説明

形彫放電加工装置

【課題】ブースタ電源装置の投入直後に電流の大幅な低下と極間電圧の瞬間的な落ち込みが発生する。
【解決手段】加工電源装置1は、主電源装置5とブースタ電源装置6を有する。加工制御装置2は、加工条件に基づいて主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的にオンオフ制御して放電電流を加工間隙に供給する。加工制御装置2は、主電源装置5が供給可能な最大電流値の電流を供給するときは、主電源装置5から放電電流を供給している状態でブースタ電源装置6のスイッチング素子TR32を選択的にオンしてからブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり特性に依存して発生する誤差電流を主電源装置6から供給される電流で補充するように主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的にオンオフ制御し、ステップ状に電流を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置に関する。特に、ブースタ電源装置によって放電電流を増幅するときに主電源装置とブースタ電源装置の切換えを制御する加工制御装置を備えた形彫放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
形彫放電加工は、工具電極と被加工物とを対向配置して工具電極と被加工物とで形成される加工間隙に所定の周波数で電圧パルスを印加して繰返し火花放電を発生させ、放電エネルギによって被加工物から材料を除去して所望の加工形状を加工する金属加工方法として知られている。
【0003】
放電一発毎の放電エネルギは、放電が発生したときに工具電極と被加工物との両極間を流れる放電電流に依存するので、放電電流パルスの電流が大きいほど放電一発当たりの取り量が多くなる。また、放電一発当たりの取り量が大きいほど放電痕が大きくなるので、加工面粗さが粗くなる。したがって、加工時間を可能な限り短くするためには、要求される加工面粗さが得られる範囲内でより大きい電流値の放電電流パルスが加工間隙に供給される。
【0004】
各加工工程で目標となる加工形状に対して反転した形状を有する、いわゆる総型の工具電極で加工する場合、加工面積に対応するサイズの工具電極が使用される。比較的大きい工具電極で形彫放電加工を実施する場合は、未加工の被加工物から大まかに材料を除去する荒加工工程から加工面粗さを小さくしていく面出しの仕上げ加工工程までの各加工工程の間で取り量の差が大きいため、加工電源装置は、数百mAの小さな電流値から数百A程度の大きな電流値までの放電電流パルスを加工間隙に供給できることが要求される。
【0005】
加工電源装置が、実質的に1つの放電回路で加工間隙に放電電流を供給する単一の電源装置によって加工する構成である場合、電流値に大きな差がある放電電流パルスを同一の放電回路で供給することになるため、小さい放電電流で加工するときに、放電回路の回路要素の影響によって予定されている波形と電流値の放電電流パルスを安定して供給することができなくなることがある。また、大電流に耐える放電回路が設けられるため、全体的にエネルギの損失が大きくなる。
【0006】
このようなことから、大きな工具電極を使用する加工ができる形彫放電加工装置は、一般的に供給可能な最大電流値が数十Aである主電源装置に主電源装置で不足する電流を補うブースタ電源装置が並設されている。ブースタ電源装置は、要求される最大電流値に対応する数だけ設けられる。ブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置は、比較的小さい加工形状を加工する小型の形彫放電加工装置に搭載される電源装置にブースタ電源装置を増設するだけで供給可能な最大電流値を増大することができるので、設計上および製造上でも有利である。
【0007】
主電源装置とブースタ電源装置とは、保護回路の保護抵抗のように放電回路におけるいくつかの回路要素の定数に関係する差異を除いて基本的に同一の構成である。そのため、ブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置の構成を明確に示す特許文献が確認されないが、複数の電源装置が並設された加工電源装置の構成としては、例えば、特許文献1に開示される放電加工装置が参照される。
【0008】
ところで、ブースタ電源装置を有する加工電源装置において、適応制御によって主電源装置が供給可能な最大電流値を超えて放電電流を増大させる場合、あるいは特許文献2に開示されるようなステップ状に電流を増大させて緩やかな立上がりの放電電流パルスを上記最大電流値よりも大きいピーク電流値で供給する場合は、加工間隙に放電電流が供給されている間に放電電流が上記最大電流値を超えるときに主電源装置を遮断すると同時にブースタ電源装置を投入する必要がある。
【0009】
例えば、図3に示されるように、立上がりが滑らかな放電電流パルスを供給する場合、主電源装置の複数のスイッチング回路を選択的に時間をずらして導通しステップ状に電流を増大させていき、上記最大電流値を供給しようとするときに、図3Aに示されるように主電源装置を遮断すると同時に図3Bに示されるようにブースタ電源装置を投入する。このとき、図3Aおよび図3Bの波形は、スイッチング回路の導通状態を加工条件のパラメータ値IPのレベルに例えて階段状に示すものであり、実際に加工間隙を流れる放電電流の波形は、図3Dに示される。また、極間電圧は図3Cに示され、極間電圧の検出信号は図3Eに示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−123618号公報
【特許文献2】特公平4−50122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
