説明

弁付きカテーテル

【課題】カテーテル内部から外部に向けて液体を流すとき、外部から内部に向けて液体を流すときの双方において液体の流れをスムーズにすることができる弁付きカテーテルを提供すること。
【解決手段】本発明の弁付きカテーテル11は、弾性及び可撓性を有する合成樹脂材料製の管状体12からなる。弁付きカテーテル11は、その内面12aから外面12bを貫通して開閉可能なスリット16を有する弁B1を備える。管状体12の先端部領域14に管状体12の内側方向に凹んだ形状の可動壁15が設けられる。可動壁15がある箇所は、管状体12の厚さ方向に硬度差がある構造を備える。管状体12の中心軸C1に直交する断面にて、可動壁15は、中心軸C1に近い位置にある可動壁中央部P1と、中心軸C1から遠い位置にある可動壁端部P2とを有する。弁B1を構成するスリット16は可動壁端部P2に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリットを有する弁を備える合成樹脂材料製の管状体からなる弁付きカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の体にカテーテルを留置して患者の静脈に抗がん剤や栄養剤等の薬液を一時的または長期にわたって供給することが行われている。このようなカテーテルを用いて安定した薬液注入を行うためには、感染症や合併症が生じないことや、カテーテルが離断したり移動したりしないことが重要である。それに加え、カテーテルが閉塞しないことも重要である。しかしながら、先端が開口したカテーテルを用いる場合には、血液がカテーテル内に浸入して凝固し、カテーテルが閉塞されることがある。この血液凝固によるカテーテルの閉塞を防止するため、ヘパリン加生理食塩液をカテーテルの内腔に充填するという対策が一般的に行われている。ただし、このような対策の場合、カテーテルを患者の体に留置する際の操作が煩雑になり、医療従事者や患者にとって負担になるという問題がある。
【0003】
そこで、先端開口をなくし、通常は閉塞していてカテーテルの内部と外部との間で薬液を注入したり血液を採取したりするときにだけ開口する弁を備えた弁付きカテーテルが従来提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この弁付きカテーテル(二方向弁付きカテーテル)は、弾性可撓性材料からなり、先端が閉塞されるとともに、先端側に直線状のスリットが形成されている。そのため、この弁付きカテーテルの内外に所定の差圧が生じたときに、スリットが開いて薬液を静脈内に注入したり、静脈内の血液をカテーテル内に流出させて血液の採取をしたりすることができる。また、弁付きカテーテルの内外に所定の差圧が生じないときには、スリットは閉塞状態を維持する。その結果、カテーテル内での血液の凝固が防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60―58167号公報
【特許文献2】特開2009−273609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1における従来の弁付きカテーテルでは、カテーテル内部から外部に薬液を流す場合、スリットが比較的容易に開く。しかしながら、カテーテル外部から内部に向けて血液を流す場合には、スリットを形成する対向面どうしが圧接するようになり、スリットが開きにくくなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2における従来の弁付きカテーテルでは、管状体の所定部位を内側に突出させて、そこにスリットを設けている。この構成によると、カテーテル外部から内部に向けて血液を流す場合にスリットが比較的開きやすくなる。しかしながら、カテーテル内部に向けて弁を開くときの開放圧が低くなる一方で、カテーテル外部に向けて弁を開くときの開放圧が十分に低くならないため、開きやすさについて、まだ改良の余地がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、カテーテル内部から外部に向けて液体を流すとき、外部から内部に向けて液体を流すときの双方において液体の流れをスムーズにすることができる弁付きカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段1〜4を以下に列挙する。
