説明

復元可能な乾燥血液製剤

本発明は、粒子が保護物質の中に無核の血液細胞を含有する乾燥粒子の血液製剤の、以下の工程を有する製造方法を提供する。すなわち、ほ乳類の対象から血液サンプルを入手し、該サンプルに抗凝固剤を添加し、該サンプルの細胞を濃縮し、該サンプルから無核の血液細胞を含有する濃縮物を回収し、高分子の保護物質を含有する粒子に該濃縮物を含浸し、含浸した粒子を−20℃〜+120℃の温度で乾燥する、さらに乾燥粒子を密封容器に包
装してもよい製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、復元可能な乾燥血液製剤、その調製方法および復元方法、ならびに医学的および非医学的な(例えば研究)使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院は、例えば外科手術における使用のために、血液製剤(例えば濃縮赤血球、血小板、血漿など)の備蓄を保有している。無核の血液細胞(すなわち赤血球および血小板のように核を有しない細胞)を含有する血液製剤は、急速に劣化する。血小板は常温で保管されると速やかに分解され、また赤血球は冷されないか1〜4℃の冷蔵庫で保管しないと極めて急速に劣化する。たとえ冷蔵されていても、そのような血液製剤は短期間(例えば赤血球(赤い血液細胞)については3〜6週間、血小板については4時間から7日間)のうちに劣化し、破棄しなくてはならない。それは、無核の細胞は死に、劣化し、実質的に消滅してしまうか、あるいは細菌感染の危険性が許容できない水準まで高まるからである。
【0003】
このため、保健当局および病院はたいてい、通常の需要を満たすため、血液の連続的な収集、分配および貯蔵に依存している。そして供給を最高段階に維持するために、血液製剤を要求している外科医には決まって、まだ保持有効期限内にある最も古いもの、すなわち状態が次善のものが供給される。供給が需要を満たすには不充分な状況、たとえば多数の負傷者が発生した事故の場合や、稀な血液型を持つ個人が適合する血液製剤を多量に必要としている場合には、新鮮な供給を遠隔地から輸送する必要があるが、供給や輸送の機会が制限されると患者の生命は危機にさらされる。
【0004】
結果として、重大事故や多数の負傷者が出る事態が発生した時に、病院および保健当局は輸血に供せられる血液製剤の供給が不足する危険に直面する。このような環境下で、病院および保健当局は、提供者を募り必要時間内に充分な血液を集めることに頼ることはできない。なぜならば、とりわけ、提供者の血液は使用前にどのような疾患(例えばHIV感
染)の検査をも受けなくてはならないからである。
【0005】
特定の細胞を長期間、極低温下で貯蔵することは可能だが(例えば−196℃の液体窒素
中で)、無核の細胞に対しては、外部から加える凍結保護物質ならびに複雑で費用のかかる冷凍および復元の過程を使用しない限り当てはまらない。そのような操作過程は複雑であるばかりでなく、電力および液体窒素の間断なく、かつ確実な供給を通常、得ることができない被災地域や軍事衝突の紛争地域においては、一般的に適用できないものである。
【0006】
従来の冷凍技術はきわめて単純で、無核細胞を含む血液製剤に対してはふさわしくない。したがって、例えばW. Touselは、H. Hindorfとの共著の論文「Principes et applications de la lyophilisation des produits biologigues, pharmaceutiques et alimentaires", Science et Technique du Froid」(東京,日本,1985,287〜292ページ)に付随
する討論の中で、彼がそのような製剤の凍結乾燥を経験したことがあるのか尋ねられたときに次のように答えている;「血小板や赤血球のように繊細な血液細胞を凍結乾燥することは不可能である。これらの細胞は、いくらかの細胞の損失を伴うが、液体窒素法のような液体保存法で保存できる」。同じ討論では、赤血球は、グリセリンを25%含量で用いた−28℃での凍結、または−196℃〜−80℃の間の他の凍結技術により保存できると勧告さ
