説明

弾性体介装型合成制輪子

【課題】本発明は、鉄道車両に設けられる踏面方式の制動機構において、車輪踏面により均一に押接し、高効率に制動力を作用して、車輪踏面に局所的な高温領域を発生させず、熱的損傷を抑制する合成制輪子を提供することを目的とする。
【解決手段】背板15に取付部14を設け、前記背板15の前面側に車輪踏面と当接する摩擦体12を配置し、前記摩擦体面12bに開口部18dを有した切欠部18を前記摩擦体12に設けた鉄道車両用の合成制輪子10において、前記切欠部18の切欠頭面18aに露出して前記背板15に達するまで弾性体13を配置し、前記弾性体13の左右側面が前記摩擦体12との接合面13aになるように前記摩擦体が左右に分断され、前記弾性体13のデュロメータ硬さが前記摩擦体12のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体13の圧縮弾性率が前記摩擦体12の圧縮弾性率より小さい弾性体介装型合成制輪子10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の制動装置に使用される合成制輪子に関し、より詳細には、背板の背面中央に取付部を設け、前記背板の前面側に車輪踏面と当接する摩擦体面を有した摩擦体を配置し、前記取付部に対応した位置で前記摩擦体面に開口部を有した切欠部を前記摩擦体に設けた鉄道車両用の合成制輪子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両用、特に電気車両用のブレーキでは、電子制御が著しく進歩し、モータブレーキが車両停止直前まで使用されている。しかし、車輪と制輪子との粘着力を利用した摩擦ブレーキも必要とされている。摩擦ブレーキでは、車輪と制輪子の熱負担が大きく、特にモータブレーキの回生失効時には、比較的高速の状態で作用されると、更に熱負担が大きくなる。熱硬化性樹脂を結合剤として使用する合成制輪子は、本質的に熱伝導率が低く、摩擦により発生した熱量の多くを車輪側が負担することになり、熱が蓄積され易い。
【0003】
従来から、鉄道車両用摩擦ブレーキの機構には、踏面方式とディスク方式があり、在来線には踏面方式が多く採用されている。前記踏面方式は、鉄道車輪の車輪踏面に制輪子の摩擦面を押付けることで、ブレーキ力を発生させるものである。前記制輪子には、鋳鉄制輪子や焼結制輪子等の金属素材からなる摺動材で構成されるものがあるが、鋳鉄制輪子では制輪子寿命が短く取り換え頻度が多いことや、焼結制輪子では高価になる等、デメリットが存する事等があることから、比較的長寿命で安価な材質である、合成樹脂を結合材とし、これに炭素粉、鉄粉等の摩擦調整材を混合して成形した摩擦体を有する合成制輪子が用いられている。特開2000−230589号公報(特許文献1)には、金属ブロック挿入型合成制輪子が記載されている。
【0004】
図14は、特許文献1に記載される従来の合成制輪子110の正面図である。図14の合成制輪子110は、取付部114を有する背板115に、接着層111を介して合成樹脂材、摩擦調整材からなる摩擦体112が固定されて構成されている。前記取付部114と受け117に制輪子キー(図示せず)が挿入され、合成制輪子110がシューヘッド等(図示せず)に取付けられる。前記摩擦体112の中央部には、金属ブロック挿入部112Aが切欠形成され、金属ブロック113が前記金属ブロック挿入部112Aに嵌合挿入されている。前記背板115に設けられた貫通孔(図示せず)に、前記金属ブロック113のインサート部113Bを貫通させ、このインサート部113Bが溶接接合されている。前記金属ブロック113が前記摩擦体112の表面に露出して取付けられるから、使用初期からレールとの粘着性及び散水性能(車輪表面の水膜や油膜を除去する能力)を発揮することができる。図14に示した合成制輪子110では、シューヘッドからの作用力が前記取付部114及び背板115を介して摩擦体112に伝わり、この摩擦体112の表面が車輪踏面に圧接し、ブレーキとして機能する。
しかしながら、前記摩擦体112の左右端部では、車輪踏面への圧接が弱く、又は全面圧接することが困難であり、摩擦性能が不十分である。即ち、作用力は、車輪方向に作用するから、湾曲した摩擦体112の表面の左右端部では、摩擦体112の中央部に比べ、力学的に圧接力が小さくなる。更に、図14に示す合成制輪子110では、金属ブロック113により車輪踏面の損傷が発生するという欠点があった。
尚、以下では、同様の機能を有する部材に同一の符号を付しており、特別な相違点がない場合、説明を省略する。
【0005】
前述のように、鉄道車両用のブレーキ機構には、図14に示した踏面方式の他にディスク方式があり、特開2009−13238号公報(特許文献2)には、ディスク方式に用いられる合成制輪子が記載されている。
図15は、特許文献2に記載される従来の合成制輪子104の制動時と非制動時の状態模式図である。(15A)は非制動時の状態を示し、(15B)は制動時の状態を示す模式図である。車軸101は、鉄道車両の車輪(図示せず)が取付けられる部材であり、車輪と一体となって回転する。ブレーキ装置102は、ブレーキディスク103の摩擦面103aに合成制輪子104を圧接させてブレーキ力を発生させる。合成制輪子104は、ブレーキディスク103を挟み込むように対向して一対配置されており、取付部104aに固定された摩擦体104bを有する。ブレーキシリンダ(図示せず)の駆動力によって、(15B)に示すように、前記摩擦体104bが摩擦面103aに圧接し、ブレーキ力を発生させる。摩擦体104bは、ロックウール繊維等の繊維基材と、シリコン変性フェノール樹脂等の結合剤と、鉄粉等の摩擦調整剤を含有する複合摩擦材である。
【0006】
図15に示すように、特許文献2に記載される合成制輪子104は全面圧接であり、複合摩擦材を用いる効果があるが、この複合摩擦材を図14に示した踏面方式の合成制輪子に用いた場合、全面圧接させることは困難であり、同様に、構造的に十分なブレーキ力を発生させることができなかった。即ち、踏面方式では、図14に示したように、前記摩擦体112の左右端部では、車輪踏面への圧接が弱いか、全面圧接が困難であり、摩擦性能が不十分であった。
また、図15に示したディスク方式では、車軸101にブレーキディスク103を設ける必要があり、製造コストを増加させていた。
【0007】
図に示したように、踏面方式に用いる従来の合成制輪子は、構造的に全面でより均一な力で車輪踏面に圧接することができなかった。特許第2835151号公報(特許文献3)、特許第3185139号公報(特許文献4)、特開平7−133833号公報(特許文献5)には、踏面方式に用いる従来の合成制輪子を均一に圧接するため、切欠部が形成されている。
図16は、特許文献3〜5に記載される従来の切欠部118を有した合成制輪子の正面図である。(16A)では、特許文献3に記載される釣鐘型の切欠部118が形成され、(16B)では、特許文献4に記載される三角型の切欠部118が形成され、(16C)では、特許文献5に記載されるスリット付き釣鐘型の切欠部118が形成されている。(16A)〜(16C)の合成制輪子では、図14の合成制輪子110における問題点を解決するため、切欠部118が形成されている。即ち、取付部114及び背板115を介したシューヘッドからの作用力により摩擦体112を車輪に圧接させるとき、切欠部118を有するから、摩擦体112の左右端部が車輪に沿って撓み易くなり、比較的密接に摩擦体112が車輪に圧接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−230589号公報
