説明

弦楽器用弓竿の製造方法及び弦楽器用弓竿

【課題】弓竿の重量分布や重心位置、重量を細かく且つ容易に調整できる弦楽器用弓竿の製造方法を提供する。
【解決手段】弦楽器で使用される繊維強化プラスチック製の弓竿1を製造する方法であって、繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを、先端に向かって漸次径が細くなる芯金に巻き付ける工程と、芯金にプリプレグが巻き付けられた中間体を金型内に設置した後、この中間体を金型内で加熱加圧することにより、金型と芯金との間に形成されるキャビティに対応した形状に成形する工程と、キャビティに対応した形状に成形された成形体から芯金を抜き取ることによって、中空長尺状の竿本体1Aを得る工程とを含み、竿本体1Aの重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つを調整する際に、芯金の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、キャビティの容積を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器用弓竿の製造方法及び弦楽器用弓竿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バイオリンやビオラ、チェロ、コントラバスなどの弦楽器用の弓(ボウ)には、木製の弓竿(スティック)が使用されており、その中でも、高密度で硬く、湿気に強く、曲げ強度に優れたフェルナンブコ材が弓竿に最適な材料として用いられている。しかしながら、フェルナンブコ材は、原木の伐採によって数が激減し、近年の国際的な取引規制によって入手が困難となっている。
【0003】
そこで、フェルナンブコ材などの木製の弓竿に代わるものとして、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化プラスチック(CFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)などの繊維と樹脂との複合材料を用いた繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)製の弓竿が開発されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、木製の弓竿は、木材から削り出して一つ一つ手作業で仕上げられるため、全く同じものを製造することができないのに対し、FRP製の弓竿は、同じ材料と金型を用いて作製されるため、工業的に同じものを再現性良く製造することが可能である。さらに、木製の弓竿を製造する場合は、天然素材である木材に密度のバラツキがあるため、外形形状や寸法を変えずに、例えば弓竿の重量分布や重心位置、重量などを調整することは困難である。
【0005】
ところで、中空状繊維強化樹脂成形体の製造方法としては、内圧成形法と呼ばれる方法を挙げることができる(例えば、特許文献2を参照。)。この内圧成形法では、繊維に未硬化の樹脂を含浸させたプリプレグを、可撓性素材からなる加圧用袋に巻き付けた後、金型に設置する。そして、型締め後に加圧用袋を膨らませてプリプレグを金型の内面に押し付けながら加熱する。これにより、プリプレグを金型と加圧用袋との間に形成されるキャビティに対応した形状に成形することができる。
【0006】
しかしながら、この内圧成形法を用いた中空状繊維強化樹脂成形体の製造方法では、上述した加圧用袋を膨らませたときに、金型内でプリプレグが動くことによって、加圧用袋の膨らみにバラツキが生じることがあった。
【0007】
したがって、このような内圧成形法を用いて弓竿を製造した場合には、上述したキャビティの形状が成形毎に一定とならず、成形される弓竿の重量分布や重心位置にバラツキが生じることになる。
【0008】
一方、本発明者らは、先細りの形状であるスプリングバックが可能な金属製の柱状の芯金に、FRPプリプレグを巻き付け、このFRPプリプレグを巻き付けた芯金を、中空構造物の外形部分をキャビティとする金型内に設置し、ついで、この金型を加熱して成形品を得た後、芯金を脱芯する中空構造物の成形方法を提案している(特許文献3を参照。)。
【0009】
この中空構造物の成形方法を用いて弓竿を製造した場合には、成形時に金型と芯金との間に形成されるキャビティの形状を成形毎に一定に保つことができる。したがって、上述した成形後の弓竿に重量分布や重心位置のバラツキが生じるのを防ぐことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭44−19189号公報
【特許文献2】特開平11−48318号公報