れている。
【0007】
グリセリンまたはその他の凍結保護物質の使用は、輸血により血液製剤が投与される前にそれらを除去しなくてはならないため、明らかに望ましくない。そして上記のように、
低温貯蔵技術は、複雑で高価な装置、材料および過程を必要とする。これらは、被災現場(例えば地震、火山噴火または重大な事故の現場)や軍事作戦中の現場では一般的に使えないし、現実的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このため、現在可能な期間よりも長期間保管でき、しかも必要が生じたときに(例えば標準的な血液型の血液製剤の供給が枯渇したときなど)患者への輸血に向けて迅速に復元できるような血液製剤が必要とされている。さらに、現在輸血用に用い得る材料よりは安全で信頼できる血液製剤が要求されている。その上、遠隔地および大都市の中心部の両方において、既製品の積荷およびその冷蔵が必要なために、血液製剤の物流が複雑になっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはこのたび驚くべきことに、乾燥した無核細胞を含有する血液製剤を製造すること、それを常態下または穏和な冷蔵状態で保管すること、ならびに製剤を復元して生細胞を含有する輸血液を作りだすことが、これと同等の冷蔵した血液製剤についての最長保管期限をかなり越えて保管した後でも可能であることを見出した。
【0010】
したがって、本発明の一つの態様として、粒子が高分子の保護物質のなかに無核の血液細胞を含有する乾燥粒状の血液製剤が提供される。
この乾燥製剤は、生理学上許容できる水溶液に溶解して関係する種の血液における通常範囲内の重量モル浸透圧濃度となるようにし、関係する種の通常の昼間体温から1℃以内
の温度としたときに、完全な生細胞を含有する。
【0011】
本発明の別の態様として、粒子が保護剤の中に無核の血液細胞を含有する乾燥粒状の血液製剤の製造方法を提供する。該製造方法は以下の工程を含む:
ほ乳類(例えばヒト)の対象から血液サンプルを採取する;
該サンプルに抗血液凝固剤を加える;
該サンプルの細胞を濃縮する;
該サンプルから無核の血液細胞を含有する濃縮物を回収する;
高分子の保護物質を含有する粒子に該濃縮物を含浸させる;
−20〜+120℃(好ましくは−10〜+40℃だが、高温乾燥のために120℃までは可能である)の範囲の温度で該含浸粒子を乾燥させる;
そして必要に応じて乾燥した該含浸粒子を密封した容器に、特にたとえば真空包装によって上部空間があればそこが実質的に無酸素の容器に包装する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用される高分子の保護物質は、好ましくは分子量が1000 D(ダルトン)を超える、特に2000 Dを超える水溶性の高分子物質を含有する材料であり、特に好ましくはそのような物質の混合物である。この材料は、好ましくはその血液の由来する種における内因性の高分子、具体的には多糖類、タンパク質(糖タンパク質を含む)および脂質(例えばリン脂質)から選択される物質を含有する。さらに好ましくは、該血液の由来する種の血中に自然に存在する高分子、例えば血漿タンパク質、細胞内タンパク質および細胞膜の分子(例えばタンパク質や脂質など)を含有する。より好ましくは、無核の血液細胞(特に赤血球)からの細胞膜の分子を含有する。特に好ましくは、スペクトリン(spectrin)を含有する。特に好ましい様態としては、この保護物質には実質的にはヘモグロビンが存在しない。具体的にはそのヘモグロビン含量は、(乾燥固形ベースで)赤血球のヘモグロビン含量に関して、例えば50重量%未満、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満、特には1重量%未満である。
【0013】
