形質転換されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、及び、これを用いた炭化水素の処理方法
【解決課題】ロドコッカス属の形質転換体を提供することによって、低炭素数の炭化水素に対するロドコッカス属細菌の生育可能性を向上し、また、従来よりも少ない炭素数の炭化水素の分解・代謝に有効な方法を提供する。
【解決手段】GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリスPR4株を炭化水素と反応させ、当該炭化水素を処理する方法である。前記細菌を無機塩の濃度が制限された培地で培養した。前記無機塩はマグネシウム塩である。マグネシウム塩の濃度を4.3μM以下に制限した。
【解決手段】GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリスPR4株を炭化水素と反応させ、当該炭化水素を処理する方法である。前記細菌を無機塩の濃度が制限された培地で培養した。前記無機塩はマグネシウム塩である。マグネシウム塩の濃度を4.3μM以下に制限した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、及び、これを用いた炭化水素の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌は、土壌や海洋などにありふれて存在するグラム陽性細菌、高G+C含量のコリネ型細菌の一種である。ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌には、石油系炭化水素やポリ塩化ビフェニール類(PCB)などをはじめとした数多くの難分解性化合物に対して分解・資化能力をもつことに加え、アクリルアミドや有用酵素群、あるいは細胞外多糖をはじめとした機能性バイオポリマーなどの生産菌が多く存在することが知られている。
【0003】
それゆえ、産業的に重要な菌群として位置づけられており、低エネルギー化や環境負荷を削減できるバイオプロセスによる環境浄化・物質生産への応用などが期待されている(非特許文献1)。
【0004】
特に、バイオプロセスを考える場合、応用が期待される微生物には、有機溶媒を含む特殊な環境下での良好な生育や活発な代謝活動などの性質が求められる。
【0005】
また、石油流出事故などによる石油汚染環境の浄化に必要な微生物にも、高濃度難揮発性化合物存在下でこれらの分解を行いながら良好な生育を示すために、これらに対する分解能だけでなく、共存する難揮発性化合物の毒性に対する耐性能が高いことが求められる。
【0006】
上述したこれらの性質を解析するためには、まず、その切り口として微生物の有機溶媒耐性が必要であり、特にバイオプロセスにおいては、高濃度有機溶媒存在下での生育が求められる。
【0007】
微生物の有機溶媒耐性に関する研究では、これまでにグラム陰性菌の大腸菌やシュードモナス(Pseudomonas)属細菌などのモデル微生物を中心に遺伝生化学的な研究が行われ、細胞表層構造の変化やエプラックスポンプ、ベシクルの形成などの耐性機構が提案されている(非特許文献2)。
【0008】
一方、グラム陽性菌においては、炭化水素分解遺伝子などに関する遺伝性化学的研究は進んできたが、有機溶媒耐性に関した研究は多くない。このことは、一般にグラム陽性菌は陰性菌に比べ有機溶媒耐性レベルが低いと考えられていることに起因していると予想される。
【0009】
しかしながら、バイオプロセスを考える場合には、極めて応用に近い段階の微生物において、実際の利用環境に近い条件での有機溶媒耐性に関する情報が求められる。上述したようにロドコッカス(Rhodococcus)属細菌はバイオプロセスへの応用が期待されていることから、同菌の有機溶媒耐性に関する知見の蓄積が必要である。
【0010】
Iwabuchiらは、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)S−2株が高濃度石油耐性石油分解菌であることを見出し、その石油耐性に検討を加えた結果、同菌の生産する細胞外多糖(以下、「EPS」という)が長鎖アルカンなどの難揮発性有機溶媒の耐性に深く関与していることを明らかにした。
【0011】
さらに、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌のコロニー形態と溶媒耐性について検討したところ、EPS生産量の少ないラフ型菌は溶媒に親和性が高く結果的に溶媒感受性であり、一方で、EPS生産量の多いムコイド型菌は耐性を示したことから、同属細菌においては、コロニー形態と有機溶媒耐性に高い相関があることを明らかにした。
【0012】
また、EPSは溶媒に感受性のラフ型菌にも溶媒耐性を与えることが示されており、これらのことから、ムコイド型コロニーの形成が同属細菌の溶媒耐性を考える上での一つの指標であることが見出された(非特許文献3)。
【0013】
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株は分岐アルカンの一種であるプリスタン(2,6,10,14-tetramethyl-pentadecane)分解菌として単離された株であり(非特許文献4)、培養の経過と共にEPSの生産に基づいた自身のコロニー形態をラフ型→ムコイド型→ラフ型へと変化させる株である。
【0014】
同株は難揮発性有機溶媒に耐性を示すことが知られていることから、ゲノム解析株に選定され、また、宿主−ベクター系の開発にも着手されている。従って、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株は、近い将来、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の中で、遺伝子操作系の発達した株になることが予想されていたが、最近では、PR4株は、産業的利用価値が高い菌株であることからゲノム解析がなされ、そのプラスミドの全配列が公表された (非特許文献5)。また、出願人も2種類のEPSの化学構造を明らかにした (非特許文献6)。
【0015】
Rhodococcus属細菌や類縁菌での有機溶媒耐性に関する研究では、温度変化、栄養欠乏、など様々なストレス状況下で細胞質膜の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比率変化やcis/trans脂肪酸の比率変化などの膜構造変化が膜の透過性に変化を起こし、その環境に適応させることが知られているが、この膜の透過性変化は有機溶媒耐性にも寄与するといわれている(非特許文献7,8)。
【0016】
また、Loredanaらは、炭化水素と各種菌株との相互作用を解析した研究において、PR4株と同種のR. eythropolis 20S-E1-c株はC16に対して一部の細胞が炭化水素粒子の内部に転移していることが確認されたが、その他に供試したAcinetobactor属、Rhizomonas属、Pseudomonas属細菌はC16に対して吸着し転移は確認されなかったことを報告している (非特許文献9)。
【0017】
なお、岩淵らはロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株が炭素数14以上のテトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、プリスタン、スクワラン等に転移して、これらの炭化水素を代謝・分解できることを明らかにした(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006-325433号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Finnerty, W. R. et al. (1992) Annual Review of Microbiology, p193-218.
【非特許文献2】Ramos, J. L. et al. (2002) Annual Review of Microbiology, p743-768.
【非特許文献3】Iwabuchi, N. et al. (2000) Applied Environmental Microbiology, 66: 5073-5077.
【非特許文献4】Komukai-Nakamura, S. et al. (1996) Journal of Fermentation and Bioengineering, 82:p570-574
【非特許文献5】Sekine et al. 2006、Appl.Environ.Microbiol, 8:334-346)
【非特許文献6】Urai, M. et al. (2006) Carbohydr Res, 341:616-623,766-775
【非特許文献7】Cronan,J.E et al. (2002) Microbiol, 5:202-205
【非特許文献8】Whyte, L. G. et al. (1999) Appl.Environ.Microbiol, 65:2961-2968
【非特許文献9】Loredana,S. et al. (2004) Appl. Environ.Microbiol, 70:6333-6336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
既述のように、従来のロドコッカス属微生物は炭化水素の分解・代謝に有用であるものの、炭素数が一定以下の炭化水素には転移出来ないなど、分解・代謝できる炭化水素には制限があるという課題があった。
【0021】
また、従来のロドコッカス属微生物は、低炭素数の炭化水素の存在下では、生育できないため、このような炭化水素の分解・代謝に用いることはできなかった。
【0022】
そこで、本願発明は、ロドコッカス属の形質転換体を提供することによって、低炭素数の炭化水素に対するロドコッカス属細菌の生育可能性を向上し、また、従来よりも少ない炭素数の炭化水素の分解・代謝に有効な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
既述のように、Rhodococcus属細菌は他の微生物とは異なる特徴的な有機溶媒耐性機構を有していると推測されるが、未だその詳細は明らかでない部分が多い。
このような状況下の中で、本願の発明者は、(1)ロドコッカス・エリスロポリスPR4株(以下、ロドコッカス・エリスロポリスを「Rh」と略称し、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、「PR4」と略称する場合がある。)は、ゲノム解析がなされていること、(2)同株の示す有機溶媒との相互作用が極めて特徴的であること、の理由から、同株を有機溶媒耐性の研究をするための適した材料と考え、遺伝生化学的側面と物理化学的側面から研究を行ってきた。
【0024】
これまでにPR4とアルカンとの物理化学的な相互作用を解析した結果、例えば、pristaneの添加により、細胞表面の親油性が上昇し、結果として培地/アルカン界面の界面ギブスエネルギーが減少することにより細胞がアルカンの内部へ転移できることが明らかとなった 。
【0025】
そこで、さらに、本発明は、これらの物理化学的性質の違いの原因を分子レベルで明らかにするため、(1)プロテオーム解析による関連タンパク質の検討、および、(2)トランスポゾンを用いた変異導入による関連遺伝子の検討を行った。
【0026】
PR4は、プリスタン(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン)分解菌として単離されたアルカン分解菌であるが、アルカンの炭素数の長さにより、アルカンとの相互作用が変わる。同菌のこのような性質は極めて特徴的であり、グリーンバイオテクノロジーへの応用が提案され、既にゲノム解析が行われた。
【0027】
そこで、本発明では、プロテオーム解析によるアルカンとの相互作用に関連するタンパク質の検討を行い、各種培養条件で生育させたPR4から全タンパク質を抽出し、LC-MS/MSで解析した。
【0028】
その結果、プリスタンの添加により再現性良く高発現していたタンパク質GroEL2を見出した。続いて、groEL2遺伝子をクローニングし、各種菌株に導入したところ、細胞の局在性が変化し、親株では生育できなかった条件で生育できるようになった。
【0029】
また、ドデカン添加条件では親株に比べ生育が約100倍増大していることがわかった。以上のことから、二層培養系においてGroEL2が細胞の局在性の決定と生育に関与していることが判明した。すなわち、groEL2遺伝子が導入された、Rhodococcus erythropolis PR4株では、C6〜C8存在下での生育が可能となり、親株では生育できない、例えば、C8を培地に添加しても形質転換株は油滴表面に吸着して生育できるようになった。
【0030】
本発明は、GroEL2遺伝子をロドコッカス・エリスロポリス属に導入した形質転換体、およびこれを炭化水素の分解・代謝手段として提供するものである。GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリス属の形質体は、C14以下C6以上の炭化水素の存在下でも生育できるため、これらの炭化水素を分解・代謝できる可能性を有し、特に、非形質転換体では分解・代謝ができなかったC10−C14の炭化水素には吸着よりも転移が優位になるため、これらの分解・代謝を可能とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本願発明によれば、ロドコッカス属細菌の新規な形質転換体を提供することによって、低炭素数の炭化水素に対するロドコッカス属細菌の生育可能性を向上し、また、従来よりも少ない炭素数の炭化水素の分解・代謝に有効な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】炭化水素の処理開始から物質生産が行われるまでの一連の過程を概念的に示した図である。
【図2】炭化水素処理システム2の概念図である。
【図3】PR-4株のSDS-PAGEパターンである。
【図4】プライマー366F-11とGroEL-R1を用いてgroEL2を増幅したPCR産物のバンドパターンである。レーン:1〜5は、プライマー366F-11とGroEL-R1を用いてgroEL2を増幅したPCR産物を示す。
【図5】PCR産物をTAクローニングしたものの泳動確認に係るバンドパターンである。レーン1は、groEL2のPCR産物、レーン2はtopovector、レーン3はこれをEcoRI処理したサンプル、レーン4はtopovector+groEL2、レーン5はこれをEcoRI処理したサンプルである。
【図6】プラスミドの作製を示すものであり、(A)はインサートチェックと向き確認の泳動結果である。 レーン1はtopovector+groEL2 をEcoRI処理したサンプル、レーン2はpk4+ groEL2、レーン3はpk4+ groELをEcoRI処理したサンプル、レーン4はpk4+ groELをApaIとKpnIで処理したサンプルである。 (B)は pk4+ groELの模式図である。
【図7】PR-4(pk4+groEL2) の各生育条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)は C8添加、 (B)はC12添加、(C)は C19添加を示すものである。
【図8】PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示すものである。
【図9】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC19添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)はPR-4、 (B)はPR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図10】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC12添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A) はPR-4、(B) PR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図11】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC8添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)は PR-4、 (B)はPR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図12】PR-4 (pK4+groEL2 )のC12存在下での生菌数を示す特性図であり、○は野生株の栄養培地のみでの生菌数であり、△は野生株のC19添加条件のものであり、□は野生株のC12添加条件のものであり、◇はPR-4 (pK4+groEL2 )のC12添加条件のものである。
【図13】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-1株)を示す顕微鏡写真。
【図14】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-2株)を示す顕微鏡写真。
【図15】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (S-1株)を示す顕微鏡写真。
【図16】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-2株)を示す顕微鏡写真。
【図17】PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す特性図である。
【図18】IB培地に塩化マグネシウムが実質存在しない環境下での、PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す顕微鏡写真。
【図19】IB培地に塩化マグネシウムが実質存在しない環境下での、PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施形態について更に詳細に説明する。なお、「炭化水素」には、鎖式炭化水素および環状炭化水素が含まれる。
【0034】
「炭化水素の処理」とは、ロドコッカス・エリスロポリス属の形質転換体、特に、PR4株が分解・代謝可能な炭化水素を、培地に添加するこという。また、「有機溶媒中へ移行する」とは、水性溶媒中に存在していたロドコッカス・エリスロポリスPR4株が、水性溶媒から、有機溶媒に含まれる炭素炭化水素に吸着あるいは転移することをいう。
【0035】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は、培養の経過に応じて自身のコロニー形態をラフ型及びムコイド型のいずれの形態をもとりうる。いずれの形態も有機溶媒中へ移行することができる。
【0036】
培地成分を含む水性溶媒としては、一般細菌用培地を用いることができる。また、一般細菌用培地に他の培地成分を含んでいてもよい。一般細菌用培地としては、例えば、IB液体培地、YG液体培地、LB培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス等を挙げることができる。一般細菌用培地の中でも、IB液体培地を用いることが特に好ましい。
【0037】
上記IB液体培地を用いる場合、酵母エキスは、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が水性溶媒から有機溶媒へ移行する際に重要な培地成分である。酵母エキスが存在しない水性溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株を添加しても、有機溶媒中への移行は起こりにくい。
【0038】
また、無機塩類も同様であり、詳しくは、マグネシウム塩、さらに詳しくは塩化マグネシウム塩の培地中の濃度を制限すること、好ましくは、マグネシウム塩、特に、塩化マグネシウム塩が実質上含有されないことが、形質転換体の炭化水素への局在性、すなわち、形質転換体を水性培地から炭化水素に移行させ、さらに、炭化水素に対しては吸着よりも炭化水素内に転移させることを優位にする上で重要である。
【0039】
前記水性溶媒中の前記酵母エキスの添加量は、水性溶媒の全量を基準(100%)としたときに、0.05%(w/w)以上であることが好ましく、0.5〜5%(w/w)であることがより好ましく、1%(w/w)程度であることが更に好ましい。
【0040】
形質転換されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌は、PR4によって従来代謝分解ができなかったC14以下の炭化水素、好ましくは炭素数が6以上の炭化水素でも生育可能であり、かつ、これら炭化水素に少なくとも吸着できるため、これら低炭素数の炭化水素を代謝・分解可能である。
【0041】
炭素数の上限は制限されない。例えば、常温で固体であっても、他の炭化水素との共存により固体の炭化水素を溶解し、液体とすることができればよい。
【0042】
形質転換体に適用される有機溶媒中における炭化水素の割合は、特に、限定されないが、20%(v/v)以上が好ましく、40%(v/v)以上がより好ましく、60%(v/v)がさらに好ましい。炭化水素を1種又は2種以上を混合してもよい。
【0043】
図1は、炭化水素の処理開始から物質生産が行われるまでの一連の過程を概念的に示した図である。図1(a)は水性溶媒10中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株(親株及び形質転換体)12を添加した直後の様子を示した図である。ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12を添加した直後は、有機溶媒14の周囲、即ち水性溶媒10中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株12が分散した状態で存在している。
【0044】
その後、図1(b)に示すように、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12は有機溶媒14の中に移動し、有機溶媒14中に凝集した状態となる。この時点で、水性溶媒10中にはロドコッカス・エリスロポリスPR4株12はほとんど存在しない状態となる。
【0045】
そして、図1(c)に示すように、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12は有機溶媒14中の炭化水素を代謝して増殖すると共に、水溶性の生成物Pを生成する。有機溶媒14は疎水性であるため、水溶性の生成物Pは有機溶媒14から水性溶媒10中に移動し、水性溶媒10中に分散される。
【0046】
なお、炭化水素の処理は撹拌を行っても行わなくてもよいが、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12を有機溶媒14により多く接触させるという観点及び培地中の溶存酸素量を確保するという観点からは、撹拌を行いつつ処理することが好ましい。撹拌は、例えば撹拌装置や振盪装置を用いることで行うことができる。
【0047】
図2は、炭化水素処理システム2の概念図である。図2に示すように、炭化水素処理システム2は、有機溶媒供給手段20と、水性溶媒供給手段22と、菌体添加手段24と、処理手段26と、生成物分離手段28と、を備えている。
【0048】
有機溶媒供給手段20は、炭化水素を含む有機溶媒を、後述する処理手段26に供給するものである。
【0049】
水性溶媒供給手段22は、培地成分を含む水性溶媒を、後述する処理手段26に供給するものである。培地成分を含む水性溶媒としては、一般細菌用培地を用いることができる。
【0050】
また、一般細菌用培地に他の培地成分を含んでいてもよい。一般細菌用培地としては、例えば、IB液体培地、YG液体培地、LB培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス等を挙げることができる。一般細菌用培地の中でも、IB液体培地を用いることが特に好ましい。
