説明

強心配糖体に耐性な非免疫原性の選択マーカー

強心配糖体(例えばウアバイン)に対して耐性の組換えNa+,K+ATPアーゼα1−サブユニットタンパク質、同様に、その製造方法および使用を開示する。強心配糖体への耐性は、アミノ酸65〜133の間およびその中に位置する領域を変更することによって得られる。このような組換えタンパク質およびそれを発現する核酸コンストラクトは、遺伝子治療および調査用途において、選択マーカーとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に関し、特に、強心配糖体に対して耐性な組換えヒトタンパク質、特にウアバイン耐性Na+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット、および、それに対応する核酸コンストラクト、同様に、療法および調査におけるそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、個体の1またはそれ以上の遺伝子発現を改変すること、または、異常な遺伝子を修正することのいずれかによって病気を治療するアプローチである。現在、薬物ではなくDNAを投与することによって、多くの様々な病気が、遺伝子治療のための候補として調査されている。このような病気としては、遺伝的障害、例えば嚢胞性線維症、心臓血管疾患、様々な形態のガン、同様に、感染性の病気、例えばAIDSが挙げられる。エクスビボまたはインビボで遺伝子を細胞にトランスファーする際、遺伝子改変細胞が未改変細胞に対して選択的な利点を有さない場合、選択が必要なこともある。また、新規の遺伝子を摂取した細胞を患者にトランスファーする前に、それらの十分な増殖を確実にすることも望ましい。
【0003】
遺伝子治療の実践的な使用は、様々な理由のために未だに限定されており、その理由の一つは、遺伝子トランスファー効率が低いことと、高濃度の、または純粋な遺伝子改変細胞群を得るために、インビトロで改変された細胞培養を選択することが必要なことである。従来、遺伝子改変細胞を選択するための様々なマーカー遺伝子が用いられてきた。これらは、2つの種類、すなわち細胞表面マーカー、および、代謝性の選択マーカーに分類される。
【0004】
細胞表面マーカー遺伝子によって改変された細胞は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)または免疫磁気技術によって選択することができる。通常、細胞表面マーカーによれば、迅速な選択手順を実現することができるが、レトロウイルスのエンベロープ中のマーカータンパク質が標的細胞の原形質膜にトランスファーされることにより、導入後あまり早期に選択を実行すると、偽陽性の選択の危険が生じる。さらに、FACSは開放系であるため、滅菌状態を維持することが難しくなる。加えて、大量の細胞のソーティングは、相当な時間を要する。免疫磁気ソーティングの一般的な欠点は、遺伝子改変細胞の回収率が低いことである。導入遺伝子が高く発現される細胞のみが効率的にソーティングされる。低い回収率は大量の開始材料を必要とし、経済的に好ましくない。
【0005】
代謝性の選択マーカーにより、効率的でバックグラウンドフリーな遺伝子改変細胞選択が可能であるが、通常、選択期間は長く、典型的には約1週間〜10日間継続させる。また、選択物質は、直接的にDNAにダメージを与えるものであってもよい。
【0006】
さらに、非ヒト遺伝子または遺伝子フラグメントが、遺伝子改変細胞に対して免疫反応を引き起こすという大きな危険がある。従って、このような遺伝子で改変されたヒト細胞は、免疫系によって除去される可能性があるが、細胞表面マーカーの場合、これらは一般的にヒト由来であるため、免疫原性は通常問題にはならない。対照的に、代謝性の選択マーカーは、場合によっては非哺乳動物由来であり、免疫原性の問題が指摘されている。
【0007】
現在の選択マーカーに関するその他の問題は、正常な細胞機能に与えるそれらの推定上の影響である。これは、細胞の形質転換に影響する可能性のある細胞の変更を引き起こす危険を提唱している。
【0008】
Na+,K+ATPアーゼは、全ての哺乳動物細胞に存在するハウスキーピング酵素である。Na+,K+ATPアーゼは、ナトリウムイオンを細胞外に輸送し、カリウムイオンを細胞内に輸送することによって(割合3:2で)細胞質膜を介した電気化学的な勾配を成り立たせている内在性膜タンパク質であり、これは、エネルギー源としてATP加水分解を利用している。Na+,K+ATPアーゼの活性における変化は、多数の重要な細胞機能に効果を有する。膜で活性な最小限機能的な酵素は、α−サブユニットとβ−サブユニットからなる二量体である。ヒトおよびラットにおいて、Na+,K+ATPアーゼα−サブユニット遺伝子ファミリーの4種のアイソフォーム(α1、α2、α3およびα4)がクローニングされており、α1が強心配糖体に対して最も耐性を有するアイソフォームである。
【0009】
強心配糖体は、天然に存在する化合物であり、哺乳動物の心臓の収縮力とリズムに影響を有することがわかっている。例えば、ケジギタリス(Digitalis lanata)由来のジゴキシンおよびジギトキシン、および、一般的なジギタリス(Digitalis purpurea);カイソウ(Urginea(Scilla) maritime)由来のプロシラリジンA、ストロファンツス・グラツス(Strophantus gratus)由来のウアバイン(G−ストロファンチン);メイフラワー(リリー・オブ・ザ・バレー(Lily−of−the−valley),コンバラナ・マジャリス(Convallana majalis))由来のコンバラトキシン;および、珊瑚のパリトア・トキシア(Palythoa toxica)由来のパリトキシンが挙げられる。いずれの強心配糖体も、1またはそれ以上のグルコース様分子に結合したステロイド部分を含むと考えられている。
【0010】
ウアバインは、上記の薬物群のメンバーの一つであり、α−サブユニットに結合し、酵素のATPアーゼとイオン輸送活性を阻害することが示されている。この説明では、強心配糖体の一例としてウアバインが用いられる。
【0011】
上述したように、現在の選択方法は、細胞選択に悪い影響を与える数々の短所がある。従って、インビトロでの用途、同様に、高い効率で免疫原性が最小のヒトの遺伝子治療において使用するための、迅速な選択マーカーが必要である。また、このようなマーカーは、薬物の毒物学、毒性メカニズムの研究、インビトロで新規の薬物のスクリーニング等のための方法に広範な用途を有するとも予測される。
【0012】
一つの本発明の目的は、このようなマーカー、同様に、その製造方法および使用を利用可能にすることである。さらなる目的、本発明によって提供される解決策、同様に、それらの利点は、以下の説明および実施例を研究すれば当業者にとって明白であると予想される。
【0013】
ウアバイン感受性は、様々な哺乳動物種間で大きな違いが天然に存在する。ラットおよびマウスのNa+,K+ATPアーゼタンパク質は、強心配糖体への高い耐性を示すが、ヒト、ヒツジ、サルおよびブタのタンパク質は高い感受性を有する(Kuntzweiler等,J.Biol.Chem.,271:29682〜29687,1996年)。早くも1988年に、PriceおよびLingrell(Biochemisty,1,27:8400〜8408)は、ヒツジタンパク質のウアバイン感受性に関与する決定因子は、Na+,K+ATPαサブユニットのアミノ末端半分に位置することを示唆している。様々な非ヒトNa+,K+ATPアーゼの耐性を増加させるための数々の試みがなされてきたが、成功率はまちまちであり、ラットNa+,K+ATPアーゼの高度に耐性の表現型は達成されていない。
【0014】
US6,309,874(Belusa)は、アミノ酸位置799および/または801における点突然変異を含み、非ヒト哺乳動物細胞系にトランスフェクトされたラットNa+,K+ATPアーゼα1遺伝子に基づく選択システムを提唱している。
【0015】
Coppi等(Biochemistry,38:2494〜2505,1999年)は、α1およびα2ラットアイソフォームのウアバイン親和性部分に隣接するM1−M2ループにおける電荷を有する残基の組合せの作用を研究した。彼等は、ラットNa+,K+ATPアーゼのウアバイン感受性は、M1−M2ループに隣接する残基の同一性だけでなく、それらが導入される環境にも依存することを報告している。彼等はまた、これらの残基が、ウアバインが優先的に結合するNa+,K+ATPアーゼのE2コンフォメーションを、不安定化するか、または、変更することによって、ウアバイン感受性に影響を与える可能性があることを示唆している。
【0016】
De Fusco等(Nature Genetics,33:192〜196 2003年−2003年1月21日に出版)は、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα2サブユニットをコードする遺伝子における突然変異、および、それらと家族性片麻痺性偏頭痛2型との関連を研究した。突然変異α2およびβ2サブユニットのイオン輸送機能を調査するために、彼等は、Na+,K+ATPアーゼ活性を用いた。第一の細胞外ループに2つのアミノ酸突然変異(Q116RおよびN127D)を導入することによって、α2およびβ2サブユニットをウアバイン耐性にした。しかしながら、アミノ酸レベルでの、ヒトNa+,K+ATPアーゼにおけるα1アイソフォームとα2アイソフォームとの相同性は低く(すなわちわずか約87%)、それゆえに、α1遺伝子で同じ突然変異を起こすことによって、同じ望ましい作用が生じると推測することはできない。
【0017】
Aints等(Human Gene Therapy,13:969〜977,2002年)は、ラットNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットを用いた、ヒト細胞におけるウアバイン耐性の増加を達成したが、この場合、標的化した変異誘発によって799位のロイシンが、システインで置換されている。
【0018】
Emanuel等(Mol.Cell Biol.,9:3744〜3749,1989年)は、差異的なウアバイン感受性に寄与するNa+,K+ATPアーゼのαサブユニット内の決定因子を研究した。彼等は、ウアバイン耐性αサブユニットのcDNAと、ウアバイン感受性αサブユニットのcDNAとのキメラcDNA分子を構築した。ヒトのα1サブユニットの5’末端を、ラットのα1のcDNAの5’末端で置換することによって、Emanuel等は、アミノ末端に、ラットのα1サブユニットの172個のアミノ酸残基を含む組換えタンパク質を得た。このコンストラクトをアフリカミドリザルCV−1細胞にトランスフェクトしたところ、組換えNa+,K+ATPアーゼは、10-4Mウアバインに対して耐性であることが示された。しかしながら、このコンストラクトは、ヒト細胞にトランスフェクトされておらず、ヒト細胞における前記コンストラクトの機能性および免疫原性は、この研究から推定することはできない。このようなラット遺伝子から誘導された大規模な置換を含むコンストラクトは、ヒト細胞に高い免疫原性を付与する可能性が高く、従って、ヒトの遺伝子治療で用いるための選択マーカーとして適切ではない。
【0019】
すなわち、これら従来技術は、Na+,K+ATPアーゼに関する生物学では、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットにおけるウアバイン耐性の増加を付与するアミノ酸が同一であるという証拠を得ることができず、それゆえに、ヒトNa+,K+ATPアーゼα1遺伝子を、ヒトの遺伝子治療のための効率的な選択マーカーに発展させることができるという証拠または提案を提供することに成功していないを説明している。すなわち、ヒトの遺伝子治療および調査で用いるための、非免疫原性の、迅速で信頼できる選択マーカーが必要である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、高い強心配糖体耐性を有する組換えヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質、特に、このような高い強心配糖体耐性を付与する組換えヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットポリペプチドに関する。前記組換えタンパク質は、アミノ酸レベルで、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに少なくとも98%相同である。本組換えα1−サブユニットと、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとのアミノ酸配列の相違点は、配列番号1のヒトNa+、K+ATPアーゼのα1−サブユニットの番号65〜133またはそれらの機能に同等な相同体に対応するアミノ酸の間およびその中に位置する。
【0021】
添付された配列表(パテントイン(PatentIn)3.1ソフトウェアを用いて作製された)では、ヒト野生型Na+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに関するアミノ酸配列(配列番号1)、本発明の一実施形態に係る組換えNa+,K+ATPアーゼのアミノ酸配列(配列番号2)、および、前記タンパク質に対応する組換え核酸をコードする配列(配列番号3)を開示している。実施例で用いたプライマーは、配列番号4〜21として開示されている。最小2個のアミノ酸置換を示すアミノ酸配列が、配列番号23として開示されており、それに対応するコード配列は、配列番号24として開示されており、いずれも本発明の好ましい実施形態を構成する。
【0022】
本発明のさらなる形態、およびそれらの利点は、以下の説明、実施例、図面および添付の請求項から明らかになると予想され、これらは参照により本発明に加入させる。
【0023】
本発明を、以下の説明、実施例、および添付の図面でより詳細に説明する:
図1は、ウアバインで誘導された細胞死への耐性に関して試験したコンストラクトの概略図を示す。これらのコンストラクトを含むプラスミドでトランスフェクトされたHeLaおよびCOS−7細胞を、10μMウアバイン中で、それぞれ24時間および4日間インキュベートし、続いて、解析した。上から6個のコンストラクトは、ウアバインで誘導された細胞死への耐性を付与したが、その下の8個のコンストラクトは付与しなかった。
図2は、一時的なトランスフェクションの後、ウアバインを用いてHeLa細胞を選択した結果を図示する。トランスフェクションの24時間後にウアバインを細胞に加えた。48時間後、トランスフェクション細胞をトリプシン処理し、ウアバイン非含有培地にトランスファーした。次の日、細胞をPBSで洗浄し、WST−1細胞増殖試薬を用いて解析した。細胞は、トランスフェクトされていない(コントロール)か、または、フレーム内にEGFPをコードするC1プラスミド、ラットOuaR(pEGFPR)、または、アミノ酸置換Q118R、N129Dを有するヒトNa+,K+ATPアーゼα1のcDNA(pEGFP−Q118R;N129D)でトランスフェクトされた。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の明細書および請求項の文中で、用語「機能的に相同な」または「機能的に同等な」は、開示された配列との構造的な相同性は低いが、健康な生物または病気の生物のいずれかにおいて、インビボおよび/またはインビトロで相同な機能を示す配列特性を意味する場合があり、例えば同一または高度に類似した細胞の機能を有する同一または高度に類似したタンパク質をコードする配列特性を意味する。最も関連のある細胞の機能は、この場合強心配糖体への耐性の増大、および、免疫原性が低いこと、または免疫原性がないことである。
【0025】
本発明は、細胞培養実験および分子生物学、例えばヒト細胞の選択で用いるための、新規の効率的な選択マーカーに関する。本発明は、全ての細胞で天然に発現される遺伝子、すなわちNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット遺伝子に基づく。正常なタンパク質活性の変更を最小化することによって、ヒトの遺伝子治療で用いるための効率的な選択マーカーを確立し、それにより、ウアバインで改変されていないヒト細胞を迅速に除去し、遺伝子改変細胞を効率的に回収することができる。天然に存在する遺伝子の変更を最小化することにより、本選択マーカーは、免疫原性をなくするか、または、免疫原性を極めて低くすることができる。
【0026】
本発明は特に、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAのアミノ末端における最初の約130個、好ましくは最初の133個のアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を、それに対応するラットNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAの部分で置換した実験の結果に基づく。ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのラット相同体は、ウアバイン毒性への顕著に高い耐性を付与する。驚くべきことに、本発明者は、このキメラcDNAによってコードされたキメラα1−サブユニットは、ヒトNa+,K+ATPアーゼα1に比べて、強心配糖体ウアバインに顕著に高い耐性を示すことを示した。キメラα1−サブユニットは、10の位置においてヒトα1−サブユニットとは異なるアミノ酸をコードする。従って、タンパク質レベルでのキメラα1−サブユニットと野生型ヒトα1−サブユニットとの差は、10個のアミノ酸置換である。
【0027】
遺伝子改変細胞の選択に関する本発明の形態を考察すれば、本選択プロセスは、細胞質膜を通過するイオン輸送の阻害による、ウアバインでのヒト細胞の特異的な迅速な除去に基づくことが強調される。それゆえに、本選択プロセスは遺伝毒性ではなく、すなわちこれは、発明者の最良の知識において、実質的にヒト遺伝子に関して高いウアバイン耐性が初めて得られたことを示す。結果的に得られた前例のない耐性レベルにより、この突然変異遺伝子を、選択マーカーとして、未改変のヒト細胞の極めて迅速な除去に利用することを可能にする。このマーカーは、遺伝子治療用途において、ヒトの病気および能力障害のワイドアレイ、同様に、培養における細胞の遺伝学的改変に関する用途を有する可能性がある。
【0028】
その上、この選択マーカーは、いわゆる自殺遺伝子、すなわち細胞死を誘導する遺伝子と共に有利に用いることができる。
【0029】
本発明は、全ての細胞型において発現された遺伝子に基づいており、現在の選択/ソーティングマーカーにとって有利な選択システムを提供する。本発明の核酸コンストラクトによってコードされたアミノ酸配列が、ヒト野生型Na+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットと少なくとも98%、好ましくは99%超の相同性を有するため、免疫原性が起こる可能性は極めて低い。
【0030】
さらなる利点は、ウアバインは、周知の比較的安価な医薬であり、病院で強心薬として広範に用いられていることである。ウアバインは、Na+,K+ATPアーゼの阻害剤としての作用以外の毒性作用は知られておらず、簡単な洗浄によって細胞培養物から迅速に除去することができ、偽陽性の選択を生じない。細胞培養環境におけるそれらの迅速な作用経過により、一時的にトランスフェクトされた細胞または安定して導入された細胞の迅速な選択が可能であり、簡単に言えば、選択が迅速であり、すなわちほとんどの細胞型で24〜48時間であり、偽陽性の結果を生じない。これらの特性により、このヒト突然変異コンストラクトを、臨床前および臨床分子医学で用いるのに好ましい選択マーカーとすることができる。
【0031】
ウアバインは、Na+,K+ATPアーゼに細胞外で結合し、第一と第二の膜貫通領域との間のジャンクション(H1−H2ジャンクション)は、α1−サブユニットのウアバイン耐性レベルに強く影響を与えると考えられている。細胞外に露出したH1−H2ジャンクションは、アミノ酸番号118〜129(番号付けは、配列番号1またはそれらの機能的に同等な相同体に従って確立されている)を含み、最初の約130個のアミノ酸における5個の一致した種間の残基の差のうち4個はH1−H2ジャンクション内にあり、すなわち、配列番号1に記載のヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット配列におけるアミノ酸番号Q118、A119、Q126およびN129、または、上記サブユニット配列の機能的に同等な相同体における対応するアミノ酸に対応する。また、H1−H2ジャンクションの端にある膜に結合した残基も、ウアバイン親和性に重要であると考えられている。
【0032】
本発明の一つの形態は、組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットであり、前記組換えタンパク質は、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに、アミノ酸レベルで少なくとも98%相同であり、ここにおいて、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体であり、本組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのウアバイン耐性は、対応するヒトタンパク質より高い。
【0033】
本発明者は、置換の位置が極めて重要であることを示した。その結果として、本発明の好ましい形態は、組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットであり、ここにおいて、前記タンパク質と、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとの差は、最初の約130個のアミノ酸内に位置しており、ここにおいて、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。
【0034】
本発明者によって行われた研究により、以下のことが実証された:前記タンパク質のα1−サブユニットと、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとのアミノ酸配列における差は、好ましくは、アミノ酸番号65〜133の間およびその中に位置しており、最も好ましくは、アミノ酸番号117〜130(H1−H2ジャンクションの端にある第一の膜に結合した残基も含む)の間およびその中に位置するアミノ酸の少なくとも1つに限定されており、ここにおいて、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。本発明の一実施形態において、前記タンパク質と、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとは、アミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置する最大10個のアミノ酸、より好ましくはアミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置する最大4個のアミノ酸、最も好ましくはアミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置する最大2個のアミノ酸に関して異なっており、ここにおいて、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。
【0035】
一実施形態において、本組換えα1−サブユニットと、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとは、アミノ酸番号118および129の同一性、最も好ましくは突然変異Q118RおよびN129Dにおいて異なっており、ここにおいて、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。
【0036】
本発明に係る組換えタンパク質は、高いウアバイン耐性を示し、好ましくは、前記タンパク質は、ウアバイン濃度が少なくとも10-7Mで、ウアバイン耐性である。より好ましくは、前記タンパク質は、ウアバイン濃度が少なくとも10-5Mで、最も好ましくは、少なくとも10-3Mで、ウアバイン耐性である。
【0037】
本発明は、上記で定義した組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットを利用可能にするものであって、さらに本発明は、前記タンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体、好ましくは、配列番号23に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体を含むことを特徴とする組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットを利用可能にする。
【0038】
本発明のその他の形態は、上記で定義したように、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットと少なくとも98%の相同性を有する組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットをコードする核酸コンストラクトであり、特に、コードされたアミノ酸配列は、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとは、配列番号1またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体の番号65〜133に対応するアミノ酸の間およびその中に位置するアミノ酸残基において異なる核酸コンストラクトである。本コンストラクトは、細胞中で発現されると、強心配糖体およびその他のNa+,K+ATPアーゼ阻害剤、特に、これらに限定されないが、ウアバイン、ジゴキシンおよびジギトキシン、プロシラリジンA、パリトキシンおよびコンバラトキシンのいずれか1種への高い耐性を付与する。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、本核酸コンストラクトは、配列番号3に記載の配列、またはそれらの機能的に同等な相同体を含む。
【0040】
本発明はまた、上記で定義したような組換えウアバイン耐性Na+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットの新規の製造方法も利用可能にする。この方法において、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAの5’末端は、アミノ酸レベルで対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに少なくとも98%相同な組換えタンパク質を生産するように改変され、前記改変は、配列番号1またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体のアミノ酸番号65〜133の間およびその中に位置するアミノ酸置換である。
【0041】
本発明の方法の一実施形態によれば、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAの5’末端は、コード配列中に少なくとも1つの部位特異的突然変異が導入されるように改変され、それによって、アミノ酸番号117〜130の間およびその中に含まれるアミノ酸に関する少なくとも1個のアミノ酸が置換され、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1の配列またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。
【0042】
本発明に係る方法のその他の実施形態によれば、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAの5’末端は、タンパク質のアミノ酸配列に特定の変化が導入されるように改変され、前記変化は、コード配列中の最大10個の部位特異的突然変異からなり、それによって、アミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置するアミノ酸が置換され、より好ましくは、アミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置するアミノ酸が最大4個置換され、最も好ましくは、アミノ酸番号117〜130の間およびその中に位置するアミノ酸が最大2個置換され、前記ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である。
【0043】
本発明の方法の一実施形態において、本組換えα1−サブユニットは、それに対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号118および129(配列の番号付けは、配列番号1またはそれらの機能的に同等な相同体の対応するアミノ酸に従っている)、最も好ましくは置換Q118RおよびN129Dにおいて異なるように改変される。対応する配列は、配列番号23(タンパク質)および配列番号24(コード配列)として添付されている。
【0044】
本発明の方法のその他の実施形態によれば、本組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットは、細胞で発現された際に、少なくとも10-7Mのウアバインに対して耐性を付与する。好ましくは、本核酸コンストラクトは、少なくとも10-5、より好ましくは、少なくとも10-3Mのウアバインに対して耐性を付与する。
【0045】
本発明はまた、本発明の組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットが、その他の強心配糖体、および、その他のNa+,K+ATPアーゼ阻害剤、例えば、これらに限定されないが、ジゴキシンおよびジギトキシン、プロシラリジンA、パリトキシンおよびコンバラトキシンへの耐性を付与する方法に関する。
【0046】
さらに本発明は、組換え強心配糖体耐性マーカー(例えば上記で定義したウアバイン耐性Na+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット)が、インビトロでの遺伝子改変細胞の選択方法で用いられている遺伝子治療法における工程を利用可能にする。
【0047】
インビトロでの遺伝子改変細胞の選択方法は当業者周知である。通常、このような方法は、以下の工程を含んでもよい:第一に、細胞培養培地中で、安定な培養細胞系、または、ドナーまたは患者由来の初発のヒト細胞を増殖させること、である。第二に、天然もしくは合成の核酸または改変された核酸、またはそれらの類似体の形態での、遺伝子のトランスファー、すなわち遺伝情報のトランスファーを、電気的、化学または生物学的手段、例えばエレクトロポレーション、トランスフェクションまたはウイルス遺伝子トランスファー(導入)によって行うこと、である。しかしながら、これは、細胞分画でしか遺伝子トランスファーが起こらない。
【0048】
従って、第三の工程として、分離(例えば化学的な選択)によって、結果生じた遺伝子改変細胞群を未改変細胞から単離する必要がある:また、トランスファーされた遺伝学的材料は、治療上活性な遺伝子を含むことに加えて、毒性物質への耐性を付与する選択可能な遺伝子、または、毒性濃度における医薬も含む。選択は、改変された、および、未改変の細胞の混合物を、毒性物質または物質の混合物に接触させることによって行われる。このような物質によって、未改変細胞において細胞死が誘導されるが、遺伝子改変細胞群では誘導されない。従って、選択後に、純粋な遺伝子改変細胞群が得られる。
【0049】
本発明によれば、毒性物質として、ウアバインのような強心配糖体が用いられ、トランスファーされる遺伝学的材料としては、本発明で開示されたウアバイン耐性を付与する組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットをコードする核酸配列が挙げられる。
【0050】
さらに、本発明は、毒性メカニズムの研究に用いられる方法における工程を利用可能にし、ここにおいて、インビトロまたはインビボでの研究のための方法に、組換え強心配糖体耐性マーカー(例えば、上記で定義したウアバイン耐性組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット)が用いられる。
【0051】
インビトロでの毒性研究方法は当業者周知である。一般的に、このような方法は、例えば、細胞膜のイオンチャンネルに作用することによって、細胞質膜を通過する電気化学的な勾配とイオンの恒常性に影響を与える物質を用いた、細胞死の誘導に関する研究を含んでもよい。このような研究において、試験細胞を細胞培養で成長させ、細胞の様々な試験物質に対する反応を記録した。本発明によれば、試験細胞は、ウアバイン耐性組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットコンストラクトを発現するように改変され、細胞の生存率と、細胞の化学シグナル伝達反応パターンにおける変化が記録される。
【0052】
さらに、本発明は、ヒトNa+,K+ATPアーゼに直接的または間接的に影響を与える物質の薬理学的研究で用いるための、上記で定義したウアバイン耐性組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットを利用可能にする。
【0053】
当業者であれば、様々な薬理学的な研究のための方法は既知であり、文献や、本発明の説明および実施例で開示された情報に基づきこのような方法を改変することができる。一般的に、このような研究は、化学的な刺激または遺伝子トランスファーによる細胞の代謝における変化の誘導を含む。このような方法の一例において、以下の工程が含まれる;第一に、試験細胞を細胞培養で成長させること、および、試験物質または遺伝子操作に対する細胞の反応を記録すること。本発明によれば、上記細胞は、ウアバイン耐性組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットコンストラクトを発現するように改変され、細胞の機能のパターンおける変化が記録される。薬理学的な研究はまた、インビボで行なわれうる。
【0054】
本発明はまた、上記で定義した核酸コンストラクト、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体を包含し、ここにおいて、前記コンストラクトは、遺伝子トランスファーベクターの機能的な部分を形成する。このようなトランスファーベクターは、好ましくはプラスミド、ウイルスベクター、またはそれらのあらゆるハイブリッドコンストラクトである。
【0055】
さらに、本発明の特定の実施形態は、上記で定義したこのような核酸コンストラクト、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体を含む、遺伝子改変された、天然の、部分的または完全に合成の細胞である。好ましくは前記細胞は、真核細胞、または、ヒトキメラ細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。
【0056】
さらに、本発明の特定の実施形態は、キャリアー(例えばエキソゾームおよびリポソーム)、またはそれらの機能的な同等物によってトランスファーされた、ウアバイン耐性組換えNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットを発現する細胞である。
【0057】
以下の非限定的な実施例によって、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0058】
1.材料および方法
1.1 コンストラクトおよびプラスミド
野生型ラットNa+,K+ATPアーゼα1をコードするプラスミド(pCMVOuab’)を、ファーミンジェン(Pharmingen,サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入した。ヒトNa+,K+ATPアーゼα1のcDNAを、プラスミド(phNKAa1)として、J.B.Lingrelに提供してもらった(Dept Mol Gene, Biochem and Microbiol,Univ Cincinnati College of Medicine,シンシナティ,オハイオ州)。部位特異的変異誘発によって、pCMVOuabr中のL−799をシステインに突然変異させ、OuaRと命名した(Aints等,Human Gene Therapy,13:969〜977,2002年)。pEGFP−OuaR(pEGFPR)は、pCMV−OuaRからのApaI−XbaIフラグメントを、pEGFP−C3のApaI部位とXbaI部位との間に挿入することによって作製された(クロンテック(Clontech),パロアルト,カリフォルニア州)。pEGFP−hNKAα1プラスミド(pEGFPH)を、phNKAα1からのNcoI(充填)−XbaIフラグメントを、pEGFP−C1(クロンテック,パロアルト,カリフォルニア州)中のSmaIとXbaIとの間に挿入することによって作製した。いずれの場合も、挿入されたタンパク質とEGFPとの間で、フレーム内融合していた。pEGFP−hNKAα1−PX(H3R)キメラ融合遺伝子を、ヌクレオチド配列PfuMI−XbaIを、pEGFP−OuaRの相同フラグメントで置換することによって作製した。pEGFP−hNKAa1−PV(H3R4H)およびpEGFP−hNKAa1−VX(H4R)キメラ融合遺伝子を、ヌクレオチド配列PfuMI−PpuMI、および、PpuMI−XbaIを、それぞれpEGFP−OuaRの相同フラグメントで置換することによって作製した。Na+,K+ATPアーゼα1の5’末端においてキメラを作製するため、OuaRのセグメントを以下のプライマーで増幅した:
GGAACCTCAAAACGATAATCTGTACCTCGGGGTCGTGC(フォワード)(配列番号4)、
TCATCACGGGTGTGGCTGTGTTCCTGGGGGTGTCTT(フォワード)(配列番号5)、
AAGACACACCCAGGAACACAGCCACACCCGTGATGAGG(リバース)(配列番号6)、
AGCACCACACCCAGGTACAGATCATCATTTGGTGGTTCC(リバース)(配列番号7)、および、
GGCAAGCTTGTTATCTAGA(リバース)(配列番号8)。
【0059】
pEGFPHのセグメントを以下のプライマーで増幅した:
GGAACCACCAAATGATGATCTGTACCTGGGTGTGGTGCT(フォワード)(配列番号9)、
CCTCATCACGGGTGTGGCTGTGTTCCTGGGTGTGTCTT(フォワード)(配列番号10)、
GCACGACCCCGAGGTACAGATTATCGTTTTGAGGTTCC(フォワード)(配列番号−11)、
AAGACACCCCCAGGAACACAGCCACACCCGTGATGA(リバース)(配列番号12)、および、
GCGAAGCTTGACGGGGGGCTAATAGTAGGT(リバース)(配列番号13)。
【0060】
以下のプライマー:
CGGGATCACTCTCGGCATGGAC(フォワード)(配列番号14)
が両方のコンストラクトに用いられた。交差点は、遺伝子の5’末端から390bpおよび900bpの位置であった。PCRでクローニングされたキメラコンストラクトは、以下の通りである:H1R、R1H、R1H4R、R1H3R、R1H3R4H、H1R2H3R、H1R2H3R4H、H1R2H4R、R1H2R。
【0061】
H=ヒト、R =ラット、1=第一の交差点まで、2=第二の交差点まで、3=PfuMI制限部位の後、4=PpuMI制限部位の後。PCR産物をゲルで精製し、TOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングし、ワンショット(One−Shot)E.coli(インビトロジェン)の形質転換によって、製造元が提供したプロトコールに従って増幅した。これら細菌から、キアプレップ・ミニプレップ(Quiaprep miniprep)(キアゲン(Quiagen))を用いて、製造元により供給されたプロトコールに従ってプラスミドを精製した。PCRコンストラクトをプラスミドのHindIII部位から切り出し、ゲルで精製した。このフラグメントを、EGFP−C1またはEGFP−C3プラスミド(クロンテック,パロアルト,カリフォルニア州)中のHindIII部位に挿入し、EGFPとフレーム内で融合させた。ラット遺伝子配列の5’末端を有する全てのコンストラクトをEGFP−C3プラスミドに挿入し、ヒト配列の5’末端を有するコンストラクトをEGFP−C1プラスミドに挿入した。これらのプラスミドをワンショットE.coli(インビトロジェン)で増幅し、キアプレップ・ミニプレップ(キアゲン)を用いて精製した。コンストラクトを制限酵素マッピングと部分的な配列解析によって確認した。
【0062】
1.2 トランスフェクションおよびウアバイン毒性分析
HeLa細胞(ATCC,マナサス,バージニア州)を、10%の熱で不活性化したウシ胎仔血清(FBS)を含むDMEMグルタマックス(Glutamax)で培養した。トランスフェクションのために、フージーン(Fugene)6 試薬(ロシュ・ベーリンガー・マンハイム(Roche Boehringer Mannheim),ドイツ)を、製造元の説明に従って用いた。簡単に言えば、細胞培養培地(100μl)中で、プラスミドDNA(105個の細胞あたり2μg)と試薬(5μl)とを混合し、15分間インキュベートした後、細胞に加えた。24時間後に、ウアバインを最終濃度が10μMになるように各ウェルに加えた。24時間インキュベートした後に、細胞の生存率 を記録した。
【0063】
上述のように、COS−7細胞(ATCC,マナサス,バージニア州)を培養し、トランスフェクトした。10μMウアバイン中で48時間インキュベートした後に、細胞を、PBS(ギブコ(Gibco))中で2回洗浄し、0.025%ブタトリプシンを含む塩類溶液(シグマ(Sigma))で15分間インキュベートした。FBS添加によりトリプシンを不活性化した。10μMウアバイン中で細胞を再びインキュベートした。48時間インキュベートした後、細胞の生存率を記録した。
【0064】
2.結果
2.1 細胞内での局在
トランスフェクションプロセスと突然変異タンパク質の細胞内での局在をモニターするために、EGFP−キメラヒト/ラットNa+,K+ATPアーゼα1融合遺伝子を構築した。COS−7およびHeLa細胞の、pEGFP−キメラ融合遺伝子でのトランスフェクションにより、融合タンパク質の細胞膜への局在が起こった。トランスフェクション実験におけるポジティブコントロールとして、pEGFPRを用いた。pEGFPH発現は、COS−7細胞にウアバイン耐性を付与しなかった。その上、pEGFPHのトランスフェクションによってHeLaで天然に発現されたヒトNa+,K+ATPアーゼα1遺伝子の過剰発現は、ウアバイン感受性に影響を与えなかった。コントロール、pEGFPR、pEGFPH、同様に、キメラEGFP融合タンパク質は、細胞膜に局在しており、GFP蛍光で検出することができた。Na+,K+ATPアーゼα1発現の翻訳後調節は、その同起源のβサブユニットのレベルによって制御される。トランスフェクトされた細胞において、プラスミドによってコードされたタンパク質は、βサブユニットに関して内因性αサブユニットと競合し、アセンブルされていないα−サブユニットは迅速に分解する(ShanbakyおよびPressley,Biochem.Cell Biol.,1995年,73:261〜268)。
【0065】
2.2 ウアバイン感受性
トランスフェクトされたキメラcDNAのウアバイン毒性に対する感受性をインビトロで測定した。10μMウアバインは、野生型HeLaおよびCOS−7の細胞死を誘導するが、ラットOuaRコンストラクトは、ウアバイン耐性を付与し、この α1−サブユニットを発現するHeLaおよびCOS−7を生存させる。ウアバインで24時間インキュベートした後に、トランスフェクトされたHeLa細胞の生存率を記録した。48時間インキュベートした後に、トランスフェクトされたCOS−7細胞の生存率を記録し、その後、トリプシン処理し、10μMウアバインとさらに48時間接触させた。ラット配列のキメラcDNAの5’末端を有するキメラcDNAでトランスフェクトされた細胞は、10μMウアバインに対して耐性であったが、ヒト配列の5’末端を有するコンストラクトでトランスフェクトされた細胞は、cDNAの残りの部分の構成に関わらず、ウアバインで誘導された細胞死によって死滅した(図1)。ポジティブコントロール(pEGFPR)は、トランスフェクトされた細胞へ耐性を付与したが、ネガティブコントロール(pEGFPH)および未導入の細胞は、ウアバインと摂取させることによって除去された。それゆえに、10μMウアバイン耐性の表現型に重要なアミノ酸は、キメラα1−サブユニットのアミノ末端内に、より正確には最初の129のアミノ酸内に位置する。ウアバイン結合部位は、細胞外表面上の膜に近接していると推測される。従って、本発明者は、H1−H2ジャンクション内、および、その端にあるアミノ酸は、ラット−ヒトキメラα1−サブユニットタンパク質の、10μMウアバイン耐性の表現型に関して特定の重要性があると考えている。
【0066】
優先権を主張した年に追加された実験部分
3.材料および方法
3.1 部位特異的変異誘発
pEGFPHを、テンプレートとして用いて、H−Q118R、H−Q118R;A119S、H−Q126P;N129D、H−N129Dを作製した。以下のプライマーを用いて、オーバーラップするセグメントを作製し、それらを連結させ、PCRによって増幅した;
TTGTTTCTTGGCTTATAGTATCCGAGCTGCTACAGAAGAGGAACCT(Q118Rフォワード)(配列番号15)、
AGGTTCCTCTTCTGTAGCAGCTCGGATACTATAAGCCAAGAAACAA(Q118Rリバース)(配列番号16)、
TTGTTTCTTGGCTTATAGTATCCGATCAGCTACAGAAGAGGAACCT(Q118R;A119Sフォワード)(配列番号17)、
AGGTTCCTCTTCTGTAGCTGATCGGATACTATAAGCCAAGAAACAA(Q118R;A119Sリバース)(配列番号18)、
AGAAGAGGAACCTCCAAACGATGATCTGTACCTGGG(Q126P;N129Dフォワード)(配列番号19)、
CCCAGGTACAGATCATCGTTTGGAGGTTCCTCTTCT(Q126P;N129Dリバース)(配列番号20)、
AGAAGAGGAACCTCAAAACGATGATCTGTACCTGGG(N129Dフォワード)(配列番号21)、
CCCAGGTACAGATCATCGTTTTGAGGTTCCTCTTCT(N129Dリバース)(配列番号22)。
【0067】
上記の1または2個のアミノ酸置換をコードするcDNAを、テンプレートとして用いて、H(Q118R;A119S;Q126P;N129D)、H(Q118R;Q126P;N129D)、H(Q118R;N129D)およびH(Q118R;A119S;N129D)を作製し、再度、上記のプライマーを用いた。これらのコンストラクトを、キメラcDNAに関して説明したように、TOPOベクター(インビトロジェン)にクローニングした。これらクローンのAccIで切り出されたフラグメント(突然変異領域を含む)を、AccIで切断したpEGFPHに挿入し、置換した。最終的なcDNAは以下の通り;pEGFPH−Q118R;A119S;Q126P;N129D、pEGFPH−Q118R;Q126P;N129D、pEGFPH−Q118R;N129D、pEGFPH−Q118R;A119S;N129D pEGFPH−Q118R pEGFPH−Q118R;A119S pEGFPH−Q126P;N129D pEGFPH−N129D。これらのコンストラクトは、キメラcDNAに関して説明したように、形質転換によって増幅して製造された。制限酵素マッピングと部分的な配列解析により、突然変異したcDNAを確認した。
【0068】
3.2 細胞系
ヒト上皮ガンHeLa(ATCC,マナサス,バージニア州,米国)、フェニックス(Phoenix)GP(リンパ芽球C1R−sB7)は、Dept. of Molecular Pharmacology,Stanford University Medical Center(スタンフォード,カリフォルニア州,米国)のG.Nolan博士の許可のもとにATCCから得て、GaLVエンベロープを有するマウスレトロウイルス生産細胞系PG13を、ダルベッコ改変最小必須培地(DMEM)グルタマックス−1と、10%の熱で不活性化されたウシ胎仔血清(ギブコ)中で培養した。増殖するために、細胞をPBS(ギブコ)で2回洗浄し、0.025%ブタトリプシンを含む塩類溶液(シグマ)中で約5分間インキュベートした。FBSの添加によってトリプシンを不活性化した。
【0069】
3.3 DNAトランスフェクションおよびウアバイン毒性分析
トランスフェクションのために、フージーン6試薬(ロシュ・ベーリンガー・マンハイム,ドイツ)を、製造元の説明書に従って用いた。簡単に言えば、体積100μlの細胞培養培地 DMEMグルタマックス中で、プラスミドDNA(105個の細胞あたり2μg)と試薬(5μl)とを混合し、15分間インキュベートした後に、細胞に加えた。ウアバイン(シグマ,セントルイス,ミズーリ州,米国)を、10mMのストック溶液として、DMEMに溶解させた。選択実験には、10〜500μMが用いられた。トランスフェクションの24時間後に、ウアバインを細胞に加えた。トランスフェクションの48時間後に、細胞をトリプシン処理し、ウアバイン非含有培地にトランスファーした。WST−1細胞増殖試薬(ロシュ)を製造元の説明書に従って用いて、細胞の生存を分光光度法によって定量した。
【0070】
3.4 レトロウイルスベクターコンストラクト
マルチクローニング部位を含むpMP71−EGFPからの700bpのNheI;XhoI3’−LTRフラグメントを、SF91MCSにおけるXbaI部位に挿入することによって、pMP91MCSを作製した。レトロウイルスベクターpMP91−H(Q118R;N129D)を、HindIIIとSalIで切断したベクターpMP91MCS、pGC1−H(Q118R;N129D)のHindIII;BglIIフラグメント、および、pGC3−R1stHからのBglII;SalIフラグメント(PCRで停止コドンの下流に導入されたHindIII部位を含む)の3点DNAライゲーションとして作製した。
【0071】
3.5 ウイルス上清の製造
一時的なフェニックスGPのトランスフェクションによって、組換えレトロウイルスベクターを製造した。6−ウェルプレート中100000個の濃度で細胞をプレーティングした。次の日、フージーン6試薬を上記のプロトコールに従って用いて、細胞を、ベクタープラスミド(3.75μg)およびpMDG(0.75μg)(D.Trono,Dept of Genetics and microbiology,University of Geneva,Geneva,Switzerland提供,水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−G)をコードする)でトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、上清を回収し、ろ過し、アリコートにして−70℃で凍結した。VSV−G偽型レトロウイルスベクターを用いて、PG13GALV−偽型生産細胞プールを製造した。PG13細胞を、6−ウェルプレート中に約23000個でプレーティングし、VSV−G(1ml)を用いて導入した。ポリブレンを、濃度4〜8μg/mlで用いた。6日間連続して、6回の導入を行った。生産細胞プールを拡張し、これを用いて上清を製造した。上清を回収し、0.45μmのフィルターでろ過し、凍結した。
【0072】
3.6 HeLaの導入と選択
HeLaを、6−ウェルプレートに密度105/ウェルで播いた。PG13生産細胞プール(約5000TU/ml)から回収された、凍結pMP91−H(Q118R;N129D)の上清(200μl)を37℃に温め、上記細胞に加えた。また、8μg/mlのポリブレンを加えた。導入の24時間後に、ウアバインを、濃度10μMで、この培養液に加えた。ウアバイン選択の48時間後に、細胞をPBSで2回洗浄した。次に、導入され、選択された細胞を、ウアバイン非含有培地で増殖させた。
【0073】
4.結果
4.1 ヒトタンパク質の操作されたウアバイン耐性
本発明者は、キメララット−ヒトNa+,K+ATPアーゼα1の、cDNAのウアバイン耐性の増加に関与する重要なアミノ酸を決定することを計画した。ウアバイン結合部位は、細胞外表面上の膜に近接していると推測される。それゆえに、本発明者は、H1−H2ジャンクション内の、および、それに隣接するアミノ酸が、10μMウアバイン耐性の表現型に関する特定の重要性を有する可能性があると仮定した。H1−H2ジャンクション(位置番号118〜129,ヒトアミノ酸配列)内の4つの位置が、ヒトのα1−サブユニット配列とラットのα1−サブユニット配列で異なるため、本発明者は、これらの位置(Q118、A119、Q126、およびN129)が、キメララット−ヒトNa+,K+ATPアーゼα1のcDNAのウアバイン耐性に重要であると推測した。ヒトcDNAにおいて、これらの位置のアミノ酸を、ヒトからラットに、Q118R、A119S、Q126P、N129Dのように置換することによって、これらのうちどれが、組換えヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットの、10μMウアバインに対する耐性を増加させるのに必要であり、かつ十分であるかを評価することができる。アミノ酸置換を、PCR技術を用いた部位特異的変異誘発によって作製した。突然変異遺伝子は、以下の通り:H−Q118R;A119S;Q126P;N129D、H−Q118R;A119S;Q126P、H−Q118R;A119S、H−Q126P;N129D、H−Q118R;N129D、H−Q118R、および、H−N129D。キメラcDNAで説明した方法を用いる、突然変異ヒトcDNAを、GC1プラスミド中でEGFPとフレーム内で融合させた。
【0074】
4.2 ヒト細胞系のトランスフェクションおよび選択
HeLa細胞を、EGFP突然変異ヒトcDNAを有するプラスミドでトランスフェクトし、続いて、トランスフェクションの24時間後に、10μMウアバイン中で24時間インキュベートした。突然変異遺伝子H−Q118R;A119S;Q126P;N129D,H−Q118R;A119S;Q126P、および、H−Q118R;N129Dは、ウアバイン耐性を付与したが、H−Q118R;A119S、H−Q126P;N129D、H−Q118R、および、H−N129Dは、耐性が付与されなかった。結論として、ヒトNa+,K+ATPアーゼα1の10μMウアバイン耐性を付与するためには、2つの位置;Q118RおよびN129Dでの置換が必要であり、かつ十分である。最小限に突然変異させたヒトNa+,K+ATPアーゼα1により、どの程度ウアバイン耐性が付与されたかを決定するために、用量応答分析を行った。HeLa細胞を、プラスミドpEGFPH−Q118R;N129D、または、pEGFPRで一時的にトランスフェクトした。24時間で、細胞は、ウアバインで選択するのに十分な量の融合遺伝子を発現した。このトランスフェクトされた細胞を、様々な濃度のウアバイン(10〜500μM)で24時間選択し、続いて、ウアバイン非含有培地にトランスファーし、WST−1増殖性物質を用いて定量した。結果を図2に示す。ウアバインの24時間後に、コントロールおよびトランスフェクトされていない細胞は除去したが、ラットOuaR、または、ヒトQ118R;N129D置換Na+,K+ATPアーゼα1cDNAのいずれかでトランスフェクトされた細胞は、10および10μMウアバイン濃度で生存した。500μMウアバインは、突然変異ヒトコンストラクトでトランスフェクトされた細胞にとって毒性であり、また、ラットOuaRでトランスフェクトされた細胞にとっても概して多少の毒性を有することを示した。死細胞片と、ウアバイン選択中に解離した細胞を洗浄し、ウアバイン非含有培地にトランスファーした。解離した細胞と死細胞片からは、生存細胞は観察されなかった(データ示さず)。
【0075】
4.3 レトロウイルスベクターの製造および遺伝子トランスファー
我々は、PG13のMP91H−Q118R;N129Dレトロウイルス生産細胞プールを用いて、H−Q118R;N129DのcDNAを標的HeLa細胞に導入することができた。重複感染度(MOI)は<0.05であった。それゆえに、導入された細胞が、細胞あたり1超のレトロウイルスコピーを統合する可能性は極めて低い。純粋な導入された細胞群を得るために、導入の24時間後に、10μMウアバインを48時間加えた。選択された細胞群をさらに拡張し、ウアバイン非含有成長培地で増殖させた。プラスミドDNAでの一時的なトランスフェクションにより、細胞あたり数千に至る遺伝子コピーがトランスファーされ、導入遺伝子の高発現が起こる。この実験において、たった1つの遺伝子コピーでも、10μMウアバイン耐性を付与するのに十分な量でH−Q118R;N129DのcDNAを発現させることがわかった。
【0076】
本発明者が当座認識している最良の形態を構成する好ましい実施形態に関して本発明を説明したが、当業者であれば様々な変化および改変が明白であり、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に添付された請求項の記載に従ってなされ得るものとする。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ウアバインで誘導された細胞死への耐性に関して試験したコンストラクトの概略図を示す。
【図2】一時的なトランスフェクションの後、ウアバインを用いてHeLa細胞を選択した結果を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質であって:
−組換えタンパク質のα1−サブユニットは、アミノ酸レベルで、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットに少なくとも98%相同であり、ここにおいて、該ヒトタンパク質のα1−サブユニットのアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはそれらの機能的に同等ないずれかの相同体であること;
−タンパク質のα1−サブユニットと、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットとのアミノ酸配列における差は、アミノ酸番号65〜133の間に位置する;および、
−組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質は、ウアバイン、ジゴキシン、ジギトキシン、プロシラリジンA、パリトキシンおよびコンバラトキシンから選択される強心配糖体に対して耐性であること、
を特徴とする、上記タンパク質。
【請求項2】
タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜133の間に位置する少なくとも1つのアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項3】
タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜130の間に位置する最大10個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項4】
タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜130の間に位置する最大4個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項5】
タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜130の間に位置する最大2個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項6】
タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットとは、アミノ酸番号118および129において異なる、請求項5に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項7】
タンパク質は、少なくとも10-7Mウアバインに対して耐性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項8】
タンパク質のα1−サブユニットは、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1または2に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項9】
タンパク質のα1−サブユニットは、配列番号23に記載の配列を含む、請求項1または2に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットをコードする、核酸コンストラクトまたはそれらの機能的な相同体。
【請求項11】
配列番号3に記載の配列、またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体である、請求項10に記載の核酸コンストラクト。
【請求項12】
配列番号24に記載の配列、またはそれらの機能的に同等ないずれかの相同体である、請求項10に記載の核酸コンストラクト。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質の製造方法。
【請求項14】
組換えウアバイン耐性Na+,K+ATPアーゼタンパク質の製造方法であって、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット遺伝子は、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに、アミノ酸レベルで少なくとも98%相同な組換えα1−サブユニットタンパク質またはそれらの機能的に同等なあらゆる相同体を生産するように改変され、該改変は、配列番号1のアミノ酸番号65〜133の間に位置するアミノ酸置換であることを特徴とする、上記方法。
【請求項15】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸について少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されるように改変される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット遺伝子は、特定のアミノ酸置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大10個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大4個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子の5’末端は、該タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大2個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号118および129の置換である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
インビトロでの遺伝子改変細胞の選択に、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を用いることを特徴とする、遺伝子治療法における工程。
【請求項21】
インビトロでの研究で、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えタンパク質が用いられることを特徴とする、毒性メカニズムの研究に用いられる方法における工程。
【請求項22】
哺乳動物のNa+,K+ATPアーゼに直接的または間接的に影響を与える物質の薬理学的研究において用いるための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えタンパク質。
【請求項23】
遺伝子トランスファーベクターの機能的な部分を形成する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトまたはそれらの同等なあらゆる相同体。
【請求項24】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトを含む、ドナー、患者または第三の要素の源またはそれらのあらゆる組合せの遺伝子改変された初発の正常なヒトまたはヒト腫瘍細胞、ヒトのキメラ細胞、または、非ヒト細胞、部分的または完全に天然の細胞もしくは合成細胞。
【請求項25】
細胞は真核細胞である、請求項24に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項26】
細胞はヒト細胞である、請求項24に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項27】
メカニズム(例えばエキソゾームおよびリポソーム、またはそれらの機能的な同等物)によってトランスファーされた、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を発現する、ドナー、患者または第三の要素の源またはそれらのあらゆる組合せの初発の正常なヒトまたはヒト腫瘍細胞、ヒトのキメラ細胞、または、非ヒト細胞、部分的または完全に天然の細胞もしくは合成細胞。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質であって:
― α−サブユニットはα1−アイソフォームであり、
― 該組換えタンパク質のα1−サブユニットは、アミノ酸レベルで、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットに少なくとも98%相同であり、ここにおいて、該ヒトタンパク質のα1−サブユニットのアミノ酸配列は、配列番号1に記載の配列、またはその機能的に同等ないずれかの相同体であること;
― 該タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜133の間に位置するアミノ酸の少なくとも1つに関して異なること;および、
― 組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質は、ウアバイン、ジゴキシン、ジギトキシン、プロシラリジンA、パリトキシンおよびコンバラトキシンから選択される強心配糖体に対して耐性であること、
を特徴とするα−サブユニットおよびβ−サブユニットを含む、上記タンパク質。
【請求項2】
該タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜133の間に位置する最大10個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項3】
該タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜130の間に位置する最大4個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項4】
該タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットと、アミノ酸番号117〜130の間に位置する最大2個のアミノ酸に関して異なる、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項5】
該タンパク質のα1−サブユニットは、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットとは、アミノ酸番号118および129において異なる、請求項
1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項6】
アミノ酸番号118がグルタミンからアルギニンに置換されおよびアミノ酸番号129がアスパラギンからアスパルテートに置換された、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項7】
該タンパク質は、少なくとも10-7Mウアバインに対して耐性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項8】
該タンパク質は、少なくとも10-5Mウアバインに対して耐性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項9】
該タンパク質のα1−サブユニットは、配列番号2に記載の配列を含む、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項10】
該タンパク質のα1−サブユニットは、配列番号23に記載の配列を含む、請求項1に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えNa+,K+ATPアーゼタンパク質のα1−サブユニットをコードする、核酸コンストラクトまたはその機能的な相同体。
【請求項12】
配列番号3に記載の配列、またはそれらの機能的に同等ないずれかの相同体である、請求項11に記載の核酸コンストラクト。
【請求項13】
配列番号24に記載の配列、またはそれらの機能的に同等ないずれかの相同体である、請求項11に記載の核酸コンストラクト。
【請求項14】
組換えウアバイン耐性Na+,K+ATPアーゼタンパク質の製造方法であって、ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット遺伝子は、対応するヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットに、アミノ酸レベルで少なくとも98%相同な組換えα1−サブユニットタンパク質を生産するように改変され、該改変は、配列番号1のアミノ酸番号117〜133の間に位置するアミノ酸置換であることを特徴とする、上記方法。
【請求項15】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸について少なくとも1つのアミノ酸置換が導入されるように改変される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニット遺伝子は、特定のアミノ酸置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大10個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大4個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子の5′末端は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号117〜130の間に含まれるアミノ酸の最大2個の置換からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該変化は、アミノ酸番号118および129の置換である、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
ヒトNa+,K+ATPアーゼのα1−サブユニットのcDNAまたは遺伝子は、タンパク質のアミノ酸に特定の置換が導入されるように改変され、該置換は、アミノ酸番号118のグルタミンのアルギニンへの置換およびアミノ酸番号129のアスパラギンのアスパルテートへの置換である、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
インビトロでの遺伝子改変細胞の選択に、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を用いることを特徴とする、遺伝子治療法における工程。
【請求項22】
インビトロでの遺伝子改変細胞の選択に、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を用い、および、該選択が24〜48時間行われることを特徴とする、遺伝子治療法における工程。
【請求項23】
インビトロでの研究で、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を用いることを特徴とする、毒性メカニズムの研究に用いられる方法における工程。
【請求項24】
哺乳動物のNa+,K+ATPアーゼに直接的または間接的に影響を与える物質の薬理学的研究において用いるための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えタンパク質。
【請求項25】
遺伝子トランスファーベクターの機能的な部分を形成する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトまたはそれらの同等なあらゆる相同体。
【請求項26】
ウイルス性遺伝子トランスファーベクターの機能的な部分を形成する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトまたはそれらの同等なあらゆる相同体。
【請求項27】
請求項11〜13のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトを含む、遺伝子改変された、ドナー、患者もしくは第三者由来のまたはそれらのあらゆる組合せの、初代正常ヒトもしくはヒト腫瘍細胞、ヒトのキメラ細胞、または、非ヒト細胞、部分的もしくは完全に天然もしくは合成細胞。
【請求項28】
細胞は真核細胞である、請求項27に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項29】
細胞はヒト細胞である、請求項27に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項30】
エキソゾームおよびリポソームのようなメカニズム、またはそれらの機能的な同等物によってトランスファーされた、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組換えタンパク質を発現する、ドナー、患者もしくは第三者由来のまたはそれらのあらゆる組合せの、初代正常ヒトもしくはヒト腫瘍細胞、ヒトのキメラ細胞、または、非ヒト細胞、部分的もしくは完全に天然もしくは合成細胞。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−517799(P2006−517799A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502803(P2006−502803)
【出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000197
【国際公開番号】WO2004/072278
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(505305927)アヴァリス・アクチエボラーグ (5)
【Fターム(参考)】