【特許文献2】特開2009−13238号公報
【特許文献3】特許第2835151号公報
【特許文献4】特許第3185139号公報
【特許文献5】特開平7−133833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図16に示した各合成制輪子は、前述のように、合成樹脂からなる結合剤、摩擦調整剤、繊維基材などからなり、比較的硬く、剛体としての性質が強い。即ち、図16に示した各合成制輪子の摩擦体112が車輪に圧接しても、図14に示した合成制輪子110と同様に、図16の摩擦体112の左右端部が車輪に圧接する力が弱いか、又は全面圧接が困難であり、摩擦性能に弱点があった。
よって、図14や図16に示した踏面方式に用いる合成制輪子110の摩擦体112は、比較的硬く、剛体としての性質が強いため、摩擦体112の左右端部を車輪に密着させて圧接することが困難であった。更に、図15に示したディスク方式のブレーキ機構は、製造コストを増大させ、同様の材料からなる摩擦体104bを用いていることから、図15に記載される摩擦体104bを踏面方式に用いても、摩擦体左右端部が車輪に圧接する力は弱く、又は全面圧接が困難であり、摩擦性能に弱点があった。
更に、合成制輪子110の摩擦体112が全面に圧接しないと、車輪踏面に局所的な高温領域が発生し、熱的損傷を与えることが比較的多かった。前述のように、合成制輪子110は、熱硬化性樹脂を含み、耐摩耗性に優れているが、熱伝導率が低く、車輪側に熱的負担が掛かり、非全面圧接により局所的な高温領域が車輪踏面に発生し、熱的損傷を与え易くなっていた。
【0010】
従って、本発明は、鉄道車両に設けられる踏面方式のブレーキ機構において、車輪踏面に摩擦体を密着させて全面圧接し、前記車輪踏面に対して高効率に制動力を作用させ、均一に摩擦体が摩耗し、車輪踏面に局所的な高温領域を発生させず、熱的損傷を抑制し、長期間使用可能な合成制輪子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために発明されたものであり、本発明の第1の形態は、背板の背面中央に取付部を設け、前記背板の前面側に車輪踏面と当接する摩擦体面を有した摩擦体を配置し、前記取付部に対応した位置で前記摩擦体面に開口部を有した切欠部を前記摩擦体に設けた鉄道車両用の合成制輪子において、前記切欠部の切欠頭面に露出して前記背板に達するまで弾性体を配置し、前記弾性体の左右側面が前記摩擦体との接合面になるように前記摩擦体が左右に分断され、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率より小さい弾性体介装型合成制輪子である。
【0012】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さの20%〜90%の範囲にある弾性体介装型合成制輪子である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率の5%〜80%の範囲にある弾性体介装型合成制輪子である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第1、第2又は第3のいずれかの形態において、前記取付部114及び背板115を介して前記摩擦体面から前記車輪踏面に作用力を加えたときに、前記接合面から左右の前記摩擦体に加わった弾性体応力により前記摩擦体端部を前記車輪踏面に圧接する方向に前記摩擦体端部に回転モーメントを与える弾性体介装型合成制輪子である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第1〜第4のいずれかの形態において、前記回転モーメントの大きさが、前記接合面の形状、前記接合面の面積及び前記切欠頭面に露出する弾性体下面の面積により調整される弾性体介装型合成制輪子である。
【0016】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記切欠部の断面形は、雪だるま型、釣鐘型を含む断面形である弾性体介装型合成制輪子である。
【0017】
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、前記弾性体の左右の接合面の断面形は、小三角型、大三角型を含む断面形である弾性体介装型合成制輪子である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記弾性体のデュロメータ硬さ及び圧縮弾性率が、前記弾性体の主成分であるバインダー材に添加されるゴム材の添加率により調整される弾性体介装型合成制輪子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の形態によれば、前記切欠部の切欠頭面に露出して前記背板に達するまで弾性体を配置し、前記弾性体の左右側面が前記摩擦体との接合面になるように前記摩擦体が左右に分断され、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率より小さいから、車輪踏面に制動力を作用させるとき、前記取付部114及び背板115を介された作用力は前記弾性体により、前記摩擦体の左右端部が車輪踏面に密着し、前記摩擦体を全面圧接させることができる。前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率より小さいから、前記弾性体は摩擦体よりも、柔らかく、好適な弾性を有している。即ち、前記摩擦体は、前記切欠頭面に露出して前記背板に達する弾性体により完全に分断され、前記摩擦体は、背板中央にある取付部を介して背板から作用する力と共に、前記弾性体から左右方向の力を含む弾性体応力が作用する。従って、左右に分断された前記摩擦体には、前記弾性体から摩擦体端部を車輪踏面に当接させる方向に弾性体応力が作用し、前記車輪踏面に前記摩擦体を全面圧接させることができる。よって、前記車輪踏面の表面には、前記摩擦体の当接面積に応じた摩擦力が作用し、比較的短いブレーキ距離で鉄道車両を停止させることができる。
更に、車輪踏面に対する合成制輪子の摩擦面積が増加して馴染み性が向上し、ブレーキ作用中に局所的な摩擦現象を回避し、発生する摺動熱が車輪踏面の局所的部分に集中することを抑制し、車輪への熱的負担を軽減することができる。
尚、デュロメータ硬さとは、デュロメータの押針が加圧面から下方に突き出ており、前記押針と加圧面を試料片に押接し、押針がスプリングにより食い込んでいく力と、加圧面に対して試料片から上方に押し返す弾性力とがバランスしたところで押針が停止し、このときのデュロメータの値がデュロメータ硬さを意味する。また、圧縮弾性率はヤング率とも称され、日本工業規格の規定に基づいて測定される。
【0020】
本発明の第2の形態によれば、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さの20%〜90%の範囲にあるから、好適な硬度を有し、前記摩擦体に力を伝達し、より均一に摩擦体を車輪踏面に圧接させることができる。デュロメータ硬さが20%未満の場合、前記弾性体が柔らかすぎ、前記取付部を介して作用する力を高効率に前記摩擦体に伝達することが困難になる。また、デュロメータ硬さが90%を越えた場合、前記弾性体が硬すぎ、従来の合成制輪子と同様に、左右の摩擦体を前記車輪踏面に全面圧接させることが困難になる。より好適な弾性体のデュロメータ硬さは前記摩擦体のデュロメータ硬さの30%〜80%の範囲であり、更に好適には40%〜75%の範囲である。