放電電流が加工間隙に流れている間に主電源装置とブースタ電源装置が切り換わるとき、大電流を出力するブースタ電源装置の特性によってブースタ電源装置から供給される電流の立上がりに時間がかかるため、主電源装置が遮断されると同時にブースタ電源装置が投入された直後の短い期間中に電流の大幅な低下が発生する。放電電流の低下と振動によって放電電流パルスが途切れたような状態になって所望の波形の放電電流パルスを得ることができなくなる。そのため、工具電極が異常に消耗したり、加工速度が低下したりして、加工結果に重大な影響を及ぼす。
【0012】
また、主電源装置の複数のスイッチング素子がオフして出力電圧が遮断されるときに逆起電力が発生するため、加工間隙における極間電圧に瞬間的な落ち込みが生じる。そのため、極間電圧を検出する検出装置が極間電圧を誤認して、突発的な振幅の大きい変動を含む振動的で不正な検出信号を出力する。その結果、加工の状況に対応して加工条件を変更設定する適応制御を正確に行なうことができなくなり、加工結果に重大な影響を及ぼす。
【0013】
本発明は、ブースタ電源装置から電流を供給するときに生じる極間電圧の急激な降下および放電電流の大幅な低下を小さく抑えることができるブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置を提供することを目的とする。その他の本発明の有利な点は、具体的な実施の形態を開示するときに、その都度詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の形彫放電加工装置は、上記課題を解決するために、主電源装置(5)とブースタ電源装置(6)を有する加工電源装置(1)を備えた形彫放電加工装置において、主電源装置(5)の複数のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御して放電電流を加工間隙に供給するとともに主電源装置(5)が供給可能な最大電流値(imax)以上の電流を供給するときは主電源装置(5)から放電電流を供給している状態でブースタ電源装置(6)の複数のスイッチング素子(TR32)を選択的にオンしてからブースタ電源装置(6)から供給される電流の立上がり特性に依存して発生する誤差電流を主電源装置(6)から供給される電流で補充するように主電源装置(5)のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御する加工制御装置(2)を備えるようにする。
【0015】
上記形彫放電加工装置は、具体的に、加工制御装置(2)が、主電源装置(5)から供給される電流にブースタ電源装置(6)から供給される電流を重畳するときの電流値の和が所望の放電電流パルスの波形に適合する所要のピーク電流値になるように主電源装置(5)から供給されている電流をステップ状に減少させるように主電源装置(5)のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御するようにする。
【0016】
また、本発明の形彫放電加工装置は、加工条件に基づいて主電源装置(5)の複数のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御して所定の第1の時間(ta)毎に単位電流値(ia)ずつ電流を上昇させて立上がりが滑らかな放電電流パルスを供給するとともに主電源装置(5)が供給可能な最大電流値(imax)以上の電流を供給するときは主電源装置(5)から最大電流値(imax)に対して単位電流値(ia)低い電流を供給したときから第1の時間(ta)後にブースタ電源装置(5)の複数のスイッチング素子(TR32)を選択的にオンし所定の第2の時間(tb)後に最大電流値(imax)に対して所定の第1の電流低減値(ib)だけ低いブースタ電源装置(6)から供給される電流の立上がり特性に依存して発生する誤差電流値(ie)に相当する電流が供給されるように主電源装置(5)から供給される電流を減少させ次いでブースタ電源装置(6)から供給される電流の立上がり時間(td)経過するまで第3の時間(tc)毎に所定の第2の電流低減値(ic)ずつ主電源装置(5)から供給される電流をステップ状に減少させて誤差電流を主電源装置(5)から供給される電流で補充すると同時に単位電流値(ia)ずつ電流を上昇させるように主電源装置(5)のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御する加工制御装置(2)を備えるようにする。
【0017】
上記形彫放電加工装置は、加工制御装置(2)が、ブースタ電源装置(6)から供給される電流の立上がり時間(td)後に放電電流が加工条件に従うピーク電流値(ipeak)に到達するまで第1の時間(ta)毎に単位電流値(ia)ずつ電流を上昇させるように主電源装置(5)のスイッチング素子(TR1−TR16)を選択的にオンオフ制御するようにされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の形彫放電加工装置は、ブースタ電源装置を投入するときにブースタ電源装置から供給される電流の立上がり期間における電流の低下を主電源装置の電流によって補充するので、放電電流パルスにおける電流の大幅な低下がなく、所望の波形の放電電流パルスを得ることができる。その結果、所期の加工結果を得ることができる。また、主電源装置を遮断することなくブースタ電源装置を投入することが可能になるので、逆起電圧による極間電圧の瞬間的な降下がなく、検出装置が正しい検出信号を出力することができる。その結果、ブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置で適応制御を正確に行なうことができるようになり、優れた加工結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の形彫放電加工装置に設けられる加工電源装置と加工制御装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明の形彫放電加工装置におけるスイッチング回路の導通状態と極間電圧および放電電流パルスの波形を示すタイミングチャートである。
