説明

復調器及び復調方法

【課題】計算量を減少させることができる復調器及び復調方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる復調器は、搬送波の振幅値が異なる複数の受信シンボルの復調を行う復調器である。この復調器は、受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値とを加算して受信シンボル振幅値を算出する振幅値算出部10を備えている。さらに、復調器は、振幅値算出部10が算出した受信シンボル振幅値の変化を検出し、当該検出結果に基づいて受信シンボルを復調する復調部20と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は復調器及び復調方法に関し、特に異なる振幅値を有する受信シンボルを用いた復調器及び復調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信用IC(Integrated Circuit)は、アナログ・デジタル混載化が進んでいる。通信用ICは、アナログ信号に対して実行していた信号処理をADC(Analog to Digital Converter)より出力されたデジタル信号に対して信号処理する方向へ移行している。デジタル信号処理への移行は、プロセスを微細化することにより、チップ面積が小さくなりコストの低減が図れる点やチップ面積を変えずに、より多くの機能を搭載した通信用ICが開発できるという利点がある。しかし、デジタル信号処理がアナログ信号処理と同等の信号処理を行うためには、標本化する範囲を細かく設定し、量子化ビット数を大きくすることにより、量子化雑音を低減する必要がある。一般的に、ASK(Amplitude Shift Keying)復調器には、複素数信号を二乗演算回路と平方根演算回路により振幅を計算する回路が使用されている。しかし、二乗演算回路と平方根演算回路により振幅を計算する回路は、ビット幅の大きい演算回路をデジタル回路により構成すると回路規模が大きくなりチップ面積の増加に繋がる。そのため、二乗演算回路と平方根演算回路を用いない、回路規模が小さいASK復調器の要求が高まってきた。
【0003】
特許文献1には、二乗演算回路と平方根演算回路を用いずに検波できる復調器の例が開示されている。図4は、特許文献1に記載された復調処理における受信シンボルの角度領域を示し、推定シンボル差平面において推定シンボル差領域を2つに分割した例を示している。推定シンボル差平面のX軸801を横軸に、推定シンボル差平面のY軸802を縦軸に示している。
【0004】
推定シンボル差平面上における位置ベクトル(X,Y)の角度θを用いて示されるtanθは、Y/Xであることから、ベクトル(X,Y)が上記の二つの角度領域のどちらに属するかは、例えば、Y/X<1/2なる条件式を満たすか否かを判定する。判定の結果、この条件式を満たす場合には、位置ベクトル(X,Y)は角度領域120に属し、満たさない場合は、位置ベクトル(X,Y)は角度領域110に属するとみなすことができる。
【0005】
図4において定義した角度領域110、120のそれぞれについて、推定シンボル差列ベクトルの各要素の絶対値を求めるための近似関数F(t)を以下の式(1)及び式(2)により決定する。rは正の定数を示す。
【0006】