【0021】
本発明の第3の形態によれば、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率の5%〜80%の範囲にあるから、好適な弾性率を有し、前記摩擦体に力を伝達し、摩擦体を車輪踏面に全面圧接させることができる。前記圧縮弾性率が5%未満の場合、前記弾性体が柔らかすぎ、前記取付部114及び背板115を介して作用する力を高効率に前記摩擦体に伝達することが困難になる。また、前記圧縮弾性率が80%を越えた場合、前記弾性体が硬すぎ、従来の合成制輪子と同様に、左右の摩擦体を前記車輪踏面に全面圧接させることが困難になる。より好適な弾性体の圧縮弾性率は前記摩擦体の圧縮弾性率の10%〜70%の範囲であり、更に好適には15%〜60%の範囲である。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、前記取付部114及び背板115を介して前記摩擦体面から前記車輪踏面に作用力を加えたときに、前記接合面から左右の前記摩擦体に加わった弾性体応力により前記摩擦体端部を前記車輪踏面に圧接させる方向に前記摩擦体端部に回転モーメントを与えるから、前記摩擦体の表面を均一に前記車輪踏面に圧接させることができる。従って、全面圧接により制動力を高効率に付与できると共に、車輪踏面に局所的な高温領域が発生することを抑制し、熱的損傷を低減化することができる。
【0023】
本発明の第5の形態によれば、前記回転モーメントの大きさが、前記接合面の形状、前記接合面の面積及び前記切欠頭面に露出する弾性体下面の面積により調整されるから、比較的容易に本発明に係る弾性体介装型合成制輪子を設計・製造することができる。合成制輪子の摩擦体は、合成樹脂からなる結合剤、摩擦調整剤、繊維基材等からなり、金型等に流し込む量により、自在に大きさを調整でき、前記接合面の面積及び前記切欠頭面に露出する弾性体下面の面積を設定することができる。従って、弾性体の大きさを自在に設計し、前記回転モーメントの大きさを調整することができ、使用する車両の運用方法や性能又は摩擦体の材料等に応じて、合成制輪子の特性を選択することができる。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、前記切欠部の断面形は、雪だるま型、釣鐘型を含む断面形であるから、従来の合成制輪子が使用されていた箇所に、本発明に係る弾性体介装型合成制輪子では殆ど他の部材を設計変更することなく使用することができる。前記切欠部の断面形として、図16に示す釣鐘型、三角型、スリット付き釣鐘型等の合成制輪子は従来から使用されており、これらを本発明に係る弾性体介装型合成制輪子に取り換えることができる。更に、従来の金型等を用いて、本発明に係る雪だるま型、釣鐘型などの切欠部を形成することができ、製造コストを低減化することも可能である。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、前記弾性体の左右の接合面の断面形は、小三角型、大三角型を含む断面形であるから、前記弾性体の原材料、使用する鉄道車両の運行方法や性能等に応じて、前記接合面の断面形を選択することができる。前記断面形が小三角形の場合、比較的柔らかい弾性体を用いることができ、前記断面形が大三角形の場合、比較的硬い弾性体を用いることができる等、三角形の形状変更により弾性体の材質調整に幅がでてくる。小三角型から大三角型にすると、弾性体と摩擦体との接合面積を増大させることができ、制動時の弾性体応力を調整することが可能になる。弾性体を介して前記摩擦体に作用する力の大きさを調整することができ、制動力を適宜に調整することができる。
【0026】
本発明の第8の形態によれば、前記弾性体のデュロメータ硬さ及び圧縮弾性率は、前記弾性体の主成分であるバインダー材に添加されるゴム材の添加率により調整されるから、本発明に係る弾性体介装型合成制輪子の制動性能を比較的簡単に調整することができる。前記ゴム材としては、天然ゴム、合成天然ゴム(イソプレンゴム)、ブタジェンゴム、スチレン・ブタジェンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム(ネオプレン)、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリスチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム(バイトン)、多硫化ゴム(チオコール)などを用いることができ、特に好適な耐熱性を有するゴムを用いることが好ましく、スチレン・ブタジェンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム(バイトン)等が好ましい耐熱性を有している。これらの有する耐熱性以上のゴムであれば良く、他のゴム材を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明に係る合成制輪子10の実施例を示す正面図とそのA−A線断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る合成制輪子10の3種の他実施例の正面図である。
【図3】図3は、本発明に係る合成制輪子10の制動時の力学的状態図である。
【図4】図4は比較例として従来の合成制輪子10の正面図とそのB−B線断面図である。
【図5】図5は、比較例(従来例)に係る合成制輪子10の制動時の力学的状態図である。
【図6】図6は、本発明に係る合成制輪子を用いた高速サーモカメラによる車輪踏面温度測定の環境を示す写真図である。
【図7】図7は、本発明に係る合成制輪子の実施例を用いて制動力を作用させた車輪踏面表面の高速サーモカメラによる観察像である。
【図8】図8は、比較例である従来の合成制輪子を用いて制動力を作用させた車輪踏面表面の高速サーモカメラによる観察像である。
【図9】図9は、本発明に係る実施例と比較例における車輪踏面の温度分布の割合を示すグラフ図である。
【図10】図10は、本発明に係る合成制輪子の実施例を鉄道車両に用いて行った試験環境図である。
【図11】図11は、本発明に係る合成制輪子の実施例を在来線の車両に用いて試験した試験結果のグラフ図である。
【図12】図12は、本発明に係る合成制輪子の実施例を用いた区間減速度のグラフ図である。
【図13】図13は、本発明に係る合成制輪子の実施例(2軸散水)と比較例(1軸散水)のブレーキ距離を測定した試験結果のグラフ図である。
【図14】図14は、従来の合成制輪子の正面図である。
【図15】図15は、従来の合成制輪子の制動時と非制動時の状態模式図である。
【図16】図16は、従来の切欠部を有した合成制輪子の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を示し、本発明の実施形態について詳細に説明する。尚、同一部材又は同一機能を有する部材には、同一符号を付しており、特別な説明が必要でない限り、説明を省略する。
図1は、本発明に係る合成制輪子10の実施例を示す正面図とそのA−A線断面図である。(1A)の正面図に示すように、この実施例の合成制輪子10は、左右端部に一対の受け17が設けられ、背面中央に取付部14が設けられた背板15と、弾性体13と、切欠部18と弾性体13に分断された左右の摩擦体12とから構成されている。弾性体13と左右の摩擦体12は、弾性体接合面13aで一体に接合されており、前記背板15に弾性体13と左右の摩擦体12が接着層11により接着されている。前記取付部14及び背板15を介して作用する力は、詳細を後述するように、弾性体18から左右の摩擦体12に作用し、摩擦体12の摩擦体面12bは、鉄道車両の車輪踏面(図示せず)と圧接し、摩擦による制動力を作用させる。
本願実施例の弾性体13は、45v%〜50v%のNBR、SBR混合ゴム材、25v%〜35v%の酸化鉄系セラミックス、5v%〜10v%のフェノール樹脂バインダー材からなり、摩擦体12は、25v%〜35v%のNBR、15v%〜25v%のフェノール樹脂バインダー材、20%〜30%の摩擦調整剤(Fe、C、無機材料Al23、SiO2,CaCO3などや繊維片、Baの化合物)等を含んでいる。ここで、NBRとはアクリロニトリルブタジエンゴム、SBRとはスチレンブタジエンゴムである。このような材料構成により、前述した範囲内で弾性体13のデュロメータ硬さが摩擦体12のデュロメータ硬さより小さく、前述した範囲内で前記弾性体13の圧縮弾性率が前記摩擦体12の圧縮弾性率より小ければ良い。
このような弾性体13と切欠部18を有することにより、摩擦体12と共に摩擦体端部12aの摩擦体面12bを均一に車輪踏面(図示せず)に圧接することができる。前記切欠部18は、切欠頭面18a、切欠側面18b、開口部18c及び開口縁18dからなり、切欠頭面18aが円形状に形成され、前記切欠部18は、雪だるま型の断面形を有している。前記弾性体13の弾性体下縁13bは、前記切欠頭面18aの両側面に達しており、前記切欠頭面18aは弾性体下面13cから形成されている。前記切欠頭面18aが大きいと制動時に弾性体が前記切欠頭面18a内に弾性変形で流動し、弾性体接合面13aから摩擦体12に弾性体応力を作用させることができる。
【0029】
図1の(1B)は、(1A)に示したA−A線の断面図である。取付部14の中央には、開口部が設けられている。前記取付部14の開口部と(1A)に示した受け17に、制輪子キー(図示せず)が挿入され、合成制輪子110がシューヘッド(「制輪子頭」とも称する)に取付けられる。(1B)に示すように、合成制輪子10は、背板15に接着層11を介して弾性体13が接着され、切欠頭面18aの上部は弾性体13の表面から形成されている。弾性体下縁13bから摩擦体12が接合されている。
【0030】
【表1】

【0031】
表1は、実施例の摩擦体と弾性体のデュロメータ硬さを示している。前述のように、デュロメータ硬さとは、デュロメータの押針が加圧面から下方に突き出ており、前記押針と加圧面を試料片に押接し、押針がスプリングにより食い込んでいく力と、加圧面に対して試料片から上方に押し返す弾性力とがバランスしたところで押針が停止し、このときのデュロメータの値がデュロメータ硬さを意味する。各2種類(n1、n2)の摩擦体と弾性体のデュロメータ硬さを各々5回(N:1〜N:5)測定している。表1に示すように、2種類の摩擦体n1、n2のデュロメータ硬さは、5回の測定(N:1〜N:5)で、各々平均値(avg)が59.8と60となり、平均値は59.9である。2種類の弾性体n1、n2のデュロメータ硬さは、5回の測定(N:1〜N:5)で、各々平均値(avg)が37.8と36.8となり、平均値は37.3である。即ち、2種類の弾性体n1、n2は、いずれも2種類の摩擦体n1、n2より、デュロメータ硬さの平均値が小さい。また、5回の測定(N:1〜N:5)の各データを比べても、2種類の弾性体n1、n2は、いずれも2種類の摩擦体n1、n2より、デュロメータ硬さが小さくなっている。即ち、弾性体n1、n2のいずれかを摩擦体n1、n2のいずれかに対して用い、合成制輪子を形成すれば、好適な制動性能を有する合成制輪子を得ることができる。また、弾性体のデュロメータ硬さの最小値は32であり、摩擦体のデュロメータ硬さの最大値は61であるから、弾性体のデュロメータ硬さは摩擦体の約52%となっている。更に、弾性体のデュロメータ硬さの最大値は42であり、摩擦体のデュロメータ硬さの最小値は58であるから、弾性体のデュロメータ硬さは摩擦体の約72%となっている。
【0032】
以下に示される表2は、実施例の弾性体の物性表である。表2には、比重の6回測定値と、圧縮強さ、圧縮弾性勾配、圧縮弾性率の10回測定値が記載されている。また、夫々の最大値及び最小値と平均値も記載されている。また、表3は、実施例の摩擦体の物性表である。表3には、比重の6回測定値と、圧縮強さ、圧縮弾性勾配、圧縮弾性率の10回測定値が記載されている。同時に、各々の最大値及び最小値と平均値も記載されている。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
以下に、表2と表3の物性値を相互に比較検討する。まず、弾性体と摩擦体の比重が記載されているが、弾性体の比重は平均値が2.44g/cm3、摩擦体の比重は平均値が2.24g/cm3であり、極めて近い値を有している。よって、弾性体と摩擦体を接合し、従来の合成制輪子と交換しても、殆ど設計変更することなく使用することが可能である。
【0036】
表2、表3には、各々、実施例の弾性体と摩擦体の圧縮強さ(N/mm2)が記載されている。尚、圧縮強さは、各試料が圧縮力を受けて変形や破壊するときの圧縮荷重を断面積で除したものである。表2に示した弾性体の圧縮強さの平均値は10.17N/mm2であり、表3に示した摩擦体の圧縮強さの平均値47.12N/mm2より約5分の1程度小さな値である。また、表2における弾性体の圧縮強さの平均値10.17N/mm2は、表3における摩擦体の圧縮強さの最小値27.78より小さく、約3分の1程度である。
更に、表2、表3には、各々、実施例の弾性体と摩擦体の圧縮弾性勾配(N/mm)が記載されている。圧縮弾性勾配は、圧縮力と変位の比例定数であり、表2に示した弾性体の圧縮弾性勾配の平均値は969.55N/mmであり、表3に示した摩擦体の圧縮弾性勾配の平均値3,697.33N/mmとなっている。摩擦体の圧縮弾性勾配の平均値は、弾性体より3.5倍以上大きな値を有している。即ち、摩擦体を1mm変位させるためには、弾性体の3.5倍以上大きな圧縮力を加える必要がある。
【0037】
表2、表3には、各々、実施例の弾性体と摩擦体の圧縮弾性率(N/mm2)が記載されている。尚、圧縮弾性率は、圧縮力と試料片の変位率の比例定数であり、ヤング率に相当する。表2に示した弾性体の圧縮弾性率の平均値は122.94N/mm2であり、表3に示した摩擦体の圧縮弾性率の平均値478.66N/mm2である。互いの最大値と最小値を比較すると、弾性体の圧縮弾性率の最小値が89.34N/mm2であり、摩擦体の圧縮弾性率の最大値が562.22N/mm2であるから、弾性体の圧縮弾性率が摩擦体の約16%となる。また、弾性体の圧縮弾性率の最大値が180.29N/mm2であり、摩擦体の圧縮弾性率の最小値が425.10N/mm2であるから、弾性体の圧縮弾性率が摩擦体の約42%となる。
以上のように、弾性体が摩擦体より柔らかいことを示している。
【0038】
【表4】

【0039】