【0051】
菌体添加手段24は、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、後述する処理手段26に添加するものである。ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は培養の経過に応じて自身のコロニー形態をラフ型及びムコイド型のいずれの形態をもとりうるが、いずれの形態でも使用することができる。
【0052】
菌体添加手段24には、予めロドコッカス・エリスロポリスPR4株を前培養する機能を有する前培養手段を備えることもできる。前培養は、例えば前記IB培地を用い、28〜30℃でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を振盪培養することにより行うことができる。
【0053】
処理手段26は、有機溶媒と水性溶媒とからなる培地中でロドコッカス・エリスロポリスPR4株が有機溶媒に含まれる炭化水素を処理するものである。有機溶媒は有機溶媒供給手段20から供給され、水性溶媒は水性溶媒供給手段22から供給される。
【0054】
これにより、有機溶媒−水性溶媒の二層培養系が形成される。そして、菌体供給手段24から水性溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が供給される。その後図示しない撹拌器によって有機溶媒と水性溶媒が撹拌され、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭化水素の代謝及び物質生産を開始する。炭化水素の処理条件は、例えば、図示しない撹拌装置で培地を撹拌しつつ、28〜30℃で、数日〜2週間程度行われる。なお、処理条件は、処理する炭化水素の種類に応じて適宜設定することができる。
【0055】
生成物分離手段18は、水性溶媒中に生産された生成物P、有機溶媒12及び水性溶媒10を分離するものである。分離方法は、従来公知の分離・精製方法(各種クロマトグラフィー又は各種電気泳動等)を利用することができる。また、有機溶媒−水性溶媒の二層培養系の性質を利用して、培地を所定時間放置し、有機溶媒と水性溶媒とが二層に分離された状態となってから、水性溶媒のみ分離し、生産物Pを精製することもできる。
【0056】
なお、有機溶媒中にはロドコッカス・エリスロポリスPR4株が存在しているため、水性溶媒と菌の分離も容易である。処理後は、生成物分離手段18により、有機溶媒12、水性溶媒10及び生成物Pに分離・精製される。
【0057】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源情報部門が発行するカタログにNBRC100887として掲載されており、出願前に自由に分譲されうるものであった。
【0058】
次に本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
[実施例1]各種炭化水素の処理
(1)IB液体培地の調製
以下の要領で、IB液体培地を調製した。即ち、ミリQを水1L用意し、これにグルコース(和光純薬工業)を10g、酵母エキス(DIFCO LABORATOREIS)を10g、MgCl2・7H2O(和光純薬工業)を0.2g、CaCl2・2H2O(和光純薬工業)を0.1g、NaCl(和光純薬工業)を0.1g、FeCl2・6H2O(和光純薬工業)を0.02g、(NH4)2SO4(和光純薬工業)を0.5g加え、NaOH溶液でpH7.2に調整後、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した。
【0059】
(2)各種炭化水素
n−アルカンとして、n−ヘキサン(C6)、n−オクタン(C8)、n−ノナン(C9)、n−デカン(C10)、n−ウンデカン(C11)、n−ドデカン(C12)、n−トリデカン(C13)、n−テトラデカン(C14)、n−ペンタデカン(C15)、n−ヘキサデカン(C16)、n−ヘプタデカン(C17)、n−オクタデカン(C18)を使用した。分岐アルカンとして、プリスタン(C19)、スクワラン(C30)を使用した。
【0060】
(3)供試菌株
供試菌株として、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株及びロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)S−2株を用いた。
【0061】
(4)炭化水素の処理方法(親株を用いた処理)
上記(3)に示した供試菌株を上記(1)で調製したIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0062】
供試菌株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈してφ24試験管(IWAKI GLASS)に入っている新しいIB培地に添加した。続いて上記(2)に示した各種炭化水素を、終濃度5%(v/v)になるようにそれぞれ加え、28℃、110rpmで振盪培養した。そして、培養開始から3日目に供試菌株の生育状況と供試菌株が局在している場所を観察した。ここで、有機溶媒中に存在している場合は「内在」、有機溶媒の表面に存在している場合は「表在」とした。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を用いた場合、培養液の様子を比較したところ、炭素数14以上のn−アルカンと分岐アルカンを添加した条件で、有機溶媒と水性溶媒での濁度の上昇が確認された。
【0065】
また、顕微鏡観察を行ったところ、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭素数14以上の炭化水素粒子中に転移して存在している様子が確認された。
【0066】
炭素数10〜12のn−アルカンを添加した条件では、有機溶媒と水性溶媒の界面にだけ濁度の上昇が認められた。これらを、顕微鏡観察したところ、炭化水素粒子の表面にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が吸着して存在している様子が確認された。
【0067】
炭素数8以下のn−アルカンを用いた条件ではほとんど濁りが認められなかった。また、顕微鏡観察を行ったところ、水性溶媒及び有機溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が観察されなかったことから、他の条件に比べロドコッカス・エリスロポリスPR4株の数が著しく少ないものと予想された。
【0068】
一方、同様の検討をロドコッカス・ロドクラウスS−2株(表中、「S−2株」と表記する)についても行った。その結果、炭素数14以上のn−アルカンと分岐アルカンを添加した条件では、培養液全体に乳濁液の形成が認められた。また、顕微鏡観察を行ったところ、これらの条件ではロドコッカス・ロドクラウスS−2株は水性溶媒中に存在し、炭化水素粒子の表面にロドコッカス・ロドクラウスS−2株が吸着している様子が観察された。
【0069】
炭素数12以下のn−アルカンを添加した条件では、乳濁液の形成は認められず、培養液中にロドコッカス・ロドクラウスS−2株を確認することができなかった。
【0070】
このことから、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株とロドコッカス・ロドクラウスS−2株では、炭化水素との相互作用が異なることが判明した。また、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は炭素数の異なる炭化水素を認識し、炭素数に適応した相互作用を行っていることが示唆された。
【0071】
[実施例2]異なる炭化水素の混合比が炭化水素の処理に与える影響の検討(親株を使用した場合)
相互作用の異なる2種類の炭化水素を選択し、それぞれの割合をかえて、IB液体培地に添加し、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株による炭化水素の処理に与える影響を検討した。
【0072】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0073】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈し、別途調製したIB培地にロドコッカス・エリスロポリスPR4株を添加した。続いて異なる炭化水素をそれぞれ加え、28℃、110rpmで振盪培養した。
【0074】
炭化水素としては、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が移行して代謝することができる炭化水素であるプリスタン(C19)と、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が有機溶媒の表面に吸着して代謝する炭化水素であるドデカン(C12)を混合したものを用いた。そして、混合した炭化水素の終濃度が5%(v/v)になるようにそれぞれの混合比を変化させて培養液に添加し、炭化水素の処理を行った。
【0075】
また、プリスタンと、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が移行して生育することができない炭化水素であるオクタン(C8)を用いて、上述した操作と同様の方法で炭化水素の処理を行った。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、ドデカンとプリスタンを混合した場合では、ドデカンとプリスタンの混合比が8:2〜1:9のときにロドコッカス・エリスロポリスPR4株の有機溶媒への移行が確認された。
【0078】
一方、プリスタンとオクタンを混合した場合では、オクタンとプリスタンの混合比が6:4〜1:9のときにロドコッカス・エリスロポリスPR4株の有機溶媒への移行が確認された。
【0079】
[実施例3]ロドコッカス・エリスロポリスPR4株のアダプテーションの検討(親株を使用)
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株(表中、「PR4株」と表記する)をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0080】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈してφ24試験管(IWAKI GLASS)に入っている新しいIB液体培地に添加した。続いてプリスタン(C19)の終濃度が5%(v/v)になるように加え、28℃、110rpmで3日間振盪培養した。
【0081】
培養開始から3日経過後に、プリスタン(C19)を添加したIB液体培地で培養したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を回収した。そして、回収したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、初期濃度が104cfu/mlになるように、別途調製したIB液体培地に添加した。そして今度はドデカン(C12)の終濃度が5%(v/v)になるように加え、28℃、110rpmで振盪培養した。
【0082】
なお、対照として、ドデカン(C12)を添加したIB液体培地でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を培養した後、プリスタン(C19)を添加したIB液体培地でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を培養した。
【0083】
培養開始から3日目にロドコッカス・エリスロポリスPR4株の生育状況とロドコッカス・エリスロポリスPR4株が局在している場所を観察した。ここで、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭化水素中に存在している場合は「内在」、炭化水素の表面に存在している場合は「表在」とした。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、プリスタン(C19)を単独で処理したときと同様に、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株がドデカン(C12)の中に移行していることが判明した。逆にドデカン(C12)を添加した培地で培養したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を回収し、プリスタン(C19)を添加した培地で培養したところ、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株はプリスタン(C19)中には移行せず、プリスタン(C19)の表面に表在することが判明した。このことから、第1段階目の処理時に、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の細胞壁及び/又は細胞膜が炭化水素の種類に適応して変化し(アダプテーションを起こし)、その性質は、第2段階目の処理に用いる炭化水素が変わっても維持されると推察された。
【0086】
〔実施例4〕
次に、プロテオーム解析による関連タンパク質、および、トランスポゾンを用いた変異導入による関連遺伝子について、説明する。
【0087】
培地
IB寒天培地:ミリQ水800 mlに8 gのglucose (和光純薬工業)、8 gのyeast extract (Becton,Dickison and company)、0.16 gのMgCl2・7H2O (和光純薬工業)、0.08 gのCaCl2・2H2O (和光純薬工業)、0.08 gのNaCl (和光純薬工業)、0.016 gのFeCl2・6H2O (和光純薬工業)、0.4 gの(NH4)2SO4 (和光純薬工業)を加え、pH 7.2に調整後、12 gのagar (和光純薬工業)加え、121℃で15分間オートクレーブした。
【0088】
Luria-Bertani (LB)寒天培地:ミリQ水800 mlに8 gのNaCl (和光純薬工業)、8 gのtrypton (Difco)、4 gのyeast extract (Becton,Dickison and company) を加え、pH 7.2に調整後、12 gのagar (和光純薬工業)加え、121℃で15分間オートクレーブした。
【0089】
Luria-Bertani (LB)液体培地:ミリQ水800 mlに8 gのNaCl (和光純薬工業)、8 gのtrypton (Difco)、4 gのyeast extract (Becton, Dickison and company) を加え、pH 7.2に調整後、121℃で15分間オートクレーブした。
【0090】
試薬
0.5M EDTA:ビーカーにミリQ水をいれスターラーで混ぜながらEDTA・2Na (DOJINDO)を93.05 g加え、10 gのNaOHを加えた後、3 N NaOHによりpH 8.0に調整し、オートクレーブした。
【0091】
10% SDS:メジウムボトルにミリQ水500 mlをいれ、SDS (和光純薬工業)を14.42 g加え振り混ぜて溶かした。泡が消えるのを待ち、NaOHでpH 7.2に調整し、室温で保存した。
【0092】
1 M tris HCl:ミリQ水に121.1 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 8.0に調整した後、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。
【0093】
0.5 M tris-HCl:ミリQ水に6 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 6.8に調整した後、ミリQ水で100 mlまでフィルアップした。
【0094】
50 mM tris-HCl:ミリQ水に0.605 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 8.0に調整した後、ミリQ水で100 mlまでフィルアップした。
【0095】
中性フェノール:1000 mlの1 M tris HClをオートクレーブし、常温まで放冷した。次にフェノール (和光純薬工業)を68℃の温浴に入れて、結晶を溶かして液状にした。このフェノールに酸化防止剤として8-ヒドロキシキノリン (和光純薬工業)を終濃度0.1%になるように加えて撹拌し、静置して二層に分離させた後、上層を除去した。これを繰り返してフェノールをpH 8.0に調整した。
【0096】
3 M 酢酸ナトリウム:ビーカーにミリQ水を加え、スターラーで混ぜながら酢酸ナトリウム (和光純薬工業)を204.05 g加えた。これに氷酢酸を加えてpH 5.2に調整した。ミリQ水で500 mlにフィルアップしてオートクレーブをした。
【0097】
Solution I:ビーカーにミリQ水を加えスターラーで混ぜながら、1 M glucose (和光純薬工業) を15 ml、1 M Tris HCl (pH 8.0)を7.5 ml、0.5 M EDTA (pH 8.0)を6 ml加え、300 mlにフィルアップしてオートクレーブをした。
【0098】
Solution II:ファルコンチューブにミリQ水を50 ml加え、次にNaOH (和光純薬工業)を0.4 g、SDS (和光純薬工業)を5 ml加えて振り混ぜた。
【0099】
TE buffer:ミリQ水に10 mlの1M tris HCl (pH 8.0)と2 mlの0.5 M EDTA (pH8.0)を加え、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。次にこれをオートクレーブし、常温まで放冷した。
【0100】
50×TAE buffer:ミリQ水にTRIZMA base (SIGMA)を242 g、酢酸を57.1 ml、0.5M EDTAを100 ml加え、1000 mlまでフィルアップしたのち、オートクレーブをした。
【0101】
1×TAE buffer:ミリQ水に20 mlの50×TAE bufferを加え、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。
【0102】
プロテナーゼK:プロメガ株式会社の製品を使用した。ミリQ水を用いて2 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクスを使用してろ過滅菌を行った。
【0103】
IPTG:TaKaRaの製品を使用した。ミリQ水10 mlにIPTGを0.238 g溶解し、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0104】
Xgal:TaKaRaの製品を使用した。ミリQ水を用いて20 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0105】
Km:和光純薬工業の製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0106】
Amp:和光純薬工業の製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0107】
Ts:SIGMAの製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0108】
denaturing buffer: SDS (和光純薬工業)を0.1 gを50 mM tris-HCl (pH 8.0)に溶解させ、ミリQ水を100 mlにフィルアップした。
【0109】
Working Reagent (発色試薬):まず、BCA TM Protein Assay Kitに付属するWorking Reagent AとWorking Reagent Bを50:1の割合で必要量調製した。
【0110】
20%(W/V) SDS:ミリQ水を4 mlにsodium dodecyl sulfate (和光純薬工業)を1 g溶解した。
【0111】
sample buffer:ミリQ水3.18 mlに0.5 M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を2.5 ml, 20% SDSを1.9 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.47 ml加えた。
【0112】
2×sample buffer:ミリQ水0.2 mlに0.5M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を5 ml、20% SDSを1.9 ml、1% bromophenol blueを0.2 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.95 ml加えた。
【0113】
分子量マーカー用sample buffer:ミリQ水3.55 mlに0.5 M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を2.5 ml、10% SDSを2 ml、0.5% bromophenol blueを0.2 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.5 ml加えた。
【0114】
SDS-PAGE用分子量マーカー:分子量マーカーを5 μlに、分子量マーカー用sample bufferを95 μl加え混合した。
【0115】
running buffer:ミリQ水を500 mlに、tris aminomethane nuclease and protease tested(ナカライテスク株式会社)を15.15 g、glycine (和光純薬工業)を72 g、SDSを5 g、100 ml、を加え混合した。これを100 mlとミリQ水900 mlを加え混合した。
【0116】
洗浄液:ミリQ水100 ml にmethanol (和光純薬工業)を100 mlを混合し、冷蔵した。
【0117】
停止液:ミリQ水190 ml にacetic acid (和光純薬工業)を100 mlを混合し、冷蔵した。
【0118】
増感液:ミリQ水50 ml にsodium tThiosufate (和光純薬工業)を10 mg加え混合し、冷蔵した。
【0119】
硝酸銀水溶液:ミリQ水50 ml にsilver nitrate (SIGMA)を50 mg加え混合し、遮光して冷蔵した。
【0120】
現像液:ミリQ水50 mlに sodium carbonate (和光純薬工業)を1 g加えた。使用直前に、formaldehyde sodium (nacalai tesque)を50 μlを加えた。
【0121】
100 mMチオ硫酸ナトリウム:ミリQ水50 mlに sodium thiosufate (和光純薬工業)を791 mgを加え混合し、遮光して冷蔵した。
【0122】
1 M DDT:ミリQ水5 mlに ditio threitol (和光純薬工業)を771 mgを加え混合した。
【0123】
1 M 重炭酸アンモニウム:ミリQ水100 mlに ammonium bicarbonateを7.9 gを加え混合し、遮光後冷蔵した。
【0124】
50 mM 重炭酸アンモニウム:ミリQ水を1520 μl に1 M 重炭酸アンモニウムを80 μlを加え混合し、遮光後冷蔵した。
【0125】
トリプシン溶液:修飾トリプシン 100 μg/ml (Promega)を20 μlと添付のbuffer (50 mM Ac OH)を180 μlを混合し、少量ずつ分注して-80℃で保存した。このトリプシン溶液 (100 μg/ml)を20 μl、50 mM 重炭酸アンモニウムを180 μlを使用直前に混合し、遮光し冷蔵した。
【0126】
脱色液:使用直前に30 mM フェリシアン化カリウム500 μlと100 mM チオ硫酸ナトリウム500 μlを混合し、冷蔵した。
【0127】
