説明

弾性繊維用処理剤およびそれが付着した弾性繊維

【課題】 弾性繊維に安定した制電性と、良好な解舒性および平滑性を付与するとともに、高級脂肪酸金属塩の分散状態が長期間にわたって良好な弾性繊維用処理剤と、弾性繊維用処理剤が付着した弾性繊維を提供する。
【解決手段】弾性繊維用処理剤は、ベース成分と微分散された高級脂肪酸金属塩とを含み、ベース成分が、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれた少なくとも1種の低粘度成分とシリコーンレジンを必須成分とする変性シリコーンとを含む。低粘度成分と変性シリコーンとの重量割合(低粘度成分/変性シリコーン)は100/0.005〜100/7であり、前記高級脂肪酸金属塩の重量割合はベース成分100重量部に対して0.05〜7重量部である。弾性繊維用処理剤の付着割合は前記弾性繊維に対して0.1〜15重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性繊維用処理剤およびそれが付着した弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンを含有する弾性繊維用処理剤が多数知られている。たとえば、引用文献1には、アミノアルキルシリコーンレジンを含有した弾性繊維用処理剤が記載されている。引用文献2には、MQシリコーンレジンを含有した弾性繊維用処理剤が記載されている。引用文献3には、シリコーンオイルと分散剤として特定アミノ変性シリコーンを100/3〜100/0.5に混合して、該混合物中に高級脂肪酸マグネシウムが100重量部当たり1〜10重量部コロイド状に分散された分散液からなるポリウレタン弾性繊維用処理剤が記載されている。引用文献4には、アミノ変性ポリジオルガノシロキサンを含有する弾性繊維用処理剤が記載されている。引用文献5には、アミノ変性基を有する特定のシリコーン樹脂を含有するポリウレタン弾性繊維用処理剤が記載されている。
【特許文献1】特開平5−117976号公報
【特許文献2】特開平9−78460号公報
【特許文献3】特開平10−259577号公報
【特許文献4】特開2003−49368号公報
【特許文献5】特開2004−285508号公報
【0003】
また、弾性繊維用処理剤として、解舒性を付与するために高級脂肪酸金属塩を含有するものが知られているが、ベース成分に固体である高級脂肪酸金属塩を分散させるために、時間とともに高級脂肪酸金属塩が沈降してしまう問題があった。
【0004】
引用文献3に記載された弾性繊維用処理剤では、高級脂肪酸金属塩の沈降を防止するためには、ポリエーテル変性シリコーンやアミノ変性シリコーンが併用されている。しかしながら、これらの変性シリコーンが極性を有するために、長期間保存すると高級脂肪酸金属塩を凝集させる。その結果、高級脂肪酸金属塩によって本来発揮きれるべき物性である膠着防止性能や平滑性が発揮されないといった問題があった。また、高級脂肪酸金属塩の凝集により、オイリングローラーの汚れがひどくなり、清掃回数が増えるといった問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、得られる弾性繊維に安定した制電性と、良好な解舒性および平滑性とを付与するとともに、高級脂肪酸金属塩の分散状態が長期間にわたって良好な弾性繊維用処理剤と、この弾性繊維用処理剤が付着した弾性繊維とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる弾性繊維用処理剤は、ベース成分と微分散された高級脂肪酸金属塩とを含む弾性繊維用処理剤であって、前記ベース成分が、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれた少なくとも1種の低粘度成分と、シリコーンレジンを必須成分とする変性シリコーンとを含み、低粘度成分と変性シリコーンとの重量割合(低粘度成分/変性シリコーン)が100/0.005〜100/7であり、前記高級脂肪酸金属塩の重量割合が前記ベース成分100重量部に対して0.05〜7重量部である。
【0007】
本発明にかかる弾性繊維は、弾性繊維本体と、これに付着した上記弾性繊維用処理剤とから構成される弾性繊維であって、弾性繊維用処理剤の付着割合が前記弾性繊維に対して0.1〜15重量%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の弾性繊維用処理剤は、得られる弾性繊維に安定した制電性と、良好な解舒性および平滑性とを付与するとともに、高級脂肪酸金属塩の分散状態が長期間にわたって良好な弾性繊維用処理剤である。
【0009】
本発明の弾性繊維は、上記弾性繊維用処理剤が付着しているので、安定した制電性と、良好な解舒性および平滑性とを有する。また、本発明の弾性繊維用処理剤に含まれる高級脂肪酸金属塩の分散状態が長期間にわたって良好であるので、弾性繊維の製造時に高級脂肪酸金属塩の凝集に起因するオイリングローラーの汚れがひどくなったり、清掃回数が増えるといった問題等が回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の弾性繊維用処理剤は、ベース成分と微分散された高級脂肪酸金属塩とを含む弾性繊維用処理剤である。