表4は、実施例の摩擦体と弾性体の物性一覧表である。表1〜表3に示した物性値を比較し、比率を求めている。デュロメータ硬さの平均値では、弾性体/摩擦体の比率が0.62となっている。即ち、弾性体のデュロメータ硬さの平均値が摩擦体の62%程度である。他の物性値では、平均値の弾性体/摩擦体の比率が0.21〜0.34であり、弾性体の物性値の平均値が摩擦体の約21%〜34%であることが分かる。
以下に、実施例の摩擦体と弾性体の組成と条件に関し、より詳細に述べる。
(1)摩擦体の材料である摩擦材の組成の一例
実施例の摩擦材は、バインダー材(結合剤とも称される)と硬質粒子(摩擦調整剤とも称される)からなり、バインダー材としては、フェノール樹脂、シリコン変性フェノール樹脂又はこれらの混合物など、耐熱性に優れた合成樹脂が好ましい。硬質粒子としては、鉄粉、炭素粉、無機材料(Al23、SiO2,CaCO3など)や繊維片があり、これらのうち2種以上を混合して含有させても良い。繊維片としては、ロックウール繊維、アクリル繊維、アルミナ繊維、カーボン繊維、スチール繊維、アラミド繊維、セラミックス繊維が用いられる。
(2)弾性体の材料である弾性材の組成の一例
弾性材は、バインダー材とゴムからなり、バインダー材としては、フェノール樹脂、シリコン変性フェノール樹脂又はこれらの混合物など、耐熱性に優れた合成樹脂が好ましい。ゴム材料としては、天然ゴム、合成天然ゴム(イソプレンゴム)、ブタジェンゴム、スチレン・ブタジェンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム(ネオプレン)、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリスチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム(バイトン)、多硫化ゴム(チオコール)などを利用することができ、特に好適な耐熱性を有するゴムを用いることが好ましく、スチレン・ブタジェンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム(バイトン)等が好ましい耐熱性を有している。
(3)摩擦体と弾性体の条件
弾性体の硬度が摩擦体の硬度より小さく、更に、弾性体の圧縮弾性率が摩擦体の圧縮弾性率より小さいことが条件となる。より具体的には、弾性体の硬度が摩擦体の硬度の20%〜90%の範囲にあり、弾性体の圧縮弾性率が摩擦体の圧縮弾性率の5%〜80%の範囲にあることが条件となる。より好適な弾性体のデュロメータ硬さは前記摩擦体のデュロメータ硬さの30%〜80%の範囲であり、更に好適には40%〜75%の範囲である。また、より好適な弾性体の圧縮弾性率は前記摩擦体の圧縮弾性率の10%〜70%の範囲であり、更に好適には15%〜60%の範囲である。
【0040】
図2は、本発明に係る合成制輪子10の3種の他実施例の正面図である。(2A)は、切欠部18が雪だるま型で弾性体13が大三角形型である合成制輪子10の第1他実施例の正面図である。図1と異なる点のみに着目して説明する。本他実施例1では、弾性体13の弾性体下縁13bは、切欠頭面18aの下側を超え、切欠側面18bの上部領域にまで達している。言い換えれば、弾性体13が切欠頭面18aの全部を含んで、更に切欠側面18bの上部領域までを含んでいる。その結果、弾性体接合面13aが、図1の弾性体接合面13aよりもかなり大きくなり、弾性体接合面13aの面積も増大しているため、図1の弾性体が小三角形型であるのに対して、大三角形型と称するのである。図3で後述するように、押付中心からシューヘッドによって加えられる作用力Fの押圧作用により弾性体13が切欠頭面18aの中へとその弾性で微妙に流動し、同時に弾性体接合面13aには弾性体応力faが作用し、この弾性体応力faが支点(開口縁)18dの周りに回転モーメントMを発生させる。弾性体13の弾性的性質により前記流動と弾性体応力faが発生し、この弾性体応力faに基づく前記回転モーメントMが摩擦体端部12aを車輪踏面22に圧接させる原動力になる。つまり、弾性体接合面13aの面積が大きくなると、弾性体応力faに基づく回転モーメントMが増大し、摩擦体端部12aの車輪踏面22への圧接作用が効率的に行われる。その結果、摩擦体端部12aを含めた摩擦体面12bの全面が車輪踏面22を圧接し、車輪20を効率的に減速することが可能になる。
【0041】
(2B)は、切欠部18が釣鐘型で弾性体13が小三角形型である合成制輪子10の第2他実施例の正面図である。図1と異なる点のみに着目して説明する。図1では、切欠部18が円形の切欠頭面18aとスカート状の切欠側面18bから構成され、両者の接続点が突起を形成していた。本第2他実施例では、切欠頭面18aから突起状の接続点を形成せずに直線的に切欠側面18bがやや傾斜状に垂下した形状をとることを特徴とする。切欠頭面18aは第1他実施例と同様な大きさを有しているから、図3における作用力Fは、弾性体13は切欠頭面18aに向かって流動変位することが可能になり、これに伴って弾性体接合面13aの全面に弾性体応力faが有効に発生する。図3で後述するように、この弾性体応力faにより前記回転モーメントMが発生し、摩擦体端部12aを車輪踏面22に強力に圧接させ、摩擦体面12bの全面が車輪踏面22に対する圧接面24になり、車輪20に強力な摩擦力(動摩擦力)Ffを与え、車輪20の回転を停止させるものである。
【0042】
(2C)は、切欠部18が釣鐘型で弾性体13が大三角形型である合成制輪子10の第3他実施例の正面図である。図1と異なる点のみに着目して説明する。本実施例では、釣鐘を形成する切欠頭面18aと切欠側面18bの接続点が突起を形成せずに滑らかに接続し、切欠頭面18aの面積は大きく、しかも大三角形型であるから弾性体接合面13aの面積が大きく形成されている。従って、図3における作用力Fが作用したとき、切欠頭面18aの面積が大きいから弾性体13は切欠頭面18aに向かって流動変位することが可能になり、これに伴って弾性体接合面13aの大面積の全面に弾性体応力faが有効に発生する。図3で後述するように、この弾性体応力faにより前記回転モーメントMが発生し、摩擦体端部12aを車輪踏面22に強力に圧接させ、摩擦体面12bの全面が車輪踏面22に対する圧接面24になり、車輪20に強力な摩擦力(動摩擦力)Ffを与えるものである。
【0043】
図3は、本発明に係る合成制輪子10の制動時の力学的状態図である。車輪20が矢印a方向に回転しているときに、図示しないシューヘッドから制輪子キー、取付部14及び背板15の全面に作用力Fが押圧付勢される。この作用力Fは背板15を介して摩擦体12の全面に作用するが、特に取付部14の直下にある弾性体13に強力に作用し、弾性体13は弾性変形しながら切欠頭面18aへと僅かに侵入する。弾性体13のデュロメータ硬さDと圧縮弾性係数は摩擦体12よりも適度に小さく設計されている。現段階で本発明者等は、以下のような単純な理解で本発明の技術的効果、即ち、摩擦体の両端部の車輪踏面への圧接現象を説明できると考えている。今後、更に詳細な検討を行ってゆく予定である。地球の内部岩石であるマントルがマントル対流を生起するのと同様に、硬い目ではあるが、弾性体13は前記作用力Fにより流動変形すると考えられる。この流動圧力はパスカルの原理により弾性体接合面13aに作用し、弾性体接合面13aに対しほぼ直角に弾性体応力faが作用する。この弾性体応力faにより摩擦体12は押圧され、切欠部18の開口縁18dを支点として、摩擦体12には図示のごとき回転モーメントMが付与される。摩擦体12の上半部には右回りモーメントMが作用し、摩擦体12の下半部には左回りモーメントMが作用する。この回転モーメントMにより、摩擦体端部12aは車輪踏面22を圧接し、摩擦体面12bの全面が車輪踏面22に圧接するような力学的状態が生じる。
