説明

弁点検支援システム

【課題】原子炉内の危険な配管や補修の作業を行う前の隔離する弁の点検作業において、ミスのない、かつ効率的な作業システムを提供すること。
【解決手段】弁やその付帯設備を点検する作業票や弁の隔離状況等を管理する作業管理システムと、弁の系統構成の管理や作業する弁の点検作業順番の処理を行う系統構成管理システムと、作業状況等のデータを保存するファイル管理システムと、弁の名称や番号を記憶させたICチップを装備した弁銘板と、隔離状況のデータを記憶させたICチップを装備させた隔離タグと、弁点検の作業員が携帯して、弁の各種の情報や作業順番の情報などを授受する携帯端末と、これらのシステムや装置間を所内LANや無線LANや非接触通信により結合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所などの点検および保守作業を行うときに、運転から隔離した配管設備にするために該当する弁の開閉操作し、隔離タグをその弁に付けた後の点検を支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図6に示すように原子炉1の弁点検のシステムは、弁の開閉状態などの系統構成が記載されている系統構成台帳4と、点検作業時に弁の隔離状態を記載した隔離タグ31を管理、作成する計算機による作業管理システム3とにより点検作業を行う。
【0003】
点検作業の際は、作業管理システム3によって点検作業箇所に対応する隔離タグ31が発行され、作業員(運転員)は、その隔離タグ31を携帯して点検作業箇所へ行く。そして、点検作業箇所を分離する弁(隔離弁)2に隔離タグ31を取り付けた後に、その弁を閉操作して点検作業箇所を隔離状態にして作業を行う。
【0004】
点検作業後は、作業員は、系統構成台帳4からチェックすべき全ての弁の系統別チェックシート(以降チェックシートと略す)42を抜き出し、そのチェックシート42に従い、原子炉1内の弁に取り付けられた隔離タグ31の場所に行く。
【0005】
そして、作業員は該当する弁の前に来ると、まずチェックシート42にある弁の番号と弁銘板とを照合し、一致していればチェックシート42に基づいて必要な開閉操作を行い、系統構成を本来の状態に戻して、隔離タグ31を弁2から取り外す。そしてチェックシートに各作業の完了記録等を記入する。この作業を該当するすべての弁について行い、作業を完了する。
【0006】
以上の作業では、まず作業管理システムからの多くの隔離タグを該当する弁のある箇所まで携帯しなければならず、落としたりして紛失したり、該当する隔離タグを探すなどに時間が掛かる。
【0007】
点検作業後は、膨大な系統構成台帳より該当する弁のチェックシートをすべて抜き出さなければならないため時間が掛かり、その際に誤って別のシートを抜き出す可能性がある。また、作業員は、そのチェックシート内に記載されている弁の状態を読んで把握しなければならないため時間が掛かり、また把握ミスを犯す可能性がある。
【0008】
これらのミスや時間が掛かる欠点を解消するため作業員は、非常な負担とミスを犯さない努力と細心の注意が必要になっている。
【0009】
一方、特許文献1には、原子力発電プラントなどの大規模な事業所の作業時に、作業員に携帯式通信装置を携行させ、作業員は、必要に応じてホストコンピュータと通信してデータを取り出し、携帯式通信装置の出力画面上に、自分の現在位置を表示したり、目的とする設備の位置を表示して、現在位置あるいは任意の位置から目的とする設備の位置への移動ルートを表示したりして、事業所内を移動する作業員あるいは作業員を監督する管理者に対し、有用なガイダンスを提供する情報システムが記載されている。
しかしながら、この特許文献に記載の技術は、弁点検に関するものではなく、いかに発電所の運転計画と協調をとって効率的かつ安全に実施するかが問題となる。
【特許文献1】特開平11−88935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、原子炉内などの配管の補修・点検作業において当該作業箇所を隔離するための弁の点検作業等を効率的かつ安全に行うことのできる弁点検支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係わる弁点検支援システムは、弁、電源等の作業対象設備の位置情報を含む系統構成データおよび作業対象設備の作業状況データを保存するデータベースと、作業状況データをもとに隔離弁あるいは隔離範囲内であるか否かという隔離状態を判定する作業管理システムと