説明

強誘電体材料の改善された電界分極

強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する方法は、前記試料の対向表面に一対の電極を配置する段階であって、一方の電極が非線形変化の所望のパターンを定義する段階と、前記電極を用いて所定の時間にわたり前記試料にプレバイアス電圧を印加する段階であって、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力未満である段階と、前記非線形変化の所望のパターンに従って前記試料に領域反転を生成するために、前記所定の時間後に前記電極を用いて前記試料に電流制御された分極電圧を印加する段階と、を備える。前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の75%またはそれ以上であり、1から100秒の所定の時間印加され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体材料の電界分極に対する改善された方法及びこのような方法を実行するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学素子は、様々な波長間のレーザー光を変換するための光学の分野に非常に有用であることが判明している。変換の例には、二倍の周波数(半分の波長)のフォトンを生成するために2つのフォトンが結合する第2の高周波発生、及び、単一のフォトンがより長い波長の2つのフォトンに分裂する光学パラメトリック発振が含まれる。一般的に、このような処理は、フォトンエネルギーを節約し、有用な効率を達成するために位相整合されなければならない。位相整合における要求は、非線形材料における相互作用波形の位相速度が等しくなければならないというものである。1つの位相整合技術は、十分な相互作用を達成するために結晶材料の複屈折を利用する。代替的な技術は、相互作用波形の位相速度の差が結晶の非線形係数の周期的な反転によって補償される擬似位相整合(QPM)の概念に基づく。この周期的な反転は、多くの技術によって達成されることができ、その最も一般的なものは、高電圧パルスが、領域反転の対応するパターンを生成するためにパターニングされた電極を用いて強誘電体材料に印加される周期的反転として知られる手法を使用する。
【0003】
多くの公開された周期的分極方法は、米国特許第5,193,023号に記載されるものに基づく。この方法は、強誘電体基板の対向する主表面に形成される一対の電極を使用し、その一方は、対向する分極方向の領域のパターンを生成するために基板を横切るDC電圧の印加のために、所望の領域反転パターンに従ってパターニングされる。領域反転を生成するために、この電圧は、使用される強誘電体材料に対する所謂保磁電圧を超えなければならない。さらに、この方法において、この電圧は、所定のDC電圧または所定の電圧パルスであることが要求される。
【0004】
この方法を実施するために、両方が分極を生成するが壊滅的な破壊を防止する電圧を予め知ることが必要である。使用中における実際の結晶の電気的及び物理的特性がしはしば良く知られておらず、従って電圧特性の決定における当て推量の大きな要素があるので、これは、困難であり得る。さらに、大きなウエハから切断された試料を用いて動作するとき、これらの特性は、組成または厚さがウエハを横切って変化するので試料毎に変わりえ、全ての試料に対する電圧を変化することを必要とする。
【0005】
この方法は幅広く使用されているが、それは、分極される結晶と直列に電圧プログラム源及び大きな抵抗器を用いることによってこのような電圧制御分極を設定するための共通の実行である。電流を制限するように作用する抵抗を用いて保磁電圧より幾らか大きい電圧が印加される。しかしながら、大きな抵抗器が大きな時定数(試料の静電容量と共に)を設定するので、この技術は、制限をもたらす。従って、正確な制御を行うことは困難であり、分極は、試料の保磁力、直列抵抗及びプログラムされた高電圧によって設定される速度で進行する。
【0006】
後に発展した分極技術は、電圧よりはむしろ電流の制御を使用する。この分極装置は、電圧の動的な変化によって所定の電流形状を与えるためのフィードバックを使用し、それが最良の分極電圧に関してなされる推測をもはや必要としないので、それは、米国特許第5,193,023号で教示される手法の多くの欠点を克服する。さらに、それは、分極の考慮すべき制御が動的であることを許容する。領域切り替えは、外部分極回路の電流に等しい変位電流を生じさせ、従って、この技術は、領域切り替えの速度を直接的に制御する。この方法は、高電流を避けるための電圧を制限することによって電気絶縁破壊事象から回復することにも役立ち、改善された産量を同様にもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,193,023号明細書
