説明

強誘電性液晶組成物、及びそれを用いた表示素子

【課題】 焼付けをおこさず反転異常が抑制された好ましいスイッチング挙動を示す強誘電性液晶組成物を提供し、該強誘電性液晶組成物を用いた表示素子を提供する。
【解決手段】 少なくとも2種以上の液晶性化合物を含有する液晶性混合物及び含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を少なくとも1種含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物及び当該強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子を提供する。本発明の強誘電性液晶組成物は焼付けをおこさず反転異常が抑制された好ましいスイッチング挙動を示すことから、表示品位の良い表示素子を生産性高く製造することができる。本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として有用な強誘電性液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クラークとラガーウォールらによって提案された表面安定化強誘電性液晶表示素子は、(1)高速応答であること、(2)メモリー性を有すること、(3)視野角が広いこと、(4)パッシブ駆動が可能であること、などの特性を示すことから、次世代の表示素子として注目されている。しかしながら、焼付き現象や、反転異常によるスイッチング不良によって高品位な表示が行えないという問題点が指摘されている(例えば特許文献1及び2参照)。特許文献1及び2には、環状あるいはかご状の親油性又は親油化化合物を強誘電性液晶組成物に添加することによって、強誘電性液晶組成物に含まれるイオン性不純物を捕捉することにより強誘電性液晶表示素子の焼付き現象や、反転異常によるスイッチング不良が軽減する例は示されているがその性能は未だ不十分であった。このため、強誘電性液晶表示素子に見られる焼付き現象や反転異常によるスイッチング不良の防止に効果のある手段の開発が望まれていた。
一方、本願発明の強誘電性液晶組成物において用いられる含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩は、相間異動触媒として用いることについては多くの研究がなされているが、強誘電性液晶組成物に添加することにより、特有の効果を発現することについては知られていない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−180815号公報
【特許文献2】特開平4−227685号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小林宏他、ブレテン オブ ザ ケミカルソサエティ オブ ジャパン(Bull. Chem. Soc. Jpn.)、日本化学会、1984年、第57巻、第9号、p.2600−2604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、焼付けをおこさず反転異常が抑制された好ましいスイッチング挙動を示す強誘電性液晶組成物を提供し、該強誘電性液晶組成物を用いた表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願発明者らは種々の添加剤を検討した結果、一般的には焼付けや反転異常、あるいは結晶化の原因となるため積極的に除去、捕捉や会合を施す対象となっていたイオン性化合物の中に、特異的に焼付けをおこさず反転異常が抑制された好ましいスイッチング挙動を実現できる化合物をを見出し、本願発明の完成に至った。
本願発明は、少なくとも2種以上の液晶性化合物を含有する液晶性混合物及び含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を少なくとも1種含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物を提供し、併せて該強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の強誘電性液晶組成物は焼付けをおこさず反転異常が抑制された好ましいスイッチング挙動を示すことから、表示品位の良い表示素子を生産性高く製造することができる。本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性液晶ディスプレイの構成部材として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明の強誘電性液晶組成物は含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を含有することを特徴とする。
含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩の中にはTFPB又は小林試薬とも呼ばれる化合物があり、相間異動触媒等として工業化されている。含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩、は一般的な塩と異なり有機物と親和性が高く、またイオン伝導することが知られているが、この性質を利用して液晶媒体中あるいは液晶セル界面近傍で容易に移動し得るイオンとなることが焼き付けや反転異常等の表示不良を抑制して表示品位や生産性を良くする効果を発現する。特に、高脂溶性含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩は、通常の脂溶性有機アニオン種を用いた場合に比べて、イオン対間距離を大きくすることが可能であり、イオン対間の静電引力が小さく、その結果、対カチオン種はきわめて大きい親電子性を示すことから、極めて効果的に表示不良を抑制することができるものである。
本願発明の強誘電性液晶組成物に添加する含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩としては、高脂溶性含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩であることが好ましい。
含フッ素テトラアリールホウ酸イオンの塩は具体例には以下の一般式で表される化合物が好ましい。
【0009】
【化1】

(式中、Mはアルカリ金属イオン、アルカリ土類のイオン、第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、又は第4級イミダゾリウムイオンを表し、Sは炭素原子数1〜16のアルキル基、炭素原子数1〜16のアルコキシ基、炭素原子数2〜16のアルケニル基、炭素原子数3〜16のアルケニルオキシ基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基で置換された炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、これらの置換基は直鎖状であっても分岐状であっても良く、これらの置換基における水素原子はフッ素原子、に置換されていても良く炭素原子数1〜5のアルキル基、又は炭素原子数1〜10のアルコキシ基で置換されていても良い。)
含フッ素テトラアリールホウ酸イオンの塩の具体例として以下の化合物を挙げることができる。
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

