説明

形質転換植物及びロジン代替物の製造方法

【課題】 マツのような樹木から採取するよりも比較的容易且つ短期間でロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸を取得できるよう、ジテルペン系樹脂酸を効率的に製造する方法、及びそれに用いる形質転換植物細胞、及び形質転換植物体を提供すること。
【解決手段】 ジテルペン系樹脂酸の前駆体であるジテルペンの合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのいずれか又は両方を導入してなる形質転換植物細胞及び植物体を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形質転換植物を用いたロジン代替物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロジンは、馬尾松をはじめとするマツ科植物から得られる樹脂油のうち、精油などの揮発性物質を留去した後の残留樹脂であり、紙サイズ剤、印刷インキ、塗料、接着剤、滑り止め剤、はんだ用フラックス、医薬、香料などの用途に幅広く利用されている。また近年、環境保護の観点から再生可能な資源が注目されており、天然資源から繰り返し採取可能なロジンはグリーンサステイナブルな樹脂として重要度が増している。
【0003】
採取法から分類したロジンの種類としては、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジンがあるが、世界のロジン生産高の大半を占めるアジアにおいてはガムロジンが主である。ガムロジンの製造法は、マツの幹に傷を付け、にじみ出てくる樹液を回収、そこから精製するという方法であり、機械化が難しい作業であるため非常に手間のかかる方法である(非特許文献1)。また、マツを植栽してから樹液を回収できるようになるまでにはおよそ15年を要することから、災害や病害虫などの被害により一旦マツが死滅してしまうと、再びロジンを採取できるようになるまでには非常に時間がかかってしまう。それ故、安定的な生産には高い計画性が要求される手法でもある。こうしたことから、従来の手法に代わる効率的なロジン製造法開発が望まれていた。
【0004】
ところで、ロジン構成成分である樹脂酸のうち主成分はテルペノイド系化合物のうち、ジテルペン系樹脂酸といわれる化合物であり、アビエチン酸、レボピマール酸、ネオアビエチン酸、パルストリック酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、ピマール酸、ジハイドロアビエチン酸、アガチック酸、イソコプレシック酸、コムニック酸などが挙げられ、なかでもアビエチン酸がロジン構成成分中でもっとも含有量が多い。これらジテルペン系樹脂酸はロジン代替物としてそのまま利用できることから、ジテルペン系樹脂酸、特にアビエチン酸を効率的に製造することができればそのままロジン代替物の効率的製造法に繋がるものと考えられる。
【0005】
従来、遺伝子組換え技術を利用し、マツ科植物からの採集以外の方法でアビエチン酸あるいはアビエチン酸の前駆体であるアビエタジエンを生産しようとした試みとしては非特許文献2がある。しかし、該手法は遺伝子組換え宿主として酵母を用いており、大量生産に際しては大規模な設備投資が必要になるなど不利な点があった。また現在に至るまで、マツのような樹木よりも回収が容易且つ生長が速く短期間で収穫可能な植物の遺伝子組換えでジテルペン系樹脂酸あるいはジテルペン系樹脂酸の前駆体であるジテルペンの生産に成功した例は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Plant Journal (2008) Vol.54, P.656−669
【非特許文献2】Phytochemistry (2006) Vol.67, P.2415−2423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、マツのような樹木から採取するよりも比較的容易且つ短期間でロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸を取得できるよう、ジテルペン系樹脂酸を効率的に製造する方法、及びそれに用いる形質転換植物細胞、及び形質転換植物体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、成長の比較的早い植物の形質転換細胞及び植物体を用いてジテルペン系樹脂酸を人為的に生産させることにより、ロジン代替物としてのジテルペン系樹脂酸を比較的容易な回収手段で且つ短期間で安定的に製造できることを見出し、本発明を完成することに至った。
【0009】
本発明では、
ジテルペン系樹脂酸の前駆体であるジテルペンの合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのいずれか又は両方を導入してなる形質転換植物細胞及び植物体を提供することにより、前記課題を解決する。
【0010】
本発明の構成は以下の通りである。
1.植物形質転換用ベクターに、ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはジテルペンをロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸に変換する活性を有するポリペプチドの片方又は両方を連結したことを特徴とする組換えベクター。
2.前記組換えベクターを導入したアグロバクテリウム。
3.前記アグロバクテリウムにより、ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又はジテルペンをロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸に変換する活性を有するポリペプチドの片方又は両方を導入した形質転換植物細胞、及びその形質転換植物細胞からなる形質転換植物体。
5.前記形質転換細胞又は形質転換植物体からジテルペン系樹脂酸を回収することによるロジン代替物の製造方法。
【0011】
すなわち本発明を利用することで、前記ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はジテルペンをロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸に変換する活性を有するポリペプチドの片方又は両方を導入し、なおかつ生体内で発現させることによりジテルペン系樹脂酸を生産することができる形質転換植物細胞、及びその形質転換植物細胞からなる形質転換植物体(以下、合わせて形質転換植物と記すことがある)を得ることができる。 本発明において、前記ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、ジテルペンをロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸に変換する活性を有するポリペプチドは、どちらか一方が宿主細胞内に導入されていれば良いが、両方同時に導入されているほうが好ましい。