【0007】

【0008】
tは推定シンボル差領域100を分割した角度領域の識別番号とすると(このケースにおいては1又は2)、式1で示した近似式関数F(t)に用いる定数α(t)、β(t)を決定するために、arctan(β(t)/α(t))が角度領域tの角度範囲に含まれ、かつ、式2を満たすように定数α(t)、β(t)を選定する。例えば、arctan(β(t)/α(t))が角度領域tの中央角度に近い値で、かつ、α(t)2+β(t)2の値が"1.32"に近い値になるようにα(t)、β(t)を選定すると、図5で示される値になる。図5は、背景技術における角度領域分割例において使用する近似定数の例である。また、α(t)、β(t)の値は、1/2の加減算で表せる値とする。これにより、近似式F(t)=α(t)X+β(t)Yを求めるための回路を、ビットシフト回路と加算器との組み合わせによる単純な回路により構成できる。
【0009】
図6は、角度領域分割の例に対応する回路構成例である。絶対値抽出部410は推定シンボル差列ベクトルの各要素となる複素数z=x+yiを入力すると、複素数zの実数部の絶対値|Re(z)|=|x|、および、複素数zの虚数部の絶対値|Im(z)|=|y|を抽出して、それぞれを、最大値抽出部420および最小値抽出部430へ出力する。最大値抽出部420は、絶対値抽出部410において抽出された実数部の絶対値|Re(z)|=|x|、および、虚数部の絶対値|Im(z)|=|y|の内の最大値を抽出してXとして領域選択部210および近似計算部310へ出力する。最小値抽出部430は、絶対値抽出部410において抽出された実数部の絶対値|Re(z)|=|x|、および、虚数部の絶対値|Im(z)|=|y|の内の最小値を抽出してYとして領域選択部210および近似計算部310へ出力する。
【0010】
領域選択部210においては、最大値抽出部420から出力されたXは大小比較部211へ入力され、最小値抽出部430から出力されたYは2倍回路213においてビットシフト処理により2倍にされて2Yとして大小比較部211へ入力される。大小比較部211は、最大値抽出部420から入力されたXと、2倍回路213から入力された2Yとを比較して、その結果を角度領域選択部212へ通知する。角度領域選択部212は、大小比較部211から通知された比較結果を基に推定シンボル差平面上の位置ベクトル(X,Y)が位置する角度領域tを選択する。つまり、t=1の角度領域110の角度範囲は、arctan(1/2)≦θ≦π/4であり、t=2の角度領域120の角度範囲は、0≦θ<arctan(1/2)である。従って、Y/X<1/2、つまり、2Y<Xの条件式を満たすならば角度領域120を選択し、満たさなければ角度領域110を選択する。そして選択された角度領域の番号tを、近似計算部310のセレクタ311へ通知する。
【0011】
近似計算部310は、近似関数F(t)を選択するためのセレクタ311と、入力された推定シンボル差平面上の位置ベクトル(X,Y)の座標値X、Yに対して近似定数α(t)、β(t)を乗算して加算する回路を含んでいる。セレクタ311は、角度領域選択部212から通知された角度領域番号tを基に、該当する角度領域の近似関数F(t)を選択する。図5に示したように、α(1)=7/8、α(2)=9/8であり、α(t)Xの乗算を行うために1/8回路312、加算器314、314aが設けられる。1/8回路312は入力されたデータをビットシフトにより1/8倍する回路であり、加算器314、314aは入力データの矢印に付加された"+"、"−"の符号に従って、それぞれ、加算、減算を行う回路である。
【0012】
例えば、α(1)はα(1)=7/8=1−1/8のように、2のべき乗の加減算として表現されるため、図5の近似計算部310に示されるような回路構成を用いて計算できる。他の近似定数についても2のべき乗の加減算として表現されるため、同様に回路を構成でき、その詳細な説明は割愛する。また、β(1)=3/4、β(2)=1/4であり、β(t)Yの乗算を行うために、1/2回路313、313a、加算器314bが設けられる。1/2回路313、313aは入力されたデータをビットシフトにより1/2倍する回路であり、加算器314bは入力データの矢印に付加された"+"、"−"の符号に従って、それぞれ、加算、減算を行う回路である。β(t)についても2のべき乗の加減算として表現されるため、図6の近似計算部310に示されるような回路構成を用いて計算できる。
【0013】
上記のようにして近似計算されたα(t)X、β(t)Yの計算結果は、セレクタ311に出力される。セレクタ311は、出力されたα(t)X、β(t)Yの中から、角度領域選択部212から通知された角度領域番号tに対応するα(t)X、β(t)Yの値を選択して出力する。この結果より、領域毎に所定の近似定数α、βを選定して前記推定シンボル差z=x+yiの絶対値|z|をαX+βYの式で近似する検波回路を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−85396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に開示されている復調器は、復調精度を上げると回路規模が増大し、計算量が増大するという問題がある。特許文献1に開示されている復調器は、Aを振幅、(X,Y)を座標値とし、X=cosθ、Y=sinθとすると、振幅Aは式(3)より求められる。
【0016】