【図3】従来の形彫放電加工装置におけるスイッチング回路の導通状態と極間電圧および放電電流パルスと極間電圧の検出信号の波形を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、加工電源装置と加工制御装置の全体構成が示される。形彫放電加工装置は、図示しない駆動装置を含む機械本機と電源制御装置と加工液供給装置とを備える。電源制御装置は、数値制御装置と駆動制御装置と加工制御装置と加工電源装置とを含んでなる。加工電源装置1は、加工制御装置2によって操作される。工具電極3と被加工物4は、機械本機側に取り付けられる。加工電源装置1は、工具電極3と被加工物4とで形成される加工間隙に間歇的に電圧パルスを印加して加工間隙に繰返し放電電流パルスを供給する。
【0021】
加工電源装置1は、主電源装置5とブースタ電源装置6を有する。ブースタ電源装置6は、主電源装置5が供給可能な最大電流値を超える電流を増補する。ブースタ電源装置6は、要求される最大電流値に対応して複数増設することができる。ブースタ電源装置6は、主電源装置5に並列に設けられ、工具電極3と被加工物4との極間に直列に接続される。したがって、主電源装置5を含む主加工用の放電回路とブースタ電源装置6を含む電流増大用の放電回路は、工具電極3と被加工物4とを含む極間のみを共有し、実質的に独立して形成される。
【0022】
実施の形態の形彫放電加工装置においては、主電源装置5から供給される放電電流だけで加工するときは、リレースイッチ7のような機械スイッチによってブースタ電源装置6を主電源装置から完全に切り離すようにされる。そのため、主電源回路5から供給される放電電流がブースタ電源装置6を含む電流増大用の放電回路の影響を受けず、特に比較的小さい放電電流を供給して加工するときに、望ましい波形の放電電流パルスが安定して供給される点で有利である。
【0023】
主加工用の放電回路は、主電源装置5と極性切換装置51と極間線52と加工間隙に形成される工具電極3と被加工物4との極間を含んでなる。主電源装置5と極性切換装置51は、電源制御装置側に設けられる。電源制御装置側と機械本機側とは、同軸ケーブルのような出力ケーブル53で接続される。主電源装置5と極性切換装置51との間に所定の抵抗値を有する保護抵抗を含む保護回路54が設けられる。
【0024】
電流増大用の放電回路は、ブースタ電源装置6と極性切換装置61と極間線62と極間を含んでなる。ブースタ電源装置6と極性切換装置61は、電源制御装置側に設けられる。電源制御装置側と機械本機側とは、出力ケーブル63で接続される。ブースタ電源装置6と極性切換装置61との間に所定の抵抗値を有する保護抵抗器を含む保護回路64が設けられる。
【0025】
主電源装置5は、複数の電源ユニットでなる。複数の電源ユニットは、それぞれ直流電源PSと、直流電源PSに直列かつ互いに並列に接続される複数のスイッチング回路SCと、複数のスイッチング回路SCと極間との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードDRと、を含んでなる。
【0026】
実施の形態における主電源装置5は、3つの電源ユニットを有する。第1の電源ユニット10と第2の電源ユニット20は、各スイッチング回路SC1−SC16にピーク電流値を規定する電流制限抵抗を含まず、各スイッチング素子TR1−TR16を検出電流に応動させることによって各スイッチング回路SC1−SC16に与えられる規定電流値で定められるピーク電流値の電流を供給する。第3の電源ユニット30は、各スイッチング回路SC0.5R−SC8Rがスイッチング素子TR0.5R−TR8Rとピーク電流値を規定する電流制限抵抗RS0.5−RS8との直列回路からなる。
【0027】
第1の電源ユニット10は、60V〜120Vの可変直流電源PS1と、直流電源PS1と極間との間に直列に設けられる複数のスイッチング回路SC1−SC8と、スイッチング回路SC1−SC8と極間との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードDR1とを含んでなる。スイッチング回路SC1−SC8は、互いに並列に接続される。複数のスイッチング回路SC1−SC8は、直流電源PS1に直列に接続されるスイッチング素子TR1−TR8と図示しない検出抵抗とを含む。
【0028】
第2の電源ユニット20は、基本的に第1の電源ユニット10と同じ構成である。第2の電源ユニット10は、第1の電源ユニット10と共通の直流電源PS1と、直流電源PS1と極間との間に直列に設けられる複数のスイッチング回路SC16と、スイッチング回路SC16と極間との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードDR2とを含んでなる。複数のスイッチング回路SC16は、互いに並列に接続される。スイッチング回路SC16は、直流電源PS1に直列に接続されるスイッチング素子TR16と図示しない検出抵抗とを含む。
【0029】
複数のスイッチング素子TR1−TR16は、バイナリカウント方式で選択的に同期してオンオフ制御される。第1の電源ユニット10は、各スイッチング回路SC1−SC8の組合せで加工条件のパラメータ値でIP1からIP16までの電流を供給することができる。第2の電源ユニット20は、基本的には、複数のスイッチング回路SC16を導通させてIP16の電流を供給する。したがって、第1の電源ユニット10と第2の電源ユニット20は、各スイッチング回路SC1−SC16の組合せでパラメータ値IP1の単位でIP1からIP32までの電流を供給することができる。
【0030】
