説明

循環器および神経疾患の患者における細胞治療および組織再生の衝撃波による改良方法

【課題】細胞治療を受けている循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良する方法の提供。
【解決手段】上記患者における患部組織へ幹および/または前駆細胞を漸増させることを目的とする治療手段として衝撃波を用いる。本発明はまた、循環器または神経疾患の患者における組織再生を改良する方法、および患者における循環器または神経疾患の治療方法に関する。本発明はまた、循環器疾患または神経疾患の患者の治療用医薬組成物を製造するための幹および/または前駆細胞の使用であって、患者に幹および/または前駆細胞を投与する前、中または後に衝撃波による治療を施すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良する方法であって、該細胞治療が、患者の患部組織を対象とした幹および/または前駆細胞を漸増するための治療手段として衝撃波を用いることにより行われる方法に関する。本発明はまた、循環器疾患または神経疾患の患者における組織再生を改良する方法であって、患者の患部組織を衝撃波を用いて治療することにより、組成再成を改良する方法に関する。また、患者における循環器または神経疾患を治療する方法であって、患者に幹細胞および/または前駆細胞の治療上有効量を投与する方法も提供される。本発明はまた、循環器疾患または神経疾患の患者を治療するための医薬組成物を製造するための幹および/または前駆細胞の使用であって、患者の患部組織の衝撃波による治療を含んでなり患者に幹および/または前駆細胞を投与する前、中または後に衝撃波による治療を施すことを特徴とする、使用にも関する。
【0002】
背景技術
骨髄に由来する幹および前駆細胞は、継続的な内皮修復に関与することがある(Kalka et al., 2000)。これらの細胞の流動化障害または枯渇は、内皮機能不全や循環器疾患の進行に影響することがある。実際に、健康なヒトでは、循環する前駆細胞のレベルは、血管機能および累積的な循環器リスクに関する生物マーカーの代わりとすることができる。基礎科学における最近の進歩によって、出産後の新血管形成および心臓再生における内皮幹および前駆細胞の基本的役割も確立された。重篤な虚血後の新血管形成(neorascularization)の改善は、心筋梗塞または四肢虚血の後における、重要な治療上の選択肢である。最近まで、成人における虚血組織の新血管形成は、「新脈管形成(angiogenesis)」と呼ばれる工程である、成熟内皮細胞の移動および増殖に限定されると考えられていた。一方、循環する幹および前駆細胞が虚血部位に戻り、新たな血管の形成に寄与することが、増大する証拠によって示唆されている。原始的内皮前駆細胞(血管芽細胞)からの血管の胚発生と同様に、この工程は「脈管形成(vasculogenesis)」と呼ばれる。循環する幹および前駆細胞の重要性は、それらの漸増を遺伝学的に阻害することにより腫瘍新脈管形成が阻害されるという事実によって明らかにされている。幹および前駆細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)によって、骨髄から血液循環移動させることができる。VEGFおよびSDF-1は両方とも低酸素組織で大きくアップレギュレーションされていることから、VEGFおよびSDF-1は循環する幹および前駆細胞を補充して重大な虚血後の内在修復機構を増強するための帰還シグナルを構成しうることが示唆される。
【0003】
本発明者らは最近、虚血性心疾患の患者に由来する骨髄単核細胞の注入が後肢虚血動物モデルにおける虚血組織における灌流の改良に余り有効でないことを示した。さらに、虚血性心疾患の患者の骨髄細胞は、コロニー形成活性の減少と、強力な化学誘因性と可動性とを有する因子である血管内皮増殖因子(VEGF)およびストロマ細胞由来因子1(SDF-1)に対する可動性応答の減損とを示している(Heeschen C et al., Circulation 2004; 109(13): 1615-22)。さらに、本発明者らはまた、組織虚血の実験モデルにおいて、全身注入した幹/前駆細胞の漸増は健康なドナー由来の幹/前駆細胞の漸増と比較してかなり低いことを明らかにすることができた。本発明者らは急性冠状動脈症候群の患者において、症状の開始後10時間以内に全身のVEGFレベルが顕著に増加することを観察したが(Heeshen et al.Circulation.2003107(4):524-30)、別の急性心筋梗塞の患者群では、急性症状の3日後には全身のVEGFレベルが既に減少してしまっており、冠動脈心疾患のない患者で測定したレベルと余り変わらなかった(Lee et al., NEJM 2000; 342: 626-33)。総合すれば、老人性心筋梗塞のような慢性組織損傷を有する患者において、幹/前駆細胞の漸増が著しく抑えられるのは、標的組織における化学誘因物質因子の発現が低く、さらに循環器危険因子を有する患者由来の自家幹/前駆細胞の機能活性が低いためであることをこれらデーターは示唆している。
【0004】
体外衝撃波(ESW)は、水中での高圧スパーク放電によって生成する。これによって水の爆発的な蒸発が引き起こされ、高エネルギー音波が生じる。この音波を半長楕円体反射鏡(semi-ellipsoid reflector)を用いて集光することによって、音波を特異的組織部位に伝達させることができる(Ogden et al., 2001)。ESWは、ある種の整形外科疾患に有益であることが分かっている。ESWと標的組織との相互作用は多種多様であり、様々な音響インピーダンスに関連した組織界面における機械力並びに崩壊するキャビテーション気泡のマイクロジェットは主要な効果である。しかしながら、これらの物理的効果によって骨折の治癒を向上させる、細胞機構および生化学機構は、決定されないままである。骨やアキレス腱の局所血流および代謝はESW治療によって明らかに影響を受けることがシンチグラフィーおよびソノグラフ的に示唆されてきた(Maier et al., 2002)。
【0005】
