説明

強磁性熱可塑性樹脂組成物及びその用途

【課題】磁気シールド性を有し、かつ引張伸びおよび柔軟性に優れた強磁性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、(A)熱可塑性樹脂組成物100質量部、および(B)強磁性を有する物質の粉状体100〜500質量部を含み、JIS K 7113に準じて測定した引張伸びが150%以上であり、熱可塑性樹脂組成物(A)の少なくとも50質量%が、ポリオレフィン構造を有する柔軟性重合体から成り、該柔軟性重合体が下記(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上である。(A−1)α−オレフィンと親水性官能基を有するコモノマーとの共重合体、ここで、該親水性官能基は炭素、水素および酸素原子から構成され、該共重合体は、該コモノマー単位を少なくとも15質量%の量で含みかつMFR(190℃、21.18N)が30g/10分以下である、(A−2)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム構造を主体とする共重合体の水素添加物、ここで、該水素添加物は、上記芳香族ビニル化合物単位を30質量%以下の量で含みかつMFR(230℃、21.18N)が30g/10分以下である、および(A−3)エチレンとα−オレフィンとの共重合体、ここで、該共重合体は、DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が160J/g以下でありかつMFR(190℃、21.18N)が0.1〜20g/10分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強磁性熱可塑性樹脂組成物に関し、特に、引張伸びおよび柔軟性に優れた強磁性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライトコアなどの強磁性材料はエレクトロニクス産業のさまざまの分野、例えばコンピュータ、テレビ受像機、各種通信機器、計測機器などの回路や電源のトランスに不可欠な部材として使用されている。その役割は機器回路や電源ライン上でのEMC(電磁干渉ノイズの除去及び侵入防止)の達成である。
【0003】
現在、強磁性材料は、例えば電線や光ファイバ等の信号線の途中に円筒状の成形体として設けたり、コネクタ/プラグと一体化した成形体として設けたりされている。しかし、強磁性材料はその特性から必然的に質量の大きなものになる。したがって、細い信号線や電線の一箇所にこれを集中して設けることは断線等のトラブルの原因になる。
【0004】
そこで、強磁性材料を電線や信号線の被覆材/シース材として一体化出来れば質量を分散することが出来、また外観もすっきりとしたものになる。
一方、電線や信号線の被覆材/シース材は、難燃性や耐熱性と共に、機械的特性(例えば、引張特性、耐熱老化特性、耐加熱変形性)や柔軟性など種々の特性が要求される。
【0005】
現在、フェライトなどの強磁性粉をゴムやポリエチレン等の有機樹脂と混錬した種々の樹脂磁性材料が提案されている(例えば、特許文献1〜5)。これらの材料は、有機樹脂100質量部に対して強磁性粉を5〜700質量部の種々の量で含むことによりEMCを達成するための磁気シールド性を有するが、これらの樹脂磁性材料を電線や信号線の被覆材/シース材として使用するには、該被覆材/シース材に要求される上記特性、特に引張伸びや柔軟性が不十分である。
【特許文献1】特開昭59−144109号公報
【特許文献2】特開平3−184213号公報
【特許文献3】特開平11−203954号公報
【特許文献4】特開2002−75725号公報
【特許文献5】特開2007−87733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、磁気シールド性を有し、かつ引張伸びおよび柔軟性に優れた強磁性熱可塑性樹脂組成物を得るべく鋭意検討した結果、強磁性粉を特定の熱可塑性樹脂組成物に特定量添加することにより、上記目的が達成されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(A)熱可塑性樹脂組成物 100質量部、および
(B)強磁性を有する物質の粉状体 100〜500質量部
を含む強磁性熱可塑性樹脂組成物であって、JIS K 7113に準じて測定した引張伸びが150%以上であり、熱可塑性樹脂組成物(A)の少なくとも50質量%が、ポリオレフィン構造を有する柔軟性重合体から成り、該柔軟性重合体が下記(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上である強磁性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
(A−1)α−オレフィンと親水性官能基を有するコモノマーとの共重合体、ここで、該親水性官能基は炭素、水素および酸素原子から構成され、該共重合体は、該コモノマー単位を少なくとも15質量%の量で含みかつMFR(190℃、21.18N)が30g/10分以下である、
(A−2)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム構造を主体とする共重合体の水素添加物、ここで、該水素添加物は、上記芳香族ビニル化合物単位を30質量%以下の量で含みかつMFR(230℃、21.18N)が30g/10分以下である、および
(A−3)エチレンとα−オレフィンとの共重合体、ここで、該共重合体は、DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が160J/g以下でありかつMFR(190℃、21.18N)が0.1〜20g/10分である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、磁気シールド性を有し、かつ引張伸びおよび柔軟性に優れるので、電線や光ファイバなどの信号線の被覆材/シース材として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0010】
(A)熱可塑性樹脂組成物
