説明

形状測定方法

【課題】先端の曲率半径が小さいプローブを用いても、プローブで発生する誤差を好適に検出および補正することができる形状測定方法を提供する。
【解決手段】プローブを備えた接触走査式の形状測定センサを用いて被検物の表面形状を測定するための形状測定方法は、形状測定センサにより、被検物の中心軸を通る一断面における表面形状の点列データを取得する点列データ取得工程S40と、点列データから誤差を除去する誤差除去工程S50とを備え、誤差除去工程において、プローブの先端と被検物の表面との接触に伴う力によるプローブ先端部の変位に関する理論モデルを点列データに当てはめてプローブ変位誤差を取得し、プローブ変位誤差を点列データから除去することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定方法、より詳しくは、接触走査式の形状測定センサを用いて被検物の表面形状を測定する形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズや金型等の光学関連素子の表面形状測定を行う装置として、プローブ(触針子)を光学関連素子等の被検物の面上に接触させて追従させる接触走査式の測定方法を採用した接触式形状測定センサ(以下、単に「形状測定センサ」と称することがある。)が用いられている。
【0003】
接触走査式の形状測定センサを用いた表面形状測定においては、より精度を高めるべく、可能な限り誤差を排除することが検討されている。例えば、特許文献1では、プローブ軸側面の変位を直接センシングし、プローブ軸の傾きを検出して補正を施すことにより、プローブ軸が傾いた状態で被検物に接触しても、プローブ先端に取り付けられたルビー球の中心座標を正しく検出できるようにすることが提案されている。特許文献1に記載の発明によれば、プローブが傾いてもセンシングにより補正することができるため、高精度の形状測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−193449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、更に精度を向上させるべく、形状測定センサのプローブとして、先端の曲率半径がルビー球等よりも小さいダイヤモンドスタイラス等が使用されることが多くなっている。しかしながら、特許文献1に記載の発明では、詳細は後述するが、このようなダイヤモンドスタイラスの先端付近で発生する誤差を充分補正できないことを発明者は見出した。
したがって、先端の曲率半径が小さいプローブを用いた場合でも、より高精度の形状測定を行える形状測定方法が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、先端の曲率半径が小さいプローブを用いても、プローブで発生する誤差を好適に検出および補正することができる形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プローブを備えた接触走査式の形状測定センサを用いて被検物の表面形状を測定するための形状測定方法であって、前記形状測定センサにより、前記被検物の中心軸を通る一断面における表面形状の点列データを取得する点列データ取得工程と、前記点列データから誤差を除去する誤差除去工程とを備え、前記誤差除去工程において、前記プローブの先端と前記被検物の表面との接触に伴う力によるプローブ先端部の変位に関する理論モデルを前記点列データに当てはめてプローブ変位誤差を取得し、前記プローブ変位誤差を前記点列データから除去することを特徴とする。
【0008】
前記理論モデルは、前記力による前記プローブ先端部の撓み変形を考慮するものでもよい。
【0009】
前記誤差除去工程は、被検物誤差およびプローブ加工誤差を含む既知の誤差を除去する既知誤差除去工程を有し、前記既知誤差除去工程後に前記プローブ変位誤差が前記点列データから除去されてもよい。
【0010】