第3の電源ユニット30は、比較的小さい放電電流による加工に適用される。第3の電源ユニット30は、60V〜200Vの可変直流電源PS2と、直流電源PS2と極間との間に直列かつ互いに並列に設けられる複数のスイッチング回路SC0.5R−SC8Rと、スイッチング回路SC0.5R−SC8Rと極間との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードDR3とを含んでなる。スイッチング回路SC0.5R−SC8Rは、スイッチング素子TR0.5R−TR8Rとピーク電流値を規定して一定の電流を供給するための所定の抵抗値を有する電流制限抵抗RS0.5−RS8との直列回路でなる。
【0031】
複数のスイッチング素子TR0.5R−TR8Rは、バイナリカウント方式で選択的に同期してオンオフ制御される。第3の電源ユニット30は、スイッチング回路SC0.5Rからパラメータ値IP0.5の電流を供給することができる。また、スイッチング回路SC1R−SC8Rの組合せでパラメータ値IP1の単位でIP1からIP16までの電流を供給することができる。
【0032】
主電源装置5には、上記電源ユニット以外に付属の放電回路を形成する電源ユニットを増設することができる。または、付属の放電回路を上記電源ユニットの回路中に組み込んで設けることができる。例えば、270Vの高圧直流電源とスイッチング素子と電流制限抵抗との直列回路でなる高圧重畳回路が設けられる。
【0033】
ブースタ電源装置6は、主電源装置5と工具電極3と被加工物4を含む極間だけを共有し実質的に独立して並設される。ブースタ電源装置6は、60V〜120Vの可変直流電源PS3と、直流電源PS3と極間との間に直列に設けられる複数のスイッチング回路SC32と、スイッチング回路SC32と極間との間に直列に設けられる逆流阻止ダイオードDR4とを含んでなる。各スイッチング回路SC32は、互いに並列に接続される。各スイッチング回路SC32は、それぞれ直流電源PS3に直列に接続されるスイッチング素子TR32と図示しない検出抵抗とを含む。
【0034】
複数のスイッチング素子TR32は、バイナリカウント方式で選択的に同期してオンオフ制御される。ブースタ電源装置6は、基本的には、複数のスイッチング素子TR32を同時にオンさせて複数のスイッチング回路SC32を導通させ、パラメータ値IP32の電流を供給することによって主電源装置5の第1の電源ユニット10と第2の電源ユニット20の出力電流を増補する。
【0035】
検出装置8は、工具電極3と被加工物4とで形成される加工間隙に可能な限り近い位置に設けられる検出回路81を含む。検出回路81は、検出抵抗82を含んでなり、検出抵抗82の両端の電圧を検出装置8に出力する。検出装置8は、検出回路81で得られる極間電圧を入力して加工制御装置2に複数種類の検出信号を出力する。検出装置8は、極間電圧を平滑してデジタル変換し、電圧波形、電圧レベル、あるいは平均加工電圧のデータを検出信号として出力し、または設定基準データと比較して比較信号を検出信号として出力する。
【0036】
加工制御装置2は、設定装置40と、パルス発生装置50と、ゲート回路60を含んでなる。加工制御装置2は、数値制御装置から出力される加工条件のデータを設定装置40にセットする。パルス発生装置50は、設定装置40にセットされている加工条件のデータに対応する指令信号をゲート回路60に出力する。ゲート回路60は、パルス発生装置50から出力される指令信号に基づいて主電源装置5とブースタ電源装置6の各スイッチング素子TRにそれぞれにゲート信号を出力する。
【0037】
ゲート回路60は、電流制限抵抗を含まない主電源装置5の第1の電源ユニット10と第2の電源ユニット20およびブースタ電源装置6にある各スイッチング回路SC1−SC32において図示しない検出抵抗を通して検出される電圧と各スイッチング回路SC1−SC32にそれぞれ与えられる規定電流値に従う基準電圧との比較信号を入力して、パルス発生装置50から出力される指令信号と比較信号との論理積によってスイッチング素子TR1−TR32を高速にオンオフさせ、各スイッチング回路SC1−SC32からそれぞれ規定電流値で定められたピーク電流値の電流を供給させる。
【0038】
加工制御装置2は、数値制御装置から出力される設定された加工条件のデータに基づいて主電源装置5における第1の電源ユニット10ないし第3の電源ユニット30にある複数のスイッチング回路SCにそれぞれ設けられるスイッチング素子TRをバイナリカウント方式で選択的に同期してオンオフ制御し、加工条件に従う放電電流を加工間隙に供給する。
【0039】
加工制御装置2は、検出装置8から出力される放電の発生を示す検出信号に対応して各スイッチング素子TRをオンオフさせ、放電電流パルスのパルス幅が設定された加工条件のオン時間に従って一定になるようにする。また、加工制御装置2は、検出装置8から出力される加工状態を示す検出信号に応答して加工条件に従う放電電流のピーク電流値を変更し、または放電電流の供給を中断する。または、加工制御装置2は、検出装置8から出力される極間電圧の電圧レベルを示す検出信号に応動して適応制御における基準値を変更設定する。
【0040】
加工制御装置2は、主電源装置5とブースタ電源装置6の可変直流電源PSの切換え、極性切換装置51または極性切換装置61の極性の切換え、リレースイッチ7の開閉によるブースタ電源装置6の入切、あるいは図示しない可変抵抗器の切換えやインダクタンス素子の入切のような放電回路中の回路素子または回路装置の操作を行なう。
【0041】
加工制御装置2は、主電源装置5が供給可能な最大電流値以上の放電電流パルスを供給しようとする場合、主電源装置5を遮断せずに主電源装置5から放電電流を供給している状態でブースタ電源装置6の複数のスイッチング素子TR32を選択的にオンする。そして、ブースタ電源装置6を投入してから実際に加工間隙に流れる放電電流が上記最大電流値に達するまでの時間より短い遅延時間後にブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり特性に依存する誤差電流を主電源装置5から供給される電流で補充するように主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的にオンオフ制御する。