【特許文献2】米国特許第6,952,307号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電流制御分極は、多くの文献、例えば米国特許第6,952,307号に記載されている。しかしながら、本来の電圧制御分極方法の欠点が解消される一方で、電流をほとんど制御しない手法は、必ずしも良好な結果をもたらさない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の第1の側面は、強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する方法であって、前記試料の対向表面に一対の電極を配置する段階であって、一方の電極が非線形変化の所望のパターンを定義する段階と、前記電極を用いて所定の時間にわたり前記試料にプレバイアス電圧を印加する段階であって、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力未満である段階と、前記非線形変化の所望のパターンに従って前記試料に領域反転を生成するために、前記所定の時間後に前記電極を用いて前記試料に電流制御されたポーリング電圧を印加する段階と、を備える方法を対象とする。
【0010】
本方法は、制御電流手法を利用することによって、試料を横切って印加される予め知られる電圧を決定するために特定の試料の特性を予め知ることに対する要求の一般的な制御電圧分極技術を用いた問題を解決する。次いで、それは、分極工程前に試料に印加されるプレバイアス電圧を加えることによって一般的な電流制御分極を用いた問題をさらに解決する。プレバイアス電圧なしで、制御電流技術によって得ることができる分極品質は欠しい。本発明によれば、プレバイアスは、分極前の保磁力に近い電圧に試料を安定化し、それは、分極電流が開始され、電圧が保磁力より大きくならなければならない時に生じる電圧増加を減少する。分極中の電圧は、それによって非常に良く定義され、領域反転を生成するために試料に運ばれる電荷の量は、正確に制御されることができ、大いに改善された分極品質を与える。
【0011】
プレバイアス電圧がない場合に比べて、あらゆるプレバイアス電圧がいくらかの増加を与えるが、バイアス電圧が保磁力に近づけば近づくほど、結果は良好になる。従って、本発明の実施形態は、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の75%を超え、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の90%を超え、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の95%を超え、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電材料の保磁力の99%を超えることを提案する。
【0012】
前記プレバイアスが印加される所定の時間は、全て込みで1から100秒の範囲であり得る。
【0013】
前記試料は、全て込みで150μmから10mmの範囲の、前記電極が付けられる表面に垂直な厚さを有する。
【0014】
この電圧は、試料に並列に配置された抵抗器を有して、電流制御高電圧電源供給装置を用いて適用され得る。これは、2つの電圧印加段階を実施するための、特に単純な配置である。前記電流制御高電圧電源供給装置は、分極電圧の印加のための電流の所望の制御を提供し、後の分極工程を妨げる試料に電荷が運ばれないように、結果として得られる電流が前記抵抗器を通って流れる一方で、前記抵抗器は、プレバイアス電圧が試料を横切って印加されることを可能にする。
【0015】
前記抵抗器は、少なくとも1MΩの抵抗を有する。抵抗器のサイズは、プレバイアス電圧の所望のレベル、及び、受け入れ可能又は適切であると考えられる抵抗器を通る結果として得られる電流の量を参照して選択されることができる。
【0016】
前記電流制御高電圧電力供給装置は、所望の量の領域反転を生成するために十分な量の電荷を提供する分極曲線に従う前記分極電圧の印加中に電流を供給するようにプログラムされる。さらに、前記抵抗器の電流が、試料に運ばれるべき電荷から損なわれないように、前記分極曲線は、前記抵抗器を通って流れる電流を補正するように構成される。
【0017】
本発明の第2の側面は、第1の側面に従う方法を実施するように構成された装置を対象とする。
【0018】
本発明の第3の側面は、強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する装置であって、非線形変化の所望のパターンを定義する一方の電極を有する、試料の対向表面に配置される一対の電極を用いた、所定の時間にわたり前記試料にプレバイアス電圧を印加することができる電圧源であって、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力未満である電圧源と、非線形変化の前記所望のパターンに従って前記試料の領域反転を生成するために、前記電極を用いた、前記所定時間後に前記試料に電流制御された分極電圧を印加することができる電圧源と、を備える装置を対象とする。
