説明

強度特性測定方法、強度特性測定装置及びプログラム

【課題】原位置において様々な地盤材料の強度特性を正確かつ効率良く測定可能な強度特性測定方法等を提供する。
【解決手段】測定者は、既知のデータをコンピュータ5の入力部25を介して入力する(ステップ101)。次に、測定者が剛性体1を一定の高さに持ち上げて、地盤材料3に落下させると(ステップ102)、加速度センサ7が剛性体1の加速度を計測する(ステップ103)。次に、コンピュータ5の制御部21は、記憶部22に記憶した計測結果のノイズを低減させる処理等を行う(ステップ104)。次に、コンピュータ5の制御部21は、測定結果を基に、理論式から各測定回の変形係数と強度定数を求める(ステップ105)。具体的には、Hertzの衝撃理論に基づく理論式から変形係数を算出する。また、Vesicの空洞拡張理論に基づく理論式から強度定数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置において地盤材料の力学特性、特に強度特性を測定する強度特性測定方法、強度特性測定装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地盤材料の力学特性に関しては、原位置の地盤材料の状態(粒度分布、締固め状態、圧密過程の違い等)を室内試験で再現することは困難である。従って、原位置において様々な地盤材料の力学特性を正確かつ効率良く測定することが要望されているところ、従来技術ではこのような要望を満足する有効な測定方法がない。例えば、従来の原位置における地盤材料の強度特性の代表的な測定方法として、(1)原位置せん断試験法、(2)貫入式試験法の2つがある。
【0003】
図11は、原位置せん断試験法を説明する図である。原位置せん断試験法は、図11に示す原位置せん断試験装置51を用いて、地盤材料の強度定数(粘着力c、内部摩擦角φ)を算出する。具体的には、図11に示すように、一定の垂直力を載荷した供試体(ブロック)53に水平推力を載荷する。そして、供試体53がせん断面55においてせん断破壊する際の垂直力Nと水平推力Fを測定し、粘着力cおよび内部摩擦角φを推定する。
【0004】
図12は、粘着力cおよび内部摩擦角φの推定方法を説明する図である。図12に示す推定方法では、2個以上の供試体53に対する原位置せん断試験を行う必要がある。各試験点は、σ=N/A、τ=F/Aの式で算出する。ここで、Aは、せん断面55の面積である。
【0005】
しかしながら、原位置せん断試験法では、(イ)反力装置が必要であり、大きな労力及び多額の費用がかかる、(ロ)土質材料を対象とした際、供試体53の製作が困難である、といった問題がある。(イ)については、図11に示すように、垂直力と水平推力を載荷するための反力装置が必要であり、岩材料のような硬い地盤材料を対象とする場合、試験に必要な反力が大きく、反力装置も大型にする必要がある。(ロ)については、砂質系の土質材料は、粘着力をほとんど有さないため、図11に示すような供試体53を製作することが困難である。従って、原位置せん断試験法は、大きな労力および多額の費用をかけて、岩材料のような硬い地盤材料にのみ実施される。このように、原位置せん断試験法では、原位置において様々な地盤材料の力学特性を正確かつ効率良く測定するという要望を満たすことができない。
【0006】
貫入式試験法は、貫入先端(コーン等)をつけたロッドを地盤材料に貫入させ、貫入抵抗を測定するものである。そして、過去に同様の地盤材料で測定された貫入抵抗と強度特性との相関関係に基づいて定式化した経験式から、間接的に地盤材料の強度特性を算出する。貫入式試験法は、試験方法および装置が簡易であり、原位置試験において広く用いられている。
【0007】
しかしながら、貫入式試験法は、(イ)強度特性を経験式により間接的に算出するので、測定結果が試験装置の仕様(寸法等)および対象とする地盤材料に大きく依存する、(ロ)地表面における測定精度が低い、(ハ)応力状況が不明確である、(ニ)貫入先端の先端面積が小さいので、測定結果のバラつきが大きい、といった問題がある。このように、貫入式試験法でも、原位置において様々な地盤材料の力学特性を正確かつ効率良く測定するという要望を満たすことができない。
【0008】
最近の施工の機械化に伴い、作業効率よく原位置で地盤材料を求める方法として、大がかりな反力装置を必要としない落下式装置(スライダーを用いて円板状の重錘を対象地盤に落下させる等)を用いた動的載荷により、簡易に地盤材料の力学特性を求める方法が開発されている。それらの代表的な方法と課題を、以下にまとめる。だだし、それらの方法の大部分は、地盤材料の変形特性を求めるものであり、強度特性を求めることはできない。仮に求めたとしても、それらは、過去に同様の地盤を対象に行われた測定結果と地盤材料の強度特性の相関関係に基づいて作成した経験式により、間接的に求めたものである。
(イ)動的応答方法:代表的な方法として、応答加速度法、インピーダンス法、共振法、輪加速度法等が挙げられる。それらは、簡易な原位置試験方法であるものの、測定結果が試験装置の仕様や対象地盤に大きく依存する等の理由で、あまり普及していない。
(ロ)動的載荷試験:代表的な方法として、小型FWD(Falling Weight Deflectometer)が挙げられる。本方法は、原位置の地盤材料の変形特性を求める目的で一般的に行われる平板載荷試験と測定方法等がほぼ一致している。そのため、簡易な原位置試験方法として、広く普及している。ただし、本方法は、地盤面を平滑にした上、プレートを設置する等、測定技術に熟練性が要求される等の理由で、測定結果にバラツキが大きい。
