説明

引戸構造

【課題】本発明は、車椅子使用者自らが必要に応じて車椅子に乗った状態のままで容易に開口幅を広げる操作ができ、しかも通常の片引戸と同等のプライバシーの確保が可能で、健常者の使用にも支障がない引戸構造を提供することを目的とする。
【解決手段】片引形式の戸20と枠体10とからなり、前記戸20は、前記枠体10の引き込み部16側に配置される第1の戸21と、前記枠体10の開口部17側に配置される第2の戸22と、からなり、前記第1の戸21は、前記枠体10の引き込み代以上の幅を有するとともに、前記枠10を構成する上枠11と下枠12のガイド11a、12aにけんどん式に嵌め込まれて摺動し、前記第2の戸22は、前記第1の戸21と横手同士を対向させた状態で丁番で連結され、該丁番を軸として略180°回動して前記第1の戸21と重なり得るように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部の間仕切り壁に設置する引戸形式の建具構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車椅子使用者が居住、あるいは利用する建物の間仕切壁に出入用の建具を設置する場合、開き戸形式よりも開閉の際の移動量が少なくて済み、幅の狭い廊下などでも利用しやすい引戸形式の建具を採用することが好ましいとされている。
【0003】
しかし、引戸は開口幅を確保するために戸の引き込み代を確保する必要や、開放状態の戸を閉めるための取手を設ける引き残し部分を確保する必要があるので、住宅のように比較的小規模でありながら目的に応じて室内空間を間仕切壁等で細かく分割して使用する必要のある建物の場合、所望の開口幅が確保できず出入りに支障をきたすことがあった。
【0004】
特許文献1においてこのような問題を解決し得る出入口構造の提案がなされている。特許文献1に開示された出入口構造は、幅寸法の異なる親戸と子戸とが引き違いに設けられたものであり、普段は通常の片引戸として使用でき、親戸と子戸とを取り外すことにより出入口の充分な開口幅を確保することができるように構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2001−207662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の出入口構造は、戸を枠体に嵌め込んだままの状態で開口幅を広げることができず、開口幅を広げる際にはその都度親戸と子戸の双方を枠体から取り外さなくてはならず手間がかかるという問題があり、しかもこの作業は車椅子使用者自らが行ない得るものではなく、介護者等の存在なしには使用できないという問題もあった。 また、特許文献1の中で想定している使用形態の通り、車椅子使用者のために戸を外したままとし、カーテン等の簡易な手段で遮蔽した場合、プライバシーが充分に確保できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、車椅子使用者自らが必要に応じて車椅子に乗った状態のままで容易に開口幅を広げる操作ができ、しかも通常の片引戸と同等のプライバシーの確保が可能で、健常者の使用にも支障がない引戸構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る引戸構造は、片引形式の戸と枠体とからなり、前記戸は、前記枠体の引き込み部側に配置される第1の戸と前記枠体の開口部側に配置される第2の戸とからなり、前記第1の戸は、前記枠体の引き込み代以上の幅を有するとともに、前記枠体を構成する上枠と下枠のガイド部にけんどん式に嵌め込まれて摺動し、前記第2の戸は、前記第1の戸と横手同士を対向させた状態で丁番で連結され、該丁番を軸として略180°回動して前記第1の戸と重なり得るように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の引戸構造によれば、戸が第1の戸と第2の戸に分割され、枠体の開口部側に突出した部分を丁番を軸として折り畳むことができるので、戸の引き込み代が充分確保できない場合であっても、枠体の開口幅を大きく取ることができ車椅子使用者の出入りを容易に行なうことができる。
【0010】
また、開口幅を広げるにあたり特に大掛かりな作業が必要なく、手の機能に障害を持たない車椅子使用者の生活の自立を促すことができる。
【0011】
さらに、通常は一般の引戸形式の建具と同様の使い方が可能であり、プライバシーの確保という点において一般の引戸形式の建具に劣るものではないので、健常者であっても車椅子使用者であっても支障なく快適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る引戸構造の最良の形態について説明する。本発明は、従来の一般的な引戸構造を構成する戸に対し軽微な変更を加えることによって、車椅子使用者にとっても健常者にとっても使い勝手のよい引戸構造を実現したものである。
【0013】
本発明の引戸構造を構成する枠体は、上枠、下枠、方立(垂直な左右の枠)、及び中方立(中間部の垂直な枠)からなる一般的な片引戸用の枠体と同一の構成でよい。但し、所望の開口幅が得られるように中方立の位置設定がなされる必要がある。