【0017】
また、以下の式(4)は、上記式(3)を近似的に示した式である。
【0018】

【0019】
αとβは、(X,Y)の座標値が、図4の角度領域110の領域内である場合は、図5においてt=1の場合のαとβとの値となり、角度領域120の領域内にある場合は、図5においてt=2の場合のαとβとの値となる。図4より、座標値が角度領域110にある場合は、全て図5においてt=1の場合のαとβとの値に近似され、座標値が角度領域120にある場合は、全て図5においてt=2の場合のαとβとの値に近似される。つまり、図5に示されるように、(X,Y)の座標の角度領域110では、arcTan(0.85714)により角度が近似され、角度領域120ではarcTan(0.2222)により角度が近似される。
【0020】
次に、式(3)より、各角度領域において近似した角度を用いて計算した振幅と、(X,Y)の座標の実際の角度を用いて計算した振幅との誤差を計算する。(X,Y)の座標の実際の角度をθとし、角度領域において判定した角度をθ+Δθとする。ここで、Δθは、(X,Y)の座標の実際の角度と角度領域において判定した角度との差とする。ΔAは、(X,Y)の座標の実際の角度を用いて計算した振幅と角度領域において判定した角度を用いて計算した振幅との差とする。ASK復調における振幅の誤差は、式(5)で表され、前記振幅の誤差が復調精度となる。
【0021】

【0022】
式(5)より振幅の誤差ΔAを小さくするには、角度との差Δθを小さくする必要がある。Δθは、(X,Y)の座標の実際の角度と角度領域において判定した角度との差であるため、角度領域を細分化することにより、(X,Y)の座標の実際の角度に近づけることが出来る。しかし、角度領域を細分化することは、図6の領域選択部210に、細分化された角度領域の数に応じて角度領域を判定する複数の回路が必要となり、近似計算部310も細分化された角度領域の数に応じたαとβとの近似値を計算する複数の演算回路が必要となるため、回路規模が増大し、計算量が増加するという問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様にかかる復調器は、搬送波の振幅値が異なる複数の受信シンボルの復調を行う復調器であって、前記受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値とを加算して受信シンボル振幅値を算出する振幅値算出部と、前記振幅値算出部が算出した受信シンボル振幅値の変化を検出し、当該検出結果に基づいて受信シンボルを復調する復調部と、を備えるものである。
【0024】
このような復調器を用いることにより、受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値とを加算した受信シンボル振幅値を用いて受信シンボルの復調を行うことができるため、復調器で実行する計算量を減少させることができる。
【0025】
本発明の第2の態様にかかる復調方法は、搬送波の振幅値が異なる複数の受信シンボルを取得し、前記受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値を加算することにより受信シンボル振幅値を算出し、出力する復調信号の値に応じて異なる閾値を設定し、前記異なる閾値を用いて、前記受信シンボル振幅値の変化を検出し、前記検出結果に基づいて前記受信シンボルを復調するものである。
【0026】
このような復調方法を用いることにより、受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値とを加算した受信シンボル振幅値を用いて受信シンボルの復調を行うことができるため、復調器で実行する計算量を減少させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、計算量を減少させることができる復調器及び復調方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1にかかる復調器の構成図である。