還元液:ミリQ水950 μlに、 1 M DDT (和光純薬工業)を10 μl、1 M 重炭酸アンモニウムを25 μl使用直前に混合し、冷蔵した。
【0128】
洗浄buffer:ミリQ水3 ml に1 M 重炭酸アンモニウムを75 μlとを使用直前に混合した。
【0129】
アルキル化液:使用直前にIndocaetamide (和光純薬工業)を10 mg、洗浄bufferを1 mlを混合し、遮光後冷蔵した。
【0130】
脱水液:使用直前に100%アセトニトリル (和光純薬工業)を2 ml、1 M 重炭酸アンモニウムを100 μlを混合し、冷蔵した。
【0131】
抽出液:遮光した15 ml容コーニングチューブに100%TFA (和光純薬工業)を1 mlとミリQ水を900 μlを加え、混合し10%TFA溶液とした。続いて、アセトニトリルを500 μlと10%TFA溶液を500 μlを使用直前に混合し、冷蔵した。
【0132】
10%ギ酸:遮光した50 ml容コーニングチューブに、ミリQ水を18 ml加え、ドラフト内でformic acid (和光純薬工業)を2 mlを加えて混合した。
【0133】
0.1%ギ酸遮光した15 ml容コーニングチューブに、ミリQ水を99.9 ml、10%ギ酸を100 μlを加え混合し、冷蔵した。
【0134】
使用した炭化水素は次のとおりである。
【表4】
【0135】
使用したプライマーは次のとおりである。
【表5】
【0136】
使用菌株および培養条件
Rhodococcus属細菌はIB培地で培養を行った。静置培養は、R. erythropolis PR4株は30℃で、R. rhodochrous S-1株、R. rhodochrous S-2株、R. rhodochrous R-1株、R. rhodochrous R-2株は37℃で行い、液体培地による振盪培養はどれも110 rpm、28℃で行った。また、二層培養系には細胞がアルカンの内部に転移する条件の代表としてC19、細胞がアルカンの表面に吸着する条件の代表としてC12を用い、これらのアルカンを5-20% (v/v)になるようIB培地に添加し、28℃、110 rpm、3日間振盪培養した。
【0137】
位相差顕微鏡による観察
炭化水素を添加した本培養液の有機層と水層をそれぞれ3 μlずつ採取した。これをプレパラート (IWAKI)に滴下し、カバーガラス (IWAKI)をのせたものサンプルとした。位相差顕微鏡 (OLYMPUS DP50)のステージにサンプルを乗せ、スライドガラスにイマージョンオイルを一滴垂らした。対物レンズの倍率を100倍にして、まず明視野で観察し、その後位相差で観察を行った。
【0138】
プロテオーム解析
タンパク質の抽出
二層培養系から得られた菌体は、各種遠心分離、あるいは疎水性フィルターを用いた吸引ろ過などを適宜組み合わせて回収した。回収した菌体1 mgに対して2 μlのsample bufferを加え、混合し、100℃で18分間煮沸、また超音波破砕を適宜組み合わせ、タンパク質の抽出を行った。その後、室温まで冷却し、4℃で12000 rpmで10分間遠心分離した。得られた上清を別のエッペンチューブに移しこの液をタンパク質抽出液とし次の操作に用いた。
【0139】
タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度の測定は、Compat AbleTM Protein Assay Reagent Setを用い、基本的に説明書どおりに行った。サンプル中からのSDSおよびメルカプトエタノールの除去は以下の要領で行った。まず、サンプル溶液の容量を計量し、5倍量のreagent 1を加え、混合し、5分間静置した。次に、reagent 2をreagent 1と同量加え混合し、10000 rpmで15分間、4℃で遠心分離した。遠心後、得られた沈殿物を採取しないように上清のみを除去した。これらの操作をもう一度繰り返した。
【0140】
得られた沈殿物の酸の除去とタンパク質を沈殿させるために、アセトン沈澱法を行った。得られた沈澱に、ミリQ水を100 μlとアセトン400 μlを加え、混合した。その後、-20℃で一晩放置し、12000 rpmで15分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈澱を遠心エバポレーターにかけ、沈殿乾固した。
【0141】
その後、denaturing bufferを100 μl加え、超音波破砕機にかけた。条件は、破砕30秒、インターバル30秒で、沈殿が細かくなるまで (約8回)繰り返し、沈澱を溶解させた。各サンプルを12000 rpmで15分間、4℃で遠心分離を行い、上清のみを新しいチューブに回収し、-20℃で保存した。
【0142】
スタンダードの調製の調整は以下の要領で行った。BCA TM Protein Assay Kitに付属する2 mg/ml BSAスタンダード原液50 μlを1.5 mlチューブに採取し、denaturing bufferを150 μlを加え、500 μg/ml BSAスタンダードを調製した。この500 μg/ml BSAスタンダード溶液を2倍希釈していき、250 μg/ml、125 μg/ml、 62.5 μg/ml、31.25 μg/ml、15.625 μg/mlとなるように調製し、これをスタンダード溶液とした。
【0143】
吸光度の測定は以下の容量で行った。まず、上述したスタンダード溶液を25 μlずつ3連で96 wellのプレートにアプライした。次に、予めdenaturing bufferでサンプルを10、20、50、100、200倍に希釈しサンプルを同様に25 μlずつ96 wellのプレートにアプライした。
【0144】
続いて、分注ピペッターで素早くWRを200 μlずつ各wellに加え、アルミホイルで遮光し、37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーで540 nmにおける吸光度を測定した。吸光度値からタンパク質濃度を算出した。
【0145】
SDS-PAGE
まず、泳動キットを5%EXTRAN MA02 (Merck)で洗浄し、15%T Resolving Gelをセットし、running bufferをゲルが隠れる程入れ、T Resolving Gelのコームを外した。次に、ゲルの両端に1×sample bufferを5 μlアプライし、さらに、分子量マーカーを5 μlと各サンプルのタンパク質抽出液を1レーンに10 μlずつアプライした。60 Vで電気泳動を行い、バンドがゲルの下から、約5 mmのところまで来たら、泳動を終了した。
【0146】
電気泳動泳動後、ゲルを取り出し、二枚のガラス板の間にミクロスパーテルをねじ込み、ガラスを一枚はがしてゲルをタッパーに移した。染色操作は以下の要領で行った。
【0147】
固定液を適量加え40分間振盪した。続いて、固定液を捨て、洗浄液を同程度加え、10分間振盪した。同様に洗浄液を捨て、ミリQ水を適量加え10 分間振盪し、その後、液を捨てた。これに増感液を適量加え、1分間振盪した後、液を捨てた。増感液処理後のゲルにミリQ水を適量加え1分間振盪し、液を捨てた。
【0148】
この操作を3回繰り返した。続いて硝酸銀液を適量加え20分間、4℃で振盪した後、液を捨てた。これにミリQ水を適量加え、1分間振盪した後に液を捨てた。この操作を三回繰り返した。最後に現像液を適量加え、注意深く観察しながら、バンドの濃さが調度良くなるまで振盪し、急いで現像液を捨て、停止液を加えた。これを10分間振盪し、さらに、適量のミリQ水で3回洗浄した後、ミリQ水中でゲルを保存した。染色終了後、ゲルをOHPフィルムに挟み、スキャナーで画像を撮り込んだ。
【0149】
切り出し・ゲル内消化
ゲルの切り出しは以下の要領で行った。4℃で保存していた染色済みのゲルを方眼紙と合致させたOHPフィルムの上に置き、それらをライト板の上に置いた。ゲルをメスで1レーンにつき6.5 mm間隔の11分画に切り出し、更に、切り出したゲルを1 mm角に切断後、1.5 mlエッペンチューブにゲル片を入れた。
【0150】
脱色の操作は以下の要領で行った。各サンプルに脱色液を100 μlずつ入れ、サーモミキサーを用いて24℃で10分間振盪した。その後、ゲルを吸い込まないように脱色をピペットマンで取り除いた。これらにミリQ水を500 μl加え、サーモミキサーを用いて24℃で15分間振盪し、ミリQ水を取り除いた。これらの操作を三回繰り返し、脱色液を完全に取り除いた。
【0151】
タンパク質のゲル内消化は以下の要領で行った。まず、パスツールピペットを用いてアセトニトリルを100 μl加え、サーモミキサーを用いて5分間振盪した後、同様にパスツールピペットを用いてアセトニトリルを取り除いた。
【0152】
予めチューブの蓋にシリンジで穴を開けておいたチューブの蓋を用意し、サンプルチューブの蓋と交換した。これらを遠心エバポレーターで15分間遠心し、液を蒸発させゲルを乾固させた。
【0153】
ここで、穴の開いた蓋を取り、元の蓋に戻した。これらに還元液を100 μl加え56℃で60分間振盪し、その後、室温に戻してから還元液を取り除いた。これらのサンプルに洗浄bufferを100 μl加え、24℃で10分間振盪し、同様に液を取り除いた。
【0154】
続いて、アルキル化液を100 μl加えて24℃で45分間、遮光しながら振盪し、その後、溶液を取り除いた。これらに洗浄bufferを100 μl加え24℃で10分間振盪し、その後、脱水液を200 μl加えて24℃で10分間振盪を行った後、全ての溶液を取り除いた。さらに、これらのサンプルに脱水液を200 μl加え、24℃で10分間振盪を行い、液を捨てた。続いてサンプルの乾固を上述した要領で行った。
【0155】
乾固させたサンプルにトリプシン溶液を25 μl加え30分間氷上で静置し、ゲル片にトリプシン溶液をしみこませた。必要な場合、余分なトリプシン溶液を取り除いた。これらのサンプルを37℃で一晩 (約15時間)反応させた。
【0156】
反応終了後、抽出液を50 μl加え24℃、30分間振盪した。フラッシング後、ゲル片を含まないように注意深く溶液取出し、新しいチューブに移した。この抽出操作をもう一度繰り返した。回収したタンパク質抽出溶液は−20℃で保存した。
【0157】
ギ酸処理
-20℃で保存していた各サンプルを取り出し、蓋を予め穴を開けておいた蓋と交換した。遠心エバポレーターで、溶液が完全に蒸発するまで遠心した(約1時間30分)。ここで、穴の開いた蓋を取り、元の蓋に戻した。
【0158】
これらのサンプルに0.1%ギ酸を13 μl加え、ボルテックスで混合した。その後、遠心分離機で、フラッシングして-20℃で保存した。(ここまでの操作は、LC/MS/MSにかける前日に行った。)
LC/MS/MSに供する当日に、ボルテックスによりサンプルを溶解し、フラッシングした後、サンプルをアプライするまで氷上で保存しておいた。
【0159】
nanoLC-ESI-MS/MS測定
Microbore HPLC systemはParadigm MS4 (Michrom Bioresources)を用いた。カラムはspray needle(AMR)を伴った Magic C18 (200 A, 3 μm, 0.2×50 mm; Michrom Bioresources)を用いた。溶媒はbuffer A (2% vol/vol acetonitrile, 0.1% formic acid)およびbuffer B (90% vol/vol acetonitrile, 0.1% formic acid)を用いた。ペプチドの分離・溶出は20分間で5-65% buffer Bのlinear gradientで行った。
【0160】
また、ペプチド抽出物は最初にC18 cartridge (Michrom Bioresources)に吸着・脱塩後、分析カラムにスイッチングバルブを用いて導いた。カラム溶出液は直接 electrospray ionization source (AMR)によりイオン化し、LCQ Deca XP ion trap mass spectrometer (Thermo Fisher)によりpositiveモードにて質量分析した。Peakの検出はXcalibur software (Thermo Fisher)を用いてm/z 500-2000の範囲にて測定した。
【0161】
スペクトルデータの解析
MS/MS dataはSEQUEST 1, 2 (Thermo Fisher)を用いて解析した。ペプチドの同定は、2価のペプチドはcorrelation factor (Xcorr)の値が2.0以上、3価のペプチドは2.5以上の配列情報でありまた、final score (Sf)の値が0.85以上の配列情報を用いた。スペクトルデータはPR4のゲノムデーターベースに対して検索した。
【0162】
Total DNA の抽出
菌株をIB寒天培地に白金耳で一面に植え、30℃で4〜5日間培養した (1サンプルにつき2枚)。菌体を回収しファルコンチューブに移し、菌体湿重量1g当たり5 mlのTEバッファーに懸濁した。この細胞懸濁液に終濃度4 mg/mlになるようにリゾチームを加え、30℃で菌体に粘度が出るまで培養した (1時間以上)。このサンプル溶液に0.5 M EDTA溶液 (終濃度0.1 M)、とプロテナーゼK (終濃度50 μg/ml)を加え、30℃で10分間培養した。
【0163】
その後、このサンプル溶液に20%SDS溶液を終濃度1%になるように加え、すぐに転倒撹拌して37℃で培養した。次に、等量のTris-HClで飽和させた中性フェノール溶液 (pH 8.0)を加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0164】
次に、このサンプル溶液に中性フェノールと等量のクロロホルム溶液 (クロロホルムとイソアミルアルコールを体積比24:1で混合したもの)をサンプルと等量加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。この操作は白い中間層がなくなるまで繰り返し行った。
【0165】
中間層がなくなった後、サンプルと等量のクロロホルム溶液を加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0166】
このサンプル溶液に、1/10体積の3 M酢酸ナトリウム溶液と等量のイソプロパノール溶液を加え、ゆっくり混合した後、-80℃で30分間恒温した。このサンプル溶液を12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。
【0167】
この沈殿に適当量(約5 ml)の70%冷エタノールを加え、丁寧に洗浄した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。この沈殿の入った容器を逆さまにすることで風乾し、適当量のTEバッファー (1 ml)に溶解させ、2 mlエッペンドルフチューブに移した。
【0168】
このサンプル溶液にRNase Aを終濃度40 μg/mlになるように加え、37℃で1時間培養した。RNase処理後のサンプル溶液は前述したようにフェノール、クロロホルムで処理し、イソプロ沈を行い、70%エタノールでのリンス、そしてTEバッファーに溶解した。その後サンプル溶液の一部をとり、0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、目的のDNAが抽出されていること確認した。
【0169】
プラスミドDNAの抽出
RhodococcusからのプラスミドDNA抽出
寒天平板培地上の菌体楊枝1かき分を滅菌ミリQ水に懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。その沈殿にリゾチームの終濃度が10 mg/mlのSolutionIを100 μl加え37℃で30分間培養後、さらにSolutionIIを50 μl加えて75℃で培養を行った。その後室温に冷まし酸性フェノールを15 μl加え撹拌した。15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し上清を回収した。
【0170】
このサンプル溶液に中性フェノールと等量のクロロホルム溶液(クロロホルムとイソアミルアルコールを体積比24:1で混合したもの)をサンプルと等量加え、5分間転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。この操作は白い中間層がなくなるまで繰り返し行った。
【0171】
中間層がなくなった後、サンプルと等量のクロロホルム溶液を加え、5分間転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0172】
このサンプル溶液に、1/10体積の3 M酢酸ナトリウム溶液と等量のイソプロパノール溶液を加え、ゆっくり混合した後、-80℃で30分間恒温した。このサンプル溶液を12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。
【0173】
この沈殿に適当量 (約5 ml)の70%冷エタノールを加え、丁寧に洗浄した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。この沈殿の入った容器を逆さまにすることで風乾し、適当量のTEバッファー (1 ml)に溶解させ、2 mlエッペンドルフチューブに移した。
【0174】
このサンプル溶液にRNase Aを終濃度40 μg/mlになるように加え、37℃で1時間培養した。RNase処理後のサンプル溶液は前述したようにフェノール、クロロホルムで処理し、イソプロ沈を行い、70%エタノールでのリンス、そしてTEバッファーに溶解した。その後サンプル溶液の一部をとり、0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プ
ラスミドDNAを確認した。
【0175】
E. coliからのプラスミドDNA抽出
熱アルカリ法
寒天平板倍地上の菌体楊枝1かき分を滅菌ミリQ水に懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。その沈殿にリゾチームの終濃度が10 mg/mlのSolutionIを100 μl加え37℃で30分間培養後、さらにSolutionIIを50 μl加えて75℃で培養を行った。その後室温に冷まし酸性フェノールを15 μl加え撹拌した。15,000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し、上清を回収し0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プラスミドDNAを確認した。
【0176】
Wizard(R) SV Minipreps DNA Purification Systemを使用してのプラスミド抽出
Wizard(R) SV Minipreps DNA Purification System (Promega)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。プレートから白金耳で菌体を掻き取り、ミリQ水で懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。次に250 μlのCell Resuspension Solutionを加え懸濁し、250 μlのCell Lysis Solutionを加え転倒撹拌を4回した。次に、10 μlのAlkaline Protease Solutionを加え転倒撹拌を4回し5分間静置した。
【0177】
次に、Neutralization Solutionを加え転倒撹拌を4回し、15,000 rpm、4℃、10分間遠心分離した。上清をスピンカラム付きのチューブに移し、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。チューブの溶液を捨て、750 μlのWash Solutionをスピンカラムに加え15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。
【0178】
チューブの溶液を捨て、250 μlのWash Solutionをスピンカラムに加え15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。チューブの溶液を捨て、15,000 rpm、4℃、2分間遠心分離した。スピンカラムを新しいチューブに移し変え100 μlのNuclease-Free Waterを加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を回収し0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プラスミドDNAを確認した。
【0179】
アガロースゲルからのDNAの回収
QIAquick(R) GelExtraction Kit (QIAGEN)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。アガロースゲルを用いてDNA溶液の電気泳動を行った。目的の移動度の部分をトランスイルミネーター上でカッターナイフを用いて切り出した。2 mlエッペンチューブに切り出したゲルを加えて、ゲルに対して3倍容量のBuffer QGを添加したし50℃で10分間反応させた。ゲルスライスが完全に溶解後、ゲルと同容量のイソプロパノールを加えて撹拌した。
【0180】
スピンカラム付きのチューブにサンプル溶液を加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て、500 μlのBuffer QGを加えて15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て、750 μlのBuffer PEを加えて15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。
【0181】
スピンカラムを新しいチューブに移し変え、50 μlのBuffer EBをメンブレン中央に加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。目的のDNA断片が切り出されていることを確認するために、0.8%アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。
【0182】
PCRによるDNAの増幅
PCR用のチューブにtotal DNAを1 μl、dNTPを4 μl、バッファーを5 μl、EX taqを0.5 μl、Forward PrimerとReverse Primerをそれぞれ1 μlずつ、滅菌ミリQ水を37.5 μl加え計50 μl反応系を作成した。PCR反応は95℃ 10min、 (95℃ 1min→ 70℃ 1min→ 72℃ 2min)×30、72℃ 10minで行った。アニ−リング温度は60℃〜75℃に適宜変更した。PCR後そのサンプルを5 μl をとり、0.8%あるいは1.6%アガロースゲルを用いて確認の電気泳動を行った。
【0183】
DNAシークエンス
シークエンス反応
DNA溶液を100℃で10分間熱変性させ、氷水上で急冷した。PCR用のチューブに変性したDNAを2 μl〜11.8 μl、bufferを3 μl、Big Dyeを2 μl、滅菌ミリQ水を適宜加え、計20 μlの反応系を作成した。シークエンス反応はあらかじめ96℃にプレヒーティングし (96℃ 30sec→ 50℃ 15sec→ 60℃ 4min)×24で行った。
【0184】
シークエンス反応の精製
シークエンス反応後のサンプル溶液を1.5 mlエッペンチューブに移しかえ、5 μl の125 mM EDTA、60 μlの99.5%エタノールを加え転倒撹拌し室温で15分間静置し、15,000 rpm、4℃、20分間遠心分離した。上清を除去し、70%エタノールを加え転倒撹拌し、15,000 rpm、4℃、10分間遠心分離した。上清を除去し、サンプルを風乾した、遮光して−20℃で保存した。
【0185】
シークエンス反応の精製
