説明

引出し型加熱調理器

【課題】電気部品に含まれる高圧トランスと冷却ファンとの配置と姿勢に改良を施して奥部のセット奥行き寸法を短縮した引出し型加熱調理器を提供する。
【解決手段】冷却ファン56aを横置きすることで、冷却ファン56aの下方にスペース70が生まれ、このスペース70を利用して高圧トランス55を効率良く配置することができる。この配置位置と姿勢とを組み合わせることで、調理器本体1の奥部のセット奥行き寸法を短縮することができる。この奥行き寸法の短縮により、加熱室6の奥行きを犠牲にすることなく、戸棚前面と開閉ドア2の前面を面一とするフラッシュ化が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には加熱調理器に関し、特に、被加熱物が収容される引出し体が調理器本体内から外へ引き出し可能に設けられた引出し型加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
開閉扉と一体とされた引出し体を調理器の前面側へ引き出し可能にした加熱調理器が従来提案されているが、この種の引出し型加熱調理器は、厨房のカウンタートップ下方にビルトイン設置し、使用者が加熱調理の準備作業や加熱調理そのものを行うカウンタートップを占拠することなく加熱調理器を設置できるため、複数の調理機器を立体的に配置するキッチン構成に適しているので、システムキッチンを構成する調理機器の一つとして位置づけられ、特に米国では、近年普及が拡大している。
【0003】
本出願人は、引出し型加熱調理器である引出し型電子レンジの一例として、加熱室を有する調理器本体と、調理器本体の加熱室内から外へ引き出すことができるように調理器本体内で移動可能に配置される引き出し体と、引き出し体を調理器本体内で移動させるためのスライドレールとを備え、スライドレールを加熱室の外を設けることにより、高い耐熱性と難燃性を有する部品または材料でスライド機構を構成する必要がなく、マイクロ波による放電不良の発生を防止することができる引き出し式加熱室調理器を提案している(特許文献1参照)
【0004】
従来のビルトイン型加熱調理機器の一例が図4〜図6に示されている。図4は、従来の引出し型加熱調理器が適用されたビルトイン型加熱調理機器の一例を示す斜視図、図5は図4に示すビルトイン型加熱調理機器の側面図、図6は図4に示すビルトイン型加熱調理機器を引出し体が引き出された状態で示す斜視図である。
図4及び図5に示すように、ビルトイン型加熱調理器は、全体的に直方体形状を呈している調理器本体1、調理器本体1から可動レール10を含むスライド機構9を介して引出し体2を引き出し操作可能であるとともに調理器本体1の前面に加熱室6を閉鎖可能に配設されている開閉ドア2a、調理器本体1の前面で且つ開閉ドア2aの上方に配設されている操作パネル3、及び調理器本体1の奥方に設けられている接続部7から延びる電源コード4を備えている。
【0005】
引出し体2は、前方に開閉ドア2aが取付けられており、更に調理物を載せるテーブルとそれを取り囲む壁部12を備えている。加熱調理器はビルトイン型の機器であり、図2に示すように、上面がクッキングトップ5aとなっているキッチンキャビネット5内に組み込まれている。操作パネル3は、この例では、調理器本体1に対して一体的に設けられているので、開閉ドア2aは操作パネル3とは別に単独で引き出しされる。開閉ドア2aを引き出した状態が図6に示されている。
【0006】
電子レンジ等の電力利用の加熱調理器では商用電源等の電源から電力を得るために加熱調理器から延びる電源コード4をコンセントに接続しなければならない。正面からビルトインする加熱調理器では、調理器本体1の背面1aに接続される電源コード4は、接続部7に接続させた状態でビルトインさせるため、調理器本体1の背面1aから接続部7まで少なくとも調理器本体1の奥行きに相当する長さを有している。ビルトイン型加熱調理器では、周囲が他の調理機器や筐体に囲まれているので、電源コード4は、加熱室6の後方において調理器本体1の背面1aとキッチンキャビネット5の奥壁5cとの間に形成される本体外の外部スペースに張設された状態から畳み込むように屈曲させて収容される。電源コード4のこの収納方法では、調理器本体1の奥部とキッチンキャビネット5の戸棚との隙間に電源コード4が挟み込まれ易く、破損を招くこともある。そこで、本出願人は、調理器本体の天壁部とキャビネットの天井部との間に電源コードを収納可能な収納スペースを形成することを提案している(特許文献2)。
