説明

引き戸用ラッチ装置及びこれを備えたキャビネット

【課題】 引き戸を開く際のロック解除のための摘みの操作性を向上させることができ、さらに引き戸の全閉状態と開状態とで部材の位置が変化するのに伴って見栄えが悪くなることがないようにする。
【解決手段】 引き戸を全閉位置に保持するためにレール13に設けられた切欠部21に係合可能なロックプレート16をロック解除位置に回動させるためにロックプレートに対して連結された操作プレート18が引き戸の移動方向に概ね直線運動するように、操作プレートの裏面に引き戸の移動方向に案内溝41を延設すると共に、この案内溝に嵌合する突条42を袴部4に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き戸を全閉位置に保持する引き戸用ラッチ装置及びこれを備えたキャビネットに関し、特に3枚の引き戸を備えた三連式のキャビネットにおいて両側の引き戸を全閉位置に保持するのに好適な引き戸用ラッチ装置及びこれを備えたキャビネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
三連式のキャビネットにおいては、隣り合う引き戸同士の全閉状態での相対位置を規定する係止手段により、両側の引き戸を閉じると中央の引き戸も所定の全閉位置に位置決めされるようにした構成のものがある。
【0003】
このような構成のキャビネットにおいては、端の引き戸を勢いよく閉じた場合に、これに随伴して動作する中央の引き戸が慣性力で所定の全閉位置を越えて移動し、これに引きずられて反対側の引き戸が開いてしまうことがあり、このような不都合を避けるため、両側の引き戸を全閉位置に保持するラッチ装置を設けたものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−193448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、前記従来の構成では、ラッチ装置のロック解除のための摘みが引き戸の前面に設けられているが、引き戸を戸枠に係止するためのロック部材の動きに合わせて摘みを回動操作する構成としているため、不慣れな場合には摘みの動きが判別し難く、例えば支点側を把持したために大きな操作力が必要になるなど、操作性の面で難点があった。さらに引き戸を開いた状態では摘みが斜めに傾斜した状態となり、見栄えが悪くなるという不都合があった。また、前記従来の構成では、引き戸の袴部にロック部材を収容して、袴部の前壁に形成された貫通孔を介してロック部材に摘みを連結する構成としており、摘みの位置によっては貫通孔が外から見えるため、体裁が良くないという不都合があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、引き戸を開く際のロック解除のための摘みの操作性を向上させることができ、さらに引き戸の全閉状態と開状態とで部材の位置が変化するのに伴って見栄えが悪くなることがないように構成された引き戸用ラッチ装置及びこれを備えたキャビネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、キャビネットの戸枠(12)に設けられたレール(13)上を走行可能な引き戸(5)を全閉位置に保持する引き戸用ラッチ装置(8)において、前記レールに設けられた切欠部(21)に係合可能な係止爪(22)を備え、この係止爪を前記切欠部に対して係合離脱させるために前記引き戸の袴部(4)に回動可能に設けられたロック部材(16)と、前記レールの切欠部に前記係止爪を係合させる向きに前記ロック部材を弾発付勢するばね手段(17)と、このばね手段の付勢力に抗して前記切欠部から前記係止爪を離脱させるように前記ロック部材を回動させるために前記ロック部材に対して連結されて、摘み(31)が前記袴部の前面側に配置された操作部材(18)と、この操作部材を前記引き戸の移動方向に概ね直線運動するように案内する案内手段とを有するものとした。
【0007】
これによると、引き戸を全閉位置に保持するロック状態が、摘みを横向きに直線移動させるというわかりやすい操作で解除され、しかも摘みをどのように把持しても操作力に大きな違いはなく、操作性を向上させることができる。さらに操作部材が横向きに移動するのみで摘み自体の姿勢に変化がないため、例えば摘みが真直な縦向きの形状、例えば縦方向に延設された板状突起であれば、ロック状態とロック解除状態との双方で摘みが縦向きのままとなり、体裁が良くなる。
【0008】
さらに請求項2に示すとおり、前記案内手段が、前記引き戸の移動方向に延設された案内溝(41)と、この案内溝に嵌合可能な突条(42)とからなり、前記操作部材及び前記袴部のいずれか一方に前記案内溝が、他方に前記突条がそれぞれ設けられた構成とすることができる。これによると、操作部材の直線動作を簡単な構成で円滑に且つ確実に行わせることができる。
【0009】
この場合、ロック部材と操作部材との互いの連結部に所要の遊びを設定して、案内手段により縦方向の変位を拘束された操作部材側の連結部(例えば連結ボス)に対して、ロック部材の回動に伴うロック部材側の連結部(例えば連結孔)の縦方向の変位を許容するものとすると良く、これによりロック部材及び操作部材の円滑な動作を確保することができる。
【0010】
なお、本発明における案内手段は、案内溝と突条との組み合わせによるものの他、案内溝と複数の突起との組み合わせなど、種々の形態のものが可能である。
【0011】