成分(A)は、その少なくとも50質量%が、ポリオレフィン構造を有する柔軟性重合体から成り、上記柔軟性重合体は、下記(A−1)〜(A−3)から選択される1以上である。上記柔軟性重合体は、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物に引張伸びおよび柔軟性を付与するとともに、フィラー受容性に優れている。ここで、「柔軟性重合体」は、JIS K 7215に準じて測定されるショアD硬度(15秒値)が60以下である重合体を意味する。
【0011】
(A−1)α−オレフィンと親水性官能基を有するコモノマーとの共重合体
成分(A−1)を構成するα−オレフィンは、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数2〜16のものを包含する。親水性官能基は炭素、水素および酸素原子から構成され、該親水性基を有するコモノマーは、例えば酢酸ビニル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸およびビニルアルコールを包含する。親水性官能基として−COOR(Rは水素原子又は脂肪族炭化水素基である)を有するコモノマーは、燃焼時に脱カルボキシル反応(脱炭酸反応)を起こして難燃性補助効果を付与するので、特に好ましい。
【0012】
成分(A−1)の例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体など)が挙げられ、これらを単独で、又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
成分(A−1)は、その少なくとも15質量%、好ましくは少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも25質量%、最も好ましくは30〜90質量%が上記コモノマー単位から成る。上記下限未満では、難燃性補助効果が不十分である。また、コモノマーの量が90質量%を超えると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物及びその成形体が非常に硬いものになりやすい。
【0014】
さらに、成分(A−1)は、そのMFR(JIS K 6924−2、190℃、21.18N)が30g/10分以下、好ましくは20 g/分以下、より好ましくは10g/10分以下、最も好ましくは0.1〜6g/10分である。上記上限を超えると、引張伸びが低下する場合がある。また、上記MFRが0.1 g/10分未満では、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物の成形性が低下する可能性がある。
【0015】
(A−1)の市販品としては、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のエバフレックス(商品名)および東ソー株式会社製のウルトラセン(商品名)などが挙げられる。
【0016】
(A−2)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム構造を主体とする共重合体の水素添加物
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどが挙げられる。中でもスチレンが好ましい。
【0017】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。中でもブタジエンが好ましい。
【0018】
成分(A−2)は、上記芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物と共重合が、主としてランダム構造を有する。これは、引張伸びと柔軟性の点から、ランダム構造を主体とする共重合体の方がブロック構造を主体とするものよりも有利であるからである。
【0019】
成分(A−2)中の芳香族ビニル化合物単位の量は、30質量%以下、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。上記量が多すぎると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物が引張伸びおよび柔軟性の低いものになり易い。
【0020】
成分(A−2)は、上記共重合体の水素添加物であり、共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。水素添加率が低いと、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物およびその成形体が硬いものになり易い。
【0021】
また、成分(A−2)は、共役ジエン化合物における芳香族ビニル化合物の重合位置に応じて、共役ジエン化合物単位が直鎖状構造を有する部分と分岐状構造を有する部分を含み得る。例えば共役ジエン化合物がブタジエンの場合、ブタジエンの1、2位で芳香族ビニル化合物が重合すると、ブタジエン部分はエチルエチレン基(水添後)となり、これは分岐状である。ブタジエンの1、4位で芳香族ビニル化合物が重合すると、ブタジエン部分はテトラメチレン基(水添後)となり、これは直鎖状である。本発明における成分(A−2)は、上記分岐状構造を有する部分のモル数が、上記直鎖状構造を有する部分のモル数の1/2以上であるのが好ましく、さらに好ましくは1倍以上、最も好ましくは2倍以上である。これは、分岐状構造が直鎖状構造よりも結晶化する可能性が小さく、従って引張伸びと柔軟性の点で有利になるためである。また、上記分岐状構造は、側鎖が長い方が好ましい。
【0022】
成分(A−2)は、そのMFR(ASTM D 1238、230℃、21.18Nで)が30g/10分以下であり、好ましくは20g/分以下、より好ましくは10g/10分以下、最も好ましくは0.1〜6g/10分である。上記上限を越えると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物が引張伸びの低いものになり易い。また、上記MFRが0.1g/分未満であると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物の成形性が低下する可能性がある。