【0009】
[1]弾性及び可撓性を有する合成樹脂材料製の管状体からなり、前記管状体の内面から外面を貫通して開閉可能なスリットを有する弁を備え、前記スリットを介して前記管状体の内側から外側への液体の通過及び外側から内側への液体の通過を許容する弁付きカテーテルであって、前記管状体の先端部領域に前記管状体の内側方向に凹んだ可動壁が設けられ、少なくとも前記可動壁がある箇所は、前記管状体の厚さ方向に硬度差がある構造を備え、前記管状体の中心軸に直交する断面において、前記可動壁は、前記中心軸に近い位置にある壁中央部と前記中心軸から遠い位置にある壁端部とを有するとともに、前記弁を構成する前記スリットが前記壁端部に形成されていることを特徴とする弁付きカテーテル。
【0010】
従って、手段1に記載の発明によると下記の作用効果を奏する。例えば、カテーテル内外の圧力差が小さければ、スリットは開かず閉塞状態が維持される。よって、この場合にはスリットを介した液体の通過はどちらの方向にも起こらない。ここで本発明では、管状体の内側方向に凹んだ可動壁を設け、そこにスリットを設けているので、カテーテル外圧が内圧より大きい場合には、可動壁に比較的容易に変形が生じて、スリットが管状体の内側に開きやすくなる。つまり、低い開放圧でもスリットが内側に開きやすくなり、そのスリットを介して管状体の外側から内側へ液体をスムーズに通過させることができる。また、本発明では、スリットを可動壁中央部ではなく可動壁端部に形成しているので、カテーテル内圧が外圧より大きい場合には、可動壁に比較的容易に変形が生じて、スリットが管状体の外側に開きやすくなる。つまり、低い開放圧でもスリットが外側に開きやすくなり、そのスリットを介して管状体の内側から外側へ液体をスムーズに通過させることができる。しかも、本発明では可動壁がある箇所について厚さ方向に硬度差がある構造を備えているので、例えば管状体の外側を内側より低硬度にしておくことにより、外側開放時におけるスリットの開放圧を低減することができる。逆に、管状体の内側を外側より低硬度にしておくことにより、内側開放時におけるスリットの開放圧をさらに低減することができる。
【0011】
なお、本発明においてスリットは、平面視で弁付きカテーテルの中心軸方向に沿って延びるように形成することが好ましいが、中心軸方向に対して斜め方向あるいは直交する方向に沿って形成することもできる。もっともスリットは、平面視で直線状でなくてもよく曲線的なものであってもよい。また、本発明において弁付きカテーテルを構成する管状体の断面形状(正確には可動壁がない箇所の断面形状)は特に限定されないが、例えば円形や楕円形とすることができる。管状体の断面形状は、円形や楕円形に近い種々の形状とすることもできる。
【0012】
また、本発明において液体とは、例えば、抗がん剤等の薬液や栄養剤、リンパ液、胃液、尿等といった体液、患者の静脈に注入する液体や静脈から採取する血液をいう。なお、本発明の弁付きカテーテルが挿入される対象となる管(体腔)としては、血管のほか、胃、食道、小腸、大腸などといった消化管、尿管、気管などがある。
【0013】
ここで本発明では、管状体において少なくとも可動壁がある箇所は、管状体の厚さ方向に硬度差がある構造を備えている必要があり、その具体例として、硬度の異なる合成樹脂材料からなる層を複数積層してなる多層構造を例示することができる。
【0014】
[2]前記管状体は、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする手段1に記載の弁付きカテーテル。
【0015】
従って、手段2に記載の発明によると、可動壁がある箇所については、外側が硬く内側が軟らかい構造となっていることから、内側開放時におけるスリットの開放圧をさらに低減することができる。ゆえに、カテーテル外圧が内圧より大きい場合に、スリットを介して管状体の外側から内側へ液体をスムーズに通過させることができる。
【0016】
[3]前記管状体は、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする手段1に記載の弁付きカテーテル。
【0017】
従って、手段3に記載の発明によると、可動壁がある箇所については、内側が硬く外側が軟らかい構造になっていることから、外側開放時におけるスリットの開放圧を低減することができる。ゆえに、カテーテル内圧が外圧より大きい場合に、スリットを介して管状体の内側から外側へ液体をスムーズに通過させることができる。