【0012】
生産されたジテルペン系樹脂酸を形質転換植物から回収することにより、ロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸を効率的に生産することができる。マツと比較して生育の早い一年草などの植物を形質転換することにより、天災や病害虫の被害からの復興も容易であり、また形質転換植物の耕作面積を大きくするだけでロジン代替物の生産量を増やすことができることから、安定的且つ計画的なロジン代替物の製造が可能となる。この場合形質転換植物は、形質転換された第1世代は勿論、第1世代を継代して得られた第2世代以降の植物体を用いても良い。
更には、本発明を応用することにより、形質転換植物中で他の有用物質との同時生産も可能である。例えば、ゴム産生植物中でゴムとロジン代替物を同時に生産させたり、パームヤシ中でパーム油とロジン代替物を同時に生産させるなども可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ジテルペン系樹脂酸産生形質転換植物及びそれを用いた効率的なジテルペン系樹脂酸の製造方法が提供でき、これは比較的容易な回収作業で且つ短期間にロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸を製造する方法に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(実施例1)で構築したベクターpRI t−LAS
【図2】(実施例2)で構築したベクターpRI EGFP/P450
【図3】(実施例3)で構築したベクターpRI EGFP/LAS/P450
【図4】(参考例1)アビエチン酸標品のGC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図5】(実施例13)t−LAS形質転換タバコ抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図6】(実施例14)P450形質転換タバコ抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図7】(実施例15)LAS/P450形質転換タバコ抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図8】(実施例16)t−LAS形質転換ペリプロカ抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図9】(実施例17)LAS/P450形質転換ペリプロカ抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【図10】(実施例18)LAS/P450形質転換ペリプロカサスペンジョンカルチャー抽出物のアビエチン酸GC−MSチャート(上図:ガスクロマトグラフ、下図:マススペクトル)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を、単位「μM」は「μmol/L」をそれぞれ示す。
【0016】
1.組換えベクター
1.1.ベクター
本発明の組換えベクターを作製する際に用いるベクターとしては、本発明の効果を損なわない限り、遺伝子導入用のベクターを用いることができる。宿主に植物を用いる場合には、通常植物形質転換に用いられるベクターを用いることができ、例えば、Tiプラスミドやバイナリーベクター(ミニTiプラスミド)など各種ベクターを使用可能であるが、カナマイシン耐性等の抗生物質耐性の選択マーカーを有していることが好ましく、例えば、pRI910やpBIN19などのバイナリーベクターがより好ましいものとして挙げられる。
【0017】
1.2. 導入ポリヌクレオチド
1.2.1. ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
ロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸は、イソペンテニルジフォスフェートからゲラニルゲラニルジフォスフェートを経由して生合成される。ジテルペン系樹脂酸の合成を活性化するには、ジテルペン系樹脂酸生合成経路に寄与する生体触媒であるポリペプチドの合成を促進すればよく、ジテルペン系樹脂酸の前駆体であるジテルペンの合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入すればよい。ジテルペン系樹脂酸の前駆体であるジテルペンとしては、アビエタジエン、レボピマラジエン、ネオアビエタジエン、パルストラジエン、イソピマラジエン、サンダラコピマラジエン、ピマラジエン、ジハイドロアビエタジエン、アガタジエン、イソコプレジエン、コムナジエンが挙げられ、ジテルペンの合成活性を有するポリペプチドとしては、アビエタジエンシンターゼ、レボピマラジエンシンターゼ、ネオアビエタジエンシンターゼ、パルストラジエンシンターゼ、イソピマラジエンシンターゼ、サンダラコピマラジエンシンターゼ、ピマラジエンシンターゼ、ジハイドロアビエタジエンシンターゼ、アガタジエンシンターゼ、イソコプレジエンシンターゼ、コムナジエンシンターゼなどが挙げられ、特にアビエタジエン合成活性を有するアビエタジエンシンターゼをコードするポリヌクレオチドが好ましい。
【0018】
1.2.1..1. アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、アビエタジエンの合成を触媒するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであれば良く、トウヒやアカマツ、クロマツ、テーダマツなどのマツ科植物や、イチョウなど由来のレボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼをコードするポリヌクレオチドやアビエタジエンシンターゼをコードするポリヌクレオチドなどが挙げられ、より好ましいものとして、ヨーロッパトウヒ(ピセア アビエス、Picea abies)由来レボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。
【0019】
