説明

強アルカリ水に浸漬した工作機械

【課題】熱変形を制御し、かつ切削加工時の加工熱を効果的に冷却できる工作機械を提供する。
【解決手段】旋盤1は、主軸部5と、主軸部5を支持するベッド4と、主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wを収容する収容槽3と、主軸部5に回転駆動力を供給するためのモータ6と、加工工具Tを支持するための刃物台10とを備える。主軸部5は、モータ6からの回転駆動力により回転駆動される主軸5Aと、主軸5Aに装着されて被加工物Wを保持するためのチャック手段5Bとを備える。加工工具Tは、主軸5Aと一体的に回転駆動される被加工物Wに作用して機械加工を施すものであり、収容槽3は、少なくとも主軸部5とベッド4と被加工物Wとを浸漬するように浸漬液で満たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強アルカリイオン電解水(以下、「強アルカリ水」と称する。)の気化熱冷却を利用して加工時に生じる加工熱を効率よく冷却可能な工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、切削工具を用いた切削加工では、加工中に生ずる熱や切屑などの除去や切削工具の摩耗防止を目的として工具の刃先に多量の切削油剤が供給される。しかしながら、このような切削油剤は使用後に重油を混入して焼却する等して廃液を処理する必要があり、切削油剤を用いた従来の切削加工法は環境保全に反する。
【0003】
一方、このような切削加工方法に代えて、電解水で満たされた収容槽内に被加工物を浸漬させて固定し、回転駆動される切削工具の先端部に向けて油剤を噴霧すると共に電解水を噴射させながら切削加工する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−221397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の方法は、防錆及び切削加工時の冷却を目的として、被加工物を電解水中に浸漬した状態で切削工具を回転駆動させて被加工物に加工を施すものであるが、反対に回転駆動される被加工物に対して切削加工を行う工作機械にあっては、主軸が高速回転することで主軸部が発熱し、その熱がベッド等の構造体に伝わることで熱変形を起こすと加工点が変位し、高精度な加工ができない。
【0006】
本発明は、被加工物を回転駆動させて切削加工を行う工作機械において、浸漬液に主軸部やベッドを浸漬することで主軸部及びベッドの熱変形を抑制し、かつ切削加工時の加工発熱を効率的に冷却できる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の工作機械は、被加工物に機械加工を施すものであって、主軸部と、前記主軸部を支持するベッドと、前記主軸部、前記ベッド、及び前記被加工物を収容する収容槽と、前記主軸部に回転駆動力を供給するための駆動手段と、加工工具を支持するための工具支持手段と、を備え、前記主軸部は、前記駆動手段からの回転駆動力により回転駆動される主軸と、前記主軸に装着されて前記被加工物を保持するための被加工物保持手段と、を備え、前記加工工具は、前記駆動手段からの回転駆動力により前記主軸と一体的に回転駆動される前記被加工物に作用して機械加工を施すものであり、前記収容槽は、少なくとも前記主軸部と前記ベッドと前記被加工物とを浸漬するように浸漬液で満たされることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に記載の工作機械では、前記収容槽に満たされる浸漬液はアルカリ濃度がpH10.0以上pH13.0以下の強アルカリ水であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に記載の工作機械は、前記強アルカリ水のアルカリ濃度を所定濃度に維持するためのアルカリ濃度制御手段を更に備え、前記アルカリ濃度制御手段は、前記強アルカリ水のアルカリ濃度を測定する測定手段と、前記所定濃度より低濃度の第1の液体を貯蔵する第1のタンクと、前記所定濃度より高濃度の第2の液体を貯蔵する第2のタンクと、前記測定手段による測定値に基づき前記第1の液体と前記第2の液体とを選択的に前記収容槽に供給する第1の制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に記載の工作機械は、前記浸漬液に空気を供給する空気供給手段を更に備え、前記空気供給手段は、前記浸漬液中で気泡を発生させることにより前記浸漬液に空気を供給することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に記載の工作機械では、前記空気供給手段は、前記浸漬液中で3mm〜5mmの気泡を発生させることにより前記浸漬液に空気を供給する気泡発生手段と、前記浸漬液中でマイクロバブルを発生させることにより前記浸漬液に空気を供給するマイクロバブル発生手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6に記載の工作機械では、前記駆動手段には耐水処理が施されており、前記収容槽は前記駆動手段をも浸漬するように前記浸漬液で満たされることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項7に記載の工作機械は、切屑除去手段を更に備え、前記切屑除去手段は、前記機械加工により前記収容槽内で発生する切屑を前記収容槽の外部へ搬送して除去することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項8に記載の工作機械は、前記浸漬液の温度を所定温度に維持するための温度制御手段を更に備え、前記温度制御手段は、冷却手段と、前記浸漬液の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段により検出された浸漬液の温度に基づき浸漬液を前記冷却手段に循環させて冷却させる第2の制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載の工作機械によれば、回転駆動される被加工物を保持する主軸部とベッド及び被加工物が浸漬液に浸漬された状態で機械加工が行われるので、被加工物を回転駆動させることによる主軸部やベッドの熱変形を抑制し、かつ切削加工時の加工発熱を効率的に冷却し高精度な機械加工を施すことができる。
【0016】
本発明の請求項2に記載の工作機械によれば、浸漬液はアルカリ濃度がpH10.0以上pH13.0以下の強アルカリ水であるから、浸漬液に浸漬される被加工物や主軸部が浸漬液により腐食するのを抑制できる。
【0017】
本発明の請求項3に記載の工作機械は、強アルカリ水のアルカリ濃度を所定濃度に維持するためのアルカリ濃度制御手段を備えるので、機械加工に適切な環境条件を維持できる。
【0018】
本発明の請求項4に記載の工作機械によれば、浸漬液に空気を供給する空気供給手段を更に備えることから、浸漬液による水冷効果に加え、気化熱による冷却効果を促進させることができ、主軸部の熱変形をより効果的に抑制できる。
【0019】
本発明の請求項5に記載の工作機械によれば、浸漬液中で3mm〜5mmの気泡とマイクロバブルとを発生させるので、浸漬液の気化熱による冷却効果を更に促進することができる。
【0020】
本発明の請求項6に記載の工作機械によれば、駆動手段も浸漬液に浸漬されるため、当該駆動手段をも強制冷却できる。
【0021】
本発明の請求項7に記載の工作機械は、機械加工により前記収容槽内で発生する切屑を前記収容槽の外部へ搬送して除去する除去手段を備えるので、収容槽内に切屑が堆積するのを抑制できる。
本発明の請求項8に記載の工作機械は、浸漬液の温度を所定温度に維持するための温度制御手段を更に備えるため、浸漬液の温度上昇を抑えて、より効果的に主軸部及び被加工物を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る旋盤を模式的に示す概略図。
【図2】アルカリ水中における耐食性を示す表。
【図3】図1に示す旋盤の主軸部における熱変形量を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る旋盤を模式的に示す概略図。
【図5】図4に示す旋盤を示す部分平面図。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る旋盤を模式的に示す概略図。
【図7】図3の旋盤において実行されるフィードバック制御のブロック図。
【図8】強アルカリ水への空気供給量と熱伝達率との関係を示す図。
【図9】本発明の実施形態の変形例に係る旋盤を模式的に示す概略図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う工作機械の一例としての旋盤の実施形態について説明する。
〔第1の実施形態〕
【0024】