【0018】
ここで、外層及び内層を構成する合成樹脂材料の好適例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン、ポリエーテルブロックアミド共重合体等といった可撓性及び弾性を有する樹脂を挙げることができる。
【0019】
外層と内層とで硬度差を持たせる方法としては、例えば、種類が異なり硬度も異なる2種類の合成樹脂材料を用いてそれぞれ外層及び内層を形成する方法がある。このほか、同種であるが硬度が異なる合成樹脂材料を用いてそれぞれ外層及び内層を形成する方法でもよい。具体的には、特定の合成樹脂材料のうち可塑剤が多く含まれているものと、可塑剤が少なく含まれているものとを組み合わせて使用する方法などを挙げることができる。ここで、合成樹脂材料の硬さとは、デュロメータで測定したときに得られる硬度(即ちショア硬度)のことをいう。例えば、相対的に硬質の合成樹脂材料としては、ショア硬度がD50以上D85以下であることがよい。相対的に軟質の合成樹脂材料としては、ショア硬度がA70以上A100以下であることがよい。ちなみに、ショア硬度A90はショア硬度D40にほぼ相当する硬さである。
【0020】
[4]前記外層及び前記内層は、硬さが異なる同種の合成樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする手段2または3に記載の弁付きカテーテル。
【0021】
従って、手段4に記載の発明によると、同種の合成樹脂材料同士であるため互いに馴染みやすく、接着剤層を介在させなくても強固に密着させることができる。このため、スリットの開閉を伴う可動壁の箇所について、信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
従って、請求項1〜4に記載の発明によれば、カテーテル内部から外部に向けて液体を流すとき、外部から内部に向けて液体を流すときの双方において液体の流れをスムーズにすることができる弁付きカテーテルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態の弁付きカテーテルを示す部分破断平面図。
【図2】図1のA−A線における概略断面図。
【図3】第1実施形態の弁付きカテーテルにおいて、(a)は管状体の内側から外側へ液体の通過する際のスリットの様子を示す要部拡大断面図、(b)は管状体の外側から内側へ液体の通過する際のスリットの様子を示す要部拡大断面図。
【図4】本発明を具体化した第2実施形態の弁付きカテーテルの先端部領域を示す概略断面図。
【図5】本発明を具体化した第3実施形態の弁付きカテーテルの先端部領域を示す概略断面図。
【図6】本発明を具体化した第4実施形態の弁付きカテーテルの先端部領域を示す概略断面図。
【図7】本発明を具体化した第5実施形態の弁付きカテーテルの先端部領域を示す概略断面図。
【図8】本発明を具体化した第6実施形態の弁付きカテーテルの先端部領域を示す概略断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1の実施形態]
【0025】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態の弁付きカテーテル11を図1〜図3に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1、図2に示されるように、本実施形態の弁付きカテーテル11は、患者の静脈内に留置され、抗がん剤等の薬液や栄養剤等を供給するための中心静脈用カテーテルである。この弁付きカテーテル11は、弾性及び可撓性を有する合成樹脂材料製の細長い管状体12で構成されている。管状体12の基端部は、輸液ライン等を接続する必要があるため開放されている。一方、管状体12の先端部は、本実施形態ではドーム状の壁部13を形成することで完全に閉塞されている。この壁部13は、軟質のポリウレタン樹脂やシリコーン樹脂からなっており、接着や溶着によって弁付きカテーテル11を構成する管状体12に取り付けられている。管状体12の基端部はアダプタを備えていてもよい。
【0027】