この様なアビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては例えば、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドがプラスチドで発現することを規定するシグナル(プラスチド移行シグナルとも称する)が前半部分にコードされているPaTPS−t−LAS(Picea abies由来レボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼ)である(A)配列番号1で表されるポリヌクレオチド、(B)配列番号1のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、もしくは挿入されており、且つ、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(C)配列番号1のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。ただし、ここで「数個」とは、置換、欠失、もしくは挿入されるヌクレオチドの配列や位置によっても異なるが、具体的には2から100個、好ましくは2から50個、より好ましくは2から9個であり、例えばイントロンの挿入なども想定される。また、ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このような条件としては、相同性が高いポリヌクレオチド同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、もっとも好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件、具体的には、40℃、1×SSC(0.15M NaCl、15mM Sodium Citrate pH7.0)、0.1% SDS(Sodium Dodecylsulfate)などが挙げられる。
【0020】
また、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドであってプラスチド移行シグナルがコードされていないPaTPS−t−LAS(Picea abies由来レボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼ)である(D)配列番号2で表されるポリヌクレオチド、(E)配列番号2のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、もしくは挿入されており、且つ、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(F)配列番号2のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。ただし、ここで「数個」とは、置換、欠失、もしくは挿入されるヌクレオチドの配列や位置によっても異なるが、具体的には2から100個、好ましくは2から50個、より好ましくは2から9個であり、例えばイントロンの挿入なども想定される。また、ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このような条件としては、相同性が高いポリヌクレオチド同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、もっとも好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件、具体的には、40℃、1×SSC(0.15M NaCl、15mM Sodium Citrate pH7.0)、0.1% SDS(Sodium Dodecylsulfate)などが挙げられる。
【0021】
1.2.2. ジテルペンからジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
宿主内で合成されたジテルペンは、そのまま宿主内の酸化還元酵素の作用によって自然にジテルペン酸へと変換させても良いが、ジテルペンからジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドを宿主内で過多発現させることにより、ジテルペンを宿主内でジテルペン系樹脂酸へ効率よく変換させることによって、ロジン代替物を宿主内で安定的に生合成させることもできる。
ジテルペンからジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドとしては、ジテルペンをジテルペン系樹脂酸へと酸化する活性があればよく、EC第1群に分類される各種酸化還元酵素を用いることができる。酸化還元酵素としては、デヒドロゲナーゼ、レダクターゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、トランスヒドロゲナーゼ、カタラーゼなどが挙げられ、中でもオキシゲナーゼの一種であるP450が好ましい。また、ジテルペンの種類により、アビエタジエンオキシダーゼ、レボピマラジエンオキシダーゼ、ネオアビエタジエンオキシダーゼ、パルストラジエンオキシダーゼ、イソピマラジエンオキシダーゼ、サンダラコピマラジエンオキシダーゼ、ピマラジエンオキシダーゼ、ジハイドロアビエタジエンオキシダーゼ、アガタジエンオキシダーゼ、イソコプレジエンオキシダーゼ、コムナジエンオキシダーゼが好ましい。
【0022】
1.2.2.1. アビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
アビエタジエンからロジン代替物であるアビエチン酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、アビエタジエンからロジン代替物であるアビエチン酸に変換を触媒するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであれば良く、例えばマツ科植物由来のP450遺伝子などが挙げられ、より好ましいものとしてテーダマツ(パイナス テーダ、Pinas teada)由来のP450遺伝子が挙げられる。
【0023】
この様なアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては例えば、Pinus taeda由来のチトクロームP450のcDNAである(G)配列番号3で表されるポリヌクレオチド、(H)配列番号3のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、もしくは挿入されており、且つ、アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(I)配列番号3のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、アビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが挙げられる。ただし、ここで「数個」とは、置換、欠失、もしくは挿入されるヌクレオチドの配列や位置によっても異なるが、具体的には2から100個、好ましくは2から50個、より好ましくは2から9個であり、例えばイントロンの挿入なども想定される。また、ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このような条件としては、相同性が高いポリヌクレオチド同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、もっとも好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチド同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いポリヌクレオチド同士がハイブリダイズしない条件、具体的には、40℃、1×SSC(0.15M NaCl、15mM Sodium Citrate pH7.0)、0.1% SDS(Sodium Dodecylsulfate)などが挙げられる。