前記誤差除去工程は、算出された前記プローブ変位誤差にもとづいて前記既知の誤差を再計算する再計算工程をさらに備え、前記再計算工程で取得された既知の誤差に基づき、前記プローブ変位誤差が再取得されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の形状測定方法によれば、先端の曲率半径が小さいプローブを用いても、プローブで発生する誤差を好適に検出および補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の形状測定方法に用いられる形状測定センサの概略構成を示す図である。
【図2】同形状測定方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】同形状測定方法における誤差除去工程の流れを示すフローチャートである。
【図4】プローブと被検物との接触時にプローブ先端に作用する力を示す図である。
【図5】プローブの変位量のモデル曲線を示すグラフである。
【図6】撓み誤差による変位量であるx軸方向の変位量とz軸方向の変位量との関係を示す図である。
【図7】既知誤差除去後データの一例を示すグラフである。
【図8】同既知誤差除去後データから撓み誤差を除去したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、図1から図7を参照して説明する。なお、特に説明のない限り、「前方」および「後方」とは、それぞれ図1に示すz軸の負方向及び正方向を指すものとする。
【0014】
図1は、本実施形態の形状測定方法を適用可能な形状測定センサの一例である、形状測定センサ1を示す図である。形状測定センサ1は、軸対称な被検物100の表面100Aの形状を測定するものであり、プローブ11が取り付けられた触針子部10と、被検物100が支持される被検物保持部20と、触針子部10を移動させるためのy軸駆動機構30と、被検物保持部20を移動させるためのx軸z軸駆動機構40と、形状測定センサ1全体の動作制御及び取得された表面形状データの処理を行うパソコン50とを備えている。
【0015】
触針子部10は、自身の軸方法に摺動することにより被検物100の表面形状に追従するプローブ11と、プローブ11が自身の軸方向に摺動可能に挿通された静圧軸受12と、プローブ11の水平方向に対する傾斜角を調整する傾斜角調整部13とを備えている。
【0016】
プローブ11は、被検物100に接触追従する先端部11Aと、先端側に先端部11Aが取り付けられた略円柱状の軸部11Bとを有する公知の構成のものを適宜選択して採用可能である。本実施形態では、プローブ11として、先端部11Aの曲率半径が一般的なルビー球スタイラスよりも小さいダイヤモンドスタイラスが使用されている。プローブ11は、静圧軸受12内を滑らかに摺動可能となるように静圧軸受12に挿通されている。静圧軸受12は、挿通されたプローブ11の先端部11Aが被検物100の配置された前方に向くようにベース平板14上に固定される。軸部11Bの後方側には、プローブ11の変位量を検出するための変位計15が取り付けられている。
【0017】
静圧軸受12は、外形が略直方体状であり、径方向の断面が円形の貫通孔(不図示)が長手方向に延びるように形成されている。プローブ11の軸部11Bは、当該貫通孔に挿通されている。貫通孔の内面と、挿通された軸部11Bの外周面との間には、貫通孔の径方向両側において、数マイクロメートル(μm)程度のクリアランスが確保されている。
【0018】
また、静圧軸受12には、エア供給ライン12Bが接続されており、図示しない供給源から空気等の気体が供給される。供給された気体は、静圧軸受12内に形成された図示しない管路を通って貫通孔の内面に形成された図示しない多数の送気穴から貫通孔と軸部11Bとの間の空間に気流として供給される。この気流により、プローブ11と静圧軸受12との間に生じる摩擦力が低減され、プローブ11が静圧軸受12の貫通孔を滑らかに摺動可能に支持されている。
【0019】
傾斜角調整部13は、前方の支点13Aと、y軸方向に伸縮可能な伸縮部13Bとを備えており、プローブ11の傾斜角を変化させてプローブ11を前方に摺動させる。伸縮部13Bとしては、例えば圧電アクチュエータや、ネジと角度調整部材とからなる機構等を採用することができる。
【0020】
被検物保持部20は、基台2上に取り付けられたベース21と、ベース21に取り付けられた揺動部22とを備えている。被検物100は、揺動部22に固定されてプローブ11に対向配置される。揺動部22は、ベース21に対して揺動可能であり、揺動部22とベース21との位置関係を変化させることによって、揺動部22に取り付けられた被検物100とプローブ11とがなす角度を変化させることができる。