、隔離状態と系統構成データに基づいて作業計画を作成する系統構成管理システムと、隔離状態を記憶させたICチップを装備させた隔離タグと、隔離タグに保存されている隔離状態を取得し作業状況データを送信する携帯端末と、携帯端末から送られてくるデータをもとにデータベースの作業状況データを更新する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、作業管理システムによって隔離状態を管理する一方、運転を行うための系統状態を管理する系統構成管理システムによって、この隔離状態と系統状態をもとに作業順序を作成するので、常に作業と運転のベースとなるデータを一元管理することができ作業ミスや不測の事故を防止することができる。
【0013】
好ましくは、系統構成管理システムは、系統構成データをもとに作業位置近傍の作業対象設備の候補を抽出し、隔離状態をもとに作業対象設備および作業順序を決定する優先順位判定手段を備えるようにすると良い。
【0014】
すなわち、弁点検作業を行うにあたって、弁銘板作成時に系統構成管理システムにより弁銘板に取り付けたICチップに弁のデータを記憶させて弁に弁銘板を装着し、作業管理システムで作業を行う弁の隔離状況を表記および記憶させたICチップ付隔離タグを設け、点検作業時に作業管理システムから作業内容を、系統構成管理システムから弁の系統構成と弁の点検順番を携帯端末に取り込み、作業員は、携帯端末に表示される点検順番に従って作業を行う。
【0015】
特に、系統構成データは、作業対象設備間の移動時間を含み、優先順位判定手段は、当該移動時間に基づいて作業順序を決定すると共に携帯端末へ移動ルート情報を送信することによって、効率的に作業を行うことができる。
【0016】
なお、移動ルートを表示する際、同時に緊急時の非難ルートも表示することによって作業員の注意を喚起して不測の事態に備えることができる。
【0017】
また、本発明に係る弁点検支援システムは、作業管理システムは、携帯端末へ作業対象設備の隔離状態を送信し、携帯端末は、作業管理システムから送られてくる隔離状態を受信して、当該受信した隔離状態と、隔離タグに保存されている隔離状態とを照合して、その照合結果を該携帯端末上へ表示することを特徴とする。
【0018】
なお、作業管理システムから送られてくる隔離状態を作業員が携行する携帯端末で受信して、隔離タグのICチップに書き込むようにしても良い。特に、作業管理システム側で、弁の隔離状態を管理しているため、弁銘板にICチップを設け、携帯端末経由でこのICチップに隔離状態を書き込むようにしても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、隔離状態や系統構成を一元管理するので、弁の点検作業を効率的かつ安全に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、第1の実施の形態による弁点検支援システム10の構成図である。
【0021】
この図で、原子炉1内の弁2を点検支援するシステムとして、所内LANで結合される計算機での作業票管理や隔離タグを作成などの隔離状況編集や隔離種別設定を行う計算機により作業管理システム3と、系統構成データを管理し、作業の優先順位を指示する同じく計算機による系統構成管理システム4Aと、これらの計算機やシステムのデータベースとなるデータベースを管理するファイル管理システム7とが所内LANで結合され、ファイル管理システム7と無線LANで結合され、弁点検を行う作業員5が携帯し、系統構成データの入力や弁やその電源の隔離状況の検索などをする携帯端末6と、この端末で記憶されたデータを読み込むことができる弁データを記憶している非接触ICチップを埋め込まれた弁銘板21Aと、隔離状況データを記憶している同じく非接触ICチップが埋め込まれた隔離タグ31Aでシステムは構成される。
【0022】
次に、図2〜4を用いて上記の構成を有する弁点検支援システム10の作用を説明する。図2は、システム全体のデータおよび作業手順の流れの説明図であり、図3は、データの流れ図である。
【0023】
系統構成管理システム4Aにより弁銘板21Aを作成するときに、これに取り付けられたICチップ22に弁の名称や番号および機能などの弁データを記憶させ、その弁銘板21Aを該当の弁2に装着する。作業管理システム3では、後述する隔離タグ31Aを発行するとき、隔離状況データを印刷するとともに、隔離タグ31Aの内蔵するICチップ32に隔離状況データを記憶させる。
【0024】