【0007】
このように、従来、セット後面と戸棚(キッチンキャビネット)奥の間に十分な外部スペースが得られないので、電源コード4については、加熱調理器のビルトインの際に、張設された状態から畳み込むように屈曲させて調理器本体外の外部スペースに垂下させて収納する代わりに、セット天面部に収納していた。このため、収納後に生ずる電源ケーブルの遊び部を箱体奥と戸棚に挟み込まれないよう収納するスペースがセット天面部に必要であり、箱体構造が重複している。
【0008】
図7には、従来のビルトイン型加熱調理器の奥部電気部品配置図が示されている。図7の(a)は右側面図であり、(b)は後面図である。奥部8には、電力利用の加熱調理器を作動させるための種々の電気部品が配設される。こうした電気部品としては、後述するように、高周波発生装置であるマグネトロン54、高圧トランス55や高圧コンデンサー、冷却ファン56aを駆動するファンモーター56等が挙げられる。
【0009】
調理器本体1の加熱室3の下方に配置されている下辺部59は、前面の吸気口63に通じる底面吸排気ダクト構造となっている。調理器本体51の奥部8には、電気部品である冷却ファン56aを駆動するファンモーター56が設けられている。ファンモーター56は縦置き(回転軸が水平)されている。ファンモーター56が作動すると、吸気口63から底面吸排気ダクト構造を通じて外部の空気が吸い込まれて矢印で示すように流れ、冷却空気は一旦調理器本体51の背面に形成されている開口から外部スペースに流出した後、調理器本体51の背面に形成されている適宜の開口を通して調理器本体51内に吸入されて奥部8に至り、高圧トランス55や高圧コンデンサー、回路基板等の発熱する電気部品を冷却する。奥部8内の冷却空気は、ファンモーター56によって更に調理器本体1の内部に吹き出される。即ち、ファンモーター56から送り出された空気は、一部が高周波発生装置であって電気部品であるマグネトロン54を冷却した後、加熱室6内へ流れ込み、その後、加熱室排気ダクトを通って外部へと排気される。
このように、従来のビルトイン型加熱調理器では、調理器本体奥行きを所定の寸法内に収めるため、冷却空気の気流の通過する経路を全て調理器本体内に収容することが不可能となった。その結果、当業者の知見では送風経路の形態として不合理ではあるが、調理器本体奥行きを実現するための代償として、気流の経路を調理器本体外のスペースを経由するように迂回させた。気流の経路の断面積が大きく変化するため、送風風量の増加が困難であり、また、圧力損失が大きいため送風ロスが大きく、冷却ファン56aの送風効率が低下していた。したがって、調理器奥行きをさらに短縮するとともに、送風経路の不合理を是正することにより冷却ファン56aの送風効率を改善することが課題となっていた。
【0010】
また、インテリアデザインの動向として、ビルトイン機器による突出部をなくしたキッチンが高く評価されているが、従来の加熱調理器では、扉前面と戸棚前面をフラッシュ(面一致)設置したいとの要請があっても、調理器本体を構成する箱体後部が戸棚奥に支えるので不可能であり、扉部が戸棚前面から突出する設置に限定されるため、加熱調理器の機能を高く評価していても、インテリアデザインに適合しないために採用されない例が見られた。このように、引出し型加熱調理器である引出し型電子レンジは、加熱調理器の分野にあっても、価格競争にさらされるものでなく、高付加価値の要求される分野であり、キッチン全体を統一されたインテリアデザインとすることに重点をおく使用者に対して、デザイン性において期待に応えることと、性能及び構造面でも高度な期待に対して失望を与えることのない高度な仕様を要求されている。
【0011】
物理的構造条件でいえば、加熱調理器の加熱室形状は、使用者が愛好する食品や飲料の加熱調理がスムーズに可能であることが前提であり、加熱室の天井高さは、各種ファーストフード業者やコーヒーショップの提供する既成の容器、マグカップ類が余裕を持って収容できる高さを要求される。また、加熱室底面広さについては、日本国内であれば、スーパー、コンビニエンスストア、あるいは専門業者の販売する弁当類を収容できることが前提であるが、米国では、少なくとも、有力ピザハウスのピザ入りボックスを収容できることが必須である。このように、使用者の求める加熱室寸法を熟知し、最低限度として許容される加熱室寸法を確保することが設計上の重要課題である。