そこで、本発明者らは、原位置において様々な地盤材料の力学特性を正確かつ効率良く測定可能な落下式装置を用いた測定方法を発明した(特許文献1参照)。特許文献1に開示されている測定方法では、加速度センサが取り付けられた剛性体を対象の地盤材料に落下させて衝撃過程を測定し、測定結果から剛性体と地盤材料との接触時間を算出し、算出した接触時間からHertzの衝撃理論に基づいて地盤材料の変形特性(ヤング率E、ポアソン比μ)を算出する。特許文献1に開示されている測定方法によれば、原位置において様々な地盤材料の変形特性を正確かつ効率良く測定可能である。
【特許文献1】特開2002−30643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そして、本発明者らは、地盤材料の変形特性に加えて、更に、原位置において様々な地盤材料の強度特性(粘着力c、内部摩擦角φ)を正確かつ効率良く測定可能な測定方法を発明した。
【0010】
本発明の目的は、原位置において様々な地盤材料の強度特性(粘着力c、内部摩擦角φ)を正確かつ効率良く測定可能な強度特性測定方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために第1の発明は、原位置において地盤材料の強度特性を測定する強度特性測定方法であって、加速度センサが取り付けられた剛性体を一定の高さから落下させて衝撃過程を計測する計測ステップと、計測した衝撃過程を基に前記剛性体と前記地盤材料との接触時間を算出し、Hertzの衝撃理論に基づく第1の理論式から前記地盤材料の変形特性を算出するステップと、計測した衝撃過程および算出した前記地盤材料の変形特性を基に、Vesicの空洞拡張理論に基づく第2の理論式から前記地盤材料の強度特性を算出するステップと、を含むことを特徴とする強度特性測定方法である。第1の発明によって、原位置において様々な地盤材料の強度特性を正確かつ効率良く測定することができる。
【0012】
第1の発明における前記第2の理論式は、慣性力を考慮したものであることが望ましい。慣性力を考慮することで、精度の高い測定結果を得ることができる。
【0013】
第1の発明は、更に、前記計測ステップを複数回繰り返し、調和平均法を用いた統計処理によって、前記強度特性の平均を算出することが望ましい。調和平均法を用いることで、例えば、地盤材料に大きな石が含まれていたような場合が測定結果に含まれていても、その影響を軽減することができる。
【0014】
第2の発明は、原位置において地盤材料の強度特性を測定する強度特性測定装置であって、加速度センサが取り付けられた剛性体を一定の高さから落下させて衝撃過程を計測した計測データを入力する手段と、入力した前記計測データを基に前記剛性体と前記地盤材料との接触時間を算出し、Hertzの衝撃理論に基づく第1の理論式から前記地盤材料の変形特性を算出する手段と、計測した衝撃過程および算出した前記地盤材料の変形特性を基に、Vesicの空洞拡張理論に基づく第2の理論式から前記地盤材料の強度特性を算出する手段と、を具備することを特徴とする強度特性測定装置である。
【0015】
第3の発明は、コンピュータを第2の発明の強度特性測定装置として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、原位置において様々な地盤材料の強度特性(粘着力c、内部摩擦角φ)を正確かつ効率良く測定可能な強度特性測定方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は、強度特性測定方法に用いる装置の概要を示す図である。図1に示すように、本発明の実施の形態における強度特性測定方法では、対象とする地盤材料3の原位置において、剛性体1、コンピュータ5、電源15、A/Dボード17等を用いる。
【0019】
剛性体1は、金属製であり、例えば、球状または半球状である。但し、形状はこれらに限定されるものではなく、落下させたときに少なくとも地盤材料3に接触する剛性体1の表層部分が球状であれば良い。
【0020】
剛性体1には、加速度センサ7、取手11が取り付けられている。加速度センサ7は、剛性体1を落下させたときの加速度を計測する。加速度センサ7は、ケーブル13を介して、電源15、A/Dボード17に接続されている。A/Dボード17は、コンピュータ5と接続され、加速度センサ7からの電圧信号をデジタル信号に変換する。コンピュータ5は、A/Dボード17からの信号を記録、分析し、地盤材料3の変形特性、強度特性等を算出する。
【0021】
本発明の実施の形態における強度特性測定方法では、剛性体1を一定の高さ(例えば、50cm)に引き上げ、剛性体1を自由落下させ、剛性体1と地盤材料3との衝撃過程を測定する。
【0022】
図2は、剛性体1と取手11の内部を示す図である。図2に示すように、加速度センサ7は、剛性体1に内蔵され、例えばネジ等で固定されている。また、ケーブル13は、取手11の内部を通り、加速度センサ7と接続している。剛性体1と取手11は、例えばネジ等で固定されている。
【0023】