【0019】
前記プレバイアス電圧は、前記強誘電体材料の保磁力の75%を超え、前記強誘電体材料の保磁力の90%を超え、前記強誘電体材料の保磁力の95%を超え、前記強誘電体材料の保磁力の99%を超え得る。前記プレバイアス電圧は、全て込みで1から100秒の範囲の所定時間にわたって印加される。
【0020】
ある実施形態では、前記装置は、前記プレバイアス電圧及び前記分極電圧を印加することができ、前記プレバイアス電圧及び前記分極電圧に対向する電流を提供するようにプログラムされる単一の電流制御高電圧電力供給装置と、前記試料に並列に配置可能な抵抗器と、を備え得る。前記抵抗器は、少なくとも1MΩの抵抗を有する。
【0021】
前記電流制御高電圧電力供給装置は、所望の量の領域反転を生成するために十分な量の電荷を提供する分極曲線に従う前記分極電圧の印加中に電流を供給するようにプログラムされ得る。前記分極曲線は、前記抵抗器を通って流れる電流を補正するように構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】強誘電体基板の電界の周期的な分極の一般的な原理を示す例示的な配置の配置図を示す。
【図2】周期的な分極における理想的な制御電圧技術の配置図を示す。
【図3】従来技術による直列抵抗を用いた周期的な分極における制御電圧技術の配置図を示す。
【図4】従来技術による周期的な分極における制御電圧技術の配置図を示す。
【図5】本発明の一実施形態による周期的な分極技術の配置図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のさらなる理解のために、本発明が効果的に参照されることを示すことが、例として添付の図面に対して以下で行われる。
【0024】
図1は、この技術の一般的な原理を示すために電界の印加によって周期的な分極を経た強誘電体基板又はウエハの単純化された配置図である。この基板1は、その下部表面を連続的に覆う電極2と、その上部表面にあるパターニングされた電極3と、を有する。パターニングされた電極3は、最終的な分極した結晶に対する所望の領域反転空間に対応する幅及びマーク対スペース比を有する複数の平行なバンドまたはストライプとして構成される。絶縁材料の層4(例えば液体、気体、真空またはフォトレジスト)は、電極ストライプ間の基板を保護するためにパターニングされた電極を覆う。電圧Vは、電極2、3を用いて基板1に印加される。印加された電界がその強誘電体材料における所謂保磁力(その材料の特性である)を超えるとき、強誘電体領域の反転が起こる。上部電極3のパターニングは、反転が電極ストライプの下でのみ起こり、絶縁領域の下で起こらないものであり、基板を横切って非線形係数の周期的な領域反転または変化を与える。図1において、これは、基板において矢印で示され、それは、基板の全深さにわたって延びる180°の領域を達成するために十分に分極されている。実現される分極の程度は、印加される電界の結果として流れる電流によって運ばれる電荷の量に依存し、従って、どれくらい多くの電荷が所望の量の分極を生成するために提供されるかを決定することが必要である。所定の試料において、要求される電荷は、パターニングされた電極によって画定される導電領域に関連する。電荷の量は、印加される電圧、電流及びそれらの両方の調整によって変化されることがある。電荷の良好な制御は、良好な品質の分極した材料を実現するために重要である。
【0025】
代替案の技術は、電極を提供するために使用され得る。特に、このパターンは、絶縁フォトレジストを用いて製造され得る。これは、基板表面にフォトレジストをスピニングし、所望のパターンを画定するためのマスクを用いてフォトレジストを露光し、露光された部分を除去するためにそのフォトレジストを現像することによって行われ得る。従って、絶縁パターンは、前の例の導電パターンの場所において、基板上に画定される。次いで、導電電気接点は、例えばゲルまたは液体電極、または、金属層を用いて、その結晶の対向表面において同様に、絶縁パターン上に提供される。分極用の適切な電極を提供するための多くの様々な技術が知られており、その何れも本発明を実施するために使用され得る。
【0026】
電気接点用に画定される上部及び下部表面は、使用される強誘電体材料の結晶学的構造に依存し、また電極タイプにも依存する。液体またはゲル電極が使用され、+z表面が金属電極用のパターニングされた電極を一般的に有する場合、例えば、ニオブ酸リチウム及びタンタル酸リチウムなどの材料は、z表面が、パターニングされた電極を一般的に有しながら、それらのz表面を用いて分極されるだろう。
【0027】
本発明及びその利点を示すために、多くの一般的な分極技術が以下に記載されるだろう。
【0028】