【特許文献3】特許第3541756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、弦楽器用の弓竿は、その重量分布や重心位置、重量などの僅かな違いによっても、使用者(弦楽器の演奏者)の嗜好が分かれることから、上述したFRP製の弓竿を製造する場合、このような使用者の嗜好に合わせて、弓竿の重量分布や重心位置、重量などを細かく調整したものを複数取り揃えておくことが求められる。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、弓竿の重量分布や重心位置、重量を細かく且つ容易に調整できる弦楽器用弓竿の製造方法、並びに、そのような製造方法を用いて、重量分布や重心位置、重量が精度良く調整された弦楽器用弓竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係る弦楽器用弓竿の製造方法は、弦楽器で使用される繊維強化プラスチック製の弓竿を製造する方法であって、繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを、先端に向かって漸次径が細くなる芯金に巻き付ける工程と、芯金にプリプレグが巻き付けられた中間体を金型内に設置した後、この中間体を金型内で加熱加圧することにより、金型と芯金との間に形成されるキャビティに対応した形状に成形する工程と、キャビティに対応した形状に成形された成形体から芯金を抜き取ることによって、中空長尺状の竿本体を得る工程とを含み、竿本体の重量分布、重心位置、重量の少なくとも1つを調整する際に、芯金の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、キャビティの容積を変化させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る弦楽器用弓竿は、弦楽器で使用される繊維強化プラスチック製の弓竿であって、先端に向かって漸次径が細くなる軸孔を有して中空長尺状に成形された竿本体を備え、軸孔の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させることによって、竿本体の重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つが調整されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係る弦楽器用弓竿の製造方法では、芯金の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、キャビティの容積を変化させることで、金型を変更することなく、この金型内で成形される竿本体の重量分布や重心位置、重量を細かく且つ容易に調整することが可能である。
【0016】
また、本発明に係る弦楽器用弓竿では、軸孔の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させることで、竿本体の外形形状や寸法を変更することなく、この竿本体の重量分布や重心位置、重量を精度良く調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態として示す弦楽器用弓の平面図である。
【図2】上記図1に示す弦楽器用弓が備える弓竿を示し、(a)はその平面図、(b)はそのX−X’断面図、(c)はそのX−X’断面図である。
【図3】上記図2に示す弓竿の製造方法を説明するための図であり、(a)はマンドレルにプリプレグを巻き付ける前の状態を示す模式図であり、(b)はマンドレルにプリプレグが巻き付けられた状態を示す模式図である。
【図4】上記図2に示す弓竿の製造方法を説明するための図であり、一方の金型を突合せ面側から見た平面図である。
【図5】上記図2に示す弓竿の製造方法を説明するための図であり、(a)は中間体が一方の金型に設置された状態を示す断面図であり、(b)は金型が型締めされた状態を示す断面図である。
【図6】上記図2に示す弓竿の製造方法を説明するための図であり、(a)は成形体(竿本体)からマンドレルが抜き取られた状態を示す断面図であり、(b)は竿本体(弓竿)が金型から離型された状態を示す断面図である。
【図7】(a)は、マンドレルの径を軸線方向において段階的に変化させた一例を示す模式図であり、(b)は、マンドレルのテーパー角を軸線方向において段階的に変化させた一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した弦楽器用弓竿の製造方法及び弦楽器用弓竿について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
本発明の一実施形態として図1に示す弦楽器用弓(ボウ)は、例えばバイオリンやビオラ、チェロ、コントラバスなどの弦楽器で使用されるものであり、フェルナンブコ材などの木製の弓竿(スティック)に代わるものとして、例えばCFRP製の弓竿1を用いた、いわゆるカーボン弓と呼ばれるものである。
【0020】
この図1に示す弦楽器用弓は、弓竿1の先端側に設けられたヘッド部1aと、基端側の外周部に取り付けられたフロッグ2との間でヘアー3が張設されると共に、この弓竿1の基端部に取り付けられたスクリュー4を回すことで、ヘアー3の張り具合(テンション)を調整することが可能となっている。
【0021】
弓竿1は、図2(a)〜(c)に示すように、上記ヘッド部1aと一体に成形された中空長尺状の竿本体1Aを備えている。この竿本体1Aは、上記ヘアー3が張設される側とは反対側に反った弓形形状を有し、上記ヘアー3を張設したときに反った方向とは逆方向に曲げる(弾性変形させる)ことが可能となっている。
【0022】
竿本体1Aは、図2(a)に示すように、上記ヘッド部1aを除いて先端側が基端側よりも全体として細くなる外形形状を有している。また、弓本体1Aの断面形状は、図2(b)に示すように、その軸線方向に亘って略円形状を為しているが、この竿本体1Aの曲げ強度(剛性)やデザイン性等を高めるため、その基端側の一部が図2(c)に示すような略八角形状を為している。
