説明

強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングを形成すると共に制御する電気グラフト法

導電性表面形状上に強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングを形成すると共に制御する電気グラフト法であって、表面形状が、ポリマーコーティングの形成前又は形成と同時に、表面形状上へのナノメートルスケール及び/又はマイクロメートルスケールの核の電着によって制御されることを特徴とする、電気グラフト法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その表面形状を制御することによって、導電性表面上に強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングを電気グラフトにより形成すると共に制御する新規な方法に関する。また、本発明は、それから得られる強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティング、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーコーティングを形成する電気グラフト法は当該技術分野において既知である。国際公開第02/098926号及び国際公開第2005/033378号は、導電性表面の表面に形成されるポリマー膜を記載している。だが、当該技術分野で既知のこのような方法によって得られるポリマーコーティングは、非プロトン性状態又は略非プロトン性(nearly aprotic)状態を形成することを必要とする。そのため、高価で環境に毒性の有機溶媒が必要とされる。
【0003】
国際公開第2005/033378号は、ブレンステッド酸のようなプロトン性物質が、電気グラフトによるポリマーコーティングの調製中にアニオン重合を妨げることを記載している。伝播アニオン(propagating anion)がプロトン化合物と不可逆的に反応するため、カソード分極は、プロトン性化合物の存在下で停止するアニオン重合を誘起する。したがって、強力な接着性のポリマーコーティングの形成は、このようなプロトン性化合物の存在下では不可能であり、非常に低い分子量のポリマー鎖しかカソードに形成することができない。
【0004】
さらに、かかるポリマー被覆表面の何らかの制御が、国際公開第02/098926号に記載の電気グラフト法において可能である場合、それは表面上のポリマーコーティングの粗厚制御(rough thickness control)に制限される。導電性表面形状の他の特定の性質(例えば、粗さ)を、電気コーティング調製中に制御することはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面形状の1つの興味深い特徴はその表面粗さであり、これは、表面の湿潤性、接着性、適合性、及び1つ以上のポリマーコーティングとの反応性等の表面の多くの性質に影響を与えるものである。本発明の文脈中の「表面粗さ」は、表面上に存在する複数の結節状形成(nodular formation)によって生じる固体表面の高さの小規模な(即ち、ナノメートルスケール及び/又はマイクロメートルスケールの)変化として定められる。
【0006】
表面粗さは、上記表面の多くの性質に影響を及ぼし、強力な接着性のコーティングを調製しながら調節することは容易にできない。他方、表面粗さの変更は、既存の性質を高めるか、又は新たな性質を表面にもたらすため、表面粗さの制御が多くの用途で望まれている。表面粗さを変えることによって、例えば、表面の湿潤性、接着性、及び反応性を変更することができる。また、2つの表面間の接触、表面における摩擦、比表面積、及び屈折率等を高めるか又は下げることもできる。
【0007】
コーティングを、例えば、自己洗浄表面として、接着防止表面として、耐食において、バイオセンサの設計のために使用する場合、下塗り剤として使用して第2のコーティングの接着性を高める必要がある場合、又は分子ベルクロとして使用して種々の材料の複合体を形成する必要がある場合、コーティングの良好な接着と共に、これら全ての性質が最も重要なものとなる。例えば、検体を検出するのに使用される機能性コーティングの表面積が大きければ、バイオセンサの感度は高くなり得る。さらに、バイオセンサに使用されるこれらの機能性コーティングの湿潤性を最適なものとすることが望ましく、且つこれはまた、表面形状、特に表面粗さを調節することによって容易に行い得る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、我々は、電気グラフト前の、電気グラフト中の、又は電気グラフトにより得られるその表面形状及びポリマーコーティングの性質を制御する、導電性表面における核析出の工程を含む新規の電気グラフト法を見出した。それゆえ、表面形状は、導電性表面における制御核形成工程によって制御され、これによりコーティングのナノ構造化が誘起される。
【0009】
したがって、本発明は、導電性表面形状(electro-conductive surface profile)上に強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングを形成すると共に制御する電気グラフト法であって、表面形状が、ポリマーコーティングの形成前又は形成と同時に、表面形状上へのナノメートルスケール及び/又はマイクロメートルスケールの核の電着によって制御されることを特徴とする電気グラフト法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の文脈において、用語「核」は、ナノメートルスケール及び/又はマイクロメートルスケールの直径を有する電着材料の結節(nodule)を示し、この直径は結節の最大直径と考えられる。
【0011】
本発明による電気グラフト法は、例えば、ポテンショスタットと接続される三極セル等の従来の電気化学技法によって行うことができる。作用側電極、即ち電着塗装される導電性表面は、例えば、金若しくは白金等の貴金属、クロム、チタン、鉄、銅若しくはニッケル等の遷移金属、又はドープシリコン若しくは炭素等の半導体から作製される、導電性表面又は半導電性表面である。
【0012】
第1の実施の形態において、本発明は、核が、前駆体塩による電着によって得られる無機材料から作製される電気グラフト法を提供する。
【0013】
無機材料は、好ましくは、鉄、銅、コバルト、ニッケル、チタン、銀又はそれらの合金等の遷移金属である。
【0014】
本発明による前駆体塩は、一般的に、例えば、鉄、銅、コバルト、ニッケル、チタン、及び銀等の塩化物、塩素酸塩、トリフレート、過塩素酸塩等の無機塩、又はそれらの混合物である。
【0015】
好ましくは、電気グラフト法は、ナノ構造化表面形状を得るモノマーの電解重合工程前又は電解重合工程と交互に、モノマーと無機(金属)前駆体塩とを含む溶液中に浸漬させた表面に電位xを印加したときに、導電性表面上への無機(金属)核析出によって表面形状を制御する工程を含む。
【0016】
かかる実施の形態において、1つの選択電位xを絶えず又は繰返し、導電性表面又は半導電性表面(以後(半)導電性表面とも称する)に印加して、無機塩を電気分解し、表面上に無機核を形成し、その結果として表面形状を変更することができる。別の選択電位yにおいて、強力な接着性のポリマーコーティングを、選択されたモノマーから形成することができる。強力な接着性のポリマーコーティングは、表面上に堆積される無機核の性質、サイズ及び形状に応じて、完全に又は部分的に表面形状を被覆する。
【0017】
よって、スキーム1に示されるように、表面形状は、(半)導電性表面上に電着されるかかる無機核の連続形成(工程A〜工程D)又は同時形成(工程C)、及びモノマーの電気グラフトによって制御される。したがって、これによって得られるナノ構造化ポリマーコーティングも、かかる核形成工程によって制御される。表面上に電着される核のサイズ及び形状は、選択電位、及び表面周辺のポリマー形成によって制御される(特にスキーム1の工程B及びCにおいて)。
【0018】
本発明による強力な接着性のポリマーコーティングは、塩の電気分解に際し、表面及び/又は表面上に形成される金属核と少なくとも部分的に共有結合することが可能であり、ポリマーが架橋されていなくとも、ポリマーの良好な溶媒による連続的な洗浄によって、又はいわゆる剥離試験によって完全に除去され得ない。
【0019】
導電性表面に印加される選択電位xは、例えば、10V〜−10V、特に好ましくは0V〜−4.5Vでの電位範囲であってもよい。本発明の幾つかの好ましい実施の形態では、導電性又は半導電性表面に印加される電位は、例えば、0.1mV/s〜5V/s、好ましくは1mV/s〜250mV/sの速度で、一定であるか又は電気分解中に様々な値をとり得る。さらに、例えば、一定電位(又は電流)は、0.001秒〜15分、好ましくは0.1秒〜1分で導電性表面又は半導電性表面に印加され得る。2つ以上の異なる選択電位を表面に印加してもよい。一連の異なる電位は、1回又は繰り返して何回か(例えば、最大100回)、導電性表面又は半導電性表面に印加することもできる。