【0024】
1.3. 組換えベクターの調製
本発明の組換えベクターは、ベクターに前記ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを片方又は両方を連結することによって調製できる。
これらのポリヌクレオチドは、そのままベクターに連結しても良いが、それぞれの活性を示す範囲内で、前記塩基の欠失、置換、もしくは付加を行っても良い。
【0025】
さらに、前記ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を促進する目的で、例えばエンハンサーなどの塩基配列を付加してもよい。このようなエンハンサーは、例えば翻訳エンハンサーであるタバコアルコール脱水素酵素遺伝子の5’非翻訳領域(NtADH)などが挙げられる。
【0026】
さらに、前記ポリヌクレオチドの5’末端及び3’末端の少なくとも一方に、形質転換した際に宿主内で、例えば、プロモーターやターミネーター等の塩基配列を付加してもよい。このようなプロモーターやターミネーターは、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターやHSPターミネーターなどが挙げられる。
【0027】
また、形質転換細胞の選抜の目安となる機能を持つポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、ベクターに連結しても良い。ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、選抜マーカーとして用いることができる機能を有すればよく、各種薬剤耐性遺伝子、栄養要求株におけるその補足の遺伝子、UV耐性遺伝子、温度耐性遺伝子、高塩濃度耐性遺伝子、蛍光タンパク遺伝子などが挙げられる。
これら選抜マーカーは、宿主となる細胞の性質に合わせて選択すればよく、中でも蛍光タンパク遺伝子や薬剤耐性遺伝子を用いた場合、形質転換細胞を簡便に選択できるため、好ましい。蛍光タンパク遺伝子としてはGFP(Green Fluorescent Protein)などが挙げられ、例えばEGFPやsGFPなどを用いることができる。また、薬剤耐性遺伝子としてはカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子などが挙げられる。
【0028】
2. 組換えベクターの導入方法
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、公知慣用の手法で形質転換を行えばよく、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法、PEG法、コンピテントセル法、などが挙げられ、宿主に植物を用いる場合には形質転換効率の観点からアグロバクテリウム法が好ましい。
【0029】
2.1. アグロバクテリウム
前記ジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをアグロバクテリウム法により植物細胞へ導入する場合、まず、前記組換えベクターをエレクトロポレーション法等によってアグロバクテリウムに導入する。本発明に用いるアグロバクテリウムの種類は特に制限されず、例えば、EHA105やLBA4404などが使用できる。
前記組換えベクターを導入したアグロバクテリウムを、例えば、カナマイシン等の抗生物質を含む培地で培養すれば、導入されたベクター内の抗生物質耐性遺伝子発現により生育してきたを形質転換した感染用アグロバクテリウムとして選択的に得ることができる。
【0030】
3. ロジン代替物産生に用いる宿主
ロジン代替物産生に用いる宿主としては、ロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸の生合成経路を持つ細胞又は細胞から形成される個体であれば良い。また、宿主としたい細胞がジテルペン系樹脂酸の生合成経路を持たない場合には、遺伝子組換えなどの手段によりジテルペン系化合物の生合成経路を後から獲得した細胞を作成し、宿主として用いても良い。宿主としては動物、植物、微生物などのどれを用いても良いが、予めジテルペン系樹脂酸の生合成経路を獲得している植物を宿主とするのが好ましい。
【0031】
3.1. ロジン代替物産生に用いる植物
本発明でロジン代替物産生に用いる植物としては、栽培しやすく、成長速度が速く、産生したロジン代替物の回収が容易であり、導入されたジテルペン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及びジテルペンからロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが発現するものであれば、特に種類は限定しない。その中でも、特に栽培しやすく成長速度が速く、樹液の圧搾等によりロジン代替物の回収が容易である植物として、ペリプロカ属及びタバコ属の植物が好ましい。
【0032】
3.1.1. ペリプロカ属
前記ペリプロカ属の植物としては、例えばペリプロカ セピウム(Periploca sepium)、ペリプロカ カロフィラ(Periploca calophylla)、ペリプロカ フロリブンダ(Periploca floribunda)、ペリプロカ フォレスティ(Periploca forrestii)などを挙げることができ、より好ましいものとしてペリプロカ セピウム(Periploca sepium)が挙げられる。
【0033】
3.1.2. タバコ属
前記タバコ属の植物としては、例えばタバコ、ハナタバコ、マルバタバコ、キダチタバコ、ジャスミンタバコなどを挙げることができ、より好ましいものとしてタバコ(ニコチアナ タバカム、Nicotiana tabacum)が挙げられる。
【0034】
3.2. 形質転換植物細胞の作製
本発明の形質転換植物を得るには、前記組換えベクターを、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法などの公知慣用の手法で植物細胞に導入し、必要に応じて導入が確認されたもののみを選抜、増殖させればよい。
