説明

徐放性微生物組成物およびその用法

【課題】周囲の環境からの阻害作用を受けずに目的の効果を確実に最大限発揮しかつ長期間その効果を持続させる徐放性微生物組成物の提供。
【解決手段】目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化させて、目的微生物及び/または目的混合微生物群が徐々にかつ持続的に放出させる徐放性微生物組成物。例えば、微生物群が層状になった粒径70mmの熟成糞玉を製造し、徐放性を持たせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微生物の利用に関し、徐放性微生物組成物およびその用法に関し、目的微生物及び/または目的混合微生物群を徐放する半固定化微生物組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物利用技術は、発酵技術分野、環境浄化技術分野、生物農薬用分野等、多岐にわたり広範囲な産業に現状でも貢献しているが、今後特に地球環境問題や食料問題の解決への寄与が大きく期待されている。例えば、食品や畜産糞尿の処理等地球環境保全、資源やエネルギーの有効活用について、我が国においては「食料環境資源の再生利用に関する法律」、若しくは「家畜排泄物の管理の適正化および利用促進に関する法律」等により積極的に行われつつある。そしてその中でも飼料化堆肥化そしてバイオガス化等による有効活用が提案されている。
【0004】
しかしながら、微生物の機能を実際の現場で応用する場合、研究室内での結果を再現する際には、周囲の環境への影響を考慮したり、阻害作用を受けずに目的の効果を確実に発揮させるのは容易ではなく、そのためには例えば、特殊で高度な管理技能や、多大な労力や、大掛かりな設備を要するものとなっていた。
【発明の開示】
【0003】
バイオガス化技術の中で、廃液処理が不要であることを特長とする乾式メタン発酵方法の技術(特表2004−511331)が提案されているが、実装置で運転すると本発酵に関与する混合微生物群を制御するのが困難で、十分なバイオガス収率が得られていない。
【特許文献1】特表2004−511331
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような課題を解決するために、この発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化させて、目的微生物及び/または目的混合微生物群が徐々にかつ持続的に放出される徐放性微生物組成物であって、この目的微生物及び/または目的混合微生物群の反応時間の制御も可能であって、反応後に廃棄物問題を生ぜず、保存性にも優れる徐放性微生物組成物およびその用法を提供することを目的としている。
従来、徐放性微生物法について、土壌中や水中などの環境下で使用する場合に生分解性樹脂を用いることを特徴とした徐放性樹脂組成物の技術(特開平11−206370号公報)が提案されているのみである。
【特許文献2】特開平11−206370
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成されている。
【0007】
請求項1に記載される発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化させて、目的微生物及び/または目的混合微生物群が徐々にかつ持続的に放出されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が発酵用及び/または環境浄化用及び/または生物農薬用の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化する方法が、混練法及び/または包括法及び/または架橋・凝集法及び/または担体吸着法及び/または担体結合法及び/またはカプセル化法の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が乾式メタン発酵用であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が乾式メタン発酵用であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が乾式メタン発酵用である徐放性微生物組成物を用いる乾式メタン発酵方法であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明するが、この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、これに限定されるものではない。
【0013】
図1は徐放性微生物組成物の断面図であり、図2は徐放性微生物組成物を用いる乾式メタン発酵方法の説明図である。
【0014】
本発明における目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物について、糸状菌及び/または酵母及び/またはバクテリア及び/または古細菌及び/または好熱菌及び/または好気性菌及び/または嫌気性菌の少なくとも1種であって、特にこれらに限定するものではない。
【0015】
目的微生物及び/または目的混合微生物群として、例えば発酵用ではアルコール発酵用のサッカロマイセス属、アスペルギラス属、ペニシリウム属等、乳酸発酵・食品加工用のラクトバチラス属、バチラス属等、ブタノール発酵用のクロストリジウム属等、メタン発酵用のプロピオニバクテリウム属、メタノサルシナ属等が挙げられる。
【0016】
また、環境浄化用としてはコンポスト化用のバチラス属、アクチノマイセス属等、活性汚泥用のズグロエア属、スファエロティラス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属等、バイオレメディエーション用のシュードモナス属、バチラス属、アスペルギラス属、ストレプトミセス属等が挙げられる。
【0017】
さらに、生物農薬用としてはシュードモナス属、アルカリゲネス属、バチルス属、トリコデルマ属、ダクティレラ属等が挙げられる。
【0018】
そして、目的混合微生物群としては、各種土壌、各種の水類(河川水、湖沼、海水、温泉、排水)、それらのろ過物、各種底泥、動物の消化管内容物、糞便、コンポスト等、またそれらの処理物等が挙げられる。
【0019】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化する方法としては、混練法、包括法、架橋法、担体吸着法、担体結合法及びカプセル化法等が挙げられる。
【0020】
混練法としては、例えば土壌・粘土、コンポスト、動物糞便等、包括法としては寒天、カラギーナン、アルギン酸、キトサン、ポリ乳酸等の生分解性樹脂等、架橋・凝集法としてはCMC等、担体吸着法としては活性炭、シリカゲル、セルロース、キチン等、担体結合法としてはセルロース、キチン、アガロース等、カプセル化法としてコロジオン、硝酸セルロース等を用いた方法がある。