【0023】
竿本体1Aの中心部には、断面略円形状の軸孔1bが軸線方向に亘って形成されている。また、軸孔1bは、上述した竿本体1Aの外形形状に合わせて、その基端側から先端側に向かって漸次径が細くなる、いわゆるテーパー形状(先細り形状)を有している(φ<φ)。
【0024】
なお、上記図2に示す弓本体1Aの形状は、ほんの一例であり、この竿本体1Aの形状については、上述した曲げ強度(剛性)やデザイン性等を考慮して、その軸線方向における各位置での太さや断面形状などを適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
次に、上記弓竿1の製造方法について図3〜図6を参照しながら説明する。
上記弓竿1を製造する際は、先ず、図3(a),(b)に示すように、マンドレル(芯金)10にプリプレグ11を巻き付ける。
【0026】
マンドレル10は、後述する図4に示す金型20内に入れて、巻き付けられたプリプレグ11を上記弓竿1に成形する空間(キャビティ)を規定するものであり、例えばスプリングバックが可能な金属棒からなる。また、マンドレル10は、上記竿本体1Aの軸孔1bを成形するため、その基端側から先端側に向かって漸次径が細くなるテーパー形状(先細り形状)を有している。
【0027】
プリプレグ11は、炭素繊維に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたものであり、例えば、炭素繊維を一方向に引き揃えて熱硬化性樹脂を含浸させたものや、平織、綾織又は朱子織された炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたもの、短繊維化した炭素繊維を熱硬化性樹脂で固めたものなどを用いることができる。また、熱硬化性樹脂には、例えばエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0028】
本発明では、上記キャビティの形状に合わせて、予めマンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の量を軸線方向において調整している。具体的に、本発明では、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の巻き付け幅分布を変えることによって、上記キャビティの大きさ(容積)に合わせてプリプレグ11の量を調整する。
【0029】
このプリプレグ11の巻き付け幅分布は、図3(a)に示すように、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の面積によって、成形される竿本体1Aの重量を変えることができる。すなわち、プリプレグ11の面積を大きくすれば、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の巻付け量を増やし、成形される竿本体1Aの重量を大きくすることが可能である。一方、プリプレグ11の面積を小さくすれば、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の巻付け量を減らし、成形される竿本体1Aの重量を小さくすることが可能である。
【0030】
また、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の形状によって、成形される竿本体1Aの重量分布及び重心位置を変えることができる。すなわち、プリプレグの巻き取り側の端部に傾斜部11aを設け、この傾斜部11aの位置や角度を調整することによって、成形される竿本体1Aの重量分布及び重心位置を調整することが可能である。
【0031】
また、プリプレグ11の巻き付け幅分布を調整する際は、上述したプリプレグ11の面積及び形状に合わせた巻き付け幅分布となるように、複数枚に分割されたプリプレグ11をマンドレル10に積層して巻き付けてもよい。この場合も、マンドレル10に巻き付けられるプリプレグ11の量を軸線方向において調整することが可能である。
【0032】
次に、図5(a)に示すように、マンドレル10にプリプレグ11が巻き付けられた中間体1Bを金型20内に設置する。
【0033】
金型20は、図4及び図5(a),(b)に示すように、上記竿本体1A(弓竿1)の外形形状を規定するものであり、上下方向に分割された一対の下型21及び上型22を有している。これら下型21及び上型22は、上記竿本体1A(弓竿1)を軸線方向に沿った分割面を挟んで左右対称に成形するものであり、互いの突合せ面には、それぞれ上記竿本体1A(弓竿1)の外形形状に対応した形状の凹部21a,22aが形成されている。
【0034】
そして、金型20は、これら下型21と上型22とを突き合わせたときに、互いの凹部21a,22aが突き合わされることによって、上記竿本体1Aの外形形状に対応した空間を形成することが可能となっている。
【0035】
なお、下型21と上型22とは、互いの凹部21a,22aが左右対称に形成されている以外は同様の形状を有することから、図4においては、一方の金型20(下型21)のみを図示している。
【0036】
金型20は、図5(a)に示すように、下型21の凹部21a内に上記中間体1Bを設置した後、下型21と上型22とを突き合わせることによって、図5(b)に示すように、型締めされた状態となる。
【0037】