図2は、第1の分極配置の単純化された配置図を示す。光学素子用の薄いウエハまたは基板の形態である強磁性材料の試料10が提供される。この材料は、最終的な光学素子における光屈折損傷を低減するために、亜鉛、酸化マグネシウム、または、ハフニウムなどの材料で任意にドーピングされ得る。さらに、このウエハ材料は、適合的又は化学量論的である組成物であり得る。
【0029】
試料10は、一般的に、500μm程度の厚さを有する、プレート形態のz断面の試料である。しかしながら、数ミリメートルまでの厚さを有する、より薄い又はより厚い基板が使用され得る。試料の側方サイズは、試料の周囲に電気破壊が起こるのを防止するように選択される。これは、典型的には、それが所望の分極された領域より少なくとも5mm大きいことを要求する。
【0030】
パターニングされた絶縁構造体20は、試料10の上部表面におけるフォトリソグラフィによって画定される。それは、フォトレジストの層に一連の開口部を単に含み得る。導電電極構造体30は、パターニングされた構造体20と接触をもたらされる。それは、堆積された金属、又は、単に塩化リチウム溶液などの液状導電体またはゲル導電体でありえ、絶縁パターンの間隙を通して試料に接触する。第2の連続的な電極50は、試料10の下部表面上に配置され、典型的には上部電極30と同一の組成(すなわち、金属、ゲルまたは液体)を有する。ゲル電極を用いたとき、パターニングされた電極30が試料のz表面上に配置される場合、良好な結果が得られる。
【0031】
高電圧源40は、試料を横切る所定の分極電圧パルスの印加用の電極30、50を横切って接続され、ここで、分極電圧は、強誘電体材料の保磁力を超える。電圧源40はプログラム可能であり、コンピューターまたは信号発生器(図示されない)などの幾つかの外部装置によってプログラムされ得る。この例において、電圧源40は、理想的な“堅い”電圧源(stiff voltage source)である。
【0032】
組み立てるのが困難であるが(それが、負荷に関わらず特定の電圧を与えることができる電力装置を必要とするので)、使用中に最適な分極を与える外部電圧を知ることが必要であるので、この分極装置は、理想的である。この電圧は、ウエハの厚さ、前のウエハの履歴、電極材料及び電極パターンを含む要因の複雑な(一般的に知ることができない)関数である。使用中に、図2の配置は、特定の分極結果を達成するのに相応しい電圧制御供給装置40からの特定の高電圧波形を要求することを伴うだろう。
【0033】
この理想的な状況と対照的に、一般的な制御された電圧分極装置においては、回路に直列の抵抗器(典型的には数メガオームの)を加えることが一般的である。
【0034】
図3は、このように修正された図2の装置を示す。抵抗器60は、試料10に直列に含まれる。
【0035】
実際に、理想的な電圧源40は、限界のある出力インピーダンスを有し、従って、直列抵抗60に等価な特定の小さな抵抗が効果的に存在するだろう。しかしながら、図3のような装置を用いた一般的な分極において、抵抗器60は、供給装置の固有のインピーダンスより非常に大きな値を有するように選択され、典型的には100kΩから10MΩである。ここで、分極作用は、以下のように働く。電圧波形は、電圧供給装置40から要求され、それは、試料10のあり得る保磁力(10.5kVであり得る)を超える所望の電圧(約12kV)まで向かうその出力電圧を引き起こす。次いで、残りの1.5kVは、抵抗器60を通過して降下される。抵抗器60の抵抗が例えば10MΩである場合、抵抗器60を通る電流は、V/Rによって通常通り決定され、それは、この場合1.5kV/10MΩすなわち150μAである。従って、領域反転に必要とされる電荷を運ぶ分極電流は、150μAである。
【0036】
この手法の欠点は、分極における電流が、前記の電圧及び保磁力の差異によって決定されるということである。この保磁力は、幾つかの強誘電体材料においてのみおおよそ知られており、従って、電流はほとんど特定されない。さらに、抵抗器Rの大きな抵抗は、その回路に大きなRC時定数を加え、それは、具体的な制御を困難にする。
【0037】
図4は、図3の装置の制御された電圧の適切な位置に制御された電流を使用する代替案の手法における装置を示す。この電流制御分極配置において、高電圧源40は、プログラム可能な電流源70によって置換される。このような源は、高電圧出力を生成することができるが、その末端から流れる(または末端に戻って流れる)電流を検出するように構成される。従って、この源は、特定の電流波形を与えるようにプログラムされえ、取り付けられる負荷にこの電流を運ぶためにその電圧を適切に調整するだろう。従って、試料10に流れる電流は、正確に特定され得る。プログラミングは、例えば、PCまたは信号発生器による外部的なものである。この電流曲線またはプロファイルの集積は、運ばれる電荷を与え、それは、分極の量及び分極領域を順に決定する。従って、電流プロファイルの最適化は、最良の分極品質を達成するために採用され得る。
【0038】