なお、本発明における「植物細胞」とは、脱分化した状態の植物細胞、植物体を形成している状態の細胞、及び植物体そのものを含有するものとする。
【0035】
3.3. 形質転換植物体の作製
前述のようにして得られた脱分化状態の形質転換植物細胞を例えば、再分化誘導剤を含む培地でインキュベートすれば、形質転換植物体を再生することができる。再分化誘導剤としては公知慣用のものを用いることができ、例えば、インドール酢酸、インドールプロピオン酸、インドール酪酸、ナフタレン酢酸等のオーキシン類、およびゼアチン、カイネチン、ベンジルアデニン等のサイトカイニン類、ジベレリン酸等のジベレリン類等が挙げられ、これらの中からいずれか一種類、あるいは二種類以上を併用してもよい。
【0036】
4. ロジン代替物の製造方法
発明の製造方法における、ロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸の形質転換植物からの回収方法としては特に制限はないが、例えば植物体の場合、地上部分を切断し、裁断するなり磨り潰すなりして液状物質を搾り出すなどして回収してもよいし、水/有機溶媒を使った抽出などによって回収してもよい。これら回収した液から適宜精製工程、乾燥工程などを経て最終的にロジン代替物を得ることができる。また、脱分化状態の細胞の場合、ろ過や遠心分離などで細胞を集めた後、前記同様の方法にてロジン代替物を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載になんら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)組換えベクターpRI t−LASの構築
【0039】
<ベクター構築:pRI t−LAS>
プラスチド移行シグナルを含まないPaTPS−t−LAS(Picea abies由来レボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼ)のcDNA(配列番号2)を鋳型として、配列番号4及び5に示したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法により5’側にXhoI、3’側にKpnI制限酵素サイトを導入し、PaTPS−t−LAS挿入用DNA断片を作製した。そして、翻訳エンハンサーであるタバコアルコール脱水素酵素遺伝子の5’非翻訳領域(NtADH)と、PaTPS−t−LAS挿入用DNA断片(t−LAS)と、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(35S−P)と、転写終結領域であるHSPターミネーター(HSP−T)を、カナマイシン耐性遺伝子を含むバイナリーベクターpRI910に挿入し、pRI t−LAS(図1)を構築した。
【0040】
(実施例2)組換えベクターpRI EGFP/P450の構築
<ベクター構築:pRI EGFP>
形質転換体の視覚的選抜を行う為に、35S−P、蛍光タンパク質遺伝子(EGFP)、HSP−Tからなる発現カセットをバイナリーベクターpRI910に挿入し、pRI EGFPを構築した。
<ベクター構築:pRI EGFP/P450>
Pinus taeda由来のチトクロームP450のcDNA(配列番号3)を鋳型として、配列番号6及び7に示したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法により5’側にXhoI、3’側にKpnI制限酵素サイトを導入し、P450挿入用DNA断片を作製した。そして、35S−P、NtADH、P450遺伝子(P450)、HSP−Tからなる発現カセットをバイナリーベクターpRI EGFPに挿入し、pRI EGFP/P450(図2)を構築した。
【0041】
(実施例3)組換えベクターpRI EGFP/LAS/P450の構築
<ベクター構築:pRI EGFP/LAS/P450>
プラスチド移行シグナルを含むPaTPS−LAS(Picea abies由来レボピマラジエン/アビエタジエンシンターゼ)のcDNA(配列番号1)を鋳型として、配列番号8及び5に示したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法により5’側にXhoI、3’側にKpnI制限酵素サイトを導入し、PaTPS−LAS挿入用DNA断片を作製した。そして、35S−P、NtADH、PaTPS−LAS遺伝子(LAS)、HSP−Tからなる発現カセットをバイナリーベクターpRI EGFPに挿入し、pRI EGFP/LASを構築した。
また、35S−P、NtADH、P450、HSP−Tからなる発現カセットをバイナリーベクターpRI EGFP/LASに挿入し、pRI EGFP/LAS/P450(図3)を構築した。
【0042】
(実施例4)感染用アグロバクテリウム(t−LAS)の作製
アグロバクテリウムEHA105を、エレクトロポレーション法を用いて実施例1で構築した組換えベクターpRI t−LASで形質転換した。得られた形質転換アグロバクテリウムを、カナマイシン(50mg/L)を添加したLB液体培地で暗黒、25℃、140rpmの条件下、12時間振盪培養した。培養終了後、遠心分離(5500rpm、15分)により集菌、濃縮して回収し、感染用アグロバクテリウム(t−LAS)を得た。
【0043】
(実施例5)感染用アグロバクテリウム(P450)の作製
実施例4で使用した実施例1の組換えベクターpRI t−LASを、実施例2で構築した組換えベクターpRI EGFP/P450に換えた以外は実施例4と同様にして、感染用アグロバクテリウム(P450)を得た。
【0044】
(実施例6)感染用アグロバクテリウム(LAS/P450)の作製
実施例4で使用した実施例1の組換えベクターpRI t−LASを、実施例3で構築した組換えベクターpRI EGFP/LAS/P450に換えた以外は実施例4と同様にして、感染用アグロバクテリウム(LAS/P450)を得た。
【0045】
(実施例7)t−LAS導入形質転換タバコの作製