【0012】
このように、従来困難であった引出し型加熱調理器の戸棚へのビルトイン設置を実現したことにより、本出願人はキッチン戸棚に埋め込み設置できる唯一の電子レンジとしての地位を勝ち取ることができたが、より高度な性能及び構造を実現するという新たな課題が与えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−221081号公報
【特許文献2】特開2006−223336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、調理器本体の後方、奥部に集中して収容されている電気部品の配置や姿勢に工夫を施して、当該奥部の奥行き寸法を短縮して、扉を引き出した際の開寸法を短くすることなく、加熱調理器を戸棚内に収容し切る点で解決すべき課題がある。
【0015】
この発明の目的は、奥部の奥行き寸法を短縮して、扉を引き出した際の開寸法を短くすることなく加熱調理器を戸棚内に埋め込むことを可能にし、戸棚前面と開閉扉前面のフラッシュ(Flush)化(即ち、面一化)を実現して、ビルトイン機器の平坦化やインテリアデザイン性の向上を図ることができる引出し型加熱調理器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明による引出し型加熱調理器は、加熱室を有する調理器本体と、前記加熱室内から外へ引き出すことができるように移動機構によって前記調理器本体内で移動可能に配置される引出し体と、前記調理器本体の奥部に備えられ前記加熱室内で加熱物を加熱するために動作する電気部品と冷却ファンとを備えた引出し型加熱調理器において、前記電気部品は高圧トランスと高周波発生装置とを含んでおり、前記高圧トランスと前記冷却ファンとの配置位置と姿勢とを組み合わせることにより前記奥部のセット奥行き寸法を短縮したことを特徴とする。
【0017】
この引出し型加熱調理器によれば、奥部部品、即ち、調理器を作動させるための各種電気部品に含まれる高圧トランスと冷却ファンとの配置位置と姿勢とを組み合わせることで、奥部のセット奥行き寸法を短縮することができる。この奥行き寸法の短縮により、扉を引き出した際の開寸法を犠牲にすることなく、戸棚前面と開閉扉前面のフラッシュ化が実現され、電源供給用の電気コードについても天面部に収納するために天面部を特別な構造にする必要がなくなる。
【0018】
この引出し型加熱調理器においては、前記冷却ファンを横置きし、前記冷却ファンの下方に空いた空間に前記高圧トランスを配置することが好ましい。冷却ファンを横置きすることでその下方にスペースが生まれ、そのスペースを利用して高圧トランスを効率良く収納することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明による引出し型加熱調理器によれば、規格化されているキッチンキャビネット(戸棚)の壁面に埋め込み可能となり、戸棚の前面と開閉扉の前面とのフラッシュ設置により、ビルトイン機器を平坦化したインテリアデザインが可能となる。
電源ケーブルについては、工事の成行きで垂下させてよいので、工事性が改善されるとともに、調理器本体に電源ケーブル収容部の形成が不要となり、加熱調理器の軽量化及びコストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による引出し型加熱調理器をビルトイン型キッチン機器に適用した一実施例の後方室を示す右側面図と後面図である。
【図2】図1に示す引出し型加熱調理器の側面図とその一部の拡大斜視図である。
【図3】図1に示す引出し型加熱調理器の、引出し体が引き出された状態を示す側面図である。
【図4】従来のビルトイン型キッチン機器の一例を引出し体が収容された状態で示す斜視図である。
【図5】図4に示すビルトイン型キッチン機器の側面断面図である。
【図6】図4に示すビルトイン型キッチン機器を引出し体が引き出された状態で示す斜視図である。