図1は本発明の第1の実施形態に係る旋盤1を示す概略図である。旋盤1は、工場の作業台等に設置されるベース2を備え、このベース2の上面には上面解放型の収容槽3が固定されている。収容槽3の内側底面にはベッド4が設置され、このベッド4により主軸部5及びモータ(駆動手段)6が支持されている。主軸部5は、Z軸方向に水平に延びるように配設された主軸5Aと、主軸5Aを回転可能に支持する複数個の軸受(図示せず)と、主軸5Aの一端側に装着されたチャック手段(被加工物保持手段)5Bとを備え、チャック手段5Bには被加工物Wが着脱自在に装着される。モータ6は、その出力軸6aがZ軸方向に延びるように主軸部5の上方位置に設置されていて、モータ6からの回転駆動力は、出力軸6aに装着されたプーリ9aと、主軸5Aの他端側に装着されたプーリ9bと、プーリ9a及び9bに巻回されたベルト9cとを介して主軸5Aへ伝達される。主軸5Aへ伝達された回転駆動力は、主軸5Aと共にチャック手段5B及び被加工物Wを一体的に所定方向へ回転させる。
【0025】
ベース2の上面には更に刃物台(工具支持手段)10が設置されている。この刃物台10は加工工具TをX軸方向、Y軸方向(図1の紙面に対して垂直な方向)、及びZ軸方向の3方向に移動自在に保持するものであり、加工工具Tは工具先端Taが下方を向くように(宙づり状態で)刃物台10に着脱自在に装着される。刃物台10に保持された加工工具Tは、回転駆動される被加工物Wに作用して機械加工を施す。
【0026】
本実施形態における旋盤1は更にチップコンベア11と、ベース2の上面に設置された回収容器12とを備える。チップコンベア11の一端部はベッド4の上面であってチャック手段5Bの下方に配設され、その他端部は収容槽3の外部まで延設されている。
機械加工によって発生した切屑Dは、チップコンベア11が図1において時計回りに周回することで、その一端部側から他端部側へ収容槽3外部まで搬送され、回収容器12により回収される。
【0027】
被加工物Wに機械加工を施す際には、主軸部5及び被加工物Wが完全に浸漬されるよう浸漬液Lが収容槽3内に満たされる。このとき、主軸部5よりも上方に位置するモータ6は浸漬液Lに浸漬されない。浸漬液Lとしては種々のものが使用可能であるが、強アルカリ水であることが望ましい。そこで本実施形態では浸漬液Lとして強アルカリ水Lを用いることとする。ここで、「強アルカリ水」とは、pH10以上のアルカリ濃度を有するアルカリイオン水のことを意味する。強アルカリ水Lは、被加工物Wに対応した適切なアルカリ濃度範囲内にあるpH濃度を有している。
【0028】
つまり、加工の際には強アルカリ水Lに浸漬される主軸部5等の機械部品や加工工具T、及び被加工物Wの全てが腐食されないように環境を整えることが重要である。そのため、例えば図2の表に示すように、被加工物Wや主軸部5等の耐食性(金属イオン濃度)を考慮して収容槽3内の強アルカリ水LのpH濃度を適切な範囲(例えば、pH濃度が10.0以上13.0以下の範囲)に保持しておくのが好ましい。
【0029】
例えば、被加工物Wがチタン合金Ti6A14V製である場合、適切なpH濃度は10以上13以下である。pH濃度が10未満になると、チャック手段5B等の鋼部品の腐食が発生する恐れがあるので望ましくない。一方、pH濃度が13を超えると、被加工物Wであるチタン合金Ti6A14Vが、この合金中の金属イオンと強アルカリ水L中のOH濃度との関係から、腐食が開始するので望ましくない。
【0030】
ここで、本実施形態では、環境への配慮及び省エネルギーの観点から収容槽3内に投入する強アルカリ水Lには潤滑油や洗浄液等は一切添加していない。従って、加工後は強アルカリ水Lの洗浄効果によって乾燥させるだけで被工作物Wは清浄な状態になる。このとき、強アルカリ水Lは、OHの影響で旋盤1を構成する鋼部品(主軸部5等)や被加工物Wを腐食することはない。
【0031】
被加工物Wの機械加工は、高速回転する被加工物Wへ工具先端Taを接触させることで達成されるが、その際に被加工物Wと工具先端Taとの間に加工熱が発生する。また、主軸5Aが高速回転することで、これを回転可能に支持する軸受(図示せず)が発熱し、主軸部5全体が熱を帯びる。主軸部5が高温になってベッド4へ伝わることで主軸部5及びベッド4が熱変形を起こすと加工点が変位し、高精度な機械加工の妨げになる。しかしながら、本実施形態では主軸部5、被加工物W、及び工具先端Taが強アルカリ水L中に浸漬された状態にあるため、強アルカリ水Lによってこれら主軸部5、ベッド4、被加工物W、及び工具先端Taが強制冷却され、熱変形に伴う加工精度の低下を抑制できる。
【0032】
より具体的に、以上のような浸漬状態により、主軸部5、ベッド4、被加工物W、工具先端Ta、及び切屑Dの大半が100W/(mK)以上の非常に高い熱伝達率で冷却されることになる。しかも、強アルカリ水Lは100℃を越えることがないため、主軸部5、ベッド4、被加工物W、工具先端Ta、及び切屑Dを常に100℃以下の周囲環境温度下にしつつ100W/(mK)以上の非常に高い熱伝達率でこれらを冷却することが可能になる。