形質転換タバコの作製はRogersらの方法(Rogers et al.,(Gene transfer in plant: production of transformed plant using Ti plasmid vectors. Meth Enzyml,118, 627−640.1986)により行った。無菌タバコ(ニコチアナ タバカム、Nicotiana tabacum L.cv. Petit habana SR1)の葉部を、葉脈を含まないように1×1cm程度の大きさに切り取り、滅菌水が入ったシャーレに葉の裏面が上になるように置き、実施例4で作製した感染用アグロバクテリウム(t−LAS)をシャーレに注いで3分から5分間浸した。葉片を取り出し、余分な菌液を滅菌ペーパータオルで拭き取り、カルス形成培地に置床して25℃で培養した。2‐3日後、アグロバクテリウムが培地上で見ることができるようになったら、葉片を50mlチューブに移し、滅菌水で5回洗浄した後、カルス形成培地(2mg/L ニコチン酸アミド、0.2mg/L 6−ベンジルアミノプリン、3g/L ゲランガム、100mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したしたMS培地)に置床し、1‐2週間25℃で培養した。葉片が最初に比べて丸まり、表面に凹凸が生じたら、シュート形成培地(0.02mg/L ニコチン酸アミド、1mg/L 6−ベンジルアミノプリン、3g/L ゲランガム、100mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)に移した。さらに4‐6週間後、茎葉部の発達したシュートを切り取ってルート形成培地(3g/L ゲランガム、100mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)に移し、発根が見られるまで25℃で培養した。植物体がある程度の大きさに成長したものを鉢植えにすることで、t−LAS導入形質転換タバコを得た。
【0046】
(実施例8)P450導入形質転換タバコの作製
実施例7で使用した感染用アグロバクテリウム(t−LAS)を、実施例5で作製した感染用アグロバクテリウム(P450)に換えた以外は実施例と同様にして、P450導入形質転換タバコを得た。
【0047】
(実施例9)LAS/P450導入形質転換タバコの作製
実施例7で使用した感染用アグロバクテリウム(t−LAS)を、実施例6で作製した感染用アグロバクテリウム(LAS/P450)に換えた以外は実施例と同様にして、LAS/P450導入形質転換タバコを得た。
【0048】
(実施例10)t−LAS導入形質転換ペリプロカの作製
ペリプロカ セピウム(Periploca sepium)のシュートの節間を1cmごとに切断したものを外植体とて準備した。外植体を、実施例4で作製した感染用アグロバクテリウム(t−LAS)を含む液体感染培地PsCo−7(20g/L スクロース、0.1μM α−ナフチル酢酸(NAA)、3μM 6−ベンジルアミノプリン(BAP)、20mg/L アセトシリンゴン、pH5.8となるように添加したムラシゲスクーグ(MS)培地)に入れ、手で振盪しながら2分間浸漬した。浸漬後、外植体を滅菌した濾紙上で水分を除去し、液体感染培地と同じ培地組成にゲルライト(和光純薬工業、2.4g/L)を添加した固体共培養培地PsCo−7に置床し、25℃暗黒下で3日間共存培養した。3日後、カルベニシリン(500mg/L)を添加した滅菌水で該外植体を3回水洗し、アグロバクテリウムを除去した。濾紙上で余分な水分を除去した後、選抜再分化培地PsCSCK(20g/L スクロース、0.1μM ニコチン酸アミド、3μM 6−ベンジルアミノプリン、2.4g/L ゲルライト、50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)に置床し、25℃、光合成有効光量子束密度(PPFD)50μmolm−2s−1、明期16時間/日の照明下で培養した。培養4週間後に同じ組成の再分化培地PsCSCKに継代して引き続き再分化するまで培養を続けた。
【0049】
再分化個体をシュート伸長培地PsSLCK(50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したホルモンフリーのMS培地)に移して、カナマイシン耐性を検定した。非形質転換体は伸長せず一週間ほどで枯死するのに対し、ポリヌクレオチドが導入されたと考えられる形質転換体は耐性を示し、カナマイシン非存在下での野生株と同等の生育を示した。形質転換体が大きくなったところで新たな培地に移植し、成熟した完全なt−LAS導入形質転換ペリプロカ植物体が得られた。再分化から植物体を得るまでに要した期間は僅か2ヶ月程度であった。
【0050】
(実施例11)LAS/P450導入形質転換ペリプロカの作製
ペリプロカ セピウム(Periploca sepium)のシュートの節間を1cmごとに切断したものを外植体とて準備した。外植体を、実施例5で作製した感染用アグロバクテリウム(LAS/P450)を含む液体感染培地PsCo−7(20g/L スクロース、0.1μM α−ナフチル酢酸(NAA)、3μM 6−ベンジルアミノプリン(BAP)、20mg/L アセトシリンゴン、pH5.8となるように添加したムラシゲスクーグ(MS)培地)に入れ、手で振盪しながら2分間浸漬した。浸漬後、外植体を滅菌した濾紙上で水分を除去し、液体感染培地と同じ培地組成にゲルライト(和光純薬工業、2.4g/L)を添加した固体共培養培地PsCo−7に置床し、25℃暗黒下で3日間共存培養した。3日後、カルベニシリン(500mg/L)を添加した滅菌水で該外植体を3回水洗し、アグロバクテリウムを除去した。濾紙上で余分な水分を除去した後、選抜再分化培地PsCSCK(20g/L スクロース、0.1μM ニコチン酸アミド、3μM 6−ベンジルアミノプリン、2.4g/L ゲルライト、50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)に置床し、25℃、光合成有効光量子束密度(PPFD)50μmolm−2s−1、明期16時間/日の照明下で培養した。培養4週間後、同じ組成の再分化培地PsCSCKに、EGFP蛍光の見える部分だけを切り出して継代して、引き続き再分化するまで培養を続けた。
【0051】
再分化個体をシュート伸長培地PsSLCK(50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したホルモンフリーのMS培地)に移して、カナマイシン耐性を検定した。非形質転換体は伸長せず一週間ほどで枯死するのに対し、ポリヌクレオチドが導入されたと考えられる形質転換体は耐性を示し、カナマイシン非存在下での野生株と同等の生育を示した。形質転換体が大きくなったところで新たな培地に移植し、成熟した完全なLAS/P450導入形質転換ペリプロカ植物体が得られた。再分化から植物体を得るまでに要した期間は僅か2ヶ月程度であった。
【0052】
(実施例12)LAS/P450導入形質転換ペリプロカのサスペンジョンカルチャーの作製
