説明

弁室ケーシング

【課題】材料を変更することなく、内部に形成された流路を通過する流体の温度を上昇させることができる弁室ケーシングを提供すること。
【解決手段】内部に形成された流路を高温流体が流れる弁室ケーシング10であって、内部に、弁体4と、この弁体4を弁座5に対して進退させる弁棒6とが収容された内側弁室ケーシング11と、その内周面12aと、前記内側弁室ケーシング11の外周面11aとの間に、隙間を有する空間Sが形成され、かつ、前記内側弁室ケーシング11の半径方向外側を取り囲むようにして配置された外側弁室ケーシング12と、前記内側弁室ケーシング11と前記外側弁室ケーシング12とを連結する連結部材とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に形成された流路を高温流体(例えば、ボイラ等から蒸気タービンに供給される主蒸気)が流れる弁室ケーシングに関するものであり、例えば、火力発電タービン、原子力発電タービン等のタービン入口に設置されて、ボイラ等からタービンへの蒸気の流れを許容したり、遮断したりする蒸気弁の弁室ケーシングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電タービン、原子力発電タービン等のタービン入口に設置されて、ボイラ等からタービンへの蒸気の流れを許容したり、遮断したりする蒸気弁の弁室ケーシングとしては、タービンの車室ケーシングと同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、タービンの車室ケーシングと一体的に鋳造されたものが知られている(例えば、特許文献1の図1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−329801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、タービンの効率をさらに向上させるため、蒸気弁の内部に形成された流路を通過する蒸気の温度を約30℃上昇させることが検討されている。
しかしながら、このように蒸気弁の内部に形成された流路を通過する蒸気の温度を約30℃上昇させようとした場合、弁室ケーシングのクリープ強度を確保する観点から、弁室ケーシングの材料を、従来のもの(例えば、2.25Cr鋳鋼)からより高価なもの(例えば、V(バナジウム)入り鋳鋼または12Cr鋳鋼)に変更する必要がある。その結果、車室ケーシングもより高価なもの(例えば、V(バナジウム)入り鋳鋼または12Cr鋳鋼)で作られることになり、製造コストが高騰してしまうといった問題点があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、材料を変更することなく、内部に形成された流路を通過する流体の温度を上昇させることができる弁室ケーシングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係る弁室ケーシングは、内部に形成された流路を高温流体が流れる弁室ケーシングであって、内部に、弁体と、この弁体を弁座に対して進退させる弁棒とが収容された内側弁室ケーシングと、その内周面と、前記内側弁室ケーシングの外周面との間に、隙間を有する空間が形成され、かつ、前記内側弁室ケーシングの半径方向外側を取り囲むようにして配置された外側弁室ケーシングと、前記内側弁室ケーシングと前記外側弁室ケーシングとを連結する連結部材とを備えている。
【0007】
本発明に係る弁室ケーシングによれば、外側弁室ケーシングの内周面と、内側弁室ケーシングの外周面とにより形成された空間内に存する空気は、内部に形成された流路を流れる高温流体により温められた(加熱された)内側弁室ケーシングからの放熱により温められ(加熱され)、空間内を上昇していくことになる。空間内を上昇していった空気は、空間の上端に形成された出口から大気中に放出され、出口から大気中に放出された空気の量だけ、空間の下端に形成された入口から空間内に、温度の低い新たな空気が流入して、内部に形成された流路を流れる高温流体により温められた(加熱された)内側弁室ケーシングからの放熱により温められる(加熱される)ことになる。すなわち、空間内に空気の上昇気流が発生し、内側弁室ケーシングの熱が空間内を上昇する空気に奪い去られて(吸熱されて)、内側弁室ケーシングが冷却されることになる。
これにより、内部に形成された流路を通過する高温流体の温度を、例えば、約30℃上昇させたとしても、空間内を自然に循環する空気の冷却効果により、内側弁室ケーシング自体の温度上昇を低減させることができ、内側弁室ケーシングを従来と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で製作することができ、製造コストの高騰を回避することができる。
【0008】
上記弁室ケーシングにおいて、前記外側弁室ケーシングの半径方向外側に、その内周面全体が前記外側弁室ケーシングの外周面全体と接するとともに、前記外側弁室ケーシングの外周面全体を覆い隠す保温材が設けられているとさらに好適である。
【0009】
このような弁室ケーシングによれば、空間内に存する空気が、内側弁室ケーシングからの放熱により効率よく温められる(加熱される)ことになり、空間内を上昇する空気の上昇速度を増加させることができ、空気による冷却効果をより高めるようにすることができる。
【0010】
上記弁室ケーシングにおいて、前記内側弁室ケーシングの外周面に、タービュレータとして機能する複数の突起が設けられているとさらに好適である。
【0011】
このような弁室ケーシングによれば、空間内に存する空気が、内側弁室ケーシングからの放熱によりさらに効率よく温められる(加熱される)ことになり、空間内を上昇する空気の上昇速度をさらに増加させることができ、空気による冷却効果をより一層高めるようにすることができる。
【0012】
本発明に係るタービンは、前記内側弁室ケーシングと車室ケーシングとが、一体的に鋳造されている。
【0013】