【0033】
さらに、強アルカリ水は普通の水道水よりも浸透性が高いため、被加工物Wと加工工具Tとの界面、及び加工工具Tと切屑Dとの界面に浸透する特性があるため、この浸透特性によって更に冷却特性を向上することが可能となる。
【0034】
図3に、旋盤1の主軸部5を強アルカリ水Lに浸漬させた状態で実際に主軸5Aを高速回転させた際の主軸部5の熱変形量の実測値を示す。熱変形量は、チャック手段5Bの先端に測定部材(図示せず)を取り付け、収容槽3内の所定位置から当該測定部材の特定位置までの距離を計測することで測定した。また、主軸部5を強アルカリ水Lに浸漬させない状態で主軸5Aを高速回転させた際の熱変形量も測定した。
【0035】
図3から明らかなように、主軸部5を強アルカリ水Lに浸漬させた場合には、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のいずれにおいても熱変形量が1μm程度に抑制されていて、強アルカリ水Lに浸漬させない場合と比較して熱変形量を大幅に低減できた。
【0036】
このように、主軸部5を強アルカリ水Lに浸漬した状態で機械加工を行うことにより、主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wを強制冷却して、これら主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wの熱変形を抑制することができ、従って加工点の変位を抑制できるので、高精度な機械加工が可能となる。
〔第2の実施形態〕
【0037】
図4に本発明の第2の実施形態に係る旋盤1Aを示す。旋盤1Aは、上記第1の実施形態に係る旋盤1の構成に加えて空気供給手段30を備える。なお、図4では、図面簡略化のため、チップコンベア11や回収容器12等の構成要素は省略する。空気供給機構30は、収容槽3に収容された浸漬液Lに空気を供給することにより気化熱による冷却効果を促進させるものである。
【0038】
具体的に、空気供給手段30は、マイクロバブル発生装置31と気泡発生装置32とを備える。マイクロバブル発生装置31は、収容槽3内部に設置された一対のバブル発生ノズル31a(図5)を備え、被加工物Wに向かって浸漬液L中でマイクロバブルを発生させることで、浸漬液Lに空気を供給するものである。気泡発生装置32は、収容槽4内部に設置された一対の気泡発生プレート(多孔質プレート)32a(図5)と、これら気泡発生プレート32aへ圧縮空気を送り出すためのコンプレッサ(図示せず)とを備え、浸漬液L中で例えば直径3〜5mm程度の気泡を発生させることで浸漬液Lに空気を供給するものである。図5に示すように一対のバブル発生ノズル31aは、X軸方向におけるチップコンベア11の両側位置において、マイクロバブルを収容槽3のZ軸方向内側に向けて発生させるように配置されている。一方、一対の気泡発生プレート32aは、ベッド4の上面であってX軸方向におけるワークWの両側に配置されている。なお、マイクロバブル発生装置31及び気泡発生装置32の構成は周知であるので詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施形態では、主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wを浸漬液Lに浸漬させるため、これら主軸部5及び被加工物W近傍をくまなく冷却領域としているが、この段階では主軸部5及び被加工物Wに接している浸漬液L中には空気量が少なく、水冷効果はあるものの、気化熱による冷却効果には乏しい状況にある。しかしながら、上述したように空気供給機構30により収容槽3に収容された浸漬液Lに空気を供給することにより、水冷効果に加え、気化熱による冷却効果を促進させることができ、主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wをより効果的に冷却できる。
〔第3の実施形態〕
【0040】
図6に本発明の第3の実施形態に係る旋盤1Bを示す。本実施形態では、浸漬液Lとして強アルカリ水Lを用いる。この旋盤1Bは、第1の実施形態の旋盤1の構成に加え、浸漬液Lとしての強アルカリ水Lを所定の温度に維持するための温度制御手段40と、強アルカリ水Lのアルカリ濃度(pH値)を所定値に維持するためのアルカリ濃度制御手段50とを備える。なお、図6では、図面簡略化のため、収容槽3、温度制御手段40、及びアルカリ濃度制御手段50以外の構成部材は省略する。
【0041】