【0023】
成分(A−2)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
成分(A−2)の市販例としては、JSR(株)製のダイナロン1320P(商品名)が挙げられる。
【0025】
(A−3)エチレンとα−オレフィンとの共重合体
成分(Aー3)は、エチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、MFR(JIS K 6922−1、190℃、21.18N)が0.1〜20g/10分、好ましくは0.2〜15g/分、より好ましくは0.5〜10g/分であり、かつDSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が160J/g以下、好ましくは140J/g以下、より好ましくは1〜120J/gである。
【0026】
上記MFRが上記上限を超えると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物が引張伸びの低いものになり易い。上記下限未満であると、成形性が低下し易い。
【0027】
また、上記融解熱量が上記上限を超えると、十分な引張伸びおよび柔軟性を得ることができない。なお、上記DSC融解曲線は、TA Instruments(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社)のDSC Q1000型を使用し、試料を190℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で190℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる曲線である。
【0028】
成分(A−3)におけるα−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等の炭素数3〜16のものが挙げられる。
【0029】
成分(A−3)の具体例としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等が挙げられる。
【0030】
また、成分(A−3)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたものであっても良い。不飽和カルボン酸の例としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸が挙げられ、その誘導体の例としては、例えば、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸等のエステルおよび無水物が挙げられる。
【0031】
成分(A−3)は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
成分(A−3)の市販品としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製のカーネル(商品名)および三井化学株式会社製のタフマー(商品名)が挙げられる。
【0033】
本発明における熱可塑性樹脂組成物(A)は、その少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは70〜95質量%が上記(A−1)〜(A−3)からなる群から選択される1以上の柔軟性重合体から成る。上記(A−1)〜(A−3)からなる群から選択される1以上の柔軟性重合体の合計量が組成物(A)の50質量%未満であると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物の引張伸びが低いものになる。組成物(A)は、特に引張特性(引張強度と引張伸びのバランス)の点から、好ましくは成分(A−3)を含む。
【0034】
(A−4)結晶性プロピレン系重合体
熱可塑性樹脂組成物(A)は、好ましくは、結晶性プロピレン系重合体をさらに含む。上記重合体を含むことにより、耐加熱変形性および成形加工性を改善することができる。
【0035】
結晶性プロピレン系重合体は特に制限されず、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと少量のコモノマー(例えば、エチレン、1-ブテン等)とのランダム共重合体およびプロピレン系ブロック重合体(例えば、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンブロック共重合体、プロピレン−1−ブテンブロック共重合体等)を包含し、これらを単独で、または2以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
成分(A−4)は、耐加熱変形性の点から、DSC融解曲線の最も高い温度側のピークトップ融点(Tm)が140℃以上であるのが好ましく、より好ましくは150℃以上である。また、成形加工性の点から、MFR(JIS K 6921−2、230℃、21.18N)が0.5〜20g/10分であるのが好ましく、より好ましくは1〜15g/10分である。なお、上記DSC融解曲線は、TA Instruments(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社)のDSC Q1000型を使用し、試料を230℃で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる曲線である。
【0037】
成分(A−4)の量は、耐加熱変形性、成形加工性の観点から、組成物(A)の5〜30質量%が好ましく、より好ましくは10〜25質量%である。上記量が30質量%を越えると、得られる強磁性熱可塑性樹脂組成物の引張伸びおよび柔軟性が不十分になり易い。
【0038】
特に熱可塑性樹脂組成物(A)は、上記(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上の柔軟性重合体70〜95質量%、および(A−4)結晶性プロピレン系重合体5〜30質量%から成るのが好ましく、さらに好ましくは、上記(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上の柔軟性重合体80〜75質量%および(A−4)結晶性プロピレン系重合体10〜25質量%から成る。