シークエンス解析はABI Prism model 3100 automatic sequencer (Applied Biosystems)で行った。このステップは日本大学生物資源科学部総合研究所に委託した。得られたDNA配列の相同性検索はインターネットで、National Center for Biotechnology Information (NCBI) [HPアドレス:
1252304127890_5
]内のBLAST Program[Standard nucleotide-nucleotide BLAST (
1252304127890_6
) ] を使用して行った。
【0186】
クローニング
TOPO TA Cloning(R) Kitsを利用したTAクローニング
クローニングにはTOPO TA Cloning(R) Kits (Invitrogen)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。DNA溶液を1 μl〜4 μl、Salt Solutionを1 μl、TOPO(R) Vectorを1 μl、滅菌ミリQ水を加え、計6 μlの反応系で作成した。30分間室温で反応させ、次にこの反応系を氷上に置き、全量を予めOne shot(R)Chemically Competent E. coliを培養チューブによくピペティングして移したものに加えた。30分間氷上に置き、その後42℃で温めた。
【0187】
室温でSOC培地を250μl加え、37℃で1時間振倒培養を行った。その後15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し液体を沈殿が隠れるまで、捨てて懸濁し全量を事前に温めておいた選択培地 (Amp100 μg/ml、X-gal、IPTG入りのLB培地)に塗沫植菌し、37℃で一晩培養した。培養後コロニーを滅菌された楊枝を用いて単離保存した。
【0188】
ライゲーション
TakaRa Ligation kit ver.2.1 (宝酒造株式会社)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。1.5 mlエッペンチューブにDNA溶液とI液を等量加えて計20 μl、ピペットでやさしく混合し、16℃で30分間反応させた。その反応液をそのまま、あるいは必要に応じてエタノール沈殿で精製して次の操作に用いた。
トランスフォーメーション
E. coliの形質転換
コンピテントセルはJM109 COMPETENT high (TOYOBO)またはHB101 COMPETENT high (TOYOBO)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。コンピテントセルを氷水中で溶解し、形質転換するDNAを加え氷水中で30分間静置した。42℃で30秒間温め、氷水中で2分間冷却した。次に900 μlのSOC 培地を加え、37℃で1時間振倒培養を行った。
その後15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し液体を沈殿が隠れるまで、捨てて懸濁し全量を事前に温めておいた選択培地 (Amp 50 μg/mlまたはKm 50 μg/ml、X-gal、IPTG入りのLB培地)に塗沫植菌し、37℃で一晩培養した。培養後コロニーを滅菌された楊枝を用いて単離保存した。
【0189】
エレクトロポレーション
菌体を5 mlのIB液体培地に白金耳で植菌し、110 rpm、28℃で3〜5日間培養した (前培養)。5〜15 μl (もしくは濁度が0.01〜0.05になるように) の前培養液を5 mlの新しいIB液体培地に植え替えた。この時、菌株によっては培養液にペニシリンGカリウムを終濃度0.1 μg/mlになるように加えた。OD660=0.42〜0.8になるまで110 rpm、28℃で約10〜20時間ほど培養した (本培養)。
【0190】
培養液を15 mlの遠沈管に移し替え、12,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して菌体を回収した。5 mlの氷冷した滅菌ミリQ水を沈殿に加えて懸濁し、12,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。
【0191】
5 mlの氷冷した10 mMシュークロース溶液を沈殿に加えて懸濁、12,000 rpm、4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。この操作を2回行なった。次に1 mlの氷冷シュークロース溶液を沈殿に加えて懸濁し、1.5 mlマイクロチューブに移し替えて15,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。
【0192】
沈殿に40 mlの氷冷シュークロース溶液を加えて懸濁し、5〜20 μlのDNAサンプルを加えて氷水上で15分間保冷した。細胞-DNA混合液を氷冷したキュベットに移し替え、チャンバーにセットした後、印加電圧1.50 kV、抵抗値400 Ω、電気容量25 μFD (この条件でパルスワイドが10 msecになる) の条件でエレクトロポレーションした。
【0193】
キュベットごと氷水上で10分間保冷し、360 μlのIB液体培地をキュベット内に加えた。滅菌パスツールピペットを使用して滅菌プラスチック試験管に移し替え、600 μlのIB液体培地を加えた。110 rpm、28℃で2〜4時間培養し、遠心分離により濃縮してからIB寒天培地 (各種抗生物質を含む) に撒いて37℃で2〜4日間培養した。
【0194】
液体培地を用いた添加培養でC12の生育の比較
各菌株をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。この前培養液を109 cfu/ml として想定し、104 cfu/mlになるように適宜希釈してφ24試験管 (IWAKI GLASS)に入っている新しい培地に摂取した。続いてC12を終濃度5% (v/v)になるように加え、28℃、110 rpmで振盪培養した。
【0195】
これらの培養液を24、48、72、96、144時間ごとにサンプリングし、生菌数を測定した。実験は以下の要領で行った。試験管をボルテックスで懸濁し、すばやく懸濁液を100 μl取り、IB液体培地900 μlが入った1.5 ml容エッペンに加え10-1倍希釈とした。
【0196】
これを10-7倍希釈まで作製した。この10-5〜10-7の希釈系列を各々100 μlずつIB寒天培地に3枚ずつまきスプレッディングした。30℃で2日間 (コロニーが確認できるまで)培養し菌数を測定した。
【0197】
プロテオーム解析による関連タンパク質の検討
特異的発現タンパク質の探索
アルカンなしのコントロール、二層培養系に細胞がアルカンの内部に転移する条件の代表としてC19、細胞がアルカンの表面に吸着する条件の代表としてC12を用いた三つの条件でSDS-PAGEを行った結果、バンドパターンに大きな差は確認できなかった (図3)。
【0198】
続いて各レーンを6 mm間隔で切り出し、トリプシンによるゲル内消化を経た後、LC-MS/MS解析に供した。LC-MS/MS解析により、C19添加条件で1%以上検出されたタンパク質を表6にまとめた。得られたデータの中で、1)全検出タンパクのうち1%以上を占め、2)コントロールと比べC19添加により検出量が上昇したタンパク質で、3)再現性よく検出されたGroEL2に注目した。
【0199】
表中の%のカラム数値は、各タンパク質の検出された割合を示し、C19/Nのカラムの数値はアルカン無添加のコントロールと比較した上昇率を示す。
【0200】
LC-MS/MSで検出されたタンパク質群は次のとおりである。
【表6】
【0201】
GroELとは分子シャペロンの一種で、タンパク質のフォールディングを助けることが知られており、熱ストレス、栄養欠乏、感染、など様々な条件で発現が誘導される(Jenkins 1991 ;J. Bacteriol, 173:1992-1996、Young 1989; Cell, 59:5-8)。E. coliでは、GroELは、あらゆる温度で生育に必須であることが知られている(Fayet 1989; J. Bacteriol, 171:1379-1385)。
【0202】
また、GroELは分子量57kDaのサブユニット7つからなるリングが背中合わせに二つ重なった14量体構造をとっており、コシャペロンであるGroESと複合体を形成(Xu 1997; Nature, 388:741-750) し全タンパク質の10%〜15%をフォールディングすることが知られている(Ewalt 1997; Cell, 90:491-500)。
【0203】
その他にCorynebacterium細菌やStreptomyces 細菌など高GC含量のグラム陽性菌はGroELを二つ持ち、GroEL2はGroESELオペロンとは離れて存在し、他の遺伝子とのオペロンも形成していないことが知られている(Barreiro 2005J. Bacteriol, 187:884-889、Servant 1993 Gene, 134:25-32)。
【0204】
GroEL1とGroEL2がそれぞれどのような機能を持つか知られていなかったが、2005年にCellに掲載された論文ではMycobacteriumでGroEL1が破壊されるのに成功し、破壊株はバイオフィルム形成が阻害されたという報告がなされた (Anil 2005)。このように、LC-MS/MSで検出されたGroEL2に注目した。
【0205】
PR4株のgroEL2遺伝子クローニング
プラスミドの作製
PR4株のDNAを用いて、プライマー366F-11とGroEL-R1の組み合わせでgroEL2遺伝子を含む配列を増幅させ、目的の分子量であるDNA断片を得た(図4)。このPCR産物をTOPO TA Cloning(R) Kitsを用いてTAクローニングを行った (図5、レーン4)。インサートチェックをするためにそのクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図5、レーン5) と、インサートに用いたgroEL2遺伝子のPCR産物 (図5、レーン1) を比較した。
【0206】
その結果、両方とも1.9 kb付近に同じ大きさのバンドがあることから、topovectorにgroEL2遺伝子がクローニングされたと判断した。
【0207】
次に、クローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプルを用いてRhodococcus-E. coliのシャトルベクターであるpK4のEcoRIサイトにクローニングした。
【0208】
インサートチェックをするためにそのクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図6、レーン3) と、topovectorにgroEL2遺伝子がクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図6、レーン1)を比較した。
【0209】
その結果、二つとも1.9 kb付近に同じ大きさのバンドがあることから、pK4にgroEL2遺伝子がクローニングされたと判断した。また、得られたプラスミドをKpnIとApaIを用いて処理し (図6 (A)、レーン4) 向きの確認をし、Kmのプレッシャーによりインサートの転写がされるようにpK4のKm耐性遺伝子の転写される向きと同じ向きにクローニングされたプラスミド [図6 (B) (I) ] を次の操作に用いた。
【0210】
groEL2遺伝子のPR4導入
PR4株のgroEL2遺伝子を含むプラスミド (pK4+groEL2) をエレクトロポレーションによりPR4株に導入した。得られた形質転換体を二層培養系で培養し、細胞の局在性を観察した。各条件での結果を図7に、一連のアルカンとの相互作用を図8、図17、図18に示した。
【0211】
その結果、C15以上のアルカンを添加した条件では、親株と同様にアルカン粒子内への転移が観察されたが(図9)、C10-C14のアルカンを添加した条件では、親株とは異なり、粒子表面に吸着している細胞と粒子内に転移している細胞が同時に観察された (図10)。
【0212】
また、C7,C8を添加した条件では、親株では細胞が観察できなかったのに対し、形質転換体はアルカン粒子表面に吸着している様子が観察された (図11)。ここから、groEL2遺伝子の導入によりアルカンとの相互作用が変化し、C7,C8を添加した条件でも生育することができるようになったものと推測された。
【0213】
これらのようにgroEL2遺伝子の導入により局在性の変化と生育が良くなることが考えられたので、代表としてC12添加条件での生育曲線を作り、確認した。
【0214】
その結果、培養初期では親株、形質転換株共に同程度の生育を示したが、50時間以降から形質転換株の生菌数が伸び始め、最終的に生菌数が約100倍増大していることがわかった (図12)。これらのことから、GroEL2が細胞の局在性の決定と生育に関与していることが示唆された。
【0215】
PR4由来のgroEL2遺伝子の他の株への導入
PR4株のgroEL2遺伝子を含むプラスミドを同属であるR. rhodochrous S-1株、S-2株、R-1株、R-2株に導入した。得られた形質転換株をC12、C19の添加条件の二層培養系で培養し、細胞の局在性が変化しているかを確認するため、それぞれの親株と形質転換株を比較した (図13、図14、図15、図16)。
【0216】
その結果、R-1株において、C12を添加した条件では、親株では細胞が観察できなかったのに対し、形質転換株はアルカン粒子表面に吸着している様子が観察された [図13 (I), (II) ]。
【0217】
これはPR4株の結果と同様に、groEL2遺伝子の導入によりアルカンとの相互作用が変化し、C12を添加した条件でも生育することができるようになったものと推測された。一方、C19を添加した条件では、親株と形質転換株はアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった [図13 (III), (IV) ]。
【0218】
R-2株においては、親株と形質転換はC12添加条件ではほとんど生育できず [図14 (I), (II) ]、またC19添加条件ではアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった [図14 (III), (IV)]。
【0219】
S-1株においては、親株と形質転換はC12添加条件、またC19添加条件でアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった (図15)。
【0220】
S-2株においては、親株と形質転換はC12添加条件、またC19添加条件でアルカンに対して表面での吸着していることが観察され変化はなかった (図16)。
【0221】
R-1株において、親株では生育できないC12添加条件で形質転換株は生育できたことから、PR4株のGroEL2が他の種でも生育に関与していることが確認れた。
【0222】
塩化マグネシウムの影響の検討
IB培地中のMg塩が形質転換体の局在性、および生育性に当たる影響について検討した。形質展開として、GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリスを使用した。
【0223】
既述の塩化マグネシウムが添加されたIB培地を利用した形質転換体の特性と、実質的に塩化マグネシウムが存在しないIB培地を利用した形質展転換体の特性を比較すると、図19に示すように、C6の炭化水素がIB培地に添加された環境下では、前者の形質転換体は生育できないのに対して、後者の形質転換体は生育できることがわかった。
【0224】
すなわち、形質転換体の培地中に含まれる無機塩の濃度を極力低下させることによって、形質転換体はより低炭素数の炭化水素が存在する環境下でも生育でき、これを分解・代謝することができる。
【0225】
C6を添加した条件で塩化Mgを44.3マイクロモラーで添加するとPR4(pK4+EL2)でも生育できなくなるので、この濃度が上限と思われる。
【0226】
この実施形態によれば、さらに、MgCl2濃度を減少させていくことにより、その菌の局在性は転移型から吸着型へ変化する方向に向かい、その濃度が8.9 mMの付近で転移型と吸着型の割合が逆転し、それ以下の濃度では転移型の菌体の割合が多くなることとなった。
【0227】
また、既述の現象が塩化マグネシウムに特有な現象かどうかを検討するため、上述したK2HPO4及び(NH4)2SO4のみを含む培地に、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムをIB倍地中の塩化マグネシウムと同濃度になるように添加し、C12存在下で局在性を検討した。その結果、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなどの他のマグネシウム塩を添加した条件でも、塩化マグネシウムと同様に細胞はC12粒子表面に吸着して存在した。
【0228】
このように、ロドコッカス属細菌を用いて親油性溶媒を代謝するために、前記細菌の培地に添加される無機塩のうち、前記細菌の親油性溶媒に対する局在性に影響を持つも
無機塩の濃度を調整することによって、細菌を溶媒に吸着する形態から溶媒に転移する形態に変更することができた。
【0229】
マグネシウムなどこれら無機塩の濃度は、菌の局在性を制御する観点から、88.5 nM以下、好ましくは、8.9 nM以下、さらに好ましくは、0.9 nM以下である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、及び、これを用いた炭化水素の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌は、土壌や海洋などにありふれて存在するグラム陽性細菌、高G+C含量のコリネ型細菌の一種である。ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌には、石油系炭化水素やポリ塩化ビフェニール類(PCB)などをはじめとした数多くの難分解性化合物に対して分解・資化能力をもつことに加え、アクリルアミドや有用酵素群、あるいは細胞外多糖をはじめとした機能性バイオポリマーなどの生産菌が多く存在することが知られている。
【0003】
それゆえ、産業的に重要な菌群として位置づけられており、低エネルギー化や環境負荷を削減できるバイオプロセスによる環境浄化・物質生産への応用などが期待されている(非特許文献1)。
【0004】
特に、バイオプロセスを考える場合、応用が期待される微生物には、有機溶媒を含む特殊な環境下での良好な生育や活発な代謝活動などの性質が求められる。
【0005】
また、石油流出事故などによる石油汚染環境の浄化に必要な微生物にも、高濃度難揮発性化合物存在下でこれらの分解を行いながら良好な生育を示すために、これらに対する分解能だけでなく、共存する難揮発性化合物の毒性に対する耐性能が高いことが求められる。
【0006】
上述したこれらの性質を解析するためには、まず、その切り口として微生物の有機溶媒耐性が必要であり、特にバイオプロセスにおいては、高濃度有機溶媒存在下での生育が求められる。
【0007】
微生物の有機溶媒耐性に関する研究では、これまでにグラム陰性菌の大腸菌やシュードモナス(Pseudomonas)属細菌などのモデル微生物を中心に遺伝生化学的な研究が行われ、細胞表層構造の変化やエプラックスポンプ、ベシクルの形成などの耐性機構が提案されている(非特許文献2)。
【0008】
一方、グラム陽性菌においては、炭化水素分解遺伝子などに関する遺伝性化学的研究は進んできたが、有機溶媒耐性に関した研究は多くない。このことは、一般にグラム陽性菌は陰性菌に比べ有機溶媒耐性レベルが低いと考えられていることに起因していると予想される。
【0009】
しかしながら、バイオプロセスを考える場合には、極めて応用に近い段階の微生物において、実際の利用環境に近い条件での有機溶媒耐性に関する情報が求められる。上述したようにロドコッカス(Rhodococcus)属細菌はバイオプロセスへの応用が期待されていることから、同菌の有機溶媒耐性に関する知見の蓄積が必要である。
【0010】
Iwabuchiらは、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)S−2株が高濃度石油耐性石油分解菌であることを見出し、その石油耐性に検討を加えた結果、同菌の生産する細胞外多糖(以下、「EPS」という)が長鎖アルカンなどの難揮発性有機溶媒の耐性に深く関与していることを明らかにした。
【0011】
さらに、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌のコロニー形態と溶媒耐性について検討したところ、EPS生産量の少ないラフ型菌は溶媒に親和性が高く結果的に溶媒感受性であり、一方で、EPS生産量の多いムコイド型菌は耐性を示したことから、同属細菌においては、コロニー形態と有機溶媒耐性に高い相関があることを明らかにした。
【0012】
また、EPSは溶媒に感受性のラフ型菌にも溶媒耐性を与えることが示されており、これらのことから、ムコイド型コロニーの形成が同属細菌の溶媒耐性を考える上での一つの指標であることが見出された(非特許文献3)。
【0013】
ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株は分岐アルカンの一種であるプリスタン(2,6,10,14-tetramethyl-pentadecane)分解菌として単離された株であり(非特許文献4)、培養の経過と共にEPSの生産に基づいた自身のコロニー形態をラフ型→ムコイド型→ラフ型へと変化させる株である。
【0014】
同株は難揮発性有機溶媒に耐性を示すことが知られていることから、ゲノム解析株に選定され、また、宿主−ベクター系の開発にも着手されている。従って、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株は、近い将来、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌の中で、遺伝子操作系の発達した株になることが予想されていたが、最近では、PR4株は、産業的利用価値が高い菌株であることからゲノム解析がなされ、そのプラスミドの全配列が公表された (非特許文献5)。また、出願人も2種類のEPSの化学構造を明らかにした (非特許文献6)。
【0015】
Rhodococcus属細菌や類縁菌での有機溶媒耐性に関する研究では、温度変化、栄養欠乏、など様々なストレス状況下で細胞質膜の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比率変化やcis/trans脂肪酸の比率変化などの膜構造変化が膜の透過性に変化を起こし、その環境に適応させることが知られているが、この膜の透過性変化は有機溶媒耐性にも寄与するといわれている(非特許文献7,8)。
【0016】
また、Loredanaらは、炭化水素と各種菌株との相互作用を解析した研究において、PR4株と同種のR. eythropolis 20S-E1-c株はC16に対して一部の細胞が炭化水素粒子の内部に転移していることが確認されたが、その他に供試したAcinetobactor属、Rhizomonas属、Pseudomonas属細菌はC16に対して吸着し転移は確認されなかったことを報告している (非特許文献9)。
【0017】
なお、岩淵らはロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株が炭素数14以上のテトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、プリスタン、スクワラン等に転移して、これらの炭化水素を代謝・分解できることを明らかにした(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006-325433号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Finnerty, W. R. et al. (1992) Annual Review of Microbiology, p193-218.