【0042】
具体的に、加工制御装置2は、主電源装置5から供給される電流にブースタ電源装置6から供給される電流を重畳するときの実際に加工間隙に流れる電流値の和が所望の放電電流パルスの波形に適合する所要のピーク電流値になるように、主電源装置5から供給されている電流をステップ状に減少させるように主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的にオンオフ制御して放電電流パルスの波形を整える。
【0043】
加工制御装置2は、立上がりが滑らかな放電電流パルスを供給する場合は、加工条件に基づいて主電源装置5の複数のスイッチング素子TR1−TR16を所望の放電電流パルスの立上がり波形に合わせて予め定められた所定の第1の時間毎に時間的にずらして選択的にオンオフ制御し、所望の放電電流パルスの立上がり波形の傾きに合わせて第1の時間毎に単位電流値ずつ電流を上昇させる。
【0044】
主電源装置5が供給可能な最大電流値以上の立上がりの滑らかな放電電流パルスを供給しようとするときは、加工制御装置2は、主電源装置5から上記最大電流値に対して単位電流値低い電流を供給したときから第1の時間後に主電源装置5から放電電流を供給している状態でブースタ電源装置6の複数のスイッチング素子TR32を選択的にオンして上記最大電流値に相当する電流をブースタ電源装置6から供給する。
【0045】
加工制御装置2は、ブースタ電源装置6を投入してから実際に加工間隙に流れる放電電流が上記最大電流値に達するまでの時間よりも短い遅延時間である所定の第2の時間後に上記最大電流値に対して予め設定されている第1の電流低減値だけ低いブースタ電源装置6から供給される立上がり特性に依存して発生する誤差電流値に相当する電流が主電源装置5から供給されるように主電源装置5から供給されている電流を減少させる。
【0046】
次いで、加工制御装置2は、ブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり時間が経過するまでの間、誤差電流値と第1の時間毎に単位電流値ずつ増大させる増分電流値とを重畳した電流の変化の傾きに合わせて予め定められた所定の第3の時間毎に予め設定されている第2の電流低減値ずつ主電源装置5から供給される電流をステップ状に減少させて誤差電流を主電源装置5から供給される電流で補充すると同時に単位電流値ずつ電流を上昇させるように主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的にオンオフ制御する。
【0047】
続いて、加工制御装置2は、ブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり時間後に、主電源装置5から供給されている電流にブースタ電源装置6から供給される電流が重畳された実際に加工間隙に流れる放電電流が加工条件に従うピーク電流値に到達するまで主電源装置5の複数のスイッチング素子TR1−TR16を第1の時間毎に時間的にずらして選択的にオンオフ制御し、所望の放電電流パルスの立上がり波形の傾きに合わせて第1の時間毎に単位電流値ずつ電流を上昇させる。
【0048】
そして、加工制御装置2は、放電電流が加工条件に従うピーク電流値に到達した後に加工条件に従うオン時間に到達するまでピーク電流値を維持して放電電流を供給させ、オン時間に到達した時点で主電源装置5とブースタ電源装置6のスイッチング素子TR1−TR32を全てオフして放電電流の供給を休止し、所望の立上がりが滑らかな放電電流パルスを加工間隙に供給する。
【0049】
図2に、加工条件として主電源装置が供給可能な最大電流値よりも大きい電流値が設定された放電電流パルスの波形が示される。図2Aおよび図2Bの波形は、スイッチング回路の導通状態を加工条件のパラメータ値IPのレベルに例えて階段状に示すものであり、実際に加工間隙を流れる放電電流の波形は、図2Dに示される。また、極間電圧は、図2Cに示される。以下に、立上がりが滑らかで主電源装置が供給可能な最大電流値を超えるピーク電流値の放電電流パルスを供給するときの加工制御装置2および主電源装置5とブースタ電源装置6の動作を具体的に説明する。
【0050】
加工制御装置2は、設定装置40に設定されている加工条件に従うオフ時間の後にパルス発生装置50からスイッチング素子のオンオフを指令する指令信号を出力させる。加工制御装置2のゲート回路60は、指令信号に基づいて第1の電源ユニット10におけるスイッチング回路SC1のスイッチング素子TR1にゲート信号を出力してスイッチング素子TR1をオンさせ、スイッチング回路SC1を導通状態にする。
【0051】
スイッチング回路SC1が導通状態になると、図2Cに示されるように、加工間隙に直流電源PS1の電圧が印加されて極間電圧が直流電源PS1の電圧まで立ち上がる。加工間隙に電圧が印加されてから不規則な無負荷時間twの後に工具電極3と被加工物4との両極間に放電が発生して、スイッチング回路SC1を通して極間に電流が流れ始める。極間に放電電流が流れると極間電圧は降下して一定の放電電圧に到達する。極間電圧が基準電圧以下に降下すると、検出装置8は、放電の発生を示す検出信号をパルス発生装置50に出力する。
【0052】
パルス発生装置50は、設定装置40に設定されている加工条件に従うオン時間tonのカウントを開始する。スイッチング素子TR1は、検出されるスイッチング回路SC1の電流に応動して規定電流値に従うピーク電流値が維持されるようにオンオフを繰り返し、スイッチング回路SC1から規定電流値の電流が供給される。その結果、加工電源装置1は、加工間隙に単位電流値iaに相当するパラメータ値IP1の電流を供給する。