(式中、Mはアルカリ金属イオン、アルカリ土類のイオン、第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、又は第4級イミダゾリウムイオンを表す。)
含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩において、対カチオン(上式中M)としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオンが好ましいが、より疎水性を高めることが必要となる場合には、第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、又は第4級イミダゾリウムイオンがより好ましい。
第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、又は第4級イミダゾリウムイオンとして具体的には以下の化合物が好適に使用できる。
【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
含フッ素テトラアリールホウ酸イオンの塩の添加量は、安定な液晶相を示すため、あるいは、効果的に焼付けあるいは反転異常等のスイッチング不良を抑制するために好ましい含有量がある。以下の含有量は強誘電性液晶組成物に対する質量割合をppmあるいは%で表したものである。含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩の含有量は0.01ppm〜10%であることが好ましく、0.01〜1%であることがより好ましく、0.05〜0.1%であることがさらに好ましく、0.01〜100ppmであることが特に好ましい。
【0017】
本願発明の強誘電性液晶組成物は液晶性混合物と含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を含有するが使用する液晶性混合物に特に制限はなく、公知慣用の液晶性混合物が用いられる。なかでも、液晶性混合物が、下記一般式(I−a)
【0018】
【化8】

【0019】
(式中、R11及びR12は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、ただし、該アルキル基中の少なくともどちらかひとつは分岐状のアルキル基であり、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、A、B及びCは各々独立に1つ又は2つの水素原子がフッ素原子、CF基、OCF基、又はCN基、あるいはこれらの複数の基で置き換えられてもよい1,4−フェニレン基、又は、1,4−シクロヘキシレン基を表し、aは0、1、又は2表し、b及びcは0又は1の整数を表し、a、b及びcの合計は1又は2を表す。)で表される化合物、及び下記一般式(I−b)
【0020】
【化9】

【0021】
(式中、R13及びR14は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはフッ素原子を示し、但し、R13及びR14が同時にフッ素原子となることはなく、さらに、1つ又は2つの隣接していない−CH−基が−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、さらにアルキル基の1つ又はそれ以上の水素原子がフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、X11〜X17は各々独立に水素原子、フッ素原子、CF基、あるいはOCF基を示し、L11〜L14は各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−又は−C≡C−であり、d、e、f及びgは各々独立に0又は1の整数を示し、但し、d+e+f+gは1、2又は3であり、dが0の場合はgは0であり、dが1の場合はfは0である。)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種以上の化合物を含む液晶性混合物であることが好ましい。
強誘電性液晶相の温度範囲を広くして安定化するという点では、下記一般式(IV)
【0022】
【化10】

【0023】
(R41は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の1つ又はそれ以上の水素原子はフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、A、B及びCは各々独立に1つ又は2つの水素原子がフッ素原子、CF基、OCF基、又はCN基、あるいはこれらの複数の基で置き換えられてもよい1,4−フェニレン基、1つ又は2つの水素原子がフッ素原子で置換されていてもよいピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、1つ又は2つの水素原子がシアノ基あるいはメチル基あるいはその両方で置き換えられてもよいトランス−1,4−シクロへキシレン基、又は、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル基、1,3−チアゾール−2,5−ジイル基、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基、ナフタレン−2,5−ジイル基を表し、L41、及びL42は各々独立に単結合、−O−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−又は−C≡C−を表し、a、b、及びcは0又は1を表し、a、b及びcの合計は2又は3を表し、R42は単結合又は炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を表し、該アルキレン基中の1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、さらにアルキレン基の1つ又はそれ以上の水素原子がフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよい。)で表される化合物も液晶性混合物の成分として好ましく用いることができる。
【0024】
本願発明の強誘電性液晶組成物は、強誘電性を発現するために光学活性化合物を含有するが、光学活性化合物としては公知慣用の光学活性化合物を用いることができある。例えば、不斉原子を持つ化合物、軸不斉を持つ化合物、又は面不斉を持つ化合物を用いることができ、不斉炭素を持つ化合物、又は炭素−炭素結合を軸不斉とする化合物を用いることが好ましく、不斉炭素原子を持つ化合物がより好ましい。
【0025】
不斉炭素を有する光学活性化合物において、不斉炭素は鎖状構造の一部に導入されていても、環状構造の一部に導入されていても良く、不斉炭素上にフッ素原子、メチル基又はCF基が導入されている化合物、又は不斉炭素を有するオキシラン環構造を有する化合物が好ましい。
光学活性化合物として具体的には一般式(V)
【0026】
【化11】