【図7】従来のビルトイン型キッチン機器の後方室を示す右側面図と後面図である。
【図8】従来のビルトイン型キッチン機器の後方室を示す側面図とその一部の拡大斜視図である。
【図9】図8に示すビルトイン型キッチン機器の、引出し体が引き出された状態を示す側面図である。
【図10】図1に示す引出し型加熱調理器の送風経路の一例を示す加熱調理器右後方からの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明による引出し型加熱調理器の実施例を説明する。本発明による引出し型加熱調理器がビルトイン型加熱調理機器として適用されている一例が図1に示されている。引出し型加熱調理器についての基本的な構造は、従来の引出し型加熱調理器と同等であるので、既に説明した符号を用いることにより再度の説明を省略する。図1は、引出し型加熱調理器をビルトイン型キッチン機器に適用した一実施例の後方室を示す(a)右側面図と(b)後面図である。後面図では奥壁5cが取り除いてある。
【0022】
加熱室の後壁(奥板)1aは四方に延伸されて前記奥部に対する隔壁となっている。加熱調理器の奥部8は、加熱室の背面(後壁)1aの後方に設けられており、この奥部8には、加熱調理器を作動させるための基本的な電気部品が収容されている。即ち、加熱調理器の奥部には、かかる基本的な電気部品として、マイクロ波発生用の高周波発生装置であるマグネトロン54、マグネトロン54に高圧の電圧を印加するために高圧電圧を発生させる高圧トランス55、及び高圧コンデンサーを含んでいる。当該奥部には、また、マグネトロン54や、高圧トランス55等を空気冷却するために冷却風を送り込む冷却ファン56aが配置されている。
【0023】
奥部部品配置の改善の一つとして、冷却ファン56aの向きを変更している。また、冷却ファン56aは、上下方向に吸気口を有し水平方向に排気口を有するケーシングを備えている。冷却ファン56aは横置き(回転軸は縦方向に配置)されているので、冷却ファン56aが占める高さが低くなり、それによって加熱調理器全体の高さを低くするのに寄与することができる。
冷却ファン56aは、冷却風を高圧トランス55に向けて送風して、高圧トランス55及び高圧コンデンサー等の回路基板を冷却し、冷却後の空気を最終的に加熱調理器外に排出している。一方、ケーシングの排気口に近接してフィン状の放熱部を有する高周波発生装置が配設されており、冷却ファン56aによって排気口から送出された気流が高周波発生装置の放熱部を冷却した後、ダクト状の送気路を通って、加熱室壁面に設けられた開口部から加熱室6内に流入する。加熱室内の熱と湿分を伴って加熱室6外に送り出され、最終的に加熱調理器外に排出される。このように、冷却ファン56a一基を利用して、二つの冷却気流を発生し、奥部に集中配置された発熱性の電気部品の冷却を行っている。
図10は、冷却ファン56aを駆動することで外部から吸い込んだ空気を加熱室3へ送り込む送風冷却の一例の概念図である。冷却ファン56aによって生成される気流は、調理器前面下部から調理器内を流通して、加熱室3の奥板1aに発熱の大きい電気部品に対応して異なるサイズで開設されている複数の開口部から複数の気流となって奥部に流入する。この流入した複数の気流は、高圧トランス55や回路基板等の電気部品をそれぞれ冷却して、ケーシング内に吸気されて合流し、冷却ファン56aに吸い込まれる。冷却ファン56aからケーシングの排気口を通じて送り出された空気は、主要部分がマグネトロン54を冷却した後、ダクト状の送気路を通って加熱室3内へ流れ込み、その後、加熱室排気ダクト11を通って下部へ誘導された後外部へと排気される。
加熱室6内に流入した気流は、加熱室天面に設けた排気開口部から排気となって流出し、排気開口部から加熱室6の底部に向けて主として鉛直方向に配設された排気ダクトによって調理器の下部に誘導され、調理器の前面下部から、調理器外に排気される。
なお、マグネトロン54は、温度による動作特性の変動が特に大きいので、他の発熱部品より優先して冷却風量を確保する必要がある。図10に図示した加熱調理器は、他の電気部品の配置によってマグネトロン54の冷却風量が影響されないようにマグネトロン54と冷却ファン56aを互いに近接した位置に配置した送風冷却を行っている。
【0024】