管状体12の先端部領域14の周面には、管状体12の内側方向に凹んだ形状の可動壁15が設けられている。本実施形態における可動壁15は、平面視でカテーテル長手方向(中心軸C1方向)に沿って延びた長円形状を呈している。また、管状体12の中心軸C1に直交する断面において、可動壁15は厚さが等しくて円弧状に湾曲した形状を呈している。この可動壁15は可動壁中央部P1と可動壁端部P2とを有している。可動壁中央部P1は中心軸C1に相対的に近い位置にあり、可動壁端部P2は中心軸C1から相対的に遠い位置にある。
【0028】
図1、図2に示されるように、可動壁15には平面視でカテーテル長手方向に沿って延びる直線状のスリット16が形成されている。このスリット16は、より詳細には可動壁15における一方の壁端部P2の内面12aから外面12bを貫通するように形成されている。当該スリット16は、管状体12の内外圧の差が無いあるいは小さい通常時には閉塞しており、外内圧の差が所定値を超える場合に変形して開放するようになっている。そして、このような可動壁15とそこに形成されたスリット16とによって、弁B1が構成されている。この弁B1は、スリット16を介して管状体12の内側から外側への液体の通過及び外側から内側への液体の通過を許容する、いわゆる二方向弁として機能する。
【0029】
図2に示されるように、本実施形態の管状体12は全体にわたって(ここでは即ち全長及び全周にわたって)外層15b及び内層15aからなる2層構造をなしている。つまり、外層15bの内側面全体を覆うように内層15aが形成されている。2層構造をなすこの管状体12は、押出成形法によって外層15b及び内層15aを同時に押し出して一体成形することにより製造したものである。よって、外層15b及び内層15aは、接着剤層が介在していないにもかかわらず、互いに密着している。従って、本実施形態の管状体12において少なくとも可動壁15がある箇所は、管状体12の厚さ方向に硬度差がある構造を備えている。また、スリット16はそのような硬度差構造部を厚さ方向に貫通して形成されている。この管状体12を構成する外層15b及び内層15aは、同種であるが硬さの異なるポリウレタン樹脂を用いてそれぞれ形成されている。より具体的にいうと、外層15bの材料としては、ショア硬度がA85程度であって、体温軟化性が比較的高いグレードのポリウレタン樹脂を用いている。内層15aの材料としては、ショア硬度がD65程度であって、耐アルコール性が比較的高いグレードのポリウレタン樹脂を用いている。つまり、この管状体12は、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる外層15bと、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる内層15aとを備えている。また、この管状体12では内層15aの厚さが外層15bの厚さよりもいくぶん薄くなっており、外層15bの厚さの20%〜40%程度となっている。
【0030】
本実施形態の弁付きカテーテル11を製造する方法について述べる。可動壁15の形成は種々の方法によって行うことができる。例えば、先端部が閉塞された管状体12を成形した後、その先端側領域14にヒートガンなどを使用して適度に熱したガスを当てることにより、そこを凹状に形成してもよい。また、先端部が閉塞された管状体12の先端側領域14に、適度に熱した金属棒を押し付けるという手法でもよい。あるいは、先端部が閉塞された管状体12に収縮チューブを被せ、その一部を収縮させるという手法でもよい。そして、スリット16は、形成された可動壁15の中央部から偏心した箇所を長手方向に沿って切断することにより形成することができる。
【0031】
以下、本実施形態の弁付きカテーテル11の使用方法について説明する。まず、穿刺部周辺を消毒し、ドレープを使用し術野を無菌状態にする。次に、長手方向に分割可能な血管内留置用カニューラ(以下、カニューラ)で血管を穿刺する。血液の逆流を確認し、カニューラのみ血管内へ進め留置し、内針を抜去する。次に、留置したカニューラに本実施形態の弁付きカテーテル11を通し、血管内へ挿入する。次に、弁付きカテーテル11が目的の位置に留置されたことを確認し、カニューラを血管より引き抜く。次に、弁付きカテーテル11がずれないように注意し、カニューラを穿刺部位から引き抜く。次に、ハブの把手を左右に広げるようにしてカニューラを分割し、弁付きカテーテル11から取り除く。