ESW療法は、長骨骨折の非癒着、肩の石灰化腱炎、肘の外側上顆炎、近位足底筋膜炎、およびアキレス腱炎はじめとする整形外科疾患の治療に有効であることが明らかにされている(Kruger et al., 2002)。衝撃波療法の成功は、80%(長骨骨折の非癒着について)から15-90%(肩、肘および踵の腱疾患(tendinopathy)について)にまで及んでいる。さらに、大腿骨頭の虚血壊死についての衝撃波治療の短期的結果は有望であると思われる。衝撃波療法は、動物実験における骨の治癒にも明らかな効果を示した。臨床応用での成功にも拘わらず、衝撃波療法の正確なメカニズムは未知のままである。しかしながら、イヌでの最近の実験では、衝撃波療法により腱-骨接合部における新血管形成が増強されることが明らかにされた(Wang et al., 2002)。衝撃波療法には、新たな血管の内方発育と、組織再生へつながる血液供給の改良とを誘発する可能性があることが仮定された。実際に、ウサギでの最近の研究では、衝撃波療法により、ウサギの腱-骨接合部において、内皮性酸化窒素シンターゼ(eNOS)およびVEGFなどの新脈管形成関連因子の早期放出と関連した、新血管の内方発育および組織増殖が誘発されることが示された(Wang et al., 2003)。したがって、衝撃波療法のメカニズムは、脈管形成増殖因子の早期放出と、その後の腱-骨接合部における細胞増殖および新血管の形成の誘発を包含しうる。その新血管形成が生ずることにより、血液供給が改良され、腱-骨接合部における組織再生に関与しうる。
【0006】
ESWによって誘発されるヒト骨芽細胞におけるVEGF-Aの増加は、Rasによって誘導されるスーパーオキシドおよびERK依存性HIF-1α活性化を介することも報告された。
【0007】
さらに、ESWは、スーパーオキシド依存性情報伝達を介して、イン・ビトロでの間葉幹細胞の骨形成分化並びにイン・ビボでの部分的欠損の骨結合を高めることが明らかにされている(Wang et al., 2002a)。これらのデーターは、欠損の微環境が実際に物理的ESW刺激に応答していることを示している。部分的欠損に隣接する間葉幹細胞は、ESW治療後に3つの連続的事象、すなわち集中的漸増、増殖、および軟骨形成並びに骨形成分化を受けやすいことが、その後の実験研究によって明らかにされた(Chen et al., 2004)。ESW治療に用いたエネルギー(0.16mJ/mm2 EFD)は、ラットで副作用を誘発しなかった。このイン・ビボ研究における主要な限界は、間葉幹細胞の同定に用いた形態学的手法が特異性を欠いていることである。これら細胞はまれであることから、ラットの間葉幹細胞を特異的マーカーとして観測していたのは、骨修復についてのごく僅かな他の研究のみである。
【0008】
骨以外の組織の治療の目的でのESWの使用として、イン・ビボでのブタの虚血によって誘発される心筋機能不全を、EWS療法が改善することが示された(Nishida et al., 2004)。
【0009】
ESW療法と、細胞治療のための幹および前駆細胞の使用との間の可能性のある関連性について、開示または示唆している従来技術は存在しないことが注目される。
【0010】
要約すれば、梗塞後心不全は依然として、冠動脈心疾患の患者の、罹病および死亡の主要原因である。閉塞した動脈を迅速に再灌流することによって早期死亡率はかなり減少したが、梗塞部位の連続的拡張および左心室腔の拡張を特徴とする心室の再造形工程により、急性心筋梗塞から助かった患者におけるかなりの割合で、心不全が発生する。逆再造形に対する主要な目標は、梗塞部位内の新血管形成並びに心筋細胞の再生の増強となった。
【0011】
末梢ニューロパシーとは、末梢神経の損傷を表す。これは、神経疾患によってまたは全身的疾患の結果として引き起こされることがある。多くのニューロパシーは、糖尿病、尿毒症、AIDS、または栄養失調など明確な原因を有する。実際に、糖尿病は末梢ニューロパシーの最もよく見られる原因の一つである。他の原因としては、圧迫またはエントラップメント、直接的トラウマ、骨折または脱臼骨のような機械的圧力、表在神経を伴う圧力(尺骨、橈骨または腓骨)、およびアテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、強皮症、および慢性関節リウマチのような血管またはコラーゲン障害が挙げられる。末梢ニューロパシーの原因は様々であるが、それらは虚弱、麻痺、感覚異常(バミング(buming)、むず痒さ(tickling)、刺痛またはひりひりする痛みなどの異常な感覚)、および腕、手、脚および/または足の痛みなどの通常の徴候を示す。多数の症例の原因は、分かっていない。
【0012】
末梢ニューロパシーの療法は原因によって異なる。例えば、糖尿病によって引き起こされる末梢ニューロパシーの療法は、糖尿病の制御を必要とする。エントラップメントまたは圧迫ニューロパシーの治療は、尺骨神経または正中神経のスプリンティングまたは外科手術による減圧から構成されてよい。物理的療法および/または副子は、痙縮(関節の周りの筋肉の収縮により、関節が、異常と、時には苦痛とを伴う状態を引き起こす症状)の予防に有用であることがある。
【0013】
虚血性末梢ニューロパシーは、下肢血管不全において頻発する不可逆性合併症である。虚血性末梢ニューロパシーは、新脈管形成治療を促進する目的でデザインされた内皮細胞分裂促進因子(例えば、VEGF)の遺伝子導入によって予防および/または好転(reverse)することができることが明らかにされた(Schratzberger P, et al.)。したがって、血管不全を好転するための主要な目標は、末梢ニューロパシーの患部部位内における新脈管形成の刺激および血管組織の再生である。
【0014】
本発明に潜在する技術的問題点は、したがって、循環器または神経疾患の患部組織の細胞治療および再生を増強することである。
【0015】
本発明によれば、かかる問題点は、循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良する方法であって、上記患者における上記疾患の患部組織であって、細胞療治療の標的である組織を衝撃波によって治療することを含んでなる、方法を提供することによって解決される。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、一部分において、細胞治療を受けている患者において標的とされる、幹および前駆細胞の漸増を改良する治療手段を提供する。
【0017】
本発明者らは、最近、循環器危険因子を有する患者における自家幹および前駆細胞が損傷組織を目標として移動する能力を減少していることを示した。慢性的に損傷した組織における化学誘引因子の発現は急性損傷と比較して顕著に減少しているので、循環器危険因子を有する患者の幹/前駆細胞の全般的漸増は損なわれる。本発明は、化学誘引物質(すなわち、循環する幹および前駆細胞の誘引を媒介する因子、例えば、SDF-1α、VEGF、PIGF)および新脈管形成支持因子(pro-angiogenic factors)(すなわち、新たな血管を形成するために予め存在する内皮細胞を刺激する因子、例えば、HIF-1α、VEGF、PIGF)、並びに生存支持因子(pro-survival factors)(すなわち、アポトーシス/プログラミングした細胞死を阻害する因子、例えば、HGF、IGF、VEGF)の発現を増加させるため、幹および前駆細胞を用いる療法の標的となっている組織を衝撃波によって治療することを含む。化学誘引因子および新脈管形成支持因子(pro-angiogenic factors)の発現が増加によって、全身注入された幹および/または前駆細胞の漸増が改良され、生存支持因子(pro-survival factors)の発現が増加によって標的組織に直接投与される細胞の微環境が改良される。幹および前駆細胞のホーミング(homing)が増加する。それにより、標的組織の衝撃波治療は、細胞治療における治療効果を高める。