【非特許文献2】Ramos, J. L. et al. (2002) Annual Review of Microbiology, p743-768.
【非特許文献3】Iwabuchi, N. et al. (2000) Applied Environmental Microbiology, 66: 5073-5077.
【非特許文献4】Komukai-Nakamura, S. et al. (1996) Journal of Fermentation and Bioengineering, 82:p570-574
【非特許文献5】Sekine et al. 2006、Appl.Environ.Microbiol, 8:334-346)
【非特許文献6】Urai, M. et al. (2006) Carbohydr Res, 341:616-623,766-775
【非特許文献7】Cronan,J.E et al. (2002) Microbiol, 5:202-205
【非特許文献8】Whyte, L. G. et al. (1999) Appl.Environ.Microbiol, 65:2961-2968
【非特許文献9】Loredana,S. et al. (2004) Appl. Environ.Microbiol, 70:6333-6336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
既述のように、従来のロドコッカス属微生物は炭化水素の分解・代謝に有用であるものの、炭素数が一定以下の炭化水素には転移出来ないなど、分解・代謝できる炭化水素には制限があるという課題があった。
【0021】
また、従来のロドコッカス属微生物は、低炭素数の炭化水素の存在下では、生育できないため、このような炭化水素の分解・代謝に用いることはできなかった。
【0022】
そこで、本願発明は、ロドコッカス属の形質転換体を提供することによって、低炭素数の炭化水素に対するロドコッカス属細菌の生育可能性を向上し、また、従来よりも少ない炭素数の炭化水素の分解・代謝に有効な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
既述のように、Rhodococcus属細菌は他の微生物とは異なる特徴的な有機溶媒耐性機構を有していると推測されるが、未だその詳細は明らかでない部分が多い。
このような状況下の中で、本願の発明者は、(1)ロドコッカス・エリスロポリスPR4株(以下、ロドコッカス・エリスロポリスを「Rh」と略称し、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、「PR4」と略称する場合がある。)は、ゲノム解析がなされていること、(2)同株の示す有機溶媒との相互作用が極めて特徴的であること、の理由から、同株を有機溶媒耐性の研究をするための適した材料と考え、遺伝生化学的側面と物理化学的側面から研究を行ってきた。
【0024】
これまでにPR4とアルカンとの物理化学的な相互作用を解析した結果、例えば、pristaneの添加により、細胞表面の親油性が上昇し、結果として培地/アルカン界面の界面ギブスエネルギーが減少することにより細胞がアルカンの内部へ転移できることが明らかとなった 。
【0025】
そこで、さらに、本発明は、これらの物理化学的性質の違いの原因を分子レベルで明らかにするため、(1)プロテオーム解析による関連タンパク質の検討、および、(2)トランスポゾンを用いた変異導入による関連遺伝子の検討を行った。
【0026】
PR4は、プリスタン(2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン)分解菌として単離されたアルカン分解菌であるが、アルカンの炭素数の長さにより、アルカンとの相互作用が変わる。同菌のこのような性質は極めて特徴的であり、グリーンバイオテクノロジーへの応用が提案され、既にゲノム解析が行われた。
【0027】
そこで、本発明では、プロテオーム解析によるアルカンとの相互作用に関連するタンパク質の検討を行い、各種培養条件で生育させたPR4から全タンパク質を抽出し、LC-MS/MSで解析した。
【0028】
その結果、プリスタンの添加により再現性良く高発現していたタンパク質GroEL2を見出した。続いて、groEL2遺伝子をクローニングし、各種菌株に導入したところ、細胞の局在性が変化し、親株では生育できなかった条件で生育できるようになった。
【0029】
また、ドデカン添加条件では親株に比べ生育が約100倍増大していることがわかった。以上のことから、二層培養系においてGroEL2が細胞の局在性の決定と生育に関与していることが判明した。すなわち、groEL2遺伝子が導入された、Rhodococcus erythropolis PR4株では、C6〜C8存在下での生育が可能となり、親株では生育できない、例えば、C8を培地に添加しても形質転換株は油滴表面に吸着して生育できるようになった。
【0030】
本発明は、GroEL2遺伝子をロドコッカス・エリスロポリス属に導入した形質転換体、およびこれを炭化水素の分解・代謝手段として提供するものである。GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリス属の形質体は、C14以下C6以上の炭化水素の存在下でも生育できるため、これらの炭化水素を分解・代謝できる可能性を有し、特に、非形質転換体では分解・代謝ができなかったC10−C14の炭化水素には吸着よりも転移が優位になるため、これらの分解・代謝を可能とするものである。
【発明の効果】
【0031】
本願発明によれば、ロドコッカス属細菌の新規な形質転換体を提供することによって、低炭素数の炭化水素に対するロドコッカス属細菌の生育可能性を向上し、また、従来よりも少ない炭素数の炭化水素の分解・代謝に有効な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】炭化水素の処理開始から物質生産が行われるまでの一連の過程を概念的に示した図である。
【図2】炭化水素処理システム2の概念図である。
【図3】PR-4株のSDS-PAGEパターンである。
【図4】プライマー366F-11とGroEL-R1を用いてgroEL2を増幅したPCR産物のバンドパターンである。レーン:1〜5は、プライマー366F-11とGroEL-R1を用いてgroEL2を増幅したPCR産物を示す。
【図5】PCR産物をTAクローニングしたものの泳動確認に係るバンドパターンである。レーン1は、groEL2のPCR産物、レーン2はtopovector、レーン3はこれをEcoRI処理したサンプル、レーン4はtopovector+groEL2、レーン5はこれをEcoRI処理したサンプルである。
【図6】プラスミドの作製を示すものであり、(A)はインサートチェックと向き確認の泳動結果である。 レーン1はtopovector+groEL2 をEcoRI処理したサンプル、レーン2はpk4+ groEL2、レーン3はpk4+ groELをEcoRI処理したサンプル、レーン4はpk4+ groELをApaIとKpnIで処理したサンプルである。 (B)は pk4+ groELの模式図である。
【図7】PR-4(pk4+groEL2) の各生育条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)は C8添加、 (B)はC12添加、(C)は C19添加を示すものである。
【図8】PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示すものである。
【図9】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC19添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)はPR-4、 (B)はPR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図10】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC12添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A) はPR-4、(B) PR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図11】PR-4 (pK4+groEL2 ) のC8添加条件での動態を示す顕微鏡写真であり、(A)は PR-4、 (B)はPR-4 (pK4+groEL2 )である。
【図12】PR-4 (pK4+groEL2 )のC12存在下での生菌数を示す特性図であり、○は野生株の栄養培地のみでの生菌数であり、△は野生株のC19添加条件のものであり、□は野生株のC12添加条件のものであり、◇はPR-4 (pK4+groEL2 )のC12添加条件のものである。
【図13】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-1株)を示す顕微鏡写真。
【図14】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-2株)を示す顕微鏡写真。
【図15】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (S-1株)を示す顕微鏡写真。
【図16】他の種へgroEL2遺伝子の導入 (R-2株)を示す顕微鏡写真。
【図17】PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す特性図である。
【図18】IB培地に塩化マグネシウムが実質存在しない環境下での、PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す顕微鏡写真。
【図19】IB培地に塩化マグネシウムが実質存在しない環境下での、PR-4 (pK4+groEL2 ) とアルカンとの相互作用を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施形態について更に詳細に説明する。なお、「炭化水素」には、鎖式炭化水素および環状炭化水素が含まれる。
【0034】
「炭化水素の処理」とは、ロドコッカス・エリスロポリス属の形質転換体、特に、PR4株が分解・代謝可能な炭化水素を、培地に添加するこという。また、「有機溶媒中へ移行する」とは、水性溶媒中に存在していたロドコッカス・エリスロポリスPR4株が、水性溶媒から、有機溶媒に含まれる炭素炭化水素に吸着あるいは転移することをいう。
【0035】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は、培養の経過に応じて自身のコロニー形態をラフ型及びムコイド型のいずれの形態をもとりうる。いずれの形態も有機溶媒中へ移行することができる。
【0036】
培地成分を含む水性溶媒としては、一般細菌用培地を用いることができる。また、一般細菌用培地に他の培地成分を含んでいてもよい。一般細菌用培地としては、例えば、IB液体培地、YG液体培地、LB培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス等を挙げることができる。一般細菌用培地の中でも、IB液体培地を用いることが特に好ましい。
【0037】
上記IB液体培地を用いる場合、酵母エキスは、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が水性溶媒から有機溶媒へ移行する際に重要な培地成分である。酵母エキスが存在しない水性溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株を添加しても、有機溶媒中への移行は起こりにくい。
【0038】
また、無機塩類も同様であり、詳しくは、マグネシウム塩、さらに詳しくは塩化マグネシウム塩の培地中の濃度を制限すること、好ましくは、マグネシウム塩、特に、塩化マグネシウム塩が実質上含有されないことが、形質転換体の炭化水素への局在性、すなわち、形質転換体を水性培地から炭化水素に移行させ、さらに、炭化水素に対しては吸着よりも炭化水素内に転移させることを優位にする上で重要である。
【0039】
前記水性溶媒中の前記酵母エキスの添加量は、水性溶媒の全量を基準(100%)としたときに、0.05%(w/w)以上であることが好ましく、0.5〜5%(w/w)であることがより好ましく、1%(w/w)程度であることが更に好ましい。
【0040】
形質転換されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌は、PR4によって従来代謝分解ができなかったC14以下の炭化水素、好ましくは炭素数が6以上の炭化水素でも生育可能であり、かつ、これら炭化水素に少なくとも吸着できるため、これら低炭素数の炭化水素を代謝・分解可能である。
【0041】
炭素数の上限は制限されない。例えば、常温で固体であっても、他の炭化水素との共存により固体の炭化水素を溶解し、液体とすることができればよい。
【0042】
形質転換体に適用される有機溶媒中における炭化水素の割合は、特に、限定されないが、20%(v/v)以上が好ましく、40%(v/v)以上がより好ましく、60%(v/v)がさらに好ましい。炭化水素を1種又は2種以上を混合してもよい。
【0043】
図1は、炭化水素の処理開始から物質生産が行われるまでの一連の過程を概念的に示した図である。図1(a)は水性溶媒10中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株(親株及び形質転換体)12を添加した直後の様子を示した図である。ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12を添加した直後は、有機溶媒14の周囲、即ち水性溶媒10中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株12が分散した状態で存在している。
【0044】
その後、図1(b)に示すように、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12は有機溶媒14の中に移動し、有機溶媒14中に凝集した状態となる。この時点で、水性溶媒10中にはロドコッカス・エリスロポリスPR4株12はほとんど存在しない状態となる。
【0045】
そして、図1(c)に示すように、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12は有機溶媒14中の炭化水素を代謝して増殖すると共に、水溶性の生成物Pを生成する。有機溶媒14は疎水性であるため、水溶性の生成物Pは有機溶媒14から水性溶媒10中に移動し、水性溶媒10中に分散される。
【0046】
なお、炭化水素の処理は撹拌を行っても行わなくてもよいが、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株12を有機溶媒14により多く接触させるという観点及び培地中の溶存酸素量を確保するという観点からは、撹拌を行いつつ処理することが好ましい。撹拌は、例えば撹拌装置や振盪装置を用いることで行うことができる。
【0047】
図2は、炭化水素処理システム2の概念図である。図2に示すように、炭化水素処理システム2は、有機溶媒供給手段20と、水性溶媒供給手段22と、菌体添加手段24と、処理手段26と、生成物分離手段28と、を備えている。
【0048】
有機溶媒供給手段20は、炭化水素を含む有機溶媒を、後述する処理手段26に供給するものである。
【0049】
水性溶媒供給手段22は、培地成分を含む水性溶媒を、後述する処理手段26に供給するものである。培地成分を含む水性溶媒としては、一般細菌用培地を用いることができる。
【0050】
また、一般細菌用培地に他の培地成分を含んでいてもよい。一般細菌用培地としては、例えば、IB液体培地、YG液体培地、LB培地、マリンブロス、ニュートリエントブロス、トリプトソイブロス等を挙げることができる。一般細菌用培地の中でも、IB液体培地を用いることが特に好ましい。
【0051】
菌体添加手段24は、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、後述する処理手段26に添加するものである。ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は培養の経過に応じて自身のコロニー形態をラフ型及びムコイド型のいずれの形態をもとりうるが、いずれの形態でも使用することができる。
【0052】
菌体添加手段24には、予めロドコッカス・エリスロポリスPR4株を前培養する機能を有する前培養手段を備えることもできる。前培養は、例えば前記IB培地を用い、28〜30℃でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を振盪培養することにより行うことができる。
【0053】
処理手段26は、有機溶媒と水性溶媒とからなる培地中でロドコッカス・エリスロポリスPR4株が有機溶媒に含まれる炭化水素を処理するものである。有機溶媒は有機溶媒供給手段20から供給され、水性溶媒は水性溶媒供給手段22から供給される。
【0054】
これにより、有機溶媒−水性溶媒の二層培養系が形成される。そして、菌体供給手段24から水性溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が供給される。その後図示しない撹拌器によって有機溶媒と水性溶媒が撹拌され、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭化水素の代謝及び物質生産を開始する。炭化水素の処理条件は、例えば、図示しない撹拌装置で培地を撹拌しつつ、28〜30℃で、数日〜2週間程度行われる。なお、処理条件は、処理する炭化水素の種類に応じて適宜設定することができる。
【0055】
生成物分離手段18は、水性溶媒中に生産された生成物P、有機溶媒12及び水性溶媒10を分離するものである。分離方法は、従来公知の分離・精製方法(各種クロマトグラフィー又は各種電気泳動等)を利用することができる。また、有機溶媒−水性溶媒の二層培養系の性質を利用して、培地を所定時間放置し、有機溶媒と水性溶媒とが二層に分離された状態となってから、水性溶媒のみ分離し、生産物Pを精製することもできる。
【0056】
なお、有機溶媒中にはロドコッカス・エリスロポリスPR4株が存在しているため、水性溶媒と菌の分離も容易である。処理後は、生成物分離手段18により、有機溶媒12、水性溶媒10及び生成物Pに分離・精製される。
【0057】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源情報部門が発行するカタログにNBRC100887として掲載されており、出願前に自由に分譲されうるものであった。
【0058】
次に本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
[実施例1]各種炭化水素の処理
(1)IB液体培地の調製
以下の要領で、IB液体培地を調製した。即ち、ミリQを水1L用意し、これにグルコース(和光純薬工業)を10g、酵母エキス(DIFCO LABORATOREIS)を10g、MgCl2・7H2O(和光純薬工業)を0.2g、CaCl2・2H2O(和光純薬工業)を0.1g、NaCl(和光純薬工業)を0.1g、FeCl2・6H2O(和光純薬工業)を0.02g、(NH4)2SO4(和光純薬工業)を0.5g加え、NaOH溶液でpH7.2に調整後、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した。
【0059】
(2)各種炭化水素
n−アルカンとして、n−ヘキサン(C6)、n−オクタン(C8)、n−ノナン(C9)、n−デカン(C10)、n−ウンデカン(C11)、n−ドデカン(C12)、n−トリデカン(C13)、n−テトラデカン(C14)、n−ペンタデカン(C15)、n−ヘキサデカン(C16)、n−ヘプタデカン(C17)、n−オクタデカン(C18)を使用した。分岐アルカンとして、プリスタン(C19)、スクワラン(C30)を使用した。
【0060】
(3)供試菌株
供試菌株として、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)PR4株及びロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)S−2株を用いた。
【0061】
(4)炭化水素の処理方法(親株を用いた処理)
上記(3)に示した供試菌株を上記(1)で調製したIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0062】
供試菌株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈してφ24試験管(IWAKI GLASS)に入っている新しいIB培地に添加した。続いて上記(2)に示した各種炭化水素を、終濃度5%(v/v)になるようにそれぞれ加え、28℃、110rpmで振盪培養した。そして、培養開始から3日目に供試菌株の生育状況と供試菌株が局在している場所を観察した。ここで、有機溶媒中に存在している場合は「内在」、有機溶媒の表面に存在している場合は「表在」とした。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株を用いた場合、培養液の様子を比較したところ、炭素数14以上のn−アルカンと分岐アルカンを添加した条件で、有機溶媒と水性溶媒での濁度の上昇が確認された。