奥部部品配置の改善の一つとして、高圧トランス55の形状、設置場所、及び設置姿勢を変更している。即ち、冷却ファン56aを横置きしたことによって、冷却ファン56aの下方にスペース70が生じ、このスペース70を利用して、矩形形状を有する高圧トランス55を立設する。この高圧トランス55の姿勢変更によって、高圧トランス55が占める奥行き方向の寸法が短くなり、その結果、奥部8の奥行きを縮めることが可能になる。
このように、奥部8の奥行きを縮めると同時に、奥部8に設けた電気部品の冷却気流の経路に調理器本体1の外部の外部スペースを利用することなく調理器本体1の内部で完結するよう整備しているため、冷却風量と風速が改善されることによる冷却効果の向上とともに、冷却ファンの送風効率が大きく改善され、ファンモーターの小出力化によるコスト低減の効果が得られている。
【0025】
従来の引出し型加熱調理器では、製品の下部、即ち、調理器本体1の下部に、加熱室等と隔離された通風ダクトを備えていた。梱包された製品をトラック荷台高さ以上の高度から落下させる落下試験において、落下の衝撃によって通風ダクト部が弾性変形し、重量部品である高圧トランス55が、垂直方向及び水平方向に激しく揺り動かされることが判明している。それゆえ、高圧トランス55の設置強度を特に高める必要があり、高圧トランス55の設置位置、設置方法及び設置方向に制約があった。本実施例では、製品の下部の通風ダクトを廃止し、製品内部で通風を行う構造としたため、従来、引出し型加熱調理器に特有であった、高圧トランス55の設置に関する制約事項が解消し、本実施例における設置方向での設置が可能となったものである。
【0026】
また、引出し体2の支持ローラーの取付け構造を改善することにより、扉を引き出した際の開寸法を短くすることなく、加熱室の奥行きを短縮することができ、セット奥行き寸法を短縮することができる。即ち、図8に示すように、従来の引出し型加熱調理器(全体側面図を図8(a)に示す)においては、引出し体2を箱状に構成するために、後方の奥面板12aを引出し体2の側面板12bに向けて折り曲げて折返し部72を形成し、折返し部72を引出し体2の側面板12bに対して溶接(点溶接が好ましい)をすることによって、コーナー部71を形成していた(一部Aを拡大して示す拡大斜視図である図8(b))。支持ローラーユニット73は、底面転動用のローラー73aと側面転動用のローラー73bと、これらの両ローラー73a及び73bを支持するブラケット73cとを備えており、折返し部72に突き当ててコーナー部71に隣接して取り付けられている。したがって、引出し体2の奥壁12aから、両ローラー73a及び73bの回転軸芯までの距離が折返し部72の折返し幅を含むL1となる。
【0027】
図8に示す引出し型加熱調理器において、引出し体2をフルに引出した状態が図9に示されている。支持ローラーユニット73を最も前方に位置するまで引出しても、引出し体2は折返し部72の幅の分、加熱室6内に残されている。
【0028】
従来のコーナー部71の構造、即ち、奥面板12aを側面板12bに折り返して重ねた後、奥面方向から溶接(点溶接が好ましい)する構造は、引出し体2のコーナー部71の折曲げと点溶接の工程を左右同時に実施することが容易であったために採用したものである。これに対して、本発明による引出し型加熱調理器では、折返し部の形状及び折曲げ方向を変更して、側面板を奥面板に向けて折曲げて側面板に重ねた後、側面方向から点溶接する構造とした。
【0029】
図2はこの発明による引出し型加熱調理器の実施例であり、(a)は全体側面図、(b)は一部(B)を拡大して示す拡大斜視図である。本実施例は、支持ローラーユニット73をコーナー部81に隣接して取り付けることを優先して構造を変更したものである。即ち、側面板12bの後端部を折り曲げて折返し部82とし、この折返し部82を引出し体2の奥面板12aに対して点溶接をすることで固定している。支持ローラーユニット73は、側板12bの折返し部82の際まで、換言すると、コーナー部81に隣接する位置まで後方に移動させて取り付けられている。したがって、引出し体2の奥面板12aから、両ローラー73a及び73bの回転軸芯までの距離が折返し部82の折返し幅が含まれないL2となる。このように、引出し体2のコーナー部81の点溶接位置が奥面板12a側に移動したことにより、支持ローラーユニット73をコーナー部81に隣接して取り付ける配置とすることができる。