【0053】
パルス発生装置50は、放電が発生してから所定の第1の時間ta後に次の指令信号を出力する。ゲート回路60は、指令信号に従ってスイッチング回路SC2のスイッチング素子TR2にゲート信号を出力してスイッチング回路SC2を導通状態にするとともにスイッチング素子TR1のゲート信号の出力を停止してスイッチング回路SC1を非導通にする。
【0054】
スイッチング素子TR2は、検出されるスイッチング回路SC2の電流に応動して規定電流値に従うピーク電流値が維持されるようにオンオフを繰り返し、スイッチング回路SC2から規定電流値の電流が供給される。その結果、加工電源装置1は、加工間隙にパラメータ値IP2の電流を供給する。
【0055】
パルス発生装置50は、スイッチング回路SC2が導通状態にされてから第1の時間ta後に次の指令信号を出力する。ゲート回路60は、指令信号に従ってスイッチング回路SC1のスイッチング素子TR1にゲート信号を出力してスイッチング回路SC1を導通状態にするとともにスイッチング素子TR2のゲート信号を出力したままにしてスイッチング回路SC2を導通状態にする。
【0056】
スイッチング回路SC1とスイッチング回路SC2が共に導通状態にあるため、スイッチング回路SC1とスイッチング回路SC2からそれぞれ規定電流値の電流が供給される。スイッチング回路SC1は、単位電流値iaに相当するパラメータ値IP1の電流を供給する。スイッチング回路SC2は、単位電流値iaの2倍の電流値に相当するパラメータ値IP2の電流を供給する。その結果、加工電源装置1は、加工間隙に単位電流値iaの3倍の電流値に相当するパラメータ値IP3の電流を供給する。
【0057】
第1の時間taと単位電流値iaは、所望の放電電流パルスの立上がり波形の傾きに対応して決定される。ただし、単位電流値iaは、任意の波形をより自在に得るようにするために特別の理由がない限り基本的に主電源装置5が供給可能な最小電流値であるパラメータ値IP1の電流に設定される。したがって、実質的に第1の時間taが放電電流パルスの立上がり波形を決定する。実施の形態では、第1の時間taを2μsにしている。
【0058】
第1の時間taを2μsに設定し、単位電流値iaをパラメータ値IP1の電流に設定した実施の形態におけるパルス発生装置50は、2μs毎に指令信号を出力し主電源装置5の複数のスイッチング素子TR1−TR16をバイナリカウント方式で時間的にずらして選択的に同期してオンオフさせ、導通されるスイッチング回路SC1−SC16の組合せによって加工間隙に供給される放電電流をパラメータ値IP1ずつステップ状に上昇させる。その結果、実際に極間に流れる放電電流は、図2Dに示されるように、緩やかに立ち上がる。
【0059】
主電源装置5が供給可能な最大電流値imax以上の立上がりの滑らかな放電電流パルスを供給しようとするときは、主電源装置5から最大電流値imaxに対して単位電流値ia低い電流を供給したときから第1の時間ta後にパルス発生装置50からゲート回路60を通してブースタ電源装置6の複数のスイッチング素子TR32にゲート信号が出力され、主電源装置5から放電電流を供給している状態でブースタ電源装置6の複数のスイッチング素子TR32を選択的にオンして、最大電流値imaxに相当する電流をブースタ電源装置6から供給する。
【0060】
実施の形態における主電源装置5が供給可能な最大電流値imaxは、パラメータ値IP32の電流である。したがって、図2に示されるように、主電源装置5から2μs毎にパラメータ値IP1ずつ電流をステップ状に増大させて供給し、主電源装置5からパラメータ値IP32に対してパラメータ値IP1だけ低いIP31の電流を供給したときから2μs後に複数のスイッチング素子TR32が全てオンされてブースタ電源装置6が投入され、ブースタ電源装置6から加工間隙にパラメータ値IP32の電流が流れ始める。
【0061】
図2Aに示されるように、パルス発生装置50は、所定の第2の時間tb後に指令信号を出力して主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16をオンオフ制御し、複数のスイッチング回路SC1−SC16を選択的に導通または非導通にして最大電流値imaxに対して予め設定されている所定の第1の電流低減値ibだけ低い電流が主電源装置5から供給されるように主電源装置5から供給される電流を減少させる。
【0062】
ブースタ電源装置6から供給される電流がブースタ電源装置6の規定電流値に従うピーク電流値、具体的には、パラメータ値IP32の電流に立ち上がるまでに十数μs程度の立上がり時間tdを要する。そのため、立上がり時間tdの期間中では、実際に極間に流れる放電電流の電流値は、主電源装置5から供給される電流にブースタ電源装置6の立上がり中の電流を重畳した値になる。したがって、図3Dに示されるように、立上がり時間tdを無視して想定される電流値に対してブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり特性に依存する誤差電流値ieが存在する。
【0063】
このことから、誤差電流値ieを主電源装置5から供給される電流で補充すると実際に加工間隙に流れる放電電流が所要の電流値になると言える。ブースタ電源装置6が投入された時点で要求されるピーク電流値は、最大電流値imaxである。したがって、第1の電流低減値ibは、最大電流値imaxから誤差電流値ieを減算して決定できる。ブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり特性は、主にブースタ電源装置6を含む電流増大用の放電回路の特性と、工具電極3および被加工物4の材質と、加工面積との影響を受けるので、第1の電流低減値ibは、実際の誤差電流値ieに基づいて設定される。
【0064】