【0044】
上述したように、本発明では摩擦体面12bの車輪踏面22への全面圧接が成立しているから、摩擦体12と車輪踏面22との圧接面24の圧接面積Aは、摩擦体面12bの摩擦体面積Sとほぼ一致しており、A=Sと考えられる。従って、作用力Fによる車輪踏面22への制動応力fは、f=F/Sで与えられる。図5の比較例で後述するように、弾性体13が無い従来の合成制輪子では、回転モーメントMが生起しないから、摩擦体端部12aは車輪踏面22に圧接し難く、圧接面積Aは摩擦体面積Sよりも小さくなり、即ちA<Sが成立する。その結果、同じ押付力Fが押圧されたときに、従来制動応力f0はf0=F/Aとなり、A<Sとなるため、f0>fとなって、従来制動応力f0が過剰に大きくなってしまう。後述するように、この過剰な従来制動応力f0は車輪踏面22を局所的に過加熱する現象を生起し、車輪踏面22に局所的な損傷を与え、反射的に摩擦体面12bにも損傷を与え、合成制輪子10の取替頻度を増大させ、高価な車輪20の修理や交換と云った事態を引き起こす結果となる。それに対し、本発明の合成制輪子では、過加熱が無いから、合成制輪子10の取替頻度を低減でき、尚且つ車輪の修理交換頻度を低減できる技術的効果を有する。
【0045】
また、本発明及び従来において共通するのは、摩擦体面12bの中央付近では、前記制動応力fが車輪踏面22に垂直に作用しているが、摩擦体端部12a付近になると制動応力fは車輪踏面22の垂直方向から傾角θだけ傾斜していることである。従って、制動応力fは車輪踏面22を垂直に押圧して摩擦力に寄与する圧接応力fbと摩擦力には寄与しない滑り応力fsに分解される。f、fb及びfsの関係は、fb=f×cos(θ)とfs=f×sin(θ)である。従って、fb<fが成立する。本発明では、摩擦体面12bが車輪踏面22に全面圧接し、摩擦に関係するのは圧接応力fbである。圧接応力fbがf0よりも小さいから、局所的な過加熱が発生せず、摩擦体面12bと車輪踏面22を損傷しない効果が得られる。前記圧接応力fbを摩擦体面積Sに関して積分すると摩擦を生起する垂直抗力Nが得られる。この垂直抗力Nは前記傾角に基づいて前記作用力Fよりもやや小さくなり、本発明ではN<Fとなる。摩擦力Ffと垂直抗力Nの関係は、Ff=μ'N(μ':動摩擦係数)で与えられる。特に、後述の実験から分かるように、本発明の動摩擦係数μ'は従来(比較例)の動摩擦係数より格段に増大し、垂直抗力Nが押付力Fよりもやや小さくなっても、動摩擦係数がそれを超えて増大し、従来の摩擦力よりも大きな摩擦力Ffが得られることが分かった。動摩擦力Ffが比較例より増大するため、鉄道車両を効果的に制動することが可能になったのである。
【0046】
図4は比較例として従来の合成制輪子10の正面図とそのB−B線断面図である。(4A)は弾性体を有さず切欠部がスリット釣鐘型の合成制輪子10の正面図で弾性体を全く配置しない構造を有している。摩擦体12の背面には背板15が接着層11を介して接合しており、背板15の中央部には取付部14、また背板15の左右両端部には受け17、17が設けられている。切欠部18は、切欠頭面18aの頂点から上方にスリット18eが形成され、切欠頭面18aから下方に傾斜して切欠側面18bに連なり、開口部18cの周りは切欠縁18dになっている。切欠頭面18aと切欠側面18bの形状は釣鐘型であり、スリット18eが付加されて、切欠部18の全体形状はスリット釣鐘型である。摩擦体12は、本発明実施例と同一の均一な摩擦材から形成され、摩擦体端部12aから切欠部18に至るまで摩擦体面12bとなっている。従って、本比較例が実施例と異なるのは、切欠部18がスリット釣鐘型であり、弾性体13を有さないことである。
(4B)は比較例である(4A)のB−B線断面図である。取付部14は背板15と連接され、背板15は接着層11を介して、スリット18e、切欠頭面18a及び摩擦体12に連接されている。
【0047】
図5は、比較例(従来例)に係る合成制輪子10の制動時の力学的状態図である。車輪20が矢印a方向に回転しているときに、作用力Fが取付部14、背板15の全体に付与される。図3との相違は、弾性体13が存在しないため、前述した回転モーメントMが生起しないことである。回転モーメントMが発生しないから、摩擦体端部12aが車輪踏面22に圧接せず、車輪踏面22と摩擦体端部12aの間に未圧接間隙21が、摩擦体12の上下端に生じている。従って、圧接面24の圧接面積Aは摩擦体面12bの摩擦体面積Sよりもかなり小さくなり、A<Sの関係が成立している。従って、従来の制動応力f0はf0=F/Aで与えられ、A<Sの関係より、本発明の制動応力f=F/Sと比較して、f0>fの不等式が成立する。しかも、この大きな従来の制動応力f0が摩擦体面12bと車輪踏面22に作用するから、過加熱現象が生起し、合成制輪子10と車輪20の寿命低下を齎していたのである。また、言い換えれば、従来の制動応力f0の反力が垂直抗力となって圧接面積Aに対して作用するから、圧接面24では過加熱現象が生じ、車輪20の車輪踏面22に局所的な高温の過加熱スポットが発生し、この過加熱スポットにより車輪踏面22に局所的損傷を与えるだけでなく、摩擦体面12bにも損傷を与える。これらの損傷により、合成制輪子の取替や、車輪の修理・交換といった事態が生じている。前述した本発明では、弾性体13を摩擦体12と組み合わせることによって、局所加熱を抑制し、合成制輪子の高耐久性と長寿命化を達成したものである。
【0048】
また、比較例においても、摩擦体面12bの中央付近では、前記制動応力f0が車輪踏面22に垂直に作用しているが、摩擦体端部12a付近になると従来制動応力f0は車輪踏面22の垂直方向から傾角θだけ傾斜していることである。従って、制動応力f0は車輪踏面22を垂直に押圧して摩擦力に寄与する圧接応力f0bと摩擦力には寄与しない滑り応力f0sに分解される。f0、f0b及びf0sの関係は、f0b=f0×cos(θ)とf0s=f0×sin(θ)である。ここで、f0b<f0が成立している。但し、比較例では、摩擦体端部12aに未圧接間隙21が存在することによって、圧接面24は摩擦体12の中央部になり、傾角θは非常に小さくなるため、f0b=f0と云っても過言ではない。従って、反力がf0になり、これを圧接面24の全体で積分すると、f0×A=Fにより、垂直抗力Nは加えた押付力Fに等しくなる。従って、動摩擦力F0fはF0f=μ'Fとなり、小さくなった圧接面積Aに対し直接的に作用力Fが作用する。このことは最初から分かっているが、小さな圧接面積Aに作用力Fが作用すると、過剰圧接が生じ、圧接面に過加熱により過剰発熱が生じ、過加熱スポットが大量に発生することを意味する。従って、摩擦体面12bと車輪踏面22に過加熱損傷を与える可能性が高く、部品交換を多発する結果となる。既に上述したように、この現象を本発明は回避することに成功したものである。
【0049】