なお、本実施形態では、測定される表面が球面状の被検物を示しているが、軸対称な形状でさえあれば、被検物の表面形状には特に制限はない。
【0021】
y軸駆動機構30は、触針子部10と基台2との間に設けられており、y軸方向に移動することによって、傾斜角調整部13が設定したプローブ11の傾斜角を保持したまま、触針子部10を上下に移動させることができる。y軸駆動機構30の後方には、y軸駆動機構の移動量を検出するための変位計31が設けられている。
【0022】
x軸z軸駆動機構40は、被検物保持部20のベース21と基台2との間に設けられており、x軸方向およびz軸方向に移動することによって、被検物保持部20全体をx軸方向およびz軸方向に移動させることができる。x軸z軸駆動機構40の前方には、被検物保持部20のx軸方向の変位を検出する変位計41が設けられる。
y軸駆動機構30およびx軸z軸駆動機構40により、プローブ11と被検物保持部20に保持された被検物100とは、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向に相対移動することができる。
【0023】
パソコン50は、使用者の入力や指示等を受け付ける入力部51と、各種情報を表示する表示部52とを備えている。パソコン50は、傾斜角調整部13、揺動部22、y軸駆動機構30、およびx軸z軸駆動機構40に接続されており、これらの各機構の動作を制御可能である。また、パソコン50は、各変位計15、31、および41とも接続されており、これらの検出値を受信して被検物100の一段面における表面形状を示す点列データに再構成するとともに、これを被検物の中心軸回りに回転させて、被検物100全体の推定表面形状データを取得する処理を行う。
さらに、図示を省略するが、パソコン50はエア供給ライン12Bとも接続されており、静圧軸受12への気体供給はパソコン50によって制御される。
【0024】
上記の構成を備えた形状測定センサ1を用いた本実施形態の形状測定方法(以下、「本形状測定方法」と称する。)について、以下に説明する。
図2は、本形状測定方法の流れを示すフローチャートである。ステップS10において、まず使用者は、被検物100を、形状測定を行う計測面100Aが触針子部10に対向するように、被検物保持部20の揺動部22に取り付ける。
【0025】
ステップS20において、使用者は、プローブ11の位置を調節して先端部11Aを被検物100に接触させる。まず、パソコン50の入力部51を介してy軸駆動機構30およびx軸z軸駆動機構40を操作して、プローブ11の先端が被検物100の中心軸(設計軸)Axと略同一の高さとなるように触針子部10の高さを調節する。さらに、被検物保持部20をX軸正方向に移動させ、前進したプローブ11が、被検物100のx軸方向負側の端部に接触するように、両者の相対位置関係を調節する。
次に、使用者はエア供給ライン12Bから静圧軸受12へ気体を供給しつつ、傾斜角調整部13を操作して、ベース平板14の後部を上方に移動させる。すると、ベース平板14は支点13Aを支点として傾斜し、静圧軸受12で保持されたプローブ11は、自身の重力によって、静圧軸受12内を滑らかに摺動して先端部11Aと被検物100の表面と接触する。使用者は、被検物100とプローブ11との接触点の高さが中心軸Axと同一であるか確認し、同一でない場合は、同一となるよう触針子部10の高さを微調整する。
【0026】
次に、使用者は、ステップS30において、パソコン50によってx軸z軸駆動機構40を駆動し、被検物100とプローブ11とを相対移動させる。プローブ11は、中心軸Axを通過するようにx軸に平行に相対移動し、被検物100の表面がプローブ11の先端部11Aによって走査される。走査中、各変位計15、31及び41の検出値はパソコン50に入力され、パソコン50がこれら検出値をもとにプローブ11と被検物100の表面100Aとの接触点の座標を検出し、順次記録する。
【0027】