また、第2の時間tbは、ブースタ電源装置6から供給される電流が必要十分に立ち上がるまでの時間よりも短い遅延時間である。主電源装置5から最大電流値imaxよりも単位電流値ia低い電流が供給されている状態でブースタ電源装置6が投入されるので、ブースタ電源装置6から供給される電流が単位電流値iaを超えて立ち上がるとき、実際に加工間隙に流れる放電電流が最大電流値imaxよりも大きくなって所望の放電電流パルスの立上がり波形を失うことになる。したがって、第2の時間tbは、正確には、実際に加工間隙に流れる放電電流が最大電流値imaxに達する時間である。
【0065】
実施の形態では、ブースタ電源装置6から供給される電流が流れ始めた直後の誤差電流値ieをパラメータ値IP24相当とし、第1の電流低減値ibをパラメータ値IP8にしている。また、観測したブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり波形から第2の時間tbを1μsにしている。したがって、実施の形態の形彫放電加工装置においては、ブースタ電源装置6を投入してから1μsの遅延時間後に主電源装置5から供給される電流をパラメータ値IP32からIP8を差し引いたパラメータ値IP24の電流が加工間隙に供給されるように主電源装置5が操作される。
【0066】
パルス発生装置50は、主電源装置5から誤差電流値ieに相当する電流を供給するように主電源装置5から供給される電流を減少させてから第3の時間tc後に指令信号を出力して、予め設定されている第2の電流低減値icだけ主電源装置5から供給される電流を減少させるように主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16を選択的に同期してオンオフさせる。
【0067】
その後、ブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり時間td経過するまでの間、第3の時間tc毎に第2の電流低減値icずつ主電源装置5から供給される電流をステップ状に減少させて誤差電流を主電源装置5から供給される電流で補充すると同時に実際に加工間隙に流れる放電電流を第1の時間ta毎に単位電流値iaずつ上昇させるようにする。
【0068】
所定の第1の時間ta毎に単位電流値iaずつ増加させて立上がりが滑らかな所望の放電電流パルスの波形を得ようとするとき、ブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり時間tdの間における任意の時点においては、ブースタ電源装置6から供給される電流だけでは、所望の放電電流パルスの波形における電流に対して誤差電流値ieと第1の時間ta毎に単位電流値iaずつ増大させる増分電流値だけ足りないことがわかる。
【0069】
したがって、第3の時間tcと第2の電流低減値ibは、立上がり時間tdの期間中における誤差電流値ieと増分電流値とを重畳した電流の変化の傾きで決定される。ただし、第2の電流低減値icは、任意の波形をより自在に得るようにするために特別の理由がない限り基本的に主電源装置5が供給可能な最小電流値であるパラメータ値IP1の電流に設定される。したがって、実質的に第3の時間tcが放電電流パルスの立上がり波形を決定する。
【0070】
以上のことを別の観点から見ると、図2Aで判るように、加工制御装置2は、ブースタ電源装置6から最大電流値imaxの電流を供給したときから第1の時間ta毎に主電源装置5から供給される電流を単位電流値iaずつ電流を上昇させたとした場合に立上がり時間td後に到達する増分電流値ioと一致するように、主電源装置5のスイッチング素子TR1−TR16をオンオフ制御して主電源装置5から供給される電流を第3の時間tc毎に第2の電流低減値icずつステップ状に減少させていると言える。
【0071】
そのため、第3の時間tcは、第2の電流低減値icを主電源装置5が供給可能な最小電流値である単位電流値iaとして、最大電流値imaxから第1の電流低減値ibを差し引いたブースタ電源装置6を投入した直後の誤差電流値ieとブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり時間td後の増分電流値ioとの差を単位電流値iaで除してステップ数nを得て、立上がり時間tdをステップ数nで除して得ることができる。図2に示される実施の形態では、ステップ数nが16で、立上がり時間tdが16μsであるから、第3の時間tcは、1μsに設定される。
【0072】
このとき、第3の時間tcと第2の電流低減値icを一定にしているので、主電源装置5から供給される誤差電流値ieを補充する電流の変化とブースタ電源装置6から供給される電流の立上がり波形に依存する実際の誤差電流値ieの変化とが厳密には一致しないことが考えられる。しかしながら、実際に加工間隙に供給される放電電流パルスの立上がり波形は、加工結果に重大な影響を与える程度に不適当にはならず、誤差の範囲であるため、実用上は問題がない。
【0073】
図3Dに示されるように、立上がり時間tdの間に誤差電流値ieが徐々に小さくなり、増分電流値が第1の時間ta毎に単位電流値iaずつ増加するので、立上がり時間tdにおいて第3の時間tc毎に第2の電流低減値icずつ主電源装置5から供給される電流をステップ状に減少させた場合、結果的に、誤差電流を主電源装置5から供給される電流で補充すると同時に第1の時間ta毎に単位電流値iaずつ電流を上昇させていることになる。その結果、立上がりが滑らかな所望の放電電流パルスの波形が得られる。
【0074】
ブースタ電源装置6から供給される電流が最大電流値imaxまで立ち上がる立上がり時間td後は、パルス発生装置50が指令信号を出力して主電源装置5の複数のスイッチング素子TR1−TR16をバイナリカウント方式で時間的にずらしてオンオフさせ、各スイッチング回路SC1−SC16を選択的に導通または非導通にすることによって放電電流が加工条件に従うピーク電流値に到達するまで放電電流の所望の立上がり波形の傾きに合わせて単位電流値iaに相当するパラメータ値IP1ずつステップ状に電流を増大させる。