その際、弁付きカテーテル11が体内でループを描いたりしていないか、またカテーテル先端が目的の位置にあるかをX線撮影により確認する。次に、スタイレットアダプタを回転させ、弁付きカテーテル11よりスタイレットをゆっくり抜去する。次に、弁付きカテーテル11の留置後、カテーテル内腔の空気を除去し、カテーテル内腔を生理食塩液またはヘパリン加生理食塩液でフラッシュする。次に、弁付きカテーテル11を縫合糸またはテープ等で皮膚固定し、さらにカテーテル全長にわたり外力が加わらないようドレッシング等で適切に保護する。そして最後に、弁付きカテーテル11の基端側を輸液ラインに接続し、薬液等の注入を開始する。その際、接続部の緩みを防ぐため、アダプタのテーパ部分に薬液等を付着させないよう注意する。また、あらかじめ接続部に緩みがないことを確認してから使用するとともに、使用中は定期的に緩みや外れがないことを確認する必要がある。
【0032】
そして、血管内に留置された弁付きカテーテル11を介して、患者の静脈内に薬液を供給する場合には、まず、薬液が充填された輸液ラインをカテーテル基端部に接続する。次いで、薬液を注入する。このとき、シリンジから薬液に伝わる圧力(即ちカテーテル内圧)が上大静脈内の血液の圧力(即ちカテーテル外圧)よりも大きくなる。ゆえに、図3(a)に示されるように可動壁15が弁付きカテーテル11の外側に比較的容易に変形し、スリット16を開かせる。その結果、開いたスリット16を介して、薬液が管状体12の内側から外側へスムーズに通過し、上大静脈内に入っていく。
【0033】
また、血液の採取や逆血確認をする際には、内部を排気した状態のシリンジをカテーテル基端部に接続する。次いで、そのシリンジのプランジャを引く。このとき、シリンジの吸引力によって、シリンジから薬液に伝わる圧力(即ちカテーテル内圧)が上大静脈内の血液の圧力(即ちカテーテル外圧)よりも小さくなる。ゆえに、図3(b)に示されるように可動壁15が弁付きカテーテル11の内側に比較的容易に変形し、スリット16を開かせる。その結果、開いたスリット16を介して、静脈内の血液が管状体12の外側から内側へスムーズに通過し、管状体12を経てシリンジ内に入っていく。
【0034】
なお、シリンジで薬液を注入したり血液を吸引したりしないときには、可動壁15の弾性がもたらす復元力により、スリット16は閉塞した状態を維持する。よって、この場合にはスリット16を介した血液及び液体の通過はどちらの方向にも起こらない。
【0035】
以上述べたように本実施形態によれば下記の作用効果を奏する。
【0036】
(1)本実施形態の弁付きカテーテル11では、管状体12の内側方向に凹んだ可動壁15を設け、そこにスリット16を設けている。ゆえに、カテーテル外圧が内圧より大きい場合には、可動壁15に比較的容易に変形が生じて、スリット16が管状体12の内側に開きやすくなる。つまり、低い開放圧でもスリット16が内側に開きやすくなり、そのスリット16を介して管状体12の外側から内側へ血液をスムーズに通過させることができる。また、この弁付きカテーテル11では、スリット16を可動壁中央部P1ではなく可動壁端部P2に形成している。ゆえに、カテーテル内圧が外圧より大きい場合には、可動壁15に比較的容易に変形が生じて、スリット16が管状体12の外側に開きやすくなる。つまり、低い開放圧でもスリット16が外側に開きやすくなり、そのスリット16を介して管状体12の内側から外側へ薬液をスムーズに通過させることができる。しかも、この弁付きカテーテル11では、管状体12の外層15bが内層15aよりも低硬度であるため、外側開放時におけるスリット16の開放圧を低減することができる。
【0037】
(2)例えば、外層15bと内層15aとが異種の合成樹脂材料同士である場合、接着剤層を介して両者を接着する必要があるが、構造が複雑化するばかりでなく、強固な密着状態を得ることが難しいことがある。また、特にスリット16の開閉を伴う可動壁15の箇所については、変形が頻繁に起こることから、外層15bと内層15aとの界面に剥離が生じる可能性がある。その点、本実施形態の弁付きカテーテル11では、管状体12が、相対的に軟質のポリウレタン樹脂からなる外層15bと、相対的に硬質のポリウレタン樹脂からなる内層15aとを備えた2層構造をなしている。従って、外層15bと内層15aとが同種の合成樹脂材料同士であるため、相溶性があって互いに馴染みやすいといえる。よって、特に接着剤層を介在させなくても、押出成形時に両者を強固に密着させることができる。このため、スリット16の開閉を伴う可動壁15の箇所について剥離が生じにくく、信頼性を向上させることができる。