【0065】
また、顕微鏡観察を行ったところ、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭素数14以上の炭化水素粒子中に転移して存在している様子が確認された。
【0066】
炭素数10〜12のn−アルカンを添加した条件では、有機溶媒と水性溶媒の界面にだけ濁度の上昇が認められた。これらを、顕微鏡観察したところ、炭化水素粒子の表面にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が吸着して存在している様子が確認された。
【0067】
炭素数8以下のn−アルカンを用いた条件ではほとんど濁りが認められなかった。また、顕微鏡観察を行ったところ、水性溶媒及び有機溶媒中にロドコッカス・エリスロポリスPR4株が観察されなかったことから、他の条件に比べロドコッカス・エリスロポリスPR4株の数が著しく少ないものと予想された。
【0068】
一方、同様の検討をロドコッカス・ロドクラウスS−2株(表中、「S−2株」と表記する)についても行った。その結果、炭素数14以上のn−アルカンと分岐アルカンを添加した条件では、培養液全体に乳濁液の形成が認められた。また、顕微鏡観察を行ったところ、これらの条件ではロドコッカス・ロドクラウスS−2株は水性溶媒中に存在し、炭化水素粒子の表面にロドコッカス・ロドクラウスS−2株が吸着している様子が観察された。
【0069】
炭素数12以下のn−アルカンを添加した条件では、乳濁液の形成は認められず、培養液中にロドコッカス・ロドクラウスS−2株を確認することができなかった。
【0070】
このことから、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株とロドコッカス・ロドクラウスS−2株では、炭化水素との相互作用が異なることが判明した。また、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は炭素数の異なる炭化水素を認識し、炭素数に適応した相互作用を行っていることが示唆された。
【0071】
[実施例2]異なる炭化水素の混合比が炭化水素の処理に与える影響の検討(親株を使用した場合)
相互作用の異なる2種類の炭化水素を選択し、それぞれの割合をかえて、IB液体培地に添加し、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株による炭化水素の処理に与える影響を検討した。
【0072】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0073】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈し、別途調製したIB培地にロドコッカス・エリスロポリスPR4株を添加した。続いて異なる炭化水素をそれぞれ加え、28℃、110rpmで振盪培養した。
【0074】
炭化水素としては、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が移行して代謝することができる炭化水素であるプリスタン(C19)と、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が有機溶媒の表面に吸着して代謝する炭化水素であるドデカン(C12)を混合したものを用いた。そして、混合した炭化水素の終濃度が5%(v/v)になるようにそれぞれの混合比を変化させて培養液に添加し、炭化水素の処理を行った。
【0075】
また、プリスタンと、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が移行して生育することができない炭化水素であるオクタン(C8)を用いて、上述した操作と同様の方法で炭化水素の処理を行った。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、ドデカンとプリスタンを混合した場合では、ドデカンとプリスタンの混合比が8:2〜1:9のときにロドコッカス・エリスロポリスPR4株の有機溶媒への移行が確認された。
【0078】
一方、プリスタンとオクタンを混合した場合では、オクタンとプリスタンの混合比が6:4〜1:9のときにロドコッカス・エリスロポリスPR4株の有機溶媒への移行が確認された。
【0079】
[実施例3]ロドコッカス・エリスロポリスPR4株のアダプテーションの検討(親株を使用)
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株(表中、「PR4株」と表記する)をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。前培養液を1ml採取し、15,000rpm、4℃、10分間遠心分離した。得られた沈殿に生理食塩水1mlを加え懸濁し、再度遠心分離を行った。その後、この洗浄操作を二回繰り返し、得られた沈殿を生理食塩水1mlに懸濁し、これを原液とした。
【0080】
ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の初期濃度が104cfu/mlになるように原液を適宜希釈してφ24試験管(IWAKI GLASS)に入っている新しいIB液体培地に添加した。続いてプリスタン(C19)の終濃度が5%(v/v)になるように加え、28℃、110rpmで3日間振盪培養した。
【0081】
培養開始から3日経過後に、プリスタン(C19)を添加したIB液体培地で培養したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を回収した。そして、回収したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を、初期濃度が104cfu/mlになるように、別途調製したIB液体培地に添加した。そして今度はドデカン(C12)の終濃度が5%(v/v)になるように加え、28℃、110rpmで振盪培養した。
【0082】
なお、対照として、ドデカン(C12)を添加したIB液体培地でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を培養した後、プリスタン(C19)を添加したIB液体培地でロドコッカス・エリスロポリスPR4株を培養した。
【0083】
培養開始から3日目にロドコッカス・エリスロポリスPR4株の生育状況とロドコッカス・エリスロポリスPR4株が局在している場所を観察した。ここで、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株が炭化水素中に存在している場合は「内在」、炭化水素の表面に存在している場合は「表在」とした。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3に示すように、プリスタン(C19)を単独で処理したときと同様に、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株がドデカン(C12)の中に移行していることが判明した。逆にドデカン(C12)を添加した培地で培養したロドコッカス・エリスロポリスPR4株を回収し、プリスタン(C19)を添加した培地で培養したところ、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株はプリスタン(C19)中には移行せず、プリスタン(C19)の表面に表在することが判明した。このことから、第1段階目の処理時に、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の細胞壁及び/又は細胞膜が炭化水素の種類に適応して変化し(アダプテーションを起こし)、その性質は、第2段階目の処理に用いる炭化水素が変わっても維持されると推察された。
【0086】
〔実施例4〕
次に、プロテオーム解析による関連タンパク質、および、トランスポゾンを用いた変異導入による関連遺伝子について、説明する。
【0087】
培地
IB寒天培地:ミリQ水800 mlに8 gのglucose (和光純薬工業)、8 gのyeast extract (Becton,Dickison and company)、0.16 gのMgCl2・7H2O (和光純薬工業)、0.08 gのCaCl2・2H2O (和光純薬工業)、0.08 gのNaCl (和光純薬工業)、0.016 gのFeCl2・6H2O (和光純薬工業)、0.4 gの(NH4)2SO4 (和光純薬工業)を加え、pH 7.2に調整後、12 gのagar (和光純薬工業)加え、121℃で15分間オートクレーブした。
【0088】
Luria-Bertani (LB)寒天培地:ミリQ水800 mlに8 gのNaCl (和光純薬工業)、8 gのtrypton (Difco)、4 gのyeast extract (Becton,Dickison and company) を加え、pH 7.2に調整後、12 gのagar (和光純薬工業)加え、121℃で15分間オートクレーブした。
【0089】
Luria-Bertani (LB)液体培地:ミリQ水800 mlに8 gのNaCl (和光純薬工業)、8 gのtrypton (Difco)、4 gのyeast extract (Becton, Dickison and company) を加え、pH 7.2に調整後、121℃で15分間オートクレーブした。
【0090】
試薬
0.5M EDTA:ビーカーにミリQ水をいれスターラーで混ぜながらEDTA・2Na (DOJINDO)を93.05 g加え、10 gのNaOHを加えた後、3 N NaOHによりpH 8.0に調整し、オートクレーブした。
【0091】
10% SDS:メジウムボトルにミリQ水500 mlをいれ、SDS (和光純薬工業)を14.42 g加え振り混ぜて溶かした。泡が消えるのを待ち、NaOHでpH 7.2に調整し、室温で保存した。
【0092】
1 M tris HCl:ミリQ水に121.1 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 8.0に調整した後、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。
【0093】
0.5 M tris-HCl:ミリQ水に6 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 6.8に調整した後、ミリQ水で100 mlまでフィルアップした。
【0094】
50 mM tris-HCl:ミリQ水に0.605 gのTRIZMA base (SIGMA)を溶かし、HCl (和光純薬工業)でpH 8.0に調整した後、ミリQ水で100 mlまでフィルアップした。
【0095】
中性フェノール:1000 mlの1 M tris HClをオートクレーブし、常温まで放冷した。次にフェノール (和光純薬工業)を68℃の温浴に入れて、結晶を溶かして液状にした。このフェノールに酸化防止剤として8-ヒドロキシキノリン (和光純薬工業)を終濃度0.1%になるように加えて撹拌し、静置して二層に分離させた後、上層を除去した。これを繰り返してフェノールをpH 8.0に調整した。
【0096】
3 M 酢酸ナトリウム:ビーカーにミリQ水を加え、スターラーで混ぜながら酢酸ナトリウム (和光純薬工業)を204.05 g加えた。これに氷酢酸を加えてpH 5.2に調整した。ミリQ水で500 mlにフィルアップしてオートクレーブをした。
【0097】
Solution I:ビーカーにミリQ水を加えスターラーで混ぜながら、1 M glucose (和光純薬工業) を15 ml、1 M Tris HCl (pH 8.0)を7.5 ml、0.5 M EDTA (pH 8.0)を6 ml加え、300 mlにフィルアップしてオートクレーブをした。
【0098】
Solution II:ファルコンチューブにミリQ水を50 ml加え、次にNaOH (和光純薬工業)を0.4 g、SDS (和光純薬工業)を5 ml加えて振り混ぜた。
【0099】
TE buffer:ミリQ水に10 mlの1M tris HCl (pH 8.0)と2 mlの0.5 M EDTA (pH8.0)を加え、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。次にこれをオートクレーブし、常温まで放冷した。
【0100】
50×TAE buffer:ミリQ水にTRIZMA base (SIGMA)を242 g、酢酸を57.1 ml、0.5M EDTAを100 ml加え、1000 mlまでフィルアップしたのち、オートクレーブをした。
【0101】
1×TAE buffer:ミリQ水に20 mlの50×TAE bufferを加え、ミリQ水で1000 mlまでフィルアップした。
【0102】
プロテナーゼK:プロメガ株式会社の製品を使用した。ミリQ水を用いて2 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクスを使用してろ過滅菌を行った。
【0103】
IPTG:TaKaRaの製品を使用した。ミリQ水10 mlにIPTGを0.238 g溶解し、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0104】
Xgal:TaKaRaの製品を使用した。ミリQ水を用いて20 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0105】
Km:和光純薬工業の製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0106】
Amp:和光純薬工業の製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0107】
Ts:SIGMAの製品を使用した。ミリQ水を用いて100 mg/mlの濃度に希釈を行い、0.22 μmのマイレクス (Millipore)を使用してろ過滅菌を行った。
【0108】
denaturing buffer: SDS (和光純薬工業)を0.1 gを50 mM tris-HCl (pH 8.0)に溶解させ、ミリQ水を100 mlにフィルアップした。
【0109】
Working Reagent (発色試薬):まず、BCA TM Protein Assay Kitに付属するWorking Reagent AとWorking Reagent Bを50:1の割合で必要量調製した。
【0110】
20%(W/V) SDS:ミリQ水を4 mlにsodium dodecyl sulfate (和光純薬工業)を1 g溶解した。
【0111】
sample buffer:ミリQ水3.18 mlに0.5 M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を2.5 ml, 20% SDSを1.9 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.47 ml加えた。
【0112】
2×sample buffer:ミリQ水0.2 mlに0.5M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を5 ml、20% SDSを1.9 ml、1% bromophenol blueを0.2 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.95 ml加えた。
【0113】
分子量マーカー用sample buffer:ミリQ水3.55 mlに0.5 M tris-HClを1.25 ml、glycerol (和光純薬工業)を2.5 ml、10% SDSを2 ml、0.5% bromophenol blueを0.2 ml、β-mercaptoethanol (SIGMA)を0.5 ml加えた。
【0114】
SDS-PAGE用分子量マーカー:分子量マーカーを5 μlに、分子量マーカー用sample bufferを95 μl加え混合した。
【0115】
running buffer:ミリQ水を500 mlに、tris aminomethane nuclease and protease tested(ナカライテスク株式会社)を15.15 g、glycine (和光純薬工業)を72 g、SDSを5 g、100 ml、を加え混合した。これを100 mlとミリQ水900 mlを加え混合した。
【0116】
洗浄液:ミリQ水100 ml にmethanol (和光純薬工業)を100 mlを混合し、冷蔵した。
【0117】
停止液:ミリQ水190 ml にacetic acid (和光純薬工業)を100 mlを混合し、冷蔵した。
【0118】
増感液:ミリQ水50 ml にsodium tThiosufate (和光純薬工業)を10 mg加え混合し、冷蔵した。
【0119】
硝酸銀水溶液:ミリQ水50 ml にsilver nitrate (SIGMA)を50 mg加え混合し、遮光して冷蔵した。
【0120】
現像液:ミリQ水50 mlに sodium carbonate (和光純薬工業)を1 g加えた。使用直前に、formaldehyde sodium (nacalai tesque)を50 μlを加えた。
【0121】
100 mMチオ硫酸ナトリウム:ミリQ水50 mlに sodium thiosufate (和光純薬工業)を791 mgを加え混合し、遮光して冷蔵した。
【0122】
1 M DDT:ミリQ水5 mlに ditio threitol (和光純薬工業)を771 mgを加え混合した。
【0123】
1 M 重炭酸アンモニウム:ミリQ水100 mlに ammonium bicarbonateを7.9 gを加え混合し、遮光後冷蔵した。
【0124】
50 mM 重炭酸アンモニウム:ミリQ水を1520 μl に1 M 重炭酸アンモニウムを80 μlを加え混合し、遮光後冷蔵した。
【0125】
トリプシン溶液:修飾トリプシン 100 μg/ml (Promega)を20 μlと添付のbuffer (50 mM Ac OH)を180 μlを混合し、少量ずつ分注して-80℃で保存した。このトリプシン溶液 (100 μg/ml)を20 μl、50 mM 重炭酸アンモニウムを180 μlを使用直前に混合し、遮光し冷蔵した。
【0126】
脱色液:使用直前に30 mM フェリシアン化カリウム500 μlと100 mM チオ硫酸ナトリウム500 μlを混合し、冷蔵した。
【0127】
還元液:ミリQ水950 μlに、 1 M DDT (和光純薬工業)を10 μl、1 M 重炭酸アンモニウムを25 μl使用直前に混合し、冷蔵した。
【0128】
洗浄buffer:ミリQ水3 ml に1 M 重炭酸アンモニウムを75 μlとを使用直前に混合した。
【0129】
アルキル化液:使用直前にIndocaetamide (和光純薬工業)を10 mg、洗浄bufferを1 mlを混合し、遮光後冷蔵した。
【0130】
脱水液:使用直前に100%アセトニトリル (和光純薬工業)を2 ml、1 M 重炭酸アンモニウムを100 μlを混合し、冷蔵した。
【0131】
抽出液:遮光した15 ml容コーニングチューブに100%TFA (和光純薬工業)を1 mlとミリQ水を900 μlを加え、混合し10%TFA溶液とした。続いて、アセトニトリルを500 μlと10%TFA溶液を500 μlを使用直前に混合し、冷蔵した。
【0132】
10%ギ酸:遮光した50 ml容コーニングチューブに、ミリQ水を18 ml加え、ドラフト内でformic acid (和光純薬工業)を2 mlを加えて混合した。
【0133】
0.1%ギ酸遮光した15 ml容コーニングチューブに、ミリQ水を99.9 ml、10%ギ酸を100 μlを加え混合し、冷蔵した。
【0134】
使用した炭化水素は次のとおりである。
【表4】
【0135】
使用したプライマーは次のとおりである。
【表5】
【0136】
使用菌株および培養条件
Rhodococcus属細菌はIB培地で培養を行った。静置培養は、R. erythropolis PR4株は30℃で、R. rhodochrous S-1株、R. rhodochrous S-2株、R. rhodochrous R-1株、R. rhodochrous R-2株は37℃で行い、液体培地による振盪培養はどれも110 rpm、28℃で行った。また、二層培養系には細胞がアルカンの内部に転移する条件の代表としてC19、細胞がアルカンの表面に吸着する条件の代表としてC12を用い、これらのアルカンを5-20% (v/v)になるようIB培地に添加し、28℃、110 rpm、3日間振盪培養した。
【0137】
位相差顕微鏡による観察
炭化水素を添加した本培養液の有機層と水層をそれぞれ3 μlずつ採取した。これをプレパラート (IWAKI)に滴下し、カバーガラス (IWAKI)をのせたものサンプルとした。位相差顕微鏡 (OLYMPUS DP50)のステージにサンプルを乗せ、スライドガラスにイマージョンオイルを一滴垂らした。対物レンズの倍率を100倍にして、まず明視野で観察し、その後位相差で観察を行った。