【0039】
(B)強磁性を有する物質の粉状体
成分(B)は、熱可塑性樹脂組成物(A)に磁気シールド性を付与するための成分である。成分(B)の具体例としては、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属、Fe−Ni(パーマロイ)、Fe−Co、Fe−Ni−Co−Al(アルニコ磁石)、Fe−Ni−Cr(ステンレス)、MnAl磁石などの合金、SmCo(サマリウム磁石)、NdFe14B(ネオジウム磁石)などの化合物、Fe(磁鉄鉱)、γーFe(マグヘマイト)、BaFe1219(バリウム磁石)、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Cu−Zn系フェライトなどの一群の鉄酸化物(フェライト)の粉状体が挙げられる。これらの中で、透磁率が高く、また電気抵抗が高いことから高周波数領域での渦電流損失が小さいという点から、フェライトの粉状体、特にMn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライトおよびCu−Zn系フェライトの粉状体が最も好ましい。
【0040】
成分(B)の市販品としては、JFEフェライト株式会社や戸田工業株式会社から市販されているMn−Zn系フェライトおよびNi−Zn系フェライトの仮焼粉および造粒粉が挙げられる。
【0041】
成分(B)の量は、成分)(A)100質量部に対して、100〜500質量部であり、好ましくは125〜450質量部、より好ましくは180〜400質量部である。上記下限未満では、磁気シールド性が不十分であり、上記上限を超えると、引張伸びを保持することが困難になる。
【0042】
(C)金属化合物
本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、さらに金属化合物を含むことにより難燃性を高めることができる。上記金属化合物は、酸化金属化合物、水酸化金属化合物、炭酸金属化合物、珪酸金属化合物、ホウ酸金属化合物、およびそれらの水和物から選択される1以上の金属化合物である。具体的には、酸化アルミニウムおよびその水和物、酸化マグネシウムおよびその水和物、酸化ジルコニウムおよびその水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ドロマイト、ハイドロマグネサイト、ハイドロタルサイト、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化スズ、錫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化スズの水和物、硼砂などが挙げられ、これらを単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0043】
上記金属化合物は、表面無処理のもの、およびシランカップリング剤で表面処理されたものが好ましいが、ステアリン酸やオレイン酸等の脂肪酸や脂肪酸金属塩で表面処理されたものでも良い。
【0044】
成分(B)の市販品の例としては、例えば、神島化学工業(株)製のS−6(商品名、水酸化マグネシウム)、協和化学社製のキスマ5(商品名、表面無処理の水酸化マグネシウム)、キスマ5A(商品名、脂肪酸で表面処理された水酸化マグネシウム)、キスマ5L(商品名、シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウム)等が挙げられる。
【0045】
成分(C)の配合量は、使用する場合、成分(A)100質量部に対して25〜250質量部、好ましくは50〜200質量部、より好ましくは70〜180質量部である。上記上限を超えると、引張伸びなどの機械的物性が低下するとともに成形性が悪化する場合がある。
【0046】
本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、さらに必要に応じて(A−1)〜(A−4)以外の熱可塑性樹脂、リン系、フェノール系、硫黄系など各種の酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など各種の耐候剤、銅害防止剤、変性シリコンオイル、シリコンオイル 、ワックス、酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩など各種の滑剤、芳香族リン酸金属塩系、ゲルオール系など各種の造核剤、グリセリン脂肪酸エステル系、脂肪族パラフィンオイル、芳香族系パラフィンオイル、フタル酸系、エステル系など各種の可塑剤、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレーなど各種のフィラー、各種の着色剤などの添加剤等を使用することができる。なお成形品表面にブリードアウトするなどのトラブルを防止するため、本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物との混和性、相溶性の高いものが好ましい。
【0047】
本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、上記成分を溶融混練することにより得られる。溶融混練の方法は特に制限がなく、通常公知の方法を使用することができる。例えば単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーまたは各種ニーダー等を使用することができる。溶融混練の温度は使用する樹脂の種類によって異なるが、180〜220℃程度が好ましい。
また上記の溶融混錬を有機過酸化物の存在下で行うことも出来る。有機過酸化物を使用する場合には、溶融混練の温度は使用する樹脂や有機過酸化物の種類によって異なるが、該有機過酸化物の1分半減期温度以上の温度、好ましくは1分半減期温度+5℃〜+20℃が好ましい。なお、溶融混錬を有機過酸化物の存在下で行なう場合、該有機過酸化物の量は、成分(A)100質量部に対して0.001〜1質量部が好ましく、このとき、好ましくは(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.003〜2.5重量部をさらに存在させる。