点検作業前の準備として、まず系統構成管理システム4A経由でファイル管理システム(データベース)7内の系統構成データ7aより点検する弁群の構成データを無線LAN経由で携帯端末(以降PDAと略す)6に入力するとともに、弁の点検順序や点検ルートの優先順位データも入手する。この入手した弁のデータをPDA6から作業管理システム3に送信し、作業管理システム3経由でファイル管理システム7の作業管理データ7bより該当する弁の隔離状況データをPDA6に入手する。すなわち、隔離タグ31Aがすでに取り付けられた既隔離中の弁か、今回隔離操作と隔離タグ31Aを装着する弁かなどの隔離状況データを無線LAN経由でPDA6に入力する。そして、今回隔離する弁については、隔離タグ31Aを作業管理システム3から発行させ点検作業時に持参する。このとき、上記したように隔離タグ31AのICチップ32に隔離状況データを記憶させる。以上で点検作業の準備を完了する。ここで、作業管理データ7bのデータ構成の一例を図5に示す。弁や電源などの作業対象設備の識別情報(弁・電源番号)ごとにその位置や作業標番号、作業期間、隔離状態を表した隔離種別、作業内容などが関連付けられて保存されている。また、系統構成データは、図示しないが各作業対象設備の接続状態や位置情報、平均の移動時間等が保存されている。
【0025】
作業員5は、必要な弁2のデータを記憶したPDA6と発行した隔離タグ31Aを携帯して優先順位データに従い、最初の今回隔離する弁2に向かう。該当する弁2の近くに来たら、弁銘板21Aを目視で確認するとともに、弁銘板21AのICチップ22からのデータをPDA6によって読み取り、PDA6の表示器により目視で確認するとともに、点検する弁か否かをPDA6内の弁データとICチップ32の弁データを照合することによって自動的に判定させる。そして、両データが不一致の場合、PDA6より警報表示を行う。
【0026】
作業員は、この確認後、弁2への必要な操作を行い、携帯してきた該当する弁の隔離タグ31Aを印刷された文字で確認して弁に装着する。そして、再度隔離タグ31AのICチップ32の内容をPDA6によって読み取り、PDA6の表示器と弁データとの照合を実行する。そして、不整合時は、PDA6に警報表示する。
【0027】
最後にこの弁への作業が完了した旨をPDA6に入力し、作業管理システム3へ所内LAN経由で通知する。この完了が通知されると、系統構成管理システム4Aは、次の弁へのナビゲーションをPDA6の表示器に表示し、作業員はその指示に従って次の点検作業する弁に向かい、上述の弁点検処理を繰り返す。すべての点検作業すべき弁の作業が終了したら、その旨PDA6より入力して作業管理システム3に通知する。
【0028】
図4にナビゲーションのための優先順位判定の処理手順について、点検作業後の系統構成復元時の作業を例に説明する。まず現在位置の弁番号と現在地をPDA6に入力する(S101)。この入力は、作業員が手入力によって行っても良いし、弁銘板に当該銘板の識別情報を保存したICチップを持たせ、PDA6によってこのICチップの情報を読み込むことによって弁位置を特定するようにしても良い。
【0029】
そしてファイル管理システム7の系統構成データ7aと作業管理データ7bから入力した弁情報を取得し、この弁が作業中か否かを調べる(S102)。作業中でない場合は(S102で「YES」)、次に隔離弁以外か否かを判定し、隔離弁以外の場合は(S103で「YES」)、系統構成情報をファイル管理システム7へ入力し(S104)、その後、隔離弁以外の系統構成が完了したか否かを判定して(S105)、完了した場合は終了し、未完了の場合は、系統構成管理システム4Aによって現在地からも最も近い弁で隔離弁以外の弁を選択してPDA6へ送信し(S109)、ステップS102の処理へ移行する。
【0030】
一方、ステップS102で作業中の場合は、作業管理システム3によって隔離状態や作業期間などの作業状況をPDA6の表示器に表示すると共に(S106)、系統構成管理システム4Aにより現在地からも最も近い弁で隔離弁以外の弁を選択して(S107)、ステップS102の処理に移行する。
【0031】
また、ステップS103で「NO」の場合は、隔離弁以外の系統構成が完了したか否かを判定し(S108)、完了した場合は(S108で「YES」)、ステップS104で系統構成情報を入力し、完了していない場合は(S108で「NO」)、ステップS109の処理へ移行する。以上の処理を隔離弁以外の系統構成が完了するまで続ける。
【0032】