ペリプロカ セピウム(Periploca sepium)のシュートの節間を1cmごとに切断したものを外植体とて準備した。外植体を、実施例6で作製した感染用アグロバクテリウム(LAS/P450)を含む液体感染培地PsCo−7(20g/L スクロース、0.1μM α−ナフチル酢酸(NAA)、3μM 6−ベンジルアミノプリン(BAP)、20mg/L アセトシリンゴン、pH5.8となるように添加したムラシゲスクーグ(MS)培地)に入れ、手で振盪しながら2分間浸漬した。浸漬後、外植体を滅菌した濾紙上で水分を除去し、液体感染培地と同じ培地組成にゲルライト(和光純薬工業、2.4g/L)を添加した固体共培養培地PsCo−7に置床し、25℃暗黒下で3日間共存培養した。3日後、カルベニシリン(500mg/L)を添加した滅菌水で該外植体を3回水洗し、アグロバクテリウムを除去した。濾紙上で余分な水分を除去した後、選抜再分化培地PsCSCK(20g/L スクロース、0.1μM NAA、3μM BAP、2.4g/L ゲルライト、50mg/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)上で、25℃、光合成有効光量子束密度(PPFD)50μmolm−2s−1、明期16時間/日の照明下で2週間培養したペリプロカ セピウムのカルスを、ゲルライトを除いた液体培地(20g/L スクロース、1μM NAA、1μM 2,4−D、2.4g/L カナマイシン、250mg/L カルベニシリン、pH5.8となるように添加したMS培地)30mLに対して3個以上加え、25℃、光合成有効光量子束密度(PPFD)50μmolm−2s−1、明期16時間/日、暗期8時間、振盪回数110rpmの条件下で振盪培養を行ない、LAS/P450導入形質転換ペリプロカのサスペンジョンカルチャーを得た。
【0053】
(参考例1) アビエチン酸標品の分析
アビエチン酸の標品として、アビエチン酸(東京化成工業株式会社製)をピリジンに溶解させて、ジーエルサイエンス社製シリル化剤BSTFA(N,O−Bis(trimethylsilyl)trifluoroacetamide)を用いてTMS(トリメチルシリル)化処理を行ったうえで、GC−MS(GCカラムとしては、アジレント・テクノロジー株式会社製DB−5MS(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)のキャピラリーカラムを用い、80℃,4分Hold−8℃/分−320℃の昇温条件でアビエチン酸の分析を行った。得られたGC−MSチャートを図4に示した。以降の実施例で示した植物中のアビエチン酸の定性分析に関しては、ここで得られたGC−MSチャートを指標にTIC(Total Ion Current)法もしくはSIM(Selected Ion Monitoring)法にてアビエチン酸の定性を行った。
【0054】
(実施例13) t−LAS導入形質転換タバコからのアビエチン酸の回収・分析
実施例7で得られたt−LAS導入形質転換タバコから、アビエチン酸を抽出・回収し、分析を行った。t−LAS導入形質転換タバコの一部約0.5gに蒸留水15mLを加え、すり鉢を用いて十分に磨り潰し、ジエチルエーテル50mLを加えて二相分配法により抽出を行った。ジエチルエーテル相を回収し、ジーエルサイエンス社製グラファイトカーボンパウダーを通過させて緑色素を除去した後、エバポレーターでエーテルを留去し、ピリジンに溶解させて抽出回収液を得た。この抽出回収液をジーエルサイエンス社製シリル化剤BSTFA(N,O−Bis(trimethylsilyl)trifluoroacetamide)を用いてTMS(トリメチルシリル)化処理を行ったうえで、GC−MS(GCカラムとしては、アジレント・テクノロジー株式会社製DB−5MS(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)のキャピラリーカラムを用い、80℃,4分Hold−8℃/分−320℃の昇温条件でアビエチン酸の分析を行った。得られたGC−MSチャートを図5に示した。
【0055】
(実施例14) P450形質転換タバコからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS導入形質転換タバコを用いる替わりに実施例8で得られたP450導入形質転換タバコを用いるほかは実施例13と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行った。得られたGC−MSチャートを図6に示した。
【0056】
(実施例15) LAS/P450形質転換タバコからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS形質転換タバコを用いる替わりに実施例9で得られたLAS/P450導入形質転換タバコを用いるほかは実施例13と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行った。得られたGC−MSチャートを図7に示した。
【0057】
(実施例16) t−LAS形質転換ペリプロカからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS形質転換タバコを用いる替わりに実施例10で得られたt−LAS導入形質転換ペリプロカを用いるほかは実施例13と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行った。得られたGC−MSチャートを図8に示した。
【0058】
(実施例17) LAS/P450形質転換ペリプロカからのアビエチン酸の回収・分析
実施例16において、形質転換タバコを用いる替わりに実施例11で得られたLAS/P450導入形質転換ペリプロカを用いるほかは実施例16と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行った。得られたGC−MSチャートを図9に示した。
【0059】
(実施例18) LAS/P450形質転換ペリプロカのサスペンジョンカルチャーからのアビエチン酸の回収・分析
実施例16において、t−LAS形質転換タバコを用いる替わりに実施例12で得られたLAS/P450導入形質転換ペリプロカのサスペンジョンカルチャーを用いるほかは実施例16と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行った。得られたGC−MSチャートを図10に示した。
【0060】
(比較例1) 野生型タバコからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS導入形質転換タバコを用いる替わりに野生型タバコを用いるほかは実施例16と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行ったところ、GC−MSスペクトルにおいてアビエチン酸のピークは検出されなかった。
【0061】
(比較例2) 野生型ペリプロカからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS導入形質転換タバコを用いる替わりに野生型ペリプロカを用いるほかは実施例16と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行ったところ、GC−MSスペクトルにおいてアビエチン酸のピークは検出されなかった。