【0014】
一般的な片引戸用の枠体と同様、上下の枠には戸の摺動時のガイドとなる溝、レール等を備えており、バリアフリー化の為、下枠やガイドによって床に段差を生じることがないように構成することが好ましい。戸を廊下と便所等の部屋との境界部に設置する場合、戸が間仕切壁の廊下側の面に沿って摺動するように構成しても部屋側の面に沿って摺動するように構成してもよい。
【0015】
本発明の引戸構造を構成する戸は、枠の引き込み部側に配置される第1の戸と、該枠の開口部側に配置される第2の戸との組み合わせで構成される。
【0016】
第1の戸は、上端部と下端部が上下の枠の溝やレール等からなるガイドに嵌め込まれガイドに沿って摺動する、一般的な片引き形式の戸である。
【0017】
上端部は上枠の溝の幅に対応した欠き込み部を形成したり、突出部を設けるなどする。下端部は、単純に戸の厚みに対応した下枠の溝にはめこんで下端面が溝の底面上を滑動する形式でもよいし、戸車を取り付けて下枠のレール上を戸車が移動する形式でもよい。但しバリアフリー化の為には、外周部の断面がV字状の戸車を取り付け、これをV字状の幅の狭い溝(Vレール)の上で走らせるのが溝の段差の影響が少なく好ましい。
【0018】
第1の戸の幅は、枠体の引き込み代と同じかそれよりも大きく設定すればよいが、枠体の開口幅を最大限有効に活用する為には枠体の引き込み代と同じ、即ち戸を完全に引き込んだ場合に戸の横手と中方立のツラがほぼ揃うようにするのが好ましい。
【0019】
第2の戸は、第1の戸と丁番によって連結されて第1の戸の移動に連動し、一直線の状態では横手同士が対向して第1の戸と面が揃い、丁番を回動の軸として折り畳まれた状態では第1の戸と同じ側の面同士が対向して重なるように構成する。従って、欠き込み部や戸車を設けず、上下枠のガイドとは縁を切り自由に回動するように構成する。そして、通常の使用時には第2の戸は折り畳まず、第1の戸と一直線の状態で一般の引戸と同様の方法で開閉し、車椅子使用者の出入り等の際には折り畳んで開口幅を広げて使用する。
【0020】
第2の戸の幅は特に限定されるものではないが、丁番を軸に回動した際に第2の戸が室内の備品との干渉がなく、また車椅子使用者が身体や車椅子を退避させる必要がないように設定する必要がある。
【0021】
第1の戸と第2の戸との連結に使用する丁番は特に限定されるものではないが、連結部に大きな隙間が生じることがなく意匠的にも優れたかくし丁番が好ましい。
【0022】
第1の戸と第2の戸との連結部の隙間がプライバシーを損なう場合には、その対策として、横手面に凹凸を設けて該凹凸が噛み合うように構成するのが好ましい。
【0023】
また、折り畳んだ状態で丁番を軸とした第2の戸の遊動を防止する機構を備えているのが好ましい。但し、第2の戸を折り畳んだ状態は一時的なもので、しかも大きな力が加わるということもないので、マグネットキャッチ、テープファスナ(例えばマジックテープ(登録商標))、吸盤など簡易で比較的弱い拘束力で動きを規制すれば十分である。
【0024】
同様に、折り畳んでない一直線の状態での戸の遊動の防止機構を備えているのが好ましい。この場合は、第2の戸の引き手を把持して第1の戸を移動させるので防止機構に比較的大きな力が作用し、また、車椅子使用者が出入りする時以外は常時一直線の状態にあるので防止機構としては、安定して一直線の状態を維持し得るものが好ましい。例えば〔1〕閂(かんぬき)や鎌錠を横手に取り付けて連結、解除を行なう、〔2〕比較的磁力の大きなマグネットを横手に取り付ける、等の方法が考えられる。
【0025】
本発明の引戸構造は、出入口用の建具構造に限らず、収納部用の建具構造にも展開が可能である。
【実施例】
【0026】
次に本発明の引戸構造の実施例について図を用いて説明する。本実施例は、住宅の廊下から便所に出入りするための出入口に本発明にかかる引戸構造を適用したものである。図1は引戸構造を用いた住宅の部分的な平面図、図2は引戸構造の斜視図、図3は引戸構造の横断面図、図4は引戸構造の縦断面図、図5は引戸構造の正面図、図6はかくし丁番の斜視図である。また、図7に図3の部分拡大図を示す。
【0027】
引戸構造1は枠体10と戸20とで構成され、枠体10は廊下2と便所3を仕切る間仕切壁4に固定されている。
【0028】
枠体10は、上枠11、下枠12、方立13、14、及び中方立15からなり、戸20が便所3側を摺動するように構成されている。上枠11の下面には、戸20を摺動させる場合の上部ガイドとしての溝11aが長手方向に形成されている。下枠12は、上面が床5の仕上げ面とほぼ同一となるように床5に埋め込まれ、上面の長手方向に形成された溝12aには、戸20の下部ガイドとしての金属製のVレール12bが収容されている。方立13、14は、間仕切り壁4のうちの一般部の間仕切壁4aの厚さに対応した幅を有し、中方立15は間仕切り壁4のうちの引き込み部16の間仕切壁4bの厚みに対応した幅を有する。方立13の端面からと中方立15の端面までの寸法が枠の開口部17の幅Waであり、車椅子使用者が車椅子に騎乗した状態で出入り可能な寸法に設定されている。また、方立14の端面から中方立15の端面までの寸法が引き込み部16の幅(引き込み代)Wbである。