【0075】
放電電流が加工条件に従うピーク電流値ipeakに到達した後は、ピーク電流値ipeakを維持させて放電電流を供給する。そして、放電が発生して加工間隙に放電電流が流れ始めてから加工条件に従うオン時間tonに到達した後に全てのスイッチング素子TR1−TR32をオフしてスイッチング回路SC1−SC32を非導通にする。その結果、主電源装置5とブースタ電源装置6からの放電電流の供給が休止され、放電電流は、立下り時間後に消弧する。
【0076】
以上のように、立上がりが滑らかな放電電流パルスを繰返し供給することで、工具電極の消耗を低減した加工が行なわれる。このとき、放電電流が供給されている途中で電流が急に大幅に低下して放電電流パルスの波形が不正になることがなく、工具電極の消耗が増大したり、加工速度が低下することがない。また、主電源装置5を遮断せずに同時にブースタ電源装置6を投入することを可能にするので、逆起電力の発生による極間電圧の瞬間的な落ち込みがなく、検出装置が正確に極間電圧を検出して的確な適応制御を行なうことができる。
【0077】
本発明の形彫放電加工装置は、実施の形態で示される具体的な形彫放電加工装置の構成と同一であることが要求されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で応用が可能である。また、発明の詳細な説明で開示されていない他の形彫放電加工装置および加工方法と適宜組み合わせて実施することができる。本発明は、発明の詳細な説明に記載される名称または表現方法に拘束されることがなく、実質的に同一の手段または手法で達成できる形彫放電加工装置を含む。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、形彫放電加工装置に適用される。特に、ブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置に有益である。本発明は、ブースタ電源装置を投入するときに発生する放電電流の大幅な低下を抑制するとともに逆起電圧による電圧波形の急な降下を抑制して改善する。本発明は、所期の加工結果を達成させ、加工の適応制御を正確に行なえるようにし、形彫放電加工の技術の進歩に貢献する。
【符号の説明】
【0079】
1 加工電源装置
2 加工制御装置
3 工具電極
4 被加工物
5 主電源装置
6 ブースタ電源装置
7 リレースイッチ
8 検出装置
10 第1の電源ユニット
20 第2の電源ユニット
30 第3の電源ユニット
40 設定装置
50 パルス発生装置
51 極性切換装置
52 極間線
53 出力ケーブル
54 保護回路
60 ゲート回路
61 極性切換装置
62 極間線
63 出力ケーブル
64 保護回路
PS 直流電源
SC スイッチング回路
TR スイッチング素子
DR 逆流阻止ダイオード
RS 電流制限抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源装置とブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置において、前記主電源装置の複数のスイッチング素子を選択的にオンオフ制御して放電電流を加工間隙に供給するとともに前記主電源装置が供給可能な最大電流値以上の電流を供給するときは前記主電源装置から前記放電電流を供給している状態で前記ブースタ電源装置の複数のスイッチング素子を選択的にオンしてから前記ブースタ電源装置から供給される電流の立上がり特性に依存して発生する誤差電流を前記主電源装置から供給される電流で補充するように前記主電源装置の前記スイッチング素子を選択的にオンオフ制御する加工制御装置を備えた形彫放電加工装置。
【請求項2】
前記加工制御装置は、前記主電源装置から供給される電流に前記ブースタ電源装置から供給される電流を重畳するときの電流値の和が所望の放電電流パルスの波形に適合する所要のピーク電流値になるように前記主電源装置から供給されている電流をステップ状に減少させるように前記主電源装置の前記スイッチング素子を選択的にオンオフ制御することを特徴とする請求項1に記載の形彫放電加工装置。
【請求項3】
主電源装置とブースタ電源装置を有する加工電源装置を備えた形彫放電加工装置において、加工条件に基づいて前記主電源装置の複数のスイッチング素子を選択的にオンオフ制御して所定の第1の時間毎に単位電流値ずつ電流を上昇させて立上がりが滑らかな放電電流パルスを供給するとともに前記主電源装置が供給可能な最大電流値以上の電流を供給するときは前記主電源装置から前記最大電流値に対して前記単位電流値低い電流を供給したときから前記第1の時間後に前記ブースタ電源装置の複数のスイッチング素子を選択的にオンし所定の第2の時間後に前記最大電流値に対して所定の第1の電流低減値だけ低い前記ブースタ電源装置から供給される電流の立上がり特性に依存して発生する誤差電流値に相当する電流が供給されるように前記主電源装置から供給される電流を減少させ次いで前記ブースタ電源装置から供給される電流の立上がり時間経過するまで第3の時間毎に所定の第2の電流低減値ずつ前記主電源装置から供給される電流をステップ状に減少させて前記誤差電流を前記主電源装置から供給される電流で補充すると同時に前記単位電流値ずつ電流を上昇させるように前記主電源装置の前記スイッチング素子を選択的にオンオフ制御する加工制御装置を備えた形彫放電加工装置。
【請求項4】
前記加工制御装置は、前記ブースタ電源装置から供給される電流の前記立上がり時間後に放電電流が前記加工条件に従うピーク電流値に到達するまで前記第1の時間毎に前記単位電流値ずつ電流を上昇させるように前記主電源装置の前記スイッチング素子を選択的にオンオフ制御することを特徴とする請求項3に記載の形彫放電加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate