この構成によれば、エンジンルームを形成する上ガードを取付けるための上ガード脚に防火板の先端部を取付けることによって請求項1の構成を具現化するため、いいかえれば上ガード脚を防火板取付部材として兼用するため、狭いポンプ側空間に防火板専用の取付部材を追加する必要がなく、組立性を一層向上させることができる。
【0025】
この場合、上記ポンプ側上ガード脚を前後両側に間隔を置いて立設し、上記防火板の先端部を、上記前後両側の上ガード脚に跨って取付けるのが望ましい(請求項3)。
【0026】
このように、防火板の先端部を、前後両側の上ガード脚間に跨って取付けることにより、防火板と上ガード脚を互いに補強部材として機能させ、両者の強度をともに高めることができるとともに、エンジン振動や走行振動による防火板及び上ガード脚の振動や動揺を抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、防火壁の板構成を簡略化し、ポンプ側空間への組み付けを容易にして組立性を改善できるとともにコストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る防火壁構造を機械の背面側見た模式的断面図である。
【図2】防火壁構造を拡大して具体的に示す断面図である。
【図3】防火壁構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の適用対象であるショベルの概略側面図である。
【図5】従来の防火壁構造を示す図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態を図1〜図3によって説明する。
【0030】
実施形態は、背景技術の説明に合わせてショベルを適用対象としている。
【0031】
実施形態において、次の点は図4及び図5に示す従来技術と同じである。
【0032】
(i) クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が旋回自在に搭載され、上部旋回体に作業アタッチメントが装着されてショベルが構成される点。
【0033】
(ii) 上部旋回体の基台としてのアッパーフレームの前部左右片側(通常は左側。以下、この場合で説明する)にキャビン、後端部にカウンタウェイトがそれぞれ設置されるとともに、キャビンよりも後方でカウンタウェイトの前方にエンジンルーム27が形成され、このエンジンルーム27に動力源としてのエンジン28が設置される点。
【0034】
(iii) エンジンルーム27は、背面がカウンタウェイトで、上面が上ガード29で、左右両側面が左右の側パネル30,31で、底面が底板32でそれぞれ覆われて形成され、エンジン28がこのエンジンルーム27内に左右方向に設置される点。
【0035】
(iv) このエンジン28の左右片側(右側の場合で説明する)にファン33と、このファン33の回転により外部から吸い込まれる空気との間で熱交換作用を行う熱交換器34が設けられる一方、反対側(左側)に油圧ポンプ35が設けられる点。
【0036】
(v) エンジン28の左側上部であって油圧ポンプ35の上方に、エンジン排気系のマフラー36及び図示しないエキゾーストチューブ(高温部)が設けられる点。
【0037】
(vi) 左側パネル30とエンジン28との間に形成されたポンプ側空間Sに、油圧ポンプ35(ポンプ本体及び高圧配管継手部等のポンプ配管部分の双方))から油がミスト状に漏洩・飛散した場合に、その油が高温部に降りかかることを防止するための防火壁37が設けられる点。
【0038】
実施形態において、この防火壁37は、防火板38とポンプ側(左側)パネル30とによって構成される。この防火壁構造を詳述する。
【0039】
図2,3に示すように、左側パネル30の下側にデッキフレーム39が設けられ、上ガード29を取付けるための前後一対の上ガード脚40,40がこのデッキフレーム39上に立設されている。
【0040】
なお、図2,3には本発明と直接関連するエンジンルーム左側のみを示している。
【0041】
上ガード脚40,40は前後に間隔を置いて、かつ、左側パネル30の内面に近接して配置され、上ガード29の左右両端部がこの両上ガード脚40,40の上端部に取付けられる。
【0042】
防火板38は、四角形のほぼ平板状に形成され、油圧ポンプ上方において、
(I) 全体が左上がりに緩やかに傾斜する姿勢で、
(II) 一端部(ポンプ側の端部。以下、これを基端部、反対側を先端部という))が、垂直に折り曲げられて油圧ポンプ35の基端部(エンジン側端部)の上部外周に近接し、
(III) 先端部が、上ガード脚40を介して左側パネル30の高さ方向中部内面に近接する
状態で設けられている。
【0043】