このとき、金型20とマンドレル10との間には、上記竿本体1A(弓竿1)に対応した形状のキャビティSが形成される。また、上記中間体1Bは、このキャビティS内に充填された状態となっている。
【0038】
そして、型締め後に、上記中間体1Bを金型20内で加熱加圧する。これにより、上記中間体1Bは、プリプレグ11中の熱硬化性樹脂を硬化させながら、上記キャビティSに対応した形状に成形されることになる。
【0039】
次に、図6(a),(b)に示すように、上記キャビティSに対応した形状に成形された成形体、すなわち竿本体1Aからマンドレル10を抜き取る。その後、下型21と上型22との突き合わせを解除することによって、この竿本体1A(弓竿1)を金型20から離型させることができる。なお、マンドレル10は、上記竿本体1Aを金型20から離型した後に、上記竿本体1Aから抜き取ることも可能である。
以上のような工程を経ることによって、上記図2に示す弓竿1を作製することが可能である。
【0040】
なお、上記弓竿1のヘッド部1aについては、図示を省略するものの、上記中間体1Bとは別に、中芯型にプリプレグが巻き付けられた中間体を金型20内に設置した後、上記中間体1Bと共に金型20内で加熱加圧することで、上記竿本体1Aと一体に成形される。
【0041】
ところで、本発明を適用した弓竿1の製造方法は、上記竿本体1Aの重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つを調整する際に、上記マンドレル10の径又は径の変化率(テーパー角)を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、上記キャビティSの容積を変化させることを特徴としている。
【0042】
具体的に、本発明では、例えば図7(a)に模式的に示すような軸線方向において径を段階的に変化させたマンドレル10Aを用いることができる。このマンドレル10Aには、その先端側から基端側に向かって順次径を大きくした部分10a〜10eが段差10f〜10iを挟んで軸線方向に並んで設けられている。すなわち、これら各部分10a〜10eのテーパー角は同じであるものの、一定の距離毎に段差10f〜10iを設けて各部分10a〜10eの径を変化させている。
【0043】
一方、本発明では、例えば図7(b)に模式的に示すような軸線方向においてテーパー角を段階的に変化させたマンドレル10Bを用いることができる。このマンドレル10Bには、その先端側から基端側に向かって順次テーパー角を大きくした部分10j〜10nが軸線方向に並んで設けられている。すなわち、これら各部分10a〜10eのテーパー角は異なっており、一定の距離毎に各部分10a〜10eのテーパー角を変化させている。
【0044】
本発明では、これらマンドレル10A,10Bにおける各部分10a〜10e,10j〜10nの径や、径の変化率(テーパー角)、更に各部分10a〜10e,10j〜10nの長さ(段差10f〜10iの間隔)などを調整することで、上記キャビティSの容積を変化させることが可能である。
【0045】
そして、本発明では、上記キャビティSの容積が変化したのに合わせて、上記プリプレグ11の巻き付け幅分布の調整を行う。すなわち、上記キャビティSの容積に合わせて、上記マンドレル10A,10Bに巻き付けられるプリプレグ11の量を軸線方向において調整する。
【0046】
これにより、本発明では、上記金型20を変更することなく、この金型20内で成形される竿本体1Aの重量分布や重心位置、重量等を細かく且つ容易に調整することが可能となる。また、本発明では、上記竿本体1Aの外形形状や寸法を変更することなく、この竿本体1Aの重量分布や重心位置、重量等が精度良く調整された弓竿1を得ることが可能となる。
【0047】
以上のように、本発明を適用した弓竿1の製造方法では、マンドレル10の径又は径の変化率(テーパー角)を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、キャビティSの容積を変化させることで、金型20を変更することなく、この金型20内で成形される竿本体1Aの重量分布や重心位置、重量を細かく且つ容易に調整することが可能である。
【0048】
また、本発明を適用した弓竿1では、軸孔1bの径又は径の変化率(テーパー角)を軸線方向において段階的に変化させることで、竿本体1Aの外形形状や寸法を変更することなく、この竿本体1Aの重量分布や重心位置、重量を精度良く調整することが可能である。
【0049】
したがって、本発明によれば、上記図1に示す弦楽器弓を使用する使用者(弦楽器の演奏者)の嗜好に合わせて、上記弓竿1の重量分布や重心位置、重量などが細かく調整され弦楽器弓を複数取り揃えておくことが可能となる。そして、使用者は、その中から本人の嗜好に合ったものを選んで使用することが可能となる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0051】
具体的に、本発明において、上記図7(a),(b)に示すマンドレル10A,10Bの形状は、ほんの一例であり、これらマンドレル10A,10Bの形状に必ずしも限定されるものではない。
【0052】
例えば、上記図7(a)に示すマンドレル10Aでは、上記径を変化させた部分10a〜10e及び段差10f〜10iの配置や数等を適宜変更することが可能である。また、上記図7(a)に示すマンドレル10Aでは、上記段差10f〜10iが傾斜したものであってもよい。同様に、上記図7(b)に示すマンドレル10Bでも、上記テーパー角を変化させた部分10j〜10nの配置や数等を適宜変更することが可能である。