【0062】
(比較例3) 野生型ペリプロカのサスペンジョンカルチャーからのアビエチン酸の回収・分析
実施例13において、t−LAS導入形質転換タバコを用いる替わりに野生型ペリプロカのサスペンジョンカルチャーを用いるほかは実施例13と同様にして、アビエチン酸の回収及び分析を行ったところ、GC−MSスペクトルにおいてアビエチン酸のピークは検出されなかった。
【0063】
結果は図に示すとおり、比較例では見られなかったアビエチン酸のGC−MSのピークが実施例では見られることから、形質転換することによりアビエチン酸が新たに生産されたことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、ロジン代替物であるジテルペン系樹脂酸の製造において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又はアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換植物細胞。
【請求項2】
前記アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、
(A)配列番号1で表されるポリヌクレオチド、
(B)配列番号1のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失若しくは挿入されており、且つアビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は
(C)配列番号1のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つアビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである請求項1に記載の形質転換植物細胞。
【請求項3】
前記アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、
(D)配列番号2で表されるポリヌクレオチド、
(E)配列番号2のポリヌクレオチドにおいて、2又は数個のヌクレオチドが置換、欠失若しくは挿入されており、且つアビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は
(F)配列番号2のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つアビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである請求項1に記載の形質転換植物細胞。
【請求項4】
前記アビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドコードをするポリヌクレオチドが、
(G)配列番号3で表されるポリヌクレオチド、
(H)配列番号3のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、若しくは挿入されており、且つアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有する酸化酵素遺伝子をコードするポリヌクレオチド、又は
(I)配列番号3のポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
である請求項1から3の何れかに記載の形質転換植物細胞。
【請求項5】
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ピセア アビエス(Picea abies)から得られたものである請求項1から4の何れかに記載の形質転換植物細胞。
【請求項6】
アビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、パイナス テーダ(Pinus teada)から得られたものである請求項1から5の何れかに記載の形質転換植物細胞。
【請求項7】
前記形質転換植物細胞が、形質転換草本植物細胞又は形質転換木本植物細胞である請求項1から6の何れかに記載の形質転換植物細胞。
【請求項8】
前記草本植物がタバコ属の植物である請求項7に記載の形質転換草本植物細胞。
【請求項9】
前記タバコ属の植物がニコチアナ タバカム(Nicotiana tabacum)である請求項8に記載の形質転換草本植物細胞。
【請求項10】
前記木本植物がペリプロカ属の植物である請求項9に記載の形質転換木本植物細胞。
【請求項11】
前記ペリプロカ属の植物がペリプロカ セピウム(Periploca sepium)である請求項10に記載の形質転換木本植物細胞。
【請求項12】
前記ロジン代替物がアビエチン酸である請求項1から11の何れかに記載の形質転換植物細胞。
【請求項13】
請求項1から12の何れかに記載の形質転換植物細胞を分化してなる形質転換植物体。
【請求項14】
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及びアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、組換えベクターに導入されたものである、請求項1から12の何れかに記載の形質転換植物細胞を作出する方法及び請求項13に記載の形質転換植物体を作出する方法。
【請求項15】
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及びアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、エンハンサーと結合している、請求項14に記載の形質転換植物細胞を作出する方法及び形質転換植物体を作出する方法。
【請求項16】
アビエタジエン合成活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又はアビエタジエンからロジン代替物への変換活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを過多発現させることにより得られる請求項1から15の何れかに記載の形質転換植物細胞又は形質転換植物体を用いてロジン代替物を産生した後、該ロジン代替物を採取するロジン代替物の製造方法。
【請求項17】
ロジン代替物がアビエチン酸である、請求項16記載のロジン代替物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−234631(P2011−234631A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106348(P2010−106348)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】