プローブ11が被検物のx軸方向正側の端部まで到達すると、ステップS40において、被検物100の中心軸Axを通る一断面における被検物100の表面形状を示す点列データが取得される(点列データ取得工程)。被検物100は軸対称であるため、当該点列データを中心軸Axを中心にして回転させることで、表面100A全体の形状データを取得することができるが、取得した点列データには様々な誤差が含まれているため、本形状測定方法では、全体の形状データ取得に先立ち、ステップS50の誤差除去工程においてパソコン50が誤差を算出し、ステップS40で取得された点列データから排除する。
【0028】
図3は誤差除去工程S50の詳細な流れを示すフローチャートである。
ステップS51では、既知の誤差として、被検物誤差W(x)およびプローブ加工誤差P(x)が点列データから差し引かれて除去される(既知誤差除去工程)。被検物誤差W(x)とは、予め干渉計等の他の手段で測定した表面100Aの形状データと設計値との誤差であり、プローブ加工誤差P(x)とは、予め計測しておいた先端部11A先端の加工精度等に基づく誤差である。接触走査式の形状測定センサを用いた表面形状測定において、これらの誤差を排除することは既に知られている。
【0029】
ステップS52からS56では、さらに、プローブ11先端の撓み変形により生じる誤差(以下、「撓み誤差」と称する。)f(x)の算出を行う。撓み誤差(プローブ変位誤差)とは、プローブ11の自重によりプローブ11の先端が被検物100の表面100Aに接触した際に、プローブ11の先端に作用する力により先端がわずかに撓み変形することにより発生する誤差であり、発明者が始めて着目したものである。
撓み誤差は、先端の曲率半径が、例えば0.5ミリメートルと大きいルビー球スタイラス等をプローブに用いた場合は発生しにくいが、先端の曲率半径が小さい、例えば数μm程度のスタイラスであると、たとえ軸部分が充分な剛性を有するダイヤモンドスタイラス等であっても生じやすい。そこで、本発明の形状測定方法における誤差除去工程では、点列データから被検物誤差W(x)およびプローブ加工誤差P(x)が除去された後のデータ(既知誤差除去後点列データ)に、まだ撓み誤差が含まれているという前提の下、パソコン50がこれを除去するための演算を行う。
【0030】
ステップS52では、パソコン50が、既知誤差除去後点列データに対して、撓み誤差発生時におけるプローブ11先端の変位に関する理論モデルを当てはめ、撓みによるプローブ先端のx軸方向への変位量Δxを取得する。
図4は、プローブ11と被検物100との接触時にプローブ先端に作用する力を示す図である。プローブ11の先端が点列データを取得した軌跡上のある点(接触点)Pにおいて被検物100と接触しているとき、接触点Pにおける被検物表面100Aの傾き角度(被検物100の設計式を接触点Pのx軸座標において微分することにより算出可能)をθとすると、プローブ11の先端に作用する力Fは、接触点Pにおいて、表面100Aに垂直な成分Fcosθと表面100Aに平行な成分Fsinθとに分力される。なお、形状測定センサ1を用いた場合、力Fはプローブ11の自重により決定される。具体的には、プローブ11が水平面に対してわずかに傾斜されて被検物100に接触するため、自重により生じる重力の水平方向の成分が力Fとなる。
【0031】
表面100Aに対して垂直に作用する分力Fcosθは、作用反作用の法則により、Fcosθと同じ大きさの反力Nをプローブ11の先端に作用させる。したがって、反力Nのx軸方向における分力Nsinθがプローブ11先端を撓ませる力(以下、「変位力」と称する。)となる。上記より、N=Fcosθであるから、公式により、以下の式(1)が成り立つ。
(1) Nsinθ=F/2・sin2θ
【0032】
式(1)で表される変位力により生じるプローブ11先端のx軸方向における変位量Δxは、プローブ11を片持ち梁として先端に変位力を加えたときの先端の撓み量として捉えることができるため、材料力学の公式にもとづき、パラメータaおよびbを有する以下の式(2)として表すことができる。式(2)より、変位量Δxは、図5に示すモデル曲線のように、θ=45のときに最大となる90度周期の関数であることがわかる。
(2) Δx=a・sin2θ+b
【0033】