本発明に係るタービンによれば、内側弁室ケーシングと車室ケーシングとを安価な材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で一体的に鋳造することができ、製造コストの高騰を回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、材料を変更することなく、内部に形成された流路を通過する流体の温度を上昇させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る弁室ケーシングを具備したタービンの要部を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る弁室ケーシングの要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る弁室ケーシングについて、図1から図3を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係る弁室ケーシングを具備したタービンの要部を示す断面図、図2は本実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図、図3は図2のIII−III矢視断面図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る弁室ケーシング10は、例えば、火力発電タービン、原子力発電タービン等のタービン1の入口に設置されて、図示しないボイラ等からタービン1への蒸気(高温流体)の流れを許容したり、遮断したりする蒸気弁2の弁室ケーシングであり、内側弁室ケーシング11と、外側弁室ケーシング12とを備えている。
本実施形態において、内側弁室ケーシング11は、タービン1の車室ケーシング3と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、タービン1の車室ケーシング3と一体的に鋳造されている。また、内側弁室ケーシング11の内部には、弁体4と、この弁体4を弁座5に対して進退させる弁棒6とが収容されている。
なお、図1中の符号7は仕切板、符号8はノズル、符号9は動翼を示している。
【0018】
図1から図3に示すように、外側弁室ケーシング12は、内側弁室ケーシング11の外周面11aに沿って、内側弁室ケーシング11の半径方向外側を取り囲むようにして配置された板状の部材である。また、内側弁室ケーシング11の外周面11aと、外側弁室ケーシング12の内周面12aとの間には、弁室ケーシング10の軸方向(図1において上下方向)および周方向に沿って一定(例えば、10mm〜50mm)の隙間を有する空間Sが形成されている。
【0019】
図2および図3に示すように、内側弁室ケーシング11の外周面11aと、外側弁室ケーシング12の内周面12aとは、複数本(本実施形態では8本)の連結部材13を介して連結されている。連結部材13は、弁室ケーシング10の軸方向に沿って連続し、弁室ケーシング10の周方向に沿って間隔をあけて、内側弁室ケーシング11の外周面11aから半径方向外側に向かって放射状に延びる(突出する)板状の部材であり、本実施形態では、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と一体的に鋳造されている。また、外側弁室ケーシング12の半径方向外側には、その内周面14a全体が外側弁室ケーシング12の外周面12b全体と接するとともに、外側弁室ケーシング12の外周面12b全体を覆い隠す保温材(または断熱材)14が設けられている。
【0020】
本実施形態に係る弁室ケーシング10によれば、外側弁室ケーシング12の内周面12aと、内側弁室ケーシング11の外周面11aとにより形成された空間S内に存する空気は、内部に形成された流路を流れる蒸気により温められた(加熱された)内側弁室ケーシング11からの放熱により温められ(加熱され)、空間S内を上昇していくことになる。空間S内を上昇していった空気は、空間Sの上端に形成された出口から大気中に放出され、出口から大気中に放出された空気の量だけ、空間Sの下端に形成された入口から空間S内に、温度の低い新たな空気が流入して、内部に形成された流路を流れる蒸気により温められた(加熱された)内側弁室ケーシング11からの放熱により温められる(加熱される)ことになる。すなわち、空間S内に空気の上昇気流が発生し、内側弁室ケーシング11の熱が空間S内を上昇する空気に奪い去られて(吸熱されて)、内側弁室ケーシング11が冷却されることになる。
これにより、内部に形成された流路を通過する蒸気の温度を、例えば、約30℃上昇させたとしても、空間S内を自然に循環する空気の冷却効果により、内側弁室ケーシング11自体の温度上昇を低減させることができ、内側弁室ケーシング11を従来と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で製作することができ、製造コストの高騰を回避することができる。
【0021】
また、本実施形態に係る弁室ケーシング10によれば、外側弁室ケーシング12の半径方向外側に、その内周面14a全体が外側弁室ケーシング12の外周面12b全体と接するとともに、外側弁室ケーシング12の外周面12b全体を覆い隠す保温材14が設けられている。
これにより、空間S内に存する空気が、内側弁室ケーシング11からの放熱により効率よく温められる(加熱される)ことになり、空間S内を上昇する空気の上昇速度を増加させることができ、空気による冷却効果をより高めるようにすることができる。
【0022】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態に係る弁室ケーシングについて、図4を参照しながら説明する。
図4は本実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【0023】
図4に示すように、本実施形態に係る弁室ケーシング10は、連結部材13の代わりに、連結部材23が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0024】
図4に示すように、内側弁室ケーシング11の外周面11aと、外側弁室ケーシング12の内周面12aとは、複数本(本実施形態では32本)の連結部材23を介して連結されている。連結部材23は、弁室ケーシング10の軸方向および周方向に沿って間隔をあけて、内側弁室ケーシング11の外周面11aから半径方向外側に向かって放射状に延びる(突出する)円柱状の部材であり、本実施形態では、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と一体的に鋳造されている。
