説明

強度解析装置及び強度解析プログラム

【課題】材料物性の異方性を考慮して樹脂成形品の強度分布を解析すること。
【解決手段】流動解析部20が、計算モデル作成部11によって作成された計算モデルを用いて流動解析を実行することによって、各微小要素内における繊維材料の主配向方向を算出する。強度解析部30が、計算モデル作成部11によって作成された計算モデルを用いて強度解析を実行することによって、樹脂成形品に要求荷重を加えた際に発生する最大主応力の大きさ及び方向を各微小要素について算出する。材料強度分布算出部40が、流動解析部20によって算出された各微小要素における繊維材料の主配向方向と強度解析部30によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における樹脂成形品の強度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料を含有する樹脂成形品の強度を解析するための強度解析装置及び強度解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維材料などの繊維材料を含有する樹脂成形品は、機械物性や寸法安定性に優れることから、自動車,航空機,電気・電子機器,玩具,家電製品などの幅広い分野で使用されている。このような樹脂成形品の機械物性は、成形条件や製品形状に応じて変化する。このため、従来より、コンピュータシミュレーション技術を利用して樹脂成形品の機械物性を解析し、解析結果に基づいて所望の機械物性が得られるように樹脂成形品の成形条件や製品形状を決定することが行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−273772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形品内に繊維材料が多量に含有されている場合や樹脂成形品が厚肉部を有する場合、樹脂成形品の材料物性の異方性が強くなる。このため、樹脂成形品の機械物性を精度高く解析するためには、材料物性の異方性を考慮して解析を行う必要がある。しかしながら、従来の解析方法は、樹脂成形品の材料物性が成形品内において一様、すなわち等方性であると仮定して解析を行っている。このため、従来の解析方法によれば、樹脂成形品の機械物性を精度高く解析することができず、結果として、解析結果に基づいて樹脂成形品の成形条件や製品形状を決定しても所望の機械物性が得られないことがあった。より具体的には、従来の解析方法を用いて樹脂成形品の強度を解析する場合、材料物性が等方性であると仮定して解析を行うために、樹脂材料を注入するゲート位置・数や成形条件によって変化する異方性を考慮した強度を解析できなかった。以上のことから、材料物性の異方性を考慮して樹脂成形品の機械物性を解析可能な技術の提供が期待されていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、材料物性の異方性を考慮して樹脂成形品の強度分布を解析可能な強度解析装置及び強度解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る強度解析装置は、繊維材料を含有する樹脂成形品の形状を複数の微小要素に分割すると共に、樹脂材料を注入するゲート位置を設定することによって、該樹脂成形品の計算モデルを作成する計算モデル作成部と、前記計算モデル作成部によって作成された計算モデルを用いて流動解析を実行することによって、各微小要素内における前記繊維材料の主配向方向を算出する流動解析部と、前記計算モデル作成部によって作成された計算モデルを用いて強度解析を実行することによって、前記樹脂成形品に要求荷重を加えた際に発生する最大主応力の大きさ及び方向を各微小要素について算出する強度解析部と、前記流動解析部によって算出された各微小要素における前記繊維材料の主配向方向と前記強度解析部によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における前記樹脂成形品の強度を算出する強度分布算出部と、前記強度分布算出部によって算出された強度を出力する出力部と、を備える。