図3は、コンピュータ5のハードウェア構成図である。尚、図5のハードウェア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。コンピュータ5は、制御部21、記憶部22、メディア入出力部23、通信制御部24、入力部25、表示部26、周辺機器I/F部27等が、バス28を介して接続される。
【0024】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0025】
CPUは、記憶部22、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス28を介して接続された各装置を駆動制御し、コンピュータ5が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータ5のブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部22、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部21が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0026】
記憶部22は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部21が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述の処理に相当するアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部21により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0027】
メディア入出力部23(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、フロッピー(登録商標)ディスクドライブ、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、MOドライブ等のメディア入出力装置を有する。
【0028】
通信制御部24は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータ5とネットワーク29間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワーク29を介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。
【0029】
入力部25は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部25を介して、コンピュータ5に対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
【0030】
表示部26は、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータ5のビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0031】
周辺機器I/F(インタフェース)部27は、コンピュータ5に周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部27を介してコンピュータ5は周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部27は、USB、IEEE1394、RS−232C、PCカード用インタフェース等の規格に基づいて構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
【0032】
バス28は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0033】
次に、図4および図5を参照しながら、本発明の理論的背景について説明する。図4は、空洞拡張理論を説明する図である。図5は、衝撃応力の分布を示す図である。
【0034】
Vesicが提案した空洞拡張理論は、(1)全球状拡張現象がベースとなっている、(2)深い基礎に適している(均等応力が作用する)、(3)塑性領域内材料の体積ひずみが必要である、(4)材料の変形特性が必要である、といった特徴がある。(4)については、特許文献1に開示された方法によって地盤材料3の変形特性を算出することができる。一方、(1)〜(3)については、本発明の実施の形態における強度特性測定方法の特徴を考慮し、理論の修正が必要となる。これは、剛性体1を落下させ、動的載荷を材料に加えるため、慣性力が生じるからである。
【0035】
(内部摩擦角φと影響範囲Rの理論式)
最初に、強度特性の一つである地盤材料3の粘着力cを0と仮定し、もう一つの強度特性である内部摩擦角φ(単位:°)および影響範囲R(単位:m)の理論式について説明する。以下では、(仮定1)剛性体1の落下に対する支持力は、主に剛性体1の中心を頂点とする円錐状領域が提供されるため(図4のO−ABCD)、理論の適用範囲はABCD領域(図4に示す塑性領域31)に限定される、(仮定2)粘性の無い地盤材料3を対象とする、(仮定3)図4に示す塑性領域31内の材料の体積ひずみを0とする、という仮定を置く。
【0036】
静的な状態では、剛性体1の球面部分における各応力σ、σθの平衡関係は、次式を満たしている。
【数1】