【0021】
微生物の配合割合は、その合計量として樹脂組成物中に0.1〜50重量%が好ましく、特に1〜30重量%が好適である。本発明の組成物の形状に特に制限はないが、例えばペレット状、棒状、粉末、シート、フィルム等が適している。
【0022】
徐放性微生物組成物を半固定化にすることにより、大部分の微生物は本組成物内に保護されるため、熱やPHやORPや化学物質による微生物の死滅等を抑制することができる。そのために周囲の環境悪化による不都合な菌相への変化も、本組成物から徐放される目的微生物及び/または目的混合微生物群により防止することができる。
【0023】
それと同時に環境悪化を整えるPH調整ファクターやORP調整ファクターを本組成物に入れることも可能であり、本組成物による微生物反応の対象の空隙率改善や組成物表面を微生物増殖・反応に好適な場とすることもできる。徐放される微生物等のタイミングも自由に設計して時間的な微生物反応の最適化も可能である。また半固定化することにより微生物機能の保存性も向上し、取扱いや流通の点でも非常に優れる。
【0024】
このように、半固定化された徐放性微生物組成物は、微生物機能が周囲の環境の影響や阻害作用を受けずに目的の効果を確実に発揮し、かつ長期間その効果を持続させ、かつ微生物反応を制御する場・空間を提供し、かつ時間的な反応の制御も可能で、使用後に廃棄物問題を生じない、微生物保存性にも優れる。
【0025】
以下、本発明を、乾式メタン発酵に徐放性微生物組成物を適用した実施例により、さらに詳しく説明する。
【実施例】
【0026】
図1に示す熟成糞玉は、牛糞に2%のアルギン酸ナトリウム溶液を5%添加して10分間混練した後、粒径100mmの球状物として作製し、その後これを室温で24時間放置して固化させた。続いて、窒素雰囲気下で30℃、10日間の熟成及び乾燥を行い、微生物群が層状になった粒径70mmの熟成糞玉(徐放性微生物組成物)を作製した。
【0027】
ガレージ式バイオガス発酵槽(特表2004−511331)内の食品廃棄物(水分含量65%)積上体に本熟成糞玉50個/トンを等間隔に埋め込み、本発酵槽を密閉して運転を開始した。図2には、埋め込まれた熟成糞玉の変化とそれの乾式メタン発酵への作用・効果を模式的に示したが、最初の3日間は熟成糞玉の最外層の好気性微生物群が周囲の処理物(食品廃棄物)に放散されてその作用が主体となって酸素消費と有機酸生成が起こり、PHとORPが急激に低下した。
【特許文献2】特表2004−511331
【0028】
続く9日間は熟成糞玉の第2層の有機酸・水素生産菌群が放散されてその作用が主体となって有機酸と水素が緩やかに生成、次に第3層の有機酸分解・メタン発酵菌群が放出されてその作用が主体となって有機酸の分解とバイオガスの発生が始まりバイオガスの生成速度は9日間でピークに達し有機酸は消滅した。
【0029】
その後中心層のメタン発酵菌群が放散されてその作用が主体となって緩慢なバイオガス発生は続いたが7日後(運転開始から28日後)にバイオガス発生は終了した。このときのバイオガス発生量の総量は122m3/トンとなり、徐放性微生物組成物なしでのバイオガス発生量の総量64m3/トンの約2倍のバイオガスを得ることができた。
【0030】
以上のように、この徐放性微生物組成物を用いた乾式メタン発酵方法によれば、大部分の微生物は本組成物内に保護されるため、温度やPHやORPや化学物質による微生物の死滅等を抑制することができ、そのために周囲の環境悪化による不都合な菌相への変化も、本組成物から徐放される目的微生物及び/または目的混合微生物群により防止することができる。
【0031】
それと同時に環境悪化を整えるPH調整ファクターやORP調整ファクターを本組成物に入れることも可能であり、本組成物による微生物反応の対象の空隙率改善や組成物表面を微生物増殖・反応に好適な場とすることもでき、徐放される微生物等のタイミングも自由に設計して時間的な微生物反応の最適化も可能であって、また半固定化することにより微生物機能の保存性も向上し、取扱いや流通の点でも非常に容易となる。
【0032】
半固定化された徐放性微生物組成物及びこの徐放性微生物組成物を用いた乾式メタン発酵方法によれば、微生物機能が周囲の環境の影響や阻害作用を受けず、かつ長期間その効果を持続させ、微生物反応を制御する場・空間を提供できるとともに、反応時間の制御も可能であってバイオガスの発生量を大きく増加させることができる。さらには使用後における廃棄物問題を生じないという利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明の徐放性微生物組成物は、発酵用及び/または環境浄化用及び/または生物農薬用の少なくとも1種としてあらゆる微生物利用産業分野に応用可能であり、例えば資源やエネルギーの有効活用の分野において、食料環境資源の再生利用や家畜排泄物の管理や利用促進を活性化するための産業に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】熟成糞玉(徐放性微生物組成物)の断面図である。
【図2】熟成糞玉の乾式メタン発酵による作用・効果を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化させて、目的微生物及び/または目的混合微生物群が徐々にかつ持続的に放出されることを特徴とする徐放性微生物組成物。
【請求項2】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が発酵用及び/または環境浄化用及び/または生物農薬用の少なくとも1種である請求項1記載の徐放性微生物組成物。
【請求項3】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種を含有・半固定化する方法が、混練法及び/または包括法及び/または架橋・凝集法及び/または担体吸着法及び/または担体結合法及び/またはカプセル化法の少なくとも1種である請求項1記載の徐放性微生物組成物。
【請求項4】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が発酵用である請求項1記載の徐放性微生物組成物。
【請求項5】
目的微生物及び/または目的混合微生物群及び/またはこれらの含有物の少なくとも1種が乾式メタン発酵用である請求項4記載の徐放性微生物組成物。
【請求項6】
請求項5記載の徐放性微生物組成物を用いることを特徴とする乾式メタン発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−124997(P2007−124997A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348447(P2005−348447)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(505445393)
【Fターム(参考)】