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る強度解析プログラムは、繊維材料を含有する樹脂成形品の形状を複数の微小要素に分割すると共に、樹脂材料を注入するゲート位置を設定することによって、該樹脂成形品の計算モデルを作成する計算モデル作成処理と、前記計算モデル作成処理によって作成された計算モデルを用いて流動解析を実行することによって、各微小要素内における前記繊維材料の主配向方向を算出する流動解析処理と、前記計算モデル作成処理によって作成された計算モデルを用いて強度解析を実行することによって、前記樹脂成形品に要求荷重を加えた際に発生する最大主応力の大きさ及び方向を各微小要素について算出する強度解析処理と、前記流動解析処理によって算出された各微小要素における前記繊維材料の主配向方向と前記強度解析処理によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における前記樹脂成形品の強度を算出する強度分布算出処理と、前記強度分布算出処理によって算出された強度を出力する出力処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る強度解析装置及び強度解析プログラムによれば、各微小要素における繊維材料の主配向方向と最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における樹脂成形品の強度を算出するので、材料物性の異方性を考慮して樹脂成形品の強度分布を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である強度解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、計算モデルの一例を示す平面図である。
【図5】図5は、樹脂材料の流動挙動の解析結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、繊維材料の主配向方向の解析結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、図6に示す基部内における繊維材料の主配向方向を示す拡大図である。
【図8】図8は、図6に示す広幅部内における繊維材料の主配向方向を示す拡大図である。
【図9】図9は、最大主応力の大きさと方向との解析結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、最大主応力の分布状態の解析結果の一例を示す図である。
【図11】図11は、強度の算出方法を説明するための概念図である。
【図12】図12は、強度分布の解析結果の一例を示す図である。
【図13】図13は、図12に示す基部内における強度分布を示す拡大図である。
【図14】図14は、図12に示す広幅部内における強度分布を示す拡大図である。
【図15】図15は、安全率の分布状態の解析結果の一例を示す図である。
【図16】図16は、図15に示す基部内における安全率の分布状態を示す拡大図である。
【図17】図17は、図15に示す広幅部内における安全率の分布状態を示す拡大図である。
【図18】図18は、配向度を説明するための概念図である。
【図19】図19は、繊維材料の主配向方向と最大主応力との関係を示す図である。
【図20】図20は、要素内の応力分布及び強度分布を示す模式図である。
【図21】図21は、要素内の応力分布及び強度分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成及びその動作について説明する。
【0011】
〔強度解析装置の構成〕
始めに、図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成を示すブロック図である。図2は、本発明の一実施形態である強度解析装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本発明の一実施形態である強度解析装置1は、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの情報処理装置によって構成され、入力部2,出力部3,RAM4,ROM5,及びCPU6を主な構成要素として備えている。入力部2は、キーボード,マウスポインタ,テンキーなどの入力装置によって構成され、オペレータの操作入力情報をCPU6に入力する。出力部3は、表示装置や印刷装置などの出力装置によって構成され、CPU6からの制御信号に従って各種情報を出力する。
【0013】
RAM4は、揮発性の記憶装置によって構成され、CPU6が実行する処理に用いられるコンピュータプログラムやデータを一次記憶するCPU6のワーキングエリアとして機能する。ROM5は、不揮発性の記憶装置によって構成され、CPU6が実行する処理に用いられるコンピュータプログラムやデータを記憶している。本実施形態では、ROM5は、後述する強度解析処理の各処理ステップの実行命令をコンピュータ言語によって記述した強度解析シミュレーションプログラム7を記憶している。
【0014】