【0025】
本実施形態に係る弁室ケーシング10の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0026】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態に係る弁室ケーシングについて、図5を参照しながら説明する。
図5は本実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【0027】
図5に示すように、本実施形態に係る弁室ケーシング10は、連結部材13の代わりに、連結部材33が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
図5に示すように、内側弁室ケーシング11の外周面11aと、外側弁室ケーシング12の内周面12aとは、複数本(本実施形態では12本)の連結部材33を介して連結されている。連結部材33は、弁室ケーシング10の軸方向および周方向に沿って間隔をあけて、内側弁室ケーシング11の外周面11aから半径方向外側に向かって放射状に延びる(突出する)板状の部材であり、本実施形態では、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と一体的に鋳造されている。
【0029】
本実施形態に係る弁室ケーシング10の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0030】
〔第4実施形態〕
本発明の第4実施形態に係る弁室ケーシングについて、図6を参照しながら説明する。
図6は本実施形態に係る弁室ケーシングの斜視図である。
【0031】
図6に示すように、本実施形態に係る弁室ケーシング10は、連結部材13の代わりに、連結部材43が設けられているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
なお、上述した第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
図6に示すように、内側弁室ケーシング11の外周面11aと、外側弁室ケーシング12の内周面12aとは、複数本(本実施形態では8本)の連結部材43を介して連結されている。連結部材43は、弁室ケーシング10の軸方向に沿って連続し、弁室ケーシング10の周方向に沿って間隔をあけて、内側弁室ケーシング11の外周面11aから半径方向外側に向かって螺旋状に延びる(突出する)板状の部材であり、本実施形態では、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と同じ材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で、車室ケーシング3および内側弁室ケーシング11と一体的に鋳造されている。
【0033】
本実施形態に係る弁室ケーシング10の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0034】
本発明に係るタービン1は、内側弁室ケーシング11と車室ケーシング3とが、一体的に鋳造されている。
これにより、内側弁室ケーシング11と車室ケーシング3とを安価な材料(例えば、2.25Cr鋳鋼)で一体的に鋳造することができ、製造コストの高騰を回避することができる。
【0035】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更実施可能である。
例えば、上述した実施形態において、内側弁室ケーシング11の外周面11aに、図7に示すような断面視矩形状(または断面視半円形状)を呈する複数の突起(タービュレータまたはボルテックス・ジェネレータ)71を、弁室ケーシング10の軸方向および周方向に沿って間隔をあけて設けるとさらに好適である。
これにより、空間S内に存する空気が、内側弁室ケーシング11からの放熱によりさらに効率よく温められる(加熱される)ことになるので、空間S内を上昇する空気の上昇速度をさらに増加させることができ、空気による冷却効果をより一層高めるようにすることができる。
なお、図7は、突起71を第2実施形態に適用した場合を示している。
【符号の説明】
【0036】
1 タービン
2 蒸気弁
3 車室ケーシング
4 弁体
5 弁座
6 弁棒
10 弁室ケーシング
11 内側弁室ケーシング
11a 外周面
12 外側弁室ケーシング
12a 内周面
12b 外周面
13 連結部材
14 保温材
14a 内周面
23 連結部材
33 連結部材
43 連結部材
71 突起
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に形成された流路を高温流体が流れる弁室ケーシングであって、
内部に、弁体と、この弁体を弁座に対して進退させる弁棒とが収容された内側弁室ケーシングと、
その内周面と、前記内側弁室ケーシングの外周面との間に、隙間を有する空間が形成され、かつ、前記内側弁室ケーシングの半径方向外側を取り囲むようにして配置された外側弁室ケーシングと、
前記内側弁室ケーシングと前記外側弁室ケーシングとを連結する連結部材とを備えていることを特徴とする弁室ケーシング。
【請求項2】
前記外側弁室ケーシングの半径方向外側に、その内周面全体が前記外側弁室ケーシングの外周面全体と接するとともに、前記外側弁室ケーシングの外周面全体を覆い隠す保温材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の弁室ケーシング。
【請求項3】
前記内側弁室ケーシングの外周面に、タービュレータとして機能する複数の突起が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の弁室ケーシング。
【請求項4】
前記内側弁室ケーシングと車室ケーシングとが、一体的に鋳造されていることを特徴とするタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−141013(P2012−141013A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294202(P2010−294202)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】