本発明の弾性繊維用処理剤の粘度は、弾性繊維用処理剤の揮発性と弾性繊維本体に付着させた場合の表面濡れ性とバランスを保つという観点からは、30℃における粘度が、好ましくは3〜100mm/s、さらに好ましくは5〜50mm/sである。粘度がこの範囲外であると、処理剤の付着性、平滑性、解舒性等が十分に発揮されないこともある。
【0011】
〔ベース成分〕
本発明の弾性繊維用処理剤を構成するベース成分は、低粘度成分と変性シリコーンとを含み、原料である弾性繊維本体に付着することによって、摩擦を低減させる成分である。
低粘度成分と変性シリコーンとの重量割合(低粘度成分/変性シリコーン)は、100/0.005〜100/7であり、好ましくは100/0.05〜100/3であり、さらに好ましくは100/0.1〜100/1である。低粘度成分と変性シリコーンとの重量割合が上記範囲にあると、高級脂肪酸金属塩の分散安定性が良好である。
【0012】
<低粘度成分>
低粘度成分は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれた少なくとも1種からなる成分である。
【0013】
シリコーンオイルとしては特に限定はないが、たとえば、ポリジメチルシロキサン、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン(いずれのシリコーンオイルも25℃における粘度:2〜100mm/s)等を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。これらのシリコーンオイルのうちでも、処理剤のオイリング時に扱いやすく、粘度が高すぎると糸がローラーに取られて切れてしまう等の理由から、弾性繊維用処理剤の30℃における粘度が、好ましくは3〜100mm/s、さらに好ましくは5〜50mm/sに調整することができるようなシリコーンオイルを選択することが好ましい。
【0014】
鉱物油としては特に限定はないが、たとえば、粘度が30〜150秒、好ましくは60〜100秒のスピンドル油や流動パラフィン等を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。鉱物油の粘度が30秒よりも低いと、得られる弾性繊維の品質が低下することがある。一方、鉱物油の粘度が150秒超であると、弾性繊維用処理剤全体の粘度が高くなり、得られる弾性繊維がローラーに取られ、糸が切れてしまうことがある。
【0015】
エステル油としては特に限定はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを挙げることができる。エステル油としては、たとえば、下記から選ばれる脂肪酸とアルコールとから製造されるエステルを例示できるが、下記脂肪酸やアルコールを原料としないエステルであってもよい。エステル油は、1種または2種以上を併用してもよい。
エステル油の粘度としては、特に限定は無いが、たとえば、30℃における粘度が30〜150秒、好ましくは60〜100秒が好ましい。
【0016】
脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級脂肪酸であってもよく、環状の脂肪酸であってもよく、芳香族環を含有する脂肪酸であっても良い。前記脂肪酸としては、たとえば、カプリル酸、2−エチルヘキシル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセレン酸、アジピン酸、セバチン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0017】
アルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、高級アルコールであっても、環状のアルコールであっても、芳香族環を含有するアルコールであっても良い。前記アルコールとしては、たとえば、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール、ソルビトール、ソルビタン等が挙げられる。
【0018】
低粘度成分は、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれた少なくとも1種からなる成分であれば、特に限定はないが、低粘度の鉱物油およびエステル油は、弾性繊維を膨潤させる場合があり、シリコーンオイルを必須成分とすると好ましい。
シリコーンオイルの含有率については、特に限定はないが、好ましくはベース成分全体の30重量%以上であり、さらに好ましくは50重量%以上である。シリコーンオイルの含有率が30重量%以上であると、平滑性および解舒性の点で有利である。
【0019】
<変性シリコーン>