CPU6は、コンピュータプログラムを実行可能な演算処理装置によって構成されている。CPU6は、ROM5内に記憶されたコンピュータプログラムをRAM4内へとロードし、RAM4内にロードされたコンピュータプログラムを実行することによって、強度解析装置1全体の動作を制御する。本実施形態では、CPU6は、強度解析シミュレーションプログラム7を実行することによって、図2に示す計算モデル作成部11,流動解析部20(樹脂流動解析部21,繊維配向解析部22,異方性物性算出部23),強度解析部30,材料強度分布算出部40,及び安全率分布算出部50として機能する。これら各部の機能については後述する。
【0015】
なお、ROM5内に格納されるコンピュータプログラムやデータは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM,フレキシブルディスク,CD−R,DVD等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。また、コンピュータプログラムやデータは、インターネットなどの電気通信回線に接続されたコンピュータ上に格納し、電気通信回線経由でダウンロードさせることによって提供するように構成してもよい。また、コンピュータプログラムやデータをインターネットなどの電気通信回線を介して提供又は配布するように構成してもよい。
【0016】
〔強度解析処理〕
このような構造を有する強度解析装置1は、以下に示す強度解析処理を実行することによって、材料物性の異方性を考慮して繊維材料を含有する樹脂成形品の強度分布を解析する。以下、図3に示すフローチャートを参照して、この強度解析処理を実行する際の強度解析装置1の動作について説明する。
【0017】
図3は、本発明の一実施形態である強度解析処理の流れを示すフローチャートである。図3に示すフローチャートは、オペレータが入力部2を操作することによって、樹脂材料の物性データ(粘性,比容積,熱伝導率,比熱,繊維材料の含有量など),成形条件データ(射出時間、樹脂材料温度,成形型温度,保圧値,保圧時間,成形型形状など),及び荷重データ(応力など)、拘束条件などの情報を入力し、CPU6に対し強度解析処理の実行を指示したタイミングで開始となり、強度解析処理はステップS1の処理に進む。
【0018】
ステップS1の処理では、計算モデル作成部11が、入力部2から入力された成形型形状、すなわち成形する樹脂成形品の形状をN個の微小要素i(1≦i≦N)に分割した計算モデルを作成する。計算モデルの作成方法は、本願発明の出願時点で公知であるので詳細な説明は省略する。これにより、ステップS1の処理は完了し、強度解析処理はステップS2の処理に進む。
【0019】
ステップS2の処理では、計算モデル作成部11が、ステップS1の処理によって作成された計算モデルについて樹脂材料を注入するゲート位置を設定する。このステップS1及びステップS2の処理によって、例えば図4に示すような計算モデルが作成される。図4は、計算モデルの一例を示す平面図である。図4に示す計算モデル100は、Y方向に延びる柱状の基部101と、基部101のY方向両端部に設けられた広幅部102a,102bとを備え、基部101の中央部にゲート位置Aが設定された構成になっている。以下では、この図4に示す計算モデル100を用いて強度解析処理の一例を説明する。これにより、ステップS2の処理は完了し、強度解析処理はステップS3の処理に進む。
【0020】
ステップS3の処理では、樹脂流動解析部21が、ステップS2の処理によって設定されたゲート位置から樹脂材料を流入させた際の成形型内における樹脂材料の流動挙動を解析する。流動解析の方法は、本願発明の出願時点で公知であるので詳細な説明は省略するが、例えば、東レエンジニアリング株式会社製“3D TIMON”(登録商標)などの流動解析プログラムを利用することによって行うことができる。このステップS3の処理によって、例えば図5に示すような樹脂材料の流動挙動を算出することができる。これにより、ステップS3の処理は完了し、強度解析処理はステップS4の処理に進む。
【0021】
ステップS4の処理では、樹脂流動解析部21が、入力部2から入力された材料物性データ及び成形条件データとステップS3の処理によって得られた流動解析結果とを用いて保圧冷却解析を行うことによって、計算モデル内の各微小要素iの体積収縮率や密度などを算出する。保圧冷却解析の方法は、本願発明の出願時点で公知であるので詳細な説明は省略する。これにより、ステップS4の処理は完了し、強度解析処理はステップS5の処理に進む。
【0022】