【図2】実施の形態1にかかる受信シンボル振幅値と閾値との関係を示した図である。
【図3】実施の形態1にかかる受信シンボル振幅値と閾値との関係を示した図である。
【図4】特許文献1にかかる受信シンボルの角度領域を示した図である。
【図5】特許文献1にかかる受信シンボルの搬送波の振幅値を算出するための近似値を示した図である。
【図6】特許文献1にかかる復調器の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1を用いて本発明の実施の形態1にかかる復調器の構成例について説明する。復調器は、振幅値算出部10と、復調部20と、最大値判定回路30と、最大値保持回路40とを備えている。また、振幅値算出部10は、絶対値抽出部12と、加算部14とを有している。復調部20は、ヒステリシス閾値判定回路22と、復調回路24とを有している。
【0030】
絶対値抽出部12は、受信シンボルを複素平面を用いて示したz=x+yiを取得する。絶対値抽出部12は、複素数zの実数部の絶対値|Re|=|x|と、複素数zの虚数部の絶対値|Im|=|y|とを算出する。また、絶対値抽出部12は、算出した実数部の絶対値|Re|及び虚数部の絶対値|Im|の値を加算部14へ出力する。
【0031】
加算部14は、絶対値抽出部12から取得した複素数zの実数部の絶対値|Re|と虚数部の絶対値|Im|との値である|x|と|y|とを加算する。加算部14は、|x|と|y|とを加算した値を受信シンボル振幅値として、ヒステリシス閾値判定回路22及び最大値判定回路30へ出力する。
【0032】
最大値判定回路30は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値の中から最大の値を示す受信シンボル振幅値を判定する。最大値となる受信シンボル振幅値を判定する方法として、例えば、最大値判定回路30が一定期間のうちに加算部14から取得する受信シンボル振幅値の中から最大の値を示す受信シンボル振幅値を判定する方法がある。
【0033】
最大値保持回路40は、最大値判定回路30において最大の値を示す受信シンボル振幅値と判定された受信シンボル振幅値を保持する。最大値保持回路40は、保持している最大受信シンボル振幅値をヒステリシス閾値判定回路22へ出力する。
【0034】
ヒステリシス閾値判定回路22は、最大値保持回路40から取得した最大受信シンボル振幅値に基づいて、受信シンボルを復調するために用いる閾値を設定する。閾値の設定方法については、後に詳述する。ヒステリシス閾値判定回路22は、設定した閾値と加算部14から取得した受信シンボル振幅値とを比較し、比較した結果を復調回路24へ出力する。
【0035】
復調回路24は、ヒステリシス閾値判定回路22から、受信シンボル振幅値が閾値よりも大きい値を示す比較結果を取得した場合、例えば復調信号「1」を出力する。また、受信シンボル振幅値が閾値よりも小さい値を示す比較結果を取得した場合、例えば復調信号「0」を出力する。
【0036】
続いて、図2を用いて本発明の実施の形態1にかかる復調器の動作について説明する。絶対値抽出部12は、複素数z=x+yiを取得する。ここで、xをA(t)cosθ、yをA(t)sinθの極形式で複素信号を表す。A(t)は、ASK変調による搬送波の振幅を示す。tは時間、θは位相を示す。絶対値抽出部12の一方の出力は、複素数zの実数部の絶対値|Re|=|x|=|A(t)cosθ|を出力する。絶対値抽出部12のもう一方の出力は、複素数zの虚数部の絶対値|Im|=|y|=|A(t)sinθ|を出力する。加算部14は、zの実数部の絶対値|Re|と、zの虚数部の絶対値|Im|とを加算し、|A(t)cosθ|+|A(t)sinθ|を最大値判定回路30及びヒステリシス閾値判定回路22へ出力する。ここで、加算部14が出力する|A(t)cosθ|+|A(t)sinθ|を、受信シンボル振幅値Xとする。ここで、受信シンボルXは、以下の式(6)で示される。
【0037】