【0018】
体外衝撃波(ESW)の適用と幹細胞および/または前駆細胞の適用とを組み合わせることによって、循環器および神経疾患における再生を改良することができる。ESWと幹細胞および/または前駆細胞の適用とを組み合わせて用いて、循環器および神経疾患を治療することができる。
【発明の具体的説明】
【0019】
一つの態様によれば、本発明は、循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療の改良方法であって、上記患者における上記疾患の患部組織を衝撃波によって治療することを含んでなり、上記組織が細胞療法の標的とされている、方法に関する。
【0020】
他の態様によれば、本発明は、循環器疾患または神経疾患の患者における組織再生の改良方法であって、
a) 上記患者における上記疾患の患部組織を衝撃波によって治療し、
b) 幹細胞および/または前駆細胞の治療上有効量を上記患者に投与すること
を含んでなる、方法に関する。
【0021】
さらに他の態様によれば、本発明は、患者における循環器疾患または神経疾患の治療方法であって、
a) 上記患者における上記疾患の患部組織を衝撃波によって治療し、
b) 幹細胞および/または前駆細胞の治療上有効量を上記患者に投与すること
を含んでなる、方法に関する。
【0022】
本発明による方法の好ましい態様によれば、衝撃波による患者の治療は、幹および/または前駆細胞の投与前に行う。しかしながら、衝撃波と幹/前駆細胞との同時投与、および(幹/前駆細胞の投与後に)衝撃波を続けて加えることも意図される。
【0023】
他の態様によれば、本発明は、循環器疾患または神経疾患の患者を治療するための医薬組成物を製造するための幹および/または前駆細胞の使用であって、患者が幹および/または前駆細胞の投与前、中または後に衝撃波による治療を受けることを特徴とする、使用に関する。
【0024】
本発明はまた、下記の態様に関する。
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、細胞治療を衝撃波生成装置の使用の前、中または後に行うことを特徴とする、使用。
【0025】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波を細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【0026】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波生成装置の使用の前、中または後に細胞治療を行うことを特徴とする、使用。
【0027】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波を細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【0028】
患者の循環器疾患または神経疾患の治療のための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、治療が細胞治療をさらに含んでなり、かつ衝撃波生成装置の使用の前、中または後に上記細胞知慮治療を行うことを特徴とする、使用。
【0029】
患者の循環器疾患または神経疾患の治療のための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、治療が細胞治療を含んでなり、かつ衝撃波を細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【0030】
循環器疾患または神経疾患の患者を細胞治療によって治療するための医薬組成物を製造するための、幹および/または前駆細胞の使用であって、治療がさらに衝撃波を患者に加えることを含んでなる、使用。
【0031】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための医薬組成物を製造するための、幹および/または前駆細胞の使用であって、細胞治療の前または後に患者に衝撃波治療を施すことを特徴とする、使用。
【0032】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための医薬組成物の製造のための、幹および/または前駆細胞の使用であって、細胞治療の前または後に患者に衝撃波治療を施すことを特徴とする、使用。
【0033】
医薬組成物が、衝撃波を患者に加える前、中または後に、患者に加えるのに適している、請求項7〜9のいずれか一項に記載の使用。
【0034】
「細胞治療」という用語は、損傷した組織および/または細胞を入れ替えまたは修復するための細胞の移植を表す。細胞治療は、輸血および骨髄移植片の使用、並びに細胞材料の注入を含む。
【0035】
本発明の意味において、「衝撃波」という用語は、「音波圧力パルス」という用語と互換的に用いられる。
【0036】
「幹細胞」という用語は、複製またはそれ自身自己再生し、かつ様々な細胞型の分化細胞に発達することができる未分化細胞を表す。分裂を行う幹細胞の生成物は、元の細胞と同じ能力を有する少なくとも1つの追加細胞である。「幹細胞」という用語は、胚性および成体幹細胞、全能および多能性細胞、および自己細胞、並びに異種細胞を包含するように意図される。
【0037】
「前駆細胞」(先駆細胞としても知られている)の定義は、未分化ではあるが特定の細胞型に既に拘束されうる可能性のある細胞を包含することを意図している(例えば、内皮前駆細胞は内皮細胞に分化するように拘束されている)。
【0038】
本発明の一つの態様によれば、疾患は循環器疾患である。特定の態様によれば、上記の循環器疾患の病因は非虚血性である。本発明による方法によって治療することができる非虚血性の病因を有する循環器疾患の一例は、拡張型心筋症である。また、循環器疾患の病因は虚血性であってもよい。細胞治療によって改良することができる、虚血性病因を有する循環器疾患としては、心筋梗塞および虚血性心筋症が挙げられる。慢性の虚血性心筋症が、特に好ましい。
【0039】
本発明の他の態様によれば、疾患は神経疾患である。好ましい態様によれば、神経疾患は末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である。
したがって、患部組織は好ましくは心臓または骨格筋に位置している。
【0040】