この防火板38の取付手段として、防火板38の先端部に前後方向ほぼ全幅に亘って主取付部41が上向きに折り曲げ形成され、この主取付部41が両上ガード脚40,40にボルト止めされている。
【0044】
また、補助取付手段として、防火板38の前端部に左右方向のほぼ全長に亘って前側取付部材42、防火板38の後端部基端側に後側取付部材43がそれぞれ下向き垂直に取付けられ、前側取付部材42が前側上ガード脚40に、後側取付部材43が図示しない固定部分(たとえば底板32上に立設されたブラケット)にそれぞれボルト止めされている。
【0045】
図2中、44は上ガード脚40,40と左側パネル30との間の隙間に設けられた吸音材である。
【0046】
こうして、防火板38が、ポンプ側空間Sを上下に二分する状態で、油圧ポンプ35と左側パネル30の中間部内面との間に架け渡され、この防火板38と左側パネル30とによって防火壁37が構成されている。
【0047】
いいかえれば、左側パネル30を利用して防火壁37が構成されている。
【0048】
この防火壁構造によると、上記のように防火板38をほぼ平板として構成することができるため、従来のL字板を組み付ける構造と比較して、ポンプ側空間Sへの防火板38の組み付けが容易となり、とくにミニショベルのようなポンプ側空間Sが狭い小型の建設機械において防火壁37の組立性を大幅に改善することができる。
【0049】
また、防火板38の面積を縮小できることにより、大幅なコストダウンが可能となる。
【0050】
さらに、エンジンルーム27を形成する上ガード29を取付けるための上ガード脚40,40に防火板38の先端部を取付けることによって上記構成を具現化するため、いいかえれば上ガード脚40,40を防火板取付部材として兼用するため、狭いポンプ側空間Sに防火板専用の取付部材を追加する必要がなく、組立性を一層向上させることができる。
【0051】
この場合、防火板38の先端部を、前後両側の上ガード脚40,40に跨って取付けるため、防火板38と上ガード脚40,40を互いに補強部材として機能させ、両者の強度をともに高めることができるとともに、エンジン振動や走行振動による防火板38及び上ガード脚40,40の振動や動揺を抑えることができる。
【0052】
他の実施形態
(1) 上ガード脚40を設けない機械の場合は、防火板38の先端部を左側パネル30の内面に近接して取付ける手段として、専用の防火板取付部材を左側パネル30の内面近くに設けてもよい。
【0053】
あるいは、左側パネル30が開閉しない固定パネル構造をとる場合には、防火板先端部を同パネル内面に直接取付けてもよい。
【0054】
(2) 本発明は、防火壁37がエンジンルーム27内の右側に設置される場合、及びショベル以外の建設機械にも基本的に上記実施形態と同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
27 エンジンルーム
28 エンジン
29 上ガード
30 左側パネル
35 油圧ポンプ
S ポンプ側空間
36 マフラー(エンジンの高温部)
37 防火壁
38 防火板
40,40 上ガード脚
41 防火板の主取付部
42 防火板の前側取付部材
43 防火板の後側取付部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面を覆う上ガード及び側面を覆う側パネルを含む複数のガード部材によってエンジンルームを形成し、このエンジンルーム内にエンジンを収容するとともに、エンジンの左右片側に油圧ポンプを設け、かつ、上記側パネルのうち、上記油圧ポンプ側に位置するポンプ側パネルと上記エンジンとの間に形成されたポンプ側空間に、上記油圧ポンプを上記エンジンの高温部に対して遮蔽する防火壁を設ける建設機械の防火壁構造において、防火板を、先端部が上記ポンプ側パネルの高さ方向中間部内面に近接して上記ポンプ側空間を上下に二分する状態で設け、この防火板と上記ポンプ側パネルとによって上記防火壁を構成したことを特徴とする建設機械の防火壁構造。
【請求項2】
上記エンジンルーム内の左右両側に、上記上ガードを取付けるための上ガード脚を上記ポンプ側パネルに近接して立設し、上記防火板の先端部を、上記左右両側の上ガード脚のうち上記油圧ポンプ側に位置するポンプ側上ガード脚に取付けたことを特徴とする請求項1記載の建設機械の防火壁構造。
【請求項3】
上記ポンプ側上ガード脚を前後両側に間隔を置いて立設し、上記防火板の先端部を、上記前後両側の上ガード脚に跨って取付けたことを特徴とする請求項2記載の建設機械の防火壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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