さらに請求項3に示すとおり、前記操作部材が、前記袴部の内部に収容された前記ロック部材に連結するために前記袴部の前壁(25)に開設された貫通孔(33)を常時覆うようにその前壁の表面に沿って平板状に形成された構成とすることができる。これによると、袴部の前壁に開設された貫通孔が外から見えなくなるため、体裁が良くなる。
【0012】
また本発明においては、請求項4に示すとおり、戸枠に設けられたレール上を走行可能な引き戸を全閉位置に保持するラッチ装置を備えたキャビネットにおいて、前記レールに設けられた切欠部に係合可能な係止爪を備え、この係止爪を前記切欠部に対して係合離脱させるために前記引き戸の袴部に回動可能に設けられたロック部材と、前記レールの切欠部に前記係止爪を係合させる向きに前記ロック部材を弾発付勢するばね手段と、このばね手段の付勢力に抗して前記切欠部から前記係止爪を離脱させるように前記ロック部材を回動させるために前記ロック部材に対して連結されて、摘みが前記袴部の前面側に配置された操作部材と、この操作部材を前記引き戸の移動方向に概ね直線運動するように案内する案内手段とを有するものとした。
【0013】
これによると、引き戸を全閉位置に保持するロック状態が、摘みを横向きに直線移動させるというわかりやすい操作で解除され、しかも摘みをどのように把持しても操作力に大きな違いはなく、操作性を向上させることができる。さらに操作部材が横向きに移動するのみで摘み自体の姿勢に変化がないため、例えば摘みが真直な縦向きの形状、例えば縦方向に延設された板状突起であれば、ロック状態とロック解除状態との双方で摘みが縦向きのままとなり、体裁が良くなる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、引き戸を開く際のロック解除操作が摘みを横向きに直線移動させるというわかりやすい操作となり、しかも把持位置で操作力が大きく変化することもなく、摘みの操作性を向上させる上で大きな効果が得られる。さらに操作部材が横向きに移動するのみで摘み自体の姿勢に変化がないため、見栄えを良くする上で大きな効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明によるキャビネットの全体を示す斜視図である。このキャビネットは、本体1の前面側に、ガラス板2に上下の框部3・4を装着してなる3枚の引き戸5・6・7を備えた三連式のものであり、両側の引き戸5・7には、下側の框部(袴部)4に引き戸5・7をそれぞれ全閉位置に保持するラッチ装置8・9が設けられる。なお、以下には、右側の引き戸5のラッチ装置8について詳しく説明するが、左側の引き戸7のラッチ装置9も、これと左右対称で同一の構造を有している。
【0017】
図2・図3・図4は、図1に示したキャビネットの要部を示している。引き戸5の下側の框部(袴部)4には、キャビネット本体1の下側の横枠(戸枠)12に固定されたレール13上を転動可能な戸車14が複数設けられており、これにより引き戸5がレール13上を走行可能となっている。他の引き戸6・7も同様に、下側の框部4に戸車を備えており、各々に対応するレール上を走行可能となっている。
【0018】
引き戸5の下側の框部(袴部)4に設けられるラッチ装置8は、図2・図3・図4に示すように、ロックプレート(ロック部材)16、ばね(ばね手段)17、及び操作プレート(操作部材)18からなっている。框部(袴部)4、ロックプレート16及び操作プレート18は、合成樹脂材料の射出成形によりそれぞれ形成され、ばね17は、金属製の捩りコイルばねからなっている。
【0019】
ロックプレート16は、図4に示すように、レール13の端末に設けられた切欠部21に係合可能な係止爪22を備え、この係止爪22を切欠部21に対して係合離脱させるために、框部(袴部)4に設けられた支軸23回りに回動可能となっている。このロックプレート16は、図3に示すように、框部(袴部)4の前壁25と後壁26との間に挟み込まれるようにして框部(袴部)4の内部に収容されている。
【0020】
図4に示すように、ばね17は、支軸23回りに回動可能なロックプレート16を、係止爪22がレール13の切欠部21に突入する向きに常時弾発付勢しており、引き戸5の全閉状態では、図4に実線で示すように、ロックプレート16が係止爪22を切欠部に突入させたロック位置となり、引き戸5の開動作が規制される。引き戸5の開状態では、係止爪22がレール13上に乗り上げてレール13の上面を摺動し、引き戸5を円滑に移動させることができる。そして引き戸5を開いた状態から閉じて全閉位置とすると、レール13の切欠部21に係止爪22が整合したところで切欠部21に係止爪22が突入して、引き戸5の移動が禁止される状態になる。
【0021】
図2・図3に示すように、操作プレート18は、框部(袴部)4の前面側に配置されており、摘み31が平板状部分30から手前側に板状に突出した状態で縦方向に延設されている。操作プレート18の裏面には、ロックプレート16に連結するための連結ボス32が突設されており、この連結ボス32は、框部(袴部)4の前壁25に開設された貫通孔33を通ってロックプレート6の連結孔34に嵌着されるようになっており、これにより操作プレート18とロックプレート16とが連結ボス32及び連結孔34の中心線回りに相対回転可能に連結される。
【0022】
操作プレート18にはロックプレート16を介してばね17の付勢力が作用し、図2に示すように、操作プレート18の摘み31を把持してばね17の付勢力に抗して操作プレート18を矢印Aで示す向きに押圧操作すると、ロックプレート16が矢印Bで示す向きに回動し、図4に想像線で示すように、ロックプレート16が係止爪22をレール13の切欠部21から離脱させたロック解除位置となり、これによりロックプレート16の係止状態が解除されて引き戸5を開くことができる。