【0027】
(式中、R51及びR52は、各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、A、B及びCは各々独立に、1,4−フェニレン基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピリミジン−2,5−ジイル基、トランス−1,4−シクロへキシレン基、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル基、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル基、1,3−ジチアン−2,5−ジイル基、1,3−チアゾール−2,4−ジイル、1,3−チアゾール−2,5−ジイル、チオフェン−2,4−ジイル基、チオフェン−2,5−ジイル基、ピペラジン−1,4−ジイル基、ピペラジン−2,5−ジイル基又はナフタレン−2,6−ジイル基を表し、ただし、該1,4−フェニレン基及びナフタレン−2,5−ジイル基中の水素原子はフッ素原子、CF基、OCF基、CN基、CH基、又はOCH基に置換されていてもよく、該トランス−1,4−シクロへキシレン基中の水素原子はCN基又はCH基で置換されていてもよく、a、b、及びcは各々独立に0又は1を表し、L51及びL52は、各々独立に単結合、−O−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−又は−C≡C−を表し、L53は、一般式(V−1)、一般式(V−2)、又は一般式(V−3)
【0028】
【化12】

(式中、d、e、及びfは、各々独立に0以上7以下の整数を表す。)のいずれかで表される構造を有し、Z51は、一般式(V−4)又は一般式(V−5)
【0029】
【化13】

【0030】
(ただし、Z52はフッ素原子、メチル基又はCF基を表し、R53及びR54は、各々独立に水素原子あるいは炭素原子数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、*は不斉炭素を表す。)のいずれかで表される構造を有する。)が好ましい。
【0031】
一般式(V)で表される化合物の中でも特に、Z51が一般式(V−4)の構造を持ち、かつZ52がフッ素原子の化合物、又は、Z51が一般式(V−5)の構造を持ち、かつR53及びR54が水素原子である化合物がさらに好ましい。
一般式(V)で表される化合物の中で、Z51が一般式(V−4)の構造を持ち、かつZ52がフッ素原子の化合物としては、下記一般式(V−b)
【0032】
【化14】

【0033】
(式中、R57及びR58は、各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の水素原子はフッ素原子又はCN基で置き換えられていてもよく、L54は、一般式(V−b−1)、又は一般式(V−b−2)
【0034】
【化15】

(式中、g、及びhは、各々独立に0以上7以下の整数を表す。)のいずれかで表される構造を有する。)で表される化合物、又は、下記一般式(V−c)
【0035】
【化16】

【0036】
(式中、R59及びR510は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、ただし、該アルキル基中の少なくともどちらかひとつは分岐状のアルキル基であり、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、X51及びX52は各々独立に水素原子あるいはフッ素原子を表し、dは0又は1の整数を表し、L55は、一般式(V−c−1)、一般式(V−c−2)、又は一般式(V−c−3)
【0037】
【化17】

(式中、j、k、及びmは、各々独立に0以上7以下の整数を表す。)のいずれかで表される構造を有する。)の構造を有することが好ましい。
【0038】
これら化合物の中でも、一般式(V−b)で表される化合物の場合はR57及びR58は直鎖状又は分岐状のアルキル基がさらに好ましく、特に直鎖状アルキル基が好ましい。一方、一般式(V−c)で表される化合物の場合はR59は直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基がさらに好ましく、R510は直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、特に直鎖状アルキル基が好ましい。
一般式(V)で表される化合物の中で、不斉炭素の構造としてZ51が一般式(V−5)の構造を持ち、かつR53及びR54が水素原子である化合物の例を以下に挙げる。
【0039】
【化18】

【0040】
【化19】

【0041】
(式中、R531は炭素数4〜14のアルキル基あるいはアルコキシ基、R532は炭素数1〜8のアルキル基、R533は炭素数4〜14のアルキル基、L531、及びL532は各々独立にカルボニル基又はメチレン基を表す。)
一般式(V)で表される化合物の中で、不斉炭素の構造としてZ51が一般式(V−4)の構造を持つ化合物の例を以下に挙げる。
【0042】
【化20】

【0043】
【化21】

【0044】
【化22】

【0045】
(式中、Raaは炭素数1〜18の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基又はアルコキシ基、Rbbは炭素数1〜18の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、Maaは炭素数1〜3のメチレン基、Mbbは炭素数1〜2のメチレン基を表す。)
【0046】
本願発明の強誘電性液晶組成物に使用する液晶混合物の中に含フッ素テトラアリールホウ酸イオン以外のカチオンが含まれている場合、そのカチオンは焼付きや反転異常などによるスイッチング不良の原因になるので好ましくない。この影響を無くすためには、液晶混合物あるいは液晶混合物の成分となる化合物を十分に精製することが望まれる。その際、不純物等を除去する目的で、シリカ、アルミナ等による精製処理を施すことも好ましく用いられる。液晶性混合物としては、比抵抗値が1×1011〜1×1015Ωcmである液晶性混合物を用いることが好ましく、製造・精製上の容易さを考慮すると、1×1011〜1×1014Ωcmである液晶性混合物を用いることがより好ましい。強誘電性液晶組成物の比抵抗値は1×1010〜1×1014Ωcmであることが好ましく、1×1010〜1×1013Ωcmであることがより好ましい。液晶混合物として比抵抗値の高い液晶混合物を使用する方法以外にも、液晶混合物中にカチオン包接化合物が含まれる液晶混合物を使用することも、液晶混合物中に不純物として存在するカチオンの影響を防止する方法として好ましく用いられる。カチオン包接化合物としては、特に制限はなく公知慣用の化合物が用いられる。なかでもポダンド、コロナンド、又はクリプタンドが化合物として好ましいが、下記一般式(VI)、
【0047】
【化23】

【0048】
(式中、Zは酸素原子又はイオウ原子であり、a、bは0より大きい整数でa+bは2〜6であり、X61、X62は同一又は異なる基であって、酸素原子、イオウ原子、あるいは下記構造、
【0049】
【化24】

【0050】
(式中、Rは隣り合わない−CH−基が、−COO−、−CO―、―O―、―S―、−CONH−、又は―CH=CH−によって置換されていても良い炭素数1〜15のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、水素原子、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、又はベンゾイル基である。)のいずれかの基であるか、又は、X61、X62が一緒になった下記構造、
【0051】
【化25】

【0052】
(式中、Z61、Z62は酸素原子又はイオウ原子であり、c、dは1又は2である。)のいずれかを表す。)で表されるカチオン包接化合物がより好ましい。
【0053】
液晶混合物中に不純物として存在するカチオンとカチオン包接化合物の会合力が強すぎると、カチオンを包接した包接化合物は分子量、形状ともに大きく動き難いため、カチオンの移動度を悪くすることになり、その結果カチオンがセル内部に形成された電界場の緩和がしにくくなり、焼付きや反転異常の抑制には好ましくない。液晶混合物中に不純物として存在するカチオンとカチオン包接化合物の会合力がまったくないと、カチオンは直接極性のセル界面に強く吸着し、また、カチオンは液晶媒体への溶解度も低いため、界面に強く吸着したカチオンにより内部に形成された電界場の緩和がしにくくなる。従って、液晶混合物中に不純物として存在するカチオンの悪影響を軽減するには、弱い会合力を有するカチオンとカチオン包接化合物の組み合わせが特に好ましいのであって、一般式(VI)で表されるカチオン包接化合物の強い会合力の元となっている酸素原子の1つあるいは2つ以上が、電気的に陽性であり、その結果カチオンとの会合力を適切に弱める効果がある窒素原子で置き換わっている化合物が特に好ましいのである。このような弱い会合状態では、カチオンとカチオン包接化合物が動的に分子集合体を形成していると考えられ、そのため、カチオンは液晶媒体にも溶解しやすくなり、その結果カチオンの移動度も良くなり、カチオンの局部的な蓄積による好ましくない内部電界場の形成を防止すると考えられる。
【0054】
前述のような弱い会合力を有するカチオン包接化合物としては、下記構造に示すように1つあるいは2つの窒素原子を有する化合物が好ましく用いられる。
【0055】
【化26】

【0056】
(式中、R611、R612は隣り合わない−CH−基が、−COO−、−CO―、―O―、―S―、−CONH−、又は―CH=CH−によって置換されていても良い炭素数1〜15のアルキル基又はハロゲン化アルキル基、水素原子、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、又はベンゾイル基であり、eは0又は1である。)
カチオン包接化合物の含有量は、強誘電性液晶組成物に対する重量割合で0.01ppm〜10%であることが好ましく、0.1ppm〜5%であることがより好ましく、1ppm〜5%であることが特に好ましい。カチオン包接化合物の含有量は、カチオン包接化合物の添加により添加前の液晶性混合物のTAC点(スメクチックC−スメクチックA相転移温度)が10℃以上変化しないような添加量を選定することが好ましい。
【0057】
なお、本願発明の強誘電性液晶組成物に用いる液晶性混合物としては一般式(I−a)、一般式(I−b)、一般式(IV)、又は一般式(V)で表される化合物を使用することができるが、液晶の温度範囲を広くしたり、転移温度を好ましい温度範囲に保ったり、好ましい液晶相系列を発現させたり、チルト角を好ましい範囲に保ったり、高速応答を行うことができるよう粘性を低くしたり、あるいは、高速応答ができるよう自発分極を好ましい範囲に保つために、強誘電性液晶組成物全体に対しての好ましい含有量がある。一般式(I−a)、又は一般式(I−b)で表される化合物の含有量は液晶混合物に対して、20%〜98%が好ましく、30%〜95%がより好ましく、40%〜90%が特に好ましい。一般式(IV)で表される化合物の含有量は、2〜40%が好ましく、3〜30%がより好ましく、4〜20%が特に好ましい。一般式(V)で表される化合物の含有量が少なすぎると自発分極の値が小さくなり応答が遅くなり、一方、含有量が多すぎるとキラルな効果に基づく好ましくない分子配列のねじれが発生するので、一般式(V)で表される化合物の含有量としては、1%〜40%が好ましく、3〜30%がより好ましく、5〜25%が特に好ましい。また、一般式(V)で表される化合物の一化合物あたりの含有量が1%〜10%であると、単一成分が多すぎることによる好ましくない結晶化や相系列の乱れを抑制することができるのでなお良い。
【0058】
強誘電性液晶組成物を実際の表示素子として使用する場合には強誘電性相となる(キラル)スメクチックC相の温度範囲は室温を含む広い範囲となるよう、液晶性混合物の成分を調整することになる。低温側温度に関しては、−20℃で結晶化しないことが好ましく、屋外で使用するディスプレイ用途としては−30℃で結晶化しないことがより好ましい。高温側温度に関しては、強誘電性液晶組成物のTAC点(スメクチックC−スメクチックA相転移温度)は室温より高い温度であることが好ましく、50℃〜100℃であることがより好ましい。特に屋外で使用する用途としてTAC点は高い方が好ましい。ただし、TAC点は次に述べる透明点の好ましい温度範囲に応じて決定されるものである。高温側温度として透明点(液晶−液体相転移温度)に関しては、強誘電性液晶組成物は液晶表示素子を作製する際、強誘電性を示すのが固体に近い液晶相であるスメクチック相であるので、このスメクチック相で液晶を表示セルの中に注入することが難しく、液体相あるいはネマチック相まで温度を上昇させる必要がある。従って、透明点が高いと熱による液晶材料、あるいは、液晶表示素子に使用する部材、シール剤等が変質する可能性があり、また、加熱及び冷却にエネルギーと時間を要し、プロセスとして好ましくないため、透明点は75〜120℃であることが好ましく、屋内用途向けのディスプレイとしては、75〜95℃であることがより好ましい。良配向を得るためには、ハーフV型ディスプレイ以外の用途ではネマチック相、及びスメクチックA相の温度範囲が十分広いことが好ましく、具体的には、各々独立に、ネマチック相あるいはスメクチックA相を他の相と共存せずに単独で示す温度範囲が1℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。ハーフV型ディスプレイの用途では、良配向を得るためには、スメクチックA相は存在しないか、その温度幅が3℃以内、好ましくは1℃以内であって、ネマチック相が他の相と共存せずに単独で示す温度範囲が1℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。
【0059】
更に、強誘電性液晶組成物の成分として、必要に応じて一般式(I−a)、一般式(I−b)、一般式(IV)、又は一般式(V)で表される化合物以外の液晶性化合物を併用することができる。併用しうる化合物に特に限定はないが、強誘電性液晶相を安定化するためには、スメクチックC相、あるいはキラルスメクチックC相を示す液晶性化合物を用いることが好ましい。(本明細書中では、液晶相の名称を記載したときには特に断わりのない限り対応するキラルな液晶相も含むものとする。)また、強誘電性液晶相の相系列、あるいは各液晶相の温度範囲を調節するためには適宜液晶性化合物を選ぶのが良い。具体的には、ネマチック相を発現させたり、ネマチック相の温度範囲を広げたい場合には、ネマチック相を示す化合物を併用することが好ましく、また、スメクチックA相を発現させたり、スメクチックA相の温度範囲を広げたい場合には、スメクチックA相を示す化合物を併用することが好ましく、あるいは、ハーフV用材料のように、スメクチックA相が不要な場合には、スメクチックA相を示さない化合物を併用することが好ましい。良好な配向を得るためにはネマチック相を安定化することが必要で、その場合は、スメクチック液晶と相溶性が良く温度範囲の広いネマチック相を示す化合物を添加することが好ましい。そのような化合物はネマチック相を示す温度領域の幅が5℃〜120℃であるものが好ましく、10℃〜120℃であるものがより好ましく、20℃〜120℃であるものが特に好ましく、中でも、透明点が70℃〜220℃であるものが好ましい。具体的な例として、下記一般式(VII)、
【0060】
【化27】