変性シリコーンは、シリコーンレジンを必須成分とする成分である。変性シリコーンは、アミノ変性シリコーンや、その他の変性シリコーンをさらに含有してもよい。
シリコーンレジンは、3次元架橋構造を有するシリコーンであれば、特に限定はないが、下記に示すシリコーンレジン(1)〜(3)が好ましく、これらのシリコーンレジンを適宜混合して変性シリコーンして用いてもよい。
【0020】
シリコーンレジン(1):3官能性構成単位RSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)を含むTシリコーンレジン(その末端は炭化水素基のほか、シラノール基やアルコキシ基となっていても良い。)
シリコーンレジン(2):1官能性構成単位RSiO1/2(但し、R、RおよびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位SiO4/2と含むMQシリコーンレジン
【0021】
シリコーンレジン(3):1官能性構成単位RSiO1/2(但し、R、RおよびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位SiO4/2と、3官能性構成単位RSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)と含むMQTシリコーンレジン(M/Q/T比率は2〜4/2〜7/2〜7(モル比)が好ましい。)
上記シリコーンレジン(1)および(3)において、3官能性構成単位中のRは炭化水素基であれば特に限定はないが、たとえば、炭素数1〜21のアルキル基や、アルキレン基、フェニル基等を挙げることができる。
【0022】
上記シリコーンレジン(2)および(3)において、1官能性構成単位中のR、RおよびRは、いずれも炭化水素基であれば特に限定はないが、たとえば、炭素数1〜21のアルキル基や、アルキレン基、フェニル基等を挙げることができる。
シリコーンレジンの変性基(R、R、RおよびR)について、その炭素数は2〜8が好ましい。この範囲にあると、高級脂肪酸金属塩の分散安定性が良好である。
【0023】
さらに、これらのシリコーンレジンの中でもシリコーンレジン(2)を用いた場合が、高級脂肪酸金属塩の分散安定性が最も良い。M/Q比率については、特に限定はないが、通常0.5〜1.5(モル比)、好ましくは0.6〜1.0である。
アミノ変性シリコーンは、両末端にアミノ基を有する変性シリコーン、側鎖にアミノ基を有する変性シリコーンのいずれでもよい。アミノ変性シリコーンのアミノ当量は、1000〜10万g/molが好ましい。アミノ変性シリコーンの粘度は、通常、30〜3万mm/s(25℃)である。
【0024】
アミノ変性シリコーンに含まれる有機アミノ基としては、たとえば、N−(2−アミノエチル)−3−イミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−イミノエチル基等の式:−RNHRNH(式中、RおよびRは二価炭化水素基である。)で示される有機アミノ基や、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基等の式:−RNH(式中、Rは二価炭化水素基である。)で示される有機アミノ基等を挙げることができる。
変性シリコーンは、シリコーンレジンとともにアミノ変性シリコーンを含むと、高級脂肪酸金属塩の凝集による、オイリングローラーの汚れが改善され、清掃回数の減少を図ることが出来る。
【0025】
シリコーンレジンとアミノ変性シリコーンとの重量割合(シリコーンレジン/アミノ変性シリコーン)については、特に限定はないが、好ましくは9/1〜4/6であり、さらに好ましくは8/2〜6/4である。シリコーンレジンとアミノ変性シリコーンとの重量割合が上記範囲にあると、高級脂肪酸金属塩の分散安定性が良好である。
その他の変性シリコーンとしては、たとえば、アルキル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、リン酸変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン等を挙げることができる。
【0026】
〔高級脂肪酸金属塩〕
本発明の弾性繊維用処理剤を構成する高級脂肪酸金属塩は、原料である弾性繊維本体に付着することによって、得られる弾性繊維に解舒性および平滑性とを付与する成分である 高級脂肪酸金属塩としては、たとえば、ジラウリン酸カルシウム、ジミリスチン酸バリウム、ジパルミチン酸マグネシウム、ジステアリン酸マグネシウム、ジベヘニン酸亜鉛、トリベヘニン酸アルミニウム、ジステアリン酸カルシウム、トリステアリン酸アルミニウム等の、炭素数12〜22の脂肪酸の2価または3価の金属塩を挙げることができる。高級脂肪酸金属塩は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0027】