【0038】
[第2の実施形態]
第1実施形態では、管状体12の中心軸C1に直交する断面において、可動壁15は円弧状をなしていたが、これに限定されない。例えば、図4に示す第2の実施形態の弁付きカテーテル21のように、可動壁15Aが直線状をなしてもよい。このような構造であっても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、可動壁は、円弧状や直線状以外の断面形状、例えばV字状に屈曲した断面形状をなしていてもよい。
【0039】
[第3の実施形態]
第1実施形態の弁付きカテーテル11では、管状体12は、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる外層15bと、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる内層15aとを備えた2層構造をなしていたが、これに限定されない。例えば、図5に示す第3の実施形態の弁付きカテーテル31は、管状体12が明確な層構造を有しているわけではなく、1種類の合成樹脂材料(ここではポリウレタン樹脂)からなっている。その代わりに、内面12a側が薬品処理等の手法によって硬化されている。ちなみに、図5において粗いハッチングはもともとの樹脂部分を示し、密なハッチングは硬化処理された樹脂部分(硬化処理部32)を示している。従って、第3の実施形態の弁付きカテーテル31における可動壁15Bも、管状体12の厚さ方向に硬度差がある構造を備えている。そしてこのような構造であっても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、本実施形態とは逆に、外面12b側を薬品処理等の手法によって硬化するようにしてもよい。さらには、外面12b側または内面12a側を薬品処理等の手法によって軟化するようにしてもよい。
【0040】
[第4の実施形態]
第1実施形態の弁付きカテーテル11では、可動壁15における外層15b及び内層15aの厚さがほぼ一定であり、2層の厚さの比もほぼ一定であったが、必ずしもそうでなくてもよい。例えば、図6に示す第4の実施形態の弁付きカテーテル41では、可動壁15Cにおける外層15b及び内層15aの厚さが場所により異なっている。具体的にいうと、外層15bについては可動壁端部P2の厚さが最も薄いのに対し、内層15aについては可動壁端部P2の厚さが最も厚くなっている。従って、可動壁中央部P1では外層15bの厚さが内層15aの厚さよりもいくぶん厚い反面、可動壁端部P2では外層15bの厚さと内層15aの厚さは同等である。そしてこのような構造であっても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0041】
[第5の実施形態]
第1実施形態の弁付きカテーテル11では、管状体12は、外層15b及び内層15aからなる2層構造を全体にわたって有していたが、必ずしもそうでなくてもよい。例えば、図7に示す第5の実施形態の弁付きカテーテル51では、外層15bの内側面全体を覆うように内層15aが形成されているのではなく、可動壁15Dがある側の内側面のみを覆うように内層15aが形成されている。なお、図7に示されるように、管状体12における厚さは、単層構造の部分及び2層構造の部分を問わずほぼ一定となっている。そしてこのような構造であっても、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0042】
[第6の実施形態]
第1実施形態の弁付きカテーテル11では、管状体12が、相対的に軟質の樹脂からなる外層15bと、相対的に硬質の樹脂からなる内層15aとを備えた2層構造をなしていた。これに対し、図8に示す第6実施形態の弁付きカテーテル61の管状体12では、外層15bが相対的に硬質の樹脂からなり、内層15aが相対的に軟質の樹脂からなる2層構造をなしている。従って、この構成によると、可動壁15Eがある箇所については、外側が硬く内側が軟らかい構造になっていることから、内側開放時におけるスリット16の開放圧をさらに低減することができる。ゆえに、カテーテル外圧が内圧より大きい場合に、スリット16を介して管状体12の外側から内側へ血液をスムーズに通過させることができる。