【0038】
式(6)より加算部14の受信シンボル振幅値Xの最小値は、sin(2θ)=0の時に、式(7)で示される。
【0039】

【0040】
また、加算部14の受信シンボル振幅値Xの最大値は、sin(2θ)=±1の時に、式(8)で示される。
【0041】

【0042】
式(7)と式(8)より、加算部14の受信シンボル振幅値Xは、式(9)を満たす範囲で変化する。
【0043】

【0044】
図2の下図のグラフは、2値のASK変調の例を示しており、縦軸を振幅値とし、横軸を時間としており、複素数zの実数部xを示すA(t)cosθと、虚数部yを示すA(t)sinθのグラフを示している。搬送波の振幅A(t)は、データ「1」のとき振幅A1、データ「0」のとき振幅A2となるデータを受信した状態を示している。この時、A1>A2の関係が成り立つものとし、振幅A1と振幅A2との比は、通信時に設定したASK変調度により決定される。図2の上図のグラフは、|A(t)cosθ|+|A(t)sinθ|の値、つまり受信シンボル振幅値を示している。
【0045】
ここで、加算部14から出力される受信シンボル振幅値は、以下の式(10)もしくは式(11)の関係を満たす。図2は、式(11)の関係を図示している。
【0046】

【0047】

【0048】
最大値判定回路30は、式(10)及び式(11)より、受信シンボル振幅値の最大値を√(2)A1と判定し、最大値保持回路40も、最大値判定回路30により最大値と判定された値を保持する。ヒステリシス閾値判定回路22は、受信シンボルを復調するために、以下の方法により閾値を設定する。2値のデータを扱う場合、2つの閾値を設定し、この2つの閾値を立ち上がり閾値、立ち下がり閾値とし、以下の式(12)及び式(13)を満たす範囲で設定する。
【0049】

【0050】

【0051】
ヒステリシス閾値判定回路22は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値と立ち上がり閾値又は立ち下がり閾値とを比較した結果を復調回路24へ出力する。復調回路24は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値が立ち上がり閾値を超えた場合、つまり最大受信シンボル振幅値が立ち上がり閾値よりも大きい値を示した場合、データ「1」を復調し、受信シンボル振幅値が立ち上がり閾値を超えない場合、つまり最大受信シンボル振幅値が立ち上がり閾値よりも小さい値を示した場合、データ「0」を復調する(以下、方法1とする)。又は、復調回路24は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値が立ち下がり閾値を超えた場合、つまり最小受信シンボル振幅値が立ち下がり閾値よりも小さい値を示した場合データ「0」を復調し、受信シンボルしきい値が立ち下がり閾値を超えない場合、つまり最小受信シンボル振幅値が立ち下がり閾値よりも大きい値を示した場合、データ「1」を復調してもよい(以下、方法2とする)。さらに、復調回路24は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値が立ち上がり閾値を超えるとデータ「1」を復調し、加算部14から出力される受信シンボル振幅値が立ち下がり閾値を超えるとデータ「0」を復調してもよい(以下、方法3とする)。
【0052】
ここで、立ち上がり閾値及び立ち下がり閾値は、振幅A1と振幅A2との比N(N=A2/A1)を用いて、式(14)及び式(15)のように示すことができる。
【0053】

【0054】

【0055】
また、√(2)A1は、最大値保持回路40に保持されている値であるため、B=√(2)A1とすると、式(14)と式(15)は、式(16)と式(17)に置き換えられる。
【0056】