高級脂肪酸金属塩の平均粒子径については、特に限定はないが、0.1〜1μmが好ましく、0.2〜0.7μmがさらに好ましい。高級脂肪酸金属塩の平均粒子径が0.1μm未満になると、細かくなりすぎて、解舒成分としての効果が低下することがあり、また、1μm超では、分散安定性が良くないことがある。
高級脂肪酸金属塩の重量割合は、ベース成分100重量部に対して、通常、0.05〜7重量部であり、好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.3〜1.5重量部である。高級脂肪酸金属塩の重量割合が上記範囲にあると、平滑性および膠着防止性が良好である。
【0028】
〔その他の成分〕
本発明の弾性繊維用処理剤は、上記で説明した各成分以外に、つなぎ剤、制電剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の弾性繊維の処理剤として通常用いられる成分を含有していてもよい。
また、本発明の弾性繊維用処理剤は、平滑性、解舒性、制電性の効果を高めるために、有機カルボン酸有機アミン中和物、アミノ変性シリコーンの有機リン酸エステル中和物、N,N’−置換脂肪酸ビスアミド、N,N’−置換脂肪酸ジアミド、N−置換脂肪酸アミドが本発明の弾性繊維用処理剤の0.01〜5重量%配合されていても良い。
【0029】
〔弾性繊維用処理剤の製造方法〕
本発明の弾性繊維用処理剤を製造する方法については、特に限定はなく、公知の方法を適用することができる。弾性繊維用処理剤は、弾性繊維用処理剤を構成する上記の各成分を任意の順番で添加混合することによって製造される。
平均粒子径が0.1〜1μmである高級脂肪酸金属塩を含む弾性繊維用処理剤は、既に平均粒子径0.1〜1μmに粉砕された高級脂肪酸金属塩をベース成分に混合して製造しても良く、また、ベース成分に高級脂肪酸金属塩を混合し、縦型ビーズミル、横型ビーズミル、コロイドミル、ダイノーミル、サンドグラインダー等の従来公知の湿式粉砕機を用いて、平均粒子径が0.1〜1μm、最大粒子径5μm以下好ましくは2μmになるように粉砕して、製造しても良い。
【0030】
〔弾性繊維〕
本発明の弾性繊維は、弾性繊維本体と、これに付着した上述の弾性繊維用処理剤とから構成される弾性繊維である。
弾性繊維本体および弾性繊維は、いずれも、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンウレアエラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエチレンエラストマー等から構成される繊維であり、その伸度は通常300%以上である。
【0031】
本発明の弾性繊維における弾性繊維用処理剤の付着割合は、付着させることによって得られる効果と経済性とのバランスから、0.1〜15重量%であり、好ましくは1〜10重量%である。
本発明の弾性繊維本体は、たとえば、ポリウレタンウレア弾性繊維は、分子量1000〜3000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを用意し、PTMG/MDI=1/2〜1/1.5(モル比)でジメチルアセトアミドやジメチルホルムアミド等の溶媒中で反応させ、エチレンジアミン、プロパンジアミン等のジアミンで鎖延長して得られるポリウレタンウレアポリマーの20〜40%溶液を乾式紡糸で、紡糸速度400〜800m/minで紡糸することにより製造できる。弾性繊維本体の適応繊度は特に制限はない。
【0032】
本発明の弾性繊維の用途として、CSY、シングルカバリング、PLY、エアーカバリング等のカバリング糸等の加工糸や、丸編み、トリコット等により、布帛として使用することができる。また、これらの加工糸、布帛を使用してストッキング、靴下、下着、水着等の伸縮性が必要とされる製品や、ジーンズ、スーツなどのアウターウェア等に快適性のために伸縮性を付与させる目的でも使用される。さらに最近では、紙おむつにも適用される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)および部は、特に限定しない限り、「重量%」および「重量部」を示す。実施例における、各特性の評価は次の方法に従って行った。
【0034】
〔特性評価法〕
粘度:
キャノンフェンスケ粘度計を用い、30℃における試料液の動粘度を求めた。
【0035】
ローラー静電気:
図1において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(1)をセットし、50m/分の周速で回転させ、チーズ上2cmのところにおいて、春日式電位差測定装置(2)で、回転を始めて1時間後の発生静電気を測定する。
【0036】
編成張力:
図2において、チーズ(3)から縦取りした弾性糸(4)をコンペンセーター(5)を経てローラー(6)、編み針3本(ニッケルとクロムの合金製)(7)を介して、Uゲージ(8)に付したローラー(9)を経て速度計(10)、巻き取りローラー(11)に連結する。速度計(10)での走行速度が定速(例えば、10m/分、100m/分)になるように巻き取りローラーの回転速度を調整して、巻き取りローラーに巻き取り、そのときの編成張力をUゲージ(8)で測定し、対金属摩擦(g)を計測する。走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で発生静電気を測定する。