【0043】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0044】
・上記各実施形態の弁付きカテーテル11〜61では、管状体12に1つの可動壁15〜15Eを設けるとともに、当該可動壁15〜15Eにおける1箇所にスリット16を形成したが、スリット16を複数箇所に形成してもよい。あるいは、スリット16を形成した可動壁15〜15Eを管状体12の複数箇所に設けるようにしてもよい。
【0045】
・上記各実施形態では、弁付きカテーテル11〜61の基端部を体外に出すとともにその基端部に輸液ラインを接続して使用したが、その代わりにシリンジを接続して使用することもできる。また、当該基端部を体内埋込用ポートに接続し、その体内埋込用ポートを皮下に埋め込んで使用してもよい。さらに、上記各実施形態では、弁付きカテーテル11〜61を静脈に留置しているが、所定の手段を用いて動脈に留置することも可能である。
【0046】
・上記各実施形態の弁付きカテーテル11〜61の内腔には特に何も部材を収容していなかったが、例えばガイドワイヤ等のような線状部材を挿通した構造としてもよい。またこの場合、弁付きカテーテル11〜61を構成する管状体12の先端部に通常時は閉塞しているスリットを設け、必要に応じてそのスリットを押し開いてガイドワイヤの先端を突出させるようにしてもよい。
【0047】
・上記第1実施形態等の弁付きカテーテル11において、外層15b及び内層15aは基本的に合成樹脂材料のみによって構成されていたが、合成樹脂材料以外の材料を添加するようにしてもよい。例えば、使用時にX線透視下で弁付きカテーテル11の位置や状態が視認できるように、当該合成樹脂材料中に、金、銀、白金、タングステン、これらの合金による金属粉末、硫酸バリウム、酸化ビスマスのようなX線不透過性物質を混練しておいてもよい。またこの場合、外層15bと内層15aとで添加物の種類、分量、大きさ等を適宜変更することにより、両者に硬度差を持たせるように調整してもよい。
【0048】
・上記各実施形態では、管状体12における可動壁15〜15Eの箇所について管状体12の厚さ方向に硬度差がある構造を備えるものとしたが、これに代えて管状体12の厚さ方向に弾性率差がある構造を備えるものとしてもよい。例えば、管状体12における外層15bを相対的に高弾性率の合成樹脂材料からなるものとし、内層15aを相対的に低弾性率の合成樹脂材料からなるものとすることができる。逆に、管状体12における外層15bを相対的に低弾性率の合成樹脂材料からなるものとし、内層15aを相対的に高弾性率の合成樹脂材料からなるものとすることもできる。このような構造を備えたものであっても、上述した硬度差構造部を備えたものと同様の作用効果を期待することができる。この場合、例えば外層15b及び内層15aは、弾性率が異なる同種の合成樹脂材料を用いて形成してもよい。
【0049】
・上記各実施形態の弁付きカテーテル11〜61は、内腔を1つのみ有するシングルルーメンタイプであったが、例えば、内腔を2つ有するダブルルーメンタイプや、内腔を3つ有するトリプルルーメンタイプ等であってもよい。
【0050】
なお、本発明の実施形態から把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0051】
(1)弾性及び可撓性を有しかつ先端が閉塞された合成樹脂製の管状体からなり、前記管状体の内面から外面を貫通して開閉可能なスリットを有する弁を備え、前記スリットを介して前記管状体の内側から外側への液体の通過及び外側から内側への液体の通過を許容する弁付きカテーテルであって、前記管状体の先端部領域に前記管状体の内側に凹んだ可動壁が設けられ、少なくとも前記可動壁がある箇所は、前記管状体の厚さ方向に弾性率差がある構造を備え、前記管状体の中心軸に直交する断面において、前記可動壁は、前記中心軸に近い位置にある可動壁中央部と前記中心軸から遠い位置にある可動壁端部とを有するとともに、前記弁を構成する前記スリットが前記可動壁端部に形成されていることを特徴とする弁付きカテーテル。