【0138】
プロテオーム解析
タンパク質の抽出
二層培養系から得られた菌体は、各種遠心分離、あるいは疎水性フィルターを用いた吸引ろ過などを適宜組み合わせて回収した。回収した菌体1 mgに対して2 μlのsample bufferを加え、混合し、100℃で18分間煮沸、また超音波破砕を適宜組み合わせ、タンパク質の抽出を行った。その後、室温まで冷却し、4℃で12000 rpmで10分間遠心分離した。得られた上清を別のエッペンチューブに移しこの液をタンパク質抽出液とし次の操作に用いた。
【0139】
タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度の測定は、Compat AbleTM Protein Assay Reagent Setを用い、基本的に説明書どおりに行った。サンプル中からのSDSおよびメルカプトエタノールの除去は以下の要領で行った。まず、サンプル溶液の容量を計量し、5倍量のreagent 1を加え、混合し、5分間静置した。次に、reagent 2をreagent 1と同量加え混合し、10000 rpmで15分間、4℃で遠心分離した。遠心後、得られた沈殿物を採取しないように上清のみを除去した。これらの操作をもう一度繰り返した。
【0140】
得られた沈殿物の酸の除去とタンパク質を沈殿させるために、アセトン沈澱法を行った。得られた沈澱に、ミリQ水を100 μlとアセトン400 μlを加え、混合した。その後、-20℃で一晩放置し、12000 rpmで15分間遠心分離し、上清を除去した。得られた沈澱を遠心エバポレーターにかけ、沈殿乾固した。
【0141】
その後、denaturing bufferを100 μl加え、超音波破砕機にかけた。条件は、破砕30秒、インターバル30秒で、沈殿が細かくなるまで (約8回)繰り返し、沈澱を溶解させた。各サンプルを12000 rpmで15分間、4℃で遠心分離を行い、上清のみを新しいチューブに回収し、-20℃で保存した。
【0142】
スタンダードの調製の調整は以下の要領で行った。BCA TM Protein Assay Kitに付属する2 mg/ml BSAスタンダード原液50 μlを1.5 mlチューブに採取し、denaturing bufferを150 μlを加え、500 μg/ml BSAスタンダードを調製した。この500 μg/ml BSAスタンダード溶液を2倍希釈していき、250 μg/ml、125 μg/ml、 62.5 μg/ml、31.25 μg/ml、15.625 μg/mlとなるように調製し、これをスタンダード溶液とした。
【0143】
吸光度の測定は以下の容量で行った。まず、上述したスタンダード溶液を25 μlずつ3連で96 wellのプレートにアプライした。次に、予めdenaturing bufferでサンプルを10、20、50、100、200倍に希釈しサンプルを同様に25 μlずつ96 wellのプレートにアプライした。
【0144】
続いて、分注ピペッターで素早くWRを200 μlずつ各wellに加え、アルミホイルで遮光し、37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーで540 nmにおける吸光度を測定した。吸光度値からタンパク質濃度を算出した。
【0145】
SDS-PAGE
まず、泳動キットを5%EXTRAN MA02 (Merck)で洗浄し、15%T Resolving Gelをセットし、running bufferをゲルが隠れる程入れ、T Resolving Gelのコームを外した。次に、ゲルの両端に1×sample bufferを5 μlアプライし、さらに、分子量マーカーを5 μlと各サンプルのタンパク質抽出液を1レーンに10 μlずつアプライした。60 Vで電気泳動を行い、バンドがゲルの下から、約5 mmのところまで来たら、泳動を終了した。
【0146】
電気泳動泳動後、ゲルを取り出し、二枚のガラス板の間にミクロスパーテルをねじ込み、ガラスを一枚はがしてゲルをタッパーに移した。染色操作は以下の要領で行った。
【0147】
固定液を適量加え40分間振盪した。続いて、固定液を捨て、洗浄液を同程度加え、10分間振盪した。同様に洗浄液を捨て、ミリQ水を適量加え10 分間振盪し、その後、液を捨てた。これに増感液を適量加え、1分間振盪した後、液を捨てた。増感液処理後のゲルにミリQ水を適量加え1分間振盪し、液を捨てた。
【0148】
この操作を3回繰り返した。続いて硝酸銀液を適量加え20分間、4℃で振盪した後、液を捨てた。これにミリQ水を適量加え、1分間振盪した後に液を捨てた。この操作を三回繰り返した。最後に現像液を適量加え、注意深く観察しながら、バンドの濃さが調度良くなるまで振盪し、急いで現像液を捨て、停止液を加えた。これを10分間振盪し、さらに、適量のミリQ水で3回洗浄した後、ミリQ水中でゲルを保存した。染色終了後、ゲルをOHPフィルムに挟み、スキャナーで画像を撮り込んだ。
【0149】
切り出し・ゲル内消化
ゲルの切り出しは以下の要領で行った。4℃で保存していた染色済みのゲルを方眼紙と合致させたOHPフィルムの上に置き、それらをライト板の上に置いた。ゲルをメスで1レーンにつき6.5 mm間隔の11分画に切り出し、更に、切り出したゲルを1 mm角に切断後、1.5 mlエッペンチューブにゲル片を入れた。
【0150】
脱色の操作は以下の要領で行った。各サンプルに脱色液を100 μlずつ入れ、サーモミキサーを用いて24℃で10分間振盪した。その後、ゲルを吸い込まないように脱色をピペットマンで取り除いた。これらにミリQ水を500 μl加え、サーモミキサーを用いて24℃で15分間振盪し、ミリQ水を取り除いた。これらの操作を三回繰り返し、脱色液を完全に取り除いた。
【0151】
タンパク質のゲル内消化は以下の要領で行った。まず、パスツールピペットを用いてアセトニトリルを100 μl加え、サーモミキサーを用いて5分間振盪した後、同様にパスツールピペットを用いてアセトニトリルを取り除いた。
【0152】
予めチューブの蓋にシリンジで穴を開けておいたチューブの蓋を用意し、サンプルチューブの蓋と交換した。これらを遠心エバポレーターで15分間遠心し、液を蒸発させゲルを乾固させた。
【0153】
ここで、穴の開いた蓋を取り、元の蓋に戻した。これらに還元液を100 μl加え56℃で60分間振盪し、その後、室温に戻してから還元液を取り除いた。これらのサンプルに洗浄bufferを100 μl加え、24℃で10分間振盪し、同様に液を取り除いた。
【0154】
続いて、アルキル化液を100 μl加えて24℃で45分間、遮光しながら振盪し、その後、溶液を取り除いた。これらに洗浄bufferを100 μl加え24℃で10分間振盪し、その後、脱水液を200 μl加えて24℃で10分間振盪を行った後、全ての溶液を取り除いた。さらに、これらのサンプルに脱水液を200 μl加え、24℃で10分間振盪を行い、液を捨てた。続いてサンプルの乾固を上述した要領で行った。
【0155】
乾固させたサンプルにトリプシン溶液を25 μl加え30分間氷上で静置し、ゲル片にトリプシン溶液をしみこませた。必要な場合、余分なトリプシン溶液を取り除いた。これらのサンプルを37℃で一晩 (約15時間)反応させた。
【0156】
反応終了後、抽出液を50 μl加え24℃、30分間振盪した。フラッシング後、ゲル片を含まないように注意深く溶液取出し、新しいチューブに移した。この抽出操作をもう一度繰り返した。回収したタンパク質抽出溶液は−20℃で保存した。
【0157】
ギ酸処理
-20℃で保存していた各サンプルを取り出し、蓋を予め穴を開けておいた蓋と交換した。遠心エバポレーターで、溶液が完全に蒸発するまで遠心した(約1時間30分)。ここで、穴の開いた蓋を取り、元の蓋に戻した。
【0158】
これらのサンプルに0.1%ギ酸を13 μl加え、ボルテックスで混合した。その後、遠心分離機で、フラッシングして-20℃で保存した。(ここまでの操作は、LC/MS/MSにかける前日に行った。)
LC/MS/MSに供する当日に、ボルテックスによりサンプルを溶解し、フラッシングした後、サンプルをアプライするまで氷上で保存しておいた。
【0159】
nanoLC-ESI-MS/MS測定
Microbore HPLC systemはParadigm MS4 (Michrom Bioresources)を用いた。カラムはspray needle(AMR)を伴った Magic C18 (200 A, 3 μm, 0.2×50 mm; Michrom Bioresources)を用いた。溶媒はbuffer A (2% vol/vol acetonitrile, 0.1% formic acid)およびbuffer B (90% vol/vol acetonitrile, 0.1% formic acid)を用いた。ペプチドの分離・溶出は20分間で5-65% buffer Bのlinear gradientで行った。
【0160】
また、ペプチド抽出物は最初にC18 cartridge (Michrom Bioresources)に吸着・脱塩後、分析カラムにスイッチングバルブを用いて導いた。カラム溶出液は直接 electrospray ionization source (AMR)によりイオン化し、LCQ Deca XP ion trap mass spectrometer (Thermo Fisher)によりpositiveモードにて質量分析した。Peakの検出はXcalibur software (Thermo Fisher)を用いてm/z 500-2000の範囲にて測定した。
【0161】
スペクトルデータの解析
MS/MS dataはSEQUEST 1, 2 (Thermo Fisher)を用いて解析した。ペプチドの同定は、2価のペプチドはcorrelation factor (Xcorr)の値が2.0以上、3価のペプチドは2.5以上の配列情報でありまた、final score (Sf)の値が0.85以上の配列情報を用いた。スペクトルデータはPR4のゲノムデーターベースに対して検索した。
【0162】
Total DNA の抽出
菌株をIB寒天培地に白金耳で一面に植え、30℃で4〜5日間培養した (1サンプルにつき2枚)。菌体を回収しファルコンチューブに移し、菌体湿重量1g当たり5 mlのTEバッファーに懸濁した。この細胞懸濁液に終濃度4 mg/mlになるようにリゾチームを加え、30℃で菌体に粘度が出るまで培養した (1時間以上)。このサンプル溶液に0.5 M EDTA溶液 (終濃度0.1 M)、とプロテナーゼK (終濃度50 μg/ml)を加え、30℃で10分間培養した。
【0163】
その後、このサンプル溶液に20%SDS溶液を終濃度1%になるように加え、すぐに転倒撹拌して37℃で培養した。次に、等量のTris-HClで飽和させた中性フェノール溶液 (pH 8.0)を加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0164】
次に、このサンプル溶液に中性フェノールと等量のクロロホルム溶液 (クロロホルムとイソアミルアルコールを体積比24:1で混合したもの)をサンプルと等量加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。この操作は白い中間層がなくなるまで繰り返し行った。
【0165】
中間層がなくなった後、サンプルと等量のクロロホルム溶液を加え、5分間ゆっくり転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0166】
このサンプル溶液に、1/10体積の3 M酢酸ナトリウム溶液と等量のイソプロパノール溶液を加え、ゆっくり混合した後、-80℃で30分間恒温した。このサンプル溶液を12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。
【0167】
この沈殿に適当量(約5 ml)の70%冷エタノールを加え、丁寧に洗浄した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。この沈殿の入った容器を逆さまにすることで風乾し、適当量のTEバッファー (1 ml)に溶解させ、2 mlエッペンドルフチューブに移した。
【0168】
このサンプル溶液にRNase Aを終濃度40 μg/mlになるように加え、37℃で1時間培養した。RNase処理後のサンプル溶液は前述したようにフェノール、クロロホルムで処理し、イソプロ沈を行い、70%エタノールでのリンス、そしてTEバッファーに溶解した。その後サンプル溶液の一部をとり、0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、目的のDNAが抽出されていること確認した。
【0169】
プラスミドDNAの抽出
RhodococcusからのプラスミドDNA抽出
寒天平板培地上の菌体楊枝1かき分を滅菌ミリQ水に懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。その沈殿にリゾチームの終濃度が10 mg/mlのSolutionIを100 μl加え37℃で30分間培養後、さらにSolutionIIを50 μl加えて75℃で培養を行った。その後室温に冷まし酸性フェノールを15 μl加え撹拌した。15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し上清を回収した。
【0170】
このサンプル溶液に中性フェノールと等量のクロロホルム溶液(クロロホルムとイソアミルアルコールを体積比24:1で混合したもの)をサンプルと等量加え、5分間転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。この操作は白い中間層がなくなるまで繰り返し行った。
【0171】
中間層がなくなった後、サンプルと等量のクロロホルム溶液を加え、5分間転倒撹拌した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し、先端を切ったチップを用いて上層をゆっくり吸い上げ、新しい容器に移した。
【0172】
このサンプル溶液に、1/10体積の3 M酢酸ナトリウム溶液と等量のイソプロパノール溶液を加え、ゆっくり混合した後、-80℃で30分間恒温した。このサンプル溶液を12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。
【0173】
この沈殿に適当量 (約5 ml)の70%冷エタノールを加え、丁寧に洗浄した後、12000 rpmで10分間、4℃で遠心分離し上清を除去して白い沈殿を回収した。この沈殿の入った容器を逆さまにすることで風乾し、適当量のTEバッファー (1 ml)に溶解させ、2 mlエッペンドルフチューブに移した。
【0174】
このサンプル溶液にRNase Aを終濃度40 μg/mlになるように加え、37℃で1時間培養した。RNase処理後のサンプル溶液は前述したようにフェノール、クロロホルムで処理し、イソプロ沈を行い、70%エタノールでのリンス、そしてTEバッファーに溶解した。その後サンプル溶液の一部をとり、0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プ
ラスミドDNAを確認した。
【0175】
E. coliからのプラスミドDNA抽出
熱アルカリ法
寒天平板倍地上の菌体楊枝1かき分を滅菌ミリQ水に懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。その沈殿にリゾチームの終濃度が10 mg/mlのSolutionIを100 μl加え37℃で30分間培養後、さらにSolutionIIを50 μl加えて75℃で培養を行った。その後室温に冷まし酸性フェノールを15 μl加え撹拌した。15,000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し、上清を回収し0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プラスミドDNAを確認した。
【0176】
Wizard(R) SV Minipreps DNA Purification Systemを使用してのプラスミド抽出
Wizard(R) SV Minipreps DNA Purification System (Promega)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。プレートから白金耳で菌体を掻き取り、ミリQ水で懸濁し15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し沈殿を回収した。次に250 μlのCell Resuspension Solutionを加え懸濁し、250 μlのCell Lysis Solutionを加え転倒撹拌を4回した。次に、10 μlのAlkaline Protease Solutionを加え転倒撹拌を4回し5分間静置した。
【0177】
次に、Neutralization Solutionを加え転倒撹拌を4回し、15,000 rpm、4℃、10分間遠心分離した。上清をスピンカラム付きのチューブに移し、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。チューブの溶液を捨て、750 μlのWash Solutionをスピンカラムに加え15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。
【0178】
チューブの溶液を捨て、250 μlのWash Solutionをスピンカラムに加え15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。チューブの溶液を捨て、15,000 rpm、4℃、2分間遠心分離した。スピンカラムを新しいチューブに移し変え100 μlのNuclease-Free Waterを加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を回収し0.8%アガロースゲルを用いて100 Vで電気泳動を行って、プラスミドDNAを確認した。
【0179】
アガロースゲルからのDNAの回収
QIAquick(R) GelExtraction Kit (QIAGEN)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。アガロースゲルを用いてDNA溶液の電気泳動を行った。目的の移動度の部分をトランスイルミネーター上でカッターナイフを用いて切り出した。2 mlエッペンチューブに切り出したゲルを加えて、ゲルに対して3倍容量のBuffer QGを添加したし50℃で10分間反応させた。ゲルスライスが完全に溶解後、ゲルと同容量のイソプロパノールを加えて撹拌した。
【0180】
スピンカラム付きのチューブにサンプル溶液を加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て、500 μlのBuffer QGを加えて15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て、750 μlのBuffer PEを加えて15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。溶液を捨て15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。
【0181】
スピンカラムを新しいチューブに移し変え、50 μlのBuffer EBをメンブレン中央に加え、15,000 rpm、4℃、1分間遠心分離した。目的のDNA断片が切り出されていることを確認するために、0.8%アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。
【0182】
PCRによるDNAの増幅
PCR用のチューブにtotal DNAを1 μl、dNTPを4 μl、バッファーを5 μl、EX taqを0.5 μl、Forward PrimerとReverse Primerをそれぞれ1 μlずつ、滅菌ミリQ水を37.5 μl加え計50 μl反応系を作成した。PCR反応は95℃ 10min、 (95℃ 1min→ 70℃ 1min→ 72℃ 2min)×30、72℃ 10minで行った。アニ−リング温度は60℃〜75℃に適宜変更した。PCR後そのサンプルを5 μl をとり、0.8%あるいは1.6%アガロースゲルを用いて確認の電気泳動を行った。
【0183】
DNAシークエンス
シークエンス反応
DNA溶液を100℃で10分間熱変性させ、氷水上で急冷した。PCR用のチューブに変性したDNAを2 μl〜11.8 μl、bufferを3 μl、Big Dyeを2 μl、滅菌ミリQ水を適宜加え、計20 μlの反応系を作成した。シークエンス反応はあらかじめ96℃にプレヒーティングし (96℃ 30sec→ 50℃ 15sec→ 60℃ 4min)×24で行った。
【0184】
シークエンス反応の精製
シークエンス反応後のサンプル溶液を1.5 mlエッペンチューブに移しかえ、5 μl の125 mM EDTA、60 μlの99.5%エタノールを加え転倒撹拌し室温で15分間静置し、15,000 rpm、4℃、20分間遠心分離した。上清を除去し、70%エタノールを加え転倒撹拌し、15,000 rpm、4℃、10分間遠心分離した。上清を除去し、サンプルを風乾した、遮光して−20℃で保存した。