【0048】
上記有機過酸化物としては、ジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3、3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、tert−ブチルクミルパーオキシド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。これらのうちで、臭気性、着色性、スコーチ安全性の観点から、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンが特に好ましい。
【0049】
上記(メタ)アクリレート系およびアリル系架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールの繰り返し単位数が9〜14のポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレートのような多官能性メタクリレート化合物、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレートのような多官能性アクリレート化合物、ビニルブチラート又はビニルステアレートのような多官能性ビニル化合物を挙げることができる。これらは、単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。上記の架橋助剤のうち、多官能性アクリレート化合物または多官能性メタクリレート化合物が好ましく、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。これらの化合物は、取り扱いが容易であると共に、有機過酸化物可溶化作用を有し、有機過酸化物の分散助剤として働くため、架橋を均一かつ効果的にすることができる。
【0050】
こうして得られた強磁性熱可塑性樹脂組成物は、電線や信号線において使用されるべく、電線や信号線の規格に適合するために、JIS K 7113に準じて測定した引張伸びが150%以上であることを要する。好ましくは、上記引張伸びが200%以上、より好ましくは350%以上である。また、引張強度が電線や信号線の規格値を満たしていれば更に好ましい。具体的には、JIS K 7113に準じて測定した引張強度(引張応力)が8MPa以上、最も好ましくは10MPa以上である。
【0051】
また、一般的に電線や信号線は硬いものよりも柔軟なものが好まれる。したがって、本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、JIS K 7215に準じて測定したショアA硬度(15秒値)が95以下であるのが好ましく、より好ましくは90以下である。
【0052】
本発明の強磁性熱可塑性樹脂組成物は、磁気シールド性を有するとともに、引張伸びおよび柔軟性に優れるので、電線や光ファイバ等の信号線において有利に使用できる。例えば、上記組成物は、上記組成物からなる層を、導線もしくは被覆材で被覆された導線の上に二重シースを有する電線や信号線におけるいずれかの被覆材/シース材として使用することができる。また、上記組成物からなる層を有するフィルム(シートおよびテープを包含する)を編素等と一緒に導線もしくは通常の被覆材で被覆された導線の上に巻き、その上を通常の被覆材で被覆して電線や信号線を形成することもできる。
【0053】
本発明を以下の実施例、比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明で用いた物性の測定法及び材料を以下に示す。
【0054】
方法
(1)比重:JIS K 7112に準拠し、測定を行なった。
(2)硬度:JIS K 7215に準拠し、試験片は6.3mm厚プレスシートを用いた。
(3)MFR:ASTM−D1238に準拠して測定した(230℃、21.18N荷重)。
【0055】
(4)引張最大応力および引張最大伸び:JIS K 7113に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、2号ダンベル型試験片に打抜いて使用した。引張速度は200mm/分とした(室温)。
(5)加熱処理後の引張最大応力残率および引張最大伸び残率:JIS K 6723に準拠し、試験片は1mm厚プレスシートを、2号ダンベル型試験片に打抜いて使用した。120℃、96時間の加熱処理を行った後に引張速度200mm/分で引張試験を行った。
(6)加熱変形:JIS K 6723に準拠し、15mm幅の2mm厚プレスシートを試験片として測定を行った(120℃、1000g、1時間)。
【0056】
材料
成分(A−1):
ウルトラセンYX21K:エチレン−酢酸ビニル共重合体、東ソー(株)製、酢酸ビニル含量42質量%、MFR(190℃、21.18N)0.4g/分、ショアA硬度(15秒値)45
【0057】
成分(A−2):
ダイナロン1320P:水添スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)、JSR社製、スチレン含量10質量%、MFR(230℃、21.18N)3.5g/分、ショアA硬度(15秒値)41
【0058】
成分(A−3):
SP2520:直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、三井化学(株)製、1−ブテン含有、融解熱量154J/g、MFR(190℃、21.18N)1.7g/分、ショアD硬度(15秒値)56
KF370:超低密度ポリエチレン(VLDPE)、日本ポリエチレン(株)製、1−ヘキセン含有、融解熱量114J/g、MFR(190℃、21.18N)3.5g/分、ショアA硬度(15秒値)46
KS240:超低密度ポリエチレン(VLDPE)、日本ポリエチレン(株)製、1−ヘキセン含有、融解熱量52J/g、MFR(190℃、21.18N)2.2g/分、ショアA硬度(15秒値)31