温度制御手段40は、冷却手段41と、この冷却手段41に収容槽3内の強アルカリ水Lを循環させる管路42a、42bと、収容槽3内の強アルカリ水Lの温度を検出する温度計43と、温度計43による検出値が入力される制御装置44とを備える。旋盤1Bにより機械加工が行われると加工熱により収容槽3内の強アルカリ水Lの温度が上昇するが、温度計43からの出力値に基づき強アルカリ水Lの温度上昇が検出されると、制御装置44は管路42a及び42bを介して強アルカリ水Lを冷却手段41に循環させてこれを冷却し、強アルカリ水Lの温度を所定温度に維持する。
【0042】
アルカリ濃度制御手段50は、強アルカリ水Lのアルカリ濃度を検出するpHメータ51と、低いアルカリ濃度を有する水(水道水等)を貯蔵するための水タンク52と、高いアルカリ濃度(例えば、pH13)を有する強アルカリ水を貯蔵するための強アルカリ水タンク53と、水路52a上に設けられた調整弁52bと、アルカリ水路53a上に設けられた調整弁53bと、制御装置54とを備える。pHメータ51は、収容槽3内の強アルカリ水LのpH値を検出して、これを制御装置54へ出力するものである。
【0043】
制御装置54は強アルカリ水Lのアルカリ濃度についてフィードバック制御を行うものである。具体的には、制御装置54には加工に最適な強アルカリ水Lのアルカリ濃度範囲(アルカリ濃度の上限値及び下限値)が設定され、制御装置54は設定されたアルカリ濃度範囲とpHメータ51からの実測値と比較することで、強アルカリ水Lが所定のアルカリ濃度範囲内にあるか否かを判断する。所定のアルカリ濃度範囲を逸脱した場合には、調整弁52b及び53bを制御して、水タンク52に収容された水及び強アルカリ水タンク53に収容された強アルカリ水を選択的に収容槽3へ供給することで、強アルカリ水Lのアルカリ濃度を所定値に維持する。強アルカリ水Lのアルカリ濃度は、アルカリ濃度の自然低下や強アルカリ水Lの蒸発によって変動するが、アルカリ濃度制御手段50を用いることでアルカリ濃度の変動を抑制できる。なお、制御装置54により実行されるフィードバック制御のブロック図の一例を図7に示す。
【0044】
また、本実施形態では温度制御手段40を用いることで強アルカリ水Lの温度を一定に保つため、強アルカリ水Lの温度上昇に起因したpHメータ51の検出誤差を抑制できる。
〔実施例〕
【0045】
浸漬液Lへの空気供給による気化熱効果を確認するため、浸漬液LとしてpH12.5の強アルカリ水Lを用い、次のような実験を行った。ラバーヒータ(100×100×2mm)を2枚の鋼(SPCC、100×100×1mm)で両側から挟み、それをpH12.5の強アルカリ水Lの入っている収容槽(350×350×200mm)の中央に宙づり状態で配置し、ラバーヒータに電源を入れ(50W)、鋼の表面に張った熱電対の温度が所定状態になった段階で、鋼の表面温度と収容槽の平均水温から見かけ上の熱伝達率を測定した。実験は、実施例1としてアルカリ水Lの入った収容槽3内を自然対流状態にした場合、実施例2として気泡発生装置32を用いて直径1〜2mm程度の気泡を下方から供給した場合、実施例3として気泡発生装置32を用いて直径3〜5mm程度の気泡を下方から供給した場合、実施例4としてマイクロバブル発生装置31を用いてマイクロバブルを10l/minで供給すると共に気泡発生装置32を用いて直径3〜5mm程度の気泡を下方から供給した場合、の4種類で行った。
【0046】
図8に見かけ上の熱伝達率の測定結果を示す。図8の測定結果から分かるように、実施例1に比べ、実施例3において直径3〜5mm程度の気泡を52l/minで供給した場合には、熱伝達率が60倍向上した。また、実施例4においてマイクロバブルを10l/minで供給しながら直径3〜5mm程度の気泡を32l/minで供給した場合には、熱伝達率が実施例1の80倍に向上した。この結果より、直径3〜5mm程度の気泡を含む強アルカリ水Lを対流させることで大きな冷却効果が得られ、直径3〜5mm程度の気泡とマイクロバブルとを併用することで更に大きな冷却効果が得られることがわかった。このことから、気泡発生装置32を使用し、又はこれとマイクロバブル発生装置31とを併用することで、強アルカリ水Lの熱伝達率を10000/(mK)以上とすることができ、大きな熱伝達率で主軸部5、ベッド4、及び被加工物Wを冷却できることが確認できた。
【0047】
以上、本発明について上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0048】