含浸させた粒子の乾燥は、好ましくは−5〜+37℃の範囲の温度で、より好ましくは−1〜25℃で、特には0〜15℃で、さらには1〜10℃で、具体的には3〜5℃で行う。乾燥工程の時間は、使用される乾燥技術に依存するが、好ましくは10時間を超過しない。乾燥時間は8時間までが好ましい。
【0014】
乾燥は、乾燥製剤の全含水率が好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜17重量%、特には5〜12重量%、さらには7〜10重量%となるまで行う。
乾燥は、いかなる好適な手法で行っても良い。例えば真空乾燥法、スプレー乾燥法、流動層乾燥法、回転式乾燥法、攪拌層乾燥法、連続ベルト乾燥法などである。しかし、使用する技術は細胞が被る物理的なストレスを最小限にとどめるものが好ましく、したがって流動層乾燥法が特に好ましいといえる。
【0015】
乾燥工程においては、従来の乾燥媒体(例えば空気、窒素など)を使用することができる;しかし、窒素、酸素を低減させた空気または希ガスを使用することが好ましい。
乾燥工程におけるガス分圧は、好ましくは大気圧の10%以内である。
【0016】
従来の流動層乾燥機では粒子の層を流動化させるためにガスを用いているが、本発明では代わりに、機械的に(例えば櫂やスクリューを備えて相互に逆回転している平行アームによって)層を流動化している乾燥機を使用することができる。このような機械的な流動層は、例えば高分子業界でメタロセン触媒を担体粒子に含浸させるときに(例えばボレアリス社の特許出願を見よ)使用されている。もしも機械的な流動化が用いられるならば、乾燥機内のガス圧は大気圧に準じることが好ましい。
【0017】
本発明の工程において含浸させた粒子は、好ましくは固体またはゲル状であり、特に好ましくは固体形状である。粒子の大きさ(すなわち粒子の直径の最頻値)は、好ましくは0.05〜5mm、より好ましくは0.5〜3mmの範囲である。したがって、望むならば、使用前に
粒子を等級分けして(篩にかけて)所望の大きさの粒子を選択してもよい。粒子の大きさを実質的に均一にすることで、含浸された粒子は実質的に一様に乾燥され、これにより無核細胞が乾燥中にさらされるストレスは最小限になる。
【0018】
粒子の含浸は、いかなる好適な方法よってなされても良い。例えば粒子に濃縮液を噴霧または滴下する方法、濃縮液に粒子を浸す方法、または落下する濃縮液の幕を粒子の上を通過させる(つまり幕、粒子またはその両方を動かす)方法である。好ましくは、無核細胞がさらされる機械的ストレスを最小限にする技術、例えば滴下法または落下する幕を用いる方法が使用される。所望により、含浸の工程の間、例えば機械的にまたはガスの流れによって(振動層または流動層における例のように)粒子を攪拌してもよい。
【0019】
使用される粒子は、好ましくは多孔質(例えば細孔の大きさまたは間隙が10μmを上回るもの)および/または水膨潤性のものである。
さほど好ましくはないが、粒子の含浸は代わりに以下のようにしてもよい;濃縮液を保護物質の溶液と混合し、例えばこの混合物がゲルとなるような環境(例えば混合物中の成分と相互作用してゲルを形成する薬剤を含有する溶液)に滴下または噴霧するなどして、得られた混合物の小滴をゲル化する。したがって、例えばこの混合物はアルギン酸塩を含有してもよく、カルシウム塩の溶液に滴下や噴霧すればゲルの小滴を形成するであろう。
【0020】
本発明の別の態様により、核を有する真核生物の細胞(好ましくはほ乳類の細胞、特にはヒトの細胞)の溶液(一般的には水溶液)、分散液または懸濁液を粒子の保護物質に含浸し、乾燥させて、復元可能な生物学的製剤を生産してもよい。
【0021】
したがって本発明のさらに別の態様により、高分子の保護物質中に真核生物の有核細胞を含有した、復元可能な乾燥生物学的製剤が提供される。
本発明のさらなる別の態様により、真核生物の有核細胞を含有した溶液を高分子の保護物質粒子に含浸し、これを乾燥させる工程を含む、復元可能な乾燥生物学的製剤の製造方法が提供される。
【0022】
復元可能な生物学的製剤(すなわち再水和して所望の生物活性を有する物質となる製剤)では、乾燥した幹細胞の製剤が特に好ましい。