電流プロファイルの開始において、電流は、必ずしもゼロでない。しかしながら、電流が決定されるとすぐに、電圧は、試料10を通って電流が流れることを可能にするために、その結晶の保磁力より若干大きくなるように非常に急速に上昇しなければならない。従って、典型的には、図4の電流制御装置は、電流に対する要求の直後に(すなわち、分極電流プロファイル開始した時)電圧における非常に急速な上昇を与えるだろう。結果的に、電流制御分極技術における電圧は、ほとんど定義されない。これは、電流がほとんど定義されない図2及び図3の制御電圧手法と対照的である。どちらか一方の配置に関して、分極工程の正確な処理は困難であるとしても、潜在的には欠しい分極品質をもたらす。
【0039】
本発明は、これらの困難性を解決するための技術を提案する。図4に示される手法に関して、分極工程は、特定の電流プロファイルが、従ってこの電流を提供するために印加された電圧を調整する電流源からプログラムされるように電流制御される。さらに、しかしながら、電圧は、強誘電体材料の保磁力未満であるがそれに近い値に設定される分極前に印加される。これは、一般的な制御電流技術における電流に対する要求で生じる電圧における急上昇を避ける。従って、この電圧は、分極工程中(分極電流が流れている時)に非常によく定義され、分極工程の良好な制御及び結果として起こる高い分極品質が実現される。また、適切な電圧を決定することができようにする必要性の回避などの、電圧制御分極に対する電流制御分極の利点は保たれる。
【0040】
保磁力未満である、試料に印加されるあらゆる電圧は、試料を通るゼロ分極電流を提供するだろう。これは、一般的な電流制御分極に分極電流プロファイル前に印加されるゼロ電圧に等しい。しかしながら、保磁力以上までの、電圧における小さな増加が、分極電流供給装置を開始するために必要とされるので、本発明は、保磁力値未満であるがそれに近いプレバイアス電圧を印加することを提案する。所望の量の電荷がより正確に提供されることができるように、これは、より大きな電圧安定性、従って分極工程に対する改善された制御を与える。前述の検討において、結晶を横切る電圧が変化される場合はいつでも、ある容量性電流が流れると認識される。このような電流は、ほとんど容量性ではなく、分極工程に寄与しない。
【0041】
適切な長さの時間にわたって試料にプレバイアス電圧を印加することができるあらゆる配置が使用され得る。従って、1つの魅力的な単純な実施形態によれば、抵抗器は、試料に並列に提供され、プレバイアス電圧及び分極電流/分極電圧は、共に制御電流高電圧電源供給装置から提供される。
【0042】
図5は、この実施形態による装置を示す。この装置は、試料10に並列に配置される抵抗器80の負荷を除いては、通常の制御電流分極技術用の図4に示されるものと同一である。
【0043】
制御電流源70は、所定時間にわたって試料を横切って印加される所望のプレバイアス電圧をもたらすバイアス電流を第1に提供し、次いで、一般的な制御電流分極に関する分極電流プロファイルを提供するようにプログラムされ又は指示される。この源は、例えばPC、工業用制御装置またはプログラム可能な信号発生器によって制御され得る。
【0044】
この工程の最初に、プログラムされた電流は、I=V/Rに設定されるバイアス電流を要求し、ここで、Rは、並列抵抗80の大きさであり、Vは、予想される保磁力より若干小さい所望のプレバイアス電圧である。プログラム可能な電流供給装置は、このバイアス電流が流れることを引き起こすように電圧がここで上昇するだろう。試料を横切る電圧は、Vまで上昇するが、Vが保磁力未満であるので、実質的に全ての電流は、抵抗器を通って流れ、試料を通って流れない。従って、分極は、まだ始まらないが、試料を横切る電圧は、保磁力に近づいて安定することができる。次いで、電流プログラムは、十分な電荷の供給によって成功的な分極をもたらす分極電流(バイアス電流に加えて)を要求するために増加する。バイアス電流の補償(すなわち、電流が、抵抗器80を通って流れることを可能にするための補正)は、ソフトウエアで容易に行われ、電荷全体の非常に正確な制御を可能にする。プレバイアス電圧の最適化は、プレバイアス電流を変えることによって行われ、電流制御分極は、同様に最適化され得る。さらに、試料を若干過分極(オーバーポール)または不足分極(アンダーポール)するための電荷(プログラムされた電流の集積によって与えられる)の量を意図的に増加または減少することが可能である。例えば、若干過分極することによって、大きな試料を横切る分極の均一性を増加することができる。
【0045】
従って、要約すれば、本発明は、強誘電体材料の保磁力より小さいがそれに近いプレバイアス電圧の印加、それに続く、所望の強誘電体領域パターンに適合するように構成された集積された電荷を用いて電流制御分極曲線の提供によって強誘電体の周期的な分極を実行することを提案する。
【0046】