(2)前記管状体は、相対的に高弾性率の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に低弾性率の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする上記思想1に記載の弁付きカテーテル。
(3)前記管状体は、相対的に低弾性率の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に高弾性率の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする上記思想1に記載の弁付きカテーテル。
(4)前記外層及び前記内層は、弾性率が異なる同種の合成樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする上記思想2または3に記載の弁付きカテーテル。
(5)上記手段1乃至4、上記思想1乃至4のいずれか1項において、前記管状体は、先端が通常時に閉塞状態となるように構成されていること。
(6)上記手段1乃至4、上記思想1乃至4のいずれか1項において、前記管状体は先端に開閉可能なスリットを有するとともに、そのスリットは通常時に閉塞状態となるように構成されていること。
(7)上記手段1乃至4、上記思想1乃至4のいずれか1項において、前記可動壁は、円弧状の断面形状を有すること。
(8)上記手段1乃至4、上記思想1乃至4のいずれか1項において、前記管状体は、全体にわたって2層構造を備えていること。
(9)上記手段2乃至4、上記思想2乃至4のいずれか1項において、前記内層が前記外層よりも薄いこと。
(10)上記手段2乃至4、上記思想2乃至4のいずれか1項において、前記管状体は、押出成形品であること。
(11)上記手段2乃至4、上記思想2乃至4のいずれか1項において、前記外層及び前記内層の界面には接着剤層が存在しないこと。
(12)上記手段2乃至4、上記思想2乃至4のいずれか1項において、前記外層及び前記内層を形成している合成樹脂材料が、ともにポリウレタン樹脂であること。
(13)上記手段2乃至4、上記思想2乃至4のいずれか1項において、前記外層には前記内層に比較して高い体温軟化性が付与され、前記内層には前記外層に比較して高い耐薬品性が付与されていること。
【符号の説明】
【0052】
11,21,31,41,51,61…弁付きカテーテル
12…管状体
12a…(管状体の)内面
12b…(管状体の)外面
14…先端部領域
15,15A,15B,15C,15D,15E…可動壁
15b…外層
15a…内層
16…スリット
B1…弁
C1…中心軸
P1…可動壁中央部
P2…可動壁端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性及び可撓性を有する合成樹脂材料製の管状体からなり、前記管状体の内面から外面を貫通して開閉可能なスリットを有する弁を備え、前記スリットを介して前記管状体の内側から外側への液体の通過及び外側から内側への液体の通過を許容する弁付きカテーテルであって、
前記管状体の先端部領域に前記管状体の内側方向に凹んだ形状の可動壁が設けられ、
少なくとも前記可動壁がある箇所は、前記管状体の厚さ方向に硬度差がある構造を備え、
前記管状体の中心軸に直交する断面において、前記可動壁は、前記中心軸に近い位置にある可動壁中央部と前記中心軸から遠い位置にある可動壁端部とを有するとともに、前記弁を構成する前記スリットが前記可動壁端部に形成されている
ことを特徴とする弁付きカテーテル。
【請求項2】
前記管状体は、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする請求項1に記載の弁付きカテーテル。
【請求項3】
前記管状体は、相対的に軟質の合成樹脂材料からなる外層と、相対的に硬質の合成樹脂材料からなる内層とを備えた2層構造をなしていることを特徴とする請求項1に記載の弁付きカテーテル。
【請求項4】
前記外層及び前記内層は、硬さが異なる同種の合成樹脂材料を用いて形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の弁付きカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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