ステップS5の処理では、繊維配向解析部22が、ステップS3の処理によって得られた流動解析結果を用いて、計算モデル内の各微小要素i内における繊維材料の主配向方向を算出する。このステップS5の処理によって、例えば図6乃至図8に示すような各微小要素iにおける繊維材料の主配向方向を算出することができる。図6は、計算モデル100内における繊維材料の主配向方向の一例を示す図である。図7は、図6に示す基部101内における繊維材料の主配向方向を示す拡大図である。図8は、図6に示す広幅部102a内における繊維材料の主配向方向を示す拡大図である。図中、線分201は繊維材料を示し、線分201の傾き(方向)が繊維材料の主配向方向を表している。これにより、ステップS5の処理は完了し、強度解析処理はステップS6の処理に進む。
【0023】
ステップS6の処理では、異方性物性算出部23が、入力部2から入力された材料物性データ及び成形条件データ、ステップS3の処理によって得られた流動解析結果、ステップS4の処理によって得られた保圧冷却解析結果、及びステップS5の処理によって得られた繊維材料の主配向方向のデータを用いて、計算モデル内の各微小要素iにおける材料物性を異方性物性として算出する。これにより、ステップS6の処理は完了し、強度解析処理はステップS7の処理に進む。
【0024】
ステップS7の処理では、強度解析部30が、ステップS6の処理によって得られた計算モデル内の各微小要素iにおける材料物性(繊維材料の主配向方向,線膨張係数,弾性率など)を構造解析用データとして、入力部2から入力された荷重データ・拘束条件を用いて構造解析を実行することによって、計算モデルに要求荷重を加えた際の各微小要素iにおける最大主応力の大きさと方向とを算出する。この処理によって、例えば図9に示すような主応力の大きさと方向とを算出することができる。図9は、広幅部102bを固定した状態で広幅部102aに引張荷重を加えた際の各微小要素iにおける最大主応力の大きさと方向とを示す図である。
【0025】
図9中、線分202は最大主応力を示すベクトルであり、ベクトル202の大きさと方向とが最大主応力の大きさと方向とを表している。そして、強度解析部30では、図10に示すような最大主応力の分布状態も算出することができる。なお、構造解析の方法は、本願発明の出願時点で公知であるので詳細な説明は省略するが、例えばMSC.Nastran(MSC社製)やABAQUS(DASSAULT SYSTEMS SIMULIA CORP)などの構造解析プログラムを利用することによって行うことができる。また、簡易な形状や条件であれば、コンピュータプログラムを使用しなくても材料力学理論より結果を得ることができる。これにより、ステップS7の処理は完了し、強度解析処理はステップS8の処理に進む。
【0026】
ステップS8の処理では、材料強度分布算出部40が、ステップS5の処理によって得られた各微小要素iにおける繊維材料の主配向方向とステップS7の処理によって算出された最大主応力の分布状態とに基づいて、各微小要素iについて最大主応力σp(i)と同方向の強度σs(i)を算出する。具体的には、材料強度分布算出部30は、図11(a)に示すように最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度θが0°である時の材料強度をMD強度、図11(c)に示すように最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度θが90°である時の材料強度をTD強度としてそれぞれ設定する。そして、材料強度分布算出部30は、以下に示す数式(1)に最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度θを代入することによって、図11(b)に示すように最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度がθ(0°<θ<90°)であるときの最大主応力σp(i)と同方向の強度σs(i)を算出する。
【0027】
すなわち、一般に、材料強度は、最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とが平行である場合に最大となり、最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とが直交する場合には最小となる。そこで、本実施形態では、材料強度分布算出部40は、最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度θが0°から90°に増加するのに応じて材料強度が低下するように、以下に示す数式(1)により最大主応力方向D1と繊維材料の主配向方向D2とがなす角度がθ(0°<θ<90°)であるときの最大主応力σp(i)と同方向の強度σs(i)を算出する。このステップS8の処理によって、例えば図12乃至図14に示すような強度σs(i)の分布状態を算出することができる。図12は、図10に示す最大主応力の分布状態から算出された強度分布の一例を示す図である。図13は、図12に示す基部101内における強度分布を示す拡大図である。図14は、図12に示す広幅部102a内における強度分布を示す拡大図である。これにより、ステップS8の処理は完了し、強度解析処理はステップS9の処理に進む。