そこで、ステップS52では、既知誤差除去後点列データに対して変位量Δxの理論モデルである上記式(2)のフィッティング(当てはめ)を行い、最適なパラメータaおよびbの値を算出する。フィッティングの方法としては、最小二乗法、線形/非線形計画法、探索法等の公知の各種手法を適宜選択して用いることができる。
ステップS52が終了すると、式(2)におけるパラメータaおよびbが決まると、点列データ上の各点における変位量Δxが取得される。
【0034】
接触点Pにおいてプローブ11の先端がx軸方向にΔxだけ変位しているということは、実際にプローブ先端が接触している点における被検物誤差およびプローブ加工誤差、すなわち既知誤差が異なることを意味する。そのため、続くステップS53では、ステップS52で取得された変位量Δxに基づき、被検物誤差およびプローブ加工誤差をそれぞれW(x+Δx)およびP(x+Δx)として、既知誤差の再計算を行う(再計算工程)。
【0035】
続くステップS54では、再計算された既知誤差にもとづいて既知誤差除去後点列データが更新され、更新後の既知誤差除去後点列データに対して上記式(2)のフィッティングが再度行われ、パラメータaおよびbの値、ならびに変位量Δxが再取得される。
【0036】
ステップS55では、変位量Δxの算出回数が所定回数(例えば50回)となったか否かが判定される。判定結果がNoの場合、処理はステップS53に戻り、再取得された変位量Δxにもとづき既知誤差の再計算が行われる。判定結果がYesの場合、処理はステップS56に進む。
【0037】
ステップS56においてパソコン50は、各点における変位量Δxの値にもとづき、撓み誤差によるプローブ11先端のz軸方向の変位量Δzを、点列データの各点について算出する。図6は、撓み誤差による変位量であるx軸方向の変位量Δxとz軸方向の変位量Δzとの関係を示す図である。本形状測定方法においては、変位量Δxの実際の値が微小であるため、プローブ11と被検物表面100Aとの接触点Pと、撓み誤差を考慮した実際の接触点Paとの間における表面100Aの傾きは不変であると定義して、接触点Pにおける角度θにもとづき接触点Pと接触点Paとを結ぶ線分の傾きを算出して変位量Δzを算出する。
【0038】
ステップS57では、ステップS56で算出された各点における変位量Δzの値を既知誤差除去後点列データから差し引く。これにより、形状測定センサ1で取得された点列データから撓み誤差が除去され、誤差除去工程S50が終了する。
その後、点列データを中心軸Axを中心に回転すると、被検物表面100Aの全体形状を高精度に取得することができる。
【0039】
図7に、既知誤差除去後点列データの一例を示す。図7のように、各点におけるθに基づいて各点のデータを並び替えると、図5で示した撓み誤差による変位量と同様の周期成分を含んでおり、既知誤差除去後点列データに撓み誤差が含まれていることが推測される。
この既知誤差除去後データから変位量Δzを差し引いた結果を図8に示す。点列データから周期成分を有する撓み誤差が除去されることにより、精度の高い点列データを得ることができた。
【0040】
本実施形態の形状測定方法によれば、誤差除去工程S50において、被検物誤差、プローブ加工誤差等の既知の誤差に加えて、従来着目されていなかったプローブ変位誤差である撓み誤差が取得された点列データから除去されるため、先端の曲率半径が小さいダイヤモンドスタイラス等をプローブとして使用した場合でも、精度の高い形状測定を行うことができる。
【0041】
また、ステップS53ないしS55において、算出された撓み誤差である変位量Δxにもとづいて既知誤差の再計算および変位量Δxの再取得が繰り返し行われる。このため、撓み誤差による変位量Δzを規定する変位量Δx、並びに上記パラメータaおよびbの値を収束させることにより、撓み誤差によるプローブ先端の変位量をさらに高精度に算出して、高精度に形状測定を行うことができる。
【0042】
本実施形態では、変位量Δxの再算出を複数回繰り返した後に変位量Δzが算出される例を説明したが、これに代えて、ΔxやΔzの、前回取得値との差分が所定量未満になるまで既知誤差の再計算およびΔxの再取得を繰り返すようにしてもよい。このように、収束のための演算を終了するための条件は、形状測定に要求される精度等を考慮して適宜設定されてよい。
