説明

弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物

【課題】中性化抑制やクラック防止等の布基礎コンクリートの保護性や、耐汚染性、美粧性、白華防止性等の外観保持機能がバランスよく優れ、布基礎、および外壁に使用でき、さらに種々の工法により施工可能で工程数の減少や低コスト化が可能な弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を提供する。
【解決手段】主として、セメント、細骨材、樹脂成分、および顔料成分からなり、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有することを特長とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布基礎、および外壁に使用でき、特に種々の工法により施工可能な弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の荷重を地盤に安定して支持させるために、多数の縦筋及び横筋を有する鉄筋部材を配設し、その後、型枠内に生コンクリートを充填させることにより形成される布基礎が構築されることが多い。
【0003】
構築された布基礎コンクリート表面に対し何の処理も行わない場合、外気の温度や湿度等の変動の影響や中性化によって劣化したり、コンクリートの乾燥収縮によって表面にひび割れ(クラックともいう。)等を生じたりして、布基礎としての強度を十分に保つことができなくなる。また、上記クラックがコンクリート内部に達した場合に、クラック内に入った雨水等が内部の鉄筋部材を腐食するため、さらに布基礎としての機能が低下する。そこで、布基礎コンクリートを保護する方法として、表面にセメントモルタルを塗工することにより被覆する方法等が用いられているが、塗布厚みが薄いと布基礎コンクリートを十分に保護できず、7〜20mm厚で塗工しなければならなかった。
【0004】
布基礎コンクリート表面を保護するセメントモルタル組成物としては、粉末ポリマーやゴムラテックスを含むもの等、保護されるコンクリートの建物における施工箇所(浴室、居室、外壁など)に応じて数多くの種類が開発されている(下記特許文献1〜6参照)。しかし、従来のセメントモルタル組成物は、中性化抑制やクラック防止等の布基礎コンクリートの保護性や、耐汚染性、美粧性、薄塗りした場合に表面に白い粉が吹き出た様な状態になる白華現象を防止する白華防止性等の外観保持機能には優れるものの、これらの機能のさらなる向上に加え、工程数の減少や低コスト化が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−122652号公報
【特許文献2】特開2000−203915号公報
【特許文献3】特開平9−110501号公報
【特許文献4】特開平10−7447号公報
【特許文献5】特開2002−80254号公報
【特許文献6】特開2004−225375号公報
【0006】
また、布基礎コンクリートのみではなく、外壁のコンクリート表面も、何の処理も行わない場合、布基礎と同様の問題が生じるが、従来のセメントモルタル組成物は、外壁面に要求される様々な施工方法に必ずしも対応したものではなかった。
【0007】
さらに、コテ、砂骨ローラー、ウールローラー等のローラー、吹き付け等、採用する工法に応じて、作業現場において各々専用に組成設計する必要があった。例えば、ローラーによる工法の場合には樹脂を多めに、コテによる工法の場合には樹脂を少なめに設計する必要があり、汎用性に優れ、様々な工法に応用可能なものはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、中性化抑制やクラック防止等の布基礎コンクリートの保護性や、耐汚染性、美粧性、白華防止性等の外観保持機能がバランスよく優れ、布基礎、および外壁に使用でき、さらに、汎用性に優れ、種々の工法により施工可能で工程数の減少や低コスト化が可能な弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は下記の構成を有する。
(1)主として、セメント、細骨材、樹脂成分、および顔料成分からなる弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物であって、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有することを特長とする弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物。
【0010】
(2)前記粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で3〜15重量%となるよう含有することを特長とする前記(1)に記載の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物
【発明の効果】
【0011】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、中性化抑制やクラック防止等の布基礎コンクリートの保護性や、耐汚染性、美粧性、白華防止性等の外観保持機能がバランスよく優れ、また、布基礎、および外壁に使用でき、さらにコテ、砂骨ローラー、ウールローラー等のローラー、吹き付け等の種々の工法において、各々専用に組成設計する必要がなく施工可能で様々なパターンの作成や作業性に優れ、模様等の仕上げが可能になる。例えば、従来では、ローラーによる工法の場合には樹脂を多めに、コテによる工法の場合には樹脂を少なめにというように、工法に応じて作業現場で組成を調節する必要があったが、本願発明の弾性カラーセメントモルタルを使用すると、どのような工法であっても同じ組成設計で使用することができ、使用する工法によって異なったデザインを付けることが可能になった。また、顔料成分を含むことにより、様々な色や多彩色の仕上げが可能となり、さらに美粧性向上等を目的としてトップコートを塗工する必要がなく、作業工程が削減され、作業性、コスト性に優れる。特に、多彩色の弾性カラーセメントモルタルは従来みられなかったものであり、本願発明によって初めて可能になったものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、主として、セメント、細骨材、樹脂成分、および顔料成分からなる弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物であって、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有する。
【0013】
本発明に使用される樹脂成分であるアクリル樹脂エマルジョンは、従来より弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物の構成材料として用いられている水中で分散可能である水性エマルジョンであれば特に限定されず、

例えば、水溶性オリゴマーの存在下で、少なくとも(メタ)アクリル酸エステルを含むモノマー組成物を水性媒体中で共重合して核を形成した後、エチレン性不飽和カルボン酸と(メタ)アクリル酸エステルとを乳化重合して、上記核の表層に形成されたエマルジョンを用いることができる。また、アクリル共重合体の主鎖にシリコーン結合を導入し、シリコーン変性させたシリコーン変性アクリル共重合体を用いても良い。シリコーン変性アクリル共重合体を使用することにより、モルタル層を形成後、表面の撥水性が高くなり、汚れを弾くため、耐汚染性が向上する。
【0014】
本発明において、上記アクリル樹脂エマルジョンは、弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%とする必要がある。これにより、モルタルとして布基礎コンクリートの表面に塗布した場合、布基礎コンクリートの中性化抑制効果が向上し、また、弾性、付着性に優れるため、表面においてクラック追従性を高め、クラック防止性も向上する。本発明において、上記アクリル樹脂エマルジョンの含有量が20重量%未満である場合には、下地に対するクラック追従性が低下し、40重量%を超える場合には、他の構成成分の含有量が少なくなり、配合の作用が現れなくなる。
【0015】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有する。本発明に使用される粉末状無機顔料としては、具体的には、酸化チタン、酸化鉄等が挙げられる。本発明に使用される液体無機顔料は、上記粉末状無機顔料を、樹脂やエマルジョンに分散混合させたものが挙げられる。また、上記粉末状無機顔料は平均粒径が0.1〜1.0μmの範囲であるのが好ましい。
【0016】
本発明に使用されるセメントとしては、従来より布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物として用いられているものであれば特に限定されず、例えば、ポルトランドセメント、白色セメント、高炉セメント、急硬性セメント、膨潤セメント、アルミナセメント等が挙げられ、これらを混合して用いてもよいが、ポルトランドセメント、白色セメントを使用するのがコスト的に好ましい。セメントの配合量は、本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して、2〜10重量%となるようにするのが好ましい。
【0017】
本発明に使用される細骨材としては、従来より布基礎用ポリマーセメントモルタル組成物の充填材として多く用いられている、珪砂、石膏、等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いてもよい。なお、本発明において用いられる細骨材の粒径としては、粒径300μm以下であることが好ましい。また、細骨材の配合量については特に限定されない。軽量細骨材を使用することにより、樹脂成分の含有量が多くなっても作業性が低下しにくく、種々の工法により厚みの薄いモルタル層を1工程で仕上げることができる。細骨材の配合量は、本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して、20〜40重量%となるようにするのが好ましい。
【0018】
また、本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、上記成分以外にも、本発明の作用を阻害しない範囲で、例えば、SBR、クロロプレンゴムラテックス等の他の樹脂を配合することもできる。また、消泡剤、増粘剤、減水剤、撥水剤、無機質混和材、流動化剤、硬化遅延剤、又は硬化促進剤、有機質繊維、無機質繊維等を含有させてもよい。
【0019】
本願発明の弾性カラーセメントモルタルの好適な配合割合の範囲を表1に示す。
【0020】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物の製造方法としては、上記配合成分をスーパーミキサー等にて高速回転処理し均一に分散させる方法が挙げられる。
【0021】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、エマルジョン以外の粉体成分とエマルジョン成分とを均一に攪拌混合して弾性カラーポリマーセメントモルタルとし、塗布対象である布基礎コンクリート表面、あるいは外壁面に塗布乾燥して使用される。エマルジョン以外の粉体成分とエマルジョン成分との重量比が1:1となるようにするのが好ましい。塗布層の厚みとしては、塗布厚みが0.3〜2.0mmであることが好ましく、均一の厚みを形成するように塗布することが好ましい。
【0022】
なお、本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を用いたモルタルの塗布工程においては、本発明の作用を阻害しない範囲で、下塗り等の他の工程を施してもよい。特にモルタルを塗布する前に、塗布される布基礎コンクリート表面等に下塗り等の予備工程を施すことが好ましい。上記予備工程としては、例えば、布基礎コンクリート下部の掘り下げ、グラインダー等による布基礎コンクリート表面のバリ・不陸部等の削除、ブラシ等による表面のほこりや汚れの除去、モルタル等による表面の窪みや不陸部の充填、表面が均一になるような下塗り等が挙げられ、これらの一部を行っても、全部を行っても構わないが、塗布前の布基礎コンクリート表面が均一表面を形成させることが好ましい。なお、本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を用いたモルタルの塗布工程においては、形成されたモルタル層が保護性や外観保持機能に優れるため、トップコート塗布等の後工程は必要とされない。
【0023】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を用いたモルタルは、作業性に優れ、塗布された布基礎用ポリマーセメントモルタルが乾燥しないうちに、鏝、刷毛、ローラー等を用いてパターンを形成することができる。上記パターンとしては、刷毛たたき模様、砂骨ローラー模様、刷毛引き模様、コテランダム模様、コテスパニッシュ模様、コテ引きずり模様等の公知のセメントモルタル用パターンが挙げられる。上記パターンの形成後、乾燥させて、モルタル層が形成される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
エマルジョン以外の粉体成分とエマルジョン成分との重量比がほぼ1:1となるような表2に示す配合組成の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で25重量%となるように配合し、全体が均一になるようにハンドディスパーで1分間程度撹拌し、弾性カラーポリマーセメントモルタルを得た。
【0026】
比較例1
表3に示す配合組成のセメントモルタル組成物及び水を用い、実施例1と同様にして刷毛引き樹脂モルタルを得た。
【0027】
比較例2
カラー仕上げモルタル「ハウスシューズ」(株式会社竹屋化学研究所製)を用い、「ハウスシューズ」10kgに、水約3kgを加え、実施例1と同様にしてカラーモルタルを得て、比較例2とした。
【0028】
比較例3
市販のアクリル系コテ塗り弾性塗材を比較例3とした。
【0029】
なお、下記各試験に用いる布基礎用基材セメントの組成配合を表4に示した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
試験方法
(1)中性化抑制
実施例1、比較例1、2のモルタル、比較例3のアクリル系コテ塗り弾性塗材を表4に示す組成配合の基材セメント(4cm×4cm×16cmの直方体)の4面に厚さ2mmとなるように塗布し、屋外にて3週間曝露後、割裂し、断面に、フェノールフタレイン溶液を塗布し、その変色反応により中性化深さを測定し、以下の基準により評価を行って、中性化抑制の程度とした。

○:中性化深さが浅く、中性化し難く、中性化抑制あり
×:中性化深さが深く、中性化し易く、中性化抑制なし
【0034】
(2)クラック防止性(ゼロスパン伸び試験)
表4に示す組成配合の2枚の基材セメント(スレート板)を左右に並べて密着させ、密着面を中心としてその上面に厚さ1mmとなるように、実施例1、比較例1、2のモルタル、比較例3のアクリル系コテ塗り弾性塗材を塗布し、3日間養生後に、ゼロスパン伸び(mm)を測定した。ゼロスパン伸びが大きいほどクラック防止性が高い。
【0035】
(3)耐汚染防止性
実施例1のモルタル、比較例3のアクリル系コテ塗り弾性塗材を表4に示す組成配合の基材セメント(4cm×4cm×16cmの直方体)の1面に厚さ2mmとなるように塗布し、実施例1は6時間後、比較例3は2時間後にその半分に泥を塗布して7日間養生した。その後、ブラシで水洗いし、汚れの落ち具合を目視で確認した。
【0036】
(4)白華防止性
実施例1、比較例1、2のモルタル、比較例3のアクリル系コテ塗り弾性塗材を表4に示す組成配合の基材セメント(スレート板)表面に厚さ1mmに塗布後、5℃の冷蔵庫中で1日間養生した。その後、塗布面に水滴をたらし、5℃の冷蔵庫中で水滴が蒸発するまで放置後、白華状態を目視で確認した。なお、白華状態の最もひどい比較例1を基準とし(×)、中程度の白華状態を△、低白華状態を○とした。
【0037】
上記試験(1)、(2)、(4)の結果を、表5に示す。また、上記試験(3)の結果を図1a、図1bに示す。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
表5より、実施例1の弾性カラーポリマーセメントモルタルは、中性化抑制作用、クラック防止性、白華防止性のいずれにも優れることがわかる。また、図1a、図1bより比較例3に比較して、対汚染性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物は、中性化抑制やクラック防止等の布基礎コンクリートの保護性や、耐汚染性、美粧性、白華防止性等の外観保持機能がバランスよく優れるため、布基礎コンクリート表面の保護用として好適である。また、種々の工法により施工可能で、様々なパターンの作成や作業性に優れるため、外壁コンクリート表面の保護用にも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1a】実施例1の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物を用いたカラーポリマーセメントモルタルを塗工後の耐汚染性試験結果を示す写真。
【図1b】比較例3のアクリル系コテ塗り弾性塗材を塗工後の耐汚染性試験結果を示す写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として、セメント、細骨材、樹脂成分、および顔料成分からなる弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物であって、前記樹脂成分として、アクリル樹脂エマルジョンを弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で20〜40重量%となるよう含有し、また、前記顔料成分として粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を含有することを特長とする弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物。
【請求項2】
前記粉末状無機顔料および/または液体無機顔料を弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物全量に対して固形分で3〜15重量%となるよう含有することを特長とする請求項1に記載の弾性カラーポリマーセメントモルタル組成物。


【図1a】
image rotate

【図1b】
image rotate


【公開番号】特開2008−37717(P2008−37717A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216593(P2006−216593)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(395007716)株式会社竹屋化学研究所 (2)
【Fターム(参考)】