【0030】
図2に示す引出し型加熱調理器において、引出し体2をフルに引出した状態が図3に示されている。図3に示すように、支持ローラーユニット73を最も前方に位置するまで引出すときには、引出し体2は、図9に示す位置よりも折返し部72の幅の分だけ、前方に引き出されている。
【0031】
引出し体2の奥部分の構造設計では支持ローラーが位置基準となるので、支持ローラーとコーナー部81との間隔が短縮したことは、引出し体2の奥行き寸法短縮にそのまま貢献する。さらに、引出し体2の奥行き寸法の短縮により、加熱室6の奥行き寸法の短縮が可能となる。これにより、引出し体2を引き出した際の開寸法を短くすることなく、引出し体2の奥行き及び加熱室6の奥行き方向の寸法を短くすることができ、結果的に加熱調理器本体の奥行き寸法を短縮することができる。
このように、支持ローラーユニット73をコーナー部81に隣接して取り付けることにより、引出し体2が最も奥まで収容されている状態では、支持ローラーユニット73が、加熱室の側面板と奥面板の角部に近接した剛性の高い位置に内接することから、引出し体2を斜め方向に引き出そうとして引出し体2に水平方向に転回モーメントが作用したときも、加熱室の剛性に支持されて転回モーメントに抗して転回しないため、開閉ドア2aの一方だけが加熱室の前面板との間に隙間が開くことが防止される。もし、マイクロ波を使用して加熱調理しているときに引出し体が転回して開閉ドア2aの一方だけが加熱室の前面板との間に隙間を持つように開かれると、開閉ドアの開放を検知してマイクロ波の発振を停止する安全装置であるラッチの動作が遅れる可能性があるが、支持ローラーユニット73をコーナー部81に隣接して取り付けた構造では、そのような安全装置の動作の遅れが防止され、信頼性が向上するので、好ましい。
【0032】
以上の各実施例で示したように、引出し型加熱調理器の各部分における改善を、試作検討を経て実現への障害を克服した上で、着実に積み重ねることによって、調理器本体の後方部の奥行き寸法を短縮化するとともに、引出し体2上の加熱スペースを確保することができ、加熱室6の容積を確保しながらもビルトインした状態で開閉ドア2aの前面を戸棚前面と面一致化を可能とする設計とすることで戸棚前面をすっきりした態様としたインテリアデザインを可能としたものとなっている。
【0033】
これにより、突出部をなくしたフラットなインテリアデザインとの統一感が形成できるため、従来、採用を断念していたインテリアデザインに参加することができ、引出し型加熱調理器がインテリアデザインを重視するより多くの使用者の期待に応えるものとすることができる。また、インテリアデザインの最新動向に同期できることから、雑誌掲載などの紹介を受ける機会が拡大し、引出し型加熱調理器におけるデザイン性の評価を高めることができる。
【0034】
また、電源ケーブル4については天面上に収容箇所を設ける必要がなくなり、調理器本体1の箱体構造が単純化される。これにより、収容箇所を設け、かつ、箱体強度を維持するための追加部が省略できるので、材料費及び加工費が低減できるとともに、加熱調理器の重量低減が可能となる。
また、設置工事の成り行きで垂下した状態に電源ケーブル4を収容すればよく、工事性が改善され、工事費のコストダウンが実現される。
【0035】
以上の配置改善と構造改良は、使用者のもたらす新たな課題に対して、高周波加熱調理を行う電子レンジに課せられる厳格な安全規格、ビルトイン設置構造の持つ吸排気に関する制約、及び開閉ドアの自動開閉を行う引出し型の構造から課せられる制約の全てを満足しつつ、妥当なコストで対応するための設計改善であり、実際に、量産販売を行っている設計・製造者のみが獲得できる高度な技術レベルを示すものであり、単に、従来の加熱調理器の設計・製造に従事していた当業者が容易に実現できる技術レベルを凌駕するものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
電子レンジ、電気オーブン、食器洗浄乾燥機のような、単独の機器として、或いは複合加熱調理器のコンポーネントとして、家具やキャビネット内に組み込まれるビルトイン型キッチン機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 調理器本体 1a 背面