本発明の工程で使用される抗凝固剤は、好ましくは細胞の凝集を阻害する、および/またはフィブリンの形成を阻害するよう働くものである。クエン酸塩は好適な抗凝固剤の一例である。輸血用の血液製剤を製造するために血液を採取し、その後に抗凝固剤を使用することは従来から行われている。実際に使用されている典型的な抗凝固剤として、CPD、CP2D、CPDA-1、AS-1、AS-3およびAS-5が挙げられる。
【0023】
本発明の方法における細胞の濃縮工程は、例えばろ過など、細胞を濃縮するために適するいかなる手法によってもよい。しかし遠心分離を使用するのが好ましい。採血の後、遠心分離は従来から、血液細胞の濃縮物と細胞を含有しない血漿とを貯蔵の前に分離して調製するために使用されている。遠心分離(必要に応じ数サイクルの遠心分離)はまた、例えば赤血球、血小板、顆粒球、単球、リンパ球、B細胞、T細胞およびNK細胞などの、血液中に見られる、異なるタイプの細胞の濃縮物を調製するために従来から使用されている。これは、特定の外科的手段(例えば臓器移植)において、細胞を含有する輸血液が、異なるタイプの細胞を通常の割合でそれぞれ含有することは必ずしも望ましくないためである。本発明の方法において使用される細胞含有濃縮物は、血小板および/または赤血球、ならびに必要に応じて他の血液細胞および血液タンパク質などを含有しても良い。しかし上記濃縮物では有核細胞は、血液中よりは少なくても、無核細胞と比べて豊富に含有されることが好ましい。この目的のために、細胞の濃縮工程には何サイクルかの遠心分離、分離、希釈、遠心分離などを含んでいても良く、これにより最終的な濃縮物中で所望のタイプの細胞を相対的に豊富にすることができる。一般的には、特に赤血球製剤を製造するときは、遠心分離の前に白血球およびサイトカインの濃度を低減することが望ましい。例えば直列の白血球除去フィルター(Baxtor Healthcare社から入手可能)が使用できる。
【0024】
細胞の濃縮の後、次の処理まで、濃縮物は冷蔵して(例えば1〜4℃で)最長35日間まで貯蔵しておくことができる。しかし濃縮物は最少限に延ばすだけ、好ましくは7日だけで
、より好ましくはわずか24時間で次の処理がなされるのが好ましい。
【0025】
本発明の血液製剤において細胞の生存度を最適化するために、血液の収集から製剤の乾燥段階までの間を可能な限り短縮し、調製段階の間のどの期間においても中間生産物を冷蔵して(例えば1〜4℃で)貯蔵することが望ましい。
【0026】
本発明は脈管系を有するあらゆる動物からの血液に対して適用可能であるが、ほ乳類の血液、とりわけヒトの血液に対して特に適切である。
サンプルを採取する段階において、血液は健康な提供者から、例えば関係する保健当局またはノルウェーではノルウェー保健省からの国際的な勧告に従って採取するのが好ましい。典型的には、ヒトの血液については、提供者あたりのサンプル量は100から800mL、より好ましくは200から600mL、例えば400から500mL、特に440から480mLの範囲である。好ましくは、提供者からの血液は感染、とくにウィルス感染、とりわけB型肝炎、C型肝炎およびHIVについてのスクリーニングを行う。スクリーニングで血液に感染が示された場合、
乾燥製剤が提供者本人のみのために使用することが指示されていない限り、そのサンプルは拒絶されるべきである。しかし一般的には、感染したサンプルはすべて拒絶されるであろう。そうではあるが、本発明による乾燥製剤は、全血または液状の血液成分のサンプル
に比べ、例えば放射線照射やガスの曝露などの幅広い汚染除去技術を受け入れやすいので、病理マーカーの含有が見つかった血液サンプルは必ずしも拒絶しなくてよい。血液は、無菌状態で無菌の器具を用いて、採取、貯蔵および取り扱いがなされるべきである。前述のように、採取血液には抗凝固剤が添加されるべきである。450mLの血液サンプルについ