【0028】
【数1】

【0029】
ステップS9の処理では、安全率分布算出部50が、ステップS5の処理によって算出された各微小要素iの強度σs(i)に基づいて、各微小要素iの安全率A(i)を算出する。具体的には、安全率分布算出部30は、以下に示す数式(2)に各微小要素iにおける最大主応力σp(i)と強度σs(i)とを代入することによって、各微小要素iの安全率A(i)を算出する。このステップS9の処理によって、例えば図15乃至図17に示すような安全率A(i)の分布状態を算出することができる。図15は、図12に示す強度分布から算出された安全率A(i)の分布状態の一例を示す図である。図16は、図15に示す基部101内における安全率A(i)の分布状態を示す拡大図である。図17は、図15に示す広幅部102a内における安全率A(i)の分布状態を示す拡大図である。この安全率A(i)により、発生応力に対する安全率を保持できていれば構造強度としては問題がなく、逆に発生応力が低くても材料強度が劣れば安全率が低く構造強度に問題がある、といった製品設計における全体的な強度評価が可能となる。これにより、ステップS9の処理は完了し、強度解析処理はステップS10の処理に進む。
【0030】
【数2】

【0031】
ステップS10の処理では、安全率分布算出部50が、ステップS9の処理によって算出された各微小要素iの安全率A(i)に基づいて、安全率A(i)が基準値Ac未満の微小要素iがあるか否かを判別する。基準値Acは、強度解析シミュレーションプログラム7内で予め設定された値であり、例えば1.0などの値に設定されている。判別の結果、安全率A(i)が基準値Ac未満の微小要素iがない場合、安全率分布算出部50は、強度解析処理をステップS13の処理に進める。一方、安全率A(i)が基準値Ac未満の微小要素iがある場合には、安全率分布算出部50は、強度解析処理をステップS11の処理に進める。
【0032】
ステップS11の処理では、安全率分布算出部50が、安全率A(i)と基準値Acとの差に基づいて、ゲート位置を変更することによって安全率A(i)を基準値Ac以上に調整できるか否かを判別する。判別の結果、ゲート位置を変更することによって安全率A(i)を基準値Ac以上に調整できる場合、安全率分布算出部50は、ゲート位置を変更するように強度解析処理をステップS2の処理に戻す。一方、ゲート位置を変更することによって安全率A(i)を基準値Ac以上に調整できない場合には、安全率分布算出部50は、強度解析処理をステップS12の処理に進める。
【0033】
ステップS12の処理では、安全率分布算出部50が、成形型(製品)の形状を変更することを促すメッセージを出力部3に出力する。オペレータは、出力部3に出力されたメッセージに従って成形型の形状を変更し、入力部2を介して変更した成形型の形状のデータを入力する。そして、安全率分布算出部50は、成形型の形状のデータが入力されたタイミングで強度解析処理はステップS1の処理に戻す。
【0034】
ステップS13の処理では、安全率分布算出部50が、ステップS8の処理によって算出された強度分布のデータやステップS9の処理によって算出された安全率A(i)の分布状態のデータと共に、ステップS1の処理によって入力された成形型(製品)の形状のデータ及びステップS2の処理によって設定されたゲート位置のデータを出力部3に出力する。これにより、ステップS13の処理は完了し、一連の強度分布解析処理は終了する。
【0035】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である強度解析処理によれば、材料強度分布算出部40が、流動解析部20によって算出された各微小要素iにおける繊維材料の主配向方向と強度解析部30によって算出された各微小要素iにおける最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素iにおける樹脂成形品の強度を算出するので、材料物性の異方性を考慮して樹脂成形品の強度分布を解析することができる。
【0036】