図6は、本発明に係る合成制輪子を用いた高速サーモカメラによる車輪踏面温度測定の環境を示す写真図である。鉄道車両用の車輪を用い、この車輪の車輪踏面に対して、実施例又は比較例の合成制輪子が配設されている。鉄道車両における実際の制動時に近い状態が再現され、実施例の合成制輪子を車輪踏面に圧接して制動力を作用させ、車輪踏面の表面温度を高速サーモカメラにより観察している。観察された温度分布の結果は、図7及び図8に示す。前述のように、車輪踏面の表面には、摩擦により熱が発生し車輪踏面を高温化する。摩擦力と温度分布は、車輪踏面と当接する摩擦体との動摩擦係数と当接する面積に依存する。写真図に示した測定装置では、動摩擦係数の測定も行われている。
【0050】
【表5】

【0051】
表5は、本発明に係る合成制輪子のdry状態とwet状態の動摩擦係数を測定したものであり、比較例は、従来の合成制輪子、実施例は、弾性体介装型の合成制輪子である。所定の初速度で走行するよう車輪を回転させ、合成制輪子の摩擦体を圧接して急ブレーキを掛け、平均動摩擦係数を測定している。即ち、急ブレーキを掛けることにより車輪の回転速度は減少し、所定初速度の動摩擦係数を示すものではないが、初速度から停止までの動摩擦係数として用いることが可能である。測定は、初速度V0は、35km/h、65km/h、95km/h、125km/hの場合がある。dry状態(上段)とwet状態(下段)の各々において、同一初速度で3回測定している。比較例と実施例において、初速度の増加に伴って動摩擦係数が減少しているが、実施例では、dry状態(上段)とwet状態(下段)で、動摩擦係数が略同じ値を示している。一方、比較例では、dry状態(上段)とwet状態(下段)で動摩擦係数の値に差異があり、特に比較的低速である初速度V0:35km/hの場合、約0.1程度の差がある。更に、各初速度において、実施例の動摩擦係数が殆どの場合で約0.02〜0.13程度大きくなることが測定されている。例えば、初速度V0が95km/hでdry状態の場合、比較例は0.25であるが、実施例は0.37であり、動摩擦係数に0.12の差がある。この結果は、実施例の摩擦体が全面圧接し、比較例の摩擦体は、その両端部で当接していないか、圧接が弱いと解釈することができる。このように、dry状態でもwet状態でも、実施例の動摩擦係数が比較例の動摩擦係数より0.02〜0.10くらい大きくなり、本実施例の摩擦特性、即ちブレーキ特性が比較例(従来例)と比較して格段に向上していることを示している。dry状態は晴天・曇天時であり、wet状態とは雨天時を想定している。
【0052】
図7は、本発明に係る合成制輪子の実施例を用いて制動力を作用させた車輪踏面表面の高速サーモカメラによる観察像である。この高速サーモカメラにより温度分布の観察像が得られている。実施例の温度分布では、摩擦により200〜300℃に熱せられた部分が観察されるが、その面積が広く、比較的均一に温度が上昇しており、実施例の合成制輪子が全面圧接し、摩擦力が作用していることが分かる。200〜300℃の部分が発生しても、熱的損傷は殆ど起こらず、車輪の長寿命化を図ることができる。
【0053】
図8は、比較例である従来の合成制輪子を用いて制動力を作用させた車輪踏面表面の高速サーモカメラによる観察像である。比較例の合成制輪子を用いて制動力を作用させた車輪踏面の温度分布では、局所的に500℃以上に到達している部分が観測されており、その他にも局所加熱が引き起こされ、500℃に近い温度に到達している部分が多数観察されている。即ち、比較例として示した従来の合成制輪子では、摩擦体が全面圧接することが困難であり、500℃又は500℃に近い局所加熱が発生し、車輪踏面の熱的損傷が起こり易く、鉄道車輪の低寿命化を引き起こしていた。
【0054】
図9は、本発明に係る実施例と比較例における車輪踏面の温度分布の割合を示すグラフ図である。グラフの縦軸は、車輪踏面において、所定の温度範囲にある面積の割合を示す平均割合(%)であり、対数で示されている。横軸には、各温度範囲を低温から高温に並べて記載されている。実施例のプロファイルは、本発明に係る合成制輪子を用いて制動力を車輪踏面に作用させ、高速サーモカメラにより測定された観察像から見積もった各温度範囲の面積の割合である。同様に、比較例は、従来の合成制輪子を用い、制動力を作用させた車輪踏面を高速サーモカメラにより測定し、見積もられたプロファイルである。温度Tの範囲がT<400℃では、実施例と比較例は、略同じプロファイルを有しているが、その温度範囲を越えると、実施例と比較例のプロファイルの差が開き、実施例では、より高温の面積の割合が比較例より大きく減少している。温度範囲が480℃≦T<500を越えると、更に実施例の割合が急激に減少し、500℃≦T<520を越える領域が殆どないことを示している。一方、比較例では、車輪踏面の表面に、より高温の領域が局所的に存在していることが示されており、実施例より高温領域の割合が多いことが分かる。即ち、比較例では、500℃≦T<520の温度範囲にある面積も比較的大きく、高温領域の減少率も小さい。比較例では、車輪踏面の表面に、640℃≦T<660の温度範囲にある高温領域も観察されている。よって、比較例の測定に用いられた合成制輪子では、殆ど全面圧接していないか、摩擦体端部の圧接がかなり弱く、中央部分における摩擦により制動力を作用させるから、局所的な熱発生により、車輪踏面に高温領域が形成される。本発明に係る合成制輪子では、より均一に摩擦体が車輪踏面に全面圧接するから、局所的な高温領域を発生させずに、制動力を作用させることができる。換言すれば、本発明に係る合成制輪子は、従来の合成制輪子に対し、温度抑制効果を有している。
【0055】
図10は、本発明に係る合成制輪子の実施例を鉄道車両に用いて行った試験環境図である。実施例の合成制輪子がシューヘッドに取付けられ、wet状態でのブレーキ距離(「制動距離」とも称する)を測定するため、散水ノズルが設けられている。このような実際の車両を使用した試験環境により、実施例の合成制輪子を用い、dry状態とwet状態における車両のブレーキ距離を測定することが可能である。所定の速度で走行する車両に急ブレーキを掛け、その所定の速度を初速度とし、急ブレーキから停止するまでの距離をブレーキ距離と称する。
【0056】
図11は、本発明に係る合成制輪子の実施例を在来線の車両に用いてブレーキ性能試験を行った模式図と試験結果のグラフ図である。在来線の模式図に示すように、2両編成の車両を用いてブレーキ性能試験を行っており、図10に示した環境に実施例の合成制輪子が配設されている。また、第1車両には、散水ノズルが2箇所取付けられており、前方の散水ノズルのみから散水されることを1軸散水、前方と後方の散水ノズルから散水されることを2軸散水と称している。
ブレーキ距離を比較したグラフ図の縦軸は、初速度に対するブレーキ距離(m)の平均値であり、走行環境に基づいて勾配補正を行っており、より客観的なデータが示されている。横軸は、ブレーキを作動させたときの初速度であり、ブレーキ初速度(km/h)と称している。グラフ図には、従来の合成制輪子を用いた比較例が丸(○)で、実施例の合成制輪子を用いて測定したものを四角(□)でプロットされている。