ては典型的には、63mLの無菌のクエン酸塩/リン酸塩/ブドウ糖水溶液(例えばCPD、CP2DまたはCPDA-1)中に採取することであってもよい。もしこのサンプルは次の処理が直ち
になされないのであれば、冷蔵で、例えば1〜4℃で保存するのが好ましい。血液の採取については、例えば「免疫血液学の基礎および応用概念」(Blaneyら, Mosby, 2000年)の
第11章に記述されている。
【0027】
このサンプルは次に、たとえば従来の遠心分離器を使用して、細胞の濃縮が行われる。この結果得られる細胞の懸濁液は、次の処理を速やかに行ってもよいし、次の処理まで冷蔵し(例えば1〜4℃)5週間までの期間保存してもよい。
【0028】
所望により、上記の細胞の濃縮工程を、すべてのタイプの血液細胞を収集するのに使用してもよい;しかし最終的な製剤について、すべての種類にわたる血液細胞を含有するよりも特定の細胞を含有することが望まれているならば、所望により、例えば赤血球、血小板、幹細胞、顆粒球またはリンパ球などといった特定タイプの血液細胞を収集してもよい。
【0029】
所望により血漿をも収集して、さらにその処理を行って血液タンパク質(例えば血漿タンパク質、とくにガンマグロブリン、ガンマアルブミンおよび凝固因子)および細胞構成物質などを収集してもよい。これらの素材は、例えばアフィニティークロマトグラフィーおよびその他のすでに知られている分離技術などの標準的な技術を用いて、収集および濃縮を行ってよい。
【0030】
特に、有核の細胞を無核の細胞から分離するために細胞の濃縮工程を用いる場合、例えば放射線照射などの有核の細胞を殺す技術を用いて、濃縮物の殺菌を行ってもよい。これは、濃縮物に対してでも、調製、包装および貯蔵の一連の工程のどの製剤においてでも、行うことができる。
【0031】
乾燥粒子の血液製剤は、容器に密封をして包装するのが便利である。密封容器内の気体は無酸素であること、たとえば窒素やヘリウムが好ましい。密封容器は常温で貯蔵しても良いが、望ましくは凍結、または−20℃〜+10℃、好ましくは−10℃〜+4℃で冷蔵もし
くは冷凍して貯蔵する。
【0032】
乾燥製剤は、無菌の水溶液と、好ましくは乾燥製剤と混合したときに血液と等張であるものから10%以内にある溶液、例えば0.8〜1.0%生理食塩水に相当する溶液が得られるものと混合して復元することができる。特に望ましくは、水で戻した流動体は血漿中に存在する主要な金属陽イオン、すなわちナトリウム、カルシウム、カリウムおよびマグネシウムを含有する。またやはり、水で戻した流動体は、グルコース、アデノシン3リン酸およ
び2,3−ジホスホグリセリン酸を含有することが望ましい。
【0033】
貯蔵および復元を最適化するために、本発明の工程で含浸した保護物質粒子の平均粒子サイズ(例えばD(v,0.5)と表現される)は、好ましくは0.05〜5mm、特には0.5〜3mmの範
囲である。したがって必要ならば、粒子保護物質を例えば篩にかけて大きさを揃え、粒子サイズが所望の等級である粒子画分を選択してもよい。
【0034】
乾燥血液製剤の製造に使用される保護物質が、その使用量において生理学的に許容されない場合は、復元においてその保護物質の完全なまたは部分的な除去を伴うことになる。
これを達成するために製剤を復元用流体に溶解し、一回または複数回、遠心分離して回収した細胞を沈降させ、復元用流体でさらに希釈してもよい。また代わりに、溶解した製剤を保持物質でろ過し、すなわち細胞を回収し、必要ならば復元用流体でさらに希釈してもよい。さらにもう一つの別の方法として、保護物質の通過を容認する膜を用いて溶解した製剤の透析を行ってもよい。
【0035】
したがって本発明の別の態様として、輸血用の液体の製造方法が提供される。該製造方法は、本発明による乾燥粒子の血液製剤を生理学的に許容できる無菌の水溶液に分散させ、必要ならばこの分散液中にある保護物質の濃度を低減させるように扱うことを含む。
【0036】
さらに本発明の別の態様として、1つ目に本発明による乾燥粒子の血液製剤を入れた容器と、2つ目に無菌で生理学的に許容できる復元用の水溶液を入れた容器とを含有する用具一式(キット)が提供される。