また、本発明の一実施形態である強度解析処理によれば、安全率分布算出部50が、材料強度分布算出部40によって算出された各微小要素iの強度を強度解析部30によって算出された各微小要素iにおける最大主応力の大きさで除算することによって、各微小要素iについて安全率を算出するので、発生応力に対する安全率を保持できていれば構造強度としては問題がなく、逆に発生応力が低くても材料強度が劣れば安全率が低く構造強度に問題がある、といった製品設計における全体的な強度評価を行うことができる。
【0037】
また、本発明の一実施形態である強度解析処理によれば、安全率分布算出部50が、算出された安全率A(i)が基準値Ac未満である場合、安全率A(i)が基準値Ac以上になるように計算モデルの形状又はゲート位置を修正するので、安全率A(i)が基準値Ac以上となる成形型の形状又はゲート位置を決定できる。
【0038】
なお、本発明の一実施形態である強度解析処理では、図18に示す繊維材料の主配向方向201のみに基づいて各微小要素iの強度を算出した。しかしながら、実際には、微小要素i内には複数の繊維材料が存在し、各繊維材料の配向方向は図18に矢印201aで示すように必ずしも主配向方向201と一致しない。繊維材料がランダムに配向している場合であっても、主配向方向201は一意に特定されるので、その主配向方向に基づいてMD強度を設定してしまうと、微小要素iの強度が実際より強い強度に算出され、強度を精度高く算出することができなくなる。
【0039】
そこで、微小要素iの強度を算出する際には、繊維材料の主配向方向とその主配向方向に対する繊維材料の配向度(主配向方向に対する繊維材料の配向方向の乱れ具合)を考慮して各微小要素iの強度を算出することが望ましい。この場合、始めに、強度解析部30は、各微小要素iについて繊維材料の配向度を示すパラメータγを算出する。パラメータγは、0.5〜1.0の値を示すものであり、その値は流動解析結果に基づいて算出することができる。パラメータγが0.5である時は、繊維材料がランダムに配向している状態を示し、パラメータγが1.0である時は、全ての繊維材料が主配向方向に配向している状態を示す。
【0040】
次に、強度解析部30は、繊維材料の主配向方向に直交する方向の強度をσt、繊維材料の主配向方向の強度をσmとして、以下に示す数式(3),(4)にパラメータγの値を代入することによって、各微小要素iについて配向度を考慮した繊維材料の主配向方向に直交する方向の強度σt’及び繊維材料の主配向方向の強度σm’を算出する。そして、材料強度分布算出部40は、図19に示すように最大主応力σpの方向と繊維材料の主配向方向とがなす角度がθであるとき、例えば、以下に示す数式(5)に角度θ,及び強度σt’,σm’を代入することにより、最大主応力σpの方向の繊維材料の配向度を考慮した強度σθを算出できる。このような処理によれば、繊維材料の配向度を考慮して各微小要素Iiの強度を精度高く算出できる。
【0041】
【数3】

【数4】

【数5】

【0042】
また、本発明の一実施形態である強度解析処理では、図20(a)に示すように、微小要素i中の最大主応力σpの方向の強度が構造強度に最も影響を与えると仮定し、図20(b)に示すように、安全率分布算出部50は、繊維材料の主配向方向が最大主応力方向から角度θaずれている時の最大主応力方向と同方向の強度σsを算出し、算出された強度を最大主応力σpで除算した値を微小要素iの安全率として算出した。しかしながら、図21(a)に示すように、最大主応力方向から任意の角度θbにおける応力σbとその同方向の強度との関係によっては、最大主応力方向から任意の角度θbにおける安全率が最大主応力方向の安全率より低くなる場合があり得る。
【0043】
そこで、安全率分布算出部50は、微小要素i内における最大主応力方向以外の任意の方向における安全率を180°にわたって所定角度(例えば15°)毎に算出し、算出された安全率の中の最小値を微小要素iの安全率としてもよい。具体的には、この場合、安全率分布算出部50は、以下に示す数式(6),(7)を利用して微小要素i内の最大主応力方向から180°にわたる範囲で任意方向の応力σbに対応する強度σuを算出し、以下に示す数式(8)を利用して微小要素i内の任意方向における安全率を算出する。そして、安全率分布算出部50は、算出された安全率の中の最小値を微小要素iの安全率とする。
【0044】
【数6】

【数7】

【数8】

【0045】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 強度解析装置
2 入力部
3 出力部
4 RAM(Random Access Memory)
5 ROM(Read Only Memory)
6 CPU(Central Processing Unit)
7 強度解析シミュレーションプログラム
11 計算モデル作成部
20 流動解析部