グラフ図に示すように、乾燥状態(「dry状態」とも称する)において、ブレーキ初速度が比較的低速な約30km/hでは、実施例(□)と比較例(○)の大きな違いは見られないが、ブレーキ初速度の増加に伴ってブレーキ距離の差が大きくなり、ブレーキ初速度が110km/hの場合、実施例のブレーキ距離が387m、比較例のブレーキ距離が428mであり、ブレーキ距離に41mの差がある。更に、前記1軸散水におけるwet状態の結果では、ブレーキ初速度が90km/hのとき、実施例のブレーキ距離が269m、比較例のブレーキ距離が308mであり、ブレーキ距離に39mの差がある。グラフ図に示すように、乾燥状態では、ブレーキ初速度が90km/hのとき、比較例のブレーキ距離と実施例のブレーキ距離の差は28mである。即ち、wet状態では、実施例と比較例のブレーキ距離の差が大きくなり、実施例の合成制輪子がwet状態において、より優れたブレーキ性能を付与していることが分かる。
【0057】
図12は、本発明に係る合成制輪子の実施例を用いた区間減速度のグラフ図である。所定の初速度から減速するときの区間減速度の平均値を30km/h減速する毎に測定している。区間減速度の平均値とは、所定区間内で単位時間当たりに減速する速度の平均値であり、ここでは、30km/h減速する区間を示している。実施例の合成制輪子を用いた試験結果では、区間減速度の平均値が大きく、区間速度が90km/h以下の場合を比べると、乾燥状態で初速度が110km/hの場合と1軸散水で初速度が90km/hの場合とで、殆ど同じ値を示している。即ち、乾燥状態と1軸散水で、且つ初速度が異なっても、同じ速度から減速する減速度が殆ど変わらないことを示している。一方、比較例である従来の合成制輪子では、区間減速度が実施例に比べて小さいと共に、乾燥状態と1軸散水で初速度が異なると、区間減速度が大きく異なっている。即ち、本発明に係る実施例によれば、乾燥状態と1軸散水で、且つ初速度が異なっても、安定したブレーキ性能を発揮することができる。
【0058】
図13は、本発明に係る合成制輪子の実施例(2軸散水)と比較例(1軸散水)のブレーキ距離を測定した試験結果のグラフ図である。実施例は、図11において説明した2軸散水におけるブレーキ距離の結果を四角(□)でプロットしたものであり、比較例は、1軸散水におけるブレーキ距離の結果を丸(○)でプロットしたものである。尚、2軸散水の条件では、2倍の散水量となる。前述のように、縦軸はブレーキ距離の平均値であり、勾配補正が行われている。本発明に係る合成制輪子では、実施例の2軸散水と比較例の1軸散水で殆ど同じ値を示しており、2軸散水であって、散水量が増えても、同程度のブレーキ性能を発揮することができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る合成制輪子は、前記切欠部の切欠頭面に露出して前記背板に達するまで弾性体を配置し、前記弾性体の左右側面が前記摩擦体との接合面になるように前記摩擦体が左右に分断され、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率より小さい。従って、鉄道車両に設けられる踏面方式のブレーキ機構において、車輪踏面に全面圧接し、前記車輪踏面に対して高効率に制動力を作用させ、均一に摩擦体が摩耗し、車輪踏面に局所的な高温領域を発生させず、熱的損傷を抑制し、長期間使用可能な合成制輪子を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 切欠部
11 接着層
12 摩擦体
12a 摩擦体端部
12b 摩擦体面
13 弾性体
13a 弾性体接合面
13b 弾性体下線
13c 弾性体下面
14 取付部
15 背板
17 受け
18 切欠部
18a 切欠頭面
18b 切欠側面
18c 開口部
18d 開口縁
18e スリット
20 車輪
21 未圧接間隙
22 車輪踏面
24 圧接面
101 車軸
102 ブレーキ装置
103 ブレーキディスク
103a 摩擦面
104 合成制輪子
104a 取付部
104b 摩擦体
110 合成制輪子
111 接着層
112 摩擦体
112A 金属ブロック挿入部
113 金属ブロック
115 背板
117 受け
118 切欠部
A 圧接面積
F 作用力
Ff 本発明の動摩擦力
f 本発明の制動応力
fb 本発明の圧接応力
fs 本発明の滑り応力
F0f 従来の動摩擦力
f0 従来の制動応力
f0b 従来の圧接応力
f0s 従来の滑り応力
S 摩擦体面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背板の背面中央に取付部を設け、前記背板の前面側に車輪踏面と当接する摩擦体面を有した摩擦体を配置し、前記取付部に対応した位置で前記摩擦体面に開口部を有した切欠部を前記摩擦体に設けた鉄道車両用の合成制輪子において、前記切欠部の切欠頭面に露出して前記背板に達するまで弾性体を配置し、前記弾性体の左右側面が前記摩擦体との接合面になるように前記摩擦体が左右に分断され、前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さより小さく、前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率より小さいことを特徴とする弾性体介装型合成制輪子。
【請求項2】
前記弾性体のデュロメータ硬さが前記摩擦体のデュロメータ硬さの20%〜90%の範囲にある請求項1に記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項3】
前記弾性体の圧縮弾性率が前記摩擦体の圧縮弾性率の5%〜80%の範囲にある請求項1又は2に記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項4】
前記取付部及び背板を介して前記摩擦体面から前記車輪踏面に作用力を加えたときに、前記接合面から左右の前記摩擦体に加わった弾性体応力により前記摩擦体端部を前記車輪踏面に圧接する方向に前記摩擦体端部に回転モーメントを与える請求項1、2又は3に記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項5】
前記回転モーメントの大きさが、前記接合面の形状、前記接合面の面積及び前記切欠頭面に露出する弾性体下面の面積により調整される請求項1〜4のいずれかに記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項6】
前記切欠部の断面形は、雪だるま型、釣鐘型を含む断面形である請求項1〜5のいずれかに記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項7】
前記弾性体の左右の接合面の断面形は、小三角型、大三角型を含む断面形である請求項1〜6のいずれかに記載の弾性体介装型合成制輪子。
【請求項8】
前記弾性体のデュロメータ硬さ及び圧縮弾性率は、前記弾性体の主成分であるバインダー材に添加されるゴム材の添加率により調整される請求項1〜7のいずれかに記載の弾性体介装型合成制輪子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−87882(P2013−87882A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229739(P2011−229739)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(309027861)株式会社ユーテック (4)
【出願人】(000189453)上田ブレーキ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】