【0037】
輸血用の液体が2種類以上の血液成分、例えば赤血球、血小板および血漿タンパク質を含有することが望まれている場合は、別々に製造された乾燥血液製剤を組み合わせて使用することが可能である。組み合わせるのは、復元の前でも後でもよい。復元の前に混合するのは、使用されている保護物質を除去する必要がないか、それらを異なる血液製剤を分離することなく除去できる場合に実施可能である。したがって例えば、保護物質の分子量が例えば500D以下と低ければ、遠心分離または透析を用いてもよい。この目的のために、従来の血液細胞処理機を使用してよい。
【0038】
本発明の製法は、このように組み合わせる輸血液剤の製造に好適である。一連の工程において、当初の血液サンプルを遠心分離してもよく、連続するそれぞれの段階で次第に質量の小さな血液成分を分離させていくためにより強い重力が使用される。例えば血漿タンパク質を収集するためには、この工程によってサンプルから細胞をなくさなくてはならないので、結果的に、赤血球に破裂をもたらしかねない重力が使用されるかもしれない。
【0039】
したがって、本発明は元来、無核細胞を含有する乾燥した粒子状製剤を製造することを目的としているが、前記のように、他の血液成分、特に細胞の断片およびその他の細胞の成分を含有した乾燥粒子を製造するために、本発明を用いてもよい。本発明はまた、例えば骨髄細胞または胎児細胞もしくは胚性細胞(特に幹細胞)などの、血液細胞とは異なるほ乳類の細胞を含有する乾燥粒子の組成物を製造するために用いてもよい。特に好ましくは、製剤は例えば成人の骨髄または末梢血からの造血幹細胞に由来する間葉幹細胞(MSC
)を含有する。MSCは、受容者に拒絶反応を被らせにくいため特に有用である。このよう
な製剤、それらの製造および使用もまた、本発明の別の面を形成する。
【0040】
本発明の製法を用いれば、人体から離れて4ヶ月を超えた後でも、10年までさえも生存
している細胞を含有する乾燥製剤を製造することが可能である。
本発明による乾燥製剤のさらなる利点は、保管できる期間が長くなることに加えて、全血よりも必要とする保管スペースが少ないという事実である。このため、全血よりも簡単に、大量に貯蔵したり、または血液の需要が発生した場所への輸送が行える。
【0041】
以下本発明について、なんら限定を意図しない以下の実施例によりさらに記述する。
【実施例1】
【0042】
高分子保護物質の調製
冷凍した濃縮赤血球をさらに液体窒素の中で冷やし、−25℃まで温度を上げ、削りおろした。得られた粒子を大きさが0.5から2mmの大きさになるよう篩にかけた。この粒子を−30℃で真空凍結乾燥し、乾燥粉末を得た。これを20℃まで温度を上げて貯蔵した。
【0043】
さらに液体窒素による処理がなされていない材料についても、−20℃での流動層乾燥法によりならびに両方の乾燥技術を用いて、同様にして粉末を調製した。
【実施例2】
【0044】
赤血球を含有する乾燥製剤の調製
2℃において、(クエン酸塩を加えた血液の遠心分離によって調製された)液体の濃縮
赤血球を実施例1の粉末に滴下した。得られた含浸粉末を流動層乾燥機の中で4℃で6時間
以上乾燥し、含水率を約8重量%にした。
【実施例3】
【0045】
赤血球を含有する乾燥製剤の復元
実施例2に記載されたようにして製造され、粒子の大きさが0.01〜5mmである乾燥赤血球含有製剤、約4μLに、リン酸緩衝化生理食塩水、100μLを加えた。この製剤は真空密封後、外界の状態で血液を採取してから120日以上保存されていた。光学顕微鏡(Reichert社
、オーストリア)で約5分後に観察すると、復元された懸濁液は細胞を含有しているのが
見えた。
【実施例4】
【0046】
ヘモグロビンを含有しない保護物質の製造
濃縮された赤血球細胞を、細胞を溶解させるために注射用の水で希釈する。所望により、細胞の電気泳動を行うために(例えば、1000V/cmを上回る電圧勾配を有する)双極電界を用いてもよい。希釈した混合物は、遠心分離または超遠心分離を行い、ヘモグロビンのバンドの下のマクロ構造/高分子画分を分離する。分離した画分を再び注射用の水で希釈し、遠心分離する。これを、分離した画分がヘモグロビンによる赤色をもはや持たなくなるか、色がかなり薄くなるまで繰り返す。この分離された画分を実施例1のように、冷凍