例えば、上記実施形態では、モータ6等の電気部品は浸漬液Lに浸漬させないように構成しているが、これら電気部品に耐水処理を施して浸漬液Lに浸漬させて駆動させる構成としても良い。また、上記実施形態では、刃物台10を収容槽3の外部に設置したが、刃物台10を収容槽3の内部に設置する構成としても良い。例えば、図9に示す旋盤1Cのように、モータ6等の電気部品と刃物台10の双方も浸漬液Lに浸漬させる構成とすることもできる。なお、図9では図面簡略化のため、チップコンベア11や回収容器12等の構成要素は省略するが、このように刃物台10を収容槽3内部に設ける場合には、チップコンベア11や回収容器12等の構成部材の配置は適宜調整される。
【0049】
上記実施形態では、刃物台10は加工工具Tを下向きに保持するものであったが、横向き或いは上向きに保持するものあっても良い。
【符号の説明】
【0050】
1、1A、1B、1C 旋盤
2 ベース
3 収容槽
4 ベッド
5 主軸部
5A 主軸
5B チャック手段
6 モータ
9a、9b プーリ
9c ベルト
11 チップコンベア
12 回収容器
30 空気供給手段
31 マイクロバブル発生装置
32 気泡発生装置
40 温度制御手段
50 アルカリ濃度制御手段
51 pHメータ
52 水タンク
53 強アルカリ水タンク
L 浸漬液(強アルカリ水)
T 加工工具
W 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に機械加工を施す工作機械であって、
主軸部と、
前記主軸部を支持するベッドと、
前記主軸部、前記ベッド、及び前記被加工物を収容する収容槽と、
前記主軸部に回転駆動力を供給するための駆動手段と、
加工工具を支持するための工具支持手段と、を備え、
前記主軸部は、前記駆動手段からの回転駆動力により回転駆動される主軸と、前記主軸に装着されて前記被加工物を保持するための被加工物保持手段と、を備え、
前記加工工具は、前記駆動手段からの回転駆動力により前記主軸と一体的に回転駆動される前記被加工物に作用して機械加工を施すものであり、
前記収容槽は、少なくとも前記主軸部と前記ベッドと前記被加工物とを浸漬するように浸漬液で満たされることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記収容槽に満たされる浸漬液はアルカリ濃度がpH10.0以上pH13.0以下の強アルカリ水であることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記強アルカリ水のアルカリ濃度を所定濃度に維持するためのアルカリ濃度制御手段を更に備え、
前記アルカリ濃度制御手段は、前記強アルカリ水のアルカリ濃度を測定する測定手段と、前記所定濃度より低濃度の第1の液体を貯蔵する第1のタンクと、前記所定濃度より高濃度の第2の液体を貯蔵する第2のタンクと、前記測定手段による測定値に基づき前記第1の液体と前記第2の液体とを選択的に前記収容槽に供給する第1の制御手段と、を備えることを特徴とする、請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記浸漬液に空気を供給する空気供給手段を更に備え、
前記空気供給手段は、前記浸漬液中で気泡を発生させることにより前記浸漬液に空気を供給することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の工作機械。
【請求項5】
前記空気供給手段は、前記浸漬液中で3mm〜5mmの気泡を発生させることにより前記浸漬液に空気を供給する気泡発生手段と、前記浸漬液中でマイクロバブルを発生させることにより前記浸漬液に空気を供給するマイクロバブル発生手段と、を備えることを特徴とする請求項4に記載の工作機械。
【請求項6】
前記駆動手段には耐水処理が施されており、前記収容槽は前記駆動手段をも浸漬するように前記浸漬液で満たされることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の工作機械。
【請求項7】
切屑除去手段を更に備え、前記切屑除去手段は、前記機械加工により前記収容槽内で発生する切屑を前記収容槽の外部へ搬送して除去することを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の工作機械。
【請求項8】
前記浸漬液の温度を所定温度に維持するための温度制御手段を更に備え、
前記温度制御手段は、冷却手段と、前記浸漬液の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段により検出された浸漬液の温度に基づきを前記冷却手段に循環させて冷却させる第2の制御手段とを備えることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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