【0023】
また操作プレート18は、図2・図3に示すように、框部(袴部)4の前壁に開設された貫通孔33を常時覆うように、框部(袴部)4の表面に沿って平板状に形成されており、ロックプレート16の解除のために操作プレート18を動かしても、貫通孔33が露出することがなく、体裁が良いものとなる。
【0024】
図5は、図2・図3・図4に示した引き戸の框部と操作プレートとを分解して示す斜視図である。操作プレート18の裏面には、引き戸の移動方向である横向きに真直な案内溝41が延設されており、引き戸の框部(袴部)4の表面には、操作プレート18の案内溝41に嵌合可能な横向きに真直な突条42が設けられており、図2・図3に示すように、組み付け状態で操作プレート18の案内溝41と框部(袴部)4の突条42とが互いに嵌合することで、引き戸5を開く横向きに直線運動するように操作プレート18の動きが規制される。
【0025】
ここで、操作プレート18の連結ボス32とロックプレート16の連結孔34との間には所要の遊隙が確保されている。より具体的には、連結ボス32の先端拡径部37の通過を弾性変形により許容するために連結孔34の内周に形成された弾発係止片36の内端により規定される内径が、連結ボス32の軸部38の外径より僅かに大きく設定されている。このため、案内溝41と突条42との嵌合により框部(袴部)4に対して縦方向の変位を拘束された操作プレート18の連結ボス32に対して、ロックプレート16の回動に伴う連結孔34の縦方向の変位が許容され、操作プレート18及びロックプレート16を円滑に動作させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明にかかる引き戸用ラッチ装置は、無用な引き戸の開動作を避けるために引き戸を全閉位置に保持する用途に有用である。また、本発明にかかるキャビネットは、前記のように3枚の引き戸を備えた三連式のものが好適であるが、これとは異なる枚数の引き戸を備えたキャビネットとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明によるキャビネットの全体を示す斜視図。
【図2】図1に示したキャビネットの要部を示す正面図。
【図3】図2におけるIII−III線に沿う断面図。
【図4】図3におけるIV−IV線に沿う断面図。
【図5】図2・図3・図4に示した引き戸の框部と操作プレートとを分解して示す斜視図。
【符号の説明】
【0028】
4 框部(袴部)
5・6・7 引き戸
6 ロックプレート
8・9 ラッチ装置
12 横枠(戸枠)
13 レール
16 ロックプレート(ロック部材)
17 ばね
18 操作プレート(操作部材)
21 切欠部
22 係止爪
25 前壁
32 連結ボス
33 貫通孔
34 連結孔
41 案内溝
42 突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネットの戸枠に設けられたレール上を走行可能な引き戸を全閉位置に保持する引き戸用ラッチ装置であって、
前記レールに設けられた切欠部に係合可能な係止爪を備え、この係止爪を前記切欠部に対して係合離脱させるために前記引き戸の袴部に回動可能に設けられたロック部材と、
前記レールの切欠部に前記係止爪を係合させる向きに前記ロック部材を弾発付勢するばね手段と、
このばね手段の付勢力に抗して前記切欠部から前記係止爪を離脱させるように前記ロック部材を回動させるために前記ロック部材に対して連結されて、摘みが前記袴部の前面側に配置された操作部材と、
この操作部材を前記引き戸の移動方向に概ね直線運動するように案内する案内手段とを有することを特徴とする引き戸用ラッチ装置。
【請求項2】
前記案内手段が、前記引き戸の移動方向に延設された案内溝と、この案内溝に嵌合可能な突条とからなり、前記操作部材及び前記袴部のいずれか一方に前記案内溝が、他方に前記突条がそれぞれ設けられたことを特徴とする請求項1に記載の引き戸用ラッチ装置。
【請求項3】
前記操作部材が、前記袴部の内部に収容された前記ロック部材に連結するために前記袴部の前壁に開設された貫通孔を常時覆うようにその前壁の表面に沿って平板状に形成されたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の引き戸用ラッチ装置。
【請求項4】
戸枠に設けられたレール上を走行可能な引き戸を全閉位置に保持するラッチ装置を備えたキャビネットであって、
前記レールに設けられた切欠部に係合可能な係止爪を備え、この係止爪を前記切欠部に対して係合離脱させるために前記引き戸の袴部に回動可能に設けられたロック部材と、
前記レールの切欠部に前記係止爪を係合させる向きに前記ロック部材を弾発付勢するばね手段と、
このばね手段の付勢力に抗して前記切欠部から前記係止爪を離脱させるように前記ロック部材を回動させるために前記ロック部材に対して連結されて、摘みが前記袴部の前面側に配置された操作部材と、
この操作部材を前記引き戸の移動方向に概ね直線運動するように案内する案内手段とを有することを特徴とするキャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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