【0020】
また、第1の実施の形態において、(半)導電性表面上にナノ構造化コーティングを形成するために、2つ(以上)の異なる電位を選択することも好ましい。例えば、核形成及び電気グラフトは同時に起こり得ないが、種々の分極条件でも起こり得る。電極に対する選択電位又は電流の印加は分極によってもたらされる。
【0021】
第1の実施の形態では、表面形状のナノ構造化を調整し、且つポリマー鎖を効果的に電気グラフトするために、導電性表面に印加される選択電位xの工程を繰り返すことが好ましい。
【0022】
ナノ構造化コーティングの形状及び特に表面粗さは、同一選択電位xを2回又はさらに何回か印加することによって変更され得る。例えば、表面粗さは、代替的にはスキーム2Aの工程1〜3に示されるような電気核形成工程及び電気グラフト工程を繰り返すことによって制御され得る。第1の電気核形成工程1中に形成される核の寸法は、サイクルの回数が増大するのに伴い増大する。代替的なポリマー電気グラフト工程は、核の成長を制御する。最大サイクル数を超えると、核のサイズは再び減少する可能性がある(工程3)。このため、核のサイズの制御は、表面粗さの正確な調整を可能にする。
【0023】
これらのサイクル中に印加電位を調節することによって、表面の種々のレベルのナノ構造化が、例えば、(スキーム2Bに示されるような)ラズベリー形状核を生成することによって成し遂げられる。
【0024】
2つのスケール粗さ、例えば、核によってもたらされるマイクロメートルスケールにおける粗さ、及びこれらの核のナノ構造化によってもたらされるナノメートルスケールにおける粗さは、スキーム2Bに示されるような分極時間の変化によってももたらされ得る。
【0025】
第1の実施の形態によるモノマーは、アクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、フッ化(メタ)アクリレート、スクシンイミジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ピロール(メタ)アクリレート、及びチオフェン(メタ)アクリレート等、並びに1つ以上のアクリル官能基又はメタクリル官能基を有するポリマー、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリスチレン、並びに国際公開第02/098926号(参照により本明細書中に援用される)に記載されるモノマー及びポリマーである。
【0026】
モノマーと無機前駆体塩とを含む本発明の第1の実施の形態による溶液は、有機溶媒をさらに含み得る。
【0027】
有機溶媒は、例えば、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジエチルカーボネート、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホラミド、イオン性液体(例えば、イミダゾリウム塩)、超臨界溶媒(例えば、超臨界CO2)及びこれらの溶媒の組合せから選択され得る。
【0028】
このような実施の形態では、主に酸素無含有の雰囲気中で電気グラフト法を行わなければならず、この主に酸素無含有の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気であり得る。本発明による主に酸素無含有の雰囲気は、0ppm〜499000ppmの酸素、最も好ましくは0ppm〜300ppmの酸素を含有する雰囲気を意味する。
【0029】
好ましい方法は、金属塩の電着と少なくとも1つの(マクロ)モノマーの電気グラフトとの組合せによる複合金属ポリマーコーティングの形成を可能にする。強力な接着性のポリマーコーティングは、スキーム1及びスキーム2に示されるように、電解重合前及び電解重合中に電着される金属核によってナノ構造化される。
【0030】
その上、本発明による電気グラフト法は、任意のサイズ及び形状の表面に首尾良く適用することができる。このような表面は、例えば、医療装置(例えば、冠状動脈ステント、歯科用ツール)の表面、又は分析機器(例えば、原子間力顕微鏡検査(AFM)チップ、超小型電子回路、ミクロ流体デバイス)の表面、また、パッケージング製品、家庭用品、自動車産業分野製品若しくは設計製品に使用される導電性(金属)表面である。
【0031】
強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングに関するこのような実施の形態の利点は、(半)導電性表面の化学特性及びトポグラフィの両方を正確に調整することである。両方のパラメータを制御すると、超疎水性、超親水性及び防汚特性等の新たな特性を被覆材料に与えることができる。また、抗菌活性、反応性、触媒反応選択性、摩擦及び反射率等の他の表面特性も十分に高めることができる。
【0032】
このような強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングの用途は、生体活性医療インプラントの生体適合又は取付けのために、(バイオ)センサ、特に電気化学バイオキャプタの加工のために、ミクロ流体デバイスのチャネルの機能化のために、品物(例えば、装飾用ハンドル及び時計)の外観を調節するために、表面(例えば、エアフィルタ及び医療用ツール)に抗菌性を付与するために、耐食性コーティング及び自己洗浄コーティングが必要とされる際に見られる。
【0033】
第2の実施の形態において、本発明は、核がモノマー液滴の電着によって得られる有機材料から作製される、電気グラフト法を提供する。
【0034】
モノマー(M)を含む液滴は、モノマー液滴によってもたらされる。モノマー液滴は、例えば、スキーム3Aに示されるような、モノマー(M)と、界面活性剤(Su)と、プロトン性溶媒(PSo)とを含むエマルジョン液滴であるか、又はスキーム3Bに示されるような、選択(プロトン性)溶媒(SSo)中に反応性両親媒性物質(R)を含む液滴である。
【0035】
反応性両親媒性物質は、親水性部及び疎水性部を含み、且つスキーム4に示されるような(メタ)アクリル官能基等の少なくとも1つの重合性部位を有する分子と定義される。
【0036】
本実施の形態によるプロトン性溶媒は、1つの解離性プロトンを有する溶媒、例えば、水を意味するが、メタノール、エタノール及びホルムアミド等、並びにそれらの組合せも意味される。
【0037】
本実施の形態による界面活性剤は、親水性部及び疎水性部を含む任意の分子であり得る。界面活性剤は、陰イオン性(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)、陽イオン性(例えば、アルキル第四級アンモニウム)、両イオン性(zwiterionic)(例えば、ベタイン)、又は中性(非イオン性)(例えば、プルロニック)界面活性剤であり得る。
【0038】
エマルジョン中に添加される界面活性剤の量は、好ましくは、プロトン性溶媒中の界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)を超える。例えば、10-7M〜10M、好ましくは10-5M〜10-1Mである。
【0039】
このようなモノマー含有液滴を使用する電気グラフト法は、表面に電位zを印加したときの導電性表面上への有機(ポリマー)核の電気化学的形成によって、(半)導電性表面のトポグラフィ及び化学特性の両方を制御することを可能にする。
【0040】
このような第2の実施の形態において、導電性表面は、好ましくは、プロトン性溶媒を含むモノマー液滴懸濁液中に浸漬される。
【0041】
電極(E)の導電性表面又は半導電性表面への少なくとも1つの選択電位zの印加によって、水等のプロトン性溶媒中に形成されるモノマーの液滴は、スキーム5に示されるように、導電性表面又は半導電性表面上に強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティング(C)を形成し得る。
【0042】
導電性表面に電位を印加すると、モノマー液滴は、導電性表面に引き寄せられる(スキーム5の工程1)。プロトン性溶媒中に形成されるモノマーの液滴は、導電性表面上に投じられ、表面に核を形成することによって、導電性表面の形状を変更させ得る。一方で、上記表面に到達すると、導電性表面と最初に接触する液滴の周縁で強力な接着性のポリマーコーティングが形成され始める。それゆえ、各上記液滴は、強力な接着性のポリマー突起、特に半球形又は楕円形のポリマー突起を導電性表面上に形成し得る(スキーム5)。液滴を電極に対して投じるのに用いられる電位に応じて、液滴の衝突は、電極上にモノマーを散布するのに十分に強くてもよく、その結果、より平滑なコーティングを得ることができる。
【0043】
(半)導電性表面上に形成される強力な接着性のポリマーコーティングのポリマー突起の直径は、プロトン性溶媒中に形成される液滴の直径に依存し得る。
【0044】