【0061】
(式中、R761及びR762は各々独立に炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基あるいはアルコキシ基を表し、A、B及びCは1,4−フェニレン基、又は、1,4−シクロヘキシレン基を表し、aは0、1、又は2表し、b及びcは0又は1の整数を表し、a、b及びcの合計は1又は2を表し、ただし、Aが1,4−シクロヘキシレン基の場合はR761は炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基、Cが1,4−シクロヘキシレン基の場合はR762は炭素原子数1〜8の直鎖状アルキル基を表す。)
に示す構造を有する化合物を挙げることができる。このなかでも、R761及びR762は各々独立に炭素原子数1〜5の直鎖状アルキル基あるいはアルコキシ基である場合がより好ましい。
【0062】
コントラストの良い表示素子を得るためには、表示方式にあわせて傾き角を調整する必要がある。傾き角を大きくするためには、スメクチックC相の上限温度を高くしたり、スメクチックA相の温度幅を狭くするように、化合物を選ぶことが好ましく、傾き角を小さくするためには、スメクチックC相の上限温度を低くしたり、スメクチックA相の温度範囲を広くするような化合物を使用することが好ましい。
【0063】
キラル化合物は1種用いても、あるいは、構造が異なるものを複数用いても良い。キラルな効果に基づき発生する液晶相での螺旋構造を抑制し、良好な配向状態を得るためには、発生させるねじれの向きが異なる複数のキラル化合物を組合わせて用いることが好ましい。このとき、自発分極の向きは揃うようにキラル化合物の組み合わせを選ぶか、あるいは、十分大きな自発分極を発生させる化合物とねじれ構造は誘起するが自発分極値の小さな化合物の組み合わせを選ぶと自発分極の値はキャンセルされないので好ましい。キラルな効果に基づき液晶相でおこる螺旋構造の発生を抑制するために発生させるねじれの向きが異なる複数のキラル構造を同一の化合物の中に導入することも好ましく行われる。このとき、自発分極の向きは揃うようにキラル構造の組み合わせを選ぶか、あるいは、十分大きな自発分極を発生させる構造とねじれ構造は誘起するが自発分極値の小さな構造の組み合わせを選ぶと自発分極の値はキャンセルされないので好ましい。
【0064】
更に、目的に応じて液晶組成物中に、染料等のドーパントを添加することもできる。その他、必要に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤、非反応性のオリゴマーや無機充填剤、有機充填剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、シランカップリング剤等を適宜添加しても良い。
【0065】
本発明の強誘電性液晶組成物は液晶性混合物に含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を添加することにより製造できる。含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩は単独で添加しても良いし、可溶な溶剤に溶解して液晶性混合物に添加したのち溶剤を除去することにより製造しても良い。強誘電性液晶組成物製造の際には、液晶性混合物中の不純物の影響を受けずに含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩の効果を発現させる目的で、液晶性混合物の比抵抗値が1×1011〜1×1015Ωcmである液晶性混合物を用いて強誘電性液晶組成物を製造することが好ましく、製造・精製上の容易さを考慮すると、1×1011〜1×1014Ωcmである液晶性混合物を用いることがより好ましく、1×1011〜1×1013Ωcmである液晶性混合物を用いることが特に好ましい。強誘電性液晶組成物は比抵抗値が1×1010〜1×1014Ωcmであることが好ましく、1×1010〜1×1013Ωcmであることがより好ましい。
【0066】
本発明の組成物を液晶セルの中に入れることにより、液晶表示素子を作製することが可能である。液晶セルの2枚の基板はガラス、プラスチックの如き柔軟性をもつ透明な材料を用いることができ、一方はシリコン等の不透明な材料でも良い。透明電極層を有する透明基板は、例えば、ガラス板等の透明基板上にインジウムスズオキシド(ITO)をスパッタリングすることにより得ることができる。前記基板に液晶を配向させる目的で、周知の液晶配向層を形成することが望ましい。配向層としては、ポリイミドや他の有機ポリマーの配向層物質をガラス基板等の基板上に形成した後、ラビング処理や光配向処理やイオンビーム処理などの配向処理を行ったもの、SiOxやCaF等を蒸着やスパッタによりガラス基板等の基板上に形成したもの、又は、光配向材料を配向層物質として用いて偏光照射、無偏光斜め照射、あるいはその両者の組み合わせにより光配向層を形成したものなどを用いることができる。
【0067】
強誘電性液晶組成物を用いた液晶表示素子は、フィールドシーケンシャル駆動方法を利用することにより、カラーフィルターを使用しなくてもカラー表示が可能となるが、カラーフィルターを使用した表示方法を利用してもよい。カラーフィルターは、例えば、顔料分散法、印刷法、電着法、又は、染色法等によって作成することができる。顔料分散法によるカラーフィルターの作成方法を一例に説明すると、カラーフィルター用の硬化性着色組成物を、該透明基板上に塗布し、パターニング処理を施し、そして加熱又は光照射により硬化させる。この工程を、赤、緑、青の3色についてそれぞれ行うことで、カラーフィルター用の画素部を作成することができる。その他、該基板上に、TFT、薄膜ダイオード、金属絶縁体金属比抵抗素子等の能動素子を設けた画素電極を設置してもよい。
【0068】
前記基板を、透明電極層が内側となるように対向させる。その際、スペーサーを介して、基板の間隔を調整してもよい。このときは、得られるセルの厚さが1〜100μmとなるように調整するのが好ましい。セル厚は、1から10μmが更に好ましく、1から4μmがなお好ましい。偏光板を使用する場合は、コントラストが最大になるように液晶の屈折率異方性Δnとセル厚dとの積を調整することが好ましい。表示素子の製造の点ではセル厚が厚い方が好ましいが、その場合にはΔnが小さい液晶を使用する必要がある。その場合には、シクロヘキシル、あるいは、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイル構造を有する化合物を併用することが望ましい。シクロヘキシル構造は、一つの分子中に一つ、あるいは2つ存在することが好ましく、1,3,4−チアジアゾール−2,5−ジイルは一つの分子中に一つ存在することが好ましい。又、二枚の偏光板がある場合は、各偏光板の偏光軸を調整して視野角やコントラトが良好になるように調整することもできる。更に、視野角を広げるための位相差フィルムも使用することもできる。スペーサーとしては、例えば、ガラス粒子、プラスチック粒子、アルミナ粒子、フォトレジスト材料等が挙げられる。その後、エポキシ系熱硬化性組成物等のシール剤を、液晶注入口を設けた形で該基板にスクリーン印刷し、該基板同士を貼り合わせ、加熱しシール剤を熱硬化させる。
【0069】
2枚の基板間に高分子安定化強誘電性液晶組成物を狭持させるに方法は、通常の真空注入法、又はODF法などを用いることができる。この時、液晶組成物は、均一なアイソトロピック状態か、又は(キラル)ネマチック相であることが好ましい。スメクチック相では、素子作製時の取り扱い方が難しくなる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明の液晶組成物について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本実施例において反転異常の評価は、以下の手順により評価を行った。2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、光路中になにも設置しない時の光強度を0%とし、パラレルニコルに配置したときの光強度を100%と定義した。2枚の偏光板をクロスニコルに配置し、2枚の偏光板間にー5V、1Hzのパルスを1パルス印加した後の液晶セルの光透過率が最小となるように液晶セルを配置した。5V、パルス幅0.1msのパルスを1パルス印加し透過率を測定した。次に再度ー5V、1Hzの矩形波を印加した後、パルス幅を変えた電圧5Vのパルスを印加し透過率を測定した。これを繰り返し、パルス幅を5msまで順次変化させ、各パルスを印加した時の透過率を測定した。液晶セルの透過率の全変化のうち、90%変化したときのパルス幅を飽和電圧パルス幅と定義した。次に、再度ー5V、1Hzの矩形波を印加し、この液晶セルに、1パルスで透過率に変化が現れない電圧1.5Vの飽和電圧パルス幅のパルスを、100Hzで3000回印加し、印加前後の各透過率を測定した。3000回印加前後の透過率に0.5%以上の変化がおこる場合を、反転異常が起こったと判断した。焼付きの評価は、暗状態で1週間放置した液晶セルの暗状態から明状態に変化させるのに必要なパルス幅(時間)と、初期の暗状態から明状態に変化させるのに必要なパルス幅(時間)を比較することで評価した。すなわち、両者が近い値である場合には焼付きがなく、両者の値の差が大きいほど、強い焼付き現象がおきていると評価した。比抵抗値は測定対象をトルエンに溶解して比抵抗値を測定し測定対象100%に外挿した値を採用した。また、組成物中における「部」はすべて「質量部」を表し、含有率を示す「ppm、%」は全て質量基準で表している。
(実施例1)
下記構造の化合物を下記に示す割合で混合し液晶性混合物(LC-1)を作製した。
【0071】
【化28】