【0057】

【0058】
式(17)の1/√(2)は、定数であるためレジスタ等で1/√(2)の値を保持していればよく、1/√(2)を計算するための演算回路を構成する必要はない。
【0059】
また、最大値保持回路40のB値がNビットの固定小数点とする場合は、ビット幅に応じた1/√(2)の定数を持つ乗算器を用いてB/√(2)を算出することができる。
【0060】
ここで、図2の上図を用いて、閾値の設定方法として上記の方法3を用いた場合の動作について説明する。データ「1」の期間は、加算部14から出力される受信シンボル振幅値の立ち上がり信号が立ち上がり閾値を超えるため、復調回路24は、データ「1」を出力する。また、データ「1」の期間においては、受信シンボル振幅値の立ち下がり信号が立ち下がり閾値を超えないため、復調回路24の出力は、データ「1」を維持する。ここで、データ「1」の期間において、受信シンボルに歪みが生じ、立ち上がり信号が立ち上がり閾値を超えない場合においても、立ち下がり信号が立ち下がり閾値を超えなければ、データ「1」の出力を維持する。
【0061】
データ「1」からデータ「0」へ変化した場合、受信シンボル振幅値の最小値が立ち下がり閾値以下になると、復調回路24は、データ「0」を出力する。以降、データ「0」の期間は、受信シンボル振幅値の立ち上がり信号が立ち上がり閾値を超えないため、つまり受信シンボル振幅値の最大値が立ち上がり閾値以上にならないため、復調回路24は、データ「0」の出力を維持する。
【0062】
データ「0」からデータ「1」へ変化した場合、受信シンボル振幅値の立ち上がり信号が立ち上がり閾値を超えると、復調回路24は、データ「1」を出力する。以降、データ「1」の期間は、受信シンボル振幅値の立ち下がり信号が立ち下がり閾値以下にならないため、復調回路24は、データ「1」の出力を維持する。
【0063】
次に、データ「1」の期間におけるASK変調による搬送波の振幅を2とし、データ「0」の期間におけるASK変調による搬送波の振幅を1.5とし、受信シンボル振幅値のデータを符号なしの8ビット、小数部が5ビットの2進数の信号を用いて示される場合の動作について、具体的に説明する。
【0064】
絶対値抽出部12は、データ「1」の期間において、複素数zの実数部の絶対値|Re|=|x|=|2cosθ|及び虚数部の絶対値|Im|=|y|=|2sinθ|を出力する。加算部14は、受信シンボル振幅値として、X=|2cosθ|+|2sinθ|を出力する。この場合、最大値判定回路30は、最大受信シンボル振幅値として2√(2)を選択し、この値を最大値保持回路40へ出力する。データ「0」の期間における最大受信シンボル振幅値は1.5√(2)であるため、最大値保持回路40は、2√(2)の値を保持する。この場合の閾値は、式(16)及び式(17)を満たす値を設定する。ここで、受信シンボル振幅値の値を符号無し8ビット、小数部が5ビットの2進数の信号を用いて示すと、データ「1」の期間においては、「01000000」から「01011011」の間を振幅し、データ「0」の期間は、「00110000」から「01000100」の間を振幅する。最大値保持回路40には、「01011011」が保持される。ヒステリシス閾値判定回路22は、立ち上がり閾値を式(16)の条件を満たすよう、最大値保持回路40の保持する値から1を引いた「01011010」に設定し、立ち下がり閾値を式(17)を満たすよう、最大値保持回路40の保持する値に1/√(2)を掛け、1を引いた「00111111」に設定する。これより、受信シンボル振幅値の立ち上がり信号が「01011010」を超えて上回った場合に、データ「1」を出力し、立ち下がり信号が「00111111」を超えて下回った場合にデータ「0」を出力する。
【0065】
以上説明したように、本発明の実施の形態1にかかる復調器を用いることにより、2乗計算等を行う必要がないため計算量が減少し、これにより回路規模を小さくすることができる。また、受信シンボル振幅値の最大値及び閾値設定に用いる1/√(2)を予め保持しておくことにより、計算量をさらに減少させることができる。また、方法3のように閾値を複数用意することにより、変調度が小さくても復調することができるため、復調精度を向上させることができる。
【0066】
(実施の形態2)
続いて、3値を復調する復調器の例について説明する。復調器の構成は、図1と同様である。上記の方法3を用いる場合、ヒステリシス閾値判定回路22が設定する閾値は、2値を復調する復調器においては閾値を2つ設定したが、3値を復調する復調器においては閾値を3つ設定する。この点が、実施の形態1と異なる。以下に、3つの閾値の設定内容について説明する。
【0067】
3値の信号は、ASK変調による搬送波の振幅A(t)がデータ「2」の時、振幅A1とし、データ「1」の時、振幅A2とし、データ「0」の時、振幅A3と変化する。この時、A1>A2>A3の関係が成り立ち、振幅A1と振幅A2の比をN12とし、振幅A1と振幅A3の比をN13とする。
【0068】
ヒステリシス閾値判定回路22は、閾値1、閾値2、閾値3を以下の式(18)、式(19)、式(20)を満たすように設定する。なお、Bの値は実施の形態1と同様に、最大値保持回路40が保持する√(2)A1とする。
【0069】
データ「2」の時、
【0070】