静電気発生量:
【0037】
上記で、対金属摩擦を測定する際に、走行糸条より1cmのところで春日式電位差測定装置(12)で発生静電気を測定する。
【0038】
繊維間摩擦係数F/Fμs:
図3において、処理剤が付与された弾性繊維のモノフィラメントを50〜60cm程取り、一方の端に荷重T1(13)を吊り、ローラー(14)を介して、Uゲージ(15)にもう一方の端を掛けて定速(例えば、3cm/分)で引っ張り、そのときの2次張力T2をUゲージ(15)で測定し、下記に示す計算式(1)により、繊維間摩擦係数を求める。
【0039】
摩擦係数F/Fμs=1/θ・ln(T2/T1) (1)
(但し、計算式(1)において、θ=2π、ln=自然対数、T1は22dtex当り1gである。)
F/Fμsが0.16を下回るとチーズに巻き崩れが生じる場合がある。
【0040】
解舒速度比:
図4において、解舒速度比測定機の解舒側に処理剤を付与した繊維のチーズ(16)をセットし、巻き取り側に紙管(17)をセットする。巻き取り速度を一定速度にセットした後、ローラー(18)及び(19)を同時に起動させる。この状態では糸(20)に張力はほとんどかからないため、糸はチーズ上で膠着して離れないので、解舒点(21)は図4に示す状態にある。解舒速度を変えることによって、チーズからの糸(20)の解舒点(21)が変わるので、この点がチーズとローラーとの接点(22)と一致するように解舒速度を設定する。解舒速度比は計算式(2)によって求める。この値が小さいほど、解舒性が良いことを示す。
【0041】
解舒速度比(%)=(巻取速度−解舒速度)÷解舒速度×100 (2)
【0042】
沈降安定性:
直径2cm、高さ15cmの試験管にふたをして、1ヵ月後の高級脂肪酸の分離を判定し、1ヵ月後に分離を生じていないものを○とした。また、上層に透明部分が生じたものを×とした。
【0043】
高級脂肪酸金属塩の平均粒子径:
粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−910)で、バッチセルを使用して屈折率を1.02に設定して、平均粒子径と最大粒子径を測定した。
ポリウレタン紡糸原液および高級脂肪酸金属塩の分散液(分散液A〜D)を下記のようにして予め調製した。
【0044】
〔ポリウレタン紡糸原液の調製〕
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートをモル比率1:2で反応させ、次いで1,2−ジアミノプロパンのジメチルホルムアミド溶液を用いて鎖延長し、ポリマー濃度27%のジメチルホルムアミド溶液を得た。30℃での粘度は1600mPaSであった。
【0045】
〔分散液Aの調製〕
ジメチルシリコーンオイル(10mm2/S、温度25℃)96.7重量部、ジステアリン酸マグネシウム 3.0重量部、MQシリコーンレジン0.3重量部を混合し、横型ビーズミルを用いてジステアリン酸マグネシウムの平均粒子径が0.5μm、最大粒子径2μmになるまで粉砕して、分散液Aを調製した。
MQ:M/Q比率が7/10のシリコーンレジン(MのR、RおよびRはメチル基)。
【0046】
〔分散液Bの調製〕
ジメチルシリコーンオイル(20mm/S、温度25℃)91.0重量部、ジパルミチン酸マグネシウム 6.0重量部、MQTシリコーンレジン2.0重量部、アミノ変性シリコーン(TSF−4700)1.0重量部を混合し、横型ビーズミルを用いてジステアリン酸マグネシウムの平均粒子径が0.3μm、最大粒子径3μmになるまで粉砕して、分散液Bを調製した。
MQT:M/Q/T比率が2/5/3のシリコーンレジンで、T単位は炭素数6のアルキル基を有する。MのR、RおよびRはメチル基、一部末端はシラノール基を有する。
【0047】
〔分散液Cの調製〕
ジメチルシリコーンオイル(20mm2/S、温度25℃)45.0重量部、流動パラフィン(60秒)40.0重量部、ジステアリン酸カルシウム10.0重量部、Tシリコーンレジン5.0重量部を混合し、横型ビーズミルを用いてジステアリン酸マグネシウムの平均粒子径が0.7μm、最大粒子径2.5μmになるまで粉砕して、分散液Cを調製した。
:アルキル基としてイゾプロピル基を有するT単位からなるシリコーンレジンで、イソプロピル基以外の末端はシラノール基を有する。
【0048】
〔分散液Dの調製〕(比較例)
ジメチルシリコーンオイル(20mm2/S、温度25℃)94.3重量部、トリステアリン酸アルミニウム5.0重量部、アミノ変性シリコーン(TSF−4700)0.7重量部を混合し、横型ビーズミルを用いてトリステアリン酸アルミニウムの平均粒子径が0.7μm、最大粒子径2.1μmになるまで粉砕して、分散液Dを調製した。
【0049】