して固化させ、微粉砕し、篩にかけ、乾燥する。そして得られた粉末は実施例2および3のように使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が保護物質の中に無核の血液細胞を含有する乾燥粒子の血液製剤の、以下の工程を有する製造方法:
ほ乳類の対象から血液サンプルを入手し、
該サンプルに抗凝固剤を添加し、
該サンプルの細胞を濃縮し、
該サンプルから無核の血液細胞を含有する濃縮物を回収し、
高分子の保護物質を含有する粒子に該濃縮物を含浸し、
含浸した粒子を−20℃〜+120℃の温度で乾燥する、
さらに乾燥粒子を密封容器に包装してもよい製造方法。
【請求項2】
前記血液サンプルがヒトの対象者から入手したものであることを特徴とする、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
前記高分子の保護物質が、分子量が2000Dを超える水溶性の高分子物質を含有すること
を特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記高分子の保護物質が、血液が由来する種の血液中に通常存在している高分子を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記高分子の保護物質のヘモグロビン含量が、赤血球のヘモグロビン含量と比較して1
重量%未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥工程が1〜10℃の間の温度でなされることを特徴とする、請求項1〜5のいずれ
かに記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥工程が流動層乾燥法を伴うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
粒子が高分子の保護物質中に無核の血液細胞を含有することを特徴とする、乾燥粒子の血液製剤。
【請求項9】
高分子の保護物質中に核を有する真核生物の細胞を含有する、乾燥し、復元可能な生物学的製剤。
【請求項10】
有核の真核細胞を含有する液体を粒子状高分子保護物質に含浸させ、含浸した粒子を乾燥する工程を有する、乾燥し、復元可能な生物学的製剤の製造方法。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載された製剤を生理学的に許容できる無菌の水溶液に分散させることを含み、さらに得られた分散液中の保護物質の含量を減少させてもよいことを特徴とする、輸血液の製造方法。
【請求項12】
請求項8または請求項9に記載された製剤を入れた1番目の容器と、無菌で生理学的に許
容できる復元用水溶液を入れた2番目の容器とを含有するキット。
【請求項13】
前記1番目の容器を前記2番目の容器内に配置し、その内容物を該溶液中に放出するよう開けることができることを特徴とする、請求項12に記載のキット。


【公表番号】特表2006−512389(P2006−512389A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563371(P2004−563371)
【出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005670
【国際公開番号】WO2004/057962
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(502119428)
【氏名又は名称原語表記】SINVENT AS
【住所又は居所原語表記】S.P.Andersensvei 5,N−7465 Trondheim,Norway
【Fターム(参考)】