以上、本実施の形態によれば、弁点検作業を行う作業員が携帯端末を携帯することにより、作業管理システムと系統構成管理システムおよび弁銘板や隔離タグの取り付けられたICチップとの情報の授受を行うことによって、弁点検作業を効率よく、ミスなく行うことが可能となる。特に、両システム3,4Aによって点検作業前の隔離作業および点検作業後の系統構成復元作業をトータル的に管理し、それぞれ最適な移動ルートを演算して、作業者に指示することによって、各作業を円滑かつ確実に実施することができる。
【0033】
また、電子データで管理するため、データ加工が容易になる。たとえば、未実施箇所検索、任意の検索、帳票作成などを効率よく行うことができる。さらに、隔離タグが紛失しても携帯端末で弁・電源の状態(隔離中、系統構成実施状況)が簡単に確認できる。
【0034】
本発明は、上記の実施の形態に限定されること無く、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。たとえば、図1では、ファイル管理システム7や系統構成管理システム4A、作業管理システム3を独立して構成しLANで接続するようにしたが、これらのシステムを独立したものとせず、一体として一つの計算機によって実現しても良いし、任意に機能分散して実現しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、産業設備の保守点検の作業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施の形態による弁点検支援システムの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態による作業手順の説明図である。
【図3】図1の弁点検支援システムのデータの流れ図である。
【図4】図1の弁点検支援システムの優先順位判定手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図1の弁点検支援システムのデータベースの構成例である。
【図6】従来の弁点検システムの機能構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1 原子炉
2 弁
3 作業管理システム
4 系統構成台帳
4A 系統構成管理システム
5 作業員
6 携帯端末
7 ファイル管理システム
7a 系統構成データ
7b 作業管理データ
10 弁点検支援システム
21,21A 弁銘板
31,31A 隔離タグ
22,32 ICチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁、電源等の作業対象設備の位置情報を含む系統構成データおよび前記作業対象設備の作業状況データを保存するデータベースと、
前記作業状況データをもとに隔離弁あるいは隔離範囲内であるか否かという隔離状態を判定する作業管理システムと、
前記隔離状態と前記系統構成データに基づいて作業計画を作成する系統構成管理システムと、
前記隔離状態を記憶させたICチップを装備させた隔離タグと、
前記隔離タグに保存されている隔離状態を取得し作業状況データを送信する携帯端末と、
前記携帯端末から送られてくるデータをもとに前記データベースの作業状況データを更新する手段と、
を備えたことを特徴とする弁点検支援システム。
【請求項2】
前記系統構成管理システムは、前記系統構成データをもとに作業位置近傍の作業対象設備の候補を抽出し、前記隔離状態をもとに作業対象設備および作業順序を決定する優先順位判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の弁点検支援システム。
【請求項3】
前記系統構成データは、作業対象設備間の移動時間を含み、前記優先順位判定手段は、当該移動時間に基づいて作業順序を決定すると共に前記携帯端末へ移動ルート情報を送信することを特徴とする請求項2記載の弁点検支援システム。
【請求項4】
前記作業管理システムは、前記携帯端末へ作業対象設備の隔離状態を送信し、
前記携帯端末は、前記作業管理システムから送られてくる隔離状態を受信して、当該受信した隔離状態と、前記隔離タグに保存されている隔離状態とを照合して、その照合結果を該携帯端末上へ表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の弁点検支援システム。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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