【0072】
この液晶性混合物(LC-1)の比抵抗値は5×1012Ωcmであった。この液晶性混合物(LC-1)に含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を2ppm添加して強誘電性液晶組成物(FLC−1)を作製した。
この強誘電性液晶組成物(FLC-1)の比抵抗値は5.1×1011Ωcmであった。次にポリイミド−ラビング処理を施したセルギャップ2μmのセルに真空注入法によりFLC-1を注入し、強誘電性液晶素子(FLCD-1)を得た。このようにして得られた強誘電性液晶素子(FLCD-1)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行った。FLCD-1は、焼付きを起こさず、また反転異常を示す透過率変化は0.17%であり、反転異常が起こらなく好適であった。
【0073】
(比較例1)
液晶混合物(LC-1)は、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を含まないこと以外は実施例1の強誘電性液晶組成物(FLC-1)と同様な組成を有する強誘電性液晶であるので、(LC-1)を比較用として用い、実施例1に記載の方法と同様にして強誘電性液晶素子(LCD-1)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(LCD-1)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行ったところ、焼付きが起こり、また反転異常を示す透過率変化は7.6%であり、明確に反転異常が観察され、実施例1よりも劣っていることは明らかであった。
(実施例2)
下記構造の化合物を下記に示す割合で混合し液晶性混合物(LC-2)を作製した。
【0074】
【化29】

【0075】
この液晶性混合物(LC-2)の比抵抗値は4.8×1012Ωcmであった。この液晶性混合物(LC-2)に含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を5ppm添加して強誘電性液晶組成物(FLC−2)を作製した。この強誘電性液晶組成物(FLC-2)の比抵抗値は2.5×1011Ωcmであった。実施例1と同様に強誘電性液晶素子(FLCD-2)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(FLCD-2)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行った。FLCD-2は、焼付きを起こさず、また反転異常を示す透過率変化は0.08%であり、反転異常が起こらなく好適であった。
【0076】
(比較例2)
液晶混合物(LC-2)は、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を含まないこと以外は実施例2の強誘電性液晶組成物(FLC-2)と同様な組成を有する強誘電性液晶組成物であるので、(LC-2)を比較用として用い、実施例1に記載の方法と同様にして強誘電性液晶素子(LCD-2)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(LCD-2)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行ったところ、焼付きが起こり、また反転異常を示す透過率変化は4.6%であり、明確に反転異常が観察され、実施例2よりも劣っていることは明らかであった。
(実施例3)
下記構造の化合物を下記に示す割合で混合し液晶性混合物(LC-3)を作製した。
【0077】
【化30】