本発明の他の態様によれば、少なくとも1つの化学誘引因子の発現は、患者の患部組織において誘発される。「化学誘引因子」という用語は、科学的濃度勾配に応じて個々の細胞の運動を活性化する因子を表すのに用いられる。
【0041】
上記の少なくとも1つの化学誘引因子は、好ましくは血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である。
【0042】
本発明による方法および使用に用いられる衝撃波は、例えば、胸郭外(extra-thoracal)に加えることができる体外衝撃波である。しかしながら、体内衝撃波(例えば、食道横断的に伝達される)および内視鏡的衝撃波(例えば、動脈でのような管内を伝達される)も意図される。さらに、衝撃波を開放外科手術中(手術時)に加えてもよい。
【0043】
好ましい態様によれば、患部当たり50、100、150または200回の衝撃、および/または治療あたり総数として100、250、500、1000、または1500回の衝撃を加える。好ましくは、0.05、0.09、0.13、0.22、0.36または0.50mJ/mm2のエネルギーを有する衝撃を加える。衝撃波は細胞治療の前に1または数回加えることができるが、細胞治療の前に1または2回加えるのが好ましい。好ましくは、衝撃波は細胞治療の開始数時間前に加えられ、細胞投与の24時間、36時間、または48時間前に加えるのが特に好ましい。また、衝撃波を専ら加えてもよく、または細胞治療中および/または細胞治療の開始後に追加的に加えてもよい。
【0044】
一つの態様によれば、本発明による方法および使用に用いられる幹および/または前駆細胞は、胚または臍帯血(vmbilical cord-blood)由来細胞である。
【0045】
また、幹および/または前駆細胞は成体細胞である。成体幹および/または前駆細胞は、骨髄、末梢血および臓器から誘導することができる。細胞は、例えば、健康なドナーまたは冠状動脈心疾患の患者から誘導することができる。
【0046】
本発明による方法および使用において用いるため、幹および/または前駆細胞を単離して、所望により投与を行う前にエクス・ビボにて培養する。
【0047】
特定の態様によれば、下記の幹および/または前駆細胞を本発明による方法および使用に用いることができる。
− CD34 + CD133 + 骨髄由来幹細胞
− CD34 + CD38 - 骨髄由来幹細胞
− CD34 + CD45 + 骨髄由来前駆細胞
− CD34 + KDR + 骨髄由来内皮前駆細胞
− CD34 + CD45 - 骨髄由来間葉幹細胞(MSC)
− eNOS + KDR + CD105 + VE-カドヘリン + vWF + CD45 + 末梢血由来の内皮前駆細胞
− 発生段階特異的胎児性抗原、SSEA-4 + Oct4 + 胚幹細胞
− CD34 + CD133 + 臍帯血由来幹細胞
− CD34 + CD45 + 臍帯血由来幹細胞
【0048】
本発明による方法および使用に用いられる幹および/または前駆細胞は、全身注入(systemic infusion)、局所動脈注入(local arterial infusion)、静脈注入(venous in fusion)によって、および/または患部組織への直接注射によって投与することができる。伝達のため、細胞を微小球にカプセル化することもできる(選択薬剤伝達)。超音波に用いられるコントラスト剤は、有用なカプセル化剤の例である。次に、超音波(音波エネルギー)を用い、標的組織において、微小球から細胞を放出させることができる。
【0049】
最近のデーターは、老人性心筋梗塞のような慢性的組織損傷の患者では、患部組織における化学誘引因子の発現が低いため、幹/前駆細胞の漸増は著しく減少することを示唆している。しかしながら、衝撃波に単回または反復暴露することによる治療は、VEGFおよびSDF-1αをはじめとする新脈管形成支持因子(pro-angiogenic)、化学誘引因子および生存支持因子(pro-survival factors)の発現を(再)誘発し、これによって幹/前駆細胞の漸増を高める。細胞治療の治療効果は補充細胞の数に直接比例するため、衝撃波による治療後のこの幹/前駆細胞の増加および生存数の高まりによって、組織再生および組織に関する細胞療法から、個々の患者が得る治療効果が増加する。
【0050】
特に脈管内投与経路を選択するときには、細胞治療の成功の前提条件はホーミング、および移植細胞の標的部位への移植である。本発明者らは、今般、成体前駆細胞の生理学的化学誘引因子への移動能力がそれらの虚血/梗塞部位へのホーミング能を反映していることを見い出した。実際に、本発明者らによって行われた、本発明に示される実験研究によれば、ヌードマウスの後肢虚血モデルにおいて、虚血組織への移植細胞のホーミング、およびヒト前駆細胞の静脈内注入によって誘発される新血管形成の改良はそれぞれ、SDF-1により誘導される骨髄由来細胞の移動能並びにVEGFにより誘導される血液由来前駆細胞の移動能と緊密に相関していることが明らかにされている。高齢の個体および循環器疾患の患者由来の幹および前駆細胞の機能欠陥、並びに標的組織における新脈管形成支持因子(pro-angiogenic)、化学誘引因子および生存支持因子(pro-survival factors)の発現減少により、臨床的細胞治療の有益な効果が制限されることがある。本発明の実施例に示されるように、衝撃波による標的組織の治療は幹および前駆細胞の漸増および生存を促進し、したがって、細胞治療の治療効果を高める。
【0051】
特に、本発明者らは、
a. 幹/前駆細胞の漸増を高めることは、高齢個体および循環器危険因子を有する患者における自家細胞治療後の臨床効果を改良するための新規なターゲットであり、
b. 衝撃波を用いて標的組織を治療することによって、新脈管形成支持因子(pro-angiogenic)、化学誘引因子および生存支持因子(pro-survival factors)の高レベルの発現を回復することができ、
c. 自家細胞治療の前に衝撃波を単回または反復投与することによる慢性的損傷組織の治療により、細胞治療後の臨床効果が改良されること
を明らかにした。
【0052】
以下の図および実施例は、本発明の例示のためだけのものであり、発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。
実施例
1. 末梢血から内皮前駆細胞を調製するための出発材料
内皮前駆細胞を調製するための出発材料として、末梢血を採取してヘパリンモノベット(monovettes)(10ml)に集めた。
下記の材料を、以下の実施例で用いた。