【0053】
また、上記図7(a),(b)に示すマンドレル10A,10Bでは、上記各部分10a〜10e,10j〜10nの径を軸線方向において直線状に異ならせたり、曲線状に異ならせたりすることが可能である。さらに、これらの形状を組み合わせて上記キャビティSの容積を変化させることも可能である。
【0054】
すなわち、本発明では、上記成形体(竿本体1A)から抜き取れるように、少なくとも先端側が基端側よりも全体として細くなる形状(先細り形状)を有するマンドレル10を使用し、その中で上記竿本体1Aを作製する上で必要な肉厚(キャビティS)を確保できる範囲で、マンドレル10の形状を変化させたものを使用することが可能である。
【0055】
また、本発明では、上記竿本体1Aの重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つを調整する際に、上記マンドレル10の径又は径の変化率(テーパー角)を軸線方向において段階的に変化させたものを複数種用意し、この中から選択された一のマンドレル10を用いて、上記キャビティSの容積を変化させることが可能である。
【0056】
この場合、同じ外形形状及び寸法を有する弓竿1の中で、重量分布や重心位置、重量などが段階的に調整されたものを複数取り揃えておくことが可能となる。
【0057】
なお、本発明を適用した弓竿1は、上述したCFRP製のものに限らず、例えば、GFRP製のものや、CFRPとGFRPとを組み合わせたものなどを挙げることができ、このような繊維と樹脂との複合材料を用いたFRP製の弓竿に対して、本発明を幅広く適用することが可能である。
また、プリプレグ11は、上述した熱硬化性樹脂を用いたものに限らず、例えばナイロン樹脂やポリカーボネート樹脂(PC)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などの熱可塑性樹脂を用いたものであってもよい。
さらに、弓竿1には、例えば木目調の外装を施してもよい。これにより、木製の弓竿に近い外観を得ることが可能である。
【0058】
また、本発明では、上記金型20(下型21及び上型22)に形成された凹部21a,22aの形状を変えて、上記弓竿1の外形形状や寸法等を変更したものを作製してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…弓竿 1A…竿本体 1a…ヘッド部 1b…軸孔 2…フロッグ 3…ヘアー 4…スクリュー 10,10A,10B…マンドレル(芯金) 11…プリプレグ 20…金型 21…下型 22…上型 S…キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弦楽器で使用される繊維強化プラスチック製の弓竿を製造する方法であって、
繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを、先端に向かって漸次径が細くなる芯金に巻き付ける工程と、
前記芯金に前記プリプレグが巻き付けられた中間体を金型内に設置した後、この中間体を前記金型内で加熱加圧することにより、前記金型と前記芯金との間に形成されるキャビティに対応した形状に成形する工程と、
前記キャビティに対応した形状に成形された成形体から前記芯金を抜き取ることによって、中空長尺状の竿本体を得る工程とを含み、
前記竿本体の重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つを調整する際に、前記芯金の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させたものを用いて、前記キャビティの容積を変化させることを特徴とする弦楽器用弓竿の製造方法。
【請求項2】
前記竿本体の重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つを調整する際に、前記芯金の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させたものを複数種用意し、この中から選択された一の芯金を用いることによって、前記キャビティの容積を変化させることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用弓竿の製造方法。
【請求項3】
前記キャビティの容積に合わせて、予め前記芯金に巻き付けられるプリプレグの量を軸線方向において調整しておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の弦楽器用弓竿の製造方法。
【請求項4】
弦楽器で使用される繊維強化プラスチック製の弓竿であって、
先端に向かって漸次径が細くなる軸孔を有して中空長尺状に成形された竿本体を備え、
前記軸孔の径又は径の変化率を軸線方向において段階的に変化させることによって、前記竿本体の重量分布、重心位置、重量のうち少なくとも1つが調整されてなることを特徴とする弦楽器用弓竿。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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