2 引出し体 2a 開閉ドア
3 操作パネル 4 電源コード
5 キッチンキャビネット 5a クッキングトップ 5c 奥壁
6 加熱室 7 接続部
8 スペース(後方室) 9 スライド機構
10 可動レール 12 壁部
12a 奥面板 12b 側面板
54 マグネトロン 55 高圧トランス
56 ファンモーター 56a 冷却ファン
59 下辺部 63 吸気口
70 冷却ファン56aの下方のスペース 71 コーナー部
72 折返し部 73 支持ローラーユニット
73a 底面転動用のローラー 73b 側面転動用のローラー
73c ブラケット
81 コーナー部 82 折返し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱室を有する調理器本体と、
前記加熱室内から外へ引き出すことができるように移動機構によって前記調理器本体内で移動可能に配置される引出し体と、
前記調理器本体の奥部に備えられ前記加熱室内で加熱物を加熱するために動作する電気部品と冷却ファンとを備え、
前記加熱室の奥板が四方に延伸されて前記奥部に対する隔壁となっている引出し型加熱調理器において、
前記引き出し体は前記加熱室内への収納状態で前記加熱室の前面開口部を閉鎖可能な開閉扉を備えており、
前記電気部品は高圧トランスと高圧コンデンサーと高周波発生装置とを含んでおり、
前記高圧トランスと前記冷却ファンとの配置位置と姿勢とを組み合わせることにより前記奥部のセット奥行き寸法を短縮したことを特徴とする引出し型加熱調理器。
【請求項2】
前記冷却ファンは横置きされて、上下方向に吸気口を有し水平方向に排気口を有するケーシングを備え、前記排気口に近接してフィン状の放熱部を有する高周波発生装置が配設され、前記冷却ファンによって前記排気口から送出された気流が前記高周波発生装置の放熱部を冷却した後前記加熱室壁面に設けられた開口部から前記加熱室内に流入するためのダクト状の送気路が形成され、
前記冷却ファンによって生成される気流は、前記調理器前面下部から前記調理器内を流通して前記奥板に開設された複数の開口部から複数の気流となって前記奥部に流入して前記電気部品を冷却し、
前記複数の気流は、前記ケーシング内に吸気されて合流し、前記ケーシングの排気口から送出される気流の大要部が前記ダクト状の送気路に流入することを特徴とする請求項1記載の引出し型加熱調理器。
【請求項3】
前記開口部から前記加熱室内に流入した気流は、前記加熱室天面に設けた排気開口部から排気となって流出し、前記排気開口部から前記加熱室の底部に向けて主として鉛直方向に配設された排気ダクトによって前記調理器の下部に誘導され、前記調理器の前面下部から、前記調理器外に排気されることを特徴とする請求項2記載の引出し型加熱調理器。
【請求項4】
前記引出し体は、前記加熱室の側壁面に対して転動して前記加熱室の前記側壁面に対する圧力を発生することにより前記引出し体が前記加熱室から最も引き出された位置に至るまで支持する支持ローラーを奥端部に備えており、
前記引出し体は、側面板を延伸した金属板の延伸部を折曲げ成型して奥面板と重複させ、当該重複部にて前記側面板及び前記奥面板を点溶接して箱型形状とされており、
前記側面板の奥端下部の左右コーナー部に隣接した部分に前記支持ローラー取付け部を点溶接して固定し、
前記引出し体の前記支持ローラー取付け部から引出し体奥方向へ突出した部位を短縮することにより前記引出し体及び前記加熱室の奥行き寸法を短縮したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の引出し型加熱調理器。
【請求項5】
前記引出し型加熱調理器はキッチンキャビネットにビルトインされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の引出し型加熱調理器。
【請求項6】
前記キッチンキャビネットのキャビネット前面と前記開閉扉の扉前面とはフラッシュ設置されていることを特徴とする請求項4記載の引出し型加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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