それゆえ、プロトン性溶媒中に形成され得るモノマーの液滴の直径を変更することによって、及び/又は導電性表面若しくは半導電性表面に印加され得る選択電位(複数可)を調節することによって、少なくとも部分的にポリマーで被覆された表面の導電性表面形状、特に表面粗さを調節することが可能であり、次第に、例えば小滴、特に例えば100nm未満の平均直径及び/又は高電位(複数可)を有する液滴を用いて得ることができる略平滑な(nearly smooth)ポリマー被覆表面から、大きい液滴、特に例えば100nmを超える直径及び/又は低電位(複数可)を有する液滴及び/又は凝集体を得ることができる粗いポリマー被覆表面へとなる。
【0045】
導電性表面に印加される選択電位yは、例えば、10V〜−10V、好ましくは0V〜−4.5Vの電位範囲のものでもよい。本発明の幾つかの好ましい実施の形態において、導電性表面又は半導電性表面に印加される電位は、例えば、0.1mV/s〜5V/s、好ましくは1mV/s〜250mV/sの速度で印加時に様々な値をとり得る。さらに、一定電位を、導電性表面又は半導電性表面に、例えば0.001秒〜15分、好ましくは0.1秒〜1分で印加してもよい。
【0046】
本発明の第2の実施の形態におけるモノマー液滴中に含まれるモノマーは、アクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、フッ化(メタ)アクリレート、スクシンイミジル(メタ)アクリレート、ピロール(メタ)アクリレート、及びチオフェン(メタ)アクリレート等、並びに1つ以上のアクリル官能基又はメタクリル官能基を有するポリマー、例えば、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリスチレン、ポリエーテル、並びに国際公開第02/098926(参照により本明細書中に援用される)に記載のモノマー及びポリマーの任意の種類である。
【0047】
また、本発明の第2の実施の形態において、導電性表面は、選択(プロトン性)溶媒(Sso)中に反応性両親媒性物質を含むミセル組成物中に好ましくは浸漬される。
【0048】
ミセルの場合にモノマー液滴中に含まれる反応性両親媒性物質(反応性界面活性剤とも称される)は、選択溶媒(例えば、水)中で自己組織化可能な両親媒性モノマーである。このような両親媒性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレートを有するアルキル第四級アンモニウム、1つのブロック上に1つ又は数個の(メタ)アクリル官能基を有する両親媒性ブロックコポリマー、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0049】
水中のエマルジョンは、疎水性モノマーを必要とし、結果的に(1つの工程で調製される場合)疎水性特徴を有するポリマーコーティングをもたらす。親水性コーティングを水中における1つの工程で調製しなければならない場合には、エマルジョンをスキーム3Bに示されるようなミセル組成物で置き換えなければならない。この目的のために、幾つかの要件を満たす反応性界面活性剤を調製しなければならない。このような反応性界面活性剤は、水中にミセルを形成し、分極の際に水を電気二重層からはねつけ、且つ電気化学的に反応させて強力な接着性のナノ構造化コーティングを形成することができなければならない。この方針に好適なモノマーの例をスキーム4に示す。実際、スキーム4A及びスキーム4Bでは、それらの親水性(帯電)特徴及び疎水性(アルキル長鎖)特徴の結果、水中で自己会合してミセルを形成することができる、示される両親媒性且つ反応性の(アクリル酸誘導体)分子が存在するのに対し、(メタ)アクリル基に起因して、それらはまた電解重合され得る。このような系では、ポリマーコーティングが、重合界面活性剤によって作られるため、ポリマーコーティングにはコーティングの親水性を増大させる幾つかの帯電基が含まれる。
【0050】
スキーム4Cに、ポリマー反応性界面活性剤の同様の使用形態を示す。
【0051】
このような場合、親水性部及び疎水性部は、2つのポリマー配列、即ち、親水性ポリマーから成るポリマー配列、例えばポリ(エチレンオキシド)又は四級化ポリ(ビニルピリジン)と、少なくとも1つの(メタ)アクリル基を有する疎水性鎖から成るポリマー配列、例えばε−カプロラクトン及びγ−アクリロイル−ε−カプロラクトンのコポリマーとによって構成される。
【0052】
モノマー液滴を有する本発明の第2の実施の形態の利点は、ナノ構造化ポリマーコーティングのための核形成が、一般的に、本発明の第1の実施の形態に記載されるものと同様であることである。さらに、第2の実施の形態の方法によって得られるナノ構造化ポリマーコーティングに関する用途も、第1の実施の形態について引用されるものと同じ分野におけるものである。
【0053】
第1の実施の形態と比較した本発明の第2の実施の形態の最大の利点は、プロトン性溶媒、特に安価な無毒性溶媒である水の使用であり、溶媒は、本発明の方法の産業開発に特に適切なものである。
【0054】
また、本発明は、本発明による電気グラフト法によって得られる強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングに関する。ナノ構造化は、金属等の無機材料によって、又はさらに重合してポリマー凝集体を形成し且つナノ構造化ポリマーコーティングを形成し得る有機(モノマー)液滴によってもたらされ得る核から作製される。
【0055】
ここで、添付の図面の以下のスキーム及び図を参照して本発明を説明する。
【0056】
スキーム1:
実施例1で行われるような本発明による電気グラフト法の第1の実施の形態の概略図であり、実施例1では、増大するカソード電位を、Ag(I)イオンとエチルアクリレート(EA)とを含む溶液中に浸漬させた(半)導電性表面に(スキームにおいて左から右へ)印加すると(Aに描写)、Ag(0)金属核が第1の工程において形成されることができ(Bに描写)、その後、強力な接着性のポリマーコーティングがAg核上に形成される(Cに描写)。最後に、選択電位をさらに増大させると、強力な接着性のポリマーコーティングがAg(0)核から移動し、金属核を取り囲む強力な接着性のコーティングが(半)導電性表面上に形成される(Dに描写)。
【0057】
スキーム2:
実施例2で行われるような本発明による電気グラフト法の第1の実施の形態の概略図であり、実施例2は、3つの工程における3つの異なる選択電位の印加を含む。A)以下の3つの工程のサイクルを15回繰返す。B)15回を超える工程サイクルを繰り返す。
【0058】
第1の工程において、選択電位を導電性表面に印加して、強力な接着性のポリマーコーティングによって被覆されるCu(0)核を、Cu(I)とエチルアクリレート(EA)との溶液から形成する(パートAの工程1)。第2の工程において、別の選択電位を1回以上印加し、Cu(I)イオンをさらに還元し、強力な接着性のポリマーコーティングをCu(0)核から移動させると共に、接着性のポリマーコーティングを導電性表面上に形成する。Cu(I)イオンをさらに還元することによって、Cu(0)核の直径が増大する(パートAの工程2)。最後に、第3の選択電位を第3の工程において印加し、強力な接着性のポリマーコーティングをCu(0)核上に形成する(パートAの工程3)。第2の工程を繰り返すことによって、より小さい金属核(図示せず)によって少なくとも部分的に被覆される金属核を得ることが可能になり得る。
【0059】
一連の第1の工程及び第2の工程を最大40回繰り返すことによって(パートBの工程1及び工程2)、第3の工程を行う前に、ポリマーで被覆されたナノ構造化表面の粗さを増大させることができる。40サイクルを超えると、金属核は互いに同化し、表面粗さが再び減少する。15〜40の多数のサイクルの間に、より小さい金属核によって少なくとも部分的に被覆される金属核が形成され、少なくとも部分的にポリマーで被覆されたナノ構造化表面が2つの異なるスケールで粗さを含み得る(パートBの工程3)(例えば、マイクロメートルスケールにおける粗さ、及びナノメートルスケールにおける粗さ)。
【0060】
スキーム3:
エマルジョン系(図A)及びミセル系(図B)を示す本発明の第2の実施の形態のモノマー液滴の概略図であり、Mが疎水性モノマーを示し、Suが界面活性剤を示し、RSuが反応性界面活性剤を示し、PSoがプロトン性溶媒を示し、SSoが選択性溶媒を示す。
【0061】
スキーム4:
反応性界面活性剤の見込まれる構造が、モノマー液滴としてミセルを与えることができる。図Cは、1つの親水性(左側部分)と、1つの疎水性且つ反応性の(右側部分)セグメントとを有するポリマー界面活性剤を示す。
【0062】
スキーム5:
モノマー液滴系を用いた表面のナノ構造化の概略図である。初めに、モノマー液滴(M)を溶媒(例えば、水)中に懸濁させる(左側の画像)。次に、分極したら(中央の画像)、幾つかの液滴が電極(E)表面に進行し、そこに核を形成して、そこから電解重合が開始する。これらの液滴の核から成長するポリマーは、ナノ構造化コーティング(C)を形成し(右側の画像)、ナノ構造化は、液滴内の独自のモノマー区画化(compartmentation)から生じる。
【0063】
図1:
実施例1で行われるような本発明による電気グラフト法に関してステンレス鋼表面上で記録される典型的なボルタモグラムであり、実施例1は、酢酸銀で飽和され且つ0.05M過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP)を添加したジメチルホルムアミド(DMF)溶液中、8−キノリニルアクリレート(0.5M)をモノマーとして使用した(選択電位の変化速度=20mV/s)。測定電流強度(I)の第1の増大は、銀核の形成によるものであり、測定電流強度(II)の第2の増大は、銀核上の強力な接着性のポリ(8−キノリニルアクリレート)コーティングの形成によるものであり、測定電流強度(III)の第3の増大は、鋼表面上への8−キノリニルアクリレートの電気グラフトによるものである。初めに、第2の走査及び第3の走査は、線(a)、(b)及び(c)によってそれぞれ示される。測定電流強度は、各電位が走査するのに伴い、強力な接着性のポリマーコーティングの絶縁性の形成のために減少する。
【0064】
図2:
(A)Cu(II)イオン、(B)エチルアクリレート(EA)を添加したCu(II)イオン、(C)実施例2のようなCu(II)イオンを含まないエチルアクリレート(EA)のDMF溶液中における、ステンレス鋼表面上のボルタモグラムである。それぞれA及びBの場合の電気グラフト法後の、これによって得られる表面(5μm×5μm)のESEM顕微鏡写真である。左側の挿入はボルタモグラムの拡大表示である。
【0065】
図3:
(A)表1におけるサンプル記載番号1、及び(B)表2におけるサンプル記載番号3の「ラズベリー形状」表面に対応する実施例2のナノ構造化表面のサンプルに関する原子間力顕微鏡検査(AFM)の最大顕微鏡写真である。これらのAFMの最大顕微鏡写真は、マイクロメートルスケールにおける粗さ及びナノメートルスケールにおける粗さを含むラズベリー形状表面を有する表面構造化の2倍の可能性をはっきりと証明している。
【0066】
図4:
実施例3で行われるような本発明の第2の実施形態を示すボルタモグラムである。同一電極における2つの還元サイクル(1及び2)を伴う炭素表面(A)と、(B)異なる基板(すなわち、SS:ステンレス鋼、SiHC:高度にドープされたシリコン、SiLC:わずかにドープされたシリコンと、C:炭素)との上に記録されるセチルトリメチルアンモニウムブロミドを界面活性剤として用いたヘプタデカフルオロデシルアクリレート(2M)のエマルジョンの還元に関する。
【0067】
図5:
本発明の第2の実施形態に関する実施例3に記載されているような電気グラフト工程後の鋼(顕微鏡写真A)及び炭素(顕微鏡写真B)表面のナノ構造化を示すAFM顕微鏡写真である。
【0068】
図6:
実施例4で行われるような炭素表面上での反応性モノマーのミセル溶液の還元に関する第2の実施形態のボルタモグラムである。
【0069】
ここで、請求される発明の範囲を限定するように意図するものではない以下の実施例を参照して本発明を説明する。
【実施例】
【0070】
本発明による第1の実施形態の例:
【0071】
実施例1:抗菌性を有するナノ構造化ポリマーで被覆された表面の調製
<一般的な条件>
不活性な乾燥窒素雰囲気(5ppmの酸素及び10ppm未満の水)下、室温で、EG&Gポテンショスタット/ガルバノスタット(M273)を用いて、グローブボックス中に白金対向側電極と白金擬参照電極とを有する1コンパートメントセルにおいて、サイクリックボルタンメトリ及び定電位電解法を行った。作用側電極(ステンレス鋼の2cm2平方様プレート)をヘプタン及びアセトンで洗浄し、150℃、真空中で一晩乾燥させた。ポリマーコーティングの調製のために、AgOOCCH3で飽和され且つ過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP)(5×10-2M)を追加の導電性塩として添加した0.3〜1Mの濃度範囲のモノマー(エチルアクリレート(EA)、8−キノリニルアクリレート(8QA)、又はニトロキシド媒介重合(NMP)開始剤を有するアクリレート(即ち、2−フェニル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−イルオキシ)−エチルアクリレート(PTEA)が使用される)[最後のモノマーの構造についてはChem. Mater., 2003, 15, 923を参照])の乾燥DMF溶液を使用した。導電性基板の電位をボルタンメトリ中20mV/sで変えた(図1)。分極後、ナノ構造化ポリマー表面を特性化する前に、乾燥DMF及びアセトニトリルで広範に濯いだ。金属核及び種々のポリアクリレートから作製される種々のナノ構造化コーティングを観察し、以下に説明する。
【0072】
<銀とポリエチルアクリレート(PEA)とを含むコーティング>
還元変化(reduction ramp)を、ジメチルホルムアミド(DMF)中のエチルアクリレート(1M濃度)と酢酸Agとの混合物に適用する場合、−0.7VにおけるAg(0)核の堆積に続いて、強力な接着性のポリ(エチルアクリレート)膜が低カソード電位(約−1.5V)で形成される。これより大きいカソード電位(約−2V)で、強力な接着性のポリアクリレートコーティングの形成が、銀核同士の間のステンレス鋼表面上に起こり得る。同時に、局所的なポリマーのグラフトを減らすよう誘起する核の頂部で起こる局所的な過電位により、金属核における高電位が、−1.5Vで形成されたPEAコーティングを移動させる。これは、エチルアクリレートと、酢酸銀(I)と、導電性塩(TEAP)とを含有する溶液をそれぞれ−1.5V及び−2.1Vで走査することによって得られるサンプルのAFM分析によって確認された。ポリアクリレートグラフト/グラフト減少プロセスのこの電位依存性は、下方に存在する銀が外部の中間体として再度識別できることを可能にし、このことは、これらのAg核の成長を制御するのに最も重要である。選択電位を0Vから最大−2.1Vに上げ、且つ−2.1Vの選択電位を30秒間印加して、銀核を被覆することなく、電気グラフトポリアクリレートによって取り囲むことによって、サンプルを調製した。表面上のPEA及びAgの両方の存在を確認する減衰全反射フーリエ変換赤外分光法(ATR−FTIR)及びエネルギー分散X線分光(EDX)表面解析によって、コーティングを特性化した。ATR−FTIRによって、PEAに特徴的な吸収が、2960cm-1〜2860cm-1(アルキルC−H)、1735cm-1(エステルC=O)、及び1180cm-1(エステルC−O)に観測される。接触角は表1に提示する。
【0073】
<銀とポリ(8−キノリニル)アクリレート(P8QA)とを含むコーティング>
EAの代わりに8−キノリニルアクリレート(8QA)をモノマーとして用いて上記手順を繰り返す。8QAは、Ag(I)に対する配位子として作用し得る錯化機能を有し、得られるコーティングはこのとき、強力な抗菌性を示すことが予想されるAg(I)イオン及びAg(0)核の両方を含有する。EA/Ag(I)系について、EAの代わりに8QAを用いて電位が0V〜−2.5Vで変化する場合に、測定電流強度の上昇によって、3つの還元反応が観察される。EA/Ag(I)モデルから類推して、Ag(I)は−1V〜−1.5Vの間にAg(0)へと還元し、P8QA鎖の強力な接着性のポリマーコーティングがAg(0)核上に形成される。−2Vで、P8QA鎖は表面から離れ、新たなP8QA鎖がステンレス鋼上に形成される。
【0074】
選択電位を0Vから−2.1Vにまで下げ、且つ−2.1Vの選択電位を30秒間印加することによって、サンプルを調製した。この電位では、銀核は被覆されないが、ポリアクリレート(P8QA)によって取り囲まれる。これはAFM位相差測定によって立証される。PEAコーティングと比べて期待される水の接触角測定値(表1)は、このように得られるコーティングが極めて親水性であることを示す。ATR−FTIR及びEDX表面解析は、導電性表面又は半導電性表面上におけるP8QA及びAgの両方の存在を確認した。ATR−FTIRによって、P8QAに特徴的な吸収が、2960cm-1〜2860cm-1(アルキルC−H)、1735cm-1(エステルC=O)、及び1180cm-1(エステルC−O)に観測される。
【0075】
<銀と、ポリ(2−フェニル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−イルオキシ)−エチルアクリレート)(PPTEA)とを含むコーティング>
本明細書中で前に挙げた他の2つのアクリル酸モノマー/Ag(I)系について、他のアクリレートの代わりにPPTEAを使用する場合に、3つの還元反応が観察される。EA/Ag(I)モデルから類推して、Ag(I)は−1V〜−1.5Vの間にAg(0)へと還元し、PPTEA鎖の強力な接着性のポリマーコーティングがAg(0)核上に形成される。−2Vで、これらの鎖は表面から離れ、新たな鎖がステンレス鋼上に形成される。
【0076】
選択電位を0Vから−2.1Vにまで上げ、且つ−2.1Vの選択電位を30秒間印加することによって、サンプルを調製した。再度、コーティングを接触角によって特性化し(表1)、これによりコーティングが疎水性であることが示され、ATR−FTIR及びEDX表面解析は、表面上におけるPTEA及びAgの両方の存在を確認した。ATR−FTIRによって、PPTEAに特徴的な吸収が、2960cm-1〜2860cm-1(アルキルC−H)、1735cm-1(エステルC=O)、及び1180cm-1(エステルC−O)に観測される。
【0077】
<銀とPPTEAとを含むコーティングからの、ブチルアクリレート(BuA)と2−(ジメチルアミノエチル)アクリレート(DAEA)とのニトロキシド媒介ランダム共重合>
PPTEA系コーティングの利得は、表面からの第2の制御重合の見込まれる化学的な開始である。BuAとDAEAとのランダムコポリマーをPPTEA/銀コーティングから調製した。これらのランダムコポリマーは、ステンレス鋼上の電気グラフトされたPPTEAから既に調製されている。DAEAとの共重合によってポリBuAをより親水性とすることは、タンパク質(フィブリノーゲン)に対する接着耐性を増大させることを示した。他方、コーティング中の銀の存在は、以下に示されるように抗菌性をコーティングにもたらす。
【0078】
Agを含有するPTEAによって修飾されるステンレス鋼表面を含有する反応チューブに、BuA(2.3ml、15.8mmol)と、DAEA(2.4ml、15.8mmol)と、2,2,5−トリメチル−3−(1−フェニルエトキシ)−4−フェニル−3−アザヘキサン(0.086g、0.263mmol)と、2,2,5−トリメチル−4−フェニル−3−アザヘキサン−3−ニトロキシド(0.0033g、0.0132mmol)と、0.6mlの乾燥トルエンとの混合物を添加した。反応混合物を、3回の凍結/投入サイクルで脱気し、窒素下、三方活栓で閉じ、125℃で24時間加熱した。乾燥トルエンで大規模に洗浄した後、被覆プレートを真空中で乾燥し、ATR−FTIR、AFM及び環境走査型電子顕微鏡(ESEM)で分析した。
【0079】
コーティングを接触角によって特性化し(表1)、これによりコーティングが親水性であることが示された。コポリマーの存在はATR−FTIRによって評価した。コポリマーに特徴的な吸収が、2952cm-1及び2923cm-1(脂肪族C−H伸縮振動)、1727cm-1(C=O伸縮振動)、1444cm-1、1383cm-1(脂肪族C−H変角振動)、並びに1157cm-1(C−O伸縮振動)に観測される。
【0080】
<被覆されたステンレス鋼表面の抗菌活性>
グラム陰性菌である大腸菌(Escherichia coli)及びグラム陽性黄色ブドウ球菌(Staphyloccocus aureus)に対する、ナノ構造化銀/ポリマーコーティングで修飾されたステンレス鋼の抗菌活性を、Langmuir, 2003, 19, 8971, 2004, 20, 10718, and 2006, 22, 255に明確に記載されている古典的な分析技法によって測定した。
【0081】
<ナノ構造化銀/ポリマー被覆ステンレス鋼に対する大腸菌(E. coli)の接着性>
被覆されていないステンレス鋼表面は、大腸菌(E. coli)の増殖を阻害しない。全ての場合において、銀粒子を含有する被覆プレートは、大腸菌(E. coli)に対して活性である。30mmの最大阻害区域は、P8QAで修飾された銀粒子を含有するステンレス鋼の場合に観測される。この効果は、おそらく、銀粒子及び8−ヒドロキシキノリン誘導体の顕著な抗菌性によるものである。銀粒子を含有するPEAで修飾されたプレートの場合に20mmの阻害区域が観測され、修飾PPTEA/Agプレートの場合に5mmの阻害区域が観測される。銀粒子を取り囲むこれらの2つのポリマー膜の疎水性の差が、おそらく、これらのコーティングの抗菌活性に影響を与える。
【0082】
<ナノ構造化銀/ポリマー被覆ステンレス鋼に対する黄色ブドウ球菌(S. aureus)の接着性>
臨床試験では、生体材料による感染を支配する種のうち、黄色ブドウ球菌(S. aureus)が、インプラント関連感染を起こす最も一般的な病原体の1つであることが示される。そのために、支持体に接着する生存可能な細菌の数を求める試験を使用して、銀粒子を含有する修飾ステンレス鋼プレート上へのグラム陽性菌である黄色ブドウ球菌(S. aureus)の接着性も評価した。
【0083】
試験は、細菌接着を防止するのに最も効果的なものが、P8QAとAgとを含むナノ構造化表面、PEAとAgとを含むナノ構造化表面、P(BuA−co−DAEA)とPPTEAとAgとを含むナノ構造化表面であり、これらが黄色ブドウ球菌(S. aureus)の接着を完全に(100%)軽減することを示した。被覆されていないステンレス鋼よりも2桁の軽減が、グラム陰性菌である大腸菌(E. coli)に対して観測される抗菌活性と合致して、AgとPPTEAとのコーティングについて観測される。比較すると、被覆されていないステンレス鋼表面に1時間接触させたときに接着した細菌数は、約6.4×104コロニー形成ユニット(cfu)/mlである。他の銀ナノ構造化コーティングに比べて、PPTEAとAgとを含むコーティングについて観測される細菌の軽減のより低い効果は、おそらく、コーティングのより高い疎水性によるものである。
【0084】
銀核と併せて生体適合性である(BuA及びDAEA、又はPEAのコポリマーブラシ)固有の抗菌性8QAを有する基又は親水性基の組込みは、被覆されていないステンレス鋼プレートと比べて、接着した細菌数の特に効果的な、即ち完全な軽減をもたらす。
【0085】
実施例2:疎水性又は超疎水性を有するナノ構造化表面の調製
本実施例に関して、アセトニトリル(Aldrich)、エチルアクリレート(EA, Aldrich)及びヘプタデカフルオロデシルアクリレート(HDFDA)(ABCR製)を水素化カルシウムで乾燥させ、減圧下で蒸留した。ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich)をP25で乾燥させ、減圧下で蒸留した。過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP、Fluka)及び酢酸銅(II)(Aldrich)を使用前に真空中80℃で12時間加熱した。
【0086】
不活性な乾燥窒素雰囲気(±5ppmの酸素及び10ppm未満の水)下、室温で、EG&Gポテンショスタット/ガルバノスタット(M273)を用いて、グローブボックス中に白金対向側電極と白金擬参照電極と備えた1コンパートメントセルにおいて、サイクリックボルタンメトリ及び定電位電解法を行った。作用側電極(2cm2のステンレス鋼プレート)をヘプタン及びアセトンで洗浄し、150℃真空中で一晩乾燥させた。電極を、アクリレート(EA(1M)又はHDFDA(2.5M))、導電性塩(TEAP、5×10-2M)、及びCu(OOCCH32(飽和)を含有する乾燥DMF中に浸漬させ、少なくとも1つの選択電位を印加した。電位走査速度をボルタンメトリ中20mV/sとした。ナノ構造化表面を乾燥DMFで広範に洗浄し、その後ポリEAの電気グラフトの場合にはアセトニトリルで、且つフッ化ポリアクリレートを使用する場合にはトリフルオロトルエンで洗浄した。特性化前にこれを真空中で乾燥させた。
【0087】
<銅とポリ(エチルアクリレート)とを含むコーティング>
ステンレス鋼表面及びTEAP(5×10-2M)を含有するDMFの1M EA溶液を使用して、Cu(0)核と強力な接着性のポリ(エチルアクリレート)(PEA)とを含むナノ構造化表面を形成させた。−2.1Vに観測される非常に低い強度の還元ピークは、絶縁PEAコーティングの形成の結果としてのカソード不動態化のサインである。実際には、PEAに対する良好な溶媒による表面の広範な洗浄後も、ポリアクリレートコーティングがATR−FTIR分光法によって表面上に検出される。−2.3Vで、PEAコーティングは導電性表面又は半導電性表面から移動し、EAの重合が溶液中で継続し得る。
【0088】
TEAP/DMF溶液中のEA/Cu塩混合物の挙動を調査する前に、TEAP(0.05M)を添加したDMF中の酢酸Cuの飽和溶液中で、Cuの電着を初めに検討した。これらの条件下で、Cuはボルタンメトリによってステンレス鋼上に−0.8Vで電着し始め(図2の曲線A)、強度は、カソードへのCu(II)の制限拡散により−1.6Vで最大となる。エチルアクリレートを酢酸Cu(濃度1M)の溶液に添加した場合、図2の曲線Bは、導電性表面上及び/又は金属核上における絶縁ポリエチルアクリレートコーティングの形成により、電流強度が劇的に下がることを示している。ステンレス鋼上のCu(0)核の形成は、EDX分析によって証明され、且つESEMによって直接観測されている(図2の挿入)。形成される核は、全ての他の条件が同一である場合、エチルアクリレートの存在下でより小さくなる。EA及びCu(0)の両方の存在は、ATR−FTIR(PEAの検出)及びEDX(Cuの検出)による表面解析によって確認された。選択電位を0Vから−1.6Vまで様々な値にすることによって形成されるコーティングに対する典型的なATR−FTIRスペクトルは、Cu(II)の非存在下で形成されるPEAに対するスペクトルと一致する。PEAに特徴的な吸収が、2960cm-1〜2860cm-1(アルキルC−H)、1735cm-1(エステルC=O)、及び1180cm-1(エステルC−O)に観測される。さらに、より高い値(即ち−2.1V)にまで走査すべき選択電位を変化させる場合、ATR−FTIRスペクトル及びEDXスペクトルが、ポリエチルアクリレート及びCuの残存を電極上に確認した。これらの実験から、アクリル酸モノマー(EA)は、強力な接着性のポリマーコーティングを形成すると共に、Cu(II)が−1.5Vで同時に還元されるということが結論付けられる。擬参照電極を使用することによって、実験電位を直接比較することはできないが、EAの強力な接着性のポリマーコーティングを形成する電位が観測され、溶液に酢酸Cuを添加すると−2.1Vから−1.5Vへと変わり、このとき他の条件は全て同じである。この定性的なシフトはコーティングの形成をもたらすのに十分重要なものであり、少なくとも1つには、Cu(0)の堆積によってカソード表面を修飾させる。成長Cu(0)核は、「チップエッフェクト(tip effect)」又は「ロッドエフェクト(rod effect)」のために、下方に存在する略平面のステンレス鋼表面に印加される選択電位と比べて、Cu(0)核における表面の粗さ及び電位の局所的な増大の一因を成す。PEAコーティングの形成はCu(0)核上で起こる。それゆえ、強力な接着性のPEAコーティングの形成は、より低いカソード電位(−1.5V)においてCu(0)核上で起こる。より高いカソード電位(−2.1V)において、PEAコーティングの形成がCu(0)核間のステンレス鋼表面上で起こり得る。同時に、Cu(0)核における電位の増大が、−1.5Vで形成されたポリマーコーティングのPEA鎖をCu(0)核から移動させる。これは、選択電位をそれぞれ0V〜−1.6V及び0V〜−2.1Vの様々な値をとることによって得られるサンプルのAFM分析によって確認された。AFMは、表面が、選択電位を0V〜−1.6Vの様々な値をとることによって、少なくとも部分的にポリマーで被覆されたナノ構造化表面について、30〜80nmの直径を有するCu(0)核によって均一に覆われることを示し、表面を走査しながらの位相差測定は、位相遅れのほんの少しの差しか示さない。選択電位が0V〜−2.1Vの様々な値をとる場合、Cu(0)核間へのPEAポリマーコーティングの挿入のために表面はより平滑となり、純(neat)金属Cu(0)核、及びステンレス鋼表面と部分的に共有結合している周囲の強力な接着性のポリマーコーティングに関するAFM位相差測定によって位相遅れが示される。
【0089】
このため、強力な接着性のPEAコーティングの形成及び移動の電位依存性は、Cu(0)核の成長を制御するのに重要であり、したがって、表面粗さ、及びポリマーコーティングの表面被覆率を調節する。
【0090】
<超疎水性表面:銅とポリ(ヘプタデカフルオロデシルアクリレート)とを含むナノ構造化コーティング>
Cu(0)核と、強力な接着性のポリ(ヘプタデカフルオロデシルアクリレート)とを含むナノ構造化コーティングの形成が、TEAP(5×10-2M)を含有するDMF溶液中の2.5Mの濃度で効果的であることが示された。Cu(OAc)2を、この媒体中に溶解させる。EA/Cu(II)系について、EAの代わりにフッ化アクリレートを使用する場合に、2つの還元反応が観察される。EAとCu(II)とを含む溶液を使用して観測されたものから類推して、Cu(II)は−1.2VでCu(0)に還元すると共に、ポリ(ヘプタデカフルオロデシルアクリレート)によりCu(0)核上に強力な接着性のポリマーコーティングが同時に形成される。−2Vで、このコーティングはCu(0)核から移動し、強力な接着性のポリマーコーティングがステンレス鋼上に形成される。ATR−FTIR及びEDXによる表面解析によれば、選択電位が0V〜−1.6Vでのみ様々な値をとる場合にも、フッ化ポリアクリレート及びCu(0)がナノ構造化表面上に共存する。
【0091】
−1.6Vの選択電位が導電性ステンレス鋼表面に20秒間印加される場合、水の接触角はおよそ118°であり、これは、Cu塩の非存在下における研磨ステンレス鋼上におけるフッ化ポリアクリレートの電気グラフトの場合に測定されたもの(およそ120°の水の接触角)とほとんど同じ値である。−2Vの選択電位が20秒間印加される場合にはいつでも同様の結果が報告された(およそ117°の水の接触角)。したがって、表面コーティングはこのような場合、主にフッ化ポリマーの存在のために疎水性である。2つのサンプルのAFM分析はそれぞれ、−1.6Vの選択電位が20秒間印加される場合に80〜150nmの直径を有する制限数の突起から成るナノ構造化表面、又は−2Vの電位が20秒間印加される場合に多くのより小さい突起から成るナノ構造化表面を示す。しかしながら、これらの2つの場合とも、表面が本質的に平滑となる。
【0092】
このため、コーティング表面積を有益なものとし、且つ下方に存在する表面との水滴の密接な接着を犠牲にして、空気の吸蔵(air occlusion)の機構を介してCu(0)核のサイズを増大させてもよい。
【0093】
この目的のために、電気グラフト条件を次のように変化させた。−1.2Vの第1の選択電位をステンレス鋼表面に印加し、フッ化ポリアクリレートによって被覆されるCu(0)核を形成する。第2の工程において、−2.2Vの第2の選択電位をステンレス鋼表面に印加することによって、Cu(0)核の間に残ることが可能なステンレス鋼が、強力な接着性のフッ化ポリアクリレートで被覆されると共に、フッ化ポリアクリレートをCu(0)核から移動させ、Cu(0)核をさらに成長させる。第3の工程では、0V〜−1.6Vの様々な値をとる選択電位をステンレス鋼表面に印加し、強力な接着性のフッ化ポリアクリレートコーティングを銅核上に形成することによって、ナノ構造化表面全体(Cu(0)核及びステンレス鋼)をフッ化ポリアクリレートで被覆させることができる。
【0094】
選択電位が特定の時間の間印加されることを意味し、且つ選択電位の印加時間の関数として測定電流強度が報告される初めの2つの工程は、定電位電解法(CA)によって通電され、印加され得る選択電位が、選択印加時間の間の選択変化速度を有する選択電位範囲で様々な値をとることを意味する第3の工程は、サイクリックボルタンメトリ(CV)によって通電される。
【0095】
また、−2.2Vの選択電位を長時間印加し、Cu(0)核のサイズを増大させた。第3の工程の時間毎において、0V〜−1.6Vの様々な値をとる第3の選択電位後に、銅核上の強力な接着性の絶縁フッ化ポリアクリレートコーティングの形成によって電流強度が降下するまで−1.6Vの選択電位を印加した。実験による測定値は、実験による水の接触角と共に表1に提示する。ナノ構造化表面の粗さ及びポリマーコーティングによる表面被覆率は、AFMによって評価され得る。全ての場合において、Cu(0)とフッ化ポリマーとの共存は、ATR−FTIR及びEDXによって確認された。
【0096】
原子間力顕微鏡検査は、ナノサイズの実体(entities)とのマイクロメートルサイズの共存を伴う大きな突起を示し、粗さは100μm×100μmのAFM図(表2)を用いて求められる。しかしながら、30秒〜120秒の第2の工程の所要時間に関係なく、水の接触角は140°に近い。見込まれる解釈は、−2.2Vで銅表面から離れるフッ化ポリアクリレート鎖がDMF中に難溶性であり、この表面近傍に蓄積されることによって、劇的にCu(0)核の成長の低下が示されるというものである。
【0097】
次に、上記で用いた3つの工程を変えて実施した。実際には、2つの初めの工程の所要時間をそれぞれ3秒及び15秒に固定した。第1の工程後に第2の工程を続け、その後第2の工程後に再度第1の工程を行った。これを数回繰返し、第2の工程後の第1の工程の一連の順序(sequence)を10〜40回繰り返した(表3)。第2の工程後の第1の工程の一連の順序の終わりで、Cu(0)から移動するフッ化ポリアクリレートがCu(0)核表面に蓄積するのを防止するために、溶液を強力攪拌した。上述の通りに、即ち、0V〜−1.6VのCVによる選択電位の様々な値をとり、且つ測定電流強度が降下するまで−1.6Vの選択電位を印加することによって、第3の工程を行った。
【0098】
表3における記載番号1〜3は、Cu(0)核の平均直径に関連する表面粗さが、第2の工程後の第1の工程の一連の順序が繰り返される回数と共に増大することを示す。同時に、水の接触角は120°から157°に増大する。これは、疎水性表面及び超疎水性表面からの望ましい移行である。しかしながら、多すぎるサイクル(40サイクル、表3の記載番号4)は、Cu(0)核の同化をもたらし、それにより粗さ及び疎水性が低減されるため、理想のサイクル数が存在する。
【0099】
表3の記載番号2及び記載番号3に提示される超疎水性表面が、約500〜999nmの直径を有する他の小さいCu(0)核を含む約5〜10μmの直径を有するCu(0)核に起因して、マイクロメートルスケール及びナノメートルスケールの両方の粗さを含む階層型粗さを示すことは特に意味がない。小さいCu(0)核によって少なくとも部分的に覆われる大きいCu(0)核は、図3に示されるようにラズベリー形状構造を表面に与える。対照的に、表1で調製された表面はいずれも2つのスケールの粗さを示さない。概して、核の数はプロセスの第1の工程で定められる。これらの核は第2の工程中に成長する。この一連の2つの初めの工程があまり多数繰り返されなければ(例えば、10回〜15回)、さらなる核の形成は観測されず、フッ化物鎖によるステンレス鋼の不動態化によって阻害される。しかしながら、Cu(0)核が十分に大きい場合(このため、例えば、10〜15サイクルを超える)、Cu(0)核の表面におけるCu核形成が、図5Bに示されるようなラズベリー形状の外観を表面にもたらす。157°の水の接触角によって超疎水性が確認される。
【0100】
表面及び分極法を変えることによって実施例2で得られる銅とpoly(HDFDA)とを含むコーティングのサンプルについて測定した接触角値及び粗さは、表面も、この下方に存在する粗さも、また分極法も、強力な接着性のポリマーコーティングについて測定した接触角値及び粗さに影響を与えることを示す。
【0101】
本発明による第2の実施形態の例:
実施例3:プロトン性溶媒中のエマルジョンから成るモノマー液滴によるナノ構造化表面の調製
エマルジョンを用いて、プロトン性親水性溶媒、例えば水中に、有機疎水性化合物であるモノマーの液滴を生成する。水中における疎水性アクリレートの乳濁は、陽イオン性界面活性剤(第四級アンモニウム基を有するアルキル長鎖)の存在下で行われる。さらに、溶液の導電性が陽イオン性界面活性剤によって保証されることから、他の塩を溶媒に添加する必要がない。
【0102】
アセトニトリル(Aldrich)、tert−ブチルメタクリレート(tBMA、Aldrich)、イソオクチルアクリレート(iOA、Aldrich)、及びヘプタデカフルオロデシルアクリレート(HDFDA、ABCR)を水素化カルシウムにより乾燥させ、減圧下で蒸留させた。ジメチルホルムアミド(DMF、Aldrich)をP25により乾燥させ、減圧下で蒸留させた。過塩素酸テトラエチルアンモニウム(TEAP、Fluka)及び酢酸銅(II)(Aldrich)を使用前に真空中80℃で12時間加熱した。
【0103】
周囲大気下、EG&Gポテンショスタット/ガルバノスタット(M273)を用いて、白金対向側電極と、白金擬参照電極とを備える1コンパートメントセルにおいて、ボルタンメトリ及び定電位電解法を行った。作用側電極(2cm2のステンレス鋼、シリコン又は炭素のプレート)をヘプタン及びアセトンで洗浄し(シリコーンプレートはHFで洗浄した)、150℃、真空中で一晩乾燥させた。作用側電極を、アクリレート(tBMA)(1.5M)又はHDFDA(2M)、界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムブロミド(12.5mg)を含有する乾燥DMF中に浸漬させ、選択電位を印加した。電位をボルタンメトリ中20mV/sで変えた。ナノ構造化表面を乾燥DMFで広範に洗浄し、その後PtBMAの場合にはアセトニトリルで、且つフッ化ポリアクリレートを使用する場合にはトリフルオロトルエンで洗浄した。特性化前にナノ構造化表面を真空中で乾燥させた。
【0104】
<水中におけるナノ構造化ポリ(ヘプタデカフルオロデシル)アクリレートコーティングの調製:超疎水性表面の形成>
界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムブロミドを、飽和するまで水に添加する場合、界面活性剤は自己会合し、動的光散乱(DLS)によって特性化され得る。観測される凝集体の直径は約3〜10μmと大きく、約5μmの平均直径を有し、これらの凝集体はミセルロッド(micellar rods)から形成される。
【0105】
アクリレート(HDFDA)の添加及び続く音波処理後、界面活性剤分子によって少なくとも部分的に囲まれたHDFDAの液滴を含むエマルジョンを、プロトン性溶媒中に形成させる。エマルジョンのHDFDAの液滴の直径も、DLSによって測定することができる。液滴の直径は約600nm〜800nmであり、約700nmの平均直径を有する。
【0106】
強力な接着性のポリマーコーティングの形成は、水中に12.5mgのセチルトリメチルアンモニウムブロミドを含む5mlの2M HDFDA溶液を含有する電気化学セルにおいて、ドープシリコン、鋼及び炭素上に、約−2Vで行われる。陽イオン性界面活性剤は、水溶液の導電性を保証する。選択電位の各印加後に、導電性表面又は半導電性表面を水及びトリフルオロトルエンで洗浄する。
【0107】
セチルトリメチルアンモニウムブロミド界面活性剤は、16個の炭素原子を含有するアルキル鎖を含み、水溶液にわずかに難溶性である(2M HDFDAの10mlの水に添加される約30mgの界面活性剤について飽和)。
【0108】
しかしながら、電流強度の低下を各走査後に測定する(図4)。導電性表面又は半導電性表面の疎水性(hydrophocicity)が、作用側電極への水の接近を低減させる強力な接着性の疎水性ポリマーコーティングの形成に起因して増大するため、H2Oの加水分解に対応する電流強度は、各電位走査後に低下する。
【0109】
ボルタンメトリ(図4)によって証明される、鋼、ステンレス鋼、炭素及びシリコン(0.001Ω*cmの重度にp−及びn−ドープされたSiから、50Ω*cmの軽度にn−ドープされたSiまでの異なる抵抗値を有する:LC=低導電性、及びHC=高導電性)表面上の強力な接着性のフッ化ポリアクリレートコーティングの形成は、ATR−FTIRによって確認された。ポリマーに特徴的な吸収が、1727cm-1(C=O伸縮振動)及び1157cm-1(C−O伸縮振動)に観測される。種々のナノ構造化表面について測定した接触角値により、種々の導電性表面又は半導電性表面上における強力な接着性の疎水性poly(HDFDA)の存在が確認される。使用される方法に応じて、定電位電解法又はボルタンメトリ、水の接触角は様々な値をとる。しかしながら、界面活性剤及びプロトン性溶媒を使用して調製されたナノ構造化コーティングについて測定した接触角は全て、2M HDFDAのDMF系溶液を用いて同一表面上に調製された強力な接着性のpoly(HDFDA)コーティングについて測定され得る接触角(平均接触角118°±4°)よりも高い。さらに、超疎水性と称され得るナノ構造化コーティングは、130°を超える接触角を示すため、強力な接着性のポリマーコーティングの粗さに起因して種々の導電性表面又は半導電性表面の全てで得ることができる(図5)。粗さは、エマルジョン中に形成される液滴の直径に相関を有すると考えられるが、強力な接着性のポリマーコーティングの形成時の作用側電極における水素泡の形成は、水素泡を強力な接着性のポリマーコーティングに捕捉し得ることから、ポリマーコーティングのさらなる多孔性を導くことが可能である。その結果、この多孔性は、得られる強力な接着性のポリマーコーティングの全体粗さを増大させる一因となり得る。
【0110】
さらに、粗さは、選択電位(複数可)が導電性表面又は半導電性表面にどのように印加されるかによって決まる。サイクリックボルタンメトリではなく定電位電解法を使用する場合、即ち、経時的に一定電位を印加する場合、形成される強力な接着性の突起の数、続いて、強力な接着性のポリマーコーティングの粗さが増大するため、コーティングはより疎水性となる(表4)。AFM測定値により、コーティングを定電位電解法によって調製する場合、使用される表面(炭素、鋼又はステンレス鋼)がどのようなものであっても、ナノ構造化コーティングの粗さが増大することが確認された。このことは、定電位電解法によって調製されるこれらのナノ構造化表面についての水の接触角の増大を説明する。
【0111】
<プロトン性溶媒を使用したポリ(tert−ブチルメタクリレート)又はポリ(イソオクチルアクリレート)を含むナノ構造化コーティングの調製>
tert−ブチルメタクリレート(tBMA)又はイソオクチルアクリレート(iOA)を水に添加した後、音波処理を行うとエマルジョンが形成される。エマルジョンのtBMA及びiOAの液滴の直径は、DLSによって測定され得る。液滴の直径は、tBMAについて約1μm〜3μmであり、iOAについては約0.8〜2μmである。1.5mlのtBMAを用いて調製したエマルジョンは安定ではなく、600μlのデカリン(デカヒドロナフタレン)をエマルジョンに添加して、tBMA液滴の直径を小さくし、エマルジョンの安定性を高める。
【0112】
強力な接着性のポリマーコーティングの形成は、水中に15mgのセチルトリメチルアンモニウムブロミドを含む5mlの1.5M tBMA又はiOA溶液を含有する電気化学セルにおいて、炭素及びステンレス鋼上のモノマー両方について約−2.2Vで行われる。また、陽イオン性界面活性剤は、水溶液の導電性を増大させる。選択電位の各印加後に、導電性表面を水及びポリマーに良好な溶媒(トルエン又はTHF)で洗浄する。
【0113】
tBMA又はiOAを用いて調製されるナノ構造化コーティング、界面活性剤及び水は、HDFDAで得られるコーティングに比べて平滑である。しかしながら、強力な接着性のポリマーコーティングの存在は、ATR−FTIRによって評価した。ポリマーに特徴的な吸収が、1727cm-1(C=O伸縮振動)及び1157cm-1(C−O伸縮振動)に観測される。
【0114】
<プロトン性溶媒を使用したZONYL TMフルオロモノマーの強力な接着性のナノ構造化コーティングの調製>
ZONYL TMフルオロモノマー(2−(ペルフルオロアルキル)エチルメタクリレート)を界面活性剤/水混合物に添加した後、音波処理を行うとエマルジョンが形成される。DLSによって測定される液滴のサイズは約0.5μm〜2μmである。
【0115】
強力な接着性のポリマーコーティングの形成は、水中に15mgのセチルトリメチルアンモニウムブロミドを含む5mlの0.05M〜1M ZONYL TMフルオロモノマー(平均Mn約534)溶液を含有する電気化学セルにおいて、ステンレス鋼上の濃度に応じて−0.8V〜−2Vの電位で行われる。選択電位の各印加後に、導電性表面又は半導電性表面を水及びトリフルオロトルエンで洗浄する。
【0116】
強力な接着性のポリマーコーティングの存在は、ATR−FTIRによって評価した。ポリマーに特徴的な吸収が、1727cm-1(C=O伸縮振動)及び1157cm-1(C−O伸縮振動)に観測される。poly(HDFDA)に関する比較可能な接触角は、これらの表面のものである。
【0117】
実施例4:選択溶媒中の反応性界面活性剤のミセルから成るモノマー液滴によるナノ構造化表面の調製
モノマーであるジメチルデシルアミノエチルアクリレート第四級アンモニウムブロミド(DMDAEABr)(n=10であるスキーム4の構造A)は、Polymer Preprints, 2003, 44(2), 264-265及びこの文献の参考文献に記載の一般的な合成経路に従って、デシルブロミドを用いたジメチルアミノ−エチルアクリレート(DMAEA)の四級化によって合成した。
【0118】
ナノ構造化且つ強力な接着性のポリマーコーティングの形成は、水中に5mlの0.1M DMDAEABr水溶液を含有する電気化学セルにおいて、炭素上に約−2.2Vで行われる。イオン反応性界面活性剤は、水溶液の導電性を保証する。ボルタンメトリ(図6)は、同一炭素電極上における電位の4つの連続走査を示しており、強力な接着性のポリマーコーティングの形成に起因する表面の少なくとも部分的な不動態化がはっきりと証明される。このようなコーティングにおいて、第四級アンモニウム塩がナノ構造化コーティングの一部であるため、接触角が40°未満に劇的に低減する。コーティングのナノ構造化は、モノマーが水中にある場合に自然発生的に生じるミセルモノマー液滴に起因して依然存在する。興味深いことに、このタイプの第四級アンモニウムで被覆された表面は、溶菌(bacterial lyses)における効果的な性能を有することに留意すべきである。このため、一工程及び水性ミセル溶媒において、このようなコーティングが達成された。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】実施例1で行われるような本発明による電気グラフト法に関してステンレス鋼表面上で記録される典型的なボルタモグラムである。
【図2】(A)Cu(II)イオン、(B)エチルアクリレート(EA)を添加したCu(II)イオン、(C)実施例2のようなCu(II)イオンを含まないエチルアクリレート(EA)のDMF溶液中における、ステンレス鋼表面上のボルタモグラムである。
【図3】(A)表1におけるサンプル記載番号1、及び(B)表2におけるサンプル記載番号3の「ラズベリー形状」表面に対応する実施例2のナノ構造化表面のサンプルに関する原子間力顕微鏡検査(AFM)の最大顕微鏡写真である。
【図4】実施例3で行われるような本発明の第2の実施形態を示すボルタモグラムである。
【図5】本発明の第2の実施形態に関する実施例3に記載されているような電気グラフト工程後の鋼(顕微鏡写真A)及び炭素(顕微鏡写真B)表面のナノ構造化を示すAFM顕微鏡写真である。
【図6】実施例4で行われるような炭素表面上での反応性モノマーのミセル溶液の還元に関する第2の実施形態のボルタモグラムである。
【図7】実施例1で行われるような本発明による電気グラフト法の第1の実施の形態の概略図である(スキーム1)。
【図8】実施例2で行われるような本発明による電気グラフト法の第1の実施の形態の概略図である(スキーム2)。
【図9】エマルジョン系(図A)及びミセル系(図B)を示す本発明の第2の実施の形態のモノマー液滴の概略図である(スキーム3)。
【図10】反応性界面活性剤の構造の概略図である(スキーム4)。
【図11】モノマー液滴系を用いた表面のナノ構造化の概略図である(スキーム5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性表面形状上に強力な接着性のナノ構造化ポリマーコーティングを形成すると共に制御する電気グラフト法であって、前記表面形状が、前記ポリマーコーティングの形成前又は形成と同時に、前記表面形状上へのナノメートルスケール及び/又はマイクロメートルスケールの核の電着によって制御されることを特徴とする、電気グラフト法。
【請求項2】
前記導電性表面が、導電性材料及び半導電性材料から作製される、請求項1に記載の電気グラフト法。
【請求項3】
前記核が、前駆体塩の電着によって得られる無機核であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気グラフト法。
【請求項4】
a)モノマーと前駆体塩とを含む溶液中に浸漬させた前記表面に電位xを印加したときに、前記導電性表面上への無機核析出、好ましくは金属核析出によって前記表面形状を制御する工程と(工程a)は工程b)の前、又は工程b)と交互に行われる)、
b)得られる表面形状上に電位yを印加することによってナノ構造化ポリマーを形成する工程と
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気グラフト法。
【請求項5】
前記電位yが前記電位xと等しいことを特徴とする、請求項4に記載の電気グラフト法。
【請求項6】
前記得られる表面形状上への前記ナノ構造化ポリマーの形成中に、前記電位xが繰返し印加されることを特徴とする、請求項4又は5に記載の電気グラフト法。
【請求項7】
前記電位x及び前記電位yが、種々の値で繰返し印加されることを特徴とする、請求項4又は6に記載の電気グラフト法。
【請求項8】
前記核が、遷移金属又は遷移金属の組合せから成る群から選択される金属核から作製されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電気グラフト法。
【請求項9】
前記核が、モノマー液滴による電着によって得られる有機材料から作製されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気グラフト法。
【請求項10】
電位zを印加したときに、前記核が、前記導電性表面における前記モノマー液滴の重合によって得られるポリマーをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載の電気グラフト法。
【請求項11】
前記モノマー液滴が、プロトン性溶媒中に前記モノマーを含むエマルジョンによって得られることを特徴とする、請求項9又は10に記載の電気グラフト法。
【請求項12】
前記エマルジョンが界面活性剤をさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の電気グラフト法。
【請求項13】
前記プロトン性溶媒が水であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の電気グラフト法。
【請求項14】
前記電位zが、種々の値で繰返し印加されることを特徴とする、請求項10〜13のいずれか一項に記載の電気グラフト法。
【請求項15】
前記コーティングのナノ構造化を誘起する、前記導電性表面における核形成工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の電気グラフト法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の電気グラフト法によって得られる、ナノ構造化ポリマーコーティング。
【請求項17】
医療装置用途のための、請求項16に記載のナノ構造化ポリマーコーティングの使用。
【請求項18】
バイオセンサ用途のための、請求項16に記載のナノ構造化ポリマーコーティングの使用。
【請求項19】
ミクロ流体用途のための、請求項16に記載のナノ構造化ポリマーコーティングの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2009−526112(P2009−526112A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553726(P2008−553726)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050956
【国際公開番号】WO2007/090779
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【Fターム(参考)】