【0078】
この液晶性混合物(LC-3)の比抵抗値は6.2×1012Ωcmであった。この液晶混合物(LC-3)に含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を10ppm添加して強誘電性液晶組成物(FLC−3)を作製した。
この強誘電性液晶組成物(FLC-3)の比抵抗値は1.1×1011Ωcmであった。実施例1と同様に強誘電性液晶素子(FLCD-3)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(FLCD-3)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行った。FLCD-3は、焼付きを起こさず、また反転異常を示す透過率変化は0%であり、反転異常が起こらなく好適であった。
【0079】
(比較例3)
液晶混合物(LC-3)は、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を含まないこと以外は実施例3の強誘電性液晶組成物(FLC-3)と同様な組成を有する強誘電性液晶組成物であるので、(LC-3)を比較用として用い、実施例1に記載の方法と同様にして強誘電性液晶素子(LCD-3)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(LCD-3)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行ったところ、焼付きが起こり、また反転異常を示す透過率変化は10.5%であり、明確に反転異常が観察され、実施例3よりも劣っていることは明らかであった。
(実施例4)
実施例1に記載の液晶性混合物(LC-1)に含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩としてテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート ナトリウム塩を5ppm、及びカチオン包接化合物として下記構造の化合物(I−aa)
【0080】
【化31】

【0081】
を0.4%添加し、強誘電性液晶組成物(FLC-4)を作製した。この強誘電性液晶組成物(FLC-4)の比抵抗値は1.9×1011Ωcmであった。
実施例1と同様に強誘電性液晶素子(FLCD-4)を作製した。このようにして得られた強誘電性液晶素子(FLCD-4)を用いて、焼き付き及び反転異常の評価を行った。FLCD-4は、焼付きを起こさず、また反転異常を示す透過率変化は0%であり、反転異常が起こらなく好適であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種以上の液晶性化合物を含有する液晶性混合物及び含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩を少なくとも1種含有することを特徴とする強誘電性液晶組成物。
【請求項2】
液晶性混合物が、下記一般式(I−a)
【化1】

(式中、R11及びR12は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、ただし、該アルキル基中の少なくともどちらかひとつは分岐状のアルキル基であり、該アルキル基中の、1つ又は2つの隣接していない−CH−基は−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−又は−C≡C−で置き換えられてもよく、該アルキル基中の1つ以上の水素原子はフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、A、B及びCは各々独立に1つ又は2つの水素原子がフッ素原子、CF基、OCF基、又はCN基、あるいはこれらの複数の基で置き換えられてもよい1,4−フェニレン基、又は、1,4−シクロヘキシレン基を表し、aは0、1、又は2表し、b及びcは0又は1の整数を表し、a、b及びcの合計は1又は2を表す。)で表される化合物、及び下記一般式(I−b)
【化2】

(式中、R13及びR14は各々独立に炭素原子数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基あるいはフッ素原子を示し、但し、R13及びR14が同時にフッ素原子となることはなく、さらに、1つ又は2つの隣接していない−CH−基が−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CH=CH−、−C≡C−、シクロプロピレン基又は−Si(CH−で置き換えられてもよく、さらにアルキル基の1つ又はそれ以上の水素原子がフッ素原子あるいはCN基で置き換えられていてもよく、X11〜X17は各々独立に水素原子、フッ素原子、CF基、あるいはOCF基を示し、L11〜L14は各々独立に単結合、−O−、−S−、−CO−、−CHO−、−OCH−、−CFO−、−OCF−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−S−、−S−CO−、−O−CO−O−、−CHCH−、−CH=CH−又は−C≡C−であり、d、e、f及びgは各々独立に0又は1の整数を示し、但し、d+e+f+gは1、2又は3であり、dが0の場合はgは0であり、dが1の場合はfは0である。)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも2種以上の化合物を含有する液晶性混合物である請求項1記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項3】
含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩が、高脂溶性を有する請求項1又は2記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項4】
含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩が、アルカリ金属塩、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第4級ピリジニウム塩、又は第4級イミダゾリウム塩である請求項3記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項5】
比抵抗値が1×1010〜1×1014Ωcmである請求項1から4の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項6】
含フッ素テトラフェニルホウ酸イオンの塩の含有量が0.01ppm〜10%である請求項1から5の何れかに記載の強誘電性液晶組成物。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の強誘電性液晶組成物を用いた強誘電性液晶表示素子。

【公開番号】特開2010−215753(P2010−215753A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62666(P2009−62666)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】