カルシウムおよびマグネシウムを含まないダルベッコのリン酸緩衝食塩水(カタログ番号H-15-002)を、注射用の細胞を懸濁するのに用いた。PAAは、Laboratories GmbH (パッシング、オーストリア)から購入した。EGM Bullet Kit (EBM培地)(カタログ番号CC-3124)および1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニンを標識した、アセチル化した低密度リポタンパク質(Dil-Ac-LDL)(カタログ番号#4003)は、CellSystems(サンカタリネン、ドイツ)から入手した。ウシ胎児血清(カタログ番号10270-106)は、Invitrogen GmbH(カールスルーエ、ドイツ)から得た。Biocoll Separating Solution, Density: 1.077(カタログ番号L6115)は、Biochrom AG(ベルリン、ドイツ)から購入した。ヒトフィブロネクチン、1mg/ml(カタログ番号F-0895)およびUlex europaeus由来のレクチン(カタログ番号L-9006)は、Sigma(タウフキルヒェン、ドイツ)から購入した。ヒト組換え血管内増殖因子(VEGF)(カタログ番号100-20)は、Cell Concepts (ウムキルヒ、ドイツ)から入手した。EDTA二ナトリウム塩二水和物(カタログ番号A1104)は、AppliChem(ダルムシュタット、ドイツ)から入手した。TURK'S溶液(カタログ番号1.09277.0100)は、Merck(ダルムシュタット、ドイツ)から購入した。
【0053】
2. 細胞製剤
2.1 末梢血から内皮前駆細胞の単離
フィコール勾配遠心分離を用いて、新たに採取した末梢血または血液供与センター由来の軟膜から、単核細胞(MNC)を分離する。最初に、15mlのBiocoll分離溶液を、50ml試験管に供給する。末梢血(PB)をPBSにて希釈する(PB 1:1または軟膜1:4)。希釈した血液25mlを、慎重かつゆっくりとBiocoll分離溶液15ml上に重層する。試験管を、800xgにて室温にて20分間ブレーキなしで遠心分離する。これは、赤血球および顆粒球(ペレット)および上部の血清相における血小板から、中間相における単核細胞を分離する上で重要な工程である。一方、ウェルを10μg/mlのヒトフィブロネクチン/PBSでコーティングし、ウェルを室温で少なくとも30分間インキュベーションする。単核細胞を、中間相から慎重にピペットで採取して新しい50ml試験管に移す。PBSを50mlになるまで加えて、細胞を洗浄する。細胞を、800xgで室温にて(ブレーキをかけながら)10分間遠心分離した。上清を除いて、細胞ペレットを50ml PBSに再懸濁した。細胞を800xgで室温にて(ブレーキをかけながら)10分間遠心分離し、上清を除いて、細胞ペレットを10ml PBSに再懸濁した。細胞の一部(50μl)をTURK'S溶液で希釈し(1:10)、計数した。PBSを50ml試験管における残りの細胞に加えて、細胞を再度洗浄した後、800xgで室温にて(ブレーキをかけながら)10分間遠心分離した。洗浄工程は少なくとも3回行うべきであるが、上清が透明になるまで繰り返すべきである(全体で3-5回)。
【0054】
次に、上清を除き、細胞ペレットを培地(20%FBS、表皮増殖因子(10μg/ml)、ウシ脳抽出物(3μg/ml)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、ヒドロコルチゾン(1μg/ml)、VEGF(100ng/ml)を補足した内皮基礎培地)で8x106個/ml培地の細胞濃度まで再懸濁する。次に、フィブロネクチンを皿から除いた。次に、細胞を、約2.1x106個/cm2(24ウェルのプレート当たり: ウェル当たり500μl培地中4x106個; 12ウェルのプレート当たり: ウェル当たり1ml培地中8x106個; 6ウェルのプレート当たり: ウェル当たり2.5ml培地中20x106個)の密度でフィブロネクチンをコーティングしたウェルに加える。細胞を、37℃および5%CO2で3日間インキュベーションする。3日間インキュベーションした後、非接着細胞を、細胞をPBSで十分に洗浄することによって除去した。新鮮な培地を、実験開始の24時間前に加えた。最初に加えた単核細胞の約0.5-1%が、接着性内皮前駆細胞(EPC)となる。
【0055】
2.2 赤色蛍光細胞トラッカーCM-Dilによる標識
EPC をPBSで洗浄し、トリプシン処理した後、反応を血清含有RPMI培地で停止した。分離したEPCを再度PBSで洗浄し、PBSで希釈したCM-Dil(分子プローブ)(1:100)と37℃で5分間インキュベーションした後、氷上で15分間インキュベーションした。洗浄後、1x106個のCM-Dilを標識したEPCを、衝撃波療法で予備治療したヌードラットの頸静脈に注射した。
【0056】
3. 衝撃波治療の応用
衝撃波を、等級付けした容量のフラックス密度(0.13-0.64mJ/mm2; 3Hz; 500回の衝撃数)でヌードラットの右後上肢に加えた。100回の衝撃の後毎に、焦点を2mm遠位移動させながら、エネルギーを上肢に集めた。
【0057】
3.1 ラットの肢において化学誘引因子をアップレギュレーションするための衝撃波治療
24時間後に投与されるVEGF受容体1または2陽性の幹および前駆細胞の化学誘引因子である、VEGFのような新脈管形成支持増殖因子を、衝撃波治療がアップレギュレーションするかどうかを評価するために、衝撃波治療を行った。ヌードラットの右後肢を、0.13、0.22、0.43および0.64mJ/mm2のフラックス密度で処理した(図1)。左後肢を、ネガティブコントロールとして用いた(0mJ/mm2)。24時間後に、衝撃波によって誘導されたVEGFタンパク質発現のアップレギュレーションを、ウェスタンブロット分析により処理対未処理後肢の間にて分析した。0.43mJ/mm2までのフラックス密度では、衝撃波処理対未処理肢の間に好ましいVEGFタンパク質発現比が得られ、VEGFタンパク質発現が少なくとも2倍に誘導されることが分かった。最良の比率(2倍を超過する誘導)は、0.22mJ/mm2を用いることによって得た。0.64mJ/mm2より高いフラックス密度はまた、VEGFタンパク質発現のバックグラウンドレベルを強力に高めたので、処理特異的なVEGFタンパク質誘導を得るには不十分な比率が得られた。これらのデーターは、対側後肢の非特異的VEGFタンパク質誘導を回避するため、閾値を上回る衝撃波処理を行うべきでないことを示唆している。
【0058】
動物モデル 免疫不全の雌ヌードラット(5-7週齢)に0.13、0.22、0.43および0.64mJ/mm2のフラックス密度で衝撃波治療を行い、該衝撃波治療は右後肢に送達した。対側の左後肢には、衝撃波治療を行わなかった。24時間後、ラットを殺して、右および左後肢の内転筋を取り出し、液体窒素で冷凍し、1mlタンパク質リーシス緩衝液(20ミリモル/L トリス(pH 7.4)、150ミリモル/L NaCl、1ミリモル/L EDTA、1ミリモル/L EGTA、1%トライトン、2.5ミリモル/L ピロリン酸ナトリウム、1ミリモル/L β-グリセロリン酸塩、1ミリモル/L Na3VO4、1μg/mLロイペプチン、および1ミリモル/l フッ化フェニルメチルスルホニル)を用いて氷上で乳鉢中で15分間ミンチにした。
【0059】
ウェスタンブロット分析 タンパク質(40μg/レーン)をSDS-ポリアクリルアミドゲルに装填して、PVDF膜上にブロットした。3%ウシ血清アルブミン(BSA)で室温にて2時間ブロッキングした後、抗ラットVEGF抗体(R&D、ドイツ)をTBS(50mM トリス/HCl, pH 8; 150mM NaCl, 2.5mM KCl)/0.1% Tween-20/3% BSA中で2時間インキュベーションした。化学発光の増加は、製造業者の指示に従って行った(Amersham、ドイツ)。次に、ブロットを、装填コントロールとしてのERK抗体(Biolabs、シュバルバッハ、ドイツ)を用いて再プローブした。オートラジオグラフィーを走査して、半定量分析を行った。
【0060】
衝撃波治療を施したヌードラットの右後肢の組織切片でのVEGFタンパク質の発現を評価するため、衝撃波治療と未治療とを対比して、後肢筋の冷凍切片をVEGF発現について染色した(図2a)。VEGF発現は、核染色(青色蛍光)に対し、細胞質および分泌のVEGF染色(緑色蛍光)として検出された。0.43mJ/mm2より高いフラックス密度ではVEGF発現の非特異的バックグラウンドレベルが高くなるので、0.13mJ/mm2 - 0.43mJ/mm2のフラックス密度のみを用いた(図2b)。ウェスタンブロット分析によって得られたVEGF発現比と同様に、0.22mJ/mm2のフラックス密度は、低めの比を生じる0.13mJ/mm2のフラックス密度と比較して2倍を超過するVEGFタンパク質発現の誘導を生じた。ウェスタンブロット分析によって得られた結果とは対照的に、最良の比率は0.43mJ/mm2によって得られた。
【0061】
組織学的分析 上記のように衝撃波で処理した、または処理しなかったヌードラットの組織試料を24時間後に採取し、OCT中2-メチルブタンで予備冷却した液体窒素にて冷凍した(TissueTec、サクラ、オランダ)。10μm切片を切断して、免疫染色を行った。抗ラットVEGF (R&D、ヴィースバーデン、ドイツ)は、Alexa FluorR 488抗体標識キット(Molecular Probes、Eugene, OR、米国)を用いてAlexa488で直接標識した。核染色は、Topro-3 (Molecular Probes)を用いて行った。
【0062】
ラット後肢の筋肉(内転筋および半膜様筋)における衝撃波によって誘発されるVEGF発現を定量するため、高出力(HP)視界当たりのVEGF+細胞の数を0.13、0.22および0.43mJ/mm2について決定した。
【0063】
3.2 衝撃波によって促進される全身注入した内皮前駆細胞の漸増
衝撃波によって誘導されるVEGFのような化学誘引因子のアップレギュレーションが、実際に全身投与したヒトEPCの漸増を高める可能性があるという仮定をテストするため、EPCを赤色蛍光細胞トラッカーで標識して、右後肢の衝撃波療法の24時間後に静脈内に注入した。冷凍切片でのVEGF染色についての最良の結果は0.43mJ/mm2のエネルギーを用いて得られたので、以下の実験を同一のフラックス密度を用いて行った。
【0064】
動物モデル 右後肢の衝撃波治療の24時間後に、CM-Dil+ (赤色蛍光)ヒトEPCを静脈内に投与した。動物を72時間後に殺して、血管構造中に組込まれた赤色蛍光EPCについて組織を評価した。衝撃波で治療した右対未治療の左の後肢における赤色蛍光細胞の数を分析した。
【0065】
投与したヒトEPCの衝撃波治療の部位へのホーミングの明らかな証拠が見出された(右後肢、図3a)。EPCは、血管構造に組込まれていることが分かった(図3a、左上パネル、点線)。より大きな倍率のものを、図3a、左下パネルに示す。
【0066】
組込まれたEPCの定量により、著しくかつ有意に多数のEPCが、未治療組織と比較して衝撃波で治療した血管構造に組込まれていることが示された(図3b)。したがって、これらのデーターは、エクス・ビボで注入された培養幹および前駆細胞の誘引が、衝撃波によって誘導される概念の証拠を提供する。
【0067】
以前の心筋梗塞のような慢性的組織損傷の患者では、標的組織における化学誘引因子の発現が低いため、幹/前駆細胞の漸増は著しく減少する。したがって、衝撃波によってEPCの漸増が促進されることについての機能的関連の証拠を提供するため、慢性的後肢虚血のラットモデルを用いた。
【0068】
後肢虚血モデル 体重が100-150gの5週齢の無胸腺ヌードラット(Charles River Laboratory)を用いて、後肢虚血のラットモデルにて、注入したヒトEPCのイン・ビボでの新血管形成能を検討した。表在および深部枝を含む大腿動脈の近位部、並びに伏在動脈の遠位部を、電気的凝固剤を用いて塞栓した。上になっている皮膚を、外科用針を用いて閉じた。後肢虚血の誘発の3週間後、慢性虚血をレーザードップラーイメージングによって評価した。慢性虚血の証拠を有するラットのみを、4つの治療群中一つについて無作為化した。
【0069】
【表1】

EPCは、衝撃波予備治療の24時間後に注入した。
【0070】
肢灌流測定 2週間後、虚血(右)/非虚血(左)肢の血流比を、レーザードップラー血流イメージング装置(Laser Doppler Perfusion Imager System、moorLDI(商品名)-Mark 2、Moor Instruments、ウィルミントン、デラウェア)を用いて測定した。捜査を開始する前に、マウスを37℃の加熱パッド上に置き、体温の変動を最小限にした。レーザードップラーカラー画像を2回記録した後、虚血および非虚血肢の平均灌流を計算した。周囲光および温度などの変数を最小限にするため、灌流計算値を虚血対非虚血後肢の灌流比として表している。
【0071】
データーは、EPC投与のみまたは衝撃波予備治療のみが、未治療コントロール動物と比較して有意に肢灌流を高めることを示している。しかしながら、肢灌流は、動物における組合せ治療によっても高められた。これらのデーターは、衝撃波によって促進されるEPCの漸増機能的影響についての証拠を提供する。
【0072】
文献
1. Kalka C, Masuda H, Takahashi T, Kalka-Moll WM, Silver M, Keaney M, Li T, Isner JM, Asahara T. 「新血管形成治療のための、エクス・ビボで膨張した内皮前駆細胞の移植」Proc Natl Acad Sci USA. 2000; 97: 3422-7.
2. Heeschen et al., 2004, Circulation 109(13): 1615-22.
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4. Lee at al., 2000, NEJM 342:626-33
5. Ogden JA, Toth-Kischkat A, Schultheiss R. 「衝撃波療法の原理」Clin Orthop. 2001:8-17.
6. Maier M, Milz S, Tischer T, Munzing W, Manthey N, Stabler A, Holzknecht N, Weiler C, Nerlich A, Refior HJ, Schmitz C.「イン・ビボ動物モデルにおける正常な骨への体外衝撃波適用の影響。シンチグラフィー、MRIおよび組織病理学」J Bone Joint Surg Br. 2002; 84:592-9.
7. Kruger A, Ellerstrom C, Lundmark C, Christersson C, Wurtz T.「骨芽細胞漸増のマーカーであるRP59は原始的間葉細胞、赤血球系細胞、および骨髄巨核球にも検出される」Dev Dyn 2002; 223:414-8.
8. Wang CJ, Huang HY, Pai CH.「腱-骨接合部における衝撃波による新血管形成の増加; イヌでの実験」J Foot Ankle Surg. 2002; 41:16-22.
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10. Wang FS, Wang CJ, Sheen-Chen SM, Kuo YR, Chen RF, Yang KD.「スーパーオキシドは、ERK依存性骨形成転写因子(CBFA1)および前骨芽細胞の、間葉細胞への分化の衝撃波による誘導を伝達する」J Biol Chem. 2002;277:10931-7.
11. Chen YJ, Wurtz T, Wang CJ, Kuo YR, Yang KD, Huang HC, Wang FS.「ラットにおける部分欠損の衝撃波によって促進される骨再生の初期段階における、間葉幹細胞の漸増およびTGF-β1およびVEGFの発現」J Orthop Res. 2004; 22:526-34.
12. Nishida T et al.「体外心臓衝撃波療法はイン・ビボでの虚血によって誘発されるブタの心筋障害を顕著に改善する」Circulation 2004; 110:3055-3061.
13. Schratzberger P, Schratzberger G, Silver M, Curry C, Keaney M, Magner M, Alroy J, Adelman LS, Weinberg DH, Ropper AH, Isner JM.「虚血性末梢ニューロパシーでのVEGF遺伝子導入の好ましい効果」Nat Med. 2000 Apr; 6(4):405-13.
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ウェスタンブロット分析によって検出された、ラット後肢筋肉において、衝撃波によって誘導された血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を示す。
【図2】凍結切片におけるVEGF染色によって検出された、ラット後肢筋肉において、衝撃波によって誘導されたVEGFの発現を示す。
【図3】図3Aは、衝撃波治療の後に静脈内投与した内皮前駆細胞(EPC)の検出を示す。10μmの凍結切片をEPC(赤色蛍光)について分析した。核はTropro-3(青色蛍光)で染色した。図3Bは、衝撃波で治療した筋肉に補充された、静脈内投与したEPCの定量を示す。
【図4A】未治療、EPC注入のみ、衝撃波前治療のみ、または両方の治療を受けた動物における、虚血(左)および非虚血(右)肢の典型的写像を示す。
【図4B】虚血肢の非虚血肢に対する灌流比を計算することによって得た定量的灌流データーを示す。* = 未治療に対してp<0.05; ** = EPCに対してp<0.05。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療の改良方法であって、前記患者における前記疾患の患部組織を衝撃波によって治療することを含んでなり、前記組織が細胞治療の標的とされている、方法。
【請求項2】
前記疾患が循環器疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記循環器疾患の病因が非虚血性である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記循環器疾患が拡張型心筋症である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記循環器疾患の病因が虚血性である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記循環器疾患が心筋梗塞または虚血性心筋症である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記疾患が神経疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記神経疾患が末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記患部組織が心臓または骨格筋にある、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの化学誘引物質因子の発現が、前記患者における患部組織において誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記の少なくとも1つの化学誘引物質因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記衝撃波が体外衝撃波である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
循環器疾患または神経疾患の患者における組織再生の改良方法であって、
a) 前記患者における前記疾患の患部組織を衝撃波によって治療し、
b) 幹細胞および/または前駆細胞の治療上有効量を前記患者に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項14】
前記疾患が循環器疾患である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記循環器疾患の病因が非虚血性である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記循環器疾患が拡張型心筋症である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記循環器疾患の病因が虚血性である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記循環器疾患が心筋梗塞または虚血性心筋症である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患が神経疾患である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記神経疾患が末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患部組織が心臓または骨格筋にある、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの化学誘引物質因子の発現が患者の損傷組織において影響を受ける、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの化学誘引物質因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記衝撃波が体外衝撃波である、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記幹および/または前駆細胞が胚細胞または臍帯血(vmbrial cord-blood)由来細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記幹および/または前駆細胞が成人細胞である、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
成人幹および/または前駆細胞が、骨髄、末梢血および臓器からなる群から選択される供給源に由来する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
幹および/または前駆細胞を、全身注入、局所動脈注入、静脈注入を経て、または前記患部組織への直接注射によって投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項29】
患者における循環器疾患または神経疾患の治療方法であって、
a) 前記患者における前記疾患の患部組織を衝撃波によって治療し、
b) 幹細胞および/または前駆細胞の治療上有効量を前記患者に投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項30】
前記疾患が循環器疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記循環器疾患の病因が非虚血性である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記循環器疾患が拡張型心筋症である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記循環器疾患の病因が虚血性である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記循環器疾患が心筋梗塞または虚血性心筋症である、請求項34に記載の方法。
【請求項35】
前記疾患が神経疾患である、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
前記神経疾患が末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記患部組織が心臓または骨格筋にある、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
少なくとも1つの化学誘引物質因子の発現が、前記患者の組織にて誘発される、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記の少なくとも1つの化学誘引物質因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記衝撃波が体外衝撃波である、請求項29に記載の方法。
【請求項41】
前記幹および/または前駆細胞が胚細胞または臍帯血由来細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項42】
前記幹および前駆細胞が成人細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項43】
成人幹および/または前駆細胞が、骨髄、末梢血および臓器からなる群から選択される供給源に由来する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記幹および/または前駆細胞を、全身注入、局所動脈注入、静脈注入を経て、または患部組織への直接注入によって投与する、請求項29に記載の方法。
【請求項45】
循環器疾患または神経疾患の患者を治療するための医薬組成物を製造するための幹および/または前駆細胞の使用であって、前記幹および/または前駆細胞の投与前、中または後に、衝撃波による治療を患者が受けることを特徴とする、使用。
【請求項46】
前記疾患が循環器疾患である、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
前記循環器疾患の病因が非虚血性である、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記循環器疾患が拡張型心筋症である、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
前記循環器疾患の病因が虚血性である、請求項46に記載の使用。
【請求項50】
前記循環器疾患が心筋梗塞または虚血性心筋症である、請求項49に記載の使用。
【請求項51】
前記疾患が神経疾患である、請求項45に記載の使用。
【請求項52】
前記神経疾患が末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
患部組織が心臓または骨格筋にある、請求項45に記載の使用。
【請求項54】
少なくとも1つの化学誘引物質因子の発現が、前記患者における患部組織にて誘発される、請求項45に記載の使用。
【請求項55】
前記少なくとも1つの化学誘引物質因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である、請求項54に記載の使用。
【請求項56】
前記衝撃波が体外衝撃波である、請求項45に記載の使用。
【請求項57】
前記幹および/または前駆細胞が胚細胞または臍帯血由来細胞である、請求項45に記載の使用。
【請求項58】
前記幹および前駆細胞が成人細胞である、請求項45に記載の使用。
【請求項59】
成人幹および/または前駆細胞が、骨髄、末梢血および臓器からなる群から選択される供給源に由来する、請求項58に記載の使用。
【請求項60】
前記幹および/または前駆細胞を、全身注入、局所動脈注入、静脈注入を経て、または患部組織への直接注射によって投与する、請求項45に記載の使用。
【請求項61】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、前記衝撃波生成装置の使用の前、中または後に前記細胞治療を行うことを特徴とする、使用。
【請求項62】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波を細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【請求項63】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波生成装置の使用の前、中または後に細胞治療を行うことを特徴とする、使用。
【請求項64】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、衝撃波を細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【請求項65】
患者の循環器疾患または神経疾患の治療のための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、前記治療が細胞治療をさらに含んでなりかつ前記衝撃波生成装置の使用の前、中または後に前記細胞治療を行うことを特徴とする、使用。
【請求項66】
患者における循環器疾患または神経疾患の治療のための、衝撃波を発生する衝撃波生成装置の使用であって、前記治療が細胞治療を含んでなりかつ衝撃波を前記細胞治療の前、中または後に患者に加えるのに適していることを特徴とする、使用。
【請求項67】
循環器疾患または神経疾患の患者を細胞治療によって治療するための医薬組成物を製造するための、幹および/または前駆細胞の使用であって、前記治療がさらに衝撃波を患者に加えることを含んでなる、使用。
【請求項68】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を改良するための医薬組成物を製造するための、幹および/または前駆細胞の使用であって、細胞治療の前または後に前記患者に衝撃波治療を施すことを特徴とする、使用。
【請求項69】
循環器疾患または神経疾患の患者における細胞治療を介した組織再生を改良するための医薬組成物の製造のための、幹および/または前駆細胞の使用であって、前記細胞治療の前または後に前記患者に衝撃波治療を施すことを特徴とする、使用。
【請求項70】
前記医薬組成物が、衝撃波を患者に加える前、中または後に患者に加えるのに適している、請求項67〜69のいずれか一項に記載の使用。
【請求項71】
前記疾患が循環器疾患である、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項72】
前記循環器疾患の病因が非虚血性である、請求項71に記載の使用。
【請求項73】
前記循環器疾患が拡張型心筋症である、請求項72に記載の使用。
【請求項74】
前記循環器疾患の病因が虚血性である、請求項71に記載の使用。
【請求項75】
前記循環器疾患が心筋梗塞または虚血性心筋症である、請求項74に記載の使用。
【請求項76】
前記疾患が神経疾患である、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項77】
前記神経疾患が末梢ニューロパシーまたはニューロパシー痛である、請求項76に記載の使用。
【請求項78】
前記細胞治療が心臓または骨格筋にある患部組織を標的とする、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項79】
少なくとも1つの化学誘引物質因子の発現が、前記患者の患部組織に誘発される、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項80】
前記少なくとも1つの化学誘引物質因子が、血管内皮増殖因子(VEGF)またはストロマ細胞由来因子1(SDF-1)である、請求項79に記載の使用。
【請求項81】
前記衝撃波が体外衝撃波である、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項82】
前記細胞治療に用いる細胞が胚細胞または臍帯血細胞由来の幹および/または前駆細胞である、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項83】
前記細胞治療に用いる細胞が成人の幹および/または前駆細胞である、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項84】
前記成人の幹および/または前駆細胞が、骨髄、末梢血、および臓器からなる群から選択される供給源に由来する、請求項83に記載の使用。
【請求項85】
前記幹および/または前駆細胞が全身注入、局所動脈注入、静脈注入を介して、または患部組織への直接注射によって、細胞治療のために投与される、請求項61〜70のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図4A】
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【図4B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225374(P2006−225374A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−362219(P2005−362219)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(502225202)ドルニエル メドテック システムズ ゲーエムベーハー (1)
【出願人】(505463906)
【氏名又は名称原語表記】ANDREAS MICHAEL ZEIHER
【出願人】(505463917)
【氏名又は名称原語表記】STEFANIE DIMMELER
【出願人】(505463928)
【氏名又は名称原語表記】CHRISTOPHER HEESCHEN
【出願人】(505463939)
【氏名又は名称原語表記】ALEXANDRA AICHER
【Fターム(参考)】