【0029】
戸20は、枠体10の引き込み部16側に配置される第1の戸21と、該枠体10の開口部17側に配置される第2の戸22とで構成されている。
【0030】
第1の戸21の幅W1は、引き込み部16の引き込み代Wbに等しくなるように設計されている。第1の戸21の上端面には上枠11に形成された溝11aに対応した突出片21aが設けられ、下端面には下枠12の溝12aに収容されたVレール12bに対応した形状の車を有する戸車21bが2ケ設けられている。
【0031】
第2の戸22は、幅がW2であり、第1の戸21と同一の厚みと見かけの高さ(上下の枠に嵌り込んでいる部分以外の高さ)を有し、同一の仕上げが施され、かくし丁番23で連結されている。かくし丁番23は夫々の戸の横手21a、22aをえぐって埋めこんであり、第2の戸22が第1の戸21と一直線の状態から折り畳まれて第1の戸21と重なり合った状態まで回動自在に連結されている。第2の戸22の廊下2側の面には大型の引き手25が設けられている。
【0032】
第1の戸21と第2の戸22とは、通常は一直線状態で使用される。尚、第2の戸22の遊動を防止し、戸20の一直線状態を維持するために、かくし丁番23には図6に示すような閂機構が内蔵されている。閂機構は、操作つまみ24bを回して操作つまみ24bに連結した軸24dの先端部のピニオンギアを回転させ、該ピニオンギアと噛み合うラックギアが形成された閂棒24aを突出させて孔24cに嵌め込み第1の戸21と第2の戸22との一直線状態を維持することができる。この状態で戸20を引き込むと、丁度第2の戸22が中方立15の端面から突出し、開口部17の有効な幅は(Wa−W2)となる。
【0033】
この状態から開口部17の有効な幅を広げたい場合には、戸20を引き込んだ状態で操作つまみ24bを回して閂棒24aを孔24cから抜き出すことで第2の戸22を回動自在とし、第2の戸22を折り畳み第1の戸21に重ねる(あるいは、第2の戸22を折り畳み第1の戸21に重ねた状態とした後に引き込んでもよい。)。このように第2の戸22を折り畳んだ状態を維持して戸20を引き込んでおくことにより、開口部17の有効な幅はW2だけ広がってWaとなり、車椅子に乗った状態での進入が容易になる。
【0034】
便所3の内部に進入した後は、第2の戸22をのばして第1の戸21と一直線状態になるようにした上で戸20を閉じる。便所3から退出する場合は、進入する際と同様の要領で戸20を開放する。こうすることで、進入時と同様に車椅子に乗った状態で容易に退出できる。
【0035】
尚、第1の戸21と第2の戸22とが折り畳まれた状態で対向する位置には、マグネットキャッチ26が内蔵されており、第2の戸22が折り畳まれた状態での遊動を防止している。第1の戸21の厚さ方向の移動は、ガイドである溝11aやVレール12bによって制限されているので、折り畳まれた第2の戸をのばし一直線状態にもどす作業は、第2の戸22のみを把持し第1の戸21から引き離すことで容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の引戸構造を用いた住宅の部分平面図である。
【図2】図1の引戸構造の斜視図である。
【図3】図1の引戸構造の横断面図である。
【図4】図1の引戸構造の縦断面図である。
【図5】図1の引戸構造の正面図である。
【図6】本発明に用いるかくし丁番の一例の斜視図である。
【図7】図3の引戸構造の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
2 廊下
3 便所
4 間仕切壁
4a 一般部の間仕切壁
4b 引き込み部の間仕切壁
5 床
10 枠体
11 上枠
11a 溝
12 下枠
12a 溝
12b Vレール
13 方立
14 方立
15 中方立
16 引き込み部
17 開口部
20 戸
21 第1の戸
21a 横手
21b 戸車
22 第2の戸
22a 横手
23 丁番(かくし丁番)
24a 閂棒
24b 操作つまみ
24c 孔
24d 軸
25 引き手
26 マグネットキャッチ
26a マグネットキャッチ本体
26b マグネットキャッチ受け座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片引形式の戸と枠体とからなり、
前記戸は、前記枠体の引き込み部側に配置される第1の戸と、前記枠体の開口部側に配置される第2の戸と、からなり、
前記第1の戸は、前記枠体の引き込み代以上の幅を有するとともに、前記枠体を構成する上枠と下枠のガイド部にけんどん式に嵌め込まれて摺動し、
前記第2の戸は、前記第1の戸と横手同士を対向させた状態で丁番で連結され、該丁番を軸として略180°回動して前記第1の戸と重なり得るように構成したことを特徴とする引戸構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−45340(P2008−45340A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222267(P2006−222267)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】