(実施例1〜5および比較例1〜3)
ポリウレタン紡糸原液を240℃の窒素気流中に吐出し、乾式紡糸した。紡糸中の走行糸(弾性繊維本体)に、表1に記載の弾性繊維用処理剤(表中の配合量は重量部で表示)、それぞれ弾性繊維本体に対して6重量%付着させた後、毎分500mの速度でボビンに巻き取り、155dtexマルチフィラメントチーズ(巻き量500g)を得た。得られたチーズを35℃、50%RHの雰囲気中に48時間放置し、次いで、20℃、45%RHの雰囲気中に48時間放置して評価に供した。これらの結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
EHS:ステアリン酸2−エチルヘキシル
ポリエーテル変性シリコーン:TSF−4460(東芝シリコーン製)
粘度:200mm/s、EO/PO=0/100(モル比)
アミノ変性シリコーン:TSF−4700(東芝シリコーン製)
粘度:50mm/s、アミノ当量:3000g/mol
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】 ローラー静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図2】 編成張力の測定方法及び静電気発生量の測定方法を説明する模式図。
【図3】 繊維間摩擦係数の測定方法を説明する模式図。
【図4】 解舒速度比の測定方法を説明する模式図。
【符号の説明】
【0053】
1 弾性繊維のチーズ
2 春日式電位差測定装置
3 弾性繊維のチーズ
4 糸
5 コンペンセーター
6 ローラー
7 編み針
8 Uゲージ
9 ローラー
10 速度計
11 巻き取りローラー
12 春日式電位差測定装置
13 荷重
14 ローラー
15 Uゲージ
16 チーズ
17 巻き取り用紙管
18 ローラー
19 ローラー
20 走行糸条
21 解舒点
22 チーズとローラーの接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース成分と微分散された高級脂肪酸金属塩とを含む弾性繊維用処理剤であって、
前記ベース成分が、シリコーンオイル、鉱物油およびエステル油から選ばれた少なくとも1種の低粘度成分と、シリコーンレジンを必須成分とする変性シリコーンとを含み、
低粘度成分と変性シリコーンとの重量割合(低粘度成分/変性シリコーン)が100/0.005〜100/7であり、
前記高級脂肪酸金属塩の重量割合が前記ベース成分100重量部に対して0.05〜7重量部である、
弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
前記高級脂肪酸金属塩の平均粒子径が0.1〜1μmである、請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記シリコーンレジンが、3官能性構成単位RSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)を含むTシリコーンレジンである、請求項1または2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記シリコーンレジンが、1官能性構成単位RSiO1/2(但し、R、RおよびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位SiO4/2と含むMQシリコーンレジンである、請求項1または2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記シリコーンレジンが、1官能性構成単位RSiO1/2(但し、R、RおよびRはいずれも炭化水素基である。)と、4官能性構成単位SiO4/2と、3官能性構成単位RSiO3/2(但し、Rは炭化水素基である。)と含むMQTシリコーンレジンである、請求項1または2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記変性シリコーンがアミノ変性シリコーンをさらに含み、シリコーンレジンとアミノ変性シリコーンとの重量割合(シリコーンレジン/アミノ変性シリコーン)が9/1〜4/6である、請求項1〜5のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
弾性繊維本体と、これに付着した弾性繊維用処理剤とから構成される弾性繊維であって、
前記弾性繊維用処理剤が、請求項1〜6のいずれかに記載の弾性繊維用処理剤であり、その付着割合が前記弾性繊維の0.1〜15重量%である、
弾性繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−7921(P2008−7921A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205350(P2006−205350)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】