【0185】
シークエンス反応の精製
シークエンス解析はABI Prism model 3100 automatic sequencer (Applied Biosystems)で行った。このステップは日本大学生物資源科学部総合研究所に委託した。得られたDNA配列の相同性検索はインターネットで、National Center for Biotechnology Information (NCBI) [HPアドレス:
1252304127890_5
]内のBLAST Program[Standard nucleotide-nucleotide BLAST (
1252304127890_6
) ] を使用して行った。
【0186】
クローニング
TOPO TA Cloning(R) Kitsを利用したTAクローニング
クローニングにはTOPO TA Cloning(R) Kits (Invitrogen)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。DNA溶液を1 μl〜4 μl、Salt Solutionを1 μl、TOPO(R) Vectorを1 μl、滅菌ミリQ水を加え、計6 μlの反応系で作成した。30分間室温で反応させ、次にこの反応系を氷上に置き、全量を予めOne shot(R)Chemically Competent E. coliを培養チューブによくピペティングして移したものに加えた。30分間氷上に置き、その後42℃で温めた。
【0187】
室温でSOC培地を250μl加え、37℃で1時間振倒培養を行った。その後15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し液体を沈殿が隠れるまで、捨てて懸濁し全量を事前に温めておいた選択培地 (Amp100 μg/ml、X-gal、IPTG入りのLB培地)に塗沫植菌し、37℃で一晩培養した。培養後コロニーを滅菌された楊枝を用いて単離保存した。
【0188】
ライゲーション
TakaRa Ligation kit ver.2.1 (宝酒造株式会社)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。1.5 mlエッペンチューブにDNA溶液とI液を等量加えて計20 μl、ピペットでやさしく混合し、16℃で30分間反応させた。その反応液をそのまま、あるいは必要に応じてエタノール沈殿で精製して次の操作に用いた。
トランスフォーメーション
E. coliの形質転換
コンピテントセルはJM109 COMPETENT high (TOYOBO)またはHB101 COMPETENT high (TOYOBO)を用いた。操作は基本的に説明書どおりに行った。コンピテントセルを氷水中で溶解し、形質転換するDNAを加え氷水中で30分間静置した。42℃で30秒間温め、氷水中で2分間冷却した。次に900 μlのSOC 培地を加え、37℃で1時間振倒培養を行った。
その後15000 rpm、10分間、4℃で遠心分離し液体を沈殿が隠れるまで、捨てて懸濁し全量を事前に温めておいた選択培地 (Amp 50 μg/mlまたはKm 50 μg/ml、X-gal、IPTG入りのLB培地)に塗沫植菌し、37℃で一晩培養した。培養後コロニーを滅菌された楊枝を用いて単離保存した。
【0189】
エレクトロポレーション
菌体を5 mlのIB液体培地に白金耳で植菌し、110 rpm、28℃で3〜5日間培養した (前培養)。5〜15 μl (もしくは濁度が0.01〜0.05になるように) の前培養液を5 mlの新しいIB液体培地に植え替えた。この時、菌株によっては培養液にペニシリンGカリウムを終濃度0.1 μg/mlになるように加えた。OD660=0.42〜0.8になるまで110 rpm、28℃で約10〜20時間ほど培養した (本培養)。
【0190】
培養液を15 mlの遠沈管に移し替え、12,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して菌体を回収した。5 mlの氷冷した滅菌ミリQ水を沈殿に加えて懸濁し、12,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。
【0191】
5 mlの氷冷した10 mMシュークロース溶液を沈殿に加えて懸濁、12,000 rpm、4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。この操作を2回行なった。次に1 mlの氷冷シュークロース溶液を沈殿に加えて懸濁し、1.5 mlマイクロチューブに移し替えて15,000 rpmで4℃、10分間遠心分離して沈殿を回収した。
【0192】
沈殿に40 mlの氷冷シュークロース溶液を加えて懸濁し、5〜20 μlのDNAサンプルを加えて氷水上で15分間保冷した。細胞-DNA混合液を氷冷したキュベットに移し替え、チャンバーにセットした後、印加電圧1.50 kV、抵抗値400 Ω、電気容量25 μFD (この条件でパルスワイドが10 msecになる) の条件でエレクトロポレーションした。
【0193】
キュベットごと氷水上で10分間保冷し、360 μlのIB液体培地をキュベット内に加えた。滅菌パスツールピペットを使用して滅菌プラスチック試験管に移し替え、600 μlのIB液体培地を加えた。110 rpm、28℃で2〜4時間培養し、遠心分離により濃縮してからIB寒天培地 (各種抗生物質を含む) に撒いて37℃で2〜4日間培養した。
【0194】
液体培地を用いた添加培養でC12の生育の比較
各菌株をIB液体培地に一白金耳接種し、28℃で3日間振盪培養した。この前培養液を109 cfu/ml として想定し、104 cfu/mlになるように適宜希釈してφ24試験管 (IWAKI GLASS)に入っている新しい培地に摂取した。続いてC12を終濃度5% (v/v)になるように加え、28℃、110 rpmで振盪培養した。
【0195】
これらの培養液を24、48、72、96、144時間ごとにサンプリングし、生菌数を測定した。実験は以下の要領で行った。試験管をボルテックスで懸濁し、すばやく懸濁液を100 μl取り、IB液体培地900 μlが入った1.5 ml容エッペンに加え10-1倍希釈とした。
【0196】
これを10-7倍希釈まで作製した。この10-5〜10-7の希釈系列を各々100 μlずつIB寒天培地に3枚ずつまきスプレッディングした。30℃で2日間 (コロニーが確認できるまで)培養し菌数を測定した。
【0197】
プロテオーム解析による関連タンパク質の検討
特異的発現タンパク質の探索
アルカンなしのコントロール、二層培養系に細胞がアルカンの内部に転移する条件の代表としてC19、細胞がアルカンの表面に吸着する条件の代表としてC12を用いた三つの条件でSDS-PAGEを行った結果、バンドパターンに大きな差は確認できなかった (図3)。
【0198】
続いて各レーンを6 mm間隔で切り出し、トリプシンによるゲル内消化を経た後、LC-MS/MS解析に供した。LC-MS/MS解析により、C19添加条件で1%以上検出されたタンパク質を表6にまとめた。得られたデータの中で、1)全検出タンパクのうち1%以上を占め、2)コントロールと比べC19添加により検出量が上昇したタンパク質で、3)再現性よく検出されたGroEL2に注目した。
【0199】
表中の%のカラム数値は、各タンパク質の検出された割合を示し、C19/Nのカラムの数値はアルカン無添加のコントロールと比較した上昇率を示す。
【0200】
LC-MS/MSで検出されたタンパク質群は次のとおりである。
【表6】
【0201】
GroELとは分子シャペロンの一種で、タンパク質のフォールディングを助けることが知られており、熱ストレス、栄養欠乏、感染、など様々な条件で発現が誘導される(Jenkins 1991 ;J. Bacteriol, 173:1992-1996、Young 1989; Cell, 59:5-8)。E. coliでは、GroELは、あらゆる温度で生育に必須であることが知られている(Fayet 1989; J. Bacteriol, 171:1379-1385)。
【0202】
また、GroELは分子量57kDaのサブユニット7つからなるリングが背中合わせに二つ重なった14量体構造をとっており、コシャペロンであるGroESと複合体を形成(Xu 1997; Nature, 388:741-750) し全タンパク質の10%〜15%をフォールディングすることが知られている(Ewalt 1997; Cell, 90:491-500)。
【0203】
その他にCorynebacterium細菌やStreptomyces 細菌など高GC含量のグラム陽性菌はGroELを二つ持ち、GroEL2はGroESELオペロンとは離れて存在し、他の遺伝子とのオペロンも形成していないことが知られている(Barreiro 2005J. Bacteriol, 187:884-889、Servant 1993 Gene, 134:25-32)。
【0204】
GroEL1とGroEL2がそれぞれどのような機能を持つか知られていなかったが、2005年にCellに掲載された論文ではMycobacteriumでGroEL1が破壊されるのに成功し、破壊株はバイオフィルム形成が阻害されたという報告がなされた (Anil 2005)。このように、LC-MS/MSで検出されたGroEL2に注目した。
【0205】
PR4株のgroEL2遺伝子クローニング
プラスミドの作製
PR4株のDNAを用いて、プライマー366F-11とGroEL-R1の組み合わせでgroEL2遺伝子を含む配列を増幅させ、目的の分子量であるDNA断片を得た(図4)。このPCR産物をTOPO TA Cloning(R) Kitsを用いてTAクローニングを行った (図5、レーン4)。インサートチェックをするためにそのクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図5、レーン5) と、インサートに用いたgroEL2遺伝子のPCR産物 (図5、レーン1) を比較した。
【0206】
その結果、両方とも1.9 kb付近に同じ大きさのバンドがあることから、topovectorにgroEL2遺伝子がクローニングされたと判断した。
【0207】
次に、クローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプルを用いてRhodococcus-E. coliのシャトルベクターであるpK4のEcoRIサイトにクローニングした。
【0208】
インサートチェックをするためにそのクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図6、レーン3) と、topovectorにgroEL2遺伝子がクローニングされたプラスミドをEcoRIで処理したサンプル (図6、レーン1)を比較した。
【0209】
その結果、二つとも1.9 kb付近に同じ大きさのバンドがあることから、pK4にgroEL2遺伝子がクローニングされたと判断した。また、得られたプラスミドをKpnIとApaIを用いて処理し (図6 (A)、レーン4) 向きの確認をし、Kmのプレッシャーによりインサートの転写がされるようにpK4のKm耐性遺伝子の転写される向きと同じ向きにクローニングされたプラスミド [図6 (B) (I) ] を次の操作に用いた。
【0210】
groEL2遺伝子のPR4導入
PR4株のgroEL2遺伝子を含むプラスミド (pK4+groEL2) をエレクトロポレーションによりPR4株に導入した。得られた形質転換体を二層培養系で培養し、細胞の局在性を観察した。各条件での結果を図7に、一連のアルカンとの相互作用を図8、図17、図18に示した。
【0211】
その結果、C15以上のアルカンを添加した条件では、親株と同様にアルカン粒子内への転移が観察されたが(図9)、C10-C14のアルカンを添加した条件では、親株とは異なり、粒子表面に吸着している細胞と粒子内に転移している細胞が同時に観察された (図10)。
【0212】
また、C7,C8を添加した条件では、親株では細胞が観察できなかったのに対し、形質転換体はアルカン粒子表面に吸着している様子が観察された (図11)。ここから、groEL2遺伝子の導入によりアルカンとの相互作用が変化し、C7,C8を添加した条件でも生育することができるようになったものと推測された。
【0213】
これらのようにgroEL2遺伝子の導入により局在性の変化と生育が良くなることが考えられたので、代表としてC12添加条件での生育曲線を作り、確認した。
【0214】
その結果、培養初期では親株、形質転換株共に同程度の生育を示したが、50時間以降から形質転換株の生菌数が伸び始め、最終的に生菌数が約100倍増大していることがわかった (図12)。これらのことから、GroEL2が細胞の局在性の決定と生育に関与していることが示唆された。
【0215】
PR4由来のgroEL2遺伝子の他の株への導入
PR4株のgroEL2遺伝子を含むプラスミドを同属であるR. rhodochrous S-1株、S-2株、R-1株、R-2株に導入した。得られた形質転換株をC12、C19の添加条件の二層培養系で培養し、細胞の局在性が変化しているかを確認するため、それぞれの親株と形質転換株を比較した (図13、図14、図15、図16)。
【0216】
その結果、R-1株において、C12を添加した条件では、親株では細胞が観察できなかったのに対し、形質転換株はアルカン粒子表面に吸着している様子が観察された [図13 (I), (II) ]。
【0217】
これはPR4株の結果と同様に、groEL2遺伝子の導入によりアルカンとの相互作用が変化し、C12を添加した条件でも生育することができるようになったものと推測された。一方、C19を添加した条件では、親株と形質転換株はアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった [図13 (III), (IV) ]。
【0218】
R-2株においては、親株と形質転換はC12添加条件ではほとんど生育できず [図14 (I), (II) ]、またC19添加条件ではアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった [図14 (III), (IV)]。
【0219】
S-1株においては、親株と形質転換はC12添加条件、またC19添加条件でアルカンに対して表面での吸着と内部への転移が混在していることが観察され変化はなかった (図15)。
【0220】
S-2株においては、親株と形質転換はC12添加条件、またC19添加条件でアルカンに対して表面での吸着していることが観察され変化はなかった (図16)。
【0221】
R-1株において、親株では生育できないC12添加条件で形質転換株は生育できたことから、PR4株のGroEL2が他の種でも生育に関与していることが確認れた。
【0222】
塩化マグネシウムの影響の検討
IB培地中のMg塩が形質転換体の局在性、および生育性に当たる影響について検討した。形質展開として、GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス・エリスロポリスを使用した。
【0223】
既述の塩化マグネシウムが添加されたIB培地を利用した形質転換体の特性と、実質的に塩化マグネシウムが存在しないIB培地を利用した形質展転換体の特性を比較すると、図19に示すように、C6の炭化水素がIB培地に添加された環境下では、前者の形質転換体は生育できないのに対して、後者の形質転換体は生育できることがわかった。
【0224】
すなわち、形質転換体の培地中に含まれる無機塩の濃度を極力低下させることによって、形質転換体はより低炭素数の炭化水素が存在する環境下でも生育でき、これを分解・代謝することができる。
【0225】
C6を添加した条件で塩化Mgを44.3マイクロモラーで添加するとPR4(pK4+EL2)でも生育できなくなるので、この濃度が上限と思われる。
【0226】
この実施形態によれば、さらに、MgCl2濃度を減少させていくことにより、その菌の局在性は転移型から吸着型へ変化する方向に向かい、その濃度が8.9 mMの付近で転移型と吸着型の割合が逆転し、それ以下の濃度では転移型の菌体の割合が多くなることとなった。
【0227】
また、既述の現象が塩化マグネシウムに特有な現象かどうかを検討するため、上述したK2HPO4及び(NH4)2SO4のみを含む培地に、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウムをIB倍地中の塩化マグネシウムと同濃度になるように添加し、C12存在下で局在性を検討した。その結果、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなどの他のマグネシウム塩を添加した条件でも、塩化マグネシウムと同様に細胞はC12粒子表面に吸着して存在した。
【0228】
このように、ロドコッカス属細菌を用いて親油性溶媒を代謝するために、前記細菌の培地に添加される無機塩のうち、前記細菌の親油性溶媒に対する局在性に影響を持つも
無機塩の濃度を調整することによって、細菌を溶媒に吸着する形態から溶媒に転移する形態に変更することができた。
【0229】
マグネシウムなどこれら無機塩の濃度は、菌の局在性を制御する観点から、88.5 nM以下、好ましくは、8.9 nM以下、さらに好ましくは、0.9 nM以下である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス属に属する細菌。
【請求項2】
前記細菌がロドコッカス・エリスロポリスPR4株である、請求項1記載の細菌。
【請求項3】
請求項1又は2記載の細菌を炭化水素と反応させ、当該炭化水素を処理する方法。
【請求項4】
前記炭化水素が、炭素数14以下のものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素が、炭素数7以上14以下のものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記細菌を無機塩の濃度が制限された培地で培養してなる、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記無機塩はマグネシウム塩である請求項6項記載の方法。
【請求項8】
前記マグネシウム塩の濃度を44.3μM以下に制限した請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記マグネシウム塩の濃度を88.5nM以下に制限した請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記炭化水素が、炭素数6以下のものである請求項6記載の方法。
【請求項1】
GroEL2遺伝子が導入されたロドコッカス属に属する細菌。
【請求項2】
前記細菌がロドコッカス・エリスロポリスPR4株である、請求項1記載の細菌。
【請求項3】
請求項1又は2記載の細菌を炭化水素と反応させ、当該炭化水素を処理する方法。
【請求項4】
前記炭化水素が、炭素数14以下のものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記炭化水素が、炭素数7以上14以下のものである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記細菌を無機塩の濃度が制限された培地で培養してなる、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記無機塩はマグネシウム塩である請求項6項記載の方法。
【請求項8】
前記マグネシウム塩の濃度を44.3μM以下に制限した請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記マグネシウム塩の濃度を88.5nM以下に制限した請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記炭化水素が、炭素数6以下のものである請求項6記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−55730(P2011−55730A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206309(P2009−206309)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月25日 社団法人日本生物工学会発行の「第61回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表、平成21年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月25日 社団法人日本生物工学会発行の「第61回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表、平成21年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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