説明

循環する処理水槽の消泡装置

【課題】
塗料ミストを回収処理する塗装ブースの処理水のように、泡が発生し易い液の水槽に生ずる泡を効率よく確実に消泡する、循環水を使用した消泡装置を簡単な構成で可能にする。

【解決手段】
発泡性の高い処理水を貯留する水槽の循環水を還流する噴射口を、水面に向けてほぼ垂直に噴射させるノズルとし、その開口と水面との間に薄板で形成した反射板をわずかに傾斜させて設け、その上端側を立ち上げて側板とし、更に前記反射板の上方に前記開口より上に配置される上板を設けて前記ノズルと一体に形成する。反射板、側板、上板は薄板を折り曲げて略コの字状に形成され、水槽の縁に沿って適宜複数配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡しやすい循環水を貯留する水槽の水面に浮上する泡を効率よく消し、泡による外部への流出から生じる周囲の汚染、処理液の減少を防止するために使用される消泡装置に関する。

【背景技術】
【0002】
噴霧塗装においては、スプレーガンから噴霧された余剰の塗料ミストを捕集し、被塗装物への再塗着防止、塗装作業場所の環境保全等の目的から塗装室が使用される。この塗装室は塗料ミストを捕集するための設備が付帯されており、その捕集方法の1つとして処理液を用いた湿式塗装室が広く使用されている。これらの装置は使用する液体の水膜やシャワー等を形成して塗料の微細な粒子を補足し、液中に取り込んだ後、これを分離回収して処理する構成となっている。
【0003】
処理液は捕集手段のほか、塗料ミストの分離回収の方式により種々の性状が用いられているが、その多くはシャワーや水膜を形成した後、貯留水槽に還流して循環使用される。このため水槽内には処理液の衝突を主な要因として泡が発生する。この泡は前記処理液の性状によって異なるが、塗装によって噴霧され、余剰分として処理液に取り込まれた塗料ミストは塗料スラッジとして混合状態を形成する。
【0004】
処理液中に取り込まれた塗料ミストは、塗料スラッジとして処理液中に含まれるため、これを効果的に取り除き、循環処理液として繰り返し使用する必要があり、これらの方法は、使用される塗料によっても異なり幾つかの方法が用いられている。
【0005】
循環処理液に取り込まれたスラッジは薬剤の添加により不粘着化処理することによって微細な塗料スラッジとして分散させ、処理液と共にポンプ等の手段によって吸引し遠心分離等による装置で処理液とスラッジを分離し、スラッジのみを回収する方法がある。この場合ポンプ等での吸引を効率的にかつ平均的に円滑に吸引するため処理液を撹拌装置や混合装置で強制的に分散させる必要がある。
【0006】
また処理液を循環させ、前記の水流膜やシャワーを形成し、再び水槽中に戻す工程では、空気と触れて気泡を巻き込むことは避けられず、水槽に還流したときに水面上に発生することになる。特に水系の塗料の場合に粘着性と表面張力により泡が発生し、この泡は消えにくいため水槽内に徐々に蓄積される。
【0007】
さらに処理液内に取り込んだ塗料スラッジを微生物により分解処理することでスラッジの分離回収を削減する方法なども実用的に使用されてきている。この方法による塗装ブース(バイオブース)の処理液は生きているため、常に酸素供給のため撹拌が行われ、上記と同様これによって処理液自体が泡立ち処理液上を覆うことになる。
【0008】
このような処理液の泡立ちは、塗料スラッジの回収処理に支障をきたし、作業性を低下させることになる。また泡によって嵩が増した処理液が水槽の壁面よりあふれたり、周囲の器物に触れて汚損したり、処理液自体が無駄に廃棄されることになるなどの問題も大きい。
【0009】
このような問題に対し、これまでの多くは消泡剤を投入し、発泡を抑える手段が採られていた。しかし塗装ブースの水量は多く、消泡剤を多量に使用しなければならず、また定期的に補充しなければ効果が低減するために、必要によって安定した定量供給に対する設備を設けるなど、これらにかかるメンテナンスや設備費用が大きな負担となっている。

【0010】
これらの対応手段として、浮遊する泡を吸引し、遠心力の作用で消泡した後に液化させて戻す仕組みの消泡装置として知られている装置を用いることなどもあった。しかしこの方法では塗装室に付帯される広い面積の水槽に対して、その全域を消泡することは難しく、塗装室に使用する場合には例えば特開2002−370087号公報に記載されるような規模の大きな設備が必要となり、一般に使用される塗装室では採用し難いものとなっている。
【0011】
一方、消泡技術としては前記のように、機械的に行う方法、消泡剤等の化学的な処理を行う方法のほかにも熱による方法等が存在する。また特開2003−10746号公報の事例によれば処理液中に含まれる懸濁物質の荷電量を調整することによって発泡そのものを抑制する技術が示されているが、前記同様、処理液に対する新たな管理が必要となり設備、保守管理の新たな問題が発生する。

【特許文献1】特開2002−370087号公報
【特許文献2】特開2003−10746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は塗装ブースのごとき多量の水量と広い面積にわたる水槽の水面に発生した泡を、簡単な装置で効率よく消すことができ、塗装ブースの機能を損なわず、泡の発生にともなう作業者のメンテナンス負荷を軽減することが可能な装置を得ることを目的としている。特に、泡が発生し易い処理液の水槽に生ずる泡を効率よく確実に消泡する、循環水を使用した消泡装置を簡単な構成で可能にする。

【課題を解決するための手段】
【0013】
発泡性の高い処理水を貯留する水槽の循環水を還流する噴射口を、水面に向けてほぼ垂直に噴射させるノズルとし、その開口と水面との間に薄板で形成した反射板をわずかに傾斜させて設け、その上端側を立ち上げて側板とし、更に前記反射板の上方に前記開口より上に配置される上板を設けて前記ノズルと一体に形成する。反射板、側板、上板は薄板を折り曲げて略コの字状に形成され、水槽の縁に沿って適宜複数配置される。

【発明の効果】
【0014】
塗装ブースの運転により、塗料ミスト捕集に使用され水槽に還流される処理液は、少なくともその一部が水槽に戻されるにあたって、噴出口からの噴流を反射板に衝突させ、これによる反射流を水槽水面の上に、水面とほぼ平行に形成して還流するように配置し多ことにより、水面上に浮遊する泡が還流された処理液によって消泡される。
【0015】
かつ反射板は、噴射流の方向と反対側側面及び上面に、他への飛散を防止する構成を設けたことにより、消泡に必要な方向への噴射にとどめるため、他への汚損等を防止することが出来る。
反射板を含む消泡装置の構成は略コの字上に形成した薄板で形成され、これを還流させる処理液の噴射口の出口部に取り付けるだけでよく、設備費はほとんど負担にならない。また噴射口自体特別な構成とする必要が無く、循環若しくは噴射水量に応じたノズル孔でよく、目詰まりを懸念する必要も無く、メンテナンス負荷もほとんど不必要とされる。
【0016】
循環する処理液の少なくとも一部を使用してこれを発生した泡に衝突させて消泡するため特別な処理液管理をすることも無く、簡単な装置の設置と通常使用の範囲で、少なくも問題となる泡は消泡でき、前述した使用上の問題を起こすことが無くなる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明を実施する場合の塗装用ブースの概略構成図を示すもので、塗装ブース本体1は、下部に水槽2を備え、その上部に噴霧された塗料の余剰ミストを空気と共に吸引し、塗料ミストを捕集・回収するミスト処理室3が設けられている。塗料ミスト処理の構造は幾つかあるが、代表的には水槽中の処理液Wをポンプによって吸引し、これをノズル等により噴霧して形成した噴霧シャワー領域Dを通過させるときに塗料ミストを吸着し、噴霧液と共に下部の水槽内に落とし込むものである。
【0018】
その他にも気流の勢いで水面近くの処理液を吸引しそれによって形成される水膜や噴霧領域で塗料ミストを捕集する場合もある。このような場合水面レベルが処理液の吸引に大きく影響し、泡の発生は水位の変化をもたらすため確実に防止する必要がある。
【0019】
また処理液Wを塗装室A側の前面板7に水膜Cとして流し、ここに衝突する塗料ミストを捕集する手段が多く取り入れられている。何れの塗装ブースにおいても水を主とした処理液が使用されており、下部の水槽2には常時一定量の液量が貯留され、図の例では取り込まれた塗料ミストがスラッジとして後部の開口部より回収される構造となっている。前述の微生物によるスラッジの除去等を含め、回収の手段や装置は、種々の技術が使用されているが、ここでは省略している。
【0020】
塗装ブースの構造は、実施例として示した図1の例によれば、塗装室Aの前面に処理液Wが流下する前面板7の下端には、後部処理室3内に気流と共に吸引された塗料ミストを噴霧シャワー等で接触捕集する処理室3への開口部4が形成されている。前面板7から流れ落ちた処理液Wは下部に設けた水槽2内に落下し、泡発生の一要因となっている。図の例では開口部4の奥に下部水流板13を設け、床面14にも水流を形成している。
【0021】
一方前記噴霧シャワーはノズル5より噴霧され、排気扇6によって吸引される気流に乗って、処理室3に入り込んだ塗料ミストを取り込む構成になっている。これらの各部に流れる処理液Wは後部水槽2内に集まり、図には示されていないが適宜のフィルタ等を介し、ポンプによって再び送り込まれる。
【0022】
水槽2内に還流する処理液Wは塗料ミストを含み、かつ衝突による気泡の巻き込み等の要因によって泡が発生し水槽水面に徐々に増加し、泡面が上昇することになる。特に前述のバイオブースの場合は微生物の活性化に酸素が不可欠のため、常にエアレーションが必要であり、泡立ちの大きな要因となっている。
【0023】
後部水槽2の水面上部に配置したパイプ8は、所要の間隔をもって下方に分岐口9が設けられ、その下部に図2に示す消泡体10が取り付けられる。消泡体10は、接続継手12の下端にノズルとなる開口15を形成し、外側には水平方向に上板16が固着される。上板16の一側は下方に折り曲げられた側板17を構成し、さらに前記開口15の下方にその流路を塞ぐように曲げられた反射板18が設けられて、その先が開放されている。反射板18は開放された方向に若干の傾斜角度を設けている。
【0024】
図2の例ではパイプ8の下方にほぼ垂直に分岐口9が設けられ、したがって水面と反射板18とは傾斜角度をもって取り付けられているが、分岐口9に角度を設け、水面と反射板18がほぼ平行になるようにすることでも良い。この場合反射板で方向を変えられ水膜状態で噴射される処理液は水面とほぼ水平に噴射されることになる。
【0025】
パイプ8には図示されていないが、循環ポンプによって処理液が送りこまれ、それぞれの分岐口9に取り付けられた消泡体10の開口15より噴出した処理液は、反射板18に衝突後傾斜面によって横方向に液膜Sとなって放射噴出する。このときの噴射状態は供給される圧力若しくは水量によって調整され、液面上に発生した泡Bに衝突させて消泡する。放射の勢いが強すぎると水面を叩くようになり気泡の発生を助長し、逆に弱いと十分な範囲への噴射が出来ず効果が減少する。したがって供給する側のポンプと、パイプ若しくは開口との間に調整バルブを設けることで、条件の変動にも対応が可能である。また消泡体10の設置数や設置間隔も当然影響することになり、これらは処理液の発泡する種々の条件によって選択されて設置される。
【0026】
消泡用に噴射するための開口15は供給するパイプから分岐された接続継手12の通路で形成され、流路が大きいため異物は詰まりにくく、供給圧力も低く抑えることができる。したがって供給側のポンプにも負担が掛からずに長期の使用にも耐え、メンテナンスの負担も低減できる。
【0027】
実施例では内径12mmの通路で形成した開口15より水道水程度の圧力で噴射させた消泡体10を、ほぼ50cm間隔で配置した場合に、全域にわたって不要な泡の発生を防止できている。消泡体10は図で理解できるとおり、傾斜させた反射板18の開放側と反対の側及び上面にそれぞれ側板17と上板16があり、噴射液は不要な方向への飛散、放出が無く、水槽の縁に沿って、内側に向けて前記消泡体10の開放側を設置すれば、周囲を汚損することは無い。
【0028】
また消泡体10の開口15に対し、反射板までの間隔が長くなるように形成することにより、異物や流動性の悪くなったスラッジが反射板18との間で詰まりを起こすことなく、長期にわたり問題なく使用することができる。また薄板での作成により容易に作成でき、前記傾斜角の調整も容易となっている。

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を使用する塗装ブースを側面から見た概略構成断面図である。
【図2】泡に処理液を衝突させて消泡する消泡体を表す断面図である。
【図3】処理液の水槽に消泡体を設置した時の概略図。
【図4】消泡体によって液膜を形成した時の状態を横方向から見た図を示す。
【図5】消泡体によって液膜を形成した時の状態を上方向から見た部分図を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 塗装ブース本体
2 水槽
3 処理室
4 開口部
5 ノズル
6 排気扇
7 前面板
8 パイプ
9 分岐口
10 消泡体
12 接続継手
15 開口
16 上板
18 反射板
A 塗装室
B 泡
C 水膜
D 噴霧シャワー領域
W 処理液
S 液膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧された塗料ミストを吸引し、処理液との接触によって捕集した塗料ミストを処理液とともに回収処理する塗装ブースにおける処理液槽の消泡装置において、処理水を貯留し上部が開口する水槽の循環水を該水槽に還流する開口を、水面に向けて下方に噴出させるノズルとし、その開口と水面との間に薄板で形成した反射板をわずかに傾斜させて水面と平行方向に設け、その上側端を立ち上げて側板とし、更に前記反射板の上部に上板を配置して一体に形成した消泡体を、前記水槽の水面上部に設置してなる処理水槽の消泡装置。
【請求項2】
前記消泡体を前記水槽の縁に沿って、複数併設してなる請求項1の処理水槽の消泡装置。
【請求項3】
前記消泡体は、薄板を折り曲げた上板、側板、反射板で形成した請求項1の処理水槽の消泡装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−6318(P2008−6318A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176125(P2006−176125)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】