【0043】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態では、撓み誤差理論モデルの当てはめによる変位量Δxの取得が複数回繰り返して行われる例を説明したが、これに代えて、変位量Δxの取得を一回だけ行い、これにもとづいて変位量Δzを算出して、点列データから差し引いてもよい。上述のように、撓み誤差については従来着目されていなかったため、完全に収束していない状態で撓み誤差の除去を行っても、ある程度精度を向上させることができる。
【0045】
また、上記実施形態では、点列データから既知誤差を除去した後、既知誤差除去後点列データから撓み誤差を差し引く例を説明したが、これに代えて、既知誤差の除去前に撓み誤差を除去してもよい。ただし、既知誤差が撓み誤差と同様の周期成分を含んでいる等の場合、理論モデルの当てはめ時に当該既知誤差の成分が混入する恐れがあるため、既知誤差を除去してから撓み誤差を除去するのが好ましい。
【0046】
さらに、当てはめを行う撓み誤差の理論モデルは、上記のものに限定されない。例えば、プローブ先端と被検物表面との間に生じる摩擦等をさらに考慮した理論モデルが用いられても構わない。
【0047】
加えて、本発明の形状測定方法は、先端の曲率半径が比較的大きいルビー球スタイラス等をプローブに用いた形状測定センサを用いた場合にも適用可能である。ルビー球スタイラス等では先端の撓み変形が比較的起こりにくいことは既に述べたが、接触点においてプローブの先端に上述の力が作用することは何ら変わりない。このような力が所定値以上の大きさとなってプローブに作用すると、先端が撓み変形する代わりに、プローブの軸が傾くことが考えられる。したがって、軸が傾く現象によるプローブ変位誤差に対応した理論モデルを設定し、これを既知誤差除去後データには当てはめることで、軸の傾きによる先端変位量を取得し、既知誤差除去後データから差し引けば、プローブ軸傾きによる誤差を好適に除去することが可能である。
このように、本発明の形状測定方法では、プローブ軸のセンシングを行わずにプローブ変位誤差を好適に除去することができるため、センシング機構を備えない簡素な構造の形状測定センサを用いた表面形状測定にも好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 形状測定センサ
11 プローブ
100 被検物
100A 表面
Ax 中心軸
S40 点列データ取得工程
S50 誤差除去工程
S51 既知誤差除去工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを備えた接触走査式の形状測定センサを用いて被検物の表面形状を測定するための形状測定方法であって、
前記形状測定センサにより、前記被検物の中心軸を通る一断面における表面形状の点列データを取得する点列データ取得工程と、
前記点列データから誤差を除去する誤差除去工程と、
を備え、
前記誤差除去工程において、
前記プローブの先端と前記被検物の表面との接触に伴う力によるプローブ先端部の変位に関する理論モデルを前記点列データに当てはめてプローブ変位誤差を取得し、
前記プローブ変位誤差を前記点列データから除去することを特徴とする形状測定方法。
【請求項2】
前記理論モデルは、前記力による前記プローブ先端部の撓み変形を考慮するものであることを特徴とする請求項1に記載の形状測定方法。
【請求項3】
前記誤差除去工程は、被検物誤差およびプローブ加工誤差を含む既知の誤差を除去する既知誤差除去工程を有し、前記既知誤差除去工程後に前記プローブ変位誤差が前記点列データから除去されることを特徴とする請求項1または2に記載の形状測定方法。
【請求項4】
前記誤差除去工程は、算出された前記プローブ変位誤差にもとづいて前記既知の誤差を再計算する再計算工程をさらに備え、
前記再計算工程で取得された既知の誤差に基づき、前記プローブ変位誤差が再取得されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−19835(P2013−19835A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154790(P2011−154790)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】