但し、rは剛性体1の中心点からの距離(単位:m)であり、地盤材料3の自重は無視
する。
【0037】
塑性領域31内では、次式に示すMohr−Column理論が成立する。
【数2】

【0038】
式(2)を式(1)に代入し、剛性体1と地盤材料3との接触面r=Rでの制約条件σ=pを考慮すると、次式が得られる。
【数3】

ここで、Rは剛性体1の半径(単位:m)、pは剛性体1と地盤材料3との接触面における平均圧縮応力(単位:Pa)である。
【0039】
塑性領域31の境界部(r=R)におけるr方向変位をuとすると、塑性領域31内の体積変化は0である((仮定3)を参照)から、次式を得る。
【数4】

ここで、dを剛性体1による圧縮量(単位:m)とすると、次式を得る。
【数5】

【数6】

但し、d、dp−uは、次式のとおりである。
【数7】

【数8】

式(6)、(8)から、次式が成り立つ。
【数9】

更に、uの二乗以上の項を無視すると、式(4)、(5)、(9)から、次の関係式が成り立つ。
【数10】

【0040】
また、Lameの方程式によれば、uは次式で表わされる。
【数11】

但し、qは塑性領域31の境界部(r=R)における平均圧であり、次式のとおりである。
【数12】

【0041】
一方、塑性領域31の境界部(r=R)においても、式(2)が成立するので、式(2)を変形すると、次式を得る。
【数13】

また、式(11)、(12)、(13)から、次式を得る。
【数14】

更に、r=Rを式(3)に代入すると、次式を得る。
【数15】

従って、式(13)、(15)から、次式を得る。
【数16】

ここで、σθとpが求まれば、式(14)、(16)によって、影響範囲Rと内部摩擦角φを同時に求めることができることになる。
【0042】
本発明の実施の形態における強度特性測定方法では、σθを受動土圧とすると、次式が成り立つ。
【数17】

但し、γは地盤材料3の密度(kg/m)である。式(13)を式(14)、(16)に代入すると、次式を得る。
【数18】

【数19】

ここで、ζを次式のように定義する。
【数20】

そして、式(20)を用いて、式(18)を変形すると、次式を得る。
【数21】

更に、後述するように、本発明の実施の形態における強度特性測定方法においては、dおよびpも求めることができることから、式(21)を式(19)に代入すると、Rが唯一の未知量となり、数値解析によってRを求めることができ、更に内部摩擦角φも求めることができる。
【0043】
(慣性力を考慮した理論の修正)
応力σの分散関係を示す式(1)、(2)、(3)、(15)は、全て静的な応力平衡条件によって得られたものである。本発明の実施の形態における強度特性測定方法においては、慣性力によって応力が更に分散することが予想されることから、慣性力を考慮した理論の修正が必要となる。ここでは、慣性力を考慮した理論の修正とともに、式(19)、(20)に含まれる圧縮量(以下では、最大沈下量という。)dおよび平均圧縮応力pの算出について説明する。
【0044】
一般に、距離による動的振幅の減衰は距離と比例するので、式(3)、(16)、(19)は、次のように修正することができる。
【数22】

【数23】

【0045】
接触面における平均圧縮応力pは、測定した衝撃力Fmaxを接触面積で割っても求めることができない。その原因は、衝撃力の中には地盤材料3の変形に寄与するもの、地盤材料3の慣性力に転換されるもの、熱に変換されるものなどが含まれることが挙げられる。従って、これらのうち、地盤材料3の変形に寄与する力Fを算出し、Fから平均圧縮応力pを求める必要がある。
【0046】
以下では、地盤材料3の変形特性であるヤング率E(単位:Pa)、ポアソン比μを用いて平均圧縮応力pを算出する方法について説明する。ヤング率E、ポアソン比μは、特許文献1に開示された方法によって算出可能であり、本発明の実施の形態における強度特性測定方法の中でも算出する。
【0047】
剛性体1と地盤材料3との間の応力分布は、図5のようにモデル化することができる。ここで、pは、接触面33の最大沈下点における圧縮応力である。また、pは、接触面33のr(rは剛性体1の中心点から最大沈下点に引いた直線からの距離)地点における圧縮応力であり、pおよび図5に示すaを用いて次式で表すことができる。
【数24】

従って、Fは次式のとおり表すことができる。
【数25】

ここで、aとdとの間には、次式に示す関係式が成り立つ。
【数26】

式(26)を式(25)に代入すると、次式を得る。
【数27】

【0048】
Bossinesqの解によれば、地表面に対して鉛直に集中載荷Pが作用している場合、載荷点からrだけ離れた地表面での沈下量は、次式で表すことができる。
【数28】

式(28)を積分すると、最大沈下量dは次式のとおり求めることができる。
【数29】

次に、式(29)に応力分布の関係を示す式(24)を代入すると、次式を得る。
【数30】

次に、式(30)を式(27)に代入すると、Fは次式のとおり求めることができる。
【数31】

一方、平均圧縮応力pは、式(31)に示すFによって、次式のとおり表すことができる。
【数32】

ここで、Amaxは接触面積であり、例えば、球冠の表面積とすると、次式を得る。
【数33】

従って、平均圧縮応力pは、次式のとおり求めることができる。
【数34】

式(34)、(21)を式(23)に代入し、Rについて解けば、影響範囲Rが求まる。更に、求めたRを式(21)に代入すれば、内部摩擦角φが求まる。尚、地盤材料3の粘着力cは0と仮定している。
【0049】
以上のとおり、慣性力を考慮した理論の修正を行い、本発明の実施の形態における強度特性測定方法によって、前述した理論式から地盤材料3の強度特性の一つである内部摩擦角φを直接求めることができる。
【0050】
一方、飽和粘土のようなφ=0の地盤材料3を対象とする場合、粘着力cについての仮定を外して、φ=0の仮定を置くことで、上記と同様の方法で粘着力cを求めることができる。また、粘着力cおよび内部摩擦角φの両方を未知量とする場合、例えば、粘着力cに経験値を設定することで内部摩擦角φを求めることができる。
【0051】
(変形特性の算出)
ここでは、特許文献1に開示された方法によって地盤材料3の変形特性を算出する方法の概略を説明する。特許文献1に開示された方法も、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法と同様、剛性体1を自由落下させ、地盤材料3との接触時間を測定する。そして、接触時間を基に、Hertzの衝撃理論に基づく理論式から地盤材料3の変形特性を算出する。
【0052】
Hertzの衝撃理論によれば、落下球体(例えば、剛性体1)と弾性体平面(例えば、地盤材料3)との接触時間Tは、(1)球体の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)、(2)弾性体平面の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)、(3)球体の質量M、球体の半径R及び落下高h、の要因によって決まる。
【0053】
質量M、半径Rの球体を落下高hから弾性体平面に落下させたとき、球体と弾性体平面との接触時間Tは、次式で表わされる。
【数35】

ここで、δ=(1−μ)/(Eπ)(i=1、2)である。また、gは重力加速度であり、g=9.8(m/s)である。
【0054】
式(35)から、球体と弾性体平面との接触時間Tは、球体の質量M、球体の半径R、落下高h、球体の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)、及び弾性体平面の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)によって決まることが分かる。そして、接触時間Tは、測定可能であり、球体の質量M、球体の半径R、落下高h、球体の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)は既知であることから、未知量は、弾性体平面の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)の2つである。従って、同じ変形特性を持つ弾性体平面(例えば、同じ場所の地盤材料3)に対して、落下条件を変えて2回落下させれば、弾性体平面の変形特性(ヤング率Eとポアソン比μ)を推定することが可能となる。
あるいは、未知量のうちポアソン比μに関しては、対象とする弾性体平面に応じた値(例えば、岩:0.2、礫質土:0.2、砂質土:0.3、粘性土:0.4等)を用いる。従って、弾性体平面に対し、球体を1回落下させれば、弾性体平面の変形特性(ヤング率E)を推定することが可能となる。
以上のとおり、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法の中で、地盤材料3の変形特性を算出することができる。
【0055】
次に、図6を参照しながら、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法の詳細について説明する。図6は、強度特性測定方法の流れを示すフローチャートである。
【0056】
図6に示すように、測定者は、既知のデータ(例えば、剛性体1の半径、地盤材料3の密度等)をコンピュータ5の入力部25を介して入力する(ステップ101)。コンピュータ5の制御部21は、入力した既知のデータを記憶部22に記憶する。
【0057】
次に、測定者が剛性体1を一定の高さ(例えば、50cm)に持ち上げて、地盤材料3に落下させると(ステップ102)、加速度センサ7が剛性体1の加速度を計測する(ステップ103)。計測結果は、A/Dボード17がデジタル信号に変換し、コンピュータ5の周辺機器I/F部27を介して、コンピュータ5に入力される。コンピュータ5の制御部21は、入力した計測結果(剛性体1の加速度の時系列データ)を記憶部22に記憶する。
尚、ステップ102の処理における剛性体1の落下位置は、表面が乱れた箇所や石を避け、平坦な場所が望ましい。また、ステップ102の処理は、剛性体1を車両に搭載し、車両が自動的に落下位置を決定し、剛性体1の自由落下をさせるようにしても良い。
【0058】
次に、コンピュータ5の制御部21は、記憶部22に記憶した計測結果のノイズを低減させる処理等を行う(ステップ104)。
【0059】
次に、コンピュータ5の制御部21は、測定結果を基に、前述した理論式から各測定回の変形係数と強度定数を求める(ステップ105)。具体的には、前述したHertzの衝撃理論に基づく理論式から、ヤング率E、ポアソン比μを算出する。また、前述したVesicの空洞拡張理論に基づく理論式から、内部摩擦角φ、または粘着力cを算出する。
【0060】
次に、コンピュータ5の制御部21は、予定測定回数に達したかどうかを確認する(ステップ106)。
予定測定回数に達していない場合、ステップ102から処理を繰り返す。
予定測定回数に達している場合、ステップ107に進む。
【0061】
次に、コンピュータ5の制御部21は、ステップ102からステップ105の処理によって測定した測定結果から、統計処理によって、変形係数と強度定数の平均、標準偏差等を求める(ステップ107)。ここで、統計処理は、一般的に用いられる単純平均法だけでなく、調和平均法を用いるようにしても良い。
【0062】
調和平均法とは、例えば、n個のデータx、・・・、xに対し、以下の式で算出する。
【数36】

調和平均法を用いることで、例えば、地盤材料3に大きな石が含まれていたような場合が測定結果に含まれていても、その影響を軽減することができる。
【実施例】
【0063】
次に、図7から図10を参照し、本発明の実施の形態に係る実施例について説明する。図7は、測定した波形を表示する画面例を示す図である。図8は、ノイズ処理等を行った後の波形を表示する画面例を示す図である。図9は、統計処理の結果を表示する画面例を示す図である。図10は、本発明と室内三軸圧縮試験との測定結果の比較の一例を示す図である。
【0064】
剛性体1と地盤材料3との衝撃過程は、剛性体1と地盤材料3とが接触した瞬間から、上方向に向かう抵抗力を受け始め、剛性体1と地盤材料3とが離れるまで、上方向の抵抗力が続く。外力の方向と測定した加速度の方向とは一致しているので、図7に示すように、加速度の符号が変わるまでの時間が接触時間35である。
【0065】
本実施例では、図7に示すように、地盤材料3の原位置において剛性体1を落下させると、コンピュータ5の制御部21は、加速度センサ7によって測定した加速度の波形をコンピュータ5の表示部26に表示する。そして、図8に示すように、コンピュータ5の制御部21は、ノイズ処理等を行うと、ノイズ処理等を行った後の波形をコンピュータ5の表示部26に表示する。また、図8に示すように、コンピュータ5の制御部21は、内部摩擦角、影響範囲等を算出し、コンピュータ5の表示部26に表示する。予定の測定回数が終了すると、コンピュータ5の制御部21は、統計処理を行い、例えば、図9に示すように、各回の測定結果および算出結果、並びに統計処理の結果をコンピュータ5の表示部26に表示する。このように、測定作業が容易であることに加えて、本実施例では、計測結果を原位置においてリアルタイムに確認することができる。
【0066】
本発明者らは、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法による測定精度を検証するために、同一の地盤材料3に対して、原位置における本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法による測定と、室内三軸圧縮試験(圧密非排水条件)による測定を行った。図10は、両者の測定結果の比較である。
【0067】
図10に示すように、スラグ1、スラグ2に対する室内三軸圧縮試験による内部摩擦角φの測定結果は、27.4〜33.4である。一方、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法による内部摩擦角φの測定結果は、スラグ1が27.1、スラグ2が31.8である。すなわち、スラグ1、スラグ2に対しては、両者の測定結果がほぼ一致していることが分かる。また、細粒分まじり礫に対する室内三軸圧縮試験による内部摩擦角φの測定結果は、38.0である。一方、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法による内部摩擦角φの測定結果は、37.6である。すなわち、細粒分まじり礫に対しても、両者の測定結果がほぼ一致していることが分かる。このように、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法は、原位置において効率良く作業が出来るだけでなく、様々な地盤材料3に対して正確に強度特性を測定できることが分かる。
【0068】
一般に、接触面が球状である場合、平板載荷装置を用いた測定方法に比べて境界条件が複雑になり、応力分布等を評価するための理論解析が困難となる。しかしながら、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法では、Hertzの衝撃理論及びVesicの空洞拡張理論から理論式を導出し、導出した理論式を本方法に適した理論式に修正して用いることで、精度の高い測定結果を得ることができた。
【0069】
以上、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明した。従来の落下式装置の形状は円板状であることから、落下物を対象の地盤材料3と水平に落下させるためにスライダーが必要であり、地盤面にプレートを設置することが一般的である。また、従来の落下物は面接触であることから載荷面積が広く、地盤材料を破壊させるほどの衝撃力を載荷できない。
【0070】
一方、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法では、剛性体1と地盤材料3との接触面が球状であることから、スライダーやプレートといった装置が不要であり、容易に測定作業を行うことができる。また、本発明の実施の形態に係る強度特性測定方法では、点接触であることから接触面積が狭く、応力集中によって比較的容易に地盤材料3の局部破壊を生じさせることができる。更に、地盤材料3が硬くなるほど接触面積が小さくなることから、硬い地盤材料3に対して大きな衝撃力を載荷することができる。
【0071】
以上、本発明に係る強度特性測定方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】強度特性測定方法に用いる装置の概要を示す図
【図2】剛性体1と取手11の内部を示す図
【図3】コンピュータ5のハードウェア構成図
【図4】空洞拡張理論を説明する図
【図5】衝撃応力の分布を示す図
【図6】強度特性測定方法の流れを示すフローチャート
【図7】測定した波形を表示する画面例を示す図
【図8】ノイズ処理等を行った後の波形を表示する画面例を示す図
【図9】統計処理の結果を表示する画面例を示す図
【図10】本発明と室内三軸圧縮試験との測定結果の比較の一例を示す図
【図11】原位置せん断試験法を説明する図
【図12】粘着力cおよび内部摩擦角φの推定方法を説明する図
【符号の説明】
【0073】
1………剛性体
3………地盤材料
5………コンピュータ
7………加速度センサ
11………取手
13………ケーブル
15………電源
17………A/Dボード
21………制御部
22………記憶部
23………メディア入出力部
24………通信制御部
25………入力部
26………表示部
27………周辺機器I/F部
28………バス
29………ネットワーク
31………塑性領域
33………接触面
35………接触時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原位置において地盤材料の強度特性を測定する強度特性測定方法であって、
加速度センサが取り付けられた剛性体を一定の高さから落下させて衝撃過程を計測する計測ステップと、
計測した衝撃過程を基に前記剛性体と前記地盤材料との接触時間を算出し、Hertzの衝撃理論に基づく第1の理論式から前記地盤材料の変形特性を算出するステップと、
計測した衝撃過程および算出した前記地盤材料の変形特性を基に、Vesicの空洞拡張理論に基づく第2の理論式から前記地盤材料の強度特性を算出するステップと、
を含むことを特徴とする強度特性測定方法。
【請求項2】
前記第2の理論式は、慣性力を考慮したものであることを特徴とする請求項1に記載の強度特性測定方法。
【請求項3】
更に、前記計測ステップを複数回繰り返し、調和平均法を用いた統計処理によって、前記強度特性の平均を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の強度特性測定方法。
【請求項4】
原位置において地盤材料の強度特性を測定する強度特性測定装置であって、
加速度センサが取り付けられた剛性体を一定の高さから落下させて衝撃過程を計測した計測データを入力する手段と、
入力した前記計測データを基に前記剛性体と前記地盤材料との接触時間を算出し、Hertzの衝撃理論に基づく第1の理論式から前記地盤材料の変形特性を算出する手段と、
計測した衝撃過程および算出した前記地盤材料の変形特性を基に、Vesicの空洞拡張理論に基づく第2の理論式から前記地盤材料の強度特性を算出する手段と、
を具備することを特徴とする強度特性測定装置。
【請求項5】
前記第2の理論式は、慣性力を考慮したものであることを特徴とする請求項4に記載の強度特性測定装置。
【請求項6】
更に、複数の前記計測データを入力として、調和平均法を用いた統計処理によって、前記強度特性の平均を算出する手段を具備することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の強度特性測定装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項4から請求項6のいずれかに記載の強度特性測定装置として機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−228352(P2009−228352A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77074(P2008−77074)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(594051655)株式会社セントラル技研 (7)
【Fターム(参考)】