【0071】
データ「1」の時、
【0072】

【0073】
データ「0」の時、
【0074】

【0075】
このように閾値を3つ設定することにより、実施の形態1と同様、3値においても復調できる。
【0076】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、4値以上の変調信号を用いた場合においても、同様の方法で復調することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 振幅値算出部
12 絶対値抽出部
14 加算部
20 復調部
22 ヒステリシス閾値判定回路
24 復調回路
30 最大値判定回路
40 最大値保持回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送波の振幅値が異なる複数の受信シンボルの復調を行う復調器であって、
前記受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値とを加算して受信シンボル振幅値を算出する振幅値算出部と、
前記振幅値算出部が算出した受信シンボル振幅値の変化を検出し、当該検出結果に基づいて受信シンボルを復調する復調部と、を備える復調器。
【請求項2】
前記復調部は、
前記振幅値算出部から出力される第1の受信シンボルの最大受信振幅値と当該第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値よりも小さい第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値との間に第1の閾値を設定し、前記振幅値算出部から出力される受信シンボル振幅値と当該第1の閾値との比較結果に基づいて受信シンボルを復調する請求項1記載の復調器。
【請求項3】
前記復調部は、
前記振幅算出部から出力される第1の受信シンボルの最小受信振幅値と当該第1の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値よりも小さい第2の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値との間に第2の閾値を設定し、前記振幅値算出部から出力される受信シンボル振幅値と当該第2の閾値との比較結果に基づいて受信シンボルを復調する請求項1記載の復調器。
【請求項4】
前記復調部は、
前記振幅値算出部から出力される第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値と当該第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値よりも小さい第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値との間に第1の閾値を設定し、前記第1の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値と当該第1の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値よりも小さい前記第2の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値との間に第2の閾値を設定し、前記振幅値算出部から出力される受信シンボル振幅値と当該第1及び第2の閾値との比較結果に基づいて受信シンボルを復調する請求項1記載の復調器。
【請求項5】
前記復調部は、
前記振幅値算出部から出力される前記受信シンボル振幅値の最大値が第1の閾値より大きくかつ前記受信シンボル振幅値の最小値が前記第2の閾値よりも大きい場合、第1の復調信号を出力し、
前記振幅値算出部から出力される前記受信シンボル振幅値の最大値が前記第1のしきい値より小さくかつ前記受信シンボル振幅値の最小値が前記第2の閾値よりも小さい場合、第2の復調信号を出力する、請求項4記載の復調器。
【請求項6】
前記復調部は、
前記第1の復調信号を出力し、前記受信シンボルの最小値が前記第2の閾値よりも大きい値を維持している場合、当該第1の復調信号の出力を維持する、請求項5記載の復調器。
【請求項7】
前記復調部は、
前記第2の復調信号を出力し、前記受信シンボルの最大値が前記第1の閾値よりも小さい値を維持している場合、当該第2の復調信号の出力を維持する、請求項5又は6に記載の復調器。
【請求項8】
前記第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値及び最小受信シンボル振幅値は、前記第1の受信シンボルと前記第2の受信シンボルとの搬送波の比率に基づいて定められる請求項2〜7のいずれか1項に記載の復調器。
【請求項9】
前記第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値及び最小受信シンボル振幅値は、前記第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値及び最小受信シンボル振幅値に前記搬送波の比率が乗算された値である請求項8記載の復調器。
【請求項10】
前記第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値を保持する最大受信シンボル振幅値保持部をさらに備え、
前記復調部は、前記第1の受信シンボルの最大受信シンボル値に関連付けて、前記第2の受信シンボルの最大値、前記第2の受信シンボルの最小値及び前記第1の受信シンボルの最小値を設定する請求項2〜9のいずれか1項に記載の復調器。
【請求項11】
前記復調部は、前記振幅値算出部から、最大受信シンボル振幅値が前記第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値よりも小さく、最小受信シンボル振幅値が前記第2の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値よりも小さい第3の受信シンボルの受信シンボル振幅値をさらに取得した場合、
前記第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値と当該第1の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値よりも小さい第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値との間に第1の閾値を設定し、
前記第1の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値と当該第1の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値よりも小さい前記第2の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値との間でありかつ前記第2の受信シンボルの最大受信シンボル振幅値と前記第3の受信シンボル振幅値との間に第2の閾値を設定し、
前記第2の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値と前記第3の受信シンボルの最小受信シンボル振幅値との間に第3の閾値を設定する請求項1記載の復調器。
【請求項12】
搬送波の振幅値が異なる複数の受信シンボルを取得し、
前記受信シンボルの搬送波の振幅値から定まる同相成分の絶対値と直交成分の絶対値を加算することにより受信シンボル振幅値を算出し、
出力する復調信号の値に応じて異なる閾値を設定し、
前記異なる閾値を用いて、前記受信シンボル振幅値の変化を検出し、
前記検出結果に基づいて前記受信シンボルを復調する復調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−77593(P2011−77593A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223964(P2009−223964)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】