アドマーXE070:マレイン酸変性ポリエチレン、三井化学(株)製、1−ブテン含有、融解熱量38J/g、MFR(190℃、21.18N)3.0g/10分、ショアD硬度(15秒値)33
【0059】
比較成分(A−3)
SP4530:高密度ポリエチレン(HDPE)、プライムポリマー(株)製、1−ブテン含有、融解熱量185J/g、MFR(190℃、21.18N)2.8g/10分、ショアD硬度(15秒値)61
【0060】
成分(A−4)
BC3HF:ポリプロピレン、日本ポリプロ(株)製、ピークトップ融点(Tm)162℃、MFR(230℃、21.18N)9.0g/分
【0061】
成分(B)
KNI−105G:Ni−Zn系フェライト、JFEフェライト(株)製
【0062】
成分(C)
S−6:水酸化マグネシウム、神島化学工業(株)製
【0063】
その他の成分
RKP−600:複合安定剤、(株)アデカ製
LBT−77:加工助剤、堺化学工業(株)製
【0064】
実施例1〜9および比較例1〜3
表1に示す量(質量部)の各成分を用い、室温ですべての成分をドライブレンドし、モリヤマ社製の20L加圧ニーダーを用いて、排出時の実測樹脂温度が200℃になるように溶融混練を行い、実施例1〜9および比較例1〜3の強磁性熱可塑性難燃樹脂組成物を得た。
次に、ナカタニ社製の2軸押出機を用い、排出時樹脂温度相当のダイス温度で、ホットカット方式の造粒を行い、得られたペレットをロールによりシート化し、さらに、それを熱プレスして試験片を作成し、上記の試験に供した。評価結果を表1に示す
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示されるように、本発明に従う強磁性熱可塑性樹脂組成物は、引張伸びおよび柔軟性に優れる。一方、本発明の範囲より多い量の成分(B)を用いた比較例1、ショアD硬度および融解熱量が本発明の範囲より高い成分(A−3)を用い、その結果、(A−1)〜(A−3)の合計量が組成物(A)全体の35質量%である比較例2および本発明の範囲より多い量の成分(A−4)を用いた比較例3の組成物はいずれも、引張伸びおよび柔軟性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂組成物 100質量部、および
(B)強磁性を有する物質の粉状体 100〜500質量部
を含む強磁性熱可塑性樹脂組成物であって、JIS K 7113に準じて測定した引張伸びが150%以上であり、熱可塑性樹脂組成物(A)の少なくとも50質量%が、ポリオレフィン構造を有する柔軟性重合体から成り、該柔軟性重合体が下記(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上である強磁性熱可塑性樹脂組成物、
(A−1)α−オレフィンと親水性官能基を有するコモノマーとの共重合体、ここで、該親水性官能基は炭素、水素および酸素原子から構成され、該共重合体は、該コモノマー単位を少なくとも15質量%の量で含みかつMFR(190℃、21.18N)が30g/10分以下である、
(A−2)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム構造を主体とする共重合体の水素添加物、ここで、該水素添加物は、上記芳香族ビニル化合物単位を30質量%以下の量で含みかつMFR(230℃、21.18N)が30g/10分以下である、および
(A−3)エチレンとα−オレフィンとの共重合体、ここで、該共重合体は、DSC融解曲線における融解熱量(ΔH)が160J/g以下でありかつMFR(190℃、21.18N)が0.1〜20g/10分である。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂組成物が
(A−1)、(A−2)および(A−3)から成る群から選択される1以上の該柔軟性重合体 70〜95質量%、および
(A−4)結晶性プロピレン系重合体 5〜30質量%
からなる、請求項1に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
強磁性を有する物質が、鉄、コバルト、ニッケル、Fe−Ni(パーマロイ)、Fe−Co、Fe−Ni−Co−Al(アルニコ磁石)、Fe−Ni−Cr(ステンレス)、MnAl磁石、SmCo(サマリウム磁石)、NdFe14B(ネオジウム磁石)およびフェライトから成る群から選択される1以上である、請求項1または2に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)がフェライトの粉状体である、請求項3に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)酸化金属化合物、水酸化金属化合物、炭酸金属化合物、珪酸金属化合物およびホウ酸金属化合物ならびにそれらの水和物から選択される1以上の金属化合物 25〜250質量部
をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
JIS K 7215に準じて測定したショアA硬度(15秒値)が95以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物からなる層を有するフィルム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物からなる層を有する信号線。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の強磁性熱可塑性樹脂組成物からなる層を有する電線。

【公開番号】特開2012−82442(P2012−82442A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22268(P2012−22268)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2007−339902(P2007−339902)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】