21 樹脂流動解析部
22 繊維配向解析部
23 異方性物性算出部
30 強度解析部
40 材料強度分布算出部
50 安全率分布算出部
100 計算モデル
101 基部
102a,102b 広幅部
A ゲート位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料を含有する樹脂成形品の形状を複数の微小要素に分割すると共に、樹脂材料を注入するゲート位置を設定することによって、該樹脂成形品の計算モデルを作成する計算モデル作成部と、
前記計算モデル作成部によって作成された計算モデルを用いて流動解析を実行することによって、各微小要素内における前記繊維材料の主配向方向を算出する流動解析部と、
前記計算モデル作成部によって作成された計算モデルを用いて強度解析を実行することによって、前記樹脂成形品に要求荷重を加えた際に発生する最大主応力の大きさ及び方向を各微小要素について算出する強度解析部と、
前記流動解析部によって算出された各微小要素における前記繊維材料の主配向方向と前記強度解析部によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における前記樹脂成形品の強度を算出する強度分布算出部と、
前記強度分布算出部によって算出された強度を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする強度解析装置。
【請求項2】
前記強度分布算出部によって算出された各微小要素の強度を前記強度解析部によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさで除算することによって、各微小要素について安全率を算出する安全率分布算出部を備え、前記出力部は、前記安全率分布算出部によって算出された安全率を出力することを特徴とする請求項1に記載の強度解析装置。
【請求項3】
前記強度分布算出部によって算出された任意方向における各微小要素の強度を各微小要素における前記強度を算出した方向と同方向の応力の大きさで除算することによって、任意方向における各微小要素の安全率を算出する処理を微小要素内複数の方向について実行し、微小要素内複数の方向における各微小要素の安全率の最小値を各微小要素の安全率とする安全率分布算出部を備え、前記出力部は、前記安全率分布算出部によって算出された安全率を出力することを特徴とする請求項1に記載の強度解析装置。
【請求項4】
前記安全率分布算出部は、算出された安全率が所定値未満である場合、前記計算モデルの形状又は前記ゲート位置を修正することを特徴とする請求項2又は3に記載の強度解析装置。
【請求項5】
前記強度解析部は、前記流動解析部によって算出された主配向方向に対する前記繊維材料の配向度を算出し、算出された配向度に基づいて各微小要素における前記樹脂成形品の強度の大きさを補正することを特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか1項に記載の強度解析装置。
【請求項6】
繊維材料を含有する樹脂成形品の形状を複数の微小要素に分割すると共に、樹脂材料を注入するゲート位置を設定することによって、該樹脂成形品の計算モデルを作成する計算モデル作成処理と、
前記計算モデル作成処理によって作成された計算モデルを用いて流動解析を実行することによって、各微小要素内における前記繊維材料の主配向方向を算出する流動解析処理と、
前記計算モデル作成処理によって作成された計算モデルを用いて強度解析を実行することによって、前記樹脂成形品に要求荷重を加えた際に発生する最大主応力の大きさ及び方向を各微小要素について算出する強度解析処理と、
前記流動解析処理によって算出された各微小要素における前記繊維材料の主配向方向と前記強度解析処理によって算出された各微小要素における最大主応力の大きさ及び方向とを用いて、各微小要素における前記樹脂成形品の強度を算出する強度分布算出処理と、
前記強度分布算出処理によって算出された強度を出力する出力処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする強度解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図5】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−131220(P2012−131220A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256684(P2011−256684)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】