プレバイアス電圧は、所定の期間にわたって印加される。最適な時間は、実験の結果に従って選択され得る。適切なプレバイアスパラメータは、使用される強誘電体材料の組成、厚さ及びタイプを含む要因に依存するだろう。この実験において、広範な時間が試され、結果として得られる分極された構造体は、適切な時間が選択されることができる分極品質を見直した。この時間は、典型的には1秒から100秒の範囲であるが、この範囲外の数倍も考えられる。
【0047】
強誘電体材料の試料は、適切な分極結果が達成されることができるあらゆる厚さであり得る。しかしながら、良好な結果が150μmから10mmの範囲の厚さを有する試料で得られる。
【0048】
一般的な電界分極技術と同様に、本発明は、一般に強誘電体材料に適用可能である。適切な材料の例には、適合するニオブ酸リチウム、適合するタンタル酸リチウム、化学量論のニオブ酸リチウム、化学量論のタンタル酸リチウム、酸化マグネシウムドーピングされたニオブ酸リチウム、酸化マグネシウムドーピングされたタンタル酸リチウム、あらゆる他のドーピングされた強誘電体、KTiOPO(KTP)、RTiOAsO(RTA)、KTiOAsO(KTA)、RTiOPO(RTP)、混合されたヒ酸及びリン酸ルビジウム/カリウム、BaMgF、及び、気相平衡ニオブ酸リチウムが含まれる。
【0049】
一例として、タンタル酸リチウムウエハは、提案された方法を用いて分極されている。ウエハは、6μmの間隔でフォトレジストを覆うアルミニウム電極でパターニングされた。10.5kVの保磁力と比較して、9.5kVのプレバイアス電圧が60秒間印加された。これは、その領域が試料を横切って途中で終了する失われた領域、及び、大きな過分極領域を含む欠陥を有して、非常に乏しい領域忠実性を与えた。対照的に、60秒間にわたる10.02kVのプレバイアス電圧は、良好な品質の均一な領域を与えた。従って、保磁力の値に近いプレバイアス電圧は、改善された結果を与える。これは、プレバイアス電圧が、分極電流が流れると上昇する保磁力の値以上までの電圧の急増を低減することを目的とするという事実から期待されるものである。
【0050】
プレバイアス電圧のあらゆる値は、一般的な制御電流分極手法に対する幾らかの改善を生成するだろう。しかしながら、プレバイアス電圧が保磁力に近づければ近づくほど、改善がより良好になる。従って、少なくとも保磁力の75%であるプレバイアス電圧の値が推奨される。しかしながら、より有利には、プレバイアス電圧は、保磁力の少なくとも90%、少なくとも95%、又は、少なくとも99%であり得る。
【0051】
プレバイアス電圧を印加する問題は、プレバイアス電圧をほぼ近くに設定するために保磁力の従来の知識を必要とするように思われる。実際、プレバイアス電圧は、保磁力の数百ボルト内に定義される必要だけである。一般的に、保磁力の不確実性は、数十から百ボルトであり、従って、プレバイアス電圧を正確に設定する問題は、それほど重要ではなく、不確実性は、一般的な制御電圧分極に対して要求される実際の分極電圧を予め決定するための試みより重要ではない。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 電極
3 電極
4 絶縁材料層
10 試料
20 絶縁構造体
30 電極
40 電圧源
50 電極
60 抵抗器
70 電流源
80 抵抗器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する方法であって、
前記試料の対向表面に一対の電極を配置する段階であって、一方の電極が非線形変化の所望のパターンを定義する段階と、
前記電極を用いて所定の時間にわたり前記試料にプレバイアス電圧を印加する段階であって、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力未満である段階と、
前記非線形変化の所望のパターンに従って前記試料に領域反転を生成するために、前記所定の時間後に前記電極を用いて前記試料に電流制御された分極電圧を印加する段階と、
を備える方法。
【請求項2】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の75%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の90%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の95%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の99%を超える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プレバイアスが印加される所定の時間が、全て込みで1から100秒の範囲である、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、全て込みで150μmから10mmの範囲の、前記電極が付けられる表面に垂直な厚さを有する、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電圧が、電流制御高電圧電力供給装置を用いて印加され、抵抗器が、前記試料に並列に配置される、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抵抗器が、少なくとも1MΩの抵抗を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電流制御高電圧電力供給装置が、所望の量の領域反転を生成するために十分な量の電荷を提供する分極曲線に従う前記分極電圧の印加中に電流を供給するようにプログラムされる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記分極曲線が、前記抵抗器を通って流れる電流を補正するように構成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11の何れか一項に記載の方法を実施するために構成された装置。
【請求項13】
強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する装置であって、
非線形変化の所望のパターンを定義する一方の電極を有する、試料の対向表面に配置される一対の電極を用いた、所定の時間にわたり前記試料にプレバイアス電圧を印加することができる電圧源であって、前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力未満である電圧源と、
非線形変化の前記所望のパターンに従って前記試料の領域反転を生成するために、前記電極を用いた、前記所定時間後に前記試料に電流制御された分極電圧を印加することができる電圧源と、
を備える装置。
【請求項14】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の75%を超える、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の90%を超える、請求項13に記載の装置。
【請求項16】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の95%を超える、請求項13に記載の装置。
【請求項17】
前記プレバイアス電圧が、前記強誘電体材料の保磁力の99%を超える、請求項13に記載の装置。
【請求項18】
前記プレバイアス電圧が、全て込みで1から100秒の範囲の所定時間にわたって印加される、請求項13から17の何れか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記プレバイアス電圧及び前記分極電圧を印加することができ、前記プレバイアス電圧及び前記分極電圧に対向する電流を提供するようにプログラムされる単一の電流制御高電圧電力供給装置と、
前記試料に並列に配置可能な抵抗器と、
を備える、請求項13から18の何れか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記抵抗器が、少なくとも1MΩの抵抗を有する、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記電流制御高電圧電力供給装置が、所望の量の領域反転を生成するために十分な量の電荷を提供する分極曲線に従う前記分極電圧の印加中に電流を供給するようにプログラムされる、請求項19または20に記載の装置。
【請求項22】
前記分極曲線が、前記抵抗器を通って流れる電流を補正するように構成される、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
添付図面の図5を参照してここに実質的に記載される強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する方法。
【請求項24】
添付図面の図5を参照してここに実質的に記載される強誘電体材料の試料に非線形値の周期的変化を誘導する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−529512(P2010−529512A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511716(P2010−511716)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001993
【国際公開番号】WO2008